詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
 私、アクエリアス・スタークラスター!
 結城友奈は勇者であるっていうアニメで侵略者側の天の神サイドとして神生を始めたんだけど。
 この世界、ダメージを受けると御霊にもフィードバックしちゃうリアルを追求したものみたい。
 痛いのは嫌! 神生はできるだけ安全に楽しく過ごしたい。
 だから防御極振りで回復スキルにスキルポイントを全部使ってたんだけど、素早さは遅いから同胞のジェミニからはノロマ、いじわるなピスケスからは臆病者なんて言われてます。
 でも、共食いしている星屑を見て私閃いたの。攻撃手段がないなら食べちゃえばいいんだって!
 こうして人型のバーテックスの攻撃で弱っていた皆を食べて、いろんなスキルを得た私は無敵の存在になって敵の勇者たちを倒すために立ち向かったんだ!
 私たちの侵略を阻む勇者たちめ、絶対倒してやるんだから!
 次回、いきなり最終話!? アクエリアス・スタークラスターの最期。
 え、私のお話ってこれで終わり!?


「切り札」は君の中

 アクエリアス・スタークラスターは星屑へと次々と水のワイヤーを星屑へと伸ばし、自分の水球へと取り込んでいった。

 もっと強く、もっと堅固に。

 あの人型のバーテックスは勇者の攻撃をものともしなかった。

 それを自分が再現すれば勇者たちになど絶対に負けないはずだと。

 先ほど黄色い勇者の使ったタウラスの能力のような武器には驚き思わず取り込んだ星屑を吐き出してしまったが、次はそうはいかない。

 あの程度の攻撃ならばもう耐えられる。そして忌々しい勇者から受けた傷もほぼすべて治っていた。

 あとは念には念を入れて勇者たちをすべて倒してから神樹の元に向かい、破壊すればいいだけ。

 だが人型のバーテックスを一方的に切り刻んでいた勇者の存在は無視できるものではなかった。

 ここにいる6人の勇者はそれよりも弱く、アクエリアス・スタークラスターが本気を出せばすぐに倒せたが念には念を入れる。

 より強く、だれにも負けないように。

 自分たちを倒したあの人型のバーテックスにさえ。

 やがて体躯は充分に成長した。蛇状の水の触手は万を超え、伸ばそうと思えばここから樹海の外にだって届かせられる。

 これならば、誰にも負けない。

 アクエリアス・スタークラスターは慎重な性格であった。

 そして注意深く相手を観察する眼を持っている。

 だからこそ人型のバーテックスの水のワイヤーを使ったスキルを見よう見まねで覚えて自分のものとし、勇者たちの能力を把握して戦闘を有利に進めることができた。

 あの白い勇者の一瞬の爆発力には驚いたが、それ以来攻撃してこないところを見ると何らかの制限があるのだろう。

 ピンクの勇者は打撃攻撃を主としている。水の防御壁で守られた今ならその攻撃は無意味だ。

 黄色の勇者は剣を使っていて唯一この水の結界を切り裂ける者だと見受けられたが、星屑を取り込んで何重にも水のワイヤーで編み込んだこの水の防護壁には傷1つつけられないだろう。

