詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
丹羽君が偶然くめゆ組と遭遇したよ。
芽吹「プラモ、好きかい?」
丹羽「いや、それほどでも」
芽吹「そう…」(落胆)
丹羽「でもそんなにプラモに詳しいなんてすごいなー。あこがれちゃうなー」
芽吹「そ、そう?」
丹羽「もっと聞きたいなー。プラモのこと」
雀「オイオイオイ」
夕海子「終わりましたわね、あの方」
しずく「南無」
芽吹先生による初心者でも分かるプラモ講座(3時間ぶっ通し休憩なし)開催!
その日、勇者部の雰囲気はいつもと違った。
あと数日で夏休みに入るから?
否、それもあるが原因ではない。
東郷の足が奇跡的に治り歩けるようになったから?
否、それはとても喜ばしいことだが、それとも違う。
勇者部部員が浮足立っている理由、それは……。
「というわけで、みんな連絡がいっていると思うけど…今度大赦の所有する温泉施設で1泊2日の勇者部合宿を行うことになりました!」
風の言葉に部員全員が拍手をする。ちなみに黒板には大きく『夏合宿』と書かれている。
実は前日大赦からメールで連絡があり、12体のバーテックスを倒したご褒美として大赦所有の保養施設である海が近くにある温泉宿泊施設へ招待されたのだ。
期日は勇者部メンバーの都合のいい日とされており、融通が利くらしい。なので今日はいつそこに行くかという緊急会議が開かれたのだ。
「場所は海の近くだから海水浴もできるわよ! 遊びたい子は水着を持ってくること。おやつは好きなだけ持ってきてよろしい!」
「わーい!」
風の言葉に友奈が歓声を上げる。
「経費は全部大赦持ちだから遠慮することはないわよ! 思いっきり贅沢してやりましょう!」
「おー!」
夏凛以外の勇者部メンバーが手と声を上げる。大赦所属の勇者としては思うところがあるのかまだ勇者部のノリについていけないのか。
「で、いつにする? やっぱり早い方がいいかしら」
「待ってください風先輩。兵站は重要です。きちんと皆準備ができてからにしましょう」
「まったく、はしゃいじゃって。ばっかみたい」
「とか言いつつ夏凛、あんた前日は楽しみで寝れなくて行きのバスで寝ちゃうタイプでしょ。知ってんのよー」
「な!? 何を根拠にそんなこと」
「春信さん情報」
「あのバカ兄貴ぃいいい!」
ここにはいない兄に向かって夏凛が叫ぶ。勇者部メンバーにとって三好夏凛のプライベート情報はすでに丸裸同然だった。
「友奈ちゃん、今度一緒に水着を買いに行きましょう」
「いいよ、東郷さん。その時は私が…あ、もう車椅子必要なかったんだったね」
友奈はついいつもの癖で車椅子を押していこうと考えて、東郷が歩けるようになったことに少し寂しさを感じる。
「そうね。でもこれからは友奈ちゃんの隣に立って同じ目線で友奈ちゃんの見る景色を見ることができるわ。それが今は嬉しくて仕方がないの」
「東郷さん」
「友奈ちゃん」
「あら^~、ゆうみもてぇてぇ。やはりゆうみもは夫婦」
「丹羽くん、顔」
「おっとすいません」
「水着か。樹のはお姉ちゃんが選んであげるわよー」
「もう、お姉ちゃん! わたしも中学生なんだから、1人で選べるよぅ」
「夏凛は…去年と同じやつ着れそうだから関係ない話だったわね。ごめん」
「あんた、ケンカ売ってんの?」
「風先輩、夏凛ちゃんに失礼ですよ」
「そうですよ。いくら夏凛ちゃんが水の抵抗が少なそうな体系だからって」
「お、ケンカか? 買うぞ東郷」
「返り討ちにしてやるわ、夏凛ちゃん」
「あー、俺少し外に出てましょうか?」
「え、丹羽くん照れてるの? 意外」
「そりゃ、ね。女の子の水着の話とか、聞いてるだけでソワソワするというか、いたたまれないというか」
「アンタにもそんなところあったのね。てっきり目を輝かせて聞き入るかと思ってたわ」
「人のことを何だと思ってるんですか」
「変態」
「不審者」
「私の敵」
