詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
加賀城雀襲来。でもあれ? 本編とちょっと違うような…。
そして唐突なメブにぼとゆみかりん。
ここで終わると思いきや最後の最後にメブゆみってお前さん、欲張りすぎじゃろう…。
「将来の夢?」
それはプールに行った帰りだった。
帰りに寄ったうどん屋でおろしうどんを食べ終えた■■■■が私と□に向けて訊いてきたのである。
「そう。わたしはねー、大赦で働くのもいいけど小説家とかやりたいなー。いろんな物語をみんなに読んでほしいの」
「いいんじゃね? ■■の話面白いし、あたしは好きだぜ」
確かに■■のお話は面白い。誰でも小説を投稿できるウェブサイトでオリジナル作品ながらランキングで上位を獲得していた。
それに触発された私が投稿した国防精神を注入した小説はなぜか低評価だったが。
「わっしーはどう? 将来の夢?」
「私は…大学に行って西暦時代の歴史研究をしたいわ。そしてゆくゆくは国防の精神を幅広く皆に啓蒙していくつもりよ」
「須美、悪いことは言わない。最後の部分はやめとけ」
夢について語ると□は肩に手を置いてゆっくりと首を振った。
なにを言っているんだろう。国防精神は小さいころから学ぶことが必要なのに。
「で、□□さんの将来の夢は?」
■■の言葉に□はそっぽを向いて小さく何かを言った。よく見ると耳まで真っ赤だ。
「え、なんて?」
「だーかーらー、お嫁さんだよ! わかってるよ、似合わない夢だって!」
その言葉に私は驚く。
意外だ。□なら将来はヒーローになるんだ! とか冒険家になるぜ! って言うかと思っていたのに。
と同時にかわいいと思った。女の子らしくて、素敵だと思う。
「そんなことないわよ。□ならなれるわ、素敵なお嫁さんに」
「そうだよー。□□さん、今度ドレスとか白無垢用意するからウチで写真撮ろ」
「嫌だよ。結婚する前にそんなの着たら婚期遅れるじゃねーか」
■■の提案に□は渋い顔だ。とそこで■■が何か思いついたようだ。
「ぴっかーんと閃いた! わっしーが学者先生になって□□さんがそのお嫁さんになってわたしのおうちに住めばいいんだよ!」
その言葉に私も□も「はぁ?」と頭に疑問符を浮かべる。
「いやいや、女同士は結婚できないし」
「大丈夫! わたしが将来政治家になって女の子同士でも結婚できるように法律改正するから!」
「いや、そうじゃなくてね■■■■、女の子同士だと子供が」
「ips細胞で同性同士でも子供ができるらしいよ」
へぇ、そうなのかと思っているとさらに■■は言葉を続ける。
「それに、学者さんって食べていけるかわからない仕事らしいよ。だったらわたしがパトロンになるんよー。そうすれば3人ずっと一緒に同じ家で住めるし、いいことずくめだよー」
なんて無茶苦茶な計画だ。
だが、できてしまいそうなのが恐ろしい。
何しろ■■■■は四国でも知らない者がいないほどの名家、■■■のご令嬢だ。人間2人くらい養うのなんてなんてことないのだろう。
あまりのことに私がどう返そうか迷っていると、□が吹き出した。
「ぷっ、はっはっはっ! ■■、お前すごい冗談言うよなー」
「むぅ、わたし結構本気だよー」
「はいはい。じゃあ30までお互いに相手がいなかったらその時は頼むな。な、須美」
その言葉に不覚にも胸が高鳴る。
それって、婚約宣言!?
