詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
ドッキドキの水着回&温泉回!
夜は男子禁制、秘密のガールズトークが!
Q丹羽明吾君についてどう思いますか?
風「丹羽? 弟みたいなもんだって」(なお美化された丹羽といちゃつく夢を見る模様)
樹「丹羽くんはお姉ちゃんが1番でいてくれなくちゃダメ!」(避けられないヘテロと百合厨の解釈違い)
東郷「丹羽君? ええ、好きよ。命の恩人だし、私という人間をちゃんと見てくれるし」(理解者)
友奈「丹羽君は樹ちゃんと同じかわいい後輩だよ! もちろん大好き!」(攻略王)
夏凜「(あれ、ひょっとしてフラグ立ってないのあたしだけ?)」(安牌)
そこは暗い空間だった。
気が付けば夏凛は椅子に座り、最前列で舞台を見ている。
『お母さん、お父さん、あのね、今日あたしね』
舞台の上、スポットライトを浴びた髪を2つ結びにした少女が同時に光を浴びた大人2人に声をかけている。
だが大人たちは少女の方を見ない。見ているのは目の前にいる少年だけだ。
『すごいな春信は。今回のテストも全教科満点だったんだって?』
『お祝いをしましょう。あら? 夏凜、どうしたの』
『…ううん、なんでもない』
少女は手に持っていた紙の束を隠す。そこから1枚落ちてスポットライトの光が絞られる。
三よしかりん さんすう100点。花丸もついていた。
だが他のテストは90点や80点で、100点はその1枚だけなのだ。
『せっかくクラスであたしだけが100点を取ったって自慢したかったのに』
独白と共に照明が消える。また照明が付くと今度は額縁に入れられた絵を、髪を2つ結びにした少女が見ている。
『すごいな春信は。県の芸術賞を取ったんだって。父さんも鼻が高いぞ』
『本当にこの子は何でもできて。母さん誇らしいわ』
声だけで両親の姿は見えない。ポロポロと少女は泣いていた。
少女の手から落ちたの1枚の絵。題材は【家族】。
そこに描かれていたのは父、母、そして兄。
少女の姿はなく、3枚にびりびりに破れてしまった。
『絵なんて、見る人の主観だもの。皆にはこの芸術がわからないのよ』
また照明が落ち、今度は仮面を被った男と2つ結びの髪をしたセーラー服の少女が背中合わせに立っている。
『春信は天才だ』『10年に1人の逸材』『あの歳にしてもう大赦に務めているそうだ』『近々昇級するとか』『やはり仕事のできる男は違う』『孝行者の息子を持って両親もさぞ鼻が高いだろう』
仮面の男が褒められるたびに少女は一歩ずつ歩き出し、やがて舞台の端まで来てしまった。
『それに比べ…なんだあの妹は』『不愛想で春信とは大違い』『しかも才能は遠く及ばないと来た』『仕方ない。鳶は続けて鷹を産むまいよ』『あの春信の妹なら、これくらいできると思ったが』
あちこちから聞こえてくる声に、少女は舞台の中央へと走り叫ぶ。
『うるさい!』
少女の声にどよめきの声が広がる。
『あたしは三好夏凛よ! 三好春信の妹じゃない! どうしてあたしを見てくれないの!? どうして認めてくれないの!?」
少女の声に、どよめきは呆れを含んだため息へと変わる。やがて離れていく靴音だけが聞こえてきた。
『待って! 誰かあたしを認めて! 頑張るから! 兄貴よりずっと頑張ってできるようになるから、だから――あたしを認めてよ」
舞台が暗転する。
ブーっという音が鳴り、舞台の幕が下りてきた。
天井のライトが付き、これで劇が終わりだと告げている。
なんともつまらない劇だ。しりすぼみもいいところ。
結局凡才は努力しても天才には勝てないということか。くだらない劇だ。
夏凜は席を立とうとして、隣にいた少年に手をつかまれた。
「駄目ですよ三好先輩。ちゃんと第2幕も見ないと」
誰だこいつは。初対面の癖に馴れ馴れしい。
と同時にこいつの顔をどこかで見たことがあるような気がした。どこだっただろう?
