詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

58 / 105
 みんな大好き水着回の次は温泉回。


温泉&ガールズトーク

「わーい! 温泉だー!」

 露天風呂についた勇者部女子5人の中で、開口1番友奈が声を上げた。

 夕食の後少し経って消化が終わってから5人は連れ立って温泉に入りに来たのである。

「…って言っても2回目なんだけどね」

「友奈。あんたよく最初に来た時と同じテンションで騒げるわね」

「いいじゃない。温泉は何回来てもいいものよ」

 あははーと頭をかく友奈に夏凛は呆れ、友奈専用イエスマンの東郷は全力で肯定している。

「おー、今の時間だとちょうど夕日と夕闇の時間でいい感じね」

「うん。帰って来てすぐ入った時の青空もよかったけど、こういうのもいいね」

 旅館に来て初温泉の風と2回目の樹の犬吠埼姉妹が風呂から見える景色について言及していた。

 空はちょうど夕焼けから夕闇に染まる時刻で、遠くには沈みゆく太陽の残滓が茜色から黄色へと徐々に色が変わっていく。上へ行くにつれて濃い藍色となり、天を見上げれば星が瞬いて見える。

「冬だとちょうど今の時間は満天の星空みたいですね。今度は冬に一緒に来ましょう友奈ちゃん」

「それって冬までにまた12体巨大バーテックスを倒すってこと? やめなさいよ縁起でもない」

 東郷の発言に夏凜が言う。それにうんうんと他の面々もうなずいている。

「そうね。ご飯はおいしくてサービス満点だったけど、もう1度あんな思いするのはごめんだわ」

「わたしもご遠慮したいです」

「ち、違うのよ。温泉だけ2人で入りに来たいねってことで」

「なんだ、それならいつでもOKだよ」

 友奈の言葉に東郷は心の中でガッツポーズをとる。よし、言質取った。

「まあ、そんな時が来たらこの完成型勇者が12体ごと返り討ちにしてやるわよ」

「え~、夏凜が~? できんの~?」

 夏凜の言葉に風が煽るように言う。

「で、できるわよ! あたしだけじゃ無理でも、あんたらみたいに信頼できる仲間がいればね」

 顔を真っ赤にしてデレ発言をする夏凜。それに勇者部4人は目をぱちくりする。

「聞きました奥さん。三好さんとこの夏凜ちゃんってば、最初はあんなにツンツンしてたのに」

「あの夏凜ちゃんがねぇ。デレデレですわよ奥さん」

「ざますざます」

「丹羽くんが見たら大喜びですわ」

「あんたら、エセ奥様ごっこしてるんじゃないわよ!」

 からかう4人に対して夏凜が怒る。それに蜘蛛の子を散らすようにそれぞれ分かれ、体を洗い温泉につかった。

「ふいー。いい湯だねー」

「本当。生き返るわー」

「お姉ちゃん、おばさんっぽい」

「なして!?」

「本当に、いいお湯ね」

「そうねー」

 5人それぞれいいお湯という感想を漏らし、夜空を眺める。藍色から黒い部分が増え、天には星が輝いていた。

「星がきれいだねー」

