詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
みんな満開せずに戦いを終えて大団円。
作品きってのゆうみも名シーンを寝過ごして見逃すという丹羽、痛恨のミス。
スミの様子がなにかおかしい。東郷の足も回復の傾向が?
アクエリアス・スタークラスターを倒した勇者部の前に新たな強敵が現れた。
それは学生である以上絶対に避けられない強敵。
そう、期末テストだ。
といっても健康優良児と意外と成績優秀者しか集まっていない勇者部である。
夏凛は編入試験で満点を取ったほどの実力者だし風も最上級生だ。2人がかりで1年生や友奈の勉強を見てくれていた。
そのおかげで赤点を取る人間はいないと思われていたが…。
「東郷…あんた嘘でしょ」
夏凛は信じられないという目で東郷を見る。
東郷は成績優秀者だ。授業中教師に質問されてもすぐ答えられるほどで、小テストでも常に好成績を収めている。
ある1教科を除いて。
「ごめんなさい、友奈ちゃん、夏凛ちゃん、風先輩…でも、でも私は」
東郷は悔しさをにじませながら言葉を紡ぐ。
「やっぱり敵国語を使うなんてできない!」
「いや、東郷。英語のテストくらいちゃんとやりなさいよ」
中間に引き続き期末も白紙で解答用紙を出して赤点扱いされた東郷に、風が呆れて言う。
「ちゃんと傾向と対策というか、最低限の点数を取ることができるように暗記ポイントを書いた紙をアタシが作って渡したじゃない。アレどうしたの」
「食べました」
「え?」
「食べて血肉と変えました」
東郷の答えに残りの勇者部5人はドン引きする。いや、回答を暗記せずに食べるってどういうことなの…。
「アタシの作った回答集は未来の便利道具じゃないのよ?」
「東郷先輩の横文字アレルギー、ここまでひどかったんだ」
「うん、極端というか。歴史の点数は学年1位だったそうだけど」
「誰にでも向き不向きというものがありますからね」
「これ、そういう問題?」
上から風、樹、友奈、丹羽、夏凛の発言である。
「というか丹羽君、あなた同志じゃなかったの? どうして英語のテスト普通に受けてるの!?」
まるで普通に英語のテストを受けるのが悪いみたいな言い方だ。
「いやいや、東郷先輩。敵の暗号解読には相手の母国語を理解するのは必須でしょう」
「それはそうだけど…」
「それに俺、チャーチルとかセンチュリオンみたいな戦車好きだし」
ガルパンでは聖グロリアーナ女学院推しだったしな。と丹羽は思う。
日本の戦車は…ねぇ?
「この売国奴が―! 矯正してやる! 歯ぁ食いしばれ!」
「落ち着きなさい東郷。何のこと言ってるかわからないけど、丹羽を殴ってもアンタが赤点という事実は変わらないのよ!」
「そうだよ東郷さん。夏凛ちゃんと一緒に英語の勉強、がんばろ?」
丹羽の言葉に激昂し暴れていた東郷だが、友奈の言葉に渋々英語の教科書を開くが5分もたたず机に突っ伏す。
「無理よ、やっぱり国防精神の塊である私には英語は体が受け付けない。美しい大和言葉しか脳が受け付けないのよ」
「何言ってんのよこの国防馬鹿は」
英語に対し著しい拒否反応を見せる東郷に、夏凛は呆れとともに言葉をこぼす。
「東郷先輩、一応日英同盟だった時代もあるんですから一旦同盟国の言葉を覚えると思えばやりやすいのでは?」
「あんな無理難題を押し付けて貿易ふっかけてきて実利だけ奪っていくような不義理な国と同盟を結んだ覚えはない!(※あくまで東郷さんの個人的な感想です)それにあれは連合国の1つで敵よ!」
「丹羽、余計なこと言わないで」
「すみません、三好先輩」
手助けしようとした発言だったが、逆鱗に触れたらしい。
これは難航しそうだな…と考えていると何か視線を感じる。
見ると勇者部が部室にしている家庭科準備室の扉が少し開いており、誰かが覗いていた。
あれは…加賀城雀?