「ほら、始まりますよ」
声と共に天井の照明が消え暗くなる。ブーっと音がして幕が上がった。
舞台の上にスポットライトが当たる。そこでは髪を2つ結びにした少女が泣いていた。
『また、失敗した。頑張ったのに、全部無駄になった』
手元には2振りの刀。それが手から落ち、カチャンと金属音を鳴らす。
『どこが完成型勇者よ。勇者になれたのも兄貴のおかげ、贔屓と言われないために頑張っていたのに、いつも足手まとい。これじゃあ皆に合わせる顔なんて』
やはりくだらない劇だ。
「どこがくだらないんですか?」
隣の席の少年が言う。
「どういう劇なら面白いんです?」
その言葉に夏凜は何か言おうとして…急に手を引っ張られ舞台に上げられた。
なにをするのかと少年をにらみつけると、にこにこして手を振っている。こいつ、何を考えてるの?
『なによ、あんたもあたしを笑いに来たんでしょ!』
髪を2つ結びにした少女が夏凜をにらみつけながら言う。それにカチンと来た。
「そんなことしないわよ。あんたが頑張ってたのは知ってるし、それでもうまくいかなかったのも知ってる」
でも、自分ならそれで諦めたりしない。
「なんで周りを頼らないのよ」
夏凛の言葉に少女は何を言われたのかわからないような顔をしている。
「あんたに手を差し伸べてくれた人はいっぱいいたでしょ? なのになんで1人だけで頑張ろうとするのよ」
『そんな人、いない。あたしを助けてくれる人なんて…あたしを認めてくれる人なんて』
「いないなんて言わせない。あたしはそれを憶えてる」
スポットライトが当たる。それは学校の先生。
『このテストで100点を取ったのは学校で三好さんだけです。みんな、拍手!』
スポットライトが当たる。それはもう名前も憶えていないかつてのクラスメイト。
『かりんちゃんすごい! これってキュピズムっていうんだよね。私これ好き!』
スポットライトが当たる。それは勇者候補生の楠芽吹と弥勒夕海子。
『夏凜、私とあなたで勇者になるわよ。弥勒さんの分まで』
『夏凜ちゃんは頑張りすぎですわ。もう勇者候補ではありませんがこの弥勒夕海子、あなた方のサポートくらいできましてよ』
スポットが当たる。スポットが当たる。スポットが当たる。
いつの間にか舞台を埋め尽くすほどの人間がそこにはいた。それを呆然と髪を2つ結びにした少女は見る。
「どう、これだけの人があんたを認めてくれているのよ」
『そんなの…そんなの知らない。あたしは認められなくちゃ』
「認められるって誰に? 大赦の職員? 親? 兄貴? 馬鹿みたい」
かつて精霊に言われた言葉を目の前の少女に放つ。
「あたしには――あんたには5人も仲間がいるじゃない。そいつらに認められれば、あたしは充分」
画面が暗転し、再び明かりがともる。そこには少女に向かって手を差し伸べるピンク、青、黄色、緑、白の服を着た人間がいる。
「ほら、行きなさいよ」
まだ迷っている髪を2つ結びにした少女の背中を押し、夏凜は笑う。
前につんのめった少女を5本の腕がつかみ、引き寄せる。抱き留められ、恐る恐るではあるが少女はその手を取った。
「そう、それでいいのよ」
舞台が暗転する。これで終わりかと夏凜が舞台を降りようとすると、少年が手を広げ妨害してきた。
「ちょっと、劇は終わりでしょ」
「何言っているんですか。ラストシーンが残ってます」
その言葉と同時にスポットライトが当たる。
そこにいたのは仮面をかぶった男だった。
『夏凜、この前のテスト夏凜だけが100点を取ったんだって? すごいじゃないか』
びりびりに破れた絵をテープで元通りにした仮面の男が言う。
『夏凜が描いてくれた絵だ。宝物にするよ』
『夏凜は僕の自慢の妹だよ』
『無愛想に見えるけど、優しい子なんです』
『妹には妹にしかできないことがあります』
『夏凜は俺なんかよりずっと特別な子です。俺はそれを知ってます』
『俺は俺、夏凜は夏凜なんだから、気にすることはないんだよ』
