詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
 皆待望の水着回。濡れ透けでぐへへな展開。
 丹羽の目はナツメさんに潰されましたが、再生するので問題ありません。
 前回の東郷さんの丹羽に対する風先輩と樹ちゃんの気持ちの発言はあくまで東郷さんなりの考察なのでこの作品がヘテロものになるってことはないです。
 星屑(主人公)は勇者の女の子同士の百合イチャを応援しています。



ラーメン大好きセッカちゃん

 セッカは激怒した。

 セッカは丹羽の精霊として作られた人型の精霊型星屑である。本来なら食事や睡眠も必要がないが、娯楽として食事を楽しんでいる。

 本来自分は温厚な性格であり、周囲からも怒った姿を想像できないと言われてきた。

 事実勇者であった秋原雪花だった時も感情的になって行動することはなかったし、そうせざるを得ない状況とはいえ本心を押し殺してきた。

 だが、これはいくらなんでもあんまりだと思う。

 少なくともあの世界では自分で選べる自由があった。いや、下手に選べる自由があったせいで今の不満のようなものができてしまったのかもしれない。

 もしも北海道のように食糧事情がひっ迫していた状況だったら、こんなことは思わなかったはずだ。

 だが、四国という神樹の恵みにより食糧事情が恵まれている状況を知ってしまった雪花にとって、これはもはや拷問だった。

『私は』

 そう、セッカこと秋原雪花は。

『私は、ラーメンが食べたーい!』

 心から食べたいものを叫ぶ。

 それに対して同席していた犬吠埼姉妹と宿主の丹羽は呆然とし、ナツメだけがひたすらうどんを無言で食べていた。

 

 

 

「えー、というわけで今日の勇者部活動は家庭科室で行います」

「いや、どういうわけよ」

 昨夜突如「明日の勇者部活動は家庭科室で」という風のメッセージを受け、放課後家庭科室に集まった勇者部メンバーの1人、三好夏凛がツッコんだ。

「すいません、今回の依頼者は俺です」

 風に詳しい説明を求めようとしていた夏凛は、手を上げた丹羽を見る。

「正確には、俺の精霊…というかセッカさんの依頼で」

『ラーメン食べたい!』

 丹羽の胸から出てきたセッカが、ややご機嫌斜めな表情で言った。

『昨日もうどん、一昨日もうどん、その前もずっと前もうどん! 毎日毎日うどんうどんうどん。もううどん飽きたー! いい加減ラーメン食べたいよー!』

 精霊の言葉に夏凛はええ…と他の部員を見る。すると風が露骨に目をそらした。

「風、説明」

「いや、違うのよ。確かに半分くらいアタシのせいなんだけど話を聞いて」

 どうやら自分が悪いという自覚はあるらしい。ならば懺悔を聞いてやろうと夏凛は続きを促す。

「セッカはうどんうどんっていうけど、アタシだってちゃんと考えて作ってるのよ。昨日は女子力うどんでしょ。一昨日は肉うどん。2日前はごぼ天うどんで飽きの来ないように作ってたんだから」

 いや、どんなに飽きの来ないようにと言ってもしょせんうどんであることに変わりないと丹羽は思うのだが。

「問題ありませんね」

 と東郷。なぜセッカが怒っているか理解できないといった様子だ。

「うちではいつもこうですけど、何がいけなかったんでしょう」

 樹も本気で何が悪かったのかわかっていない様子で、首をひねっている。

「何を怒ってるんだろう、セッちゃん」

 と友奈。彼女もなぜセッカが怒ったか理解できないらしい。

 とここで丹羽は気づいた。しまった、ここは香川県民しかいない。彼女たちにとってうどんが何日も続くのは別に苦でもなんでもなく、むしろ3食うどんでも何ら問題のない人々なのだ。

「風、あんたねえ」

 しかし完成型ツッコミ勇者だけは問題点に気づいたようだ。こぶしを握り、風に向かって声を上げる。

「うどんだけじゃ栄養が偏るでしょ! サプリもとりなさい!」

 ちがう、そうじゃない。

 予想外の言葉にセッカもずっこけていた。どうやらこの話題では夏凛もツッコミではなくボケ側に回るらしい。

「そこは大丈夫。他にもおかずを作ってバランスよい食生活を心がけてるから」

「ならよし!」

『いや、よくないでしょ? 話聞いてた?』

 納得する夏凛についにセッカがツッコんだ。というか、ボケサイドに身を落としたツッコミ仲間の夏凛に対して静かな怒りが声に満ちている。

『私は、ラーメンが食べたいの! 白くて太いうどんじゃなくて細くて長いラーメン! 味も出汁汁じゃなくて味噌とか醤油とかのラーメン! というか、風さんにはお礼はラーメンでいいって言ったのに全然約束果たしてくれないし!』