そこにいたのは左の胸にミカンのワンポイントがあるシャツと短いフレアスカートを着た私服姿の加賀城雀だった。
なぜゴールドタワーにいるはずの防人の彼女がここに? と思ったがそういえばと思い出す。
ゆゆゆいでもたしか雀が勇者部を訪れるエピソードがあったはずだ。
確か楠芽吹の章で勇者がどんな人間か気になって讃州中学勇者部を訪れた話をしていた。
たしか迷子の猫探しの活動に巻き込まれて…。
「丹羽くん? 廊下に誰かいるの?」
丹羽の視線が気になったのか、樹が訊いてくる。同時にドアの方でガタン! と物音がした。
「誰!?」
「あ、怪しいものではないですチュン! チュンチュン」
いや、充分怪しいだろ。と勇者部全員の視線が集まる。
ちなみに加賀城雀がチュンチュンと言うのはゆゆゆいからでくめゆ本編ではチュンチュン言わないらしい。
「実はあの…私は勇者部の噂を聞きつけて愛媛からやって来たんです!」
その言葉に勇者部全員が困惑する。
愛媛といえば四国にある香川県のお隣さんである。そのお隣の県から来たというのはどんな用事だろうか?
「勇者部の噂がついにほかの県まで! うんうん、誇らしいわ」
勇者部の名声がついに他県へと伝わったと思っている風はにっこにこだが、その前の雀はテストで悪い点を取った子供のように真っ青になっている。
うん、嘘だな。
本編でも防人の修練をさぼって興味本位で勇者部を覗きに来ただけだし、とっさに言った言葉なのだろう。
だがここでそれを指摘するのは野暮というものだ。
ゆゆゆいでこの後の流れを知っている丹羽は黙っておくことにした。
「それで、ご依頼は何でしょう?」
「え? 依頼?」
樹の言葉に雀は固まる。
きっと適当に言っただけで依頼の内容は考えていなかったのだろう。
「何でも力になるよ! 私たちは皆のためになることを勇んでやる部、『勇者部』だから」
友奈の笑顔と対照的に、雀の顔はどんどん青ざめていく。
「え、えーと。依頼…依頼ですよね。その、えーっと」
「もしかして男がいたら言いにくいこと? ごめん、気が付かなくて。丹羽、あんた廊下に出てなさい」
「わかりました」
夏凛の言葉に丹羽は椅子から立ち上がると廊下へと出る。
なんだかこっちを見た雀が助けを求めるような目をしていたが、グッドラックと心の中で祈りながらその場を後にする。
さて、この後校内の迷い猫が…こないな。
と、そこで丹羽は気付く。自分がいたら猫は来ないんじゃないかと。
前回の猫探しの依頼で自分が猫から恐れられる体質だということがわかった。だから校内に迷い猫がいるという依頼も必然的に発生しない。
しまった、知らないうちに原作介入してしまったとは。
どうしようか考えていると、ドアから夏凛が顔を出し手招きしていた。話が終わったということだろうか?
丹羽が改めて入室すると、椅子に座ったカチコチに緊張している雀がいた。
「えっと、依頼は訊けたんですか?」
「ええ。こちら加賀城雀さん。男性恐怖症を治したいらしいわ」
そうかそうか。男性恐怖症…ん?
あれ? たしか臆病を治したい、勇気を持ちたいって話じゃなかったっけ?
雀を見ると傍から見てもわかるほど汗をかいている。
こ、こいつまさか口から出まかせ?!
