詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 恋は人を詩人にさせるんだなぁ。
 ポニテ安達かわえぇ…
 頭なでなでしまむらと安達トウトイ…トウトイ…
(+皿+)「安達としまむらはいいぞ」

 あらすじ

レオ「人型くんさぁ、何あれ? 君強すぎない?」
(+皿+)「いや、11体星座級食って億匹の星屑食えばそりゃそれなりに強くなりますよ」
タウラス「能力組み合わせるとか、ずるくない? 俺まだ頭ぐるぐるするんだけど」
(+皿+)「ずるくない。スキル合成は基本」
アリエス「君さぁ、俺のこと分裂する前に食えばいいと思ってない?」
(+皿+)「正直少し」
アクエリアス「ろくな活躍もなく私がやられた件について」
(+皿+)「これから活躍するからいいじゃん」
ジェミニ「お前なんていいじゃん、やられた描写があるだけ。俺なんてひき逃げアタックでフェードアウトだよ」
(+皿+)「ぶっちゃけスコーピオンの毒があれば君ほど攻略が楽な星座級はいないんだよなあ」
リブラ「我、結構な強キャラなのに完全に棒立ちだった件」
(+皿+)「強敵なので一番最初に無力化しました」
ピスケス「最後の俺の扱いについて」
(+皿+)「じしん使える相手にあなをほる使うやつが悪い」
ピスケス「属性的にダイビングなのでは? ピスケスはいぶかしんだ」
(+皿+)「まあ、そんな俺でもそのっち相手には手も足も出ないし、天の神相手だとひとにらみで消滅しちゃうんだけどね」
レオスタークラスター(え? そのっちっていう勇者そんなにヤベーの?)



勇者部緊急会議

 6月最終週の月曜日である。

 その日の放課後、勇者部では緊急会議が開かれた。

 議題は一昨日と前日に大赦との連絡役、夏凛の兄春信から送られてきたメールの内容だ。

 それは勇者の能力を飛躍的に向上させる「満開」。そしてその副作用「散華」についてだった。

「夏凛、アンタはこのこと知ってたの?」

 部長である風は大赦から派遣された勇者である夏凛を問い正す。すると夏凛はびくっと悪い事を隠していた子供の様に反応し、首を振った。

「満開のことは、知ってた。でも、それに副作用があったなんて初耳よ」

「本当? もしかして知っていて黙っていたんじゃないの? それで私たちに満開させて、自分だけは無事でいようと」

「東郷さんやめて!」

 夏凛を責める口調の東郷を、友奈が止める。

 部室内には普段の勇者部に似つかわしくないギスギスした空気が立ち込めていた。まあ、内容が内容だけにこうなるのは避けられなかったかと丹羽は心の中で嘆息する。

 春信がメールで伝えてきた「満開」とその副作用、「散華」。

 春信いわく、「満開」することで勇者は人を超えた神がかった力を行使することができるのだという。

 その副作用が「散華」。自分の身体の一部を供物として神樹様に捧げる行為。

 先代の勇者はそれを行い、両足や目などの肉体、痛覚のような神経、内臓のいくつかを捧げ日常生活が困難な状況に陥っているそうだ。

 これは春信が独自に調べ知りえた事実らしい。最後まで勇者たちに伝えるか迷ったが、妹の夏凛がいることも考えて伝えるべきと判断し、大赦には内緒でメールを送ってきたのだ。

 もっとも春信が調べなくても折を見てバーテックス人間化した大赦職員を通じて春信に「散華」のことを伝えるつもりだったが、春信が優秀すぎて知られてしまった。伊達に若くして大赦の要職についているわけではないらしい。

「東郷先輩。もし三好先輩が散華のことを知っていたら、春信さんがそのことを知らせてきた理由がわかりません。むしろ三好先輩がいたことで満開の副作用を知ることができて感謝こそすれ、恨むのは筋違いですよ」

「そんなの、わかってるわ! でも…」

 東郷の言葉に、誰も声をかけられなかった。

 なにしろいままで苦労してきた巨大バーテックスに対抗する手段が見つかったと思ったらそれは自分の肉体を犠牲にするもので、しかもどの場所が選ばれるかわからない完全なランダムガチャだと告げられたのである。

