詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
東郷さんが歩けるようになったよ。
東郷「身体が軽い、こんな気持ち初めて」
友奈「おめでとう東郷さん!」
東郷「あの、友奈ちゃん。私、足が動くようになったらやってみたかったことがあるの」
友奈「なになに? 何でも協力するよ!}
東郷「うん、あのね…」
友奈「ねえ、東郷さん。本当にこんなことでいいの?」
東郷「ええ、最高だわ。はい、次は反対」
友奈「歩けるようになったらやりたかったことが耳掃除なんて」
東郷「だって、車椅子だと友奈ちゃんに膝枕できなかったから」
友奈「東郷さん…っんくぅ」
東郷「あら、大きいのが隠れてたわね。うふふ、逃さないわよ」
友奈「東郷さん、やめ…そこ、くすぐったい」
東郷「だーめ。ここをこうして…ほら、取れた」
友奈「うー、背筋がぞわぞわする」
|M0)じー ゆうみもテェテェ
7月第3週目、土曜日の休日である。
その日丹羽は遠出をしてプラモデルなどの模型専門店を訪れていた。
理由は先日の演劇部の助っ人依頼で丹羽がゆうにぼ見たさにはっちゃけて東郷の機嫌を損ねてしまったのでそのご機嫌取りのためである。
あれ以来部室にいてもいない者のように扱われるし、差し入れの牡丹餅も丹羽の分だけなかったりと徹底して東郷から無視されていた。
それに対してこのままではいけないと丹羽もあれこれしてきたのだが、東郷は腹を立てたままだ。
そんな東郷の態度になぜか友奈が怒りだしてゆうみもの危機になりつつあるので丹羽としてはできるだけ早く機嫌を取って元の状態にしなければならない。
そう思い東郷が好きな城と軍艦のプラモの購入のために専門店を訪れたのである。
もちろん今の時代スマホで欲しいものを注文すればすぐなのだが、それでは誠意が伝りにくい。
それはあくまで最後の手段。目的のものが見つからなかったときのみ使用しよう。
模型店に入ると目的の城や軍艦のキットはなかなか見つからない。あるのはほとんど人型の兵器のプラモで子供から大人までファンの多いシリーズで埋め尽くされている。
こういうのはどこの世界でも同じなんだなぁと思いつつ、店内を見て回るとポツンと1コーナーだけ戦艦のプラモデルが戦車やF1カーのプラモと一緒に設置されていた。
大和、武蔵、長門、瑞鶴と有名どころがたくさんあるが品数は少ない。
どれにしようか。丹羽は考える。
そういえばゆゆゆいエピソードで芽吹とプラモ作り対決をしたとき長門を作っていた。ということは長門はすでに持っているはずだ。
同じプラモデルを渡されてもあまりうれしくないだろうな。ということは長門以外の別のプラモを選ぶべきか。
しかし相手はあの東郷美森である。大抵の軍艦のプラモデルは揃えていそうだ。
というか、本人に直接聞いた方がいいんじゃね?
さっそく新しくできた勇者部SNSを起動するが、なぜかログインできなくなっていた。
おそらく東郷の仕業だろう。このアプリを作ったのは東郷だし、丹羽のIDをログイン停止の措置をするくらい朝飯前だ。
さすが東郷さん。やることが徹底していらっしゃる。
どうやら東郷の機嫌を直さないと丹羽は勇者部の活動にも参加できないらしい。
これは本格的にどうにかしないといけない。さて、どうするべきか。
「ねえ、あなたそれ買うの?」
声に驚きそちらを見る。このコーナーは品ぞろえを見るに滅多に人が来るとは思っていなかったからだ。
見るとキャップをかぶった黒髪の美少年がこちらを見ている。
すごい美形だ。こんなオタクが集まるようなプラモ店に足を運ぶ人間とは思えない。
というか、この顔…楠芽吹?
