詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
大赦OTONA化計画完了。
七夕に向けてみんなで願い事を短冊に書くことに。
友奈「この戦いが終わったら、東郷さんの作ってくれたおはぎをおなか一杯食べたいなぁ」
東郷「重箱いっぱいのおはぎを作って待ってます」
風「そう言えば依頼のアレ、作りかけだったけど…まあいいか。戦いが終わって帰ってからで」
樹「おかしいな。何度占っても死神のカードしか出ないよ」
夏凛「あたし愛用のサプリ瓶が何もしてないのに次々割れてる!?」
丹羽「死亡フラグしかねぇ」
勇者部部室から樹海に転送された6人はその光景に呆然とするしかなかった。
見渡す限り大量の星屑がその名の通り夜空に広がる無数の星のように現れ、ひしめいている。
四国周辺に沸く星屑を結界に来る前に消滅させていた人型のバーテックスがいなくなったことである程度の星屑が戦闘に出現して混戦となることは覚悟していたが、これほどとは。
スマホの画面を見ても星屑を示す赤い点で画面が真っ赤になっているだけで星座級の文字は水瓶座1体しか確認できない。おそらく他の6体はまだ結界の外にいるのだろう。
「なによこの数」
同じように感じたのか、夏凛も呆然としている。
今までとは違う圧倒的物量の敵。
戦意喪失とまではいかないが、勇者部全員の士気が下がっている。
あまりよくない状況だ。これに加えて残り7体の巨大バーテックスとの戦いも控えているのだから臆するのも当然だろう。
特に最年少の樹はそれが顕著に表れていて、手が震えている。それに気づいた姉の風が手を握り、樹を見つめた。
「大丈夫よ、樹。なにがあってもアンタはあたしが守るから」
「お姉ちゃん、…それ死亡フラグ」
数日前丹羽に注意するように言われていたワードを言ってしまった姉に、樹はジト目で返す。
「こ、こんな時にそういうのはいいの!」
「いや、よくないでしょ。こういう時だからこその禁止ワードじゃない」
風の言葉に夏凛がツッコむ。それで幾分かはいつもの調子が戻って来た。
「大体死亡フラグなんてねえ、物語の中だけでの話なのよ。そんなのいちいち気にしてたら神経まいっちゃうわよ!」
「いやいや、最終決戦なんだからゲン担ぎは大事ですよ犬吠埼先輩」
「最終決戦…本土防衛戦。いえ、違うわねそれじゃ負けちゃうもの」
「ルンガ沖夜戦とかはどうです?」
「最終決戦と最後に勝った戦いを一緒にしちゃ駄目でしょ! しかも戦略的には米帝に敗北した戦いじゃない!?」
「じゃあ真珠湾にしますか。12月7日で7つながりなので」
「ならよし! 今こそ国防魂を見せる時!」
「また東郷さんと丹羽君がわからない話してる…」
西暦時代の軍事オタの話は一般人にはチンプンカンプンらしい。仲間外れにされたようで友奈が少し拗ねている。
「心配しないで犬吠埼さん。敵は多いっていっても星屑。前に依頼があった神社の清掃活動に比べたら楽勝だよ」
「丹羽くん…うん、そうだね!」
丹羽の言葉に以前受けて大変だった力仕事の清掃活動を思い出し、樹がうなずく。それでだいぶ緊張がほぐれたことを手をつないでいた風は感じた。
「うう、樹を励ますのは姉のアタシがやりたかった」
「何馬鹿言ってんのよ風。さっさと変身して大掃除するんでしょ」
「わかってるわよ! えーい、とにかく変身よ、変身!」
勇者部部長の言葉に全員がスマホの画面をタップした。
ヤマザクラ、アサガオ、オキザリス、鳴子百合、ヤマツツジ、白百合の花が咲き誇り、光に包まれる。
