詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
 勇者部に迫るヘテロ推進派の樹の影!
丹羽「犬吠埼サンドてぇてぇ、ゆうみもてぇてぇ、にぼいつてぇてぇ」
樹「大変です。どの作戦もことごとく百合フィルターにかけられています」
夏凛「あいつ…無敵か?」
 戦績:百合を見守り隊、丹羽明吾の戦略的勝利。


勇者部夏合宿!

 7月の最終日、勇者部一行は大赦の保有する温泉旅館に到着した。

 荷物を預け、さっそく6人は海へ行くことにする。

 丹羽は先に出てパラソルを立てたりシートを敷いて場所取りをしていた。傍らには大赦所有の温泉旅館の職員が用意してくれたドリンクや氷を入れたクーラーボックスがある。

「丹羽ー! お待たせ」

 風の言葉に丹羽は振り返った。

 そこには水着姿に着替えた勇者部の一行がいる。

 友奈はピンク色の水着。イメージ通りのカラーだ。

 東郷は青いビキニタイプの水着。メガロポリスなボディが破壊力抜群である。

 おそらく着替えやすく胸が締め付けられない楽な水着を選んだ結果そうなってしまったのだろうが、それで海辺の視線を独り占めしそうだった。

 風は丹羽が先日見た黄色いスポーティーなビキニタイプの水着だ。健康的なイメージ通りでよく似合っている。

 樹の水着はフリルが多めでセクシーさよりもかわいらしさが目立つ。だがそれが彼女のイメージに合っていて、とてもよく似合っていた。

 おそらく風が選んだのだろう。さすが姉妹、妹の魅力を誰よりもわかっている。

 そして赤と黒のタンクトップタイプのビキニを着ているのは夏凛だ。色も彼女のイメージ通りだし、格好良さが全然損なわれていない。

「みなさん、よくお似合いですよ」

「そういうアンタはなんでシャツ着たままなのよ」

 風の言葉通り丹羽は水着の下こそ着ていたものの、上にシャツを羽織っていた。

「今日の俺は撮影係なので。皆さんの遊ぶ姿を余すことなく収めますよ」

 最新型のビデオカメラを構え撮影準備OKと親指を立てる丹羽に、5人はため息をつく。

 こいつ、遊びに来たのに全然変わらない。

「樹」

「うん、お姉ちゃん」

 犬吠埼姉妹が丹羽を挟み、連行するように抱え上げる。

「え? え?」

「これは没収ね。あら、いいカメラじゃない」

 訳が分からないという顔をしている丹羽から東郷がカメラを奪う。

「「そーれ!」」

「ガボゴボボボ!?」

 犬吠埼姉妹に海へ放り投げられ、丹羽の視界は海の中から地上へと目まぐるしく変わる。海面から顔を出すと、砂浜に立ち上がった。

「ぷはっ! なにするんですかいきなり」

「なにしてんのかはこっちの台詞よ」

 丹羽の抗議に夏凛が返事をする。その顔はどこか怒っているようだ。

「今日は勇者部みんなで遊びに来たんだから、丹羽君だけ何もしないのはなしだよ」

 友奈もめずらしくぷんぷんしながら丹羽を指差し、めっ! としていた。それになぜか東郷が悶えている。

 ああ、自分もめっ! してもらいたいんだろうなぁと丹羽は察した。

「いや、お気持ちは嬉しいですけど俺は百合…もといみなさんを見守るという使命が」

「いや、なんの使命よそれ」

「そんなことはいいから、遊ぼうよ丹羽くん」

「その前に準備体操ね」

「よーし、やるぞー! おーっ!」

「ハァハァ、友奈ちゃんかわいい」

 上から順に風、樹、夏凛、友奈、東郷の発言である。

 というか東郷はちゃっかり丹羽が持っていたカメラを使って友奈を撮影していた。

 ふむ。ここで固辞するのも逆に彼女たちに失礼か。

 まあ、念のために用意しておいた2台目のカメラでビデオ撮影はさせてもらうが。