「えっと、変な人、かな?」
「なぜかあたしと友奈をくっつけようとする変人」
「ひどいや」
散々な評価に、丹羽は涙する。
「そういえば予定といえば夏休み勇者部の活動はどうします?」
「去年と同じくラインでやり取りして、出席できる人はする感じね。まあ、夏祭りの手伝いとかは去年と同じ日にあるからこの日はやめておきましょう」
「そうですね。あと帰省ラッシュの日もよくないのでこの日とこの日はやめておいて…。お盆はどうします?」
「あ、そうだ。お盆があったんだった。アタシと樹はこの日両親の墓参り行くから駄目だ。ごめん」
「私もです風先輩。東郷さんは?」
「私も。多分夏凛ちゃんもよね? だったらこの日は×と」
風の発言に東郷はカレンダーに次々と×印をつけていく。
「こうなると結構絞れてきましたね」
「ですね。あとはみんなそれぞれの予定を言って埋めていけば」
「そうだねー。そういえば樹ちゃんは遊びに誘われたんだっけ。丹羽君が断ったけど」
「え、あっ。はい」
その時のことを思い出したのか、樹の顔が赤くなる。
「みんなはクラスの男子とかと遊びに行く予定あるの? あったら遠慮なく言っていいわよ」
風の言葉に盛り上がっていた皆が急に静かになる。
「あ、ごめん」
「謝らないでよ、悲しくなるから!」
「いや、夏凛はともかく東郷は引く手あまただと思って」
「何でよ!?」
「私は友奈ちゃんさえいればそれで…」
「東郷さん」
見つめあうゆうみも。ごちそうさまです。
「丹羽くん、顔」
「あ、すみません」
どうやら尊さのあまりまた尊いモードになっていたらしい。丹羽は顔を引き締める。
「ってことは7月の終わりか8月の頭ね。それまでに皆準備しておきましょう」
「了解です!」
「あ、せっかくですからみんなで水着を買いに行きませんか?」
樹の言葉に風は驚いた。
樹…知らない間に先輩を誘ってお買い物に行くお誘いができるようになるなんて。成長したわね。
「私はいいよ。東郷さんは?」
「私は友奈ちゃんが行くなら」
「あたしもいいわよ…って、風。あんた何涙ぐんでるのよ」
「だって、樹の成長がうれしくって…おろろーん」
「うわ、面倒くさいシスコンね!?」
突如泣き出した風に夏凛が正直な感想を漏らしている。
「丹羽くんは?」
「え、俺?」
樹の言葉に、全員が「え?」と声を上げる。
「いやいや。犬吠埼さん、こういう買い物は女の子だけで行くものじゃないの?」
「だって男の子の意見も聞きたいし、勇者部1人だけ仲間外れっていうのもかわいそうですし。ねえ」
仲間外れというワードに友奈が反応した。
「そうだね。勇者部のみんなは仲間なんだから、仲間外れとかよくないよね!」
「ちょ、ちょっと友奈ちゃん?」
「まあ、アタシは樹がいいなら別にいいわよ。夏凛は?」
「あたし? うん。あたしもみんながいいなら」
賛成3、中立1。反対派の東郷には旗色が悪い。
ここでもし強固に反対すれば友奈の印象が悪くなるので東郷としてはそれは絶対に避けたい。
仕方ない。ここは賛成して丹羽を友奈に近づけさせないよう自分が頑張ろう。
「友奈ちゃんがいいなら私から言うことは何もないわ」
「だって、丹羽くん。一緒に来てくれるよね?」
樹の言葉に丹羽はタジタジだ。だが「一緒に行こうよー」とナチュラルにボディータッチしながら言う友奈の押しの強さもあって最終的には同行することになった。
「まあ、それはそれとして東郷先輩。夏休みに入る前にちょっと調べたいことがあるんですが」
水着を買いに行く日取りを決めた後、丹羽が東郷に言う。
「なに、丹羽君?」
「東郷先輩が歩けるようになった理由です。他に何か変わった症状はありませんか?」
丹羽の言葉に東郷は言おうか悩んでいた毎夜見る夢について話すことにした。
「スミちゃんと一体化してから、なんだか懐かしい夢を見るようになったわ。多分、私が記憶を失くしていた間のことだと思う」
東郷の言葉に勇者部全員が聞き入る。