光が収まるとそこには桃色、スカイブルー、黄色、緑、赤、白の勇者服を着た6人がいた。
「よーし、じゃあ変身したところで、アレやりますか!」
「アレってなによ? また何か変なことじゃないでしょうね」
風の言葉と目配せに、友奈と東郷は肩を組む。東郷は樹と、樹は風。そして友奈はまだ事態を呑み込めていない夏凛と無理やり肩に手を置き引き寄せる。
「ちょ、ちょっと何するのよ?!」
「円陣よ円陣。こういう時のお決まりでしょ? それと丹羽、アンタも」
急にくっついて密集しだした勇者部メンバーに「キテマスワー」といつもの不審者状態になっている丹羽の肩を強引につかみ、風は自分の横に引っ張る。
「犬吠埼先輩!? いえいえ、俺は見ているので皆さんで」
「何言ってるのよ。アンタももう勇者部の一員でしょ」
「そうだよ丹羽くん」
「今更違うなんて、悲しいこと言わないでね」
「警告する、お前は戦いから逃げようとしている。逃亡者は銃殺される」
「東郷、銃持ってるあんたが言うとシャレにならないわよ。ほら、あたしもちょっと嫌だけど組んであげるわよ」
丹羽としては百合の間に入る男になりたくなかったが、勇者部全員の視線にこちらも肩を組まないのは不作法というものと思い直し、風と夏凛と肩を組み円陣となる。
「みんな、帰ったらアタシが好きなもの奢ってあげるから死ぬんじゃないわよ」
「犬吠埼先輩、それ死亡フラグです」
「ん、ん゛ん゛!? 言い直すわ。全て終わったら派手なパーティーをしましょう」
「だからそれも死亡フラグですって」
「だー! もう。じゃあアンタが言いなさいよ丹羽!」
「えぇ…ここに来て1年生に丸投げですか?」
「アンタがフラグフラグうるさいから! こっちもここ数日発言には気を付けてるからもう限界なのよ! 言い出しっぺがお手本を見せなさい」
事実ここ数日隙あらば死亡フラグを立てそうな発言をする風に丹羽と樹はハラハラしていた。
ご飯を食べればおいしいという言葉に「今度作り方教えてあげるわよ」と言ったり、「戦いが終わったらみんなどうする?」という発言を唐突にしだしたりともうわかってこいつ言ってるんじゃないかと疑うレベルだったのだ。
「えー、では僭越ながら」
こほんと咳払いし、風に号令を任された丹羽は今この場所にふさわしい言葉をサブカル知識から引っ張り出す。
「俺たちはいうなれば運命共同体。互いに頼り、互いにかばいあい、互い助け合う。1人が6人のために、6人が1人のために。だからこそ戦場で生きられる。分隊は兄弟、分隊は家族」
丹羽の言葉に東郷が目を輝かせている。他の面々は頭に?マークを浮かべたままだ。
「嘘を言うなっ!」
「「はぁ?」」
突然今までの言葉を否定する丹羽の言葉に、全員が面食らった。特に風と夏凛はどういうことだと丹羽を見ている。
「
「ちょ、ちょっと丹羽?」
「だからこそ俺のために百合イチャしろっ!」
「結局それか!」
円陣から外され、勇者たちからフルボッコにされる丹羽。特に東郷、風、夏凛からの当たりが強い。
「ふざけてるのあんた? 風は円陣の号令をしろって言ったのよ」
「途中まではよかったのに、最後のあれは何?」
「ごめんみんな。丹羽に任せたアタシが馬鹿だった」
改めて5人で円陣を組み直し、気合を入れる勇者部。その時にはもう最初に抱いていた緊張や恐怖感などどこかに飛んで行ってしまったことに気づく者はいない。
「勇者部ファイトォ―!」
「「「「オーッ!!」」」」