 青い勇者は銃を使うようだ。だがこれだけ水の厚みがあれば自分に届く前に銃弾は止まる。

 赤い勇者と緑色の勇者は分析するまでもなく戦闘不能にさせた。物のついでだったが、不意打ちはうまくいったと内心で安堵する。

 慎重すぎる性格ゆえか、同じ星座級からは臆病者と言われていたことを思い出す。

 私は臆病者ではない。ただ自分を害する確率がある存在をつぶしていき、安全に勝利するのが好きなのだ。

 だからジェミニのように生き急いでいないし、タウラスのようにその防御力にかまけてのんびりしていない。

 アリエスのような常に震えて何を考えているのかわからないのは本当に理解できないし、リブラのように気分屋で戦闘スタイルを変えるわけではないのだ。

 そして自分を臆病者というくせに常に隠れて不意打ちすることしか考えていないピスケスと、最強という称号に胡坐をかき傲岸不遜なレオとも違う。

 最後まで生き残ったのは自分だ。安心と安全を愛する自分こそ、生き残るのにふさわしい。

 だから同胞である6体の星座級を取り込み、その能力を自分のものとしたのだ

 より自分が安心して戦えるように。より安全に敵を倒せるように。

 だから敵から学ぶことがあればじっくりと観察し、姿を隠すことも(いと)わない。

 たとえ周囲から臆病者、卑怯者とののしられても。己の安心と安全に勝るものはないのだ。

 そんなことを考えていると、神樹を守る勇者たちが現れた。

 その中には倒したはずの赤い勇者と緑の勇者もいる。死には至らなかったかとアクエリアス・スタークラスターは反省する。

 安心と安全に固執するあまり、アクエリアス・スタークラスターは攻撃が苦手だった。そういうのはレオやピスケスの役目だったからだ。

 だが、自分1体となるとそういうわけにはいかない。今度こそ確実に安全に消滅させよう。

 たしか勇者のもとになった人間は息ができなければ死ぬらしい。ならば蛇の触手でからめとり、ウォータープリズンでどのくらい閉じ込めるべきだろうか?

 どれくらい待てば安心できるだろう。少なくとも骨になれば動物というのは動かないと聞く。ならばそれまで待てばいいのか。

 さっそく敵である勇者に向けて蛇状の触手を伸ばす。

 が、それは赤い勇者の2振りの刀により防がれた。水を切り裂くのではなく流れる方向を誘導し、いなすという方法に狙いがそれる。

 1本では安心できなかった。2本、いや3本…いやもっとだ。

 15本の触手を赤い勇者に向けて放ち、動きを封じる。

 その触手に向けて銃弾が放たれた。青い勇者だ。

 だが無意味。自分には届かない。安心できる。

 あの勇者は放っておいても安全だ。今はこの安心できない赤い勇者を倒さなければ。

 とそこで別方向からも2人の勇者が自分に迫っているのに気付く。桃色と黄色の勇者だ。

 こざかしいと思いながらそちらにも蛇状の触手を放つ。特に黄色い勇者は危険だ。倍の30本の触手で動きを封じなければ安心できない。

 この時アクエリアス・スタークラスターは自分の安全を脅かす勇者たちの襲撃に躍起になり、触手を放ち応対していた。

 だから気付かない。残りの緑の勇者が何をしているかなど。

 緑の勇者のワイヤーによって投げ飛ばされた白い勇者が頭頂部から自分のもとに迫ってきていることに。

 っ!?

 間一髪、飛んできた白い勇者を蛇状の触手がからめとる。

 よかった。自動的に自分に近づく者は迎撃するように設定していて。これならば安全だ。

 この勇者も自分を傷つけるには至らない。安心――っ?!

 突如自分を襲った衝撃にアクエリアス・スタークラスターは驚く。

 あれは、あの黄色い勇者が突き刺した大きい音がする武器?

 あれは安心できない。自分にとって危険なものだ。

 排除しなければ、排除しなければ。

 アクエリアス・スタークラスターは逃がしてしまった白い勇者を捕まえようと何十本、いや、100を超える蛇状の触手を向かわせる。

 それが白い勇者の狙いだとも知らずに。

 やがて触手にからめとられ、自分の中に入って来た白い勇者を確認する。

 こいつはなんだ? 調べる。安心できるまで。

 武器は? ない。持っていたはずの斧はない。安全。

 息は? している。だけど大きな気泡が出た。もっと暴れさせて気泡が出なくなるまで触手で振り回さなければ。

 自身を守る水の中で大きく振り回し、そのたびに白い勇者の口から気泡が出る。

 もっと、もっともっと。安心じゃない安心じゃない。

 やがて気泡が出なくなる。よかった。これで安心できる。

 蛇状の触手を放し、水の中で浮かべる。あとは骨になるまで待つだけ。

「離したな」

 その時白い勇者が目を開き、自分に話しかけた気がした。

 馬鹿な!? あいつは息をしていなかったはず。水は自分の体内そのもの。この中ではどんなことだってわかる。

 そいつが息をしていないのも、心臓が動いている音がしていないのも。

 と、そこでアクエリアス・スタークラスターは気付く。こいつの心臓は最初から聞こえていただろうか?

