詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
大赦仮面「今まですみませんでしたー!」
園子「謝罪は言葉ではなく。誠意」
大赦仮面「三ノ輪様の治療と散華の治療法を全力で探します」
園子「それから?」
大赦仮面「接触禁止していた現勇者たちとの接触を許可します」
園子「で?」
大赦仮面「これからは自分たちの昔の行いを悔いて償っていきたいと思います」
園子「なるほど。わたしは許そう」
大赦仮面「ほっ」
園子「だがこいつが許すかな!」
烏天狗『』
大赦仮面「ヒエッ」



樹ちゃんの悪だくみ

「今日はわたしのお願いを聞いて集まってくれてありがとうございます」

 夏凛が住むマンションの部屋を訪れた樹はそこに自分以外の全員がそろっていることを確認し、頭を下げる。

 そこにいたのは勇者部2年生組の友奈、東郷、そして部屋の主である夏凛の3人だ。

「いいよいいよー。樹ちゃんのお願いだったら全然聞いちゃう」

「私も友奈ちゃんと同じよ。いつでも頼って」

「だからって、なんでうちが会場なのよ」

「すみません。うちだとお姉ちゃんがいるので」

 樹の言葉にここにいない風ともう1人の部員のことを考える。

 あの2人絡みの相談だろうか? どんなことか想像もつかない。

 3人が樹の言葉を待っていると、樹が床に座り、一息ついた。

「実はわたし…もう限界なんです」

 ん? なにが?

 3人の頭に?マークが浮かぶ。

「お姉ちゃんと丹羽くんがいつくっつくのか、横から見ていてもうイライラして限界なんです!」

「えぇ!?」

「はあ」

「へ?」

 樹の言葉に友奈は目を輝かし、東郷はそんなことかというように呆れ、夏凛は訳が分からないというような声を出していた。

「傍から見てたらこいつら絶対付き合ってるだろ? っていうようなことずっとやってるんですよ? なのに本人たちに聞いても恋愛感情はないの一点張りで、もう限界なんです!」

 もう耐えられないというように樹は顔を手で覆ってうつむいている。

「え、それが今日集まった理由?」

「あの2人ならそうなっても不思議ではないわね」

 樹が2年生組を集めた理由のしようもなさに夏凛が呆れていると、東郷がさもありなんというように納得している。

「え? 風先輩と丹羽君ってそうなの? ねえ、樹ちゃん。どんなことしてるの?」

 一方で身近な相手の恋愛事と訊いて友奈は1人盛り上がっている。

 結城友奈、14歳。人並みに恋愛事に興味津々な中学2年生、思春期であった。

「この前なんか、こんなことがあったんですよ」

 と、樹は先日あったことを話し出す。

 

 

 

「ねえ、丹羽? アレどこやったっけ?」

 それはいつものように夕飯を食べ終えた時だった。

 先に夕食を完食し、洗い物をしていた風がまだ食べている丹羽に台所から声をかけてきたのだ。

「アレですか? たしかこの前見たとき右上の戸棚にありましたよ」

「そっかー。あ、あった! ありがとー」

 風が右上の戸棚から新しい詰め替え用の洗剤を出す姿に、樹は思わず手に持っていたリモコンを落としかけた。

 ちょっと、あの2人アレソレで会話が成立してるんですけど?