「わかりました。じゃあ、準備体操したら皆さんが日焼け止めを塗りあいっこしている場面を撮影させてください」

「「少しは欲望を隠せ!」」

 風と夏凛からダブルツッコミが丹羽に入る。

「それに日焼け止めなら旅館で着替えてきた時にもう塗って来たわよ」

「ええ!?」

 夏凛の言葉にわかりやすく丹羽は落ち込んでいた。

 残念だったわね。お望みの百合イチャ? とやらを見られなくて。

「しかたない。ここは結城先輩の映像を交換材料に東郷先輩からその映像を…」

「丹羽、聞こえてるわよ。それに友奈を撮影しようとしていた東郷のカメラは没収したから、残念ながらその映像はない」

 風の言葉にがっくりと肩を落とす丹羽。

 だが甘い。東郷のことだから事前に部屋に隠しカメラを設置とかしているはずだ。

 事実カメラを没収されたというのに東郷は元気だ。まだ余裕があるのは計画が露呈していない証拠だろう。

「じゃあ、遊ぼうよ東郷さん、丹羽君」

「結城先輩。俺はいいので東郷先輩と遊んできてください」

「もう、まだそんなこと言ってるの!」

「いや、そうではなく…泳げないんです、俺」

 丹羽の言葉に「へ?」と勇者部一行が声を出す。

「というか、海に来たのも実は初めてで」

 これは本当だ。

 なにしろ生まれたのは壁の外、四国に来たのも1年半前。ずっと讃州中学に入学するための工作をしていたり、暗躍していたので遊んでいる暇などなかったのだ。

 丹羽の言葉に勇者部一行は何事か考えている様子だった。やがて友奈が丹羽の手を引っ張ると、波打ち際から立たせ、砂浜に誘う。

「じゃあ、今日は丹羽君の初めての海記念ということで勇者部皆で遊ぼう!」

「いや、みなさんは好きに遊んでくださいよ。俺はそっちのほうが」

「はいはい、もう決まったことなんだから行くわよ丹羽君」

 しまった、自分の境遇を話したのは逆効果だった。

 世話好きでおせっかい焼きの人間の集まりである勇者部にとってそれは構ってくれと言っているようなものだ。

「まずはビーチバレーかな。浮き輪と一緒に海の家でボール買ってこなくちゃ」

「砂で丸亀城を作りましょう」

 身体を動かしたいのかウッキウキで提案する友奈と砂のお城づくりを提案する東郷。

「アタシが泳ぎを教えてあげるわよ。海はプールより浮くから1日でおぼえられるわよ」

「丹羽くん丹羽くん、波打ち際行ってみようよ。波に足元の砂がさらわれていく感覚面白いよ!」

 泳ぐ楽しさを教えようとする風と海自体の楽しさを教えようとする樹。

「ふっ、あんたらわかってないわね…。海のお約束といえば1人を砂で埋めることに決まってるじゃない!」

 そう言ってどこからかスコップを取り出す完成型勇者。

「夏凛ちゃん、いじめはダメだよ」

「それはフグの毒を抜く迷信よ、夏凛ちゃん」

「あの、埋められるのはちょっと」

「夏凛、アタシでもわかる。それはない」

「何でよ!?」

 他の部員からツッコまれている夏凛に、丹羽は吹き出す。

 ああ、本当に自分は果報者だな。こんなに優しい少女たちに気にかけてもらえるなんて。

「お手柔らかにお願いしますみなさん」

 ここで断り、彼女たちの思いやりを無駄にするのは失礼だ。

 今日くらいは勇者部部員として彼女たちと一緒に遊ぶことにしよう。

 もちろん百合イチャの撮影はあきらめないが…。

 

 

 

 勇者部全員の提案を受け入れ、丹羽と部員たちは順番にそれぞれの提案を消化していくことにした。

 ビーチバレー。意外なことに友奈とペアの東郷が1番活躍していた。

 歩けるようになったことで今まで運動できなかったうっぷんを晴らすかのような動きに他の部員たちは彼女だけ勇者システムを使っているのではないか。車椅子は東郷の拘束道具だったのではないかと疑ったほどだった。

