詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
 丹羽君、ついにそのっちと対面。
 攻略王友奈「園子さん」→「園子ちゃん」→「そのちゃん」とすごい速さで距離をつめたことにお気づきいただけただろうか?
 人型精霊によるそのっちの散華回復治療はーじまーるよー。


士は己を知る者の為に死す

 園子と勇者部が対面した翌日の午後、丹羽は大きな荷物を持って病室を訪れた。

「こんにちは、丹羽君。お見舞いに来てくれてありがとう」

 園子はいつになくご機嫌だ。心なしか肌もつやつやしている。

 それは今まで会えなかった勇者たちや東郷に会えたのはもちろん、その後夏凜が渡した丹羽が書いた百合小説のおかげなのだが、本人は知らない。

「すみません、乃木先輩。本当は午前中に来たかったんですけど、準備に時間がかかって」

「準備って、その荷物?」

 丹羽の言葉に園子が言う。何かはわからないが、結構大きいものから小さいものまで複数手に持っていた。

 白いビニール袋から緑色のものが見えていることから植物だろうか?

「ちょっと屋上まで付き合っていただけませんか?」

 その言葉に園子は首をかしげる。どういうことだろう。何かのリハビリ?

 昨日の今日で体調は特に変化は見られない。散華で失ったものが劇的に治るとは思っていなかったが、少しがっかりしたのも事実だ。

 そんなことを考えていると、丹羽は慣れた様子で園子を車椅子に乗せて運ぼうとしている。

「え、ちょ、ちょっと!?」

「ああ、お身体に触りますよ」

「もう触ってるよ! なんなのもー」

 勇者として奉られているとはいえ、自分も年頃の乙女なのだ。男の子にお姫様抱っこされて無反応でいられるわけがない。

 顔を真っ赤にする園子の気持ちなんて無視して丹羽は車椅子に園子を乗せると、荷物を持って屋上へ向かうエレベーターに乗る。

 すごく安心する補助だった。ひょっとしてわっしーも彼にこんな事されていたのかな?