たまたま部屋を出る丹羽と目が合ったから利用できると考えたのかは不明だが、相談内容は丹羽が知るものとは変わってしまった。
「だとすると俺がいるのはむしろ邪魔では?」
「いや、あんたしかこの悩み治せないでしょ。というか、あんたがいないと始まらないわよ」
丹羽の言葉に夏凛がツッコむ。なるほど確かに。
「じゃあ、どれくらい男が苦手なのかちょっとチェックさせてもらうわね。まずは向かい合って立つ」
風の言葉に丹羽と雀は向かい合わせになる。
「これは余裕そうね」
「だったらもっと近づけてみましょう」
特に異常のない雀に東郷が提案する。
東郷先輩、あなた勉強中じゃなかったんですか?
丹羽の視線を受けても東郷はどこ吹く風だ。しかたなくこちらから雀の方に近づいていく。
1歩、2歩、3歩。進むごとに雀が追い詰められていくのを感じた。
おそらくどのタイミングで苦手というか考えているのだろう。男性恐怖症といっても軽度の物だとなぜ勇者部に相談しに来たんだということになるし、逆に触れるのも嫌! という重度の物だとこの後も勇者部部員たちに必要以上に構われるかもしれない。
ギリギリの「勇者部に頼んだおかげで男性恐怖症が治りました」のラインを脳内で模索しているのは明白だった。だから丹羽も彼女に協力することにする。
「どうですか、加賀城さん。結構近づきましたけど」
「え? あ、うーん。一応大丈夫。ちょっと怖いけど」
丹羽と雀の距離は1~2メートル。一般的なパーソナルスペースだ。
手を伸ばしても届かない距離なら安心できるだろう。
「じゃあ丹羽くん、ちょっとずつ近づいてみて」
「雀ちゃん、怖くなったら言ってね。私がぎゅってしてあげるから」
友奈の言葉に東郷が車椅子から立ち上がりかけた。
いいからあなたは英語の再テストに向けて勉強してください。
「あ、あはは~。うん、まだ大丈夫大丈夫」
「じゃあ1歩ずつ行きますね」
丹羽が一歩進むごとに雀の顔は青くなり、顔から吹き出す汗の量は多くなっていく。
なかなか真に迫った演技だ。というか実際に追い詰められているのかもしれない。
一体どこで本当のことを言えばいいのかと。
「っと、こんなに近くまで来たけど大丈夫ですか?」
「大丈夫雀ちゃん、顔真っ青だよ?」
「だ、大丈夫ですハイ。続けてください」
顔が真っ青な雀は男性恐怖症克服のため必死に我慢して頑張っている子に見えているのだろう。
現に同じような悩みを持つ樹も雀の姿を見て感銘を受けたのか目に涙がたまっている。
だが実際はこの場をごまかし逃げ出そうか考えているだけなのだ。
「あの、犬吠埼先輩。あまり追い詰めるのは彼女のためにならないんじゃ」
「そうね。ここまで頑張っただけでも結構すごいと思うわ」
「雀さん、すごいです!」
「頑張ったね、雀ちゃん!」
「苦手なのを我慢してここまでやるなんて、大したもんじゃない」
「い、いやあ。あははは」
口々に自分をほめてくれる勇者部部員たちの声に、雀はぎこちない笑顔を返す。
と同時に今が依頼達成ということにして逃げる絶好のチャンスだと気づき、雀は声を出す。
「じゃ、じゃあ依頼達成ということで。ありがとうございましたー」
「いいえ、まだよ」
「ここにきてあなたが出てくるんですか東郷先輩」
お礼を言ってこそこそと部室のドアへ向かおうとしていた雀に、東郷が待ったをかけた。