 そしてそれが終わると波打ち際に裸足で立つ。海水に引っ張られる何とも言えない感覚に「あー」と声を出したりはしゃいだりと反応は様々だ。

 その後は風指導の下泳ぎの練習。泳ぐ方法は知識として知っていたのですぐ丹羽は泳ぐことができた。風はまだ教え足りない様子だったが。

 そのまま遠泳の運びとなったのだが樹と東郷は参加せず、友奈、風、夏凛、丹羽の4人で行うことになった。

 結果は風が1着。同着で友奈と夏凛。最後に丹羽だ。

 その後最下位の罰として丹羽が埋められ、その上にみんなで丸亀城を作り出した。

 東郷製作指揮のもと作られたそれは素人目でもかなり精緻に作られており、壊してしまうのがもったいないほどだった。

 その間ずっと精霊のナツメは丹羽から離れ、海を満喫していたが。

「ふいー。遊んだ遊んだ」

 旅館に帰って来た風が座布団を枕にし、畳に寝転がる。程よい疲労感が体を包んでいた。

「もー。お姉ちゃん行儀悪い」

「風先輩。私たちご飯の前に温泉行くんですけどどうします?」

 自分たちの鞄から化粧水や入浴セットを持った友奈と東郷が言う。

「アタシパス。もうちょっとゆっくりする」

「あ、わたしはご一緒します。夏凛さんは?」

「そうね。帰りにシャワー浴びたけど行こうかしら」

 こうして風以外の4人が温泉へ行くことになった。ふすまを開けて廊下へ出ると、隣の部屋から出てきた丹羽と鉢合わせする。

「あら、丹羽君もお風呂?」

「いえ、散歩です。犬吠埼先輩は?」

「部屋で少し休むって。そうだ丹羽くん、よかったらお姉ちゃんの話し相手になってあげてよ」

「「「え?」」」

 樹の言葉に友奈、東郷、夏凛は驚く。

 つい先日姉を取られるのは嫌だと言っていたのではなかったのではないだろうか。

「ちょっと樹、あんたどういうつもり?」

「夏凛さん、わたしは別にお姉ちゃんと丹羽くんがくっつくのを諦めたわけではないですよ」

「え、どういうこと?」

 東郷に疑問に樹はにっこり笑う。

「わたしがお姉ちゃんの1番のまま、丹羽くんにはお姉ちゃんが1番になってもらいます」

「え? それって風先輩と丹羽君が両思いなのとどう違うの?」

 頭に?マークを浮かべる友奈に、樹の言葉の意味を理解した2人はうんうんとうなずく。

「なるほど。そういうことなら協力するわ」

「まあ、上出来じゃない。それが樹の出した答えなら、あたしは応援するわ」

「え? 2人はどういうことかわかったの? 教えてよー」

「じゃあ、丹羽君。あとはお願いね」

「丹羽、頼んだわよ」

 そう言い残して4人は温泉に向かっていった。丹羽の返事も待たずに。

 丹羽としては従う義務は一切ないのだが、彼女たちの言うことを無視するという選択肢ははなから存在しない。

 もっとも百合男子である以上樹のヘテロへの(いざな)いに乗るつもりは毛頭ないのだが。

「風先輩、入りますよ」

 ふすまを開けて部屋へはいると、風はすでに眠っていた。

 すぅすぅと規則的な寝息が聞こえてくる。

 上に何か掛けようと室内を見回すが、タオルケットのようなものは見当たらない。旅館の従業員に訊いて用意してもらおうか。

 そう思っていると胸が光り、中からナツメが出てきた。眠る風の横顔を愛おしそうに見ている。

 きゃー! 棗風キマシタワー!