そこにいたのはキャップに長い髪をまとめて隠し男装している楠芽吹だった。
そういえば彼女の趣味はプラモ作りだ。ということはここにいても何の不思議もない。
それにしても…加賀城雀といい最近防人隊の子によく会うなぁ。
「ねえ、あなた。聞いてる?」
考え事をして返事をしていなかったことに気づき、丹羽は慌てて言葉を返す。
「ああ、はい。先輩へのプレゼントに選ぼうと思っているんですけど、どれがいいかわからなくて」
「そう。あなたが作るわけじゃないの…」
あ、露骨にがっかりしてる。
そうか、同じプラモが好きな同士に会えたと思ったんだろう。それが違って肩透かしを食らった気分なのか。
だとしたら、ここはなんとしても気分を盛り上げてもらわなくては。
「あの、もしよかったらプラモのこと教えてもらえますか? 俺そんなに詳しくないから先輩がどんなのを気にいるのかわからなくて」
素人がモデラーに言ってはいけない言葉というのがある。
それは自分が初心者であること。
そして詳しいなら教えてほしい。
これを言うとプラモデラーは2種類の行動をとる。
1つはマウントを取り、散々馬鹿にするタイプ。これはあまりいいモデラーとは言えない。
新規参入者を馬鹿にし、古参であることを誇るようでは乱立するソシャゲコンテンツと同じく衰退し、滅びる運命しかないのだ。
そしてもう1種類は懇切丁寧に教え、目を輝かせて自分の知識を惜しみなく相手に与えるパターン。
これはプラモデラーの鑑ともいえるタイプである。ただ知識量が多い分くどくなりがちで、初心者からしたら「いや、ちょっと聞いただけでそんなに教えてくれなくても…」とドン引きされることも間々ある。
楠芽吹はもちろん後者であった。
「その先輩は戦艦が好きなの? 他にどんなものを持ってる? 接着剤はある?」
丹羽の質問に目を輝かせてグイグイ来る。よっぽど同志を見つけて嬉しかったのだろう。
「えっと、多分長門はもう持ってて接着剤もあると思います。道具は確かやすりを何種類か」
「なるほど。だったらニッパーもそれなりの物を使っていると思っていいわね。塗装は? このマーカーをエアブラシにできる機械なんてオススメなんだけど」
お店の人かな?
店員も舌を巻くような知識とともに一瞬で道具を持ってきて丹羽に勧める芽吹。心のウキウキは最高潮のようだ。
ああ、防人隊の中でもこんな風に話せる人間はいなかったんだろうなぁ。
「先輩は空母だと瑞鶴が好きですね。あと大艦巨砲主義というか、駆逐艦より戦艦、空母の方が好きです」
「だとしたら赤城、加賀、飛龍に蒼龍は持っていると考えるべきね。というか有名どころは全部そろえていると考えるべきかも…となると」
丹羽の言葉に芽吹は考え込み、1つの戦艦のプラモデルを選ぶ。
「榛名ですか? 金剛型3番艦の」
「ええ、私ならこれを推すわ。たとえもう持っていたとしてもダズル迷彩仕様でもう1つ欲しいと思うもの」
なるほど。その発想はなかった。
値段を見ると最高値の大和と武蔵よりもお得だ。先ほど薦めてもらったマーカーをエアブラシにする道具と合わせてもトントンだろう。
「ありがとうございます。これに決めました。あとぶしつけなんですけどもう1つお城のプラモもプレゼントしたいんですが」
「任せて! それは私の得意分野よ!」
意気揚々と芽吹は丹羽を引っ張ってお城のプラモデルが置かれているコーナーに向かう。
そうしてなんとか東郷のプレゼント用のプラモデルを選ぶことができたのだ。
「ありがとうございます。なにかお礼にお好きなプラモデルか道具を買わせてください」
「いいわよ別に。こっちも楽しかったし」
丹羽の言葉に芽吹が言う。こういうところもハーレムを作れる器量の1つなんだろうなぁ。
「それじゃ俺の気が済みません。どうか1つだけでも」
「う、うーん。そう? じゃあ」
遠慮がちに芽吹が選んだのは値段も安い初心者向けとわかるような小さなお城のプラモデルだった。
「え、それでいいんですか? 遠慮しないでもっと高いものでも」
「いや、今日私が来たのは友達のプレゼント用の買い物なのよ。その子もあなたと同じ初心者だから、パーツ数の多いものはね」
なるほど。多分亜耶ちゃん用のプレゼントかな。
おそらく「芽吹先輩がそこまで夢中になるなら、わたしもやってみたいです」と言われたんだろう。だからそれ用のプラモを買いにここへ来たと。
熱々ですなぁ。メブあやてぇてぇ。
「あの…大丈夫?」
「ああ、すいません。ちょっと考え事を」
どうやら尊いモードになっていたらしい。芽吹が心配していた。
「じゃあ、会計してきますね。お姉さんの分は別にしてもらいますから」
「ええ…ん?」
丹羽が会計から戻ってくると、芽吹は複雑な顔をしていた。
「はい、どうぞ。…どうかしました?」
「あなた、私が女だっていつ気付いたの?」
「いつって、最初からですけど」
その言葉に芽吹は驚く。
「え? 最初から?!」
「はい。きれいな顔ですし、逆に男と間違うのは失礼ですよ」
「うぅ…見破られたことなかったのに」
なぜかショックを受けているようだ。なぜだ?