「そこで私はスミって呼ばれて、スミちゃんと同じ顔をした女の子ともう1人誰かはわからないけど友達がいて。遊んだり授業を受けたりといろいろしていたわ」
「なるほど…その2人の名前は?」
「わからないの。名前の部分だけ砂嵐がかかったように聞こえなくて。私が名前を呼ぼうとしても名前が思い出せなくて夢が途中で終わっちゃうから。最近では下手に介入しないで夢を見るままに任せているわ」
東郷の言葉を聞いて、丹羽は考える。
おそらくスミの記憶…インプットしたゆゆゆいの銀ちゃんの記憶かこの世界の銀ちゃんの記憶が夢として東郷さんに流れ込んでいる?
もしくはスミと一体化したことで満開の後遺症が回復してきているのだろうか?
前者と後者では決定的に違う。
後者だとしたら非常に喜ばしいことだが、前者だった場合それはこの世界の東郷の記憶を汚染しかねない。
早急に手を打たねば。
「セッカさん」
『はいよー』
丹羽の言葉に精霊のセッカが宙に現れる。
「東郷先輩。その夢が本当に東郷先輩の記憶なのかスミの記憶なのか確かめるために、しばらくスミの代わりにセッカさんを中に入れて生活してみてください。もし東郷先輩の足が治ったのが俺の精霊のせいなら、セッカさんでも問題はないはずですから」
「え、でも…」
丹羽の提案に東郷はどこか消極的だ。
足がまた動かなくなるかもしれないという恐怖もあるのだろうが、1番の理由はスミと離れたくないというのもあるのだろう。
だが、理論を確かめるには必要なことだ。ここは心を鬼にしてやってもらわなければ。
「スミ。今度イネスでしょうゆ豆ジェラート買ってやるからこっち来い」
『イネス!? イネス行くのか!?』
イネスという言葉に反応して東郷の胸から出てきたスミをつかんで捕獲すると、入れ替わりにセッカを東郷の中にいれる。
「東郷先輩、どうですか? 歩けます?」
「ちょっと待って」
東郷はその場で立ち上がり、数歩歩いてまた椅子に座る。問題はないようだ。
「問題はないみたいですね。では、しばらくスミは俺が預かります。もしまた同じような夢を見るようならそれは多分、東郷先輩の記憶が戻りかけている証拠だと思いますので安心してください」
『テメー! だましたな!』
スミが丹羽の手の中でバタバタと暴れている。
「だましてないよ。今度イネスに行くからその時好きなだけ頼んでいいぞ」
『絶対だぞ!』
そう言うとスミは丹羽の中へ帰っていった。それを見て東郷が「ああっ」と残念そうに言う。
「東郷さん、スミちゃんのこと好きなんだね」
「ええ。丹羽君さえよければ夏休みの間も一緒にいたいくらいよ」
「俺もできればそうしたいですけど、スミの記憶と東郷先輩の記憶が混じったものが夢として表れているなら、多分東郷先輩の記憶が戻る妨げになると思いますし。もう1人の女の子のことも気になります」
「そうね。他に何か情報はないの東郷?」
「それが、夢は断片的の物ばかりで…。具体的な地名とか学校名はわからないんです」
風の質問に夢の内容を思い出しながら東郷は言う。
「まあ、夢なんて起きたら半分は内容を覚えてないようなもんだしそこらへんはしょうがないわよ」
「そうですよ東郷先輩」
珍しく東郷に対してフォローをする夏凛に続く樹。その言葉を聞いて、東郷も「ありがとう」と声を返す。
よし、これでスミの回収はできた。これでいつでも乃木園子に会いに行ける。
「もしなにかあったら俺に連絡してください。大丈夫だとは思いますが、また歩けなくなったという症状が出たらすぐ飛んでいきますから」
「ええ、わかったわ」
こうして1学期最後の勇者部の部活動が終わり、夏休みへ突入した。
病室を訪れるとすぐさま平伏してきた大赦の最高責任者とお付きの大赦仮面たちに園子は面食らった。
「えっと、何?」
「申し訳ございませんでした!」
最高責任者の声に続き、大赦仮面たちもそれぞれ「申し訳ございませんでした」と謝罪の言葉が続く。
えぇ…いったい何やらかしたの?