でもまあ、相手は□だ。あまり考えずに言ったのだろう。
「はいはい。その時までに■■■■が政治家になって法律を改正できたらね」
「むー。2人ともできないって思ってるー。その時はわたし頑張るからね!」
■■はぷんぷんしながら2人に抗議している。
ああ、楽しいなぁ。
こんな時間がずっと続けばいいのに。
東郷美森は目を覚ます。
ここ最近。同じような夢を見る。
おそらくは記憶がない2年前の夢。そこでは自分は須美、わっしーと呼ばれ、丹羽の精霊と同じような姿の少女ともう1人の少女と過ごしている。
スミに似た少女の顔はわかる。だが、もう1人の少女の顔は中央に穴が開いように真っ黒で詳細をうかがい知ることはできない。
だが、とても大切な友人だということはわかった。
記憶はなくとも感情が憶えている。スミに似た女の子を2人で着せ替えしたり、顔がわからない女の子に送られたラブレターに一喜一憂したりと3人はずっと一緒だったのだ。
だったら、なぜ今は一緒にいないのだろう。
自分の記憶がないのと関係あるのだろうか。
「スミちゃん」
東郷が呼ぶと、胸元が光りそこから夢に出てきた少女と同じ顔をした人型の精霊が現れる。
もしかして今見た夢はこの精霊に関係あるのだろうか。
ひょっとしたら自分ではなく彼女の記憶なのかもしれない。
だとしたらなぜ夢の中に自分が出てくるのか。1度夢の中で鏡を見る機会があったが、そこにいたのは今より幼かったがまぎれもなく自分だった。
わからない。
「ねえ、スミちゃん。あなたは誰なの?」
東郷の言葉にスミは首をひねっている。どうやら質問の意図がわからないらしい。
「ソノコって誰?」
病院で言っていた名前を言うと、スミはぱっと顔を明るくする。
『スミ、ソノコ! ズッ友!』
「ズッ友? それって一体…」
問いかけるがスミはにこにこしたままだ。その後もいろいろ質問してみたが、あまり要領を得なかった。
スミの宿主である丹羽に相談すべきだろうか?
丹羽が退院しても自分の中に居続ける精霊となんとなく離れがたくて10日以上も経ってしまったが夏休みに入る前には返すべきだろう。
でも、もう少しだけスミと一緒にいたい。
「もうちょっとだけ…いいわよね」
ベッドの上で1人つぶやく。
少なくともあの夢に出てくる2人の少女が誰なのかわかるまでは、スミを返したくないと思った。
期末テストも終わり、学生たちの中にはどこか浮ついた雰囲気が広がっていた。
あと数日で夏休みに入るということもあって、夏休み前に遊びの約束をする者。どこかへ行こうと計画する者と様々だ。
特に男同士女同士はもちろん、男女混合のグループでもそんな話題が上がっていた。
中学生といえども思春期。青春は待ってくれない。
そのためある者は彼氏、彼女の関係になるため。あるいはその前段階を築くためにどうにかして夏休み中の遊びの約束を取り付けようと必死になっている。
「ねえ、樹ちゃーん。今度うちら青山君のグループと遊びに行く約束したんだけど、樹ちゃんも来てくれない?」
「えっ?」
突如別クラスの女子に話しかけられて樹は困惑する。
その女子とはあまり話したことがなかったのだ。
「なんか青山君の友達が樹ちゃん狙いらしくって、うちの友達がその子狙いなんだ。樹ちゃんが来るって言ったら喜ぶだろうから来てよ」
「えっと、その」
「このとーり! 樹ちゃんはいてくれるだけでいいから! うちらがご飯奢るし!」
犬吠埼樹は美少女だ。
姉の健康的な姿とは正反対、いや対比されるからこそ強調される女の子らしさから本人は知らないが結構ファンがいる。
今までは丹羽と付き合っているという噂から近づかなかった男たちが、夏休みを前に群がってきていた。
しかも同性の女子を使うという卑怯な手を使ってである。
これだからウェイ勢は…と丹羽は憤怒する。もしホイホイついて行ってしまったら同人誌みたいな目にあってしまう。
絶対に阻止しなければ!