一方で丹羽はおかしいなぁと首をひねる。さっきの言葉は丹羽の知る限り最強の生存フラグの言葉だったはずだ。多少変更したが何がいけなかったのか。
やっぱり鬱フラグクラッシャーズの名言の方がよかったかなぁ。でも戦場の前にあんまり軽口を言うわけにはいかないし。
そんな勇者部いつものやり取りの中でも空気を読んで攻撃しないでくれている敵。星屑がノイズさん並みに空気読んでるなこれ。
「いつまでそこで寝転んでるの、丹羽。さっさと行くわよ」
風が排水溝にこびりついたヘドロを見るような目で丹羽を見つめて言う。どうやら信頼度が大幅に下がってしまったらしい。
仕方ない、ここからは戦いで挽回しよう。決意すると丹羽は簡単に白い勇者服を手で払い汚れを落とすと戦線に向かった。
東郷が狙撃位置に入り、前衛組5人が大赦技術部が作ってくれた安全靴を履く。
これで踏ん張りが強くなったはずだ。天秤座の風で吹っ飛ばされる対策もばっちりだ。
あとは魚座対策の振動音波兵器と牡牛座の怪音波対策の耳栓、水瓶座対策の携帯スプレーもすぐに出せるよう大赦特性の多機能カバンを腰に下げる。
「じゃあ、行ってくるわね東郷」
「ええ、みんなに神樹様の御加護を」
風の言葉に東郷が返す。
視界を埋め尽くさんばかりの星屑から、まずはその掃討と巨大バーテックスとの接触を第1目的とした。
まず前衛の風、友奈、夏凛、丹羽がそれぞれ星屑を倒しながら水瓶座を目指し、討ち漏らした星屑を中衛に配置した樹がワイヤーでからめとり動きを止め、東郷がとどめを刺す。
数が多い星屑相手にする2人の負担が強い作戦だが、水瓶座さえ倒してしまえば星屑は逃げ去るだろうと判断しての作戦だった。
やがて星屑と接触すると風は剣で、友奈は拳、夏凛は双刀、丹羽は両手の2丁斧で切り刻んでいき、消滅させる。
「じゃあ樹、ここは任せるわね」
「うん、任せて!」
前衛と後衛の間、負担の多い場所に樹を1人置いて行って大丈夫だろうか?
風は一瞬悩んだが、成長した頼もしい妹を信じて任せることにした。
「行くわよ、友奈、夏凛、丹羽!」
「はい、風先輩!」
「言われなくったって!」
「了解です、犬吠埼先輩」
ここからは2人1組で水瓶座を目指す。友奈は夏凛と、風は丹羽と一緒に。
先ほどの悪ふざけは少し頭にきたが、おかげで皆の緊張が解けたと風は気付く。そして丹羽の実力を風は信じている。
背中を預けるのにこれほど頼もしい相棒はいないと。
二手に分かれて眼前に広がる星屑の群れをなぎ倒してく。剣を振るう度星屑が消滅し、満開ゲージがたまっていく。
これならすぐに満開できそうね。と風は考え、思い直す。
勇者部5か条、悩んだら相談。樹が思い出させてくれた言葉だ。
もしこれを使うのならば、みんなと相談してからだ。自分が先走って使うのはルール違反。
それに背中を預ける相棒は次々と星屑を2つの斧でなぎ倒し、風が進むべき道を切り開いてくれる。
いつもこれくらい頼りになるなら、格好いいんだけどね。
普段とのギャップを感じながらも風は剣を振るい、星屑を次々と斬り捨てていく。
やがてそいつは見えてきた。大量の星屑に囲まれているが4つの水球を抱えて頭部らしき場所には金属質な長い黄色い角が生えている。
上半身のゼリーのような場所はデコボコしていて、真ん中には赤い炎のようなものが輝いていた。
あれが水瓶座? なにかセッカから聞いていたものとは違うような。
隣の丹羽を見ると唖然とした表情をしていた。
まるで目の前にいる存在が信じられないというように。
「丹羽?」
見たこともない後輩の姿に風は首をかしげる。どうしたのだろう?