この人たちが総出で来るということは、よほどのことだ。
その尻ぬぐいを自分にさせる気なんだろう。そう考えて面倒だなぁと思っていた園子は、次に続いた言葉にさらに驚くことになる。
「私が、いえ、私たちが勇者である貴女様に行った非道の数々、とても許されるとは思っておりません」
「へ?」
え、何いきなり。よっぽどひどいことやらかしたの?
まさかこの前の7体同時にバーテックスが襲来した時よりも危険な事態なのかと園子は身構えるが、驚くことに大赦の最高責任者は仮面を外しその素顔を見せた。
「大赦を預かる身として…いえ、1人の人間、大人として子供である貴女様を軽んじ、道具のように使おうとしていた非道。本来なら大人である私たちが子供である貴女を守るべき立場なのに、申し訳ございませんでした」
続いて大赦仮面たちも仮面を外し、申し訳ございませんでしたと平伏する。
「えっと。で、具体的にわたしに何をやらせたいの? どうせまたバーテックスが出たんでしょ」
「いえ。バーテックスは勇者様が倒した7つの御霊を持ったものを最後に当分は出てこないという神託が巫女の予言で出ております。次に来るのはおそらく1月ほど後かと」
「そっか。そのバーテックスが強敵なんだね」
「いえ。普通の巨大バーテックスです。しかも御霊なしのもどきなので御霊を持つバーテックスを倒した勇者様方なら苦戦することはないかと」
え、じゃあこの人たち本当に何しに来たの?
園子が困惑して防人隊の報告に来ていた安芸を見る。彼女も困惑しているようだった。
「今日ここに来たのはお暇を言う前に今まで我々が行ってきた非道に対する謝罪をするためです」
「え、本当に謝りに来ただけ? ってお暇ってどういうこと?」
「はい。実は我々、この度のお役目を最後に役職を退き、後進に道を譲ろうと考えておりまして」
その言葉に園子は別のことに思い至る。なるほど、大赦という組織は相当やばいらしい。
上にいた役職の物が全員辞めざるを得ないほどのことが大赦内で起こっているということだろう。
沈む船には乗っていたくはないと乗組員が我先にと逃げ出そうということらしい。まったく、呆れたものだ。
冷めた目で見ていると、安芸が大赦の最高責任者に詰め寄る。
「待ってください、いきなりこの場にいる全員が辞めるのですか?! それはあまりにも無責任では」
「もちろん引き継ぎは致した上で円満に退職するつもりです。大赦を勇者様たちをサポートする健全な組織として運営するために、我々の存在は害悪にしかなりませんので」
どの口が言うのか…。耳障りのいい言葉を言っているが結局は逃げ出したいだけではないか。
園子が呆れていると、次の瞬間耳を疑う言葉が飛んできた。
「つきましては今私が付いている最高責任者の座には園子様。成人するまでの後見人に防人隊の功績を鑑み安芸さんを推薦したいのですが」
「えぇ!?」
どういうことだと園子は思う。
最高責任者には自分の息のかかった人間を据えると思っていたのに、よりにもよって自分と後見人に安芸を置くという。