「加賀城さん。男が苦手なのに頑張るあなたの心がけ、立派よ。だから勇者部もできるだけの協力はさせてもらうわ」
「いや、東郷先輩。加賀城さんはさっきもう依頼達成って」
「ここで見捨てたら勇者部の名折れ。依頼を受けたからにはきちんと男性恐怖症を治して見せます!」
その言葉に丹羽以外の勇者部部員は拍手している。一方で雀の顔は青を通り越して真っ白になっていた。
ここら辺が潮時だろう。これ以上追い詰めるのはさすがにかわいそうだ。
「待ってください、東郷先輩」
さっそく雀の男性恐怖症を治そうとどうやって丹羽に触れさせようか他の4人と話し合っている東郷に、丹羽は待ったをかける。
「そもそも、男性恐怖症って治す必要あるんですか?」
その言葉に雀を含め全員の頭の上に? マークが浮かぶ。
なに言ってんだこいつ。治す必要があるからここに来たに決まってるのに。
「男性が恐怖の対象なら、女性だけの学校に通うとか女性だけの職場に就職するとかいろいろあるはずです」
「でも、雀さんは困ってるし」
「そこなんです。雀さん、あなたは本当に男性恐怖症で困っているんですか?」
「え!?」
唐突な問いに、雀はどうこたえていいかわからないようだ。そこに助け舟となる答えを出す。
「例えば臆病で自分を変えたいと思っている人間がいたとします。でもそれは1つの才能で、他の人間よりも危険を感知出来たり生き残れる能力があると言えます。同じように男性嫌いの加賀城さんも男性恐怖症というのも裏を返せば1種の才能なのでは?」
「それって、どんな?」
よし、友奈が食いついてきた。
「そうですね。男性がこうすると女性は恐怖するということを教えるアドバイザーとか、逆に女性が安心できるような商品開発とか、道はいろいろあると思います」
丹羽の言葉に雀はほへーとした顔で聞いている。いや、君が持ってきた相談だよ。
「とにかく、男性恐怖症だからと悲観することはないんです。それも1つの才能だと思って生かす道を模索する手助けを俺たちはすればいいと思うんですよ」
「なるほど…一理あるわ」
丹羽の言葉に東郷が考え込んでいる。あと一押しか。
「ちなみに加賀城さん。あなたの周囲に恐怖の対象となる男性はいますか?」
「え? いや、うちは女子校って言うか…女の子しかいない環境だから男の人はあんまり会うことはないかな」
「それでも男性恐怖症を治そうと思ったんですね。素晴らしい。そのきっかけはひょっとして恋愛事ですか?」
「うぇ?! 違う違う!」
「隠さなくてもいいんですよ。女だらけの環境にいて、胸がドキドキする同性ができた。でもこんなの変だ。やっぱり男の人と付き合おう。でも男の人は怖い。だから相談に来たんですよね」
雀の言葉を無視して丹羽は勝手に話を作り始める。
「でもね加賀城さん。俺はこう思うんですよ。女の子は女の子同士で恋愛した方がいいって」
「へ?」
耳を疑う丹羽の発言に、雀はフリーズする。
「違った。愛さえあれば性別や立場、関係なんか気にする必要なんてないって」
いや、今の絶対お前の本音だっただろと丹羽の趣味を知っている勇者部メンバーの冷たい視線が丹羽に突き刺さった。
「だから、女の子が女の子を好きになるのは全然おかしいことじゃないんですよ。むしろ健全です」
「そう…なのかな?」
丹羽の言葉に雀は何事か考えている様子だ。防人隊の中に意中の相手がいるのだろうか?