「知らない」
こぼした言葉に、風は思わず問いかける。
「え?」
「あんな奴、俺は知らない…なんなんだ、あれ?」
そこでようやく風は彼が焦っているのだと気づく。
いままでふざけた行動はとることがあったが、ここまであからさまに動揺した彼を見るのは初めてだった。
嫌な予感がする。風は目の前の水瓶座を見据えながらそう思った。
見たこともない巨大バーテックスの姿に丹羽は戸惑っていた。
人型のバーテックスと遭遇した時は確かに本編通り7体の巨大バーテックスだった。
だが、今目の前にいるのはベースこそ水瓶座だがところどころに他の星座級の特徴が見えるし、普通の水瓶座よりも大きく、2つのはずの水球を4つ持っている。
まさか、他の星座級を吸収した?
考え、あり得ないとすぐ打ち消す。普通のバーテックスは共食いなどという行動は考えつかないはずだ。
事実壁の外で今まで共食いしていた星屑も一切の抵抗もなく食われるままだった。
抵抗したのは星座級のみ。自然発生したバーテックスが共食いをして自己強化のために能力を吸収するなどありえないはずなのだ。
もし本当に他の6体のバーテックスを吸収してその能力を使えるかどうかは戦って判断してみるしかない。だがどう切り込むべきか。
丹羽が考えていると、星屑の群れを倒した夏凛と友奈が合流した。
「なにぼさっと突っ立ってるのよあんたら!」
「風先輩、丹羽君、どうしたの?」
「あ、友奈、夏凛。実はあの水瓶座、なんかおかしいらしい」
風が説明しようとした時だった。4つある巨大な水球から何かが放たれる。
「っ、3人とも避けて!」
言葉とともに丹羽は間近に迫っていた水瓶座のアクアショットを斧で弾く。
明らかに水瓶座単体の攻撃力ではない。
今確信した。やはりこいつは他の星座級を取り込んで強化されている。
だが何のために? どうやって? 疑問は浮かぶが今は目の前の敵を倒すことが先決だ。
「犬吠埼先輩、結城先輩、三好先輩! 多分あいつは7体の巨大バーテックスが融合した水瓶座です! 理由はわかりませんが、かなりの強敵なので注意してください」
「なんですって!?」
「融合したってどういうことよ?」
風と夏凛が問いかけてくるが今はそれどころではない。
今度は天秤座の風を操る能力を使って突風を仕掛けてきた。アクアショットから逃げ回っていた夏凛は体が浮いて飛ばされかけたが、友奈が受け止め何とか踏ん張る。
丹羽も風と合流し突風に耐えるが、敵はそれを狙っていたようだ。
「っ、やばい!」
樹海の地面に踏ん張り動けなくなったところに体を覆うのに充分な大きさの水球が飛んでくる。
ウォータープリズン。ゆゆゆいでもおなじみの水瓶座の技だ。アニメ本編では風を閉じ込めた技でもある。
「犬吠埼先輩、後ろに跳んでください。俺が受け止めますから」
「了解、任せたわよ」
先に丹羽が後方へと跳び、突風で飛んできた風を受け止める。風が先ほどまでいた位置には水球が地面で跳ね、天秤座の突風の影響を受けずに宙へと浮いて行った。
「夏凛ちゃーん!」
友奈の声に驚き見ると、夏凛が水球に閉じ込められている。中は水で満ちているのか、息ができずに苦しそうだ。
「三好先輩、そういうときこそ携帯スプレー!」
丹羽の声に気づいたのか、腰に下げたカバンから携帯スプレーを出し呼吸する。何とか水没して溺死という状態は避けられたようだ。
「助けないと」
「友奈、あんたの拳じゃ無理! アタシと丹羽が壊すから待ってて!」
言葉とともに風と丹羽はジャンプして水球を割ろうと己の武器を振り下ろす。が、思いのほか丈夫な水球に弾き飛ばされた。
「くっ、なんて固さなの」
「風先輩、夏凛ちゃんが!?」
見ると水瓶座の上半身ほどの高さに上った夏凛の水球の周囲に、4つの水球の1つから触手のようなものが伸びる。
あれは、水のワイヤーで編み込まれた触手?
