詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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あんタマの仇を神歴でとる

 結論から言おう。

 神樹の力を注いだ結果、12個の繭のうち1個を残して全滅した。

 やはりバーテックスには神樹の力は猛毒だったのか、戻ってきたフェルマータも俺にちゅーちゅーしてきた神樹の体液を渡した瞬間グズグズに溶けるように消滅してしまった。

 繭に神樹の体液を注ぐときも若干ピリピリしたし、やはり星屑にとっても神樹の力はよくないモノらしい。

 星座級の巨大バーテックスの質量をもつ星屑を圧縮し、それからも定期的に星屑を食っていた人型の俺は神樹の体液を吸いだしてもしびれるくらいで済んだ。

 だが、ただの星屑から作った人間型の星屑には耐えられなかったらしい。1000分の1に薄めた神樹の体液を繭に注いだ結果、まず7体が消滅した。

 それから3体の繭の明滅がどんどん弱弱しくなり、やがて光が消えて溶けていった。

 残り2体となり繭に栄養を送るため星屑の肉塊を与えると、1つの繭が突然膨張して中から星屑に人面痣(じんめんそ)みたいなものが付いた赤黒い物体が出てきて断末魔を上げて絶命したのだ。

 今思えば女神転生のレギオンみたいだったなぁ。その時は相当驚いたし、SAN値も下がった。

 で、今俺が見ているのは最後に残った繭だ。

 明滅をゆっくりと繰り返しているのはまだ生存している証拠。星屑の肉塊から栄養を吸い取って順調に成長し、最初の頃より3倍くらい大きくなっている。

 うーむ、でかいな。精霊は人間より小さいはずなんだが。

 考えてみれば繭の中で変態する虫は栄養をたくさん取ってから繭を作るため、繭の状態で栄養を与えるために星屑を食わせたのは失敗だったかもしれない。

 今度は人間型の星屑に栄養を十分与えてから繭にして変態させてみよう。幸いにも神樹の体液はまだ俺の体内に残っているし。

 そんなことを考えていると、繭にヒビが入り中から光が漏れ始めた。

 ついに誕生するのだ。精霊型星屑が!

 できれば秋原雪花の精霊のコシンプが出てきてほしい。ゆゆゆいの秋原雪花の章でテレパシー能力で雪花と会話していたことが公式設定として確認できる精霊だ。

 次点で覚。名前からして相手の心が読めたり以心伝心で意識を伝えたりできそう。

 さあ、こい! こい! こいよオラァン!!

 デブリの中を照らす光が強くなり、神秘的な存在の誕生を予感させる。

 やがて光は収まっていき、その中にいるものの姿を確認させた。

 烏帽子をかぶった頭に生える2つの角、和服に袴を着て、手には剣を持っている。

 鈴鹿御前。ゆゆゆいで本来精霊を持つことのなかった銀ちゃんの精霊として登場した存在だ。

 ゲーム本編と違うのは髪と眉の色だ。本来紫色だったのに、真っ白になっている。

 これが星屑から生まれた影響か。他はゆゆいのままなのに。

 向こうも俺の姿を見つけたようで、浮遊しながらこちらに近づいてくる。

 うん、ちゃんと本編通り小さい。あの繭の大きさからでかい奴が出てきたらどうしようかと正直ドキドキだった。

 さて、狙った精霊ではなかったが意思疎通できるかどうか試してみよう。

 俺の言葉がわかりますか?

 問いかけると鈴鹿御前…白静と名付けよう。は首肯する。どうやら意思疎通はできるらしい。

 次にあなたは喋れますか? と問いかける。

 今度は首を振る。否定ということか。ではテレパシーなどで勇者と意思疎通できますか? と尋ねる。

 白静再び首を振った。どうやら俺が望む能力は持っていないらしい。

 失敗か。

 1度で成功するとは思っていなかったが、やはりがっかりというのが正直な気持ちだ。

 また最初からやり直しだ。だが、今回の失敗で改善するべき点が見えてきたのはプラスだろう。

 今度は人間型星屑の強度の強化と神樹の体液に耐えられる素体の開発をメインに頑張ってみるか。

 思い立ったら行動とデブリの外へ出ようとすると、白静もついて来ようとする。

 どうやらヒヨコの刷り込みというか、俺のことを親だと思っているようだ。

 だがせっかく生まれた精霊だ。外の環境に耐えられるかわからないまま連れて行くのはまずい。

 しかたなく俺は白静に意識を移そうとして――はじかれた。どうやら神樹パワーの影響か意識を乗っ取って動かすということはできないらしい。

 ならばついてくるなーと強く念じる。だが白静はお構いなしにこちらに近づいてきて、剣を持っていないほうの手で俺の白い指を握ってきた。

 やだ、なにこの子かわいい…っ!?

