詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
人型『そのっちー! 銀ちゃん返すよー』
園子「返せ! ミノさんを…え?」
人型『ついでにちょっとテラフォーミングして四国以外にも人間が住める場所作ってくるわー。じゃあねー』
園子「え…? えぇ…(困惑)?」
 園子の手により銀ちゃんは四国の病院へ。人型のバーテックスはサーバー星屑は新天地を目指して四国の外へ向かう。
(+皿+)「選択型AVGやってたと思ったら別ゲーが始まった件」
丹羽「お前が言い出したんだろ! まあ、最近はお米を作るゲームも流行ってるし、多少はな」




星に願いを(死亡フラグダメ絶対)

 大赦の最高責任者である人間は恐怖していた。

 理由は大赦が所有する人類最強の勇者、乃木園子が四国を離れて壁の外へ行ったからである。

 しかもその理由が2年前観測した規格外の存在、人型のバーテックスと決着をつけるためだという。

 それはいい。大赦の最高責任者としても乃木園子という勇者は諸刃の剣だ。

 よく斬れるがその分だけ自分にもデメリットがある。何しろ2年前こともあろうに大赦に反旗を翻し自分を殺そうとした。

 大赦にとって最重要人物である自分を、である。

 彼女の教師であり勇者との連絡役である安芸に阻止される形で最悪の事態は回避されたが、大赦の最高責任者はずっと恨みを抱いていた。

 乃木園子は危険だ。よく切れる刃ほど鞘に納め、厳重に封をして保管していなければ。

 だから大赦で所有している最高級のサービスを受けられる病院へ幽閉した。

 ある程度の権力を与え、防人隊という部隊の指揮権を預け行動を許して飼い殺しにしようとしたのだ。

 その結果、壁の外の調査で安全地帯の確保、四国以外の土地のサンプル回収という望外の結果をこちら側に残してくれたのは多少業腹だが喜ばしい結果だった。

 あとは死ぬまで病室に縛り付ける。そして後は有事の際にだけ活躍してもらう予定だったのに!

 よりによって、今! いつ残り7体のバーテックスがやってくるかわからないときに壁の外へなど行かなくても!

 だが、これはチャンスかもしれないとすぐに頭を切り替えた。

 もし壁の外の世界にいる人型のバーテックスと共倒れになってくれれば、自分には恐れるものなど何もない。

 自分に刃を向けた存在として、乃木園子を許す気など大赦の最高責任者は一切持ち合わせていなかった。

 むしろたかが道具の分際で自分に逆らった罰をどう受けさせようとこの2年間常に考える日々だったのだ。

 もっとも、2年前乃木園子が御簾を切り裂き自分へ槍を突き付けた記憶が焼き付いて離れず、恐怖から実行されることはなかったが。

 最高責任者は現在勇者である讃州中学勇者部の面々に自分を守るよう勅令を出していた。

 もし逆らえばこの四国でお前やお前たちの家族が生きられると思うなよという言葉を当たり障りのない言葉に変えた宣告を付け足して。

 その結果、自分がどう思われるか。大赦が勇者たちにどう思われているかなど考えもしない。

 全ては自分だけでも安全であるという確証を得たいがため。

 本来神樹を守るために選ばれた勇者であるならば自分を最優先に守るべきだという考えは明らかに論理として破綻しているのだが、それに気づかないほど追い詰められていたのだ。

「御館様。勇者様がご到着なさいました」

 御簾越しに聞こえてきた大赦仮面の言葉に、大赦の最高責任者は心が躍りださんばかりに喜ぶ。

 ようやく自分の安全が保障されたのである。当然だろう。

「うむ。ではこちらへ」

 たった3か月前に勇者として覚醒したとはいえ、6人もいるのだ。しかも1人は大赦で訓練し、万全の状態で送り出した勇者。

 こちらに対する忠誠心は折り紙付きだろう。

 自分が命じれば喜んでその命すら差し出すはずだ。

 大赦の最高責任者はようやく数日間悩まされていた怯えから抜け出し、6人の勇者たちを迎えるために威厳を保ち出迎えの言葉を継げようとする。

 だが、目に飛び込んできた光景に呆気に取られた。

 目の前に現れたのはたった1人。

 しかも大赦が選んだ勇者候補ではない、イレギュラー。西暦時代の勇者たちと同じ方法で戦う旧時代の遺物というべき存在。

 勇者たちの歴史の中でも前例のない、唯一の男である勇者。丹羽明吾だった。

「あなただけですか? 他の勇者様方は?」

「勇者部の皆さんは今商店街の七夕の飾りつけで忙しいので、来たのは俺だけです」

 震える大赦の最高責任者の声に、丹羽はこともなげに答える。

 商店街の七夕の飾りつけ? ふざけるな!