人型バーテックスしか操れないはずの能力をなぜあの水瓶座が? 疑問に思いながらも何をする気かと眺めていると、水球に数本の触手が挿入されると夏凛が入った水球が振動した。
「夏凛ちゃーん!?」
次の瞬間夏凛が白目をむき、手にしていた携帯スプレーを手放す。口から大きな気泡が出て、ぐったりとしている。
「牡牛座の怪音波!? あいつあんなのまで使えるのか?」
「丹羽、どういうこと?」
驚く丹羽に風は説明を求める。
「おそらく水球に閉じ込めた三好先輩に牡牛座の怪音波をあの触手から放ったんです。あの水球は水で満たされていますから、普通に怪音波を訊くより効果が強いんですよ。潜水艦のソナーに対する爆雷みたいなもんです」
例えはよくわからなかったが、あの技が危険なことはわかった。とりあえず今は夏凛を救出しなければ。
「犬吠埼先輩、結城先輩と一緒に水瓶座を攻撃してできるだけ気をそらしてください。俺はその間に」
「わかった。友奈、行くわよ!」
丹羽の言葉を受け風は友奈と共に水瓶座を攻撃するために近づく。
「セッカさん!」
『はいよー』
セッカを呼び出すとスミと交代し、赤いラインから紫のラインへと変化する。
武器も2丁の斧から槍へと変わり、丹羽は水球を受け止める水の触手に向けて槍を放つ。
「くっ、固い!?」
だが槍は水の触手に当たると弾かれた。やはり人型のバーテックスが使う技のように水のワイヤーを何度も折り重ねて繊維にし、筋組織のようにした触手なのだろうか。
だとしたら切断できるのはスミの斧だけだ。だがあの距離までは届かない。
仕方ない。この戦いで使うことになるとは思っていたが、まさかこんなに早く使うことになるとは。
「スミ、ナツメさん、ウタノさん、ミトさん!」
声とともに4体の精霊が現れ、セッカも丹羽の中から出て5体となる。
「切り札、行きますよ。いいですか?」
『おう!』
『わかった』
『りょうかーい』
『オフコースもちろんよ!』
『うたのんと一緒なら、どこへでも』
5つの精霊が丹羽の中に入り、光に包まれる。白百合、オトメユリ、黄色い百合、オレンジユリ、鬼百合。5つ百合の花が咲き誇り白い丹羽の勇者服に赤、水色、紫、黄色、緑の5つの色のラインが入った姿になった。
そして身体が光に包まれ、丹羽が地面を蹴ると一瞬で夏凛を包む水球の場所まで飛んだ。両手の斧を振るって水球に繋がった触手を断ち切る。
「セイヤー!」
水球を破壊し意識を失ってぐったりした夏凛を抱えて地面に降り立つと、風と友奈に声をかける。
「2人ともこっちへ、あとは俺が!」
「丹羽!?」
告げると丹羽は飛び立ち、4つある巨大な水球の破壊を試みる。1つ目を2丁斧の唐竹割で切断し、樹海の地面にボトボトと水が落ちていく。
よし、斬れる。
あとは3つ破壊すれば丸裸にしたも同然。さっさと破壊しなければ。
「なっ!?」
だがそこで丹羽は動きを止めざるを得なかった。
巨大な水球からすごい速さで複数の水のワイヤーが宙に走り、周囲にいた星屑を取り込んで骨組みにし、繊維のように織り込んでいく。
やがてそれは水でできた蛇のような姿になり、丹羽に襲い掛かって来た。
こいつ、こんなとことまで!?