 ま、まあ精霊が外の環境に耐えられるかはいつか確認しなきゃいけないからな。

 決してかわいさにほだされたとかではない。

 デブリの外へ出て、白静の様子を見る。

 何の問題もなかった。

 ん? と小首をかしげてこちらを見るのをやめなさい。抱きしめたくなるだろう。

 どうやら人間型星屑は耐えられない環境も、精霊型星屑なら耐えられるらしい。

 これは神樹の力を注いだ影響なのか? それとも精霊だからなのか?

 人間型星屑を作る前にも注入して確かめてみる必要があるな。

 そんなことを考えながら、以前よりは大分動かし方がわかってきた身体でサーバー星屑のもとに向かう。

 サーバー星屑は以前見た時より巨大になっていた。手を触れ、意識をサーバー星屑に移すと1から80までの数が表示される。

 また増えたな。

 最初は10体の管理を任せていたが、自然発生する星屑を食い巨大化。さらに分裂を繰り返し今では80体ほどに増えていた。

 過剰に増えた星屑はサーバー星屑と融合するよう指示していたので、いつの間にかこんなに大きくなっていたのだ。

 自己増殖、自己成長、自己管理とかどこのデビルガ〇ダムだよと思ったが、今のところ不便はないどころか快適なのでむしろヨシ!

 今では四国周辺はもちろん偵察用に数体の星屑を様々な方向に遠征させていた。

 Xデーに勇者の元に現れた星座級の巨大バーテックスは3体。それを発見できれば先になんらかの手を打つことができるはずだ。

 数字を目で追っていくと、緑一色の中に1つだけ黄色になっている数字を発見した。

 その数字の視界を映すように念じると、映し出された画面に息をのんだ。

 盾のような銀色の上半身に黄色い6つの目と頭頂部にある触覚、下半身は丸い穴の開いた瓶のようなものを抱えていて、中に入った緑の毒液が上半身の接合部から生えた球体が連なったしっぽへと注がれている。

 そしてその毒を突き刺し注入する長い針。

 そこにいたのは蠍座(スコーピオン・バーテックス)

 かつて2人の西暦勇者…伊予島杏と土居球子の2人を倒した巨大バーテックスであった。

 

 

 

 その日、天の神から勇者抹殺の命令を受けたスコーピオン・バーテックスは四国に向け進軍していた。

 このバーテックスは西暦時代から生きてきた古株で、実力は相当なものだと自負している。

 なにせ他のバーテックスが苦戦していた勇者を2体も(ほふ)ってきたのだ。

 最近生まれたひよっこの星座級には負ける気はしないし、それを追い返すしかできない勇者にも負ける気はしない。

 だが、そんな自分が天の神直々の采配で勇者討伐へ向かうことになった。それだけ苦戦しているということだろう。

 1体でも負ける気はしないが、念には念を入れ蟹座と射手座のバーテックスと合流し神樹の結界へ向かうことにした。

 強い自分がいれば完勝は間違いないが、たまには後進に手柄を譲ってやってもいいだろう。

 まぁ、勇者へのトドメは自分が刺す(美味しいところは自分がいただく)が。

 そんなことを考えながら四国を目指していると、前方にバーテックスを見つけた。

 星屑かと思えば様子がおかしい。こちらに向かってきているように見える。

 スコーピオン・バーテックスは首をひねった。こんなことはあり得ない。

 星屑は皆人間が住む四国へ目指すよう天の神にプログラムされており、その逆はあり得ないはずである。

 特例として負傷した巨大バーテックスの怪我を治すために群がり、修復するという性質はあるが、自分は万全の状態だ。

 そう、つまり自分に突っ込んでくる理由などないはずである。

 だがそいつは――見たこともない星屑に乗ったそいつはスコーピオン・バーテックスの前に現れた。

 6体の口がない星屑、穴の開いた牙に長いトゲが生えている変異体を連れ、まるで人間のような形をした小さなもの。

 感覚から、そいつが星屑なのは間違いない。ではなぜこんなところにいるのか。

 天の神からの命令を無視して。

 いぶかしんでいると、人型の星屑が腕を上げた。手を開き、5本の指からは水色の糸のようなものが見える。

 それが口のない星屑とつながって――いきなりそいつら6体がこちらに突進してきた。

 盾のような上半身に深々と突き刺さり体躯をへこませたそいつらは今度は球体のしっぽへと狙いを定めぶつかってくる。

 仲間であるはずの星屑が自分を襲う。予想外のことに驚いていると、今度は人型の星屑の横にいた穴の開いた牙みたいな星屑に光が集まっているのが見えた。

 あれは、獅子座(レオ)の……。

 と、そこまで考え猛烈に嫌な予感がしてその射線上から逃走する。

 だが一瞬遅く、放たれた光はスコーピオン・バーテックスの毒液が詰まった球状のしっぽの一部を貫いた。

 痛い、痛い、痛ぁい!!