それは生殺与奪の権利を自分たちに預けたということだ。もしその役職に園子と安芸が就いたら、目の前にいる人物たちを四国の外へ追放したりもできるのだ。
とても正気とは思えない。
「あの…貴方は自分が何を言っているのかお分かりなのですか?」
同じことを思ったのか、安芸が最高責任者に問いかける。
「もちろんです。この程度のことで我々が犯してきた大罪が許されるとは思っておりません。いくら四国にいる人類すべてを守るためとはいえ、子供3人に丸投げして自分たちは安全な場所にいるなど恥ずべき行為です」
「その通りです。もっと勇者様をお支えしなければならなかったのに」
「我々がやったことと言えば訓練施設を提供し、大赦が保有している施設で勇者様方をおもてなししただけ」
「もっとメンタルケアや対バーテックスの研究。勇者様方のサポートができたはずなのに」
「あまつさえ自分の身可愛さに三ノ輪様の死を偽装し、四国の外へ捜索隊を派遣しないなど愚の骨頂でありました」
「しかも満開の後遺症を隠すなど勇者様たちの皆を守るという覚悟を侮辱する行為以外のなにものでもありません」
「園子様の今のお姿も元をただせば我々のせい。ただいまそれを治す方法を全力で調査中であります」
「この場で首をはねられても文句の言えない所業でありました。申し訳ございません」
最高責任者を皮切りに次々と謝罪する大赦仮面の言葉に園子と安芸は目を白黒させる。
え、この人たちどうしたの? 何か悪いものでも食べた?
自分が知る大赦の大人たちが絶対言わないようなことを連発して言う大赦の要職にいる者たちの言葉を園子はにわかには信じられない。
何か裏があるのではないか?
だが、こちらに生殺与奪の権利を預けたうえで謝罪することで向こうにどんな得があるのか、考えても理解できない。
こんなことをするのはよほどの馬鹿なのか、真剣に謝罪したいのかどちらかだ。
『だから、これは俺の罪滅ぼし。君たちに今はまだ信用されなくていい。だから今度は信用されるようにちゃんと形にして君たちに見せることにするよ』
その時園子の脳裏に浮かんだのは、あの人型バーテックスの言葉だった。
『俺にとって、君たち女の子…もとい子供たちが笑顔でいられる世界はそれだけで尊いんだ。君たちが笑顔でいてくれることが、俺にとっての得なんだ』
あのバーテックスは園子に信じてもらえないのに須美や銀たちが待ち受けるという運命から救おうとしてくれた。
仇どころか傷を負った銀を治療し、2年間守ってくれた恩人だったのだ。
それを知らず攻撃してくる自分に一切反撃せずに銀が無事だと伝えて保護していた場所まで導いてくれた。
今になって思う。なぜ彼のことを信じられなかったのだろう。
人類の敵であるバーテックスだから? それもある。
だが、自分の周りにいた大人が信用できない。きっとこいつもそうだという園子の思い込みが根底にあったことは否めない。
もし銀と園子の立場が逆だったら、銀はあのバーテックスと協力して園子を救おうとしただろう。
自分以外を信じるということは、彼女にできて自分にはできなかったことだからだ。
この人たちを信じるべきだろうか?