人型のバーテックスしかできないと思っていた水のワイヤーを使った応用技に、丹羽は驚愕する。
もしこれが人型のバーテックスが使うものと同等なら、破壊するのは難しい。それこそ、満開した勇者の攻撃でもないと不可能だろう。
「だったら!」
丹羽は目標を変え、水瓶座本体を狙う。
水瓶座自体は装甲が薄く、水のバリアさえなければ柔らかい部類のバーテックスだ。
両手の斧で連なった頭部から生えている金属質の角…おそらく天秤座のパーツを切断する。そのまま上半身のゼリー状の部分を破壊しようとして、ガキンと金属音がして刃が止まった。
これは牡牛座の装甲か? バーテックスの中でも蟹座と蠍座に並ぶ防御力を持つ牡牛座も吸収していたとしたら、それを警戒すべきだった。
ウカツ、それしか言いようがない。次の瞬間中央の燃えるように赤い中心の部分が光り、丹羽の肌が高温でひりひりするのを感じる。
間一髪、放たれた火球を避けることができた。切り札状態でなければやられていたかもしれない。
だが気を抜くのは早かった。樹海の地面に降りた丹羽を今度は玉すだれのようになった牡羊座と魚座のしっぽが融合したような部分が振動しながら襲ってくる。
おそらく人間の腕が触れただけでグチャグチャになってしまうだろう。それほどまでに危険な武器だ。
だが丹羽は逃げるのではなくあえて踏み込む。そしてウタノの武器である鞭で振動する玉すだれをからめとり纏める。
するとすだれ状のしっぽは振動していたせいで複雑にからまり、うまく相手に狙いを定めることができないようだ。その隙に丹羽は飛びずさり風と友奈、気絶した夏凛と合流する。
「全員無事ですか?」
「何とか。ていうか丹羽、なんなのよさっきの動きは!?」
「切り札です。精霊の力を最大限使ってパワーアップする方法。これを使うとしばらく戦闘に参加できないので、諸刃の剣ですけど」
「私たちの満開とは違うの?」
友奈の疑問に、丹羽は首を振る。
「満開は神樹に身体の一部をささげる副作用がありましたよね。でも俺にはないんです。もっとも切り札状態は10分だけ。使うとしばらく戦闘に参加できない役立たずになるっていう制限がありますけど」
もっとも、普通の精霊ならその制限はないんだけどな。と丹羽は悔しがる。
スミやナツメなどの人型の精霊を使い、切り札を使った時にこの副作用は発見された。
詳しい理由はわからない。だが、しばらく戦闘に参加できないだけで満開のようなデメリットはない。
時間が経てばまた切り札も使えるし、問題ないと思っていたのだ。
このアニメ本編でも出てこない、7体の星座級の御霊を吸収してパワーアップした水瓶座が現れなければ。
事実アニメ本編のように7体の巨大バーテックスが出現していたのなら、この切り札を使う必要もなく戦闘は終わっていただろう。
だが、どういうわけかあの水瓶座は人型のバーテックスしか使えないはずの水のワイヤーやそれを応用した技を使える。
まるでもう1人の自分と戦っているようだ。あいつはピンチの時に駆け付けると言っていたが、果たして間に合うのだろうか?
「とりあえず、夏凛を後ろに下げましょう。丹羽、戦闘はできないって言ってたけど、抱えて運ぶくらいはできるでしょ」
「もちろんです」
「友奈、アタシと一緒にあの水瓶座をここで釘付けにするわよ」
「了解です。風先輩!」
風の指示に2組に分かれ、行動を開始する。
風と友奈は水瓶座へ攻撃を。丹羽は夏凛を抱え東郷のいる後方まで後退を。
スマホを起動し、樹と東郷に連絡を取る。
「犬吠埼さん、東郷先輩。三好先輩がやられました。命に別状はありませんが、一応安静な状態で休ませるために1度後退して安全圏まで運びます」
「ええ!? 夏凛さんが?」
「了解。こちらもできるだけ星屑の掃討をして道を作るわ」
丹羽の報告に樹の驚く声と冷静な東郷の言葉が返って来た。
さすが東郷さん。こんな時でも冷静だ。
これが夏凛じゃなくて友奈だったら前線まで来て満開してバーテックスを皆殺しにしようとしていただろうが。
切り札を使ったことで、精霊のパワーアップ要素がしばらく使えない。そのため丹羽は変身前の能力のまま移動しなければならない。