 だが、そんな疑問は次の瞬間受けた衝撃に消し飛ぶ。

 振動音波兵器。対ピスケス用の大型版。

 樹海の地面に潜った大型バーテックスすら昏倒させるような威力の兵器にさしものアクエリアス・スタークラスターも無事とはいえず、本体を守る水の防護壁がはがされていった。

 

 

 

「無理無理、無理だよそんなこと!」

 丹羽に作戦を説明された樹は必死に手を振り拒否する。

 樹の役割は作戦の要ともいえる部分だった。もし自分が少しでもミスしたら計画は失敗する。

「そんなことありません。犬吠埼さんの精密なワイヤー捌きならできます!」

 だがそんなことはお構いなしに丹羽は言ってくる。それに2人の先輩も。

「たしかに、やってみる価値はあるかも」

「私も樹ちゃんなら任せられるわ」

 夏凛と東郷の言葉に、樹は困惑する。一体この人たちはどれだけ過大評価しているんだ。

 樹の脳裏に水瓶座に跳ね飛ばされた瞬間の出来事がフラッシュバックする。

 さっきは満開すればパワーアップして大丈夫だと思ったからあんなことが言えたが、今のままでは…と樹の心に弱気の虫が顔を出し、巣食い始めたのだ。

「樹、頑張りなさい。トチってもお姉ちゃんがフォローしてあげるわ」

「ファイトだよ! 樹ちゃん」

 さらに姉ともう1人の先輩までこの作戦に賛成のようだ。

 うう、周りに味方が1人もいない…。

「犬吠埼さん、犬吠埼さんは自分を過小評価しすぎです。いったいどれだけの星屑がその正確無比なワイヤー捌きで消滅したと思ってるんですか?」

「それ今関係ないよね!?」

「関係大ありです。蠍座に向かって放り投げた時と一緒ですよ。あの時みたいにぽーんと」

「あれは友奈さんがいたから! 私の筋力で丹羽くんを投げられるわけないでしょ!」

「いや、普通にできるわよ」

 樹の言葉に夏凛が答える。

「勇者システムで肉体能力は飛躍的に向上してるし、話を聞いた限りじゃ正確無比なワイヤー捌きじゃないの。むしろ樹にしかできないわよ」

「でも、でも…」

 自分を期待する周囲の評価に、樹は否定の言葉を言おうとするが声に出ない。

 みんな自分を過大評価しすぎだ。自分はいつも姉の後ろから様子をうかがっているような子なのだ。

 そんな自分が何を…。

「そうですか…。じゃあ第1段階は犬吠埼さん抜きでやりますね」

「え?」

 丹羽の言葉に樹はうつむいていた顔を上げた。

「最初の俺の囮兼餌役は犬吠埼さんに放り投げられなくても、あいつに近づいて取り込まれれば問題ないわけですし」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 そのまま水の蛇状の触手があちこちから生えている水瓶座に向かおうとする丹羽を止める。

「まさか、そのまま行く気? 死んじゃうよ?」

「時間が経って精霊と融合して変身できるようになったから、多少は頑丈になりましたし大丈夫ですよ。腕か足が食いちぎられるかもしれませんけど全然気にしないでください。ええ、犬吠埼さんが手伝ってくれれば傷1つなくできる作戦ですが、作戦には犠牲がつきものですし」