 っと、1人盛り上がっているわけにはいかない。

 夏とはいえ室内は冷房が効いている。女の子が身体を冷やすのはいけない。

「ナツメさん、俺旅館の人にタオルケットみたいなものがないか訊いてくるので犬吠埼先輩をお願いしていいですか」

『わかった。主、風は私に任せてくれ』

 ふすまを開けて廊下に出て従業員に訊くと、すぐ用意してくれた。部屋まで運んでくれようとしたのでそこは断り、丹羽が受け取る。

 なぜか大変恐縮した様子だったが、大赦から最大限勇者をもてなすよう命令されていたのならば仕方ない反応だ。むしろ運んでもらった方が向こうも助かったかもしれない。

「おまたせしました。ナツメさ…ん?」

 室内に入るとそこには風と一緒に眠る精霊の姿があった。

 その姿に微笑み丹羽は1人と1体にタオルケットをかける。

 ああ、やっぱり棗風てぇてぇなぁ…。

 そう思いながらずっと風とナツメの寝顔を見ていた丹羽は、本編では彼女の左目にあるはずの眼帯がないのを嬉しく思う。

「ありがとうございます。犬吠埼先輩、満開しないでくれて…俺の作戦を信じてくれて」

 アクエリアス・スタークラスターとの戦い。誰1人満開せず勝てたのはみんなが自分の作戦を信頼し、囮を任せてくれたおかげだと思っている。

 もし1人でも丹羽の作戦や実力に疑問を持ち、やはり満開すべきだという意見に傾けば、こんな平和で楽しい夏合宿は行えなかったかもしれない。

 いや、勇者部のみんなと一緒なら楽しい合宿にはなっていたが、やはり五体満足とはいかない姿に丹羽の心に影を落としていただろう。

 そして東郷の足が治った件。これも丹羽の作戦のスミを使った切り札による副産物だったが、これによりもう1人の散華により神樹に肉体を奪われた少女を救う手立てを発見することができた。

 あとはその少女にいつ出会うかだ。

 彼女を前にしても出てこないようにスミに言い聞かせておかなければ。いや、言い聞かせてもスミの性格なら勝手に出てきてしまうかもしれない。

 となると先に銀ちゃんの中にスミを入れてから話すべきだろうか? だがもし東郷や他の勇者部メンバーと共に会いに行くことになった場合話題になったら丹羽の内から出てこないスミに不信感を抱くかもしれない。

 悩ましいなと思う。1つボタンを掛け違えるだけでまた取り返しのない事態に発展しそうだ。

 勇者部の皆とはある程度信頼関係を築けたとは思うが、乃木園子とはこの身体では初対面になる。下手をすればその場で槍で貫かれるという事態が起こらないとも限らない。

 自分の正体を話す…いや、話さなければならない最悪の事態に備えるためには、危険を冒してでもある程度彼女との信頼は築いておくべきだろう。

「んぅ、誰?」

 そんなことを考えていると、みじろぎした風が寝ぼけ眼でこちらを見て声を上げた。

「大丈夫ですよ風先輩。ご飯ができたら起こしますから」

 目の前にいる後輩の言葉に、風はこれが夢だと確信する。

 だって現実の丹羽は何度言っても自分のことを名前で呼んでくれないし、いつも不審者みたいな顔をしている。

 こんなに優しくて愛おしそうなものを見る目でまっすぐ自分を見てくれるなんて、夢じゃなきゃあり得ない。

「えへへ、丹羽ぁ~」

 夢ならば少しくらい甘えて本音を言っても構わないだろうと風はそばにいた丹羽の膝に頭を乗せ、ぐりぐりとこすりつける。

「アタシ、がんばってるよ。勇者部部長として、樹のお姉ちゃんとしてちゃんとやれてる?」

「ええ。風先輩はみんなが頼りにする部長で、樹ちゃんの最高のお姉ちゃんです」

「えへへぇ~。そっかぁ」

 ああ、やっぱり夢だ。自分のことだけじゃなくて樹の名前まで呼んでくれるなんて。

「じゃあご褒美にナデナデして。ていうかしなさい」

「はいはい。ナツメさんの代わりで申し訳ないですけど」

 そう言って優しく風の頭をなでてくれる。

 ああ、いい夢だなぁ。精霊のナツメの代わりと言うのも彼らしい。

 こんなに無防備で甘えられる異性はお父さん以外では初めてかも。

 そんなことを思いながら風の意識は再び夢の中へ落ちていった。

 

 

 