「ごめんね。犬吠埼さんは夏休み勇者部の活動があるからいけないと思うよ」
別クラスの女子にどう答えようか困っている樹に代わり、丹羽が言う。
「丹羽君。あんた樹ちゃんと付き合ってないんでしょ? 関係なくない?」
「関係あります。同じ部活の仲間なので。少なくとも君らよりはあります」
「うちらは樹ちゃんを誘ってんの。あんたはお呼びじゃないって」
「そうですね。でも女の子使って男釣るような連中にうちの樹ちゃんとお付き合いさせられません。というか、その男の子犬吠埼さん狙いなら連れて行くのは逆効果でしょ」
「うっさい! なんなのよあんた!?」
「あ、あの丹羽くん、ケンカは」
「ケンカじゃないよ犬吠埼さん。感情的になってるのは向こうで、俺はいたって冷静だ」
樹を間にして女子と丹羽はにらみ合う。
ここで女子が樹を逆恨みするようなことを言えば彼女が傷つくことになる。だから自分からすすんで悪者にならなければならない。
「俺は犬吠埼さんが(百合男子として)男と一緒に遊ぶのが嫌なの! だから絶対その集まりにはいかせない!」
その言葉になぜか周囲がざわめく。ん? 何か変なこと言ったか?
「そ、そんなのあんたのわがままじゃん! 樹ちゃんにも出会いのチャンスが」
「ああ、わがままだよ! だけど女の子使って打算的に犬吠埼さんに会いたいと思ってるやつよりは俺の方が(百合男子として)犬吠埼さんが(女の子と)幸せになることを願ってるし、(部活の仲間として)彼女のことを知ってる。(ふういつ、にぼいつとカップリングあるのに)ぽっと出の野郎なんかに渡してたまるか!」
丹羽の言葉にクラスのざわめきが大きくなる。
「とにかく、そういうわけで俺が嫌なので犬吠埼さんを誘うのはやめてくれないか? もし可能ならその男子のクラスと名前を教えてもらえれば俺から断りを入れるし、君の友達のことを気に入ってくれるように話すから」
「あ、あんたねえ」
「ちょっと、もうやめようよ」
丹羽の言葉に何か言おうとした別クラスの女子が、一緒にいた女子に止められている。
「考えてみれば樹ちゃんに失礼だし、それにその男の子の言うことも一理あるしさ」
「でも…」
「その男の子は樹ちゃんが他の男と会うの嫌みたいだし。ね?」
「(ヘテロ展開が嫌いなので)当り前です」
「うんうん。いいもの見せてもらったよ。ウチはあんなナンパな男たちよりキミみたいな男の子のほうが好きだよ」
そう言うと別クラスの女子は丹羽とにらみ合った女子を連れて教室を出ていった。
「う~、丹羽くんのばか」
その後顔を真っ赤にした樹が女子たちに質問攻めされたのは言うまでもない。
「ってことがありましてね」
昼休み、勇者部で弁当を食べた後の雑談として休み時間に起こったことを話すと、樹以外の勇者部4人娘が固まっていた。
特に風は顔を青くしている。妹が合コンみたいな場所に連れていかれそうになったのがそんなにショックだったのだろうか。
「大丈夫ですよ、犬吠埼先輩。俺の目の黒いうちはそんなチャラい男がいそうな集まりに犬吠埼さんを連れて行かせませんから」
「いや、そうじゃなくてね。丹羽」
夏凛はどこからツッコむべきか考える。
樹が顔を真っ赤にしてあまりご飯を食べなかった理由はわかった。
そんなことがあったらそりゃご飯も喉を通らないだろう。
「丹羽くんすごーい! なんか告白みたいだね!」
と友奈。そう。話だけ聞くと、というかおそらくその場にいた人間はこう思ったのではないだろうか。
樹は俺のもんだから気安く誘うなと丹羽明吾が宣言した。
というか絶対そうだ。1年生の男子がクラスで公開告白をしたと他の女子も話していたし。
聞いた夏凛はまさか丹羽と樹のことだとは思わなかったが。
「はっはっは、告白って。違いますよ結城先輩。俺はただ犬吠埼さんに悪い虫が付かないように」