どうして忘れていたんだろう。
全部自分が言われたことだ。そして聞こえないふりをしてきた言葉でもある。
それを聞くたびに見下されているような気がした。憐れまれている気がした。
だから、無視して歩み寄る兄から逃げて、逃げて。
今からでも振り返り、手を伸ばせば届くだろうか。
「ほら、三好先輩の台詞ですよ」
少年に背中を押され、たたらを踏みながら舞台の中央へ向かう。
そこには手を伸ばせば届く距離に、仮面の男がいた。
『夏凜…』
仮面の男の声が聞こえる。表情は見えないが、不安そうだ。手も出そうか出すまいか迷っている。
夏凜はその様子を見て腕を伸ばし、引っ込みかけた手をぎゅっと握る。
「なに遠慮なんかしてるのよ馬鹿兄貴!」
仮面の男が驚いている。本当は仮面の下の表情も見たかったが、それは現実での楽しみとしよう。
なんとなく、これが夢だとわかっていた。だから夏凜はこの出来事を目が覚めても憶えているように、宣言する。
「あたしは、三好夏凛はずっと避けていた兄貴と仲直りする! 昔通りとはいかないけど、それなりに仲のいい兄妹として」
その言葉に客席から拍手が送られる。その中には自分を舞台に上げた少年の姿もあった。
まったく、お節介ねあんたは。
現実でも他人のために優しさを注ぐ少年に見守られながら、夏凜の目の前に緞帳が下りるまでその光景を見ていたのだった。
目覚めは幾分か爽快だ。
多分自分が1番最後に寝たはずだが、1番最初に起きてしまった。
夏凜は他の勇者部メンバーを起こさないようにスマホを開き、時計を見る。
午前5時。朝食には少し早い時間だ。
何か変な夢を見ていた気がする。そこで最後何か決意していたような…。
駄目だ。思い出せない。
朝風呂でも入ればすっきりするだろうか。そう考え布団から出ると隣の部屋へ続くふすまが目に入った。
そういえば昨日風と一緒に丹羽を簀巻きにしたんだっけ。
と同時に寝る前まで東郷と話していた内容がフラッシュバックのように頭の中で再生される。
そうだった。樹になんて説明しよう。
まさか友奈以外眼中にないと思っていた東郷が1番丹羽と近かっただなんて。
しかも恋愛とかそういう浮ついたものよりももっと深い部分で通じ合っているような感じだ。
風と違うのは東郷が相手を意識していること。恋愛の恋はなかったが愛があった。
おそらく東郷なら丹羽が望む距離感で一緒にいられるだろう。樹のように1番でいてほしいという独占欲はなく、平等に無償の愛を注いでいる丹羽の考えも理解し付き合っていけるはずだ。
それが男女の仲として正しいとは夏凜は納得しかねるが。
男女による普通の恋愛を釣りとするなら丹羽は魚に向けて毎日餌だけ与えに来ているカモだ。
魚を釣るための仕掛けのついた釣り糸を垂らしもせず、竿すら持たず、ただ毎日魚に愛情という名の餌を与えている変人。
善人と言えば聞こえはいいが、他の釣り人からしたらたまったものではない。
なにしろ丹羽が餌をまいているので魚は来るが、けっして自分の釣り竿にはかからない。
しかも丹羽が与えている餌は極上品で、魚はおいしそうに食べ肥え太っている。他の釣り人からしたらぜひ釣りたいと思える魅力的で極上な獲物だ。
ただ、極上の餌に慣れた魚たちに取って他の釣り人の餌はまずそうに見えてまず食いつかない。たとえ食いついたとしても丹羽はその釣り糸をはさみでちょん切り、逃がそうと考えている。
つまり釣り人にとって丹羽という存在は迷惑以外のなにものでもないのだ。
「本当、難儀な相手」
お人よしというか馬鹿というか。打算なしの無償の愛を与えている相手にどうやって魚を釣るための釣竿を持たせるのか。
釣竿を持たせてもあいつのことだ。きっと返しのないまっすぐな針を釣り糸にたらし、魚を釣る気など微塵も見せないだろう。
恋愛において釣った魚に餌をやらないという言葉はよく聞くが、釣らない魚に餌しかやらないという人間はあいつくらいじゃないだろうか。