 自分はこの四国を統括する大赦の最高責任者だぞ! たかが市政の依頼とこちら、どちらを優先するかなど考えなくてもわかるだろう!?

 だが、口にはしない。下手なことを言って相手の逆鱗に触れるのは乃木園子の件で懲りている。

 屈辱だがここは哀れに振る舞い相手に(すが)り付くしかない。

「勇者様、話は聞いておられると思いますが現在大赦を守る勇者はここにはおりません。壁の外へ行った勇者様が戻るまででかまいません。我々を守っていただけませんか」

 決して高圧的にならないように。へりくだって言葉を選びながら語り掛ける。

「すべては四国を守るためなのです。もし今大赦がなくなってしまえば四国の物流や管理が統制できなくなり、国民への支援が滞ってしまうのです」

 嘘は言っていない。ただ口にしていないだけだ。

 自分の安心のために、自分がいる大赦を守ってくれという本音を。

「ですから大赦にいる皆が安心して働けるように、勇者様方に我々を守ってほしいのです。お願いいたします」

「大赦にいる皆? あんた1人の間違いだろ」

 丹羽のあざけるような声に一瞬何を言われたか理解できず最高責任者は固まる。

「激励の言葉とか期待したわけじゃないけど、ここまであからさまだとすがすがしいな。やっぱりあんたらは勇者を自分たちの安全を守るための道具としか思っていないのか」

 こいつは何を言っている? 大赦の最高責任者である自分にこんな口の利き方をして無事に帰れると思っているのか?

 だが、いつも叱責の言葉を放つはずの老齢の大赦仮面は黙ったままだ。こんな時に使えぬ奴め。

 内心では歯噛みしながらも大赦の最高責任者は表向きは勇者を尊敬し、敬う言葉を放つ。

「とんでもございません。少なくとも私はあなた方のことを道具だなどと。神樹様に選ばれた勇者様をそのように思うものがいたら天罰が下るでしょう」

「ああ、そういうのいいから。もう残ってるのあんただけだし、本音で話してくれてもいいよ」

 そう言うと丹羽はズカズカと無遠慮に自分の方に近づいてくる。だが、周囲にいる大赦仮面は誰も止めようとしない。

 おかしい。これは何かおかしい。

 そこで大赦の最高責任者はようやく気付いた。自分の取り巻きの大赦仮面たちが異様に静かなことに。

 いつもなら聞いてもいないのに自分におべっかを使ったり、勇者の動向を報告しに来るはずが、一切なかった。今日は静かだなと思っていた今朝の自分が腹立たしい。

 異変はすでにもう、起こっていたのだ。

「それとさっきあんたは俺のことを「勇者」って呼んだけど、それは間違いだ」

 御簾越しに聞こえてきた丹羽の言葉に、思わず大赦の最高責任者は後ずさる。

「俺は勇者じゃない。むしろその正反対の存在だ」

 御簾がめくられ、讃州中学の制服を着た少年が部屋に入ってくる。

 いや、本当に人間なのか?

 丹羽が言った「勇者とは正反対の存在」という言葉にその可能性に思い至り、戦慄する。

「お、お前は!? そんな、ありえない」

「ありえないって、何が」

 じりじりと獲物を追い詰める蛇のようにゆっくりと進んでくる丹羽に、いつの間にか背中が壁に付いていた。

「ここは、人間の世界だぞ! バーテックスがどうやって神樹様の結界を!? しかも人間の姿をして勇者と一緒に戦っていたなんて!?」

「おお、さすがに大赦のトップ。理解が早くて助かる」

 丹羽は立ち止まり、大赦の最高責任者を眺めた。

「でも、俺はあいつらと違う。人類を滅ぼそうなんて思っていないし、むしろその危機から救いたいと思っている。だから勇者の皆に協力したし、あいつらとも戦っている」

「つまり、裏切り者…我々にとって味方ということか?」

 とても信じられないが、丹羽の発言から推測するとそういうことらしい。

 だったらまだ付け入る隙はある。

「頼む! どうか私を守ってくれ!」

 恥も外聞も投げ捨てて、最高責任者は丹羽に縋り付いた。

「君…いえ、貴方様が望むのならばなんだって差し上げます。地位も、財産も、望めば人間だって! お望みならば巫女や勇者も捧げましょう。だからなにとぞ!」

 なにとぞ自分だけは助けてくれ!