 熟年夫婦!? っと心の中でツッコんだが、それだけで話は終わらなかった。

「ごちそうさまでした。今日もおいしかったですよ」

「はいはい。そう言ってもらえるとこっちも作り甲斐あるわ」

 食事を食べ終えた丹羽が精霊のナツメの分も合わせて食器を洗い場に持っていく。

 これだけなら問題はない。

 問題はその後ごく自然に風が洗い終えた食器を受け取り、布巾で拭いて食器を元の場所に戻していたことだ。

 丹羽くんいつの間にうちの食器の場所把握してたの!? と樹は驚愕する。

 その様子を樹はテーブルに座りながらじっと見ていた。妹なんだからお前も手伝えというツッコミは受け付けない。

 見ていると次々に風が洗った食器を丹羽が布巾で拭いていく。時々絞り水を切るのも忘れない。

 呼吸が合っているというか、もはや職人技の域に達している。まるで長年連れ添ったパートナーのようだ。

 途中で丹羽が電子レンジに水を入れたコップを入れてスイッチを入れた。

 コーヒーでも飲むのかと思って見ているとちょうど温めが終了する時間に食器洗いが終わる。

 すると風が鍋を洗おうと別のスポンジに洗剤をかけて泡立てている間に、丹羽が電子レンジを開けてコップを取り出してお湯になった液体をフライパンに注いでいた。

 後でそれについて訊くと動物性の脂は冷たくなると白く固まり洗剤で落としにくいのでお湯を注いで溶かして洗いやすくしていたらしい。

 できる主婦の裏技だ! と思わずツッコみかけたがあまりに自然にやっていることから今回が初めてでないことは明らかだった。

「丹羽ぁ」

「はい」

 風の声を聞くと丹羽がコップとインスタントコーヒーの瓶を用意していた。

 電子ケトルを風に渡すとそれに水を入れ、再び丹羽に渡す。受け取った丹羽は蓋を閉じてスイッチを押し、砂糖の入ったプラスチックの容器を開ける。

「ふぅー。洗い物終了!」

「お疲れ様です。犬吠埼先輩」

 手をタオルで拭う風に、丹羽は温かいコーヒーを渡す。それを1口飲んで、風は、「うん、この味ね」と満足しているようだ。

 お姉ちゃん好みの味のコーヒーの作り方を覚えてる!?

 しかも食事終わりにコーヒーを飲む習慣まで把握しているとは、もう家族以上に家族じゃないの?

「ね、ねえお姉ちゃん、丹羽くん」

 樹は恐る恐る2人に質問する。

「2人はもしかして付き合ってるの? わたしに遠慮とかいらないから正直に言って」

「え? いやねぇ、樹。こいつは弟みたいなもんだって」

「そうですよ犬吠埼さん。俺はそんな百合の間に挟まるみたいな不粋なまねはしませんって」

 と言いつつ風に隣の部屋にあったはずの糸ようじを箱から取り出して渡している。

 食後のルーティーンまで把握してるの!?

 驚いている妹を不思議そうに見ながら風は食後の歯のケアをしていた。

 一般的に女性は男性にあまり口を開ける姿を見せたがらない。それを見せるということはかなり心を許しているという証拠だ。

「じゃあ、俺は自分の部屋に帰りますけど、ナツメさんはどうします?」

『私はもう少し風と一緒にいる』

「ですか。じゃあ、気が済んだら帰ってきてくださいね」

『ん、分かった』

 そう言うと丹羽は隣の部屋へ帰っていく。

『風、いつもの。いいか?』

「はいはい、どーぞ。お膝は空いてますよ」

 風の言葉にナツメは膝の上に乗り、胸を枕にするとすぐにスヤァ…と眠りにつく。

 これがここ最近の犬吠埼家の夕食後のいつもの光景だった。

 

 

 