 巨大な力を使うため自分で右腕を犠牲にするのと勝手に右腕を代償にされたのとでは意味合いと精神的ショックは大きく異なる。

 まあ、中にはそのどちらも同じ意味だと感じる人間もいるかもしれないが…と丹羽は友奈を見る。

「でも、それってそんなに悪いことなのかな?」

 ポツリと漏らした言葉に、勇者部全員が友奈を見た。

「だって、たとえば私の身体のどこかを神樹様に捧げれば勇者部のみんなが助かるなら、私は喜んでそれをするよ。それだけじゃなくて四国のみんなが助かるなら、私の身体をいくらだって持って行ってもらっても」

「友奈ちゃん、なんてことを言うの!」

 東郷が机を叩き、思わず立ち上がろうとする。が、バランスを崩し転げようとするのを樹が支え事なきを得た。

「友奈、今のは冗談でも言うべきことじゃないわよ」

「冗談なんかじゃ…私、本当にそう思ってます」

「それでもよ。もし満開するなら部長の私だけ。みんながそれをするのは許さないわ」

「お姉ちゃん⁉」

 風の決意の満ちた言葉に、樹が悲鳴のような声を上げる。

「友奈も、東郷も、樹も。勇者部に巻き込んだのは私。だから、責任を取って私が」

「何言ってんのよ! あんたばっかりカッコつけてるんじゃないわよ。ここは完成型勇者の私が」

「夏凛は1番の新入部員でしょ。ここは部長のアタシの言うことを聞きなさい」

「こんなときに部長部長って、いい加減にしなさいよ! 勇者としての実力はあたしの方が高いのよ!」

 あ、この流れはいけない。

 丹羽はだんだんヒートアップしてきた風と夏凛をいったん落ち着かせようとする。

「犬吠埼先輩も、三好先輩も落ち着いてください。どうして誰かが犠牲になること前提で話を進めてるんですか」

「あんた、兄貴から来たメール見てないの? もしかしたら残りの7体のバーテックスが全員攻めてくるかもしれないのよ!」

 そう。緊急会議が開かれたもう1つの理由がそれだ。

 満開と散華について報せたメールが送られた翌日、つまり昨日のことだ。春信から四国の外で活動している防人という部隊が残り7体の巨大バーテックスを目撃したという報告を受けたことを知らせてくれた。

 丹羽は人型のバーテックスからそれを伝えられていたのでそのことを知っていたが、他の勇者部の面々は相当ショックを受けたようだ。

「この防人っていうのはなんなの?」

「私と同じ勇者候補だった子が集められて壁の外…つまり四国の外へ人間が住める場所があるか調査している部隊よ。32人いて、星屑との戦闘経験もある。人類側最強の勇者乃木園子のお抱え部隊」

「四国の外って、人間が住めないウイルスが蔓延して滅んだんじゃ」

「表向きはね。でも、本当はバーテックスによって滅ぼされたのよ。だから神樹様はバーテックスが来ると四国を樹海に変えて結界で守っているわけ」

 風の質問に夏凛が答えていく。その説明に友奈、東郷、樹はなるほどとうなずいている。

「何回も外へ遠征して、全員無事生還して帰ってきているらしいわ。隊長の楠芽吹は最後まであたしと勇者の座を巡って競い合った仲で、一応知り合い」

「へー。夏凛ちゃんのお友達ってすごいんだ」

「知り合いよ知り合い。友達って…少なくとも向こうは思っていないと思うわ。あんまりよく思われていないかもしれないもの」

 セッカとの対話から誰かに妬まれているかもしれないという発言に真っ先に浮かんだのが彼女の顔だった。

 夏凛が勇者に選ばれたとき、彼女は最後まで異議を申し立てていたことを思い出す。もしまだ自分のほうが勇者にふさわしいと思っていてそれを希望したのなら、防人としての実績から彼女が今後勇者としてこの勇者部に参加するかもしれない。

「星屑を倒したって、わたしたちと一緒に戦ってもらうことはできないんですか?」

「防人のスーツは勇者みたいに身体能力を飛躍的に向上させる機能がないのよ。だから集団戦を軸としている。対バーテックス用の訓練を受けているとはいえ戦闘能力は低く、倒せるのは星屑がせいぜい…って言われてたんだけど」

「違うの?」

「御霊なしとはいえ、巨大バーテックスを倒したらしいわ」

 その言葉に勇者部のメンバーたちは驚く。

 勇者のような身体能力の強化なしで自分たちも苦労して倒した巨大バーテックスを倒したという事実は衝撃的だったのだ。

「もちろん、御霊ありとなしでは戦闘能力に天と地ほどの差があるらしいわ。まあ、あたしやあんたらが防人のスーツで御霊なしの巨大バーテックス相手に勝てるかどうかはわからないけどね」