だとしたらそれは観測したい! くそ、身体が2つないのが恨めしい。
「そうです! もっと自分の中の想いを肯定してあげて! あなたの男性恐怖症は同じ悩みを抱く人間の気持ちがわかるアドバンテージ。一種の才能なんだからむしろ伸ばしましょう」
「そっか。うん、そうだね! 私がんばる!」
「じゃあ依頼は達成ということでいいですか?」
「え、あっ、はい」
にっこりと笑う丹羽に、雀は思わず返事をする。
よし、これで変にこじれることなく終わったな。
「ありがとうございました。なんだか胸のつかえがとれたような気がします」
「じゃああたし、ちょっとこの子を送っていくわ。東郷は風と英語の再テストの勉強してなさいよ」
お礼を言う雀をエスコートするように夏凛が扉に手をかけ振り向きながら言う。それに残りの勇者部メンバーは「はーい」と返事をした。
やがて廊下に出て歩き、来客用のスリッパを返す雀に夏凛は言葉をかけた。
「で、本当は何をしに来たのよ。防人の加賀城雀」
その言葉にわかりやすく雀は動揺する。
「さ、防人ってなんだチュン? わ、私わっかんないなー」
「あんたねぇ、一応あんたとあたしは同期なのよ。2回目の勇者候補選出の時も大赦で会ったし、知らないはずないでしょ」
夏凛の言葉に雀の目が点になる。
実力が伯仲していた隊長の芽吹ならともかく、自分のことなど勇者に選ばれた夏凛は憶えていないと思っていたのだ。
「え、三好さん私のこと憶えてたの?」
「憶えてるも何も勇者を目指して一緒に頑張った仲じゃない。当然でしょ?」
何でもないように言う夏凛に、雀は驚愕する。
「でも、勇者様は私たち捨て石のことなんて気にしていないと思ってたから」
「ちょっと! やめなさいよそういうの!」
急に怒り出した夏凛に「ぴっ!」と雀は何が逆鱗に触れたのかわからず困惑する。
「あんたたちのことを捨て石だなんて、そんな風に呼ぶ奴がいたらぶっ飛ばしてやる! あんたたちは間違いなくこの完成型勇者、三好夏凛と勇者の座を巡って競い合った最高の仲間よ。むしろ誇りなさい!」
「え?」
「それに防人隊の活躍はあたしの耳にも入っているわよ。すごいじゃない! あんたらが7体のバーテックスを発見してくれなかったらこの前の戦いあたしたちも危なかったかもしれないんだから。むしろ感謝しかないわ」
「ええ!?」
雲の上の存在だと思っていた勇者が自分たちの働きを褒めてくれるのに、雀は信じられなかった。
自分たちのことをそんな風に言ってくれるなんて、園子様か安芸先生くらいだと思ってたのに。
目の前の勇者の言葉に、雀は胸がくすぐったくなるのを感じた。
「それにしても、あんたがここに来るなんて…大赦の人に止められなかったの?」
「実はその…」
訓練をさぼり、讃州市を訪れたついでに勇者を見てみたいと讃州中学の勇者部の活動を観察していたことを素直に言うと、夏凛は青筋を立てる。
「まあ、正直に言ったからあたしから言うことは何もないわ。帰って隊長の楠芽吹に叱られなさい」
「そんな、後生です! 黙っててください!」
「あたしが言わなくてもあいつならとっくに気付いてるでしょう。諦めなさい」
「そんなー!?」
がっくりとうなだれる雀。それを見ながら夏凛は急にソワソワしだした。
「それでその…楠芽吹と弥勒夕海子は元気なの?」
おや? と雀は首をかしげる。
最後まで勇者の座を争った芽吹はともかく、言動が芸人にしか見えない弥勒さんとこの完成型勇者様はどういう関係なんだろう?
「えっと、メブは元気です。元気すぎて毎日のシゴキがきついくらい。弥勒さんは…逆に元気じゃないところを見たことがないなぁ」
「そう…よかったぁ」
それは雀が見ほれるほどかわいらしい安堵した笑顔だった。
「あの~、2人との仲をお訊きしても?」
「友達…いや、ライバルだと思っているわ。最も向こうはそうは思ってくれてないかもしれないけど」
え、あの弥勒さんとライバル?
常にゴーイングマイペースで戦闘では後先考えずに突っ込むのに?