 その言葉が大赦の最高責任者がいる室内に響いた。

 それを聞いて丹羽はくつくつと笑う。

 よかった、こちらの提案を気に入ってくれた。そう思った大赦の最高責任者に丹羽は手を伸ばし、仮面の上から頬を触る。

 た、助かった。

「やっぱり、組織がクソならそのトップも最低な性格だったな」

 言葉とともに丹羽の人差し指から寄生型バーテックスが放たれ、耳の穴を通り脳へと侵入していく。

「あばばばばばば」

 目を白黒させている大赦の元最高責任者に、丹羽は告げる。

「もしあんたが今まで勇者たちと真摯に向き合い、親身になって彼女たちの立場に立って行動していたなら、今までと何も変わらないさ」

 踵を返し、その場を後にする丹羽。その後ろでは仮面をつけた人間の胸の内にどんどん罪悪感が広がっていく。

「だがもしも。あんたが勇者を道具としてしか見ていなかったり、彼女たちを口先だけで騙してそれを何とも思っていないような人間だったら。――その報いは受けてもらう」

 御簾を持ち上げ、部屋を後にする。直後に聞こえてきた後悔にまみれた絶叫が本来相対する場所の中庭まで聞こえてきた。

 ああ、だめだったか。まあ当然だなと丹羽は想像通りの結果に内心でため息をつく。

 その声を聴いても大赦仮面たちは一切動かず、何の行動もしない。

 丹羽がそう命じているからだ。

 残り7体のバーテックスを倒すまでは上層部はこのままでいてもらう。

 下手に人事異動などすれば戦闘前に混乱するだけだし、勇者たちに全面的なバックアップとケアをする組織として大々的に発表するのは戦いが終わって一区切りした後の方がいいだろう。

 今日あったこともなかったこととして処理されるし、何も知らないバーテックスに寄生されていない大赦の職員は普段通り過ごすはずだ。

 大赦の要職にいる全員、そしてトップがバーテックス人間化したなど知らずに。

 これで丹羽と人型バーテックスによる大赦真人間化計画は終了を迎えた。あとは数日後やってくる7体の星座級を倒すだけだ。

 その前に丹羽は大赦の技術部に向かうことにした。

 勇者部の皆にお土産を持って帰るために。

 

 

 

「遅いわね、丹羽の奴」

「仕方ないですよ風先輩。大赦から直々の呼び出しなんですから」

 7月7日の七夕に向けて、勇者部の活動も忙しくなってきた。

 商店街や幼稚園から七夕の飾りつけを手伝ってくれという依頼が山ほど舞い込んで来たのである。

 そのため勇者部部室では七夕飾りの量産体制のため精霊の手も借りたいほどの忙しさだった。

 もっとも丹羽の精霊であるスミ、ナツメ、セッカの手を実際借りているのだが。

 その宿主の丹羽は今日大赦に呼ばれて学校を欠席していた。

 大赦公認の呼び出しということで、学校側では一応欠席扱いはされていない。

 だがなぜ勇者部全員ではなく丹羽だけなのか? 勇者部部長である風はそれが気になっていた。

 もちろん風だけでなく勇者部メンバー全員が丹羽を心配している。本人からは心配ないとラインでメッセージが来ていたし、昼休憩には終わり次第讃州中学に戻り勇者部の部室に顔を出すというメッセージも来ていた。