 セッカの言葉に風も思い出した。そういえばナツメに詰め寄られた時助けられてそんなことを言われたような。

『もうあれですね。私が止めなかった方がよかったかな。風さんはナツメさんとずっとイチャイチャしてた方がご主人も喜ぶし、幸せそうだしそれで』

「ちょ、ちょっと待って!」

 もう1度あんな状態になったらセッカ以外誰も止めてくれないという事実に、風はようやく気付いた。

 宿主である丹羽はむしろナツメと風の関係を応援しているし、他の部員もスルーか見守っている状態。

 押されたら押された分だけ倒れてしまう風にとって純粋な好意でぐいぐい押してくるナツメはある意味天敵なのだ。

 まあ、風としてもナツメの純粋な気持ちが嫌いじゃないというのも問題の根源ではあるのだが。

『やっぱりあれですよねー。あっちでも2人ってお似合いだったし。ナツメさん贔屓するのも仕方ないかなーって』

「ち、違っ! アタシ贔屓したりなんて」

 慌てる風に、セッカは冷たい目線を送る。

 どういうこと? と目で問いかける他の部員に、実は…と丹羽は昨夜夕食で起こったことを話し出した。

 

 

 

『もういいかげんうどんは飽き飽きですよ! ナツメさん、ナツメさんもそう思いますよね!?』

 同じ元西暦勇者のナツメに声をかけると、ナツメはセッカの言葉に首を振った。

『セッカ。風の作るご飯は美味しい。うどんも私は嫌いじゃない』

 たしかに自分も風の作るうどんは美味しいと思うし、嫌いじゃない。

 でも、いくらなんでも限度がある。毎日うどん攻めは香川県民以外には拷問なのだ。

『それに、好き嫌いはよくない。お腹いっぱい食べられることが私たちにとってどれだけの幸福なのか、わかるだろう?』

 ナツメの言葉にセッカは『うっ』と言葉に詰まる。

 確かにあの世界にいたことで感覚が麻痺していたが、西暦時代の故郷の状況を考えると自分は何てぜいたくを言っているんだと思う。

 缶詰やインスタント食品ならまだいいほう。新鮮な材料で作った手作り料理なんて夢のまた夢だった。

 神樹の恵みがある四国だからこんなわがままが言えるのだ。それを思い出し、セッカはしゅんとなる。

『だが、セッカのいうようにうどん以外のご飯も食べてみたいとは思う。これだけ料理がうまいんだ。風の作る沖縄料理はどれだけ美味しいんだろうかと』

 違った。ただの天然だった。

 てっきり自分に対するお説教かと思ったら、自分が食べたい沖縄料理を作ってもらうための前振りだったらしい。

 しかもそれを聞いた風も悪い気はしてないようで、「もー褒めても何も出ないわよ」と言いつつスマホでコックパッドを開き沖縄料理の作り方を調べている。

 その姿に、セッカの中の何かが切れた。

『贔屓だ』

「え?」

『贔屓だ! ナツメさんだけ贔屓だー!』

 突如子供の様に駄々をこねるセッカに食卓にいた丹羽と樹も驚く。

『風さんのチョロチョロ大王! 女子力(自称)魔神! 胃袋ブラックホール! もう私ラーメン食べるまでご主人に力貸してあげないんだから!』

 

 

 