そんな相手に姉という魚を釣らせるために夢中にさせようとしているのだ。樹がする苦労はいかほどなのか。
夏凛は他の勇者部メンバーよりも一足早く起床し、服を着替える。
あれこれ迷うのは自分らしくない。隣の部屋へ続くふすまを開けると、昨日の夜から簀巻きにされて目が死んでいる丹羽がいた。
「丹羽、着替えなさい。ちょっと付き合ってもらうわよ」
拘束を外された丹羽は夏凜に連れられ、昨日勇者部全員で遊んだ砂浜に来ていた。
早朝なので周囲に人はいない。何をする気なのかと思っていると、スマホを取り出し画面をタップする。
ヤマツツジの花が咲き誇り、夏凜の身体が光に包まれる。光が収まるとそこには赤い勇者服を着た夏凜がいた。
「あんたも変身しなさい。今日の朝練はマジでやりたい気分なの」
その言葉に丹羽もスマホを取り出し、画面をタップする。
白い百合の花が咲き誇り、白い勇者服に赤いラインが入った姿となった。
さすがに勇者の武器を使うわけにはいかないので双方木刀の模擬戦だが、夏凜の顔は真剣そのものだ。
「なんでって訊かないのね。急にあたしがケンカふっかけたことに」
夏凛の言葉に不思議そうに丹羽は首をひねる。
「いや、理由ならさっき言ったじゃないですか。朝練をマジでやりたい気分って」
「それを信じたの? ったく、お人よしもそこまで行くと大馬鹿ね!」
夏凛が踏み込み、2振りの木刀で丹羽の胴と腕を獲りに行く。
だが相手もその狙いをわかっていたのか、丹羽の持った2本の木刀で弾かれる。もちろんそれを予測していた夏凜は別の追撃を数パターン脳内でシミュレートし、最適と思われる攻撃を繰り出していく。
「あんたさぁ、風と樹のことどう思う?」
「犬吠埼先輩と犬吠埼さんのことですか? 仲のいい姉妹だと思ってますよ」
「違う、男としてどうなのか。魅力を感じるのかってことよ」
言葉を交わしつつも攻撃は鋭く緩めない。丹羽は夏凜の攻撃に防戦一方だ。
右へ左へと続けて放たれる連撃に、時に避け、時にいなし足を常に動かしながら攻撃をさばいていく。
「魅力的だと思いますよ。犬吠埼先輩は世話焼きで、引っ張ってくれて。なのに純真でかわいらしい乙女なところがある。犬吠埼さんは一見守ってあげたくなるタイプですけど芯に強いものを持っていて、いざというときは頼りになる子だと」
「へえ、そう。外見とかはどうでもいいの…ね!」
渾身の2本同時の胴払いを木刀を十字に構えて受ける。足が止まったことで怒涛の剣戟が丹羽を襲う。
「え、だって2人は誰が見てもきれいでかわいいじゃないですか。今更言及する必要あります?」
「こいつは…」
さらっと宣ったタラシ発言に夏凜は脱力する。本気でそう思っているのが打ち込んだ木刀を通じてわかるからタチが悪い。
「あー、やめやめ。これなら巻き藁相手に打ち込みしてた方が訓練になるわよ」
そう言って夏凛はスマホの画面をタップし、変身を解く。
「防戦一方で全然攻めてこないし。なに? あたし相手じゃ本気になれない?」
夏凜の言う通り、丹羽は攻撃を受けるだけで決して反撃はしてこなかった。これでは木偶相手の訓練と変わらない。
「いえ、こっちは本気で防御してましたよ。ただ、俺が武器を振るうのはバーテックスを相手した時だけ。人間には振るいません」
てっきりフェミニストを気取って女は傷つけられないと言ったらぼっこぼこにしてやろうかと思ったが、そういう理由なのか。
なるほど。
「丹羽、そこに正座。今からぼっこぼこにしてやるからせいぜい耐えなさい」
「何でですか!?」
にっこりと笑って
「それってあたしを馬鹿にしてるのと一緒だからよ。かっこいいこと言ってるつもりなんでしょうけど、あたしからしたら侮辱以外のなにものでもないわ」
夏凛の言葉にしゅんとして「すみません」と丹羽が言う。
おそらく夏凜のプライドをいたく傷つけたと思っているのだろう。まったく、こいつは。
「嘘よ。勇者に変身しているとはいえ、抵抗できない相手を叩くなんてあたしのプライドが許さないもの」