 樹から話を聞いた3人は、言葉を失っていた。

 自分たちが想像していた以上の熟年夫婦っぷりだったからだ。

「ちなみに丹羽くんはお姉ちゃんが名前を呼ぶ声の調子だけで今日の飲みたいものがコーヒーか紅茶か緑茶かわかるようです」

「丹羽はエスパーか何かなの?」

 夏凛の疑問に友奈と東郷も同意する。

 そこまで行くと夫婦というか、双子とかそういうレベルだ。以心伝心ってレベルじゃない。

「もう最近ではナツメさんがお母さんに甘える子供にしか見えなくて…。隣の部屋に帰るのもお父さんが書斎にこもる感じなのかなって」

「あー。なんか昔の古き良き日本の家庭っぽいイメージだね」

 目を輝かせる友奈に、樹はうなずく。

「そうなるとわたしって何なんでしょうね…。熟年夫婦の家に居候している叔母、いや行き遅れの妹」

「樹ちゃん駄目! それ以上はいけない!」

「樹、この件に関してはあんたは全然悪くないわよ!」

 ダークサイドに落ちそうな樹を必死に東郷と夏凛が説得する。そんなになるまで追い詰められていたのか。

「話を聞く限りイチャイチャはしてないみたいだけど…恋人のその先みたいな感じになってるね」

「ええ、しかも本人たちはお互いに付き合っていないと言っているからタチが悪い」

 樹の話に友奈、東郷が意見を述べる。

「いや、これそういう問題なの? 自覚してないだけで付き合ってるんじゃ」

 夏凛が持論を述べると、樹が「そうなんです!」と詰め寄ってきた。

「こんな相性ピッタリな姿を見せられたら、お姉ちゃんが他の男の人と付き合っている姿が想像できなくて」

「あー。なんとなくわかるわ。部活でも息ぴったりよねあいつら」

「基本的に丹羽君は勇者部の皆と息ぴったりだよ。東郷さんや夏凛ちゃんとも」

「友奈ちゃん。冗談でもそれはやめて」

「ちょっと、東郷はともかくあたしは違うでしょ」

 友奈の言葉に東郷、夏凛は否定する。

「私はともかくってどういうこと、夏凛ちゃん」

「だって東郷と丹羽って言動が似通ってるし」

「どこが!?」

「気付いてないの? あいつが百合イチャをこじらせた時と、友奈に他の人間が近づいた時のあんた、ほとんど同じこと言ってるわよ」

 夏凛の言葉に東郷はわかりやすく落ち込んだ。

「そんな…私、あんなふうになってるの?」

「いえ、東郷先輩は友奈さんが好きすぎるだけで丹羽くんほどでは…その」

「いや、同じじゃない。好きなものに夢中っていう共通点もあるし」

「嘘、私あんな顔をしてたの? ああ、だめ。友奈ちゃんに嫌われちゃう」

「そんなことないよ、東郷さん。嫌いになるなんてありえない」

 友奈の言葉に「友奈ちゃん!」「東郷さーん」と2人抱き合っている。はいはい、仲のいいことで。

「それにどつき漫才っていうの? あたしが見てもやばいってわかる攻撃を受けてピンピンしてるのあいつだけだし」

「あー。あれは丹羽君にしかできないよねー」

「友奈ちゃん!?」

 東郷が歩けたときに丹羽に放った手加減ゼロの攻撃を思い出し、友奈が苦笑いした。

 本人としては最初軽いお仕置きのつもりだったのだが全然応えない丹羽に対して段々とエスカレートしていき、現在のちょっと過激などつき漫才ならぬドギツイ漫才となっている。

「でも丹羽君、気が利くよね。東郷さんが車椅子だった時も自然な感じでフォローしてたし、私や夏凛ちゃんが運動部の助っ人に行ったときはタオルやドリンクの差し入れをしてくれるし」