「だったら、その人たちに今後のバーテックスたちとの戦いを任せれば」

「勇者システムを扱える適性のある人間はそんなに多くないし、勇者システム自体も量産可能なものでないってのが問題なのよ。つまり勇者は勇者、防人は防人としてできることが違うってことね」

 東郷の言葉に夏凛は説明する。だがあまり納得はしていないようだ。

「その最強の勇者さんはなんで私たちと戦ってくれないのかな?」

「大赦から戦闘とあたしたちとの接触を禁止されているらしいってことは聞いたことがあるわ。理由はわからないけど、多分大赦のお偉方が自分の身を守るために手元に置いておきたいって言うのが本音でしょうね」

「もしくは現勇者が裏切った時のためのカウンターとかですかね」

 友奈の疑問に夏凛が答える。が、丹羽が放った発言にみんなぎょっとした。

「裏切るって、アンタ」

「だって、みなさんもし散華のことを隠されて満開して身体の機能を失ったら、大赦に対して反抗心がわかないですか? だったらそれを力づくで収めようとする方法として向こうも勇者を使うのは当たり前では?」

 確かにそうかもしれない。自分も樹がもし散華によって一般生活が困難になるほどの身体機能を失ったらそれを隠していた大赦に何をするかわからない。

「話を戻すわよ。問題は、その防人が7体の巨大バーテックスを発見したってことよ」

 そう、残り7体のバーテックスが全員一緒にいたというのが問題なのだ。

「次の戦い、あたしたち6人で1体でも苦労する相手を7体も相手しなきゃいけない。しかも相手の能力も強さもわからないバケモノどもよ」

 最悪の事態が起こりえる。それが春信の報せた情報を集めた結果、導き出された答えだった。

 少なくとも五体満足で全員生きて帰れるとは思えない。誰かが死ぬことも覚悟しなければならない苛烈な戦いとなることは明白だった。

「だから、アタシが満開してその7体をぶっ倒すって言ってるのよ」

「馬鹿じゃないの! これだからトーシローは。ここは対バーテックス用に訓練されたあたしが満開して戦えば全部うまくいくのよ。素人がでしゃばるんじゃないわよ」

「でも、夏凛ちゃん山羊座の時」

「あ、あれは悲運に悲運が重なっただけ! 今度こそ完成型勇者としてあたしが」

「やっぱり私、戦うよ。必要なら満開だってなんだってする」

「駄目よ友奈ちゃん! そんなこと、私がさせない」

 だめだ。会議のはずなのに感情が先走っている。そのうえ話題が7体の巨大バーテックスをいかに倒すかから誰が満開するかの話にすり替わっている。

 丹羽はこの場を何とかしようと口を開きかけ、隣にいた樹が突然立ち上がったのに驚いた。

「ゆ、勇者部5箇条ひとーつ!」

 突如声を上げた樹に、その場にいた全員が呆気にとられる。それに構わず樹は苦手なはずの大声を出す。

「挨拶はきちんと! ひとーつ! なるべくあきらめない!」

「い、樹? アンタいったい」

 突如勇者部5箇条を言い出した樹に、風は混乱する。

「ひとーつ! よく寝て、よく食べる!」

「樹ちゃん、どうしたの?」

 友奈も混乱しながらも樹の行為を問いただす。

「ひとーつ! 悩んだら相談!」

「あっ」

 樹の言葉に、東郷は息をのんだ。

 そうだ。悩んだら相談。簡単なようで難しいこと。

 それを自分たちはすっかり忘れていた。

「ひとーつ! なせば大抵、なんとかなる!」

 言い終わると樹は顔を真っ赤にして席に着いた。どうやらオーバーヒートしてしまったらしい。

「えっと、つまり何が言いたいのかというと、わたしは」

「ごめん、樹。アタシたちすっかり忘れてたわ」

 椅子から立ち上がると大切なことを気づかせてくれた妹の元へ近づき、風は樹をぎゅっと抱きしめる。

 勇者部5箇条。それは勇者部を作った風と友奈、東郷の3人が考えた5つの標語。

 それを忘れて勝手に突っ走るなんて、アタシは部長失格だ。

 そしてそれを思い出させてくれた妹の成長が嬉しくて、眩しくて。抱きしめる腕にも力が入る。

 そうだ。自分たちは1人ではない。