夏凜の言葉に丹羽は目をパチパチしている。どっちの言葉が真実なのか測りかねているようだ。
「ただ、侮辱してるって言葉は本当。あたしはガチのあんたと戦って本心を知りたかった。だからそれに応えてくれなかったのは正直がっかりだわ」
「すみません三好先輩、でもこればっかりは」
「いいのよ。価値観なんて人それぞれなんだから。ただそれによって傷つく人間もいるってことを知ってほしかっただけ」
そう言って夏凜の言った通り本当に正座しようとしている丹羽の手を引っ張り立たせる。
「丹羽、水着を買いに行った時の樹とあたしの会話、憶えてる?」
その言葉に、丹羽は神妙な顔をしてうなずく。
「はい。俺の良かれと思ってしていたことが知らない間に犬吠埼さんを傷つけて、取り返しのつかないことになるところでした。三好先輩には感謝しか」
「そうじゃない」
肝心なところを勘違いしている後輩に、夏凜は先輩として指摘する。
「あんたは自分が思っているより勇者部の皆に影響を与えてるってこと。風と樹はもちろん友奈に東郷、あたしにもね」
丹羽は夏凛の言葉にいまいちピンと来ていないようだ。やれやれ。
「あの時聞いたかもしれないけど、もう1度言うわ。あたしはあの時心が折れかけていた。完成型勇者失格だって。でもあんたの言葉でもう1度立ち上がることができた。感謝してもしきれない」
「それは俺の言葉がきっかけなだけで、勇者部の皆がいたからですよ。三好先輩を受け入れてくれる存在がいたから俺も太鼓判を押してああ言えたんです」
まったくこいつはわかっていない。あの時の言葉が自分にどれだけ影響を与えたのか。
失敗して今までの努力が全部無駄に終わったと思っていた自分を立ち直らせてくれただけでなく、その失敗すら肯定して自分が進むべき道を示してくれた。
それがどれほど三好夏凛という人間に対して衝撃的な出来事だったのか。
「例えばさ」
と前置きして夏凜は言う。
「もしあの言葉がきっかけであたしがあんたに恋してたら、あんたはどうしてたわけ?」
「ええ!?」と驚く後輩に、「例えばよ例えば」と夏凛は言う。
「それはその…俺は百合を見守る使命があるので残念ですが」
「やっぱりね。で、それで気まずくなって勇者部やめるってなったら?」
「そんな! そうなるくらいなら俺が辞めます!」
迷いのない即断だった。本当に、そういうところよ! と夏凜は内心でため息をつく。
「そうなったら風やみんながあんたを引き留めようとするわよ。で、あたし…ああ、仮に告白した方のあたしね。それが告白したことでやめようとしたことがバレたら、その子のせいで勇者部がギスギスするわよ。それでもいいの?」
「いいわけないじゃないですか!」
丹羽の表情は真剣だ。よっぽどそうなる事態を見たくないのだろう。
「でしょうね。でもそうなる可能性もあるってこと。もしかしたらあんたを引き留めるためにその子と同じように告白する奴らもいるかもしれない」
風とか樹…あと東郷はどうだろう? 告白とは違うがそれに近いことはしそうだ。
友奈は間違いなく引き留めるだろう。恋愛感情はあるかどうかは不明だが。
「そうなると修羅場よ? あんたが見守りたいと思っていた百合イチャなんて夢のまた夢かもね」
その光景を想像したのか、丹羽が顔を青くしてガクガクと震えている。
こいつ、そこまでショックだったのか? どんだけ百合イチャとやらが大事なのよ。
「そうなるくらいなら自分が嫌われようとするのとかなしね。あんたが言ったのよ、同じ失敗をしようとしている仲間がいたら止めることができるって」
図星だったらしく、丹羽がびっくりしている。こういう顔は初めて見たので少し痛快だ。
「と、いうわけで。もしそんな事態になったら、ちゃんとみんなの言葉を受け入れて話し合いなさい。そして自分がどうしたいか、どうするべきかを話し合うの。妥協点を見つけるともいうけど、納得できる結論が出るまで何度でもね」