 ちなみに本当は大赦からの呼び出しは勇者部全員に送られるはずだったのだが、バーテックス人間の妨害により丹羽だけに届けられたということになっている。

 そのため風たちは本当なら自分たちも大赦に呼ばれていたことを知らない。なぜ丹羽なのかという不可解さと心配だけが募っていた。

 やがて放課後になっても丹羽は姿を見せない。姿を現したのは丹羽の精霊3体だけであった。

 なんでも丹羽に先に行っててくれと言われ、部室で待っていたらしい。

 その後七夕飾りを作りながら丹羽を待っていたのだが、部活開始から1時間経っても一向に来る気配がないのだ。

「やっぱり、アタシ電話してみるわ」

「さっきもかけたじゃない。あんたどんだけ心配性なのよ」

 つい10分前にも電話を掛けていた風に、はさみで折り紙に切り目を入れ七夕飾りを作っていた夏凛が呆れて言う。

「だって、あの丹羽よ! ことあるごとに大赦をディスってきた奴がこれだけ長い間来ないってことは何かあったんじゃないかと思うじゃない」

「確かに。丹羽君将来は大赦で働くって言ってたけど容赦なく悪口言ってたもんね」

「ひょっとして、大赦の偉い人の前でいつものように悪口言って、怒られてるんじゃ」

 風の言葉にさもありなんと同意する友奈。そして樹の懸念に「まっさかー」と全員が笑い飛ばした後、「あり得る」と思わず七夕飾りを作る手が止まる。

「ど、どうしようお姉ちゃん! 丹羽くんがこのまま帰ってこなかったら!?」

「お、落ち着きなさい樹! いくらあのバカでもそんな本人を目の前に悪口なんて」

「言いそうですね…いや、言う光景しか浮かびません」

「大丈夫だよ、東郷さん。いくら丹羽君でも…うん、言うかも」

「風、あんた大丈夫なの? もしそれであんたの監督不行き届きだってことになって問題視されたら」

「夏凛、不吉なこと言わないで! アタシもそれが心配になってきたところなんだから!!」

 わいわい騒がしくなってきた勇者部部室にその問題を引き起こしそうな部員が帰って来た。

「こんにちはー。皆さん何の話でそんなに盛り上がってるんですか?」

 ダンボールを抱えて持ってきた丹羽に、勇者部5人の瞳が向けられる。

「丹羽! アンタ大赦のお偉いさんに変なこと言わなかった? 大丈夫?」

「丹羽君おかえりー。悪口はダメだよ」

「そうよ丹羽君。言わぬが花。堪え難きを耐え忍び難きを忍ぶ」

「丹羽くん、これからは偉い人の前ではお口にチャックしてね」

「丹羽、兄貴に頼んで口添えしてもらうけど…あんまり期待はしないでね」

 帰って来た丹羽に何かやらかしたんだろうなぁと勇者部の面々は囲んで詰問する。だが丹羽はそれを否定し、段ボールを机の上は折り紙とはさみで占領されていたので使われていない椅子を出し、その上に置いた。

「違いますよ。いくら俺でも大赦で働く人を前に悪口は言いません。これをもらって使い方を訊いて来たんです」

 そう言うと丹羽は段ボールの中身を出して皆に渡し始めた。

「これは?」

「大赦の技術部で作ってた完全防音の耳栓です。牡牛座の怪音波攻撃対策ですね」

 プラスチックで包装された耳栓が6人分。それと東郷が好きそうな武骨な近代兵器っぽいものもある。

「こっちは魚座対策の爆雷…はさすがに持ってこれなかったので振動音波兵器ですね。樹海の地面に潜った相手に振動と音波で目と耳にダメージを与える兵器です」

 それを受け取り、東郷は目を輝かせている。彼女の趣味にクリーンヒットしたらしい。

 ちなみにバーテックスに通常兵器は効かないだろというツッコミに対して解説すると、この武器の開発には人型バーテックスも1枚かんでいる。

 丹羽の細胞を大赦の施設で研究させ、壁の外でカプリコンの能力で地震を起こして詳細なデータを渡した。

 いわばこれは人類初となるバーテックスと人間による共同開発兵器なのである。

 まあ、その研究をした人類はみんな操られているバーテックス人間なのではあるが。

「あと天秤座の風に飛ばされにくくなる安全靴。中に鉄板が入っているので動きは遅くなりますが、その分踏ん張りが効くらしいです。それと水瓶座の水で溺れた時用の肺に空気を送る大赦謹製の携帯スプレー」

「ちょ、ちょっと待って」

 次々とセッカに習った巨大バーテックスの攻撃に対策した道具を出してくる丹羽に、風は困惑する。

「これ何? いつの間にこんなものを」

「俺も今日知ったんですけど、大赦でもこれからは勇者を全面的にバックアップしようっていう話になっていたみたいで。大赦の技術部の人たちがいろいろ作っててくれて感想を聞かれてました」

「だから遅くなったんだ」

 遅くなった理由が大赦の偉い人に怒られていたわけではないと知り、勇者部全員がほっとしている。

 ちなみにさっき丹羽が話した内容には嘘がある。実際は大赦の技術部がこの対バーテックス用兵器を作り出したのはバーテックス人間を送り込んだ2か月ほど前だ。

 でなければこんなに早く対バーテックス用のピンポイントな道具など作れるはずがない。

 だが幸いにもそれに気づく人間はいなかった。勘が鋭く冷静沈着な東郷も見たこともない対バーテックス用装備に夢中であまり気にしていないようだ。

「勇者を全面的にバックアップって、大赦がそう言ったの?」

「ええ、大赦の偉い人が」

 そう、丹羽に寄生型バーテックスを注入され、操られた偉い人がそう言ったのだ。間違ってはいない。

「大赦もできることをしたいって俺がセッカさんから聞いた情報を元にこういうものを作ってくれました。最初は怪しい組織だと思っていましたけど、案外いいところありますね」