 1人で抱え込まずみんなで相談して最良の結果を目指せばいいのだ。それでいままでも大抵何とかなって来たじゃないか。

「お、お姉ちゃん。痛いよぉ」

「あ、ごめんごめん」

 どうやら力を入れすぎてしまったらしい。苦しがる樹に風は力を緩め、みんなを見る。

「満開を誰が使うか、とか言い合いするのはやめましょう。というかむしろ満開はしない方針で」

 風の言葉に夏凛と友奈は驚き、丹羽は「賛成です」と手を上げた。

「もしも満開するときはちゃんとみんなと相談すること。決して1人で抱え込まないこと。いいわね!」

「何甘いこと言ってんのよ風!」

「いいこと友奈、夏凛、東郷。勇者部5箇条にはなるべくあきらめない、なせば大抵なんとかなるという言葉があるのよ。それを作ったアタシたちが守らなくてどうするのよ」

「風先輩」

「それに悩んだら相談。自分ではどうしようもないと思っている問題も他の人に相談すれば案外何とかなるアイディアが出てくるもんよ」

 その言葉に友奈と東郷は黙らざるを得なかった。夏凛はまだ不満そうだが、風の言うことも一理あると考えているようでとりあえず沈黙して聞く。

「そう。みんなで相談…相談…ん? そうよ!」

 樹に抱き着いていた風は隣にいた丹羽に詰め寄る。

「丹羽! 今日こそアンタがバーテックスとの戦いで攻略法を知ってた理由、教えてもらうわよ」

「え?」

 勇者部全員の視線が丹羽の方を向いた。

「蠍座を1人で倒せたこと、蟹座と射手座が連係プレイしてくるやつだったこと。偶然ならそう言って。でももし何か知っているなら、アタシたちに話して頂戴!」

 丹羽はどうしようかと考える。当初はこのまま知らぬ存ぜぬで通そうと思っていたが、この一丸となっている勇者部メンバーの期待を裏切るのは忍びない。

 なのである程度ぼかして説明することにした。

「多分、俺の2年以上前の記憶がないのと関係あるのかはわからないですけど、バーテックスを見ると大体の攻撃方法とか攻略法がわかるんです。だから蠍座も1人で倒せたんだと思います」

「それは、残り7体のバーテックスを見てもわかる?」

「おそらくは。山羊座戦でも御霊が毒ガスを出すのがわかったので」

「ていうか、訊くべき相手が他にいるでしょ」

 と夏凛。誰のことかと勇者部メンバーが頭に?マークを浮かべていると、夏凛が思わずツッコむ。

「セッカよセッカ! あの子北海道の勇者って言ってたでしょ! だったらあの子に訊けば何かわかるんじゃないの」

「あ~」

 夏凛の言葉に、ようやく得心がいったと友奈、東郷、風、樹が手を打つ。というか夏凛が言うまで本当に忘れていたのか。

 早速丹羽の中からセッカを呼び出し尋ねると、セッカは『弱点? 知ってるよー』とあっさり答えた。

「本当に⁉」

『うん、こことはちょっと違うところで散々戦ったからねー。攻撃方法はもちろん攻略法ももちろん知ってる』

 セッカの言葉に勇者部メンバーの顔が明るくなる。

 残り7体の巨大バーテックスと総力戦という絶望的な状況に光が見えてきた。

「よし、勇者部緊急会議! 第2回を開始するわよ。次の議題は残り7体のバーテックスの攻略について」

 風は黒板を叩き、気合を入れなおす。部室内を覆っていたどんよりとした空気は今はもうどこにもない。

 あるのは未来へ向かって足掻こうとする希望に満ちた少女たちの熱意に満ちた空気だけ。

「まずセッカ! 残りのバーテックスの種類と攻撃方法を教えて。それについての攻略方法も」

 その言葉にセッカはちらりと丹羽を見る。丹羽がうなずくと、しょうがないなぁというように風のいる黒板に向かう。

『じゃあセッカせんせーによるバーテックス講座はじまるよー。みんなちゃんとメモとってねー』

 こうして本日の勇者部活動は残り7体のバーテックスに対する戦略会議となった。

 あと1週間すれば6月も終わり、7月が始まる。

 アニメ本編で残り7体の総攻撃が始まる決戦の日は7月7日。奇しくも古来より星に願いを託す七夕の日だった。

 

 

 