「ええ、そして地上に目を落とせば見事なメガロポリスが」

 友奈が素直な感想を漏らすのに対し、風が東郷の胸を見て言う。

 そこにはでかぁあああい! 説明不要な東郷の見事な2つのお山が乳白色の濁り湯の上に浮いていた。

 それを見て樹と夏凜が「くっ」と声を漏らして目を逸らしている。

「いやー。それにしても見事だわ。普段制服に隠してるけど、立派なこと立派なこと」

「風先輩、おやじ臭いですよ」

 からかうような風の言葉ににらみつけて東郷が言う。妹におばさん、後輩におやじ臭いと言われ、風は微妙に落ち込む。

「でも本当に大きいよねー。あやかりたいよー」

「友奈ちゃん、友奈ちゃんは好きに見たり触ったりしてもいいのよ! ハァハァ」

「東郷、顔。丹羽みたいになってる」

 何気なくもらした友奈の言葉に食い気味に食いつく東郷。その顔を見てここにはいない普段不審者時々マトモな後輩の名前を出し、夏凜は注意する。

「え、嘘!? 戻さなくちゃ」

「やっぱり丹羽くんみたいにすぐには戻せないんですね。東郷先輩、まだまだ修行が必要みたいですよ」

「なんならあいつに習ってみたら?」

「冗談でしょ!? 今度からは不覚を取らないわ」

 と言う東郷だが、温泉につかる友奈を見て早くも顔が緩み始めている。

 これは無理だろうなぁと風、樹、夏凛は思う。

 それから5人は無言で温泉につかり疲れをとる……ということにはならず、女3人寄れば姦しいという言葉にあるようにおしゃべりを始める。

 内容はさっき食べた料理のことだったり夏休みの宿題をどこまでやったかということだったり様々だ。

「それにしても、アタシたち本当に勝ったのよね」

 空に輝く星を見ながら風が言う。

「普通の女子中学生が背負うには重すぎるものを背負わされて。なによ勇者って。四国全員の命運がアタシたちにかかっているって言われてもピンとこないわよ」

「そうね。あんたらはよくやってくれたわ。こんな形でしかお礼を言えないけど、ありがとう」

 風のぼやくような言葉に夏凛が頭を下げる。それにそんなつもりはないと風が慌てる。

「や、やめなさいよ夏凜! アンタもアタシたちと一緒に戦った仲間なんだから」

「そうですよ夏凜さん。ここなら誰も聞いていないし、普段ため込んでいる大赦への不満を言ってもいいと思います」

「そうだよ、言っちゃえ言っちゃえー!」

 夏凜に抱き着きながら言う友奈に東郷が「友奈ちゃん、今の台詞後でマイクに録音させてもらえないかしら」とこっそりと耳打ちして周囲をドン引きさせていた。

「べ、別に今の大赦にはそんな不満はないわよ。昔は文句の1つや2つはあったけど」

「ほう。言ってみ言ってみ?」

「秘密主義はわかるけど常に説明不足なところとか、こっちを明らかに下に見て上から目線なところとか。あとうまく立ち回らないと上がやらかした責任を被らさせられるところとか聞くのも嫌な話を大っぴらに大の大人がしている姿には怒りを通り越して呆れしかなかったわね。それから」