もっとも人間ではなく強化版バーテックス人間である丹羽は普通の人間よりも強く作られているので、あまり問題はないが。
東郷の指示する通りに進むとそこには星屑は存在せず、戦闘の空白地帯のようだった。おそらく東郷が狙撃して道を作ってくれたのだろう。
しばらく進むと、ワイヤーで星屑をからめとりエグイ方法で切り裂いている樹の横を通り過ぎる。
「丹羽くん、夏凛さんは?」
「大丈夫! さっきも言ったけど命に別状はない」
言葉を交わしつつもバーテックスを切断する手は止めない。細切れになった星屑がどんどん消滅していく。
さすが死神ワイヤー。とても数十分前まで震えていたとは信じられない。
「気を付けてねー」と笑顔で手を振っているが、その横では進攻しようとしていた星屑がどんどん細切れになっていく。
絶対彼女を敵に回さないようにしよう。改めて心に誓う丹羽だった。
「よし、夏凛は丹羽に任せれば大丈夫ね。行くわよ友奈!」
「はい、風先輩!」
勇者部前衛2トップの2人は目の前の巨大バーテックスを見上げる。
丹羽はあれを7体の巨大バーテックスが融合した水瓶座だと言う。
その言葉通りセッカに教わっていた他の巨大バーテックスの攻撃を使ってきたし、セッカが言っていた水瓶座の攻撃とは違う攻撃方法で丹羽を翻弄していた。
だが丹羽の切り札のおかげで水球を1つ破壊できたし、体躯の一部も破壊できた。しかも地面から近い玉すだれのようなしっぽの部分もからめとり攻撃不能にしてくれたのだ。
これならアタシたちも戦える!
「行くわよ! 女子力斬り!」
風は巨大化した剣を水瓶座に振り下ろす。それを水瓶座は3つの水球のうち1つで防いだ。
「友奈、行っけぇえええ!」
声とともに友奈が風の振り下ろした剣の上を走り、上半身へと向かう。狙うのは丹羽が切り落とした金属質な黄色い角の生えた連なった頭部。
「勇者パーンチ! パンチパンチパンチ!」
友奈の必殺技である勇者パンチラッシュが水瓶座を襲う。丸い頭部はひしゃげ、金属質なもう片方の黄色い角も傷つき折れそうだ。
「勇者キーック!」
パンチの後に繰り出された渾身の蹴りに、金属質な角が折れて轟音を立てて樹海に落ちる。
さらに追撃しようとした友奈だったが、腕に巻き付いた水の蛇に止められた。
「ひゃ、冷たい!?」
蛇は腕だけでなく足やスパッツの上から太ももにも絡みつく。
もしこの場に東郷がいたら「おのれバーテックス! うらやま…もといけしからん!」と声を上げていただろう。
「友奈! 待ってて、今助ける」
水の蛇にからみつかれ身動きが取れない友奈を助けようと風がジャンプして蛇を断ち切ろうとする。
だが想像以上に水の蛇は固く、逆に弾かれ隙を作ってしまう。
「しまった!?」
バランスを崩した風を水瓶座は容赦なく攻め立てる。水球から蛇が出現し友奈と同じように足に巻き付いてくる。
「くっ」
これではミイラ取りがミイラだ。助けるつもりが逆につかまってしまうとは。
とそこで風は上半身のゼリーのような部分にあったはずの丹羽が斧で傷つけた傷が見当たらないことに気づいた。
よく見ると切り落とした金属質な黄色い角も少しずつだが元の形になろうとしている。
こいつ、ひょっとして再生している!?
敵の化け物ぶりに戦慄する。ここは1度退却して皆と作戦会議するべきか。
だがつかまったままではそれも困難だ。何か打開策はないか?
「あの水球は水で満たされていますから、普通に怪音波を訊くより効果が強いんですよ。潜水艦のソナーに対する爆雷みたいなもんです」
その時丹羽が言っていた言葉を思い出す。
例えはよくわからなかったが、水に音響兵器がきくということは…。
風は腰に下げたバッグから大赦の開発部が作った振動音波兵器を取り出す。
風達が持っているのは片手で使えるようにと極限まで小型化されたものが1つ。対魚座用の大型のものは東郷に預けていた。
水の蛇が上半身まで来て腕が使えなくなる前に風は腹筋を使い起き上がると水球に向かって振動音波兵器を突き刺す。
が、スイッチを入れても点滅するだけで爆発しない。それどころか水球は突き刺さった異物を取り込もうとどんどん水球の中に取り込んでいる。
不発か?!