「そう。本音は?」
「純真な犬吠埼さんに近寄る男は灰になればいい。犬吠埼さんはふういつ、ゆういつ、にぼいつで忙しいのにてめえらが入る隙間なんてねえんだよ」
東郷の言葉に丹羽が言う。それに夏凛は頭を抱えた。
これが丹羽に少しでも樹に恋心があるならば応援しただろう。
だがこいつの頭にあるのは趣味である百合イチャ? に関することのみだ。だから自分が言った言葉で自分と樹が周囲にどう思われるかなんて考えてもいない。
いや、実際は考えているのだが樹と自分がどうこうなるのはあり得ないと思っているのだ。
「風、こいつどうする?」
「え?」
「今回は結果的に助かったけど、こいつがいると樹がまともに恋愛できないわよ」
「三好先輩、だから俺の目の黒いうちは男を近づけませんって」
「それが問題だって言ってんのよ馬鹿!」
このままでは樹のことが好きな男子がいて告白しようとしても丹羽がどうあっても阻止するだろう。
それは姉である風も望まないものだと思ったのだが。
「風? あんたどうしたの?」
「いや、そうよね。妹の幸せを願うのなら祝福すべきだってわかってる。でも、でもお姉ちゃんより先に彼氏ができるなんて事実、なかなか受け入れられなくて」
こいつ何言ってるんだ? 夏凛は一瞬ぽかんとする。
「風、もしかして丹羽と樹が付き合ってると思ってる?」
「え、違うの?」
「違うわよ馬鹿! あんた何聞いてたのよ!?」
夏凛が懇切丁寧に風の誤解を解いていると、友奈は丹羽のスマホ画面を見ていた。
「へー。丹羽君の勇者アプリは残ってるんだ」
「ええ。俺は皆さんと変身形態が違うので勇者システムなしでも変身できますし。大赦も意味ないと思ったんでしょうね」
「そうなの? それじゃ勇者部専用のSNSアプリを新しく作ったから、ダウンロードしておくわね」
「ありがとうございます。東郷先輩」
東郷にスマホを預ける丹羽だったが、内心では別のことを考えている。
自分が気絶していた間に勇者部のスマホを原作通り大赦職員が回収してしまったのは誤算だった。
丹羽の予定では勇者部にはまだNAURKOが入ったスマホを持っていてもらい、後に大赦の上層部から直接バーテックスがまた襲ってくることを話してもらうつもりだったのだ。
勇者部が大赦に不信感を抱くポイントの1つとして1度取り上げた勇者システム入りのスマホを敵が来たらまた返して戦わせたということがある。
それを避けるためにバーテックス人間を使いスマホを持ったままでいてほしかったのだが、失敗した。
バーテックス人間と化した大赦職員は大赦の職員全員ではない。普通に寄生されていない職員もいる。
今回勇者部のスマホを回収した職員が、たまたま寄生されていない大赦でもマシな思想の職員だっただけの話だ。
これによって計画を微調整する必要があるが、まだ修正可能な範囲なので問題ない。
問題があるとすれば……本編で見られるはずだったあのシーンが見られないことだ。
病院のゆうみもイチャイチャシーンはもちろんだが、本編では1人満開できなかった夏凛が勇者部を無断欠席したり勇者部の仲間と距離をとろうとする時期があった。
その理由は完成型勇者を自称しながら肝心な時に役に立たなかった自分への憤りややるせなさからだったのだが、攻略王の友奈によって勇者部に復帰することになる。
この時視聴者は改めてゆうにぼというカップリングを実感した回でもあるのだ。
ちなみにこの世界の夏凛はあれから普通に勇者部に顔を出していた。
なにせ水瓶座戦で7つある御霊を封印して敵を弱体化させたりと大活躍をしていたのだ。彼女としては満足いく戦いぶりだっただろう。
だから本編でのあのへこんだ夏凛ちゃんは見られないのだ。その夏凛を元気づける友奈の「夏凛ちゃんが好きだから」も。
それはそれとして。