 夕食は非常に豪勢なものだった。

 目玉である刺身の船盛はもちろんステーキ、小さな鍋、蟹など海の幸から山の幸まで贅を尽くした品々が並べられている。

 とても中学生に出される品とは思えない。その豪華さに全員若干腰が引けていた。

「えっと、これすごすぎない? あの、もしかして部屋間違えてないですか?」

 料理を運んできた仲居に風が尋ねるが、ニコニコと笑顔を返される。

「とんでもございません。どうぞ、ごゆっくり」

 そう言うと仲居さんは去っていった。あとに残された勇者部一行は戸惑いながらも席に着く。

「食べちゃっていいのかな。これ?」

「結城先輩、出された以上は食べないと失礼ですよ」

「そうよね…。でもどうしてこんなに好待遇なのかしら。部屋も丹羽君の部屋とつなげるとかなり広いし」

 東郷の言う通り勇者部女子と丹羽の部屋は隣同士で、衝立を外せば1つの広い部屋として使える。

 丹羽は最初勇者部女子が男と隣の部屋で、しかも衝立という心もとないもので遮られただけだと心配するだろうからどうか別の部屋にしてくれと旅館の人に頼んだのだ。

 だが返って来たのは「うちにはこれ以上の部屋はないので勘弁してください」と言う女将と従業員一同による土下座だった。

 それに全員驚き恐縮しながらも布団部屋でもいいからどうか離れた部屋にしてくれという丹羽の願いも「勇者様にそんなおもてなしはできません」という返事で却下された。

 それでもなお別の部屋を頼もうとする丹羽に勇者部女子から待ったがかかり、丹羽がそういうことをしない男子として信頼していること、もし不貞を犯そうとした場合は勇者部全員で袋叩きにする旨を伝えたことでようやく納得し、隣の部屋に落ち着いたのである。

 夕食は広い女子部屋のテーブルで行われた。本当は男女別々で運ばれるようだったが、皆で食べたほうがおいしいという友奈の発言から丹羽も女子部屋で食べることとなったのだ。

 ただ、湯上りの女子がいる女子部屋で「すぅうううううう!」と息を吸って言葉をかけるまで吐かない丹羽の言う「お約束」は相変わらず意味不明だったが。

「海専用の車椅子の貸し出しもしてたし、もし私が歩けなくて車椅子のままでも充分楽しめたと思うわ」

「本当に、至れり尽くせりって感じです」

 東郷の言葉に樹も同意する。

「まあ、ここが大赦の経営する旅館っていうのもあるんじゃない?」

「そっか。これ、12体のバーテックスを倒したご褒美でもあるんだ」

 夏凛の言葉に納得がいったように友奈が言う。

 なるほど。だとするとこの破格のもてなしも納得だ。

「そうとわかればみんな遠慮はなしよ! 思いっきり食べましょう!」

 勇者部部長の号令に「おーっ!」と声が上がる。

「それじゃあみんな手を合わせて、いただきまーす!」

 風の言葉とともにみんな手を合わせ、食事を始める。

「おいしー! なにこれイカなのにベチャってしてない! 甘くてコリコリする!」

「この蟹、中身スカスカの味噌汁用の奴じゃないわ!  身がぎっしりしてて、ちゃんと味がある!?」

「おねえちゃん、それ以上は恥ずかしいからやめて…」

 姉の蟹への感想に、樹は顔を真っ赤にする。普段食べている蟹がどういうものなのか自白しているようなものだ。

「ええ、本当においしい。料理人の腕がいいと食材も喜んでいるわ」

 一方で良家のお嬢様である東郷はがっついてなくて食べ方もきれいだ。夏凛の声が聞こえないので不思議に思っていると黙々と食べていた。感想を言う暇も惜しいのだろう。

 

『つ、つまり、全部食べちゃっていいと…ごくり』

『でも、友奈さんが…』

『あ…』

『うーん、このお刺身のつるつるしたのど越し。イカのコリコリとした歯ごたえ…たまりません!』

『…もう、友奈ちゃん。いただきますが先でしょ』

『いろいろと。敵わないわね、友奈には…』

 