 と言いかけてはっとしたように夏凛は言葉を止める。

「ま、まあ今はそんなところも改善されて、いい組織になっていると思うわよ?」

 明らかに取り繕ったような態度に「えー、本当でござるかー?」と風が追及している。

「も、もう上がるわ! あんたらも湯あたりには気をつけなさいよ」

「夏凛ちゃん、もっとお話ししようよー」

 友奈の声を背に受けながら、「話なら部屋でもできるでしょ」と夏凜は返す。

 危なかった。忘れかけていたがここは大赦が経営する温泉旅館。どこに目や耳があるかわからない。

『スミー』

「あら、スミちゃん」

『風、たまには一緒に入ろう』

「ナツメ?」

『お風呂タイムよみーちゃん!』

『待ってよ、うたのん!?』

「ミトさんと、ウタノさん…でしたっけ?」

 夏凜がお湯から出るのと入れ替わるように衝立の向こうから丹羽の精霊がすり抜けてこっちへとやって来た。

 4体の精霊は女子風呂につかり、ほへーという顔で脱力している。

 こいつらがここにいるということは…。

「ねえ、丹羽」

 そこにいるであろう後輩の1年生男子に向け、夏凛は声をかける。

「いつから、そこにいたの」

「ツイサッキキタトコロデスヨー」

 すごい棒読みだった。疑ってくれと言っているようなものだ。

『あいつ、みんながお風呂に入る前から隣にいた!』

「へえ、そうなのスミちゃん」

 スミの言葉にニコニコしたまま東郷から黒いオーラがあふれ出す。

『主は至高の百合イチャエピソードをこの手に納めるんだ! と事前に買った録音機材も用意して待ち構えていたぞ』

「教えてくれてありがとうナツメ。お礼に今度沖縄そばを作ってあげるわ」

 表情1つ変えず秘密を暴露するナツメを撫でながら、風は拳を固く握る。

「ねえねえ、ウタノちゃん。他には何してた?」

『え、マスターのこと? そういえばみんなのルームに盗聴器やカメラがないかサーチしてたわ』

「ええ!?」

『で、でもカメラは1つしかありませんでした。それを見て「これは東郷先輩のだから問題ないか」って』

 勇者部4人の女子の視線が東郷に集まる。それに対し、東郷はてへっ☆とキャラではない笑顔でごまかそうとした。

「いや、ごまかされないからね。東郷は後であいつと一緒に説教よ」

「ごめん東郷さん。さすがにこれは言い逃れできないと思う」

 夏凛に続き、友奈も東郷の行動を非難する。

「ち、違うの友奈ちゃん! これは旅の思い出というか。つい魔が差して!」

「いや、普通に盗撮は犯罪だからね。うちの部活から犯罪者は出したくないから自重して東郷」

「まだ身内で済んで表面化してないだけですからね。普通ならアウトなんですよ」

 言い訳をしようとする東郷に犬吠埼姉妹から厳しい指摘が入る。

「とりあえず丹羽、これからみんなで温泉から上がるから震えて待ってなさい」

「男風呂に立てこもったら従業員の人呼んで連れ出してもらうから」

「丹羽君、諦めてね」

「丹羽くん、正直に謝ればみんな許してくれる…はずだと思う」

「樹ちゃん、残念ながらそれはないわ」

 上から夏凜、風、友奈、樹、東郷の発言である。

 こうして丹羽が録音した勇者部女同士のきゃっきゃうふふエピソードは消去され、東郷が隠していたビデオカメラは没収された。

 その後丹羽の荷物は徹底的に調べられ、カメラやビデオカメラ、録音機、小型プレイヤーは中身を検閲の上旅行が終わるまで没収される運びとなる。

 ついでに東郷の荷物も改められ、そこにあった友奈の隠し撮り写真や映像は本人の希望により友奈に見せられることなく風と夏凛による厳重注意だけで済んだ。

 ちなみに丹羽は縛られ隣の部屋で朝まで簀巻きコースである。

 これが男女格差か…。世知辛いなと丹羽は思う。

 きつく縛られ誰かにほどいてもらうまで身じろぎもできずバーテックスなので眠ることもできないので丹羽はそのうち考えるのをやめた。

 

 

 

 丹羽を簀巻きにして隣の部屋へ放り込んだ風と夏凜は、ようやく人心地つき用意されていた布団の上にダイブする。

「なんか変に疲れたわ。今日はもう寝ましょう」

「待て待てー! なに若い女が集まったのにそのまま寝ようとしてんのよ」

 風の言葉に胡乱な瞳を向ける夏凜。なんだ、こっちはもう寝たいのに。

「旅の恥は掻き捨て。旅の思い出は一瞬! 女5人、密室…何も起こらないわけもなく」

「いいから、何が言いたいのよ」

 掛け布団を腰まで掛け、半分寝る体制になっている夏凜に、風が高らかに宣言する。

「ただいまより、女の子だけの秘密のおしゃべり会を開催します! あ、ポテチとかつまめるものは用意したからみんなつまんで。ジュースは布団の上にこぼすと迷惑になるから布団の上では飲まずに置く時も机の上に置くのよ」