「えっと、メブはともかく弥勒さんは違くないですか? あの人基本言動芸人ですよ?」
「あー、あの人相変わらずなの? そっか。楠芽吹が隊長でいろいろ変わったのかもしれないと思ってたからてっきりあの人も」
「変わってないと思います。というか、あの人が変わる姿が思い浮かびません」
雀の言葉に夏凛は相変わらずなのねと笑っている。部室で見たツンツンした態度からは想像できない。
「楠芽吹はすごいわね。防人隊を誰1人失うことなく全員帰還させるなんて…。多分、あたしが同じことをやろうとしてもできないと思う」
「そうです! メブはすごいんですよ!」
自分たちの隊長を褒めてくれる勇者の言葉に、雀も嬉しくなって同意する。
「勇者の座を争っていた頃は頭の固さがちょっと心配だったけど、うまくやれてるみたいで」
「あー。頭の固さは相変わらずですよ。でも、あややのおかげでちょっとずつ変わって来たかも」
「そう。そこはあたしと同じなのね」
なんだか意味深だ。ひょっとしてこの勇者様とメブは過去に何かが!?
「あ、あの! メブと昔何かあったんですか!?」
「はあ!? ないわよないない! むしろ嫌われてるんじゃないかって…あ、ごめん。今のなし」
「ちょっと! 気になるんですけど! 教えて? 教えてチュンチュン!」
「だー! もううっさいわね! あんまり騒ぐようだと防人隊本部に電話して迎えに来てもらうわよ!」
「ひぃ~! それだけは! それだけはご勘弁を~」
本当に電話をかけようとしている夏凛に雀がすがりついてお願いしている。
それを見つめる不審者が1人。
「てぇてぇ…メブかりんてぇてぇ…あと夕海かりんもいただけるとは…メモメモ」
丹羽明吾がしっかり夏凛と雀の会話を盗み聞きしていた。
ちなみに目の前で繰り広げられている光景はカップリングに結びつかないらしい。
百合道は奥が深い…。
「で、今日の訓練をさぼってわざわざ外出した言い訳を聞こうじゃないの?」
赤鬼様から逃げたと思ったらそこには青鬼様がいました。
赤鬼こと夏凛の見送りの後ゴールドタワーに帰って来た雀を出迎えたのは、青筋を立てた青鬼こと芽吹だ。
彼女は同学年とはいえ防人隊の隊長。対してこちらは護盾隊の1人。
普段は仲良しとは言え、立場が違うのだ。
それに防人隊1人の失態でも最終的に隊長である芽吹の監督責任になりかねない。怒る理由としては充分である。
「えっと、その。バーテックスを倒した勇者様に興味がわいて、讃州中学まで見学に行ってました」
正座した雀が正直に言う。
過去の経験から下手にごまかしたり言い訳をしたら彼女の逆鱗に触れるということを学習していた。
「勇者に会いに行ってたの!? なんてことを…大赦の大人に止められなかったの?」
「そこはほら、私の危険センサーで安全ルートをちょちょいと」
予想外の答えに芽吹は立ち眩みに似た症状と頭痛がする。
防人隊は大赦から勇者との接触を禁じられていた。
理由はもし勇者が防人隊のことを知ればそんな危険なことは任されないと自分たちも参加しようとするからだそうだ。
勇者とは神樹様に選ばれた心清き乙女である。
その乙女は優しく、もし自分たちの代わりに危険な目にあっている少女たちがいると知ったら心を痛め自分が代わりにその役目を負うことを望むだろう。
だから防人のことは秘匿せねばならないらしい。
もっとも勇者部は夏凛や春信を通じて防人隊のことを知っている。夏凛から防人隊の役割と勇者の役割の違いを説明され、一応ではあるが納得しているのだが。
「でもメブ、勇者の夏凛さんと友達だったんだね。意外だったよ」