 嫌な言い方だ。樹が協力しないと怪我をするのはお前のせいだと言っているようだ。

 いや、その通りなのだが。

「どうせお姉ちゃんに頼らないと何もできない犬吠埼さんには荷が重かった作戦でしたしね」

 その言葉にカチンと来た。

「今、なんて?」

「家事も洗濯もぜーんぶお姉さんに頼りきりで、学校では頼りになる妹って感じですけど実際は部屋は汚い。料理はできない。休みの日は昼まで寝る。そんなダメダメな犬吠埼さんには無理な作戦でしたね」

「ちょっと、丹羽君。それは言い過ぎ」

「やってやるよ!」

「え、樹ちゃん?」

 丹羽の煽るような言葉を止めようとしていた東郷は、樹の言葉に目を点にする。

「丹羽くんだって女の子同士のイチャイチャが好きでそれ以外何もできないくせに! わたしのほうができるんだから!」

「へぇ~。本当にできるんですか?」

「できるよ! 全部、完璧に、ちゃんとやってやる! その上でお姉ちゃんに頼らないと何もできないって言葉は撤回してもらうからね!」

「ええ、もちろん。できるものなら」

 いつものかわいい引っ込み思案の後輩の姿からは考えられない怒った姿に東郷が困惑していると、夏凛に肩を叩かれる。

「ま、同級生同士だからこそのプライドっていうか、負けたくないって思いがあるんじゃないの? 多分だけど」

「そうなのかしら?」

「あんただって友奈とたまには口喧嘩することはあるでしょ。そういうもんよ」

「ないわ」

「え?」

「友奈ちゃんと口喧嘩なんてしたこと、ないわ」

「あ、そう…」

 一点の曇りもない眼で言う東郷に夏凛はちょっと困惑する。

「じゃあやるよ、行ってこーい!」

「「あ」」

 作戦開始の合図を前に丹羽をワイヤーで縛り、放り投げた樹に目を点にしていた2人だが、すぐに作戦を開始する。

 夏凛、風、友奈が3方向から無数の水の蛇の塊と化している水瓶座に迫る。

 だがすぐに水瓶座から伸びた無数の蛇状の触手につかまり、身動きが取れなくなった。武器で切り落とそうとするが、丈夫過ぎて切断できない。

 ここまでは計画通り。

 次の瞬間、水瓶座本体を覆う水の塊が大きく振動した。

 蛇状の触手が生えていた水は地面に落ち、ゲル状になって樹海の上を這いまわっている。

 おそらく星屑を大量に吸収したせいでただの水とは違う別の物質になっているのだろう。

「夏凛さん!」

 樹のワイヤーが夏凛に巻き付き、水瓶座本体に放り投げられる。その時にはもう体にまとわりついていた水でできた蛇状の触手などとっくに解けている。

「さあ、見てなさい! これが完成型勇者の戦いよ!」

 両手の2振りの小太刀を上半身のゼリー状の体に深々と刺す。

 魚座用の振動音波兵器が効いているのか、水瓶座本体にもダメージが通る。

「結界作成完了! 封印開始!」

 青いゼリー状の上半身から出てきた御霊に夏凛は2振りの刀を突き刺し、切り刻む。

「思い知れ! これがあたし、三好夏凛の――完成型勇者の実力よ!」

 言葉とともに御霊を滅多刺しにして消滅させる。これでこいつが吸収した御霊を1つ破壊できた。

「たしかに、丹羽君の言うとおりね」

 そして頭部には樹のワイヤーで運ばれた東郷がいる。

「この距離ならバリアは張れない!」

 そのきれいな顔を吹っ飛ばしてやるぜ! と言わんばかりに東郷の武器である銃が火を噴く。

 2回満開した勇者である東郷のゼロ距離射撃にさしもの水瓶座も無事とは言えず、ダメージを受ける。

 その水瓶座を囲み、風、友奈、樹が三角形に並び祝詞を唱えて封印の儀を開始した。

 すると東郷が破壊した頭部部分から御霊が出現する。

「神罰招来!」

 御霊を東郷の銃撃が容赦なく襲う。1撃、2撃と受けるごとに御霊はへしゃげ、ついには破壊された。

 これで2つ。

 その後も夏凛が結界を作成し封印の儀を行い現れた御霊を破壊し、東郷がゼロ距離射撃でダメージを受けた部分から出てきた御霊を今度は樹のワイヤーが回収し、友奈の拳と風の剣が破壊していく。