「ところでスミ、お前はいつまで東郷先輩の中にいるんだ」
宿主の言葉に、東郷の胸の中から顔だけ出したスミがアッカンベーしてすぐに東郷の中に戻る。
困った。銀ちゃんの中にスミを入れて意識を取り戻すかどうかの実験をしたいのだが、これではできない。
銀ちゃんの居場所はバーテックス人間化した大赦仮面に調べてもらっているからすぐわかるだろうが、それまでには回収しなければ。
「なんだ。丹羽と樹が付き合い始めたわけじゃなかったのねー! 心配して損したわ」
「勝手にあんたが早とちりしただけでしょ」
夏凛のほうをみると安堵した風に呆れていた。うーむ、距離感を見るにふうにぼにはまだ遠い。
「そうそう、今日は飛び込みの依頼があって演劇部の助っ人よ」
「裏方ですか?」
友奈の質問に、風は微妙な顔をする。
「あー、うん。裏方と言えば裏方の手伝いなんだけど…。特に友奈と夏凛はぜひ参加してほしいとのことよ」
どこか歯切れの悪い風の言葉に、東郷が反応する。
「風先輩。何か隠してませんか?」
「えーっと、隠してるというか。東郷は参加しない方がいいというか」
「風先輩!」
追及に隠しきれないとかんじたのか、風は正直に答える。
「実は、夏凛をモデルに演劇の脚本を書きたいんだって。剣道部の助っ人に来てた姿に一目ぼれしたんだそうよ。で、その相手役を友奈にしてもらおうと」
お、ゆうにぼチャンスかな?
風の告げた思いがけない依頼に丹羽が目を輝かせる。一方で東郷は不機嫌だ。
「行きます」
「え?」
「私もその依頼、参加します! 私の目の黒いうちは友奈ちゃんに悪い虫が付かないようにします!」
なにか黒いオーラが見える。目もなんか怖い。
「やっぱり、東郷と丹羽ってどこか似てるわ」
それに対し、悪い虫扱いされた夏凛はため息をついたのだった。
「ありがとう風! いやー、うちの脚本が詰まっちゃったみたいで。で、ネタ探しにウロウロしてたら剣道部の助っ人の三好さんが今度の主役のイメージにぴったりみたいでね。お願いしたのよ」
演劇部部長の熱烈な歓迎に風は冷や汗をかきながらうなずく。
冷や汗の原因は後ろにいるにこにこしているが黒いオーラが抑えきれていない車椅子の後輩だ。
「それで相手役の子はどこ? もしかして風が?」
「いえ、私です」
車椅子の車輪を回し、東郷が前へ出る。
「うーん。黒髪ロングでおしとやかそうな少女。…姫と騎士の物語なら歓迎なんだけど、今回は敵国に攻め込んだ騎士と村娘との交流の物語なのよ。主人公は騎士、ヒロインは敵国の村娘ね」
「じゃあ樹ちゃん、どうぞ」
「ええ!? お芝居なんてわたし無理ですよ東郷先輩!」
背中を押されて前に出された樹が困惑していた。それに部長と一緒にいた脚本担当の女子が首を振る。
「いいえ、村娘の女の子はツンツンした騎士との対比で包容力があって全てを肯定してくれる母親のようでいて男の子に交じって遊ぶような活動的な子がいいわ」
「出番です。結城先輩」
丹羽に背中を押され、友奈が前に出る。
「丹羽君? 何のつもり?」
「俺は依頼人の指定したタイプにぴったりな人選をしただけです東郷先輩」
笑顔だが後ろに般若の顔が浮かび上がりそうなオーラの東郷の視線を受け流し、丹羽が言う。
この男、百合がからむと強い。
「じゃあ、とりあえず台本渡すからちょっと演じてみて」
「それなんですが、脚本家さん。ちょっと」
丹羽が脚本家の女子生徒と何やら話し始めた。
「え、本当に?」
「はい。うちの結城先輩は筋金入りの攻略王なので」
なんだか嫌な予感がする。東郷はどうにかして止めようと頭を回転させるが、適切な打開策は浮かばないので黙っているしかない。
「じゃあ、三好さんだけ台本を読んでくれる? 結城さんは彼の指示に従って」
「え、丹羽君の?」