雀の言葉にぴくりと芽吹の動きが止まる。
「別に…友達じゃないわ。ライバルよ」
あ、照れてる。
そっぽを向いている芽吹の顔が赤くなっているのに雀は気付いた。
なるほど。夏凛は嫌われているか心配していたがそんなことはないらしい。
「夏凛さん、メブに嫌われてるかもって心配してたよ。何かしたの?」
「なっ、そんなことない! あの子と勇者の座をかけて競い合ったことを誇りこそすれ逆恨みするなんて、私がするわけないでしょ!」
その言葉に雀は思う。なんだ。両想いなんじゃん。
似た者同士だなぁとほっこりしていると、ノックの音が聞こえ巫女の亜耶と防人隊のしずくと弥勒が部屋に入って来た。
「あの、芽吹先輩。雀さんをあまり怒らないでください」
「亜耶ちゃん?」
「実は、つい先日わたしがこぼしてしまったのです。勇者様たちがご無事なのか心配だと」
防人隊が7体の巨大バーテックスと遭遇した後、人型のバーテックスに助けられて命からがら戻って来たことでゴールドタワーの中ではちょっとした騒ぎになっていた。
あんなバーテックスに人類が勝てるのかと。
それは人型のバーテックスのことを言ったのだが、どういうわけか伝言ゲームをしているうちに大赦が所有する最強の勇者乃木園子ですら手を焼く巨大バーテックスが7体四国に侵攻してくるという話になっていた。
そのことを偶然人づてに聞いた亜耶は熱心に祈っていた。
どうか防人隊の皆と勇者様も無事でありますようにと。
そして熱心に祈りすぎてしまったのか1度倒れてしまった。特に亜耶をかわいがっていた芽吹の取り乱しようは重傷で、亜耶が治るまで大好きなプラモ断ちをするという異常行動までとって話題となったのだ。
その時お見舞いに来た雀につい「勇者様たちは大丈夫だったのでしょうか?」とこぼしてしまったらしい。
「あの時、大丈夫! 私が見てきてあげるよという雀さんに甘えてしまったわたしが悪いんです。雀さんを叱るなら、どうかわたしも!」
「ちょ、ちょっとあやや! それは秘密だって」
隣に正座する亜耶に、雀が慌てている。なるほど、理解できた。
「雀、今回のことあまり褒められたことじゃないけど…亜耶ちゃんの顔に免じて不問にします。巫女の心配事を解決するための行動として私が許可したと安芸先生に報告するわ」
「メブ! そんなことしたらメブが怒られるんじゃ」
「どの道雀が訓練を抜け出した件と勇者と接触した時点で私が怒られるのは確定しているしね。仲間を守るのは隊長の役目でしょ」
仕方ないわねという顔で言う芽吹に「メ゛ブ~」と涙と鼻水を流して雀が抱き着いている。
「それで、どうだった?」
「勇者の方々はご無事でしたの?」
しずくと夕海子の言葉に、肝心なことを伝えていなかったと雀は亜耶に向き直る。
「勇者のみんなは全員無事。元気に部活動してたよ。あややが心配することなんて全然なかった」
「そうですか。よかったです。本当によかった」
まるで自分のことのように勇者の無事を喜ぶ亜耶に、やっぱりいい子だなぁと雀は思う。
「でも、そこで面白いことも聞けたよ。弥勒さん、勇者の三好夏凛さんとライバルだったらしいじゃん」
「雀、そんなことありえない。何かの間違いでは?」
雀の言葉をしずくがどんな冗談だと即否定する。
「まっ、本当のことでしてよしずくさん。確かに三好夏凛さんとこの弥勒夕海子は同じく勇者の座を巡り切磋琢磨したライバルですわ!」
「うん。私のことも憶えてて驚いた。で、捨て石って言うと私のことをすごく怒ってくれた。あんたたちは完成型勇者と勇者の座を巡って競い合った仲間なんだから誇りなさいって」