「はーい」と友奈、東郷、樹の声が続く。

 と同時に枕元に開いた畳1畳分のスペースにポテトチップスや裂きイカ、チータラ、柿〇ーなどが置かれる。

 つまめるものと言ったがチョイスが完全に酒飲みの親父だ。まあ、おいしいからいいけど。

「で、誰から話す?」

「それでは僭越ながら…私が日本という国の在り方を存分に語らせていただきましょう」

「東郷、それパス。多分半分も聞かないうちに夏凜が寝るから。他は?」

「はいはーい。怪談とか」

「いやー!? ダメ、それ絶対ダメ! 他は誰かいないの?」

「しょーがないわねー。じゃああたしの訓練時代のつらかった出来事トップ5を」

「誰が聞いてて喜ぶのよ…もっとこう、女の子っぽいというか、心がウキウキするような」

「コイバナとか?」

 樹の言葉に風が「そう!」と立ち上がりかけ顔を輝かせた。

「さすが我が妹。女子力あるわー。ご褒美にヤンヤン〇けボーをあげよう」

「わーい」

 塩辛いものだらけでちょうど甘いものが欲しいと思っていたのだ。ありがたく受け取る。

「それじゃあ誰か…恋をしている人~?」

 その言葉にだれも手を上げなかった。5人もいるのに1人もである。

「意外ね。東郷なら上げると思ってたのに」

「夏凛ちゃん、私は恋をしているんじゃないの。友奈ちゃんを愛しているのよ」

 通常運転の東郷に、はいはいそうですかと他の4人は呆れる。

 ちなみにこの場所に丹羽がいたら「素晴らしい」と笑顔で拍手をしていたことだろう。

「はぁ~、情けないわね。年頃の女子がそろいもそろって」

「そういうあんたはどうなのよ?」

 夏凛の言葉に「あ」と友奈、東郷、樹の3人は声を出す。

 しまった、夏凜に注意するのを忘れていた。この話題になると風先輩は延々と会話ループするバグが発生してしまうのだ。

 止めさせないと、と口を開きかけた友奈だったが、次に夏凛の口から出た言葉に驚く。

「丹羽とどこまで進んでるって話よ。樹がせっかく2人きりにしてあげたんだから、何か進展したんでしょうね」

 あ、そっちか。

 どうやらチアをしてモテた(と思っている)話を延々とされるのは回避できたらしい。しかも自分たちも気になっていた話題だ。

「え? 丹羽? 特に何もないけど」

 だが返ってきた答えはそんなすっとぼけたものだった。

「いや、そんなわけないでしょ! お風呂から帰って来た時、あんた丹羽の膝に抱き着いて枕にしてたじゃない」

「え?」

 夏凜の言葉に風は思い出す。

 自分の名を呼んでくれて普段見たことのない優しい顔で自分の頭をなでてくれた少年のことを。

 あれは自分の願望が見せた夢だったはずだ。現にその後もずっと犬吠埼先輩と呼んでいたし、そんなことをしたそぶりも見せなかった。

「あの、確認したいんだけど…アタシとナツメにタオルケットをかけてくれたのは誰?」

「丹羽君に決まってるじゃないですか。私たち全員お風呂に入ってたんだから」

「そうだよお姉ちゃん」

 友奈の言葉に「そう」と返すと風の顔がどんどん赤くなっていく。

 ちょっと待て。じゃああれは夢じゃなかったってこと?

 現実ではありえない名前呼びに夢だと勘違いしてアタシはあんなことを言って、あまつさえ自分からナデナデの要求まで!?