 その言葉に風と夏凛は首をひねる。

 特に夏凛は大赦職員の防人に対する悪口や勇者としてやっかみからの暴言も聞いていたので頭の中のイメージとどうもつながらないらしい。

「心強いですね。私たちを応援してくれる人がいるのって!」

 だが、友奈の言葉に「そうね」と2人は返す。

 昔含むところがあったとしてもこれからは勇者を全面的にバックアップしてくれるというのだ。今はそれに甘えよう。

 というわけで一通り丹羽が持って帰って来た対バーテックス用の装備の説明を聞いた後、全員に道具が配られる。

 特に東郷はウキウキだった。銃という武器の特質上耳栓は必須だし、近代兵器も軍事オタである彼女にとって心が躍るお土産なのだ。

「さっ、それはそれとして七夕飾り作りを再開するわよ!」

「って言ってももうほとんど終わってるよー!? すごいね、スミちゃん、ナツメさん、セッちゃん」

 5人が丹羽の説明を夢中で聞いている中、3体の精霊は黙々と手を動かし気付けば納品する七夕飾りをほとんど作り終えている。

「おー、本当だ。すごいわねみんな」

『スミー!』

「あらあらスミちゃん。頑張ったわね」

 自分の分の作業が終わり、東郷の分も手伝っていたスミは褒めてーと言わんばかりに胸元に飛びついてきた。

 それを東郷は受け止め、よしよしと頭をなでている。

『風、私も』

「え? うーん。まあ、しょうがないわねー」 

 ナツメの言葉に風は椅子に座り、おいでと膝を空ける。するとナツメはそこに滑り込み、風の胸に頭を預け、瞳を閉じる。

「よしよし、いい子ねー」

『やはり風の胸枕は世界一。主でもここは絶対譲れない』

「あ、当たり前でしょ!」

 ちなみにこの発言は主には絶対譲れないの部分に対する言葉だったのだが、それを聞きつけたスミが対抗心を燃やした。

『違う! スミの方がおっぱいすごい!』

「ひゃん!? もう、スミちゃん!」

『東郷の胸が大きいのは知ってる。だが、風の胸の方が安心でき…スヤァ』

「ナツメ? あら、もう寝ちゃった」

 東郷の胸を持ち上げてアピールするスミに反論しようとしたナツメだったが、風の胸に頭をうずめた瞬間すっかり安心し眠ってしまう。

 さらに反論しようとしてたスミは面白くない。これではナツメの勝ち逃げだ。

『う~』

「こらこら、お友達とけんかしないの」

 東郷がめっ、とスミの額を人差し指でこつんと叩き注意する。スミはまだ納得していないようだったが、東郷の胸に体を預けるとどうでもよくなったのかすぐリラックスする。

「「くっ」」

 その光景を見て夏凛と樹が顔をそらしていた。自分たちにはどうしようもないほど関係ない話だったからだ。

『あー、夏凛? 樹ちゃん? その、元気出してね』

「なによ、関係ないでしょ」

「セッカさんにわたしたちの気持ちなんて」

『えっとここだけの話なんだけど。生前の私はね…』

 セッカが夏凛と樹に近づき、小声で何か話している。やがて「ええ!?」と2人が驚く声が聞こえた。

「じゃあ、セッカも?」

『はは、お恥ずかしながら』

「じゃあ、仲間ですね仲間!」

 先ほどとは一転してきゃっきゃと女の子が楽しそうにしている。

 右を向けば棗風、正面ではぎんみも、左側ではせっかりんいつ。

 なんだ、ここは天国か?