「というわけでして、戦闘面でもセッカさんの力が使えないのはかなりの痛手なので今回の依頼をしました」

「うん、風が全面的に悪いわね」

 丹羽に昨日の犬吠埼家の食卓で起こったことを説明されると、夏凛は大きくうなずき言った。

「ちょっと、別にアタシは贔屓なんてしてないわよ!」

「本人にそのつもりはなくてもされてるほうはわかるのよ…ていうかあんたのは露骨すぎ! そりゃセッカも怒るわ!」

 夏凛の言葉にセッカは『かりーん』とようやく理解者ができたといった様子で抱き着いている。

 あら^~唐突なせっかりんいただきました。

「風先輩、これは精霊虐待案件では?」

「うん、話を聞くとセッちゃんかわいそうだよ」

 と東郷と友奈。丹羽の話を聞いてセッカがどれだけ傷ついたか想像し、風を批難している。

「精霊虐待ってそこまで? アタシちゃんとナツメとセッカのぶんのご飯も作ってるし、犬神にもドッグフード上げてるわよ」

「え? ちょっと待って。あんた自分の精霊にドッグフード食べさせてるの?」

「そうよ、ちゃんと健康のことを考えて減塩タイプのやつ」

 風の言葉に思わず夏凛がツッコんだ。が、何を当たり前のことをという風の言葉にこっちがおかしいのか? と錯覚しかける。

「へー、風先輩のところはそうなんですか。うちはビーフジャーキーを上げています」

「うちのコダマは霧吹きで毎日水を上げてますよ」

 と思っていると友奈と樹も言ってきた。あれ? やっぱりあたしがおかしいのかしら。精霊にご飯あげるのって普通なの?