「はい、結城先輩。今から設定を言いますのでもし結城先輩だったらどう行動するかを考えて心の赴くまま行動してください。お芝居ということは一旦忘れてもいいです」
丹羽の言葉に友奈は不安そうだったが、設定を説明され困ったときはスケッチブックに指示を書いて見せると言われると「がんばる!」とやる気モードになった。
「え、友奈アドリブでやるの? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ。だってあの結城先輩ですよ」
夏凛の言葉に丹羽が親指を立てる。
不安だ。
勇者部4人の思いが1つになった瞬間だった。
「えーっと、じゃあ初出撃するも敵を1人も倒せず自分の吐いたゲロまみれになって帰って来た主人公の騎士…あ、三好さんね。を励ます村娘のシーンで」
「ちょっと、どんな劇なのよこれ!?」
思わずツッコむ夏凛に「リアルを追求した結果です」と脚本家の女子が答える。
「よーい、スタート!」
「あーもう! やってやるわよ! ええっと、『なんてざまよ、こんな格好。これじゃ私が一番役立たずではないか』」
「はい、そこで村娘のヒロインがやってくる」
「え、私?」
「結城先輩、さっき教えた通り自然体で」
「う、うん。夏凛ちゃーん」
役名ではなく本名を言う友奈に夏凛はずっこけかけた。
「ちょっと友奈!」
「問題ないわ。騎士の名前はカリンってことにしましょう。続けて」
「了解。『ユーナ。何か用か?』って、村娘役の名前友奈と一緒!?」
「そ、だから友奈を推薦したんだけど」
と風。なるほど、そういう意図もあったのか。
「うん。お仕事の後で疲れているカリンちゃんをご飯に誘いに来たんだ」
「いや、敵国の騎士をご飯に誘うって、どういう神経してんのよ」
「だってご飯を食べないと元気が出ないよ?」
「あのねぇ、これはお芝居で…え、続けろ。わかったわよ」
夏凛のツッコミにいいから続けてと脚本家の女性はサインを出すので渋々従うことにする。
「『なんの武勲も上げられなかった。こんな剣なんてもう必要はない。もう私があなたに会うために隠れてここに来る理由もないのよ』なにこいつメンタル弱すぎでしょ」
それ、本編の自分にも言えます? と丹羽は思ったが言わないでおいた。
「『ユーシャブになんか来なければよかった。ここに長くいたせいで私は優しさと温もりを知って、敵を敵と思えなくなった』風、この名前…え、続けろ? わかったわよ」
「そんなことない! 私は今の夏凛ちゃんの方が好きだよ!」
「ぐぎぎっ」
「東郷先輩、落ち着いて。お芝居、これはお芝居ですから!」
「『お前と一緒にいたせいで、私は弱くなった。ここには戦うために来たのだ。だがそれももう終わり。武勲を得られなかった私にはもう価値がない。居場所も…』」
演じているうちに自分の境遇と重なったのか、だんだん夏凛の演技が熱を帯び始める。
「そんなことない! たとえ戦いが終わったとしても、夏凛ちゃんは必要だよ!」
「なんで! 私はもう価値なんてないのよ。誰にも認められない。それなのに誰が必要としてくれるっていうの!?」
台本にはなかった台詞だ。脚本家の女生徒がメモを取っている。
「私が、夏凛ちゃんを大好きだから!」
「なっ」
唐突な告白に夏凛の顔が真っ赤になった。
「東郷、お芝居お芝居」
「わかってます。私は冷静ですよ風先輩」
と言いつつ膝の上に置かれた手が強く握りすぎて真っ白になっているのだが。どこが冷静なんだか。
「私は夏凛ちゃんが必要。風先輩も、東郷さんも、樹ちゃんも、丹羽君も。きっとそう思ってる。勇者部には夏凛ちゃんが必要だよ」
「え、あ、その」
「だからこれからも一緒に勇者部の活動頑張っていこうよ。ね?」
「う、うん」
友奈の言葉に夏凛が顔を真っ赤にしてうなづいている。
あれ? 2人とも芝居ってこと忘れてないかこれ?