「その、こういうお店って男の人ばっかりでしょう? だから女の格好で来るとジロジロ見られたりして…」
「ああ」
なるほど、納得した。だから髪をキャップに入れていたのか。
「あなた、女の私がこういう趣味を持ってるの、変に思わない?」
「え、全然」
だってゆゆゆいで知ってたから。とは言わないが。
「お姉さんがプラモ好きだったおかげで俺は先輩へのプレゼントを選ぶことができたし、むしろ感謝しかありませんよ」
「そう? そう言ってもらえるとありがたいわ」
それから2、3言葉を交わしてお礼を言うと、丹羽は芽吹と別れ店を後にした。
思わぬところで思わぬ人物と出会ってしまった。
まさか防人組と四国で出会うことになるとは思わなかっただけに、これは嬉しい誤算だった。
さて、せっかく遠出したのだ。このまま帰るのはもったいない。
『じゃあさ、ラーメン食べようよラーメン』
丹羽の胸が光り、そこから精霊のセッカが現れた。
ふむ。丹羽は昼食を食べる予定はなかったが、確かにもう昼時だ。
たまには外食もいいかもしれない。
「了解です。じゃあ行きましょうかセッカさん」
『やったー!』
こうして次に行く店が決まったのだった。
ランチタイムということもあり、店内は少し混み合っていた。
「いやあ、それにしても神歴でも一〇があるとは…」
『いいから、口じゃなくて手を動かしてよ』
西暦時代でも有名だった豚骨ラーメンのチェーン店がまだあることにちょっとした感動を覚える丹羽に、セッカが早く注文しろと催促する。
「えーっと用紙に丸をつけるんでしたっけ。どうします?」
『味基本こってりにんにくなし青ネギチャーシューありたれ2倍麺固め』
呪文かな?
よどみなく注文をするセッカに驚きながらも丸を付けて提出する。しばらく待つとラーメンが来た。
『来た来た! いっただきまーす。…うん、豚骨はお店でしか食べられないから久しぶりー』
そうか。味噌や醤油はおうちで作れても豚骨は煮込む時間があるし臭いもきついから専門店じゃないと食べられないのか。
また1つラーメンについて詳しくなってしまった。
それから丹羽はラーメンを食べ終わるまでセッカを見守る。もともと昼食は食べる気がなかったのでこのどんぶり1杯のラーメンは全部セッカの物だ。
これは味集中カウンターというシステムの一〇だからこそできた方法でもある。
普通の店ではセッカの食べるペースに合わせて自分も食べるふりをする必要があった。
普通の人にセッカが見えないとはいえ、丹羽が食べていないのにラーメンが減るという不思議現象が起こるといらぬ混乱を起こしてしまうからだ。
そのことを考えて周囲や厨房から食べる姿が見えない一〇を選んだのだが、セッカも喜んでいるし正解だったようだ。
『ふいー。ごちそうさま!』
ラーメンを食べて満足したのか、セッカは胸の中に帰っていった。
さて、じゃあ帰るか。
一〇は食券制なので料金は前払いしてある。食べたら後は帰るだけだ。
丹羽が店から出て少しすると、何か服を引っ張られる感覚がある。
「ん?」
振り向くと、そこにいたのは私服姿の山伏しずくだった。
え、なんで?
思わずそう思う。
彼女は先ほど出会った楠芽吹率いる防人隊の1人である銃剣を使うアタッカーだ。
シズクという別人格を持っており、戦闘の際にはそちらが表に出て戦うことが多い。
今表に出ているのは基本人格のしずくのようだが…いったい何の用だろう?
「えっと、何かご用ですか?」
「あなた、精霊出してた」
見られてたー!?