「まったく、何様なんだか」
と言う芽吹の顔は言葉とは裏腹に穏やかだ。どこか嬉しそうでもある。
「ねえ、メブと三好さんって昔何かあったの? 本人に聞いても何もないの一点張りだったんだけど」
「ないわよ。ただ一緒に勇者の座を巡って競い合っただけ」
「あら、隠すことありませんのに。教えてさしあげたら?」
情報源は意外なところにいた。夕海子の言葉に「弥勒さん!?」と芽吹が珍しく焦っている。
「わたくしと芽吹さん、そして三好夏凛さんは3年前同じ地区で勇者候補として一緒に訓練していましたのよ」
その言葉にええー! っと雀の驚く声が室内に響く。
「びっくり」
しずくも驚いてた。
「あの頃は私が最上級生でしたのでよく周りからお姉ちゃん姉ちゃんと呼ばれていましたわ。そういえば芽吹さんも弥勒お姉ちゃんと」
「呼んでません!」
顔が真っ赤だった。あ、呼んでたんだ。
「ちょっと待って? 弥勒さんって高知出身でしょ? メブと三好さん高知にいたの?」
「いいえ、わたくしが香川県に転校したのですわ。そういえば夏凛さんは道場破りと称してよく他の地区の勇者候補生たちのいる訓練場に殴り込みに行ってましたわね。芽吹さんは訓練が終わると迎えに来る他の子のお母さま方をうらやましそうに見て、よくわたくしに甘えてきましたわ」
「そこんとこ詳しく」
「わたしも聞きたい」
「芽吹先輩の昔の話、聞きたいです!」
夕海子の懐かしむような口調に、雀、しずく、亜耶が食いついた。それに芽吹は顔を真っ赤にしている。
「そうですわね。では夏凛さんと芽吹さんがよくケンカしていて、素直になれない2人のためにわたくしがしょっちゅう仲直りするための仲裁していたこととか、勇者候補が残り5人に絞られた時「お姉ちゃんが一緒じゃないと嫌だ!」って大赦の大人に直訴した話など」
「弥勒さん、隊長権限で命令します! もう黙って」
「今日だけ昔みたいに弥勒お姉ちゃんと呼んで構わなくってよ」
「弥勒さん!」
顔を真っ赤にする芽吹にいつもよりどこか余裕がある弥勒がからかうように言う。
こうしてゴールドタワーの夜は更けていった。
母性高い弥勒さんと母親のぬくもりを知らないパパッ子の芽吹とのカップリングという可能性。
なんだかんだ言って弥勒さん面倒見いいしママ成分は高いと思う。
夏凛ちゃんと芽吹の人間関係不器用組にはいい保護者になりそう。
ゴールドタワーに防人隊が配備されて少し経過した頃
芽吹(今回もなんとか皆生き残れた。でも次生き残れるかどうか…もっと隊長の私がしっかりしないと)
夕海子「あ、楠さん。少しお話が」
芽吹「なに、弥勒おねえちゃん?」
夕海子「え?」
芽吹「あ」
夕海子「今、弥勒お姉ちゃんって」
芽吹「言ってません」
夕海子「でも確かに」
芽吹「言ってませんってば! もうおねえちゃんしつこい!」
夕海子「…どうやら隊長さんは相当おつかれのようですわね」
芽吹「くっ」(顔真っ赤)
夕海子「頂き物ですが良い茶葉が手に入ったんですの。お菓子もありますし、わたくしのお部屋でいただきませんこと?」
芽吹「結構です! 失礼します」
夕海子「まあまあまあ。お待ちになって」
芽吹「離して…離しなさい!」
夕海子「まったく、あなたも夏凛ちゃんも昔から頑張りすぎなんですわ。少しは年上に甘えてくださいまし」
芽吹「でも、私は隊長だから」
夕海子「部屋の中では、誰も見てませんわよ。芽吹ちゃん」
芽吹「!?」
夕海子「わたくしの部屋、いらっしゃる?」
芽吹「うん」
夕海子「ふふ、じゃあ今日は思いっきり甘やかして差し上げますわ」
こんなことがあったらいいなぁ(願望)