風は東郷をいさめる一方でうーんと考える。
とそこで友奈は丹羽が持つスケッチブックに『そこでハグ』と書かれているのを見て思い出した。
そうだ。これお芝居だった。
「夏凛ちゃん」
「ぴぇ!?」
友奈に抱きしめられた夏凛が情けない声を上げて口をパクパクしている。
これからどうするんだろうと思っていると、スケッチブックがめくられ『ここで決め台詞』と書かれたページが見えた。
「夏凛ちゃん。戦わなくても夏凛ちゃんがそばにいてくれるだけで私は嬉しいんだよ。だから、ずっとそばにいて」
「は、はひ」
友奈の言葉に夏凛はこくんとうなずく。それを見てキマシタワーと丹羽が不審者状態になっている。
えっと、これでいいのかな? と友奈が周囲に視線をやると、丹羽がまたスケッチブックをめくったのが目に入った。
『じっと見つめあった後キスシーン(フリで。顔を近づけるだけでOK)』と書かれていた。なるほど。そうすればいいのか。
「夏凛ちゃん」
「ゆ、友奈?」
1、2、3と心の中で数を数え、たっぷり10秒見つめあう。そして指示された通り夏凛に顔を近づけようとして…。
「駄目ぇー!」
東郷に割り込まれてしまった。
「と、東郷さん?」
「いくらお芝居でもこれ以上は駄目! 私が許しません!」
「東郷…あんた」
「風先輩にも文句は言わせませんよ! これは明らかにやりすぎです」
「いや、そうじゃなくて」
「というか丹羽君? これ、あなたの指示よね。覚悟はできているわね」
「東郷先輩、あの…」
「樹ちゃん、ちょっと目を閉じていてね。後輩にはちょっと刺激が強いから」
そう言うと丹羽のもとへ
それはそれは見事な一本背負いだった。
固いリノリウムの床にたたきつけられた丹羽は「ぐえー!」と潰れたヒキガエルのような声を上げて背中をしたたかに打つ。
柔道は柔らかい畳の上だから安全なのであって、固い床の上では投げ技は常に必殺の一撃となる。
それを証明するようなお仕置きだった。
「まだまだぁ!」
しかしお仕置きはそれで終わらない。丹羽を再び立たせると今度は足を払い、回転する丹羽の頭をさらに蹴りもう1回転させる。
「チェストォー!」
中心に正拳突きが決まり丹羽は吹っ飛ばされた。ちなみに普通の人間だったら普通に後遺症が残るようなダメージである。
「ふぅ、悪は滅びた」
「東郷さん、歩けるの?」
友奈の言葉にそこで東郷はようやく気付いた。
自分が車椅子から2本の足で歩き、丹羽にお仕置きしたことを。
「いいわいいわ! これはすごい! どんどんイメージがわいてくる」
その光景を見た脚本家の女子生徒は次々と台本のページにペンを走らせていた。どうやら東郷のお仕置きが新しい脚本を書くためのスイッチになったらしい。
「驚いた。東郷先輩、足治ったんですね」
先ほどの東郷の猛攻などなかったかのように起き上がり普通にしゃべっている丹羽に、いや、こっちも驚きだよと東郷以外の勇者部一同は思う。
「どうやらそうみたい。どうしてかしら…お医者さんには治るかどうかわからないって言われていたのに」
自分の状態がまだ信じられないのか、東郷は立ったまま呆然としている。
というか、リハビリもなくここまで動けたのはあいつが原因だろうなと丹羽は東郷の中にいる自分の精霊のことを思う。
これは水瓶座の時にスミを切り札に使った影響だろうか? もしくはそれからずっとスミが体内にいたことによる影響?