「どうしたの、丹羽君?」

 自分を見つめたまま箸が止まっている丹羽を不思議そうに友奈が見る。

「結城先輩、ご飯おいしいですか?」

「うん! こんなにおいしいもの食べたの初めてかも」

 心から嬉しそうな笑顔に、丹羽は微笑む。

 それはとてもとても優しい、慈愛に満ちた笑顔だった。

「よかったら、これ食べてください。蟹はちょっと苦手で」

「え、そうなの?」

「あとこれとこれとこれとこれも」

「ちょ、ちょっと丹羽君?」

 次々と自分の分の料理を差し出す丹羽に、友奈は戸惑う。

「ど、どうしたの丹羽君!? 食欲ないの? おなか痛い?」

「いえ、おいしそうに食べる結城先輩が見たいだけです。お気になさらず」

 そんなことを言われても気になる。

 箸が止まった2人に食事に夢中だった他の部員たちも気付いたようだ。不思議そうに友奈と丹羽を見ている。

「どうしたの2人とも。早く食べないとなくなっちゃうわよ」

「風先輩、丹羽君がなんだか変なんです。私に自分の分の料理をくれたりして」

「どうしたのよ丹羽、あんた嫌いなものでもあった?」

「いえ、丹羽くんは嫌いなものはなかったはずです」

「そうよね。じゃないと樹ちゃんの料理を最後まで…ごめんなさい、今のは失言だったわ」

 丹羽だけが樹のスペシャル料理を完食できることを言おうとした東郷はお口にチャックする。

「べつに、他意はないですよ。ただ幸せそうに食べる結城先輩がかわいらしいのでもっと見ていたくなっただけです」

 突然の告白とも言える丹羽の発言に、5人は固まる。

 丹羽としては本編で散華により味覚を無くした友奈が周囲の皆を安心させるための笑顔ではなく、心から食事を楽しむ姿を見たくて言った言葉だったのだが、反応は様々だった。

「え、あ。その…」

「友奈ちゃん、私もこのお料理あげる! 食べて!」

「丹羽くん、うちのお姉ちゃんもご飯幸せそうに食べるよ! 見てて!」

「ちょっと樹、料理を無理やり口につっこまないで!?」

「あんたら、何やってんのよ…」

 友奈は顔を真っ赤にし、東郷は丹羽に対抗意識を燃やしたのか次々と自分の分の料理を負けじと友奈のもとに運ぶ。

 樹は風の口に刺身やステーキを箸でつまんでは放り込み、風は目を白黒させている。

 その様子を見て夏凛は呆れるしかない。

 そんな勇者部の姿を見て、丹羽はここにはいないもう1人の自分を想う。

 見てるか、俺。彼女たちはこんなに幸せそうだぞ。

 視界を共有しているはずの壁の外で頑張っている人型のバーテックスに届くようにとこの光景を目に焼き付ける。

 こんな幸せな光景をずっと届けられるように祈りを込めて。




【ゆゆゆいでは夏凛ちゃんにもちゃんと谷間あるよ】

 旅館
風「さあ、水着に着替えて海に行くわよ。先に丹羽がパラソルとシートの用意をしてくれてるみたいだから、あんまり待たせないようにね」
一同「はーい」
東郷「んっしょ」ばるん
友奈「うわぁ…東郷さん大きいなぁ」
東郷「ふふ、友奈ちゃん。触ってみる? なんて」
友奈「いいの!? じゃあちょっとだけ…」
東郷「え? 本当に!? その、心の準備が」
樹「次、わたしもいいですか?」
夏凛「なにやってんのよ樹」
樹「ご利益目当てで。夏凛さんも触った方が――っ!?」
夏凛「ん? どうかした?」
樹「夏凛さん、その…胸に」
夏凛「胸がどうかしたの?」
樹「胸に谷間が!?」
夏凛「いや、そりゃ胸なんだから谷間くらいあるでしょ」
樹「そんな…仲間だって信じてたのにー!」
風「樹―!? 日焼け止めまだ塗ってないでしょ! 戻ってらっしゃーい!」
夏凛(危なかったー。ガムテで周りの肉集めて谷間作ったのはバレてないみたいね)
友奈「あ、夏凛ちゃん、背中に何かついてるよ。取ってあげるね」ガムテビリー!
夏凛「あ痛ーっ!」

 アニメ1期では夏凛ちゃんはもちろん友奈ちゃんもぺたんこに描かれていたからゆゆゆいのピックアップで出た水着姿に谷間があったときは驚きましたね。
 まあ、東郷さんが化け物クラスなだけで、他の子は成長期だしね。うん。
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