「あ、そういえば丹羽君にはまだ渡してなかったよね。はいこれ」

 丹羽が1人尊いモードになっていると友奈が長方形の長い紙を渡してくれた。

「なんですか、これ?」

「短冊だよ。商店街の人がついでに飾ってくれるって。みんな書いたから書いてないのは丹羽君だけだね」

 そう言えば七夕飾りを作る依頼なのだから、短冊も書いてくれというのも依頼内容に含まれるのだろう。

 願い事か…。

「みなさん、まさか死亡フラグになりそうなお願いは書いてないですよね?」

 丹羽の言葉に全員が顔をこちらに向ける。

「死亡フラグって、例えばどんな?」

「例えばバーテックスとの戦いが終わったら腹いっぱい○○食べたいとか。この戦いが終わったら告白するとか。海に行きたいとか。絶対勝つとかいろいろですね」

 丹羽が言った一例に何人かの勇者部部員が目をそらした。

「まさか…」

「ち、違うのよ。アタシは良かれと思って」

 箱の中に入っていた風の短冊を取り出し見てみる。

【樹の料理の腕がよくなりますように 犬吠埼風】

「これはギリギリセーフです。もし特定のレシピがうまくなりますようにだったら1人の部屋で犬吠埼さんがその料理を作って「おいしくないな。やっぱりお姉ちゃんの作った料理が食べたいよ…」ってバッドエンドになるところでしたよ」

「いつきぃいいいー!」

 その光景を思い浮かべたのか、風がボロ泣きしていた。

「お姉ちゃん、大丈夫だよ。お姉ちゃんがいなくならなければいいんだから」

「犬吠埼さん、それ地味に死亡フラグだから…まあいいや。次」

【戦いが終わったら東郷さんとお買い物したい 結城友奈】

「これはアウトですね。でも戦いが終わったらの部分だけ消せばいいので軽度の物です。というか結城先輩はいつも東郷先輩とデートしてるでしょ」

「デートって、お買い物だよー」

 丹羽から短冊を返され、友奈は戦いが終わったらの部分を塗りつぶす。

【お姉ちゃんに彼氏ができますように 犬吠埼樹】

 切実だ。文字から切実さがあふれている。

 だが丹羽としては推しがヘテロ落ちするのは嫌なので彼氏の部分を「いい人」という性別どちらともとれるように書き直すように樹に指導し、短冊を返す。

「さて、次は」

【私の友奈ちゃんに近づく男が(自主規制) 東郷美森】

「うん、セーフ」

「どこがよ!」

 あまりにも特定の性別の人に対する憎しみのこもった願い事をスルーしようとしていたら夏凛にツッコまれた。

「いや、死亡フラグにはなっていないので」

「倫理的に問題大有りでしょ! 東郷も書き直し!」

 夏凛が強引に東郷に短冊を渡す。「えー」と東郷も不満そうだ。

「で、最後は三好先輩のですね」

「あ、それは」

【残り7体のバーテックスとの戦いで全員無事で生き残る! 三好夏凛】

「これこそ死亡フラグそのものですよ、三好先輩。というか一般の人も見るのにバーテックスとか書いちゃダメでしょ」

「う、うっさいわね! いいわよ。書き直すわよ!」

 ちなみに小さい字で「兄が妹離れしますように」と書いてあるのも見てしまった。

 春信さん…。

 そんなこんなで勇者部2人が書き直しになり、丹羽も短冊を書くことになる。

 とはいえ何を願ったものか。

 皆が満開しませんように? それこそフラグだ。

 銀ちゃんが意識を早く取り戻しますように? これもいけない。ずっと目を覚まさないフラグになりかねない。

 だったら残るのはこれしかないか。と丹羽は短冊に願い事を書く。

「で、あたしたちに散々文句を言った丹羽はなんて書いたのよ」

 箱に入れようとした短冊を、夏凛が横から奪い読み上げる。

【勇者部みんながずっと仲良しでありますように 丹羽明吾】

「普通ね。なんだ、面白くない」

「いや、夏凛。丹羽の言う仲良しっていうのは多分あんたが考えているやつとは違うと思う」

「だねー」

 夏凛の言葉に犬吠埼姉妹はやっぱりかというような顔をしていた。

 首をかしげる夏凛に「丹羽君らしいわね」と東郷。友奈も「そうだね」と同意している。

 こうして七夕まで勇者部は学校外の幼稚園や商店街に作った七夕飾りを納品したり飾りつけをしたりして過ごしていく。

 残り7体のバーテックスが総攻撃してくる日まで、あっという間に時間は過ぎていった。




 勇者部+対巨大バーテックス用メタ装備
 これさえあれば楽勝だな! しかも本編と違って大赦も協力的だし、敵の知識も予習済みという。
勇者部「負ける気がしない。ホームだし」
アクエリアス・スタークラスター「本当にそうかな?」

次回、vsアクエリアス・スタークラスター
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