 これで4つ。7つあるうちの約半分を破壊することができた。

『☡§ΣΛΦμ!?』

 水瓶座が突如暴れだし、体躯に張り付いている東郷と夏凛を振り落とそうとする。

「おとなしく、しなさい!」

 樹がワイヤーで巨体を抑え込む。その間に夏凛がもう一度封印を行い出てきた御霊を東郷と協力して破壊しようとする。

 だがこの時、樹海の地面に落ちた水に異変が起こっていた。

 ゲル状になった水瓶座の水球から繊維のような触手が次々と絡み合い、何かの形になろうとしている。

 やがてそれは二足歩行となり、2つの腕を持ち人型になった。武器の剣、2丁の斧、拳を持つ勇者たちそっくりの姿となっていく。

「え、あれって…私?」

「あれ、丹羽とアタシと友奈じゃないの!?」

 樹海の地面に落ちた水瓶座を覆っていた水から次々と風、友奈、丹羽の姿に似た水人形が現れて勇者たちに襲い掛かる。

「なんなのよこいつら!? 本物ほど強くないけど固い!」

「しかも数が多いです」

「自分と戦うことなんてなかなかない経験だから、わくわくするよ」

 苦戦する犬吠埼姉妹に1人ウキウキする友奈。

「東郷、下がやばくなってきたからこっちも応援に」

「駄目よ夏凛ちゃん。私たちは先に御霊の破壊を優先しましょう」

 御霊を破壊する手を止め風と樹と友奈の応援に行こうとする夏凛を止めて東郷が言う。

 確かに数は多いみたいだが水瓶座本体を倒してしまえば動きは止まるかもしれない。

 それにしてもずいぶん仲間を信頼しているのだなと夏凛は思う。これも勇者部の絆というものだろうか。

「だって、偽物とはいえ友奈ちゃんを撃つなんて…私にはできない!」

「あんたの個人的な理由じゃないの!」

 ツッコミをしていると水瓶座の上半身の中央の燃えるように赤い部分が光り、周囲が高温となる。

「やばっ、離れるわよ東郷!」

 夏凛は東郷を抱え、樹海の地面に降り立つ。

 それを追いかけてきた火球をよけながら走り回る。その火球に巻き込まれ数体の水人形が蒸発した。

「あ、御霊が!」

 見ると夏凛と東郷が破壊しようとした御霊が水瓶座の中に吸収されていく。どうやらダメージは与えたが破壊はできなかったようだ。

「逃がすかぁ!」

 その時魚座用の大型振動音波兵器を水瓶座を覆う水の中で発動させた丹羽の声が聞こえた。

 無事な様子にホッとする。最初作戦を聞いた時は自分も巻き込まれる囮役に危険だと皆が止めたのだが、聞く耳を持たなかったのだ。

 これは自分にしかできない役目だと。

 精霊を内に取り込むことで風達神歴勇者より丈夫な肉体になっているから、この役目は自分にしかできないという丹羽の言葉を最終的には信じ、送り出した。

 丹羽の声の後、水瓶座の巨体が宙に浮く。言葉から察するにまた水蒸気の煙に紛れて樹海の中に潜ろうとしていたらしい。

「今です、東郷先輩!」

 水蒸気が晴れ、全身が光っている切り札を発動した丹羽の姿が見える。手にはヌンチャクを持っており、勇者服には4色のラインが入っていた。

「行くわよスミちゃん、神罰招来!」