どちらかはわからなかったが、後者なら試してみたいことがあった。
前回雀がkwskと訊いたので続き。ゆみめぶエピソードじゃよー
3年前:香川県某所。大赦訓練施設
夏凛ちゃん(小5)「ちょっと楠芽吹! あんた何手抜いてんのよ! やる気ないなら出ていきなさいよ」
芽吹ちゃん(小5)「うるさい三好夏凛! 今日はちょっと調子悪いだけで」
夏凛ちゃん「実戦だったらあんた死んでたわよ! 敵はこっちの調子なんて考えてくれないんだから」
芽吹ちゃん「そんなこと…言われなくてもわかってる!」
夕海子(小6)「まぁまぁ、お2人とも。ここはこの弥勒に免じてケンカはおやめなさいな」
夏凛ちゃん「うっさい! あたしより弱いくせに!」
芽吹きちゃん「年下に負けっぱなしで悔しくないの?」
夕海子「ちょっとー!? わたくし年上ですけど泣きそうですわー!」
夏凛ちゃん「ふん、こんな弱い奴らと一緒に訓練なんてできないわ。ちょっと武者修行に行ってくる!」
夕海子「夏凛ちゃん!? んもー、あの子ったらまた道場破りに他の地区へ行って。先方に謝罪の連絡をするのはわたくしですのに…って芽吹きちゃん!?」
芽吹きちゃん「ううっ」(顔真っ青)
夕海子「本当に調子が悪かったんでしたのね? すぐ医務室に運びますわ?」
芽吹ちゃん「弥勒お姉ちゃん」
夕海子「しっかりなさって。今ベッドに運びますからね。こんな時に限って先生はいらっしゃいませんし」
芽吹ちゃん「お姉ちゃん、あのね。私病気かもしれない」
夕海子「なんですって!?」
芽吹「夏凛に、一緒に勇者になれなくてごめんって言っておいて。お姉ちゃんは私より強い勇者になってね」
夕海子「そんな弱気になってはいけませんわ! あなたはわたくしよりずっと強い勇者なんですから、病気くらいすぐ治りますわ」
芽吹「でも、今朝も血が出て…頭も痛いし実は立ってるのもやっとなの」
夕海子「何てこと…すぐに救急車を呼びますわ! 他に何か症状は?」
芽吹ちゃん「おなかがすごい痛い」
夕海子「……ん? それって」
芽吹ちゃん「お姉ちゃん、私死んじゃっても夏凛とお姉ちゃんのこと見守ってるからね」
夕海子「芽吹ちゃん。つかぬことを伺いますが、その…血が出ている部分はどこですの?」
芽吹ちゃん「(赤面)」
夕海子「あっ(察し)では芽吹ちゃん、保健体育の授業で生理は習いまして?」
芽吹ちゃん「せい、り? なにそれ」
現在:ゴールドタワー 楠芽吹私室
夕海子「結局ただの生理痛でしたわ。芽吹ちゃんは重かったのでバ〇ァリンを飲ましてベッドに寝かせて落ち着くまでおなかをさすって差し上げましたわ」
芽吹「~~~っ」(顔真っ赤)
雀「ぷっくくく」(ニヤニヤ)
シズク「ぶわははは!」(爆笑)
夕海子「笑い事じゃありませんわよ。生理痛のことを1から教えたり、わたくしの生理用品を貸して使い方を教えたり。芽吹さんの家はお父様しかいらっしゃらなかったから教える方がいなかったようですし」
亜耶「それは大変でしたね」
芽吹「弥勒さん、もうその辺で」
夕海子「もちろん淑女のたしなみとして一緒に薬局へ行って生理用品の選び方を指導したり、重い日用の目立たない下着も一緒に選びましたわ」
雀「ひー! ひー! 死んじゃうって…お姉ちゃんのこと見守るって」(過呼吸)
しずく「芽吹、気にすることない。わたしも初めての時はそんな感じだった。…生理については授業で習ってたけど」
亜耶「芽吹先輩は重い方なんですか?」
夕海子「ええ。普段は精神力で耐えてますけど、たまにどうにもならない時は部屋に籠っているので。その時はわたくしが一緒にいてずっとおなかをなでてさしあげますの。その時だけ「おねえちゃんありがとう」ってすっごいかわいいんですのよ」
芽吹「おい、弥勒!」
亜耶「芽吹先輩、その時はおっしゃってください。わたしが1日中つきそっておなかをなでて差し上げますので」
芽吹「ええ、お願いするわ(亜耶ちゃんのお手々でお腹なでなでプレイですって? ヤッター!)」