大赦め、不良品よこしやがってと風が思っていると点滅が止まり、緑の色からオレンジに代わり、ピーピーと警告音のようなものが聞こえだす。
次の瞬間、水球が震えた。
水瓶座も予想していなかったことなのか、相当混乱しているようで友奈と風が放り投げられ樹海に落ちる。
なんとか転がりながら受け身を取って見ると水球の表面を蛇のようなものがうごめき、そこから次々と星屑が吐き出されていた。
「何よ…結構役に立つじゃない」
魚座用の武器だったが水瓶座にも効果はあったらしい。同じように転がり落ちた友奈の無事を確認するとまだ息のある星屑を斬り伏せる。
次は水瓶座本体を、と剣を振るおうとした風に向かい、夏凛を閉じ込めた水球が放たれる。
なんとか避けたところを今度は大きな火球が迫ってきて、慌てて転がるように避けた。
水球と火球がぶつかり、大量の水蒸気が発生する。普通の人間なら火傷間違いなしの高温の蒸気に精霊バリアが発動し、何とか風は無事だった。
「風先輩、大丈夫ですか?」
周囲に水蒸気の煙幕が広がる中、友奈が声を出してこちらへ向かってくる。
「大丈夫、犬神が守ってくれた。それより気を付けて、周りが見えないからこの隙に敵が攻撃してくるかも!」
風の言葉に友奈も構え、緊張した時間が過ぎる。
だが、水蒸気の煙幕が晴れると2人は目を点にした。
先ほどまで自分たちが戦っていた巨大なバーテックス、水瓶座が影も形もなく消えていたのである。
精霊「ウタノ」
モデル:覚+白鳥歌野
色:白(バーテックス専用)
レアリティ:SSR
アビリティ:「我こそは農業王」
効果:ATK+30%。敵撃破時攻撃範囲0,1%ずつ上昇(最大100%)。
花:「オレンジユリ」(花言葉は華麗、愉快)
髪が白いこと以外はゆゆゆいに出てくる西暦時代の諏訪の勇者白鳥歌野のSD姿そのもの。
勇者の力の欠片である英霊碑を取り込み生まれた人型精霊。
本人と同じように英語と日本語が奇妙に混じったルー語を使いこなし、みーちゃんが大好き。
基本何をするのも一緒で、彼女を呼び出した場合呼んでもいないのに一緒についてくることも多い。
植物の成長を促進する能力を持っており、土いじりが大好き。土地を与えれば勝手に畑づくりをしだす。
変身した丹羽と一体化すると白い勇者服に黄色いラインが入り、武器の鞭でバンバン周囲にいる星屑を倒していく。
ゆゆいと同じく高火力紙耐久なので主に雑魚的討伐用形態。要するに殴られる前にヤる。
必殺技は鞭を使った超範囲攻撃。
切り札:精霊を自身の内に取り込み、爆発的な能力の向上をさせた状態。
丹羽がこの状態になると白い勇者服にそれぞれの精霊に対応した色、赤、水色、紫、黄色、緑の5色のラインが入る。
武器も両手の斧だけでなく全勇者の武器を使うことができて精霊の能力も重複して発動する。
要するにスミの攻撃力、ナツメの攻撃スピード、セッカのクリティカル、ウタノの範囲攻撃、ミトの味方へのバフが発動するのだ。
ただし人型の精霊型星屑という精霊型星屑より強いものを取り込んだせいか、1度使うとしばらく精霊との融合はできず、武器も呼び出せない。
これは人型精霊型星屑が普通の精霊型星屑より大量の神樹の体液を取り込んで生まれたのが原因だと思われる。
一定時間経過すればまた精霊と融合し、切り札も使えるが丹羽いわく能力は勇者の満開には及ばないらしい。