やばい。確かに防人隊で勇者候補だったしずくなら精霊は見えるはずだ。
男である丹羽が勇者しか持たない精霊を出していることに不信感を抱いたのだろう。
「えっと、精霊ッテナンノコトデスカー?」
すごい片言だった。これはもう疑ってくれと言っているようなものだ。
もし防人組から安芸を通じて園子に連絡が言ったとしたら、丹羽としても面倒なことになりかねない。
というか、園子と会うのはもう少しちゃんと準備が整ってからにしたい。東郷の足が動くようになった原因もまだ研究中だし、スミも取り戻していないからだ。
園子が保護している銀に会うまでにはスミを回収したいのだが、そのためには東郷との仲を修復することが必須だ。
その前につかまるわけにはいかない。ここは逃げるに限る。
「じゃ、じゃあ。サヨナラ!」
「待てよテメェ」
背を向け立ち去ろうとする丹羽の肩にしずくの手が置かれた。
雰囲気が変わった。もしかしてシズクに変わったのだろうか。
山伏しずくにはもう1人シズクという人格がある。
彼女は攻撃的で、しずくを守るためにしずくに危険が迫ると表に出てくることが多い。
ということは丹羽はしずくにとって危険人物と認定されたということだ。
丹羽はシズクがつかんだ手を振り払って逃げ出した。厄介なことになるのはごめんだ。
「待て、この野郎!」とシズクの声が聞こえてくる。
ふ、いくら防人とはいえ強化版人間型星屑の自分には追い付けまい。
そんな慢心に足元をすくわれた。
「ぐえー!」
「たく、てこずらせやがって」
狭い路地に逃げたのが裏目に出た。ここの地理に疎い丹羽と違い、シズクは裏道を知っていたのだ。
くそ、どうせなら大通りに出て人に紛れて逃げるべきだった。
丹羽が反省していると、シズクはどこかに連絡しているようだ。
「おお、芽吹か。いや、怪しい奴捕まえたから一応報告な。雀と弥勒には連絡したから」
え、防人隊の子たちが来るの?
余計やばい。丹羽が何とかもがいて逃げようとするが、シズクに関節を極められてびくともしない。
うわーん、このままじゃそのっちへの貢物として防人たちにつかまっちゃう!?
「シズクさん。一体何ごとでして?」
「もー、せっかくのショッピングだったのに」
考えている間に弥勒夕海子と加賀城雀が合流してきた。
あかん、詰んだ。
「シズク、怪しい奴って…え、あなたは」
ついさっき模型店で会ったばかりの少年がシズクに組み伏せられているのを見て、楠芽吹は驚いている。
それに丹羽は苦笑いで返すしかなかった。
「すみませんでした!」
いきなり頭を下げられて、丹羽は混乱する。
てっきり防人隊本部のゴールドタワーに連行されるものと思っていたのに、近くの公園へと場所を移した防人4人と丹羽を待っていたのは芽吹の謝罪だった。
「え、えっと?」
「勇者様を不審者と間違えて拘束するとは、隊長である私の責任です。このお叱りはいかようにも」
待って、頭が付いて行かない。
混乱する丹羽が他の3人を見ると、シズクがバツの悪そうな顔をして弥勒は心配そうな顔、雀が苦笑いしていた。
そうか。おそらく雀が部室を訪れた時に丹羽のことを憶えていたのだろう。だから勇者だとわかったのか。
てっきり不審者として連行されるものだと思っていた丹羽はほっとした。
「いえ、俺もう勇者じゃない一般人なので。そりゃ男で精霊が近くにいる奴がいたら怪しんで当然ですよ。その人はちゃんとお仕事をしたんですから、責められるいわれはないと思います」
「そう言っていただけると」
丹羽の言葉に芽吹は恐縮している。さっき模型店で会った時とは大違いだ。
「あの、楠さんでしたっけ。三好先輩の友達の」
「は、はい!」
「模型店の時のしゃべり方でいいですよ。俺の方が後輩なんですし、そんなかしこまらなくても」
丹羽の言葉に雀、弥勒、シズクはほっとしていた。どうやら何か芽吹に罰が下るのではないかと心配していたらしい。
そんなこと丹羽は間違ってもするつもりはない。なぜなら防人組の百合イチャも大好きだからだ。
「防人隊のことは三好先輩から聞いてました。勇者にできないお役目をしてくれているすごい方たちだって」
「三好夏凛がそんなことを」
あ、驚いてる。たしか雀が同じようなことを夏凛に言われていたが、それを聞いてなかったんだろうか?