 久しく感じていなかった痛みに、もんどりを打つ。体躯を震わし攻撃してきた星屑に向けて空いた穴から毒液がこぼれるのも構わず尾を振るう。

 決めた、こいつは敵だ! この私に傷をつけたことは許さんぞ!!

 怒りから星屑を敵と認識し、攻撃を振るう。だがすでにそこには星屑はいなかった。

 あいかわらず口のない星屑は自分に向かって突進してくるし、何なのだこれは。うっとうしい!

 クソ、どこへ行った! どこへ逃げた!?

 盾のような上半身を動かし、3対6つの目で敵の姿を探す。すると頭部の黄色い触覚に、風を切り物体が動くのを感じた。

 そこかぁ!!

 自分の背後にいた星屑に、必殺の尾を使った毒針攻撃をお見舞いする。

 これはかつて西暦時代の勇者を2人まとめて貫いたスコーピオン・バーテックスにとって無敵の攻撃であり、切り札だった。

 だが、その攻撃が届くことはない。

 放たれた毒の矛は切断され勢いを失い宙空を舞っていた。

 毒液が詰まった球状のしっぽも続けざまに切られ、切断面から毒液がこぼれる。

 その攻撃を見て、しっぽを切断されたスコーピオン・バーテックスは思い出していた。

 ああ、これは……俺が倒したあの盾を使う勇者の。

 回転する水の刃が、かつて土居球子と呼ばれた勇者が持っていた武器と重なって見えた。

 呆然とするスコーピオン・バーテックスの背後に、2つの光がきらめく。

 穴の開いた牙のような形にトゲが生えたバーテックス――カデンツァの放った光線によって、スコーピオン・バーテックスは絶命した。

 

 

 

 スコーピオンをサーバー星屑で見つけたとき俺の気持ちは決まっていた。

 あんタマの弔い合戦じゃー!!

 そう、何を隠そうこのバーテックス、乃木若葉は勇者であるの俺の推しカプであるあんタマの命を奪った憎い奴なのである。

 さっそく作っておいた移動用巨大フェルマータに乗り込み、アタッカ6体とカデンツァ2体を連れて発見した場所へ向かった。

 到着するとスコーピオンは四国へ向けて悠々と進んでいた。

 どうやらまだキャンサーとサジタリウスとは合流していないらしい。

 Xデーに登場するのはこいつと前述した2体のバーテックスだ。ここで1体減らすと銀ちゃん生存率はぐっと上がるだろう。

 よし、■そう!

 これは私怨ではなく、少女が笑顔でいる世界のための聖戦だ。

 決めた俺の行動は早かった。水のワイヤーでアタッカを操り突撃させて、カデンツァのビームを放つ。

 botだとただ突撃するだけなので水のワイヤーで直接操った。盾のような上半身に攻撃を集中させ、下半身の毒液が集まっている瓶から意識をそらす。

 相手が戸惑っているうちにカデンツァのチャージが終わったので光線を発射させたが、急に逃げたのでしっぽの毒液が入った球体を貫くだけに終わった。

 こいつ、アクエリアスやリブラより判断が早い!?

 敵認識してテイルアタックしてくる攻撃をギリギリ避ける。フェルマータのスピードじゃないと多分やられていたな。

 とにかくあのしっぽは邪魔だな。切り落としてしまおう。

 この偶然生まれた殺意マシマシハンドスピナーみずしゅりけんで。

 水を出現させ回転させていく。やがて水が風切り音を立て始め物体を切り裂くには充分な威力があることを知らせてきた。

 ん? なんだかいつもよりできるの早くない? しかも回転数がどんどん上がっていく。

 リブラを取り込んだ影響かな? と考えていると肘をとんとんと叩かれる感触。

 視線を落とすと、白静がこちらを見ていた。

 エエッ!! ツイテキチャッタノォ!?

 全然気づかなかった。フェルマータは相当なスピードだったはずだが、もしかして一緒に乗ってきたのだろうか?