頭ではありえないとわかっている。だが、今までの経験が、心が信じてみてもいいんじゃないと告げていた。
「貴方たちのことは、正直今でも許せません」
園子の言葉に、平伏する大赦の要職にいる人間たちは沈んだ様子だ。
「防人の子たちを捨て石呼ばわりしてわたしたちが勇者になるために利用していたこと。いろいろ秘密にしてわたしたちに教えなかったこと。言い出したらきりがありません」
「乃木さん」
それに加担していた時のことを思い出したのか、安芸の表情にも陰がさす。
「だから、信じさせてください」
園子の言葉に、大赦の要職にいる人間たちが顔を上げる。
「わたしが信じるに値すると判断できるような証拠を見せてください。言葉だけでなく、行動で信じさせて。もしそれができなければお望み通りその首をはねてあげます」
その言葉に再び平伏し、「ははーっ!」と声を上げる。中には涙を流している者もいる。
そうだ。今度は同じ失敗を繰り返さない。
あのバーテックスと違うのは、言葉を交わせる同じ人間だということだ。
人ならざる人類の敵だって自分を助けてくれようとしたのだ。
だったら、急に人間が心変わりして勇者を助けてくれたっておかしくない。
そしてそれが本当かどうか、判断し見極める目を自分は持っている。
もしそれが言葉だけで何かたくらんでいたら、その時は…。
その後大赦の要職にいる者たちは自分たちの言った言葉に責任をとるとして今の役職でできるだけのことをすると約束し、大赦へと帰っていった。
ちなみに安芸も大赦の要職に就くよう誘われたのだが、断っていた。
今は防人隊の子たちが生徒で、自分はただの教職者なのだと。
その言葉にうらやましいなぁと園子は思う。
自分も彼女の教え子とはいえ、できれば今の安芸のようにもっと近く接してほしかった。
もっとも、それは過ぎたことでないものねだりなのだが。
それと同時に今までで禁止されていた勇者たちへの接触も許された。
理由は現在勇者たちは勇者アプリを大赦に返上し、一般人であること。
そして保護している昏睡状態の三ノ輪銀に対して良い影響を与えるかもしれないという判断からだった。
これで何の障害もなく鷲尾須美…いや、東郷美森と会える。
彼女は自分のことを憶えていないだろう。自分の知らない過去に困惑するかもしれない。
だが、もし銀が目を覚ますきっかけになってくれれば。また3人一緒にいられるかもしれない。
あの人型のバーテックスが望んだように。
なんて、気が早すぎるよね。と園子は自嘲する。
とにかくまずはわっしー…いや、東郷さんか。彼女と会うための日取りを決めなければ。
それと丹羽明吾というイレギュラーな勇者にも一緒に来てもらおう。ひょっとしたら彼の精霊もミノさんが目を覚ますきっかけになるかもしれない。
園子は考える。三ノ輪銀が意識を取り戻し、3人また一緒にそろう日のことを。
その時はまず、ミノさんに料理を教えてもらおうかな。
別れる前交わした約束のことを思い出し、1人微笑むのだった。
園子「ミノさん、もうしばらくしたらわたし、わっしーに会えるんだ」
まだ目を覚まさない三ノ輪銀に向かって園子は言う。
園子「て言っても向こうはわたしやミノさんのことも憶えていないし、わっしーって呼んでも困らせるだけかも」
言葉を投げかけても受けとる相手はいない。ただそれでも園子は投げ続けるだけだ。
園子「東郷美森。今のわっしーの名前だって。東郷さん、みもりん。うーん、いいあだ名が思いつかないなぁ。ミノさんどう思う?」
三ノ輪銀は答えない。病室には呼吸音と機械の音がしているだけ。
園子「じゃあ、また来るね、ミノさん。大好きだよ」
いつもの言葉を告げて、車椅子の車輪を回して扉の前まで行くとノックをする。
それからお付きの大赦仮面に車椅子を押され自分の病室に戻り、ベッドへと運ばれた。
わっしーに出会ったら何を言おうか。記憶がなくてもまた友達になってくれるかな?
それを考えるだけで、いつ銀の目が覚めるかと沈んでいた気持ちが、少しは上向きになるのだった。