「まあ、そうね。しかもちょうど欲しいと思ってるタイミングだからこっちも助かるというか」

 友奈の言葉に夏凛も同意する。

「変に出しゃばらないところもありますよね。東郷先輩がいる時は丹羽くん友奈さんになにもしないし、夏凛さんの時はお姉ちゃんか友奈さんを優先的に任せますし」

「そうなの!?」

「ええ、そうなのよね…憎らしいことに」

 樹の情報に夏凛が驚いている。対して東郷は苦々しい表情をしながら同意していた。

 それによって東郷が恩恵を受けている面もあるので嫌うに嫌えない。そんなところだろう。

 それもこれも乙女ゲーをやっていた丹羽のいい人ムーブのせいなのだが推しの彼女たちに喜ぶ顔が見たいと日々精進している結果でもある。

 要するに丹羽明吾は勇者部の皆を贔屓していた。

「わたしが危惧しているのはお姉ちゃんの男性基準が丹羽くんになって、一生彼氏できないんじゃないかってことで」

 樹の言葉に3人は考え込む。

 確かに同年代で丹羽のように気を使える人間を見たことはない。

 もしそれが当たり前になってしまったら風が今後付き合う男のハードルはかなり高くなるだろう。

 食事を割り勘にしようとしたら器量が小さい男だと思うだろうし、食器洗いを手伝わない男には気が利かないと思い不満を抱く。

 これではたとえ男と付き合っても長続きしないはずだ。

 だがこれは勇者部全員にも言えることだ。

 丹羽は勇者部部員全員に等しく親切に接している。

 その親切の度合いが人より大きいくせに細やかだ。かゆい所に手が届く。

 これで本人は相手に恋愛感情や下心は全くないと言っているのだからタチが悪い。

 東郷としては下心があるとわかっている方が丹羽を嫌えるし、戸惑いなく排除できる。

 樹も姉に恋愛感情を抱いているとなれば応援するか、もしくはお姉ちゃんと男の人が付き合うのはやっぱり嫌だと反対もするだろう。

 だが、丹羽の行動はあくまで優しさの延長であり親切の押し売りである。

 それがわかっている分、勇者部メンバーとしても強く批判できない。

 なぜなら勇者部にそんな人間の見本のような人間がいるからだ。

「ん? どうかした? みんな」

 自分を見つめる6つの瞳に、友奈はきょとんとした。

「いや、丹羽があんなのなのはあんたの影響なのかなって思って」

「それはないわ。彼、最初会った時にも1人変身できない私を気遣ってくれたもの」

「そういえばそうだったね。乙女座の爆風から私と東郷さんを守ってくれたり、東郷さんを突撃してきた見たことないバーテックスから身を挺して守ったり」

「え、なにそれ初耳なんだけど」

「そういばあの時夏凛さんはまだいませんでしたね」

 訳も分からず樹海に飛ばされ、乙女座の巨大バーテックスと戦った初戦闘のことを友奈、東郷、樹は思い出す。

「あの時は1人変身できない私の気持ちを察していろいろ言ってくれたわ」

「そうだね。大赦から来た人に東郷さんも含めて勇者部4人で一緒に戦ったって言ってくれたし」

「あの言葉がなければ私、自分のふがいなさから風先輩に八つ当たりしてたかもしれない。なんで勇者部に誘った時にこうなるかもしれないって教えてくれなかったんですかって」

「そういえば結果的にですけどお姉ちゃんにもフォローしてましたよね。一緒に大赦の悪口言ってただけですけど」

「ええ。でも考えてみてももっともなことばっかりだったから。大赦という組織が行っていた人任せのずさんさを丹羽君の言葉が白日の下にさらしたという感じね」

「い、今はそんなことないから! ちゃんと勇者のフォローもしてくれるし、まともな人も増えたわよ」

 大赦側の勇者として思うところがあったのか、夏凛が必死にフォローしている。

 というか夏凛としても昔の大赦の大人に対して腹に抱えるものの1つや2つあるのだが、最近の大赦は変わりつつあった。

 少なくとも勇者や防人を道具扱いする人間はいない。大赦に行っても聞いているのも嫌な話を大っぴらに話す大人はいなくなったし、逆に自分たち勇者を気遣う人間が増えたように思う。

 それは丹羽がバーテックス人間を大赦に送り込んだ影響なのだが彼女は知らない。

「話が逸れましたが、わたしとしては丹羽くんに責任を取ってほしいわけです」

 樹この言葉に3人はごくりと生唾を飲む。

「せ、責任って?」

「ひょっとして風先輩と丹羽君が付き合うの?」

「部活内カップルとか正直どうかと思うんだけど…まあ風が幸せならいいわ」

「違います。丹羽くんはいい人だけどお姉ちゃんの彼氏としてはわたしはノーセンキューなので」

 ん? と勇者部2年生組は首をひねる。

 あれ、そういう話の流れじゃなかったっけ?

「お姉ちゃんにちゃんとした彼氏ができるまで、丹羽くんには責任を取ってお姉ちゃんの女子力アップに協力してもらいます! そしてお姉ちゃんが結婚できなかったときは責任を取ってもらってもらう!」