「2人とも、精霊は神樹様のお使いなんだから変なものを上げちゃだめよ。ちなみに私は精霊たちに国防の何たるかを毎日3時間は聞かせているわ」

「いや、それこそ精霊虐待案件でしょ!」

 東郷がまともなことを言ったかと思ったら行動が全然まともじゃなかった。いったいどの口が精霊虐待などと言ったのだろうか。

「まあ、いつまでも話をしてても始まらないし作りましょう。材料は用意してあるから」

 と風。なんか強引に話の方向を変えてごまかされたようだが、これ以上ツッコミをしていると日が暮れそうなので夏凛もセッカのためのラーメン作りに協力することにする。

 家庭科室の机の上には各種調味料のほかにチャーシュー、野菜にラーメンの麺と用意されている。

 これなら一通りの種類のラーメンが作れそうだ。

 早速料理上手の風と東郷が調理を始める。丹羽と友奈は料理を手伝う気満々だった樹のお守り…というか樹が料理しないための見張りだ。

「できたわ! どうぞセッカ、召し上がれ」

『やったー!』

 風の言葉に箸を持ったセッカが目を輝かせて目の前に置かれた料理を見る。

 スープは透明な琥珀色。上に載っている具材はシイタケ、さやえんどう、ニンジンと彩りもいい。

 そして分厚く切られたチャーシューと月見状になっている温玉も嬉しい。さっそく箸を入れ、その白くて太い麺(・・・・・・)をスープごとすすり、雪花は笑顔で言う。

『うん、うどんだねこれ』

 醤油ラーメンかと思ったスープはうどん出汁で、ただのチャーシュー入りうどんだった。

『ねえ、私ラーメン食べたいって言ったよね? なんでうどん出してくるの?』

「ごめーん、ついいつも通りの手順でやったらうどん作っちゃった。てへ☆」

『てへ☆ じゃなーい! ラーメンとうどん。どうやったら間違えるの⁉』

 というかうどん玉ではなくちゃんとラーメン用の麺を用意したのにどうやってうどんを作ったのだろう。

 まあ、うどん玉からそばやラーメンを作る勇者もいるし、不思議なことはないかと丹羽はゆゆゆいの光景を思い出して1人納得する。

「ダメじゃないですか風先輩。セッカ。これをどうぞ」

『東郷さん。ゴチになります!』

 セッカは気を取り直し、今度こそと目の前に出されたどんぶりに向き直る。

 スープは濁っていて、ほんのりと味噌の香りがする。東郷のアレンジなのか、ラーメンの具には似つかわしくないお餅が入っているようだ。

 うん、でも私そういうの嫌いじゃないよとセッカは箸を入れ、白くて太い麺をすくい上げた。

『って、これただの味噌味の力うどんじゃんか!』

「あら? 味噌は嫌いだった?」

『大好きですけど! でもラーメンに限ってね! なんでラーメンじゃなくてうどんなの⁉』

「ごめんなさい、私横文字料理には疎くて…」

『ラーメン! 拉麺って漢字でも書けますよ! そもそもうどん玉じゃなくてラーメンの麺使ってるのになんでうどん作れるの⁉』

「もう、なにやってるのよ風も東郷も!」

 料理に関してもボケ倒す2人についに完成型ツッコミ勇者が立ち上がった。

「仕方ないからあたしが作るわよ! セッカのために完璧なラーメンをね!」

『夏凛、こうなったらあんただけが頼りだ! 頼むよー』

「任せなさい。まずこういうのは出汁が命! このにぼしを惜しげもなく使うわ!」

『おおっ!』

「で、麺を茹でている間に具材を炒める。どんぶりに調味料とさっきの煮干し出汁を入れてスープを作ったら茹で上がった麺と炒め野菜を入れて」

『うんうん』

「できたわ! 完成型勇者特製煮干しうどんよ!」

「わーい、ラーメンいただき…うん? うどん?」

 セッカが箸を入れて麺を見ると、確かに茹でたラーメンがうどんになっていた。

 恐るべし、香川っ子DNA。ラーメンを作ろうとしても無意識にうどんにしてしまうとは。

 3連続で出てきたうどんに、セッカは軽く絶望していた。※ちなみにうどんはナツメ、スミ、友奈がおいしくいただきました。

『もう、私うどんしか食べられないのかな…ラーメンはうどんに敗北したの?』

「あきらめないでセッちゃん、今度は私が作ってみるから」

『いいよ結城ちゃん。どうせうどんしかできないんだ。私がラーメンを食べるなんて、この香川では大きすぎる夢だったんだよ』

 信頼していた夏凛までボケ側に回りうどんを作ったことでセッカは相当ショックを受けたようだ。というか目の前で見ていたのにラーメンの麺がうどんになったプロセスが全然理解できない。

「じゃあ、わたしが作ってみる」

「駄目よ樹! 料理なんてそんな(食べるセッカが)危ないこと!」

「そうよ樹ちゃん。今回は座っているだけでいいから!」

「犬吠埼さん、早まらないで!」

 樹が腕まくりをして立ち上がるのを3人が必死で止める。家庭科室でバイオハザードを起こしたなんて知られたら今後の勇者部の活動に影響してしまう。

「むー。お姉ちゃんも東郷先輩も丹羽くんも心配性すぎるよ」

 なんとか説得に成功し、椅子に座らせることに成功して身内と先輩、クラスメイトはほっと一息つく。

「できたよセッちゃん、これが私の全力全開!」

『うん、完全に肉うどんだコレ』

 その後ろでは4度目の正直とばかりに作った友奈のどんぶりの麺をすくい、またうどんなことにセッカから諦めにも似た言葉が告げられていた。

 ズーンと家庭科室を重苦しい空気が覆う。まさかラーメンを作るだけなのが、こんなにも難しいことだったとは。

 依頼を持ち掛けた丹羽もまさかこんな事態になるとは思わず困惑していた。頼りの料理上手組2人がまさかラーメンからうどんを作り出すびっくりシェフだったなんて。

 ん? 待てよ。

「東郷先輩、ラーメンが横文字だから作れないだけなんですよね。だったら…」

 東郷に向けて丹羽が相談する。すると東郷はうなずき、料理にかかった。

「お待たせ、セッカ。志那蕎麦(しなそば)よ」

 黒い醤油の色と煮干しのいい香りが鼻孔をくすぐる。具も野菜を煮ただけのシンプルなもので、箸ですくうと今度こそ細長いラーメンの麺だった。

『おお、ようやくまともなラーメン! いただきまーす!」

 5回目にしてようやく巡り合えた故郷の味にセッカは感動しながら麺を一口すする。

 うまい。にぼしの香りが強いがそれでもいままで我慢していた分感動もひとしおだ。セッカは一心不乱に麺をすすり、スープをごくごくと飲み干した。

『ふいー。ごちそうさま! いやー久しぶりにラーメン食べたって気になったよ。ありがとう、東郷さん。ご主人』

「すごいわね丹羽、東郷。あんたら一体どんな魔法使ったのよ」

 ラーメン用の麺を使ってもうどんにしてしまう錬金術じみた香川っ子DNAを克服し、ラーメンを作り上げた2人に風が質問する。

「簡単ですよ。ただ東郷先輩にラーメンじゃなくて志那蕎麦を作ってくれって言っただけです」

「志那蕎麦? なによそれ」

「ラーメンの昔の呼び方です。水戸黄門が最初に食べたって言われているくらい古い歴史を持つ食べ物ですから、和名があって当たり前なんですけどね。見落としてました」

「私も丹羽君の言葉に目からうろこだったわ。まさか志那蕎麦がラーメンのことだったなんて」

 東郷の言葉に風と夏凛は「お、おう」とどこか納得がいっていない様子だ。

 まあ、なんにせよよかった。セッカも喜んでくれたし、今度セッカがラーメン食べたいと駄々をこねた時は東郷に頼めばいいとわかった。

 これにて依頼達成完了。おつかれ、解散!