 プシューッ! と音が出そうなほど風の顔が赤くなる。

「ど、どうしたんですか風先輩?」

「夢よ」

 風は布団をかぶって籠ると中から消え入りそうな声で言った。

「夢。あれは絶対夢。じゃないと年上としての威厳が…ていうかなんであいつあんなこと言ったのよ。あれじゃいつも見てる夢と勘違いするじゃない?」

「お姉ちゃん、なんて?」

 布団から決して顔を出そうとしない姉に対し隣の布団の樹が近づくが、ぶつぶつ言う声は聞き取れなかった。

「風はリタイアとして、次は樹ね」

「え、わたしですか?」

 夏凛が今度は樹をターゲットにした。

「なんかないの? この中で唯一クラスに同じ部活の男子がいる身としては」

「あ、ありませんよぉ」

 というか、丹羽が樹に近づこうとする男を百合イチャ観察のために軒並み追い払っているのであるはずがない。

「でも、丹羽君樹ちゃんに特別優しいよね。同じクラスだからかもしれないけど」

 友奈の放った言葉に、残り2人の女子がほうほうと食いつく。

「一緒にいる時はさりげなく他の男子とぶつからないように守ったり、樹ちゃんが重いもの持とうとするとどこからともなく現れて先に持って行っちゃったり。あと勇者部の皆にやってくれてるけど外では道路側を歩いてくれたり幼稚園で髪を引っ張りそうな子を止めてくれたりとかいろいろしてくれてるよ」

「そうね。一緒にいる時間が長い分、1番丹羽君にお世話されてるんじゃないかしら」

 東郷の指摘に、「ええ、そうなんです」と力なく樹は微笑む。

「おかげでいつの間にか付き合っているとか噂が流れたり、迷惑してるんです。まあ、それで男の人からは話しかけられることはなくなったので助かっていると言えば助かっているんですが」

 樹の言葉に「ふーん」と3人は顔を見合わせる。

「樹ちゃん、本当に嫌なら私から言いましょうか? これ以上樹ちゃんに近づくのは迷惑だからやめなさいって」

「え?」

 東郷の言葉に樹は目をパチパチとさせた後、慌てて首を振る。

「そ、そんな。東郷先輩にそこまでしてもらわなくても! それに私もそれで助かっているというか、言うほど迷惑じゃないというか」

 おや、ついさっき迷惑だと言ったのに慌てて否定するとは。

「それに、わたしの料理スキルアップのためには丹羽くんは必要ですし! なぜか皆さん食べたがらない料理も丹羽くんは好き嫌いせずに食べてくれるし…それが嬉しいとかじゃないですから」

 勇者部2年生組は微笑ましいものを見るような顔で樹を見る。

「な、なんですか? その素直になれない夏凛さんを見るような目は」

「おい、誰のことよ。…まあ、いいわ。次、東郷」

「え、私?」

 今度は見た目は完璧なのに国防思想の言動で台無しにしている少女にお鉢が回って来た。

「ないの? 浮いた話。友奈以外で」

「友奈ちゃん以外となると…うん、ないわ」

 あっさりと言ってのけた。

「だって男の人って私が車椅子だと露骨に同情的な視線で避けるんですもの。第一印象が最悪なのね。でもそれでも近づいてきた人は私の胸ばかり見て目を見ようとしないし…」

「「嫌味か貴様ッッッ!」」

 樹と夏凜が東郷の布団に侵入し、脇や腹をくすぐる。それで東郷は身体を震わせ、友奈に助けを求めた。

「ゆ、友奈ちゃん、きゃはっ、助け…キャハハハ!?」

「東郷さん、夜だから静かにね」

 だが親友はそれを見守るだけで、乾き物をかじりオレンジジュースで流し込んでいた。

 結局1分間くすぐりは続けられ、浴衣がはだけた東郷が出来上がった。

 荒い息を吐き顔を上気させる姿は大変艶めかしく、同性でも思わずゴクリと生唾を飲む光景だ。

「ハァ、ハァ…どうせなら友奈ちゃんに触ってほしかった」

「結局それか!」

 どこまでもぶれない同級生に、夏凜がツッコむ。

「まあ、東郷先輩がモテるのは認めざるを得ませんね。こんなわがままボディをしてたら」

 樹の言葉に3人はうなずく。

「でも東郷のお眼鏡にかなう相手はいないと。友奈以外は」

「そうね。まあ、最初会った時丹羽君はそのどちらでもなかったから珍しい子だと思ったんだけど」

 何気なく漏らした東郷の言葉に、「ん?」と夏凜は首をひねる。

「ちょっと待って。東郷、あんた丹羽のこと嫌いじゃないの?」

「まさか。樹ちゃんと同じ大切な後輩だと思ってるわ」

 その言葉に「え?」と樹と友奈も驚く。

「じゃあなんであんな風にドツキ漫才したり、丹羽と一緒にされることを嫌がるのよ」

「え、あれは先輩としての愛の鞭というか、ただのお仕置きよ。普通に丹羽君とは友奈ちゃんの映像を一緒に見たり情報を共有したりしてるわ。一緒にされるのが嫌っていうけど社会的にアウトなだけで私と2人きりだと全然気にならないし」