「三好先輩はツンデレというか、言動が誤解されやすい人ですから。その人が手放しでほめている人ってどんな人たちなのか興味があったんですよ」
「そ、そうですか」
「いや、だから敬語はやめてくださいよ。俺の方が年下なんですから」
「はい、申し訳ありません…あっ」
思わず敬語で返事してしまった芽吹に、丹羽は吹き出す。
まったく、ゆゆゆい通りの性格というか、マジメで頑固だなぁ。
「そもそもあの7体の御霊を吸収した水瓶座戦を最後に俺や勇者部の先輩方はお役目を終えたんですから、今は防人である皆さんの方が偉いんですよ」
「それは…そうですが」
丹羽の言葉にまだ納得いっていない様子だ。だが、そばに来ていた雀がそんな芽吹に駄目出しする。
「そうだよメブー。せっかくこう言ってくれてるんだからもっとフランクにさぁ」
「そうですわ。芽吹さんはもう少し柔軟に物事に当たるべきですよ」
「その…さっきは悪かったよ。スマン」
夕海子の言葉に続き、シズクが頭を下げる。それに丹羽は首を横に振る。
「いえ、逃げた俺も悪かったです。精霊を見られたと思ったので、なんとかごまかそうとして」
「あー。精霊って一応機密扱いなんだっけ。そりゃ逃げるよねー」
「ですが勇者システムは大赦に返されたのでは? 今の勇者は精霊を持っていないはずですわ」
「ってことはやっぱり不審者かオメー?」
「こら、シズク! やめなさい」
丹羽の言葉に同意する雀、疑問を口にする夕海子、指の関節を鳴らすシズクにそれを止める芽吹。
三者三様の個性的なメンバーに丹羽は思わず微笑む。勇者部もいいけど防人組も仲がいいなぁ。
とりあえず丹羽は自分が先祖返りのイレギュラーな勇者で、大赦の勇者システムを使わなくても変身できることを告げた。だからいまだに精霊を持っているという理由も。
それを聞いて4人は納得してくれたようだ。
「なるほど、そんなことが」
ついでに最後の7つの御霊が融合した水瓶座戦の話も少ししておいた。
特に夏凛が活躍する部分には芽吹は目を輝かせていたが、それが終わると「ま、まあ当然ね」となんでもない風を装っている。
明らかに夏凛を意識しているのがバレバレだった。めぶかりんごちそうさまです。
「えっと、それ私たち聞いちゃっていいの? 一応機密なんじゃ」
「別に構わないでしょ。大赦の人にはしゃべっちゃいけないとは言われなかったので」
「それ、言わなくてもしゃべってはいけない話だと思われているのでは?」
「そういう言わなくてもわかるだろというのは悪しき風習です。報告、連絡、相談もできない組織に未来はない」
雀と夕海子の疑問に、丹羽が揚げ足取り100%の言葉を返す。それに「えぇ…」と芽吹は困惑している。
「じゃあ、俺はこれで。そろそろ帰りますね」
「あ、はい」
丹羽が座っていた公園のベンチから立ち上がると、一緒に芽吹も立ち上がる。ややあって雀と夕海子、シズクも。
「いや、そんなにかしこまらないでくださいって。それに防人隊のおかげで俺たちはあの水瓶座のバーテックスを倒せたんですから」
その言葉に芽吹の胸の内が熱くなる。
勇者が自分たちの活動を認めてくれた。それは何よりもうれしい賛辞だった。
「本当にありがとうございました。俺や勇者部のみんなが生き残れたのは、皆さんのおかげです」
頭を下げる丹羽に、芽吹は慌てる。
「そ、そんな。話を聞く限りそれは勇者のあなたたちの働きで私たちは何も」
「いえ、事前に7体同時にバーテックスが襲ってくるという情報があったからこそ俺たちもいろいろ準備や心構えができたんです。感謝してもしきれません」
「でも…」
なおも丹羽の言葉を否定しようとする芽吹に、弥勒は肩に手を置き首を振る。
「芽吹さん、それ以上はこの方に対して失礼ですわ」
「弥勒さん」
「そうだよメブ。こういう時はちゃんとお礼を受け入れなくちゃ」
「雀」
「芽吹、逆に失礼」
いつの間にかシズクからしずくに戻っていた。