「えぇ…」

 それはキープという意味だろうか。

 割と最低な樹の提案に、どうツッコむべきか3人は考える。

「というか、それくらいの責任を取ってもらわないと割に合わないです! 目の前でいちゃつかれるこっちの身にもなってほしい」

 あ、そういえばそういう相談だったな。

 樹の境遇を思い出し、そういうことを考えるのもやむなしかと3人は思い直す。

「で、今日あたしたちを集めたのはどういう理由なのよ。まさかその愚痴を聞かせるためじゃないでしょうね」

「それもあります」

 夏凛の言葉に樹はうなずく。あ、それもあるんだ。

「今回集まってもらったのは、今度水着を買いに行く時に丹羽くんにお姉ちゃんを意識してもらおうと思って。皆さんにはその協力を」

「え、どういうこと? 樹ちゃんは風先輩と丹羽君の無自覚ないちゃつきに困ってるのよね?」

 自分の首を絞めるとしか思えない樹の提案に、東郷が疑問を口にする。

「東郷先輩。丹羽くんは勇者部のみんなに優しいんです。つまりお姉ちゃんだけが特別じゃない。友奈さんを例にすれば分かりやすいと思います」

「友奈ちゃんとアレを同一視するのは腹立たしいのだけど大体わかったわ」

 樹の言うことももっともだ。

 もし立場が違えば風以外の勇者部メンバーともそういうことになっていたという可能性もあるということだろう。

 風と親密なのはただ単に家が隣という環境で距離感が物理的に近いのと風の女子力(お節介)のせいだ。それがなければ他の勇者部メンバーと親密になっていたかもしれない。

 隣にいる攻略王こと友奈のように。

「だから、もし丹羽くんに好きな人ができたら、多分お姉ちゃんから離れていきます。そうなる可能性をつぶすため、ある程度は意識してもらわないと」

 この妹、策士だ。

 純真だと思っていた樹の思わぬ腹黒さを垣間見て、2年生組は驚く。

「最悪お姉ちゃんが着替えている更衣室に丹羽くんを放り込めばOKなので、皆さんにはご協力いただきたく」

「ちょ、ちょっと何よその無茶苦茶な作戦は」

「あくまで最悪の場合です。要は丹羽くんにお姉ちゃんも1人の女だとわかってもらえればいいんです」

 樹は悪い顔をする。今まで2年生組に見せたことのないような顔だ。

「大丈夫です。少女漫画を見て予習してきましたから。要はいつもと違う環境でドキドキハプニングがあれば2人は急接近する。それがお約束ってものです」

「それって失敗した後気まずくならない?」

 友奈の疑問に樹は答える。

「東郷先輩、友奈さんとドキドキハプニングがあったら未遂でも気まずくなりますか?」

「いいえ、むしろ悔しがるわ! そして嬉しい!」

「そういうことです」

「いや、どういうことよ」

 夏凛がツッコむ。当の友奈は頭に? マークを浮かべたままだ。

「丹羽君と私は違うと思うよ?」

「はい、わかってます。でも要は意識させればこっちの勝ちなんです」

「友奈ちゃんとドキドキハプニング…フヒヒ」

「東郷、戻ってこーい。顔が不審者の時の丹羽みたいになってるわよ」

「え、嘘っ!?」

「本当。鏡見る?」

「あはは、たしかに東郷さん丹羽君そっくり!」

「いやー!」

「あの、話を続けていいですか?」

 顔に怒りマークを付けた樹に3人は「はい」と神妙に返事をする。どうやらおふざけは今必要ではないらしい。

「とにかく、今回わたしが皆さんに依頼したいのは自然な流れで丹羽くんにお姉ちゃんも女だってことを意識させること。ただの世話好きな隣のお姉さんじゃダメなんです!」

「えー、あたしは別に今のままでいいと思うけど」

「夏凛さん。今度うちに泊りにきてください。見るのも嫌になる本当の熟年カップルぶりを見せてあげますよ」

 なんだか樹が某グルメ漫画みたいなことを言い出した。

「無理にくっつける必要はないんじゃないかしら」

「東郷さん。協力してあげようよ」

「そうね。かわいい後輩の頼みだもの」

 難色を示していた東郷だったが、友奈の一言で意見を180度変えた。ちょろい。

「樹…付き合いの短いあたしが言うのもなんだけど、あんたなんか丹羽に似てきてない?」

「あ、それ私も思った。悪いこと考えてる時の丹羽君そっくり!」

「そうね。最初に風先輩に紹介されたときはもっと純真だったのに」

「3人とも、発言には気を付けてください」

 3人に言われ、心外だと樹は言う。

 3か月も経てば人間は変わる。断じて自分はあの百合イチャ好きの影響を受けていない。

 …多分。

「じゃあ、細かい作戦を詰めていきましょう。とりあえずわたしはこんな作戦を考えてきたんですが…」

 そう言って樹は事前に少女漫画を見て参考にした作戦を3人に説明する。

 だが樹は知らなかった。丹羽の百合男子を貫く鋼の精神力を。

 そして相手もいつもと違う環境でのハプニングで起こる百合イチャを観察するために独自に作戦を立てていることも。

 