 レオ・バーテックスは目を覚ました。

 どうやら自分は気絶していたようだ。あの人型のバーテックスにやられて。

 人間のような身体に他の星座級の能力を持つ不可思議な存在。

 前回の自分は遅れを取らなかったが、他の星座級はあいつに1度破れたと聞いた。特にスコーピオンは強い怒りにも似た妄執を抱いていると。

 それを聞いた時、馬鹿なことをと思った。所詮姿は違えど星屑は星屑。自分たちが本気を出せば簡単に倒せる相手だ。

 だが、先ほど自分を閉じ込めた水の箱。そして自分を気絶させた不可視の攻撃に考えを改めざるを得ない。

 あの人型のバーテックスは強い。

 ひょっとしたら自分よりも。

 と、そこでレオは自分と同行していたはずの6体のバーテックスが目の届く範囲にいないことに気づく。

 まさかあの人型のバーテックスにやられたのか?

 バーテックスにあるまじき嫌な予感というものを感じつつも、周囲を探索し姿を探す。

 すると居た。ジェミニとアクエリアスだ。

 アクエリアスがジェミニの傷を治しているようだ。

 よかった。無事だったか。

 バーテックスには仲間意識というのは存在しない。

 だが自分が生き残る可能性を上げるために他の星座級が同時に存在するのは戦略的にも正しいことだ。

 そのために残り7体の星座級が手を組み、勇者が守る神樹の元へ向かっているのだ。

 それがあの人型のバーテックスのせいで全部台無しになるところだった。まったく、あの人型にはつくづくイラつかされる。

 とそこまで考えてレオは嘆息する。これではスコーピオンと同じではないか。

 アクエリアスに近づいたレオは違和感に気づいた。

 アクエリアスはジェミニの体躯をその水球で覆っていた。

 だが傷は治るどころかむしろジェミニの体躯は徐々に消えていっている。

 傷を治しているわけではない?

 不思議に思い、さらに近づく。するとその接近に気づいたアクエリアスが放った水球に身体を包まれた。

 おかしい。アクエリアスの水球は2つだったはず。なのになぜ3つ目がある?

 混乱するレオはアクエリアスに対する違和感に気づいた。

 あれは、御霊?

 アクエリアスの2つの水球の中にはジェミニのほかに、4つの御霊があった。

 形から判断するにあれはアリエスとピスケス、タウラス、リブラの物だろうか? 

 まさかっ⁉ その可能性に思い至り、レオは戦慄する。

 確かにここに来るまで共食いする星屑を見た。それにより巨大化した星屑も。

 あの時はあのような行動をするものもいたのかと思っただけだった。

 だがもし。

 もしもそれを見て「この手があったか」と考えた星座級が自分以外の星座級にいたとしたら。

 より強い上位の存在になるために、自分たちも共食いをすべきだと考えた存在がいたとしたら。

 それが目の前にいる同胞、アクエリアスなのだとしたら。

 考え、レオは戦慄する。自分は星座級最強の存在。たかが他の4体を取り込んだだけの同族になど遅れを取らぬとわかっている。

 だが、もし目の前にいるこのアクエリアスがその最強にとって代わるためにあえて最後に自分を残していたのだとしたら。

 変化はすでに始まっていた。アクエリアスの体躯はリブラのような黄色い金属質なものが部分的に生え、上半身のゼリー状の部分は鱗のような模様が浮き出ている。風鈴のようだった下半身はアリエスの尾のように連なったひし形の物が連なり玉すだれのようになっていた。

 ああ、本気なのだとレオは悟る。こいつは本気で自分を取り込み、最強のバーテックスになろうとしていた。

 だったら抵抗するのは無意味だ。相手は同族。敵ではない。

 自らの手で勇者を倒せぬのは業腹ではあるが、それはこいつがやってくれる。

 自分を取り込み勇者を倒すのならばそれは自分が勇者を倒したことに変わりはないのだ。

 水球の中でレオは自ら御霊をさらけ出し、アクエリアスに吸収されるに任せる。

 やがてすべてを水球に吸収されたレオの体躯は消失し、巨大な御霊も縮小し四角形となる。

 こうして7体の巨大バーテックスはアクエリアスに吸収されて1体となり、本来の世界では存在しない怪物が生まれたのだった。

 




 より深い絶望に落とすためには、希望は不可欠なんだよなぁ。
(+皿+)「また、俺なんかやっちゃいました?」
 蠍座の件といい、主人公が動くと余計こじれた事態になってる件。
アクエリス・スタークラスター「同族は食べ物。同族はごちそう!」
 ほら見たことか! まったく、余計な影響しか与えていない。

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