 とならないのが勇者部である。

「できました! さあ、皆さんどうぞ」

 突如聞こえてきた樹の声に、風、東郷、丹羽は驚き振り向く。

 そこには寸胴いっぱいに紫色の麺類を作った樹が笑顔でいた。

「い、樹? その寸胴の中身は…」

「わたしが作ったラーメンだよ!」

 ちがう、ラーメンはそんな紫色じゃない。

「樹ちゃん、今回の依頼は樹ちゃんは座っているだけでいいって言ったわよね」

「ごめんなさい、東郷先輩。でも、わたしだってセッカさんの力になりたかったので」

 うん、その心だけで充分なのよ。と、東郷は冷や汗を垂らしながら思う。

「犬吠埼さん、いつの間にそんな料理を」

「みんなが東郷先輩の料理に夢中になってる間だよ。食べるのを見ててお腹空いたでしょ。いっぱい作ったから遠慮せず食べてね」

 うん、たしかにみんなはおなかが空いているかもしれない。

 でも、それは食べられるものに限るんだ。とは言えず丹羽は友奈と夏凛を見る。

「2人とも、どうして止めなかったんですか!」

「え? 樹ちゃんのこと? だって頑張ってたから」

「あんたら樹に過保護すぎるのよ。失敗して学ぶことも多いんだから、やらせてみなさい」

 とあくまで他人事な意見が返って来た。そうか、友奈はともかく夏凛はまだ樹の腕前を知らなかったのか。

 だったら思い知ってもらおう。

 結局この後樹が作った自称ラーメンことスペシャルうどんで勇者部のうち4人が食べても食べても減らない麺の量にノックアウトとなり、残りはいつものように丹羽が責任をもって食べた。

 ちなみにセッカはというと東郷の作った志那蕎麦を食べてすぐ丹羽の中に引っ込んだのでこのスペシャルうどんを味わうことはなかった。

 

 

 

「共食いする星屑⁉」

 安芸から防人たちによる壁の外の調査報告を聞いた園子は思わず声を上げた。

「はい。隊長の楠芽吹及び他の隊員32名全員が目撃したとのことです」

「それは…にわかには信じられないけど」

「はい。確かな情報です。しかもその星屑たちは防人を包囲していた星屑を全て平らげると防人隊を観察するだけで、決して攻撃してこなかったとか」

 園子の頭の中で、かつて自分と須美と銀の前に現れた、1体の星屑の姿が思い浮かぶ。

 あいつも最初わっしーとミノさんの攻撃を躱すだけで、何もしてこなかった。むしろ自分の力を見せつけるだけ見せつけてすぐ撤退していった。

 そして共食いという行為。それもあいつと一緒だ。自分たち勇者を利用して巨大バーテックスを食らい、その能力を自分のものとしたあいつと。

 防人を襲わなかったのは勇者と勘違いしたからだろうか? 壁の外に行けるのは勇者だけだと思っているのかもしれない。

 あるいは、本当に善意で彼女たちを助けたとしたら?

 考え、ありえないとすぐ否定する。

 人類の敵が人間に味方するなんてありえない。

「すぐわたしもそこに行く。先生、準備を」

 車椅子の準備をしようとしてすぐにでもゴールドタワーへ向かおうとする園子を、安芸は止める。

「お待ちください園子様。御身は神樹様にその身を捧げた勇者という存在。そんな軽々しく」

「防人は何のために組織されたの? たしかに壁の外の調査のためという表向きの理由はあるけど本当は」

「乃木さん早まらないで」

 安芸の言葉に園子は驚く。と同時に少し冷静になることもできた。

「ごめん、先生。わたしちょっと熱くなってた」

「いいえ。三ノ輪さんの手掛かりが得られたかもしれないもの。熱くなって当然よ」

 園子の言葉に安芸は胸をなでおろした。下手をしたら2年前大赦で大暴れした時の繰り返しになっていたかもしれない。

「でも、あなたが直接動くということは、それほど大赦にとってリスクになる大事でもあるのよ。私も協力してみるけど、動けるのは早くて3日後。遅くて7月上旬になると覚悟しておいて」

「そんな! それだけ時間があったらあいつに逃げられちゃう!」

「わかって乃木さん。確かにあなたの目的には協力したいけど、今は時期が悪すぎる。いつ残りのバーテックスが襲ってくるかわからないのよ」

 安芸の言葉に園子はうなだれるしかなかった。

 そう、巨大バーテックスの出現は予測されたものよりも不規則で、巫女の予言も当てにならない。いつ次の巨大バーテックスが出現するのかと大赦の要職にいる者は戦々恐々としている。