 スミを丹羽と同じように身の内に取り込んだ東郷の言葉に、身体が光を帯びる。

『行け、スミー!』

 そう、これこそが丹羽の立てた作戦の最終目標。

 満開を使わず、切り札を使った攻撃による水瓶座への攻撃。

 切り札は使う人間に穢れをためるというデメリットがあったが、1回だけなら影響は少ないし体の一部を失う満開よりはマシだろう。

 それに2回満開した東郷の攻撃力は正直勇者部の中で1番高い。これに人型精霊の中で1番攻撃力の高いスミの力を上乗せすれば、その威力は推して知るべし。

 これで駄目なら本当に満開を使うしかないが、どうだ!?

 東郷の銃から放たれた精霊の力を上乗せした銃弾が、光のようになって水瓶座を射抜く。

 その光が消えた後、上半身のゼリー状の部分にあった赤く燃える部分は消失していた。

 好機!

 丹羽は飛び立つと自由落下してくる水瓶座の体躯にヌンチャクを叩きつける。それだけでなく虚空から槍を呼び出し串刺しにせんと次々と放ち穿(うが)つ。

「オラオラオラオラオラァッ!!」

 水瓶座はされるがままだ。勇者をコピーした水人形を使い自分を守らせようとするが、勇者部の皆がどんどん倒していくのでなかなかうまくいかない。

「やっちゃいなさい、丹羽!」

「こっちは任せて!」

「国防魂を見せるのよ!」

「丹羽くん、あと一息!」

「あんたが立てた作戦なんだから、最後までやり切りなさいよ丹羽!」

 風、友奈、東郷、樹、夏凛、勇者部全員の声が背中にかかり、丹羽を突き動かす。

 切り札が切れる10分間、丹羽は攻撃を続けた。

 やがて水瓶座の巨体はボロボロとなり、2つの御霊を吐き出す。

 それと同時に水人形も形を保つことができなくなったのか消滅する。

 全力を使い切り、肩で息をする丹羽の頭に風の手が乗せられた。

「お疲れ。あとはアタシたちにまかせなさい」

 その言葉を最後に、丹羽の意識は闇に沈む。

 次に目を覚ましたのは3日後の四国の病院の上。

 見舞いに来ていた勇者部全員に「心配させるんじゃないわよ馬鹿!」とすごく怒られる。

 そこで初めて丹羽は本編のように誰も満開することもなく、勇者部が勝利したという報せを受けたのだった。

 

 

 

 おいおい、本当に満開しないで倒しやがったよ。

 四国の壁のすぐそばまで来ていた人型のバーテックスは、同じ人格から生まれたもう1人の自分が起こした偉業に驚嘆していた。

 アクエリアスの異変に気づいてから香川の1番近くにある広島県のテラフォーミングをサーバー星屑に任せて急いできたが、戦いはもう終わっている。

 しかも勇者部全員が満開しないで全員生存という最良の結果を残して。

 自分でもできていたかわからない結果を残した丹羽を誇らしく思うと同時に、うらやましく思う。

 ああ、お前は俺のできなかったことができたんだなと。

 それにしても封印の儀とは考えたものだ。

 アニメ本編では満開の印象が強すぎて忘れられているが、バーテックスからしたら無理やり自分の心臓を不思議な力を使って無防備な状態で外に出されるようなものだ。チートってレベルじゃない。