 待った待った待った。

 ここに来ていろいろ新情報が出てきて、混乱してくる。

 とりあえず1つずつ検証しようと夏凜は東郷に質問する。

「えっと、時々あたしから見てもヤバい攻撃をしているのに、丹羽に嫌悪感とかはないのね?」

「全然。むしろあれは先輩からのかわいがりよ」

 かわいがり(相撲)ですか。なるほど。

「次に友奈と一緒にいるところを邪魔されるのは嫌じゃないの?」

「え? むしろあの子には私が友奈ちゃんと一緒にいられるよう陰ながら努力してもらってるのはわかってるから、感謝しかないわよ」

 予想外の言葉に「お、おう」としか言えない。感謝しているのにあの黒いオーラを出していたのか。

「それに丹羽くんは同志だし。私と友奈ちゃんの関係を1番最初に応援してもらったから特別なの。だから友奈ちゃんと2人で話していても多少のお仕置きで済ませてるのよ」

 多少…多少であれだけのダメージを残す制裁をするんだろうか。

 まあ、丹羽が丈夫であまり応えていないというのも原因なのだろうが、それにしたってやりすぎだと思う。

「それと、さっき言ってた2人きりなら丹羽のあの不審者顔も気にならないっていうのは?」

「丹羽君とは定期的に情報交換を兼ねた友奈ちゃんを愛でる会を行っているの。そこで友奈ちゃんが今日どんなことをしたか。誰と仲良くなったかを聞いてメモしたり映像や写真を交換しているのよ」

「2人きりで?」

「残念ながらまだメンバーは2人なの。議論が白熱するときはうちに泊まり込むこともあるわ。夏凜ちゃんも入る? 今なら会員ナンバー1桁の称号が」

「風、樹! ヤバイ! アンタらが手をこまねいている間に東郷が2手3手も前に行ってる!?」

 東郷から聞かされた衝撃的な事実に布団にこもっている風を引き出そうとするが、当の本人はオーバーヒートで気絶していた。

 樹はと見るとこっくりこっくりと舟をこいでいる。どうやら東郷の話への興味よりも眠気が勝ってしまったらしい。

 夏凜はそっと樹を布団に寝かせ、枕に頭をのせる。

 今日聞いたことは2人に黙っておこう。下手に刺激すると勇者部にいらぬ混乱が起こりそうだ。

 2人が寝ていることを確認した後、夏凜は肝心な部分を聞いていないことに気づく。

「東郷、あんた丹羽が好き? 恋愛的な意味で」

 その言葉に東郷はにっこり微笑む。

「好きよ。友奈ちゃんとは違った意味で。車椅子のかわいそうな先輩じゃなくて1人の女の子、東郷美森として見てくれた最初の異性だもの。そしてみんなと戦う勇者としての目的を気付かせてくれた大切な後輩」

 乙女座戦の時のことを思い出し、東郷は言う。

「私、1度彼に命を救われているの。だから彼が困ったときは命がけで助けたいって思ってるわ」

 見たことのないバーテックスの特攻を身を挺して守ってくれた。

 あの時から自分の心は決まっている。もし彼が死の危険に瀕した時は、助けてもらった自分の命を使おうと。

 それから彼は友奈と同じくらい東郷にとって大事な存在になった。

「もし、仮によ。仮に丹羽が付き合ってくれって言ったら」

「夏凛ちゃん。それはあり得ないわよ」

 夏凜の言葉を遮り、東郷は言う。

「だって、彼は時々すごい優しい顔で私たち勇者部の皆を見てるの。みんなに気づかれないように必死に隠してるけど、ずっと見てた私にはわかる。まあ、車椅子で1人だけ視点が違ったから気付いたのもあるんだけど」