 って、それどころじゃない! みるとこちらに向かってスコーピオン・バーテックスが毒針のついたしっぽを振るってくるのが見えた。

 ええい、ナムサン!!

 みずしゅりけんを放つと、ちょうど自分を刺しに来た針を真っ二つにした。

 危なっ。ちょっとでも遅れてたら毒針刺さってたな。

 それから水のワイヤーで誘導し、毒液が入ったしっぽを切断していく。あまりのことにスコーピオンは呆然としているようだ。

 と、そこで背後からカデンツァが光線を発射し、急所に当たったのかスコーピオンは活動を停止した。

 あ、カデンツァは自動モードで光線を発射する設定のままだった。

 とりあえず水のワイヤーをカデンツァとつなげて自動発射モードをオフにする。

 よし、これにてスコーピオン・バーテックス退治は完了です。

 ワザリングハイツ…もとい杏ちゃん、タマっち先輩。仇は取ったよ…。

 感慨深く思いながら、スコーピオンの死体を前にどうしようか考える。

 感情のまま何の準備もなくここにきてしまったので、他の星屑がいないのだ。

 なにしろここは遠征隊の星屑が見つけた場所で、その星屑も通常サイズでこの巨体を食べつくせるとは思えない。

 早く食べて御霊だけにして無力化しないと星屑が集まってきて再生してしまう。さっきまでの頑張りが水の泡だ。

 ――やるか。

 俺はつけていたお面を外し、白静に渡す。プレゼントだと思ったのか白静はうれしそうだ。

 ちくしょう、かわいいなぁもう!

 いかんいかん。いまはそうじゃない。

 頭部に意識を集中し、圧縮させた体積をもとの大きさに戻るようイメージする。

 すると顔の下で虫が這うようにもぞもぞと動き出し、質量が爆発した。

 元の大きさを1だとしたら1000くらいに大きくなった星屑丸出しの顔が、スコーピオン・バーテックスを丸呑みする。

 バリバリムシャムシャモグモグゴックン。

 うぇ、苦ぇ~。これは青汁? なんか健康に良さそうな味だ。本体は毒持ちなのに。

 むき出しの歯でかみ砕き、固い何かが引っかかったのでぺっと吐き出す。

 思った通り、それは御霊だった。これ、風先輩の大太刀と友奈の勇者パンチの連携攻撃でようやく壊れるくらい固いんだよなぁ。

 白静に御霊を持つように頼み、俺はその間に元の大きさに顔を戻す。

 この身体にもだいぶ慣れたので元の巨大な星屑の体積に戻したり人型に圧縮するのもノータイムでできるようになった。

 まぁ、それでも未だに移動速度は星屑より遅くて移動は巨大フェルマータに頼り切りなんだが。

 白静から御霊を受け取ると、目を丸くしていた。精霊には感情がないと思っていたが、人型だと結構表情豊かなんだな。

 仮面をかぶり直した俺はフェルマータに他の巨大星屑が集まっている地点を目指すように念じた。後方からは早くも御霊の存在をかぎつけたのか星屑の大群がひしめきながらこちらを目指している。

 あとは俺が管理する星屑の近くにこれを配置すれば完了だ。

 質量を多くして人間型星屑の強化をしようと考えていたのだが、思わぬ形で材料の確保に見通しがついた。

 3体いるうち1体は倒したから、あとは四国付近の星屑に監視を任せて自分は精霊づくりに専念してもいいだろう。

 そうこの時は思っていた。

 その見通しが甘かったことを痛感したのは、よりにもよって原作で三ノ輪銀が死亡することになる決戦の日。Xデー当日だった。

 




 星屑(人間型)
 星屑が完全変態の過程を経て人間そっくりの身体に変態した姿。
 人間のように話したり見たり聞いたりすることができる。
 ただその耐久力も人間並みで、壁の外の世界では5分と生存できない。
 星屑(人型)とは見た目も能力も根本的に異なる。


 星屑(精霊型)
 人間型星屑を再び繭に包み、変態させた姿。
 神樹の力を吸収したせいか、勇者と同じく壁の外でも活動できる。
 他の星屑のようにメイン人格(主人公)で体を操るということができない。完全な自立行動型。視界共有はできる模様。
 その姿は勇者が連れている精霊の姿と酷似していて、近くにいる星屑をサポートする能力もある。


 白静(ベース静御前)
 色:白(星屑専用)
 レアリティ:レア
 アビリティ:星屑の剣
 効果:戦闘開始後30秒間必殺技ゲージ上昇5%アップ。

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