 それによってアリエスの御霊を破壊できたのが大きかった。あれで再生能力を失ったアクエリアス・スタークラスターは逃げの利を失ったのだ。

 そしてスミと一体化した東郷による切り札状態での攻撃。レオの御霊を破壊できたのは豪運としか言いようがない。

 本編では規格外に巨大な御霊を持ち御霊だけで活動できる唯一の巨大バーテックスだ。あれを破壊するには満開状態でなければ無理だっただろう。

 だがアクエリアスに吸収された状態だったおかげで東郷の銃撃で破壊することができた。まあ、切り札というパワーアップ要素も必要不可欠だったろうが。

 あとは逃げようとしたのを阻止できたのも大きい。もし最後にピスケスの御霊を残したアクエリアスを逃がしたら厄介なことになっていただろう。

 アクエリアスは今回の反省を生かし、今度は御霊なしの星座級を吸収しより強く、より安全に勇者たちを倒せる姿へと変化して襲い掛かってきたはずだ。

 そうなれば自分が参戦していても勝てたかどうか…。

 思わず背筋が寒くなる。今回の戦い、最悪の事態も起こりえたのだ。

 やっぱりあいつの言う通り、9月までここにいようかなぁ。

 だが、今回は何とかなったんだ。次もきっとなんとかなるさ。と人型のバーテックスは思い直す。

 それに最後のレオスタークラスター戦には自分も手伝う気でいる。よほどのことがない限り安全だろう。

 さて、と。せっかくここまで来たんだ。なにかしていくかな。と人型のバーテックスは考える。

 そうだ! ここに置いて放置したままだったカルマートをちょっと改造してあいつが自分1人でも体系変化できるようにしておいてやろう。

 いちいちこっちから出向いて週1で変更するの面倒だと思っていたのだ。

 さて。そうと決まったらここをこうして、アジタートを生み出す部分をこう変えてと。

 よし、完成!

 これであいつが四国で普通に暮らせる準備はできた。

 自分も広島のテラフォーミングに専念できるというものだ。

 と、そこで人型のバーテックスは結界の中の樹海を観察し、驚きの光景を目にする。

 なんと、東郷美森が歩いてみんなのもとへ向かっていたのだ。

 変身した東郷は散華の影響で追加されたパーツで移動の補助を受けていたはずだ。無意識だろうが短い距離を自力で移動していたことに驚く。

 まさか、切り札でスミを身体の内にいれた影響か?

 だったら、もしかしたらそのっちも。

 新たな希望が見えてきた。やっぱりお前はすごいよ。俺。

 俺のできないこと、できなかったことを全部やっちまうんだから。

 とりあえずこの出来事は俺が報告するのが先か、あいつが気付くのが先か。まあ、十中八九あいつの方が先に気づくだろうが。

 だとするとすぐ俺と同じような結論にたどり着き、実行するだろう。

 そうすればみんなが幸せな世界になるはずだ。あとは銀ちゃんが目を覚ますだけだな。

 人型のバーテックスはアクエリアス・スタークラスターを倒した5人の勇者と1体のバーテックスの勝利をたたえ、その場を後にする。

 丹羽明吾というバーテックスはきっと、これからの自分とこの物語にとっての希望となる。

 その確信を抱いて。

 




 アクエリアス・スタークラスター戦はこれにて終了です。
 序盤の山場は越えたのであとは日常回だけだな!
 それにしても人型のバーテックス、いい保護者感を出してますがそもそも水瓶座がヤベー奴になった原因はこいつなんですが自覚ありません。
 (+皿+)「物語による修正力ガー!」
 いや、きーみのせい 君のせい 君のせいだよ!
 ちなみ丹羽君は人間に擬態している変身前以外はバーテックスと同じように呼吸する必要もないし心臓も動いてないです。それだけは真実を伝えたかった。

 アクエリアス・スタークラスター第3形態(水人形)

 4つの水球と星屑が融合して敵対した勇者の姿をまねてアクエリアス・スタークラスターが作り出した人形。
 全身が水のワイヤーを編み込んだ筋組織でできているので、とても固い。だが風曰く本物よりは弱いらしい。
 1つの水球から生まれるのが6体。×4で合計24体の水人形が勇者たちに襲い掛かったが、アクエリアス本体が破壊されたので水に還った。
 ぶっちゃけこの水人形に勇者を任せて樹海をレオの炎で燃やせばこいつ勝てたんじゃね? と思わなくもない。
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