 

 

「ただいまー」

 自宅のマンションの一室に帰って来た樹は、姉の返事がないことを不審に思う。

 中に入ると、どうやら昼寝をしているようだ。部屋の様子を見るにさっきまで掃除をした後洗濯ものの取り込みをしていたのだろう。

「あっ」

 その取り込んだ洗濯物とは別に見慣れない紙袋を部屋の隅に見つけ、眠っている姉に気づかれないようにこっそりと中身を確認する。

 それは丹羽が風の誕生日にプレゼントした服だった。

 今まで着ているところを見たことはなかったが、これを出したということは今度の買い物にこれを着ていくつもりなんだろうか。

 ひょっとしたらわざわざこういう日のために今まで袖を通さなかったのかもしれない。そんな姉の姿がいじらしい。

 彼女の方がよっぽど少女漫画より少女漫画している。

 樹はそんな姿を見て、改めて思う。

 待っててねお姉ちゃん。お姉ちゃんが幸せになるために丹羽くんにお姉ちゃんを意識させるから。

 ちなみにそんなことをしなくても当の丹羽は樹が思うよりも風に幸せになってほしいと思っている。

 問題なのは樹はヘテロ推奨派で、丹羽は百合を見守りたいという決定的な意識の違いなのだ。

 樹は丹羽に男性として風を女性として意識してもらい互いに1番と考え幸せになってほしい。

 丹羽は百合男子として樹を含む犬吠埼姉妹や勇者部の皆に笑顔でいてほしくて無償の愛を注いでいる。

 この2つの思想は平行線で、交わりそうで決して交わらないのだ。

 とにかく隣にいる同級生には姉や自分たちの男を見る目を肥えさせた責任を取ってもらわなければ困る。

 下手をしたら自分まで将来恋人ができないかもしれないのだから。

 そもそも今だって丹羽のせいで樹は丹羽と付き合っていると誤解されているのだ。迷惑以外のなにものでもない。

 そりゃ、普段も口下手な自分を助けてもらっているのは感謝しているし、部活の依頼でも自分には無理な重い荷物を持ってくれるのもありがたいとは思う。

 樹海での戦いだって彼がいなければ危なかった場面もあったし、いつも姉の隣に立ち先陣を切る彼の姿には頼もしさを感じていた。

 と同時になぜ自分が隣にいないんだと――。

「え?」

 一瞬頭をよぎったあり得ない考えに、樹は戸惑う。

 自分は姉のために丹羽をくっつけようと考えていたはずだ。

 なのになぜ姉に嫉妬してしまったのか。

 考えてみれば丹羽と姉の関係にイライラしたのも、風と丹羽が家族でもないのに妙に近かったり2人が息ぴったりだったことに驚いたことが発端だった。

 なんでわたしじゃないんだと。

 お姉ちゃんとは姉妹のはずなのに。丹羽くんとわたしは同い年でクラスメイトなのに。

 なんで姉妹でもなくて歳も違う2人があんなに仲がいいんだろうかと。

「あれ? あれ?」

 樹は混乱する。自分はどっちに嫉妬しているのか。

 歳も違うのに自分より丹羽と仲がいい姉に?

 それとも家族でもないのに姉と息ぴったりな丹羽に?

 考えれば考えるほどわからなくなってくる。

「樹、帰って来たの?」

 その時、姉の風が目を覚まし、声をかけてきた。

「うん。ただいまお姉ちゃん」

 結局樹は考えるのをやめ、姉と洗濯物をたたむのを手伝うことにする。

 自分は中学生になった。もう子供ではないのだ。

 そろそろ姉離れしないと、と自分に言い聞かせて。




 不穏なヘテロ模様ですが丹羽こと星屑(主人公)は百合男子なので問題ありません。
 次回、ヘテロ樹vs百合を見守り隊団員丹羽
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