 そう言われても夏凛には覚えがない。丹羽と言えば女の子同士が仲良くしている姿を見て不審者のような顔をしている場面しか思い浮かばない。

 いやー―1回だけあった。

 丹羽明吾という人間の優しさを感じた場面が。

「水瓶座の時…」

 あの時、心折れかけていた夏凜を奮起させたあの言葉と声。

 あれが本来の彼だとしたら。

 東郷が言うすごい優しい顔なのだとしたら、東郷の話も納得できないことはない。

 あくまで納得できないことはないというだけで納得したわけではないが。

「多分、彼にとって私たちはそういう対象(・・・・・・)じゃないんだと思う。もっと大切な…そうね、親が子供に対する気持ちみたいな」

「なによそれ。あいつの方が年下なのよ」

 東郷の言葉に納得がいかないというように言うと、東郷も「そうね」と言う。

「さあ、そろそろ寝ましょうか。友奈ちゃんも寝ちゃったし、この話はこれくらいで」

 気が付けば友奈はチータラに手を伸ばしたまま寝息を立てていた。話に入ってこないと思ったら、寝落ちしていたのか。

 東郷に促され、夏凜も簡単に片づけを手伝い電気を消して布団に入る。

 だが頭の中は先ほどの東郷の言葉がグルグルと回っていた。

「彼に1度命を助けられているの。だから彼が困ったときは命がけで助けたいって思ってるわ」

 そんなの自分も一緒だ。あの時の励ましがなければ完成型勇者三好夏凛という存在は終わっていた。

 あの後息を吹き返したのは丹羽の言葉が支えになったから。失敗しても受け止め、自分を見捨てない存在がいてくれると分かったから。

 とそこで気付く。それはまるで父親や母親が子供に抱くような無償の愛ではないかと。

 樹や自分の考えていた男女の打算的な恋愛感情とは全く異なるものであることを。

「そういうことね…ったく厄介な」

 どうやら樹の丹羽にとって風を1番にするという目標は相当困難らしい。

 なぜなら丹羽にとって勇者部全員が等しく大事だということが今はっきり分かったからだ。

 さて、どう樹に伝えるべきか。どう伝えたらわかってもらえるだろうか。

 そんなことを考えていると眠気があくびとして口から入って来た。どうやら海で遊んで予想以上に身体は疲れているらしい。

 まあいいや。この考えは、明日まとめれば…。

 そんなことを思いながら、三好夏凛は夢に落ちていった。

 




【悲報】東郷さん、とっくに堕ちてた。
 命の危機を救う。戦闘後のメンタルケア。秘密にしていた性癖を認めてくれた上に応援してくれる。自分を含め部活の皆を助けてくれる。趣味の理解者(軍オタ、友奈ちゃんの両方)。動かなかった足の治療。
 あれ、好感度上げることしかしてないな?(首をひねる)
 東郷さんの心理的には1番大切で大好きな同性は友奈ちゃん。1番大切な異性は丹羽という位置づけです。
 もしヘテロ展開だったら重い愛を受けていたでしょうが、丹羽君は百合男子なので問題ありません。

 原作7話終了。ようやく折り返し地点。
 でも8話までは1か月近く間があります。そしてそれからは怒涛のイベントラッシュ…タイムスケジュールおかしくない?

 ドキドキ、丹羽君に対する好感度(ヘテロ堕ち警戒度チェック)

☆友奈:隙あらば攻略されそうなので警戒中。むしろ友奈次第でルート確定しそう。愛が重い。
▲東郷:丹羽による無償の愛の理解者。友奈ちゃんLOVE。愛が重い。
◎風:恋人未満お隣さん以上。距離が現在1番近い。きっかけさえあればルート確定。
〇樹:風とくっつけようと画策中。ヘテロ派。無自覚だがツンデレ状態。
×夏凜:丹羽の愛し方は理解したが納得はしていない。恋愛感情なし。安全。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。