夏凜の言葉に神妙に「はい」と丹羽がうなずく。まあ、あたしが言えた義理じゃないんだけどね。
「とまあ、先輩のお説教はここまで。次はちゃんとやってよね」
「はい。皆さんにあまり関わらず道端にいる道祖神のように皆さんを見守りたいと思います」
その言葉に思わずずっこけかける。こいつ、今まで何を聞いてたのか。
「ちーがーうーでーしょ! あんた何聞いてたの? その耳についてる穴は飾りなの?」
「ええ!? じゃあどうすればいいんですか!?」
非常に情けない顔だった。すがりついてこそ来なかったが内心ではそうなりたいと思っているのが見え見えだ。
「優しくするならその行動に責任をとること。無償の愛なんて、東郷みたいに理解できる人間はそういないんだから。男が女に優しくしたら、下心があるって普通は思うもんよ」
「え、なんでそこで東郷先輩の名前が?」
あ、しまった。
思わず口が滑った夏凜だったが、こうなったら勢いでごまかすことにする。
「いいから! もし女の子に告白されてもさっきみたいに趣味の百合イチャを免罪符にごまかすんじゃなくて、ちゃんとあんたの言葉で本音を話すのよ。その上で相手にも納得してもらうこと。いいわね!」
ビシっと目の前の後輩に指を差す。
「それとあんた夏休み暇よね? 暇でしょ! 時間のある時はみっちり稽古してあげるわ。さっきの次っていうのはその稽古のことよ」
夏凜の言葉に丹羽は目を白黒させて「は、はい」とうなずいている。よし、ごまかせた。
こうして勇者部1泊2日の夏合宿が終わった。
帰りの大赦所有の送迎車(貸し切り)では東郷が怪談、【自分の体を求めさまよう腕】を話し真に迫った語り口に勇者部全員を震え上がらせていた。
夏凜も同年代の女子から訊いてその内容は知っていたが、東郷が話すと別物のように恐ろしい。あまりジュースを飲んでいなくてよかったと思う。
特に風は見ていて気の毒になるくらい顔を青くしていて、マンションの前で降ろしてもらっていたが腰が抜けており、樹と丹羽の支えがなければ車から降りられないほどだった。
だから昨日の夜、怪談をあんなに必死に止めてたのかと夏凛は1人納得する。
マンションの自分の部屋に帰った夏凛は、ふとスマホに兄からメッセージが届いていることに気づく。
内容はいつも通り当たり障りのない天気のことだったり、そっちは元気にしていますかというこちらの体調の心配だったりという定型文だ。年頃の兄弟ならこんなものかもしれない。
だが、その日の夏凛はどうかしていた。
後輩に説教して自分のことを顧みる機会があったからか。
あるいは今朝見た変な夢の残滓がどこかにあったからか。
『お兄ちゃん、今までごめん。お兄ちゃんはいままであたしに歩み寄ってくれていたのに、全部無視して。やり直せるかどうかわからないけど、いつか昔みたいに…いや、普通の兄妹に戻れるといいね。大好きだよ』
そんな内容のメッセージを送ってしまった。
その結果夏凜のスマホはメッセージの通知が1日中鳴りやまず、充電していないとすぐ電池が切れてしまいそうだった。
もちろんメッセージを送って来た相手は兄の春信であり、内容は最初は夏凜を心配するもの。次に幼少期からの夏凛のエピソードに、あの時自分はどう思っていたかを延々と語る。途中返信が一切ないのに夏凜になにかあったのではないかという心配する内容に変わり、うっかり『大丈夫』と返してしまったため今度は妹大好きメッセージが送られてきたのだ。
いったい何をとち狂ってあんなメッセージを送ってしまったのか。夏凜は後悔する。
そして金輪際あんなメッセージは送らないと固く誓った。
結局三好春信はこの一世一代の妹の仲直りチャンスを自らの手で棒に振ってしまい、三好兄妹の距離は余計に開いてしまったのだった。
夏休み中の予定選択に【夏凜ちゃんとの戦闘訓練】が追加されました。
これを選択すると戦闘能力が向上し、三好夏凛との信頼度、信愛度が上昇します。
次回、いよいよあの方と対面。丹羽君は生き残ることができるか?