 だからこそ自分たちを守ってくれる存在として園子を手元に置いておきたいのだろう。それゆえ壁の外の調査のために園子がここを離れることを簡単に承知するとは思えなかった。

 ここにきてこんな足止めだなんて…と園子はタイミングの悪さに歯噛みする。せめて残りの7体のバーテックスを倒した後ならばもっとスムーズに事が進んだだろうに。

「そうだ、先生。わたしが壁の外にいる巨大バーテックスを倒しに行くってことにすれば!」

「乃木さん。それは今の勇者たちを心配しての発言なの? それとも自分が壁の外へ行くための口実?」

 安芸の言葉に園子はうなだれた。本当に、この人は自分のことをお見通しだ。

「私のほうでもできるだけ動いてみる。だから早まった真似はしないで。もし三ノ輪さんが帰って来た時、あなたがいなかったら傷つくのはあの子なのよ」

 我ながら卑怯な言い回しだと安芸は思った。だが、下手に行動して彼女の立場が悪くなればそれこそ彼女を排斥しようとしている人間に口実を与えるようなものだ。

 最近なぜか大赦の人間が勇者に対して好意的になっているとはいえ、上層部は以前と変わらない。というか急に人格が変わったように勇者支援派となった人間は引退するか隠居して影響力の少ない存在になったかのどちらかなので、必然的に園子を快く思っていない人間の勢力が増していたりする。

 だが勇者と大赦の在り方を根本的に見直すべきという大赦内での風潮を気にし、表立っては動けないというのが現状のようだ。

 大赦が前線で戦う勇者たちにとって良い組織になりつつあるのは歓迎すべきことだ。だが、上に立つ者が彼女たちを利用する気なのが変わらなければ根本的な解決にはならない。

 もちろん、園子を止めたのも彼女の身を案じてという理由もある。まだ共食いのバーテックスを見つけただけで園子が探す人型のバーテックスを見つけたわけではないし、その住み家を突き止めたわけではない。

 彼女が動くとしたら、最低でもそのどちらかを発見した後だろうと安芸は思っている。

 そのためにはまた防人隊の子たちを危険な場所へ向かわさなければならないな、と心を痛めた。

「防人隊の次の派遣はどうしましょう。今回の出来事で同じ場所に派遣されることに危機感を持つ人間もいるでしょう。できれば別ルートからの探索を提案いたしますが」

「そうだね。じゃあ、ここからこういう風に。もし、このルートでまた共食いする星屑と出会ったらあいつの活動領域が大分絞られてくると思う」

 西暦時代の地図を広げ、×印のついている箇所から大回りするようなルートを指し示す園子に安芸は首肯する。

「了解しました。ではそのように」

「あ、先生!」

 園子の言葉に、安芸は振り向く。

「なにか?」

「いろいろしてくれてありがとう」

 やめてくれ。私はお礼を言われるような大人じゃない。

 ただ教え子にできなかった罪滅ぼしをしているだけの、卑怯な大人でしかないのだ。

 安芸は返事をせず、ただ頭を下げて病室を出る。

 次回の派遣で防人隊の子を危険にさらすことになるかもしれない。だが、教え子のためには絶対に必要なことだ。

 どちらも自分にとって大切な存在で、比べることができない。

 せめて無事で戻ってきてほしいと思う反面、園子のために何か手掛かりを見つけてきてほしいとも思う。

 どこか矛盾した自分の思いに、安芸は苦悩する。昔は大赦と教師の板挟みでどっちつかずだったが、今は園子と防人組の間に挟まれどっちつかずでいる。

 やはり人間はそう簡単に変わらないものだな、と苦笑する安芸であった。




 Q安芸先生に死亡フラグ立ってない?

 A立ってません。防人隊の充分すぎる功績や現人神で最強勇者の園子の庇護下にいるのでおいそれとは大赦の要職にいる人間でも手は出せません。
  ちなみにバーテックス人間化してなかったら痴情のもつれとして一般職員が鉄砲玉として心中に見せかけて暗殺したり、不慮の事故が起こったかもしれませんが。
  今の大赦は勇者をもっと支援すべしという意見に傾いている健全な組織なので、勇者を困らせるような命令は受け付けません。なので安芸先生の安全は保障されています。
  むしろ自分たちが止められない最強勇者の園子に唯一意見出来て今の最高責任者にも恩(園子から助けた)があるので、出世コースまっしぐらです。
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