「そうね。ごめんなさい。先ほどの言葉、防人を代表して皆に伝えます。ありがとうございます」
「いえ、そんな。それは俺の方の言葉です」
芽吹の言葉に今度は丹羽が慌てている。まったく、いつまで同じやり取りをするんだか。
「ごめん。わたしが精霊って確かめたのをシズクが勘違いして」
唐突に頭を下げたしずくにどういうことだとみんなの視線が集中する。
「実は、初めて行くラーメン屋さんで注文の仕方がわからなかったのをあなたの中にいたメガネの精霊さんが教えてくれて。お礼を言いたかっただけ」
「あー。そのお礼を言う前に丹羽君が逃げちゃったからシズクさん勘違いしちゃったわけかー」
「やれやれですわ」
事のあらましを聞いた防人組は納得している。
というかセッカさん、あんた途中で席離れたと思ったら何してたんですか。
と丹羽は思ったが当の本人は久しぶりに食べた豚骨ラーメンに満足して中で眠っている。
結局その後、誤解も解けたので解散となった。
あとなぜか弥勒夕海子とメールアドレスを交換することになったのは不思議だ。なんでも夏凛に何かあったら心配だから近況を教えてほしいらしい。
「芽吹さんは素直じゃないから気にしていますけど訊けませんのよ。ですからわたくしが教えて差し上げるんです」
という言葉に納得する。とりあえず本人が了承すればという条件付きでメールアドレスだけ預かることにした。
それにしても今日は思わぬ人と出会った日だなぁ、と丹羽は思う。
その後友奈から東郷の家を教えてもらった丹羽は玄関先でひたすら平身低頭して芽吹が勧めてくれたプラモとマーカーをエアブラシにする道具を贈った。
東郷はそれをいたく気に入り、特にダズル迷彩の榛名のことを話すと「天才か」と驚きすっかり気分がよくなっている。
どうやらこれで機嫌は治ったようだ。これからは東郷の機嫌を損ねた時は芽吹に相談するのも手かもしれない。
あとで友奈に仲直りしましたと連絡しておこう。そうすれば少しぎくしゃくしていたゆうみもも元通りのイチャイチャカップルに戻るはずだ。
日曜日が終われば数日で夏休みだ。
それまでにスミを東郷からこちら側に戻さなければ…。しかしどうやって自分の元に戻ってきてもらおう。
東郷もスミを気に入っているようだし、難しいだろうなと丹羽は頭を悩ませるのだった。
雀「いやー、思わぬところで勇者様に出会っちゃったねー」
芽吹「そうね。男の人でも勇者になれるなんて知らなかったわ」
しずく「本人は自分はイレギュラーって言ってた」
夕海子「ですわね。勇者システムなしでも変身できるなんて、ある意味すごいですわね」
雀「そう言えばメブ、あの子とプラモ屋で何話してたの? 仲良さそうだったじゃん」
芽吹「別に普通よ。ただあの子の先輩が好きなプラモについて教えてあげただけ」
3人「うわぁ…」
芽吹「え? なにその反応」
雀「メブさぁ…自分のプラモ好きが異常っていう自覚持った方がいいよ」
しずく「この前部屋にあるやすりやニッパーについてずっとしゃべってて国土、困ってた」
芽吹「ええ、嘘でしょ!? 亜耶ちゃん喜んで聞いてくれてたわよ」
夕海子「笑顔が引きつっていましたわよ。いくらあの娘がいい子だからって興味のない話を1時間もされたらそりゃ疲れますわよ」
芽吹「嘘…。私、亜耶ちゃんがプラモに興味を持ってくれたのかと思って今日プラモ買って来たんだけど」
雀「メブ…やっちゃったねぇ」
しずく「芽吹、骨は拾ってあげる」
夕海子「玉砕してきてくださいまし」
芽吹「そんなことないもん! 亜耶ちゃんプラモ好きなはずだもん! うわぁあああん」
結局プラモを渡したものの苦笑いされ、「わたしは作るよりも芽吹先輩の作った作品を見るのが好きです」と遠回しに断られたことにも気付かず、芽吹は喜んで自分用に買ったお城のプラモデルを宮大工の技術を使ったはめ込み式で接着材を使わず製作したのだった。