 そんなことを考えていると、見慣れない光景が目に入って来た。

「これ、花壇?」

 エレベーターから降りて屋上に続くドアを開けるとむわっとした夏の空気と共に蝉の声が聞こえてくる。

 何もなかったはずの屋上の一部に土が盛られ、レンガで周囲を囲まれていた。

 土だけで花が植えられていないことからこれから種がまかれるのだろうか。そんな風に考えていた園子の胸が光り、1体の精霊が現れる。

『マスター…どうしてこんなにモーメントが』

 それはウタノという精霊だった。だが昨日見た時とは違い、様子がおかしい。

 快活な様子がまるでなく、目の下にはクマができている。動きもどこかぎくしゃくしていて、簡単に言うと元気がなかった。

「すみません、ウタノさん。なるべく傷つけないようゆっくり持ってきたので」

 そう言って丹羽はウタノの前で白いビニール袋に包まれていた複数の荷物を地面に置き、中身を出す。

『ワオッ! 会いたかったわ私の愛しい野菜たち!」』

 そこにはプチトマトやゴーヤ、キュウリなどの苗が植えられたプランターがあった。

 どれも成長途中といった感じで、実もつけていない。ウタノが野菜の名前を言われなければ雑草にしか見えなかっただろう。

「昨日病院の人に頼み込んで、そこに新しく場所を作ってもらいました」

 丹羽の言葉にウタノは一直線に園子が花壇だと思っていた土が盛られている場所へと向かう。

『土は…悪くない。でも今作っているものだともうちょっとほしいものがあるわ。マスター!』

「了解です。何を買ってきましょう?」

 そう言って丹羽は自分のスマホをウタノに渡す。

『これとこれとこれ。あと成長した時用にこれ! じゃあ、私はさっそくこのベイビーちゃんたちをこの畑に植え替えるから』

「了解です。明日持ってきますね。手伝いは?」

『ナッシングよ! さあ、腕が鳴るわー!』

 先ほどまで元気がなかったのが嘘のようなハイテンションぶりだ。

 畑を耕し土を混ぜ、丹羽が持ってきたプランターから苗を植え替える作業を小さい体でものすごい速さで行っている。

「すごい」

「ウタノさんは1日1回土いじりをしないと調子を崩すので。昨日帰る前病院の関係者の人と大赦の職員の人に頼み込んで用意してもらいました」

 視界に陰が落ちたと思ったら丹羽が日傘を差してくれていた。

「ウタノさーん。俺たちは下の部屋に戻りますから、終わったら乃木先輩の中に帰ってきてくださいよー」

『オーケーよマスター。ああ、やっぱり畑ってプレシャスだわ!』

 とびっきりの笑顔で言う人型の精霊に、園子はまるで生きている人間みたいだと思う。

 夏凜の報告書から変わった存在だとは聞いていたが、これほどとは。

 その後丹羽は園子の病室まで再び戻り、園子をベッドまで運んだ。もちろんお姫様抱っこである。

 園子は丹羽が書いた小説について話したかったのだがこの後夏凜と訓練の約束があるらしく、銀の様子を見て帰るとのことだった。

 次の日。丹羽は昨日ウタノに頼まれていた園芸用品を持って園子の病室を訪れた。

 それからまたお姫様抱っこで車いすに乗せられ、屋上へと向かう。

 出てきたウタノの指示であれこれと園芸用品やプランターを移動させたりと忙しそうだった。ミトに日傘を持ってもらい丹羽が持ってきた霧吹きが出る小型扇風機で涼みながら園子はその光景を見ている。

『マスター、そこは夕方陰になるからこっちにムーブして頂戴』

「はいはい」

「マスター、この栄養剤はメーカーが違う! ちゃんとこの前説明したでしょ!』

「じゃあ使えないんですか?」

『使えないことはないけど、栄養が多すぎて虫が沸いちゃうの。なるべく農薬は使いたくないから、こっちの方がよかったんだけど』

「え、虫ってこんな屋上までくるんですか?」

『あいつらを舐めちゃデンジャーよ。本当に、どこにでも沸くんだから』

 精霊に勇者が怒られていた。あれではどっちが主人かわからない。

 なんだか不思議だ。丹羽明吾という少年は精霊と同じ目線で話している。

 いや、むしろ精霊に対して敬意すらはらっているようにも思えた。

 三ノ輪銀によく似た精霊、スミのことも1体の人格を持った子供のように接していた素振りがある。園子からしたら信じられない。

 確かに自分も精霊である烏天狗を相棒のように頼りにしているところはあったが、彼のように接することはできない。

 これもしゃべる人型の精霊を持っているということの影響だろうか?

「ねえ、ミトさんだっけ」

 傍らにいる丹羽の精霊に声をかける。

『なに、園子ちゃん?』

「いつもあんな感じなの? あなたのご主人と精霊って?」

 園子の質問に、ミトは顔をうっとりとさせる。

『うん、うたのんって農業のことになると目を輝かせるって言うか、周りが見えなくなるというか。それで私も寂しい気持ちになることもあるんだけどやっぱり畑作業をしているうたのんが1番輝いていて大好きなの! それで採れた野菜をみんなに配るときに感謝される姿は誇らしくて、ああ、やっぱりこの人を好きでいてよかったなぁって』

 おとなしいと思っていた精霊が怒涛のノロケを口にする姿に園子は目を点にする。

「え? え?」

『あ、ごめんなさい。私ったら』

「いいですよミトさん。続けて続けて」

『もう、みーちゃんったら。私もアイラブユーよ!』

 いつの間にか畑作業を終えた丹羽とウタノが近くまで来ていた。

 はっ、今のは貴重な百合イチャだった。あまりに唐突な出来事にメモを取るのを忘れるとは…乃木園子一生の不覚!

 その後『うーたのーん♡』『みーちゃん♡』といちゃつく精霊を見ながら園子と丹羽は部屋でお茶を飲んだ。

 ああ、百合イチャを見ながらのお茶はおいしいなぁ。わたしは飲めないから香りを楽しむだけだけど。

「じゃあ、乃木先輩。俺はこれで」

「うん、また明日ねー」

 その後、夏凜に見せてもらった百合小説について話すのを忘れていたのに気づいたのは、丹羽が帰った2時間後の日が落ちた後だった。

 3日目、園子の身体に変化が起こる。

「お腹が…」

 久方ぶりの感覚に戸惑いながらも、お付きの大赦仮面に園子は告げる。

「お腹が空いた」

 2年間全くなかった食欲というものが園子を襲ったのだ。

 緊急検査の結果、散華で失われたはずの消化器官の機能が回復していることが確認され、大赦所属の医師たちは大混乱していた。

 丹羽が言っていたとはいえ、まさか本当に散華で失っていた身体の器官を治すことができるとは。

 とりあえず消化に良い重湯から食事をはじめ、どんどん固形物を与えていく方針になったらしい。その日から園子に食事が与えられることになった。

 その日は医師たちの検査で丸1日使ってしまったので丹羽と東郷には会えなかった。せっかく来てくれたのに悪いことをしたと思う。

 銀には会っていったが、まだ目を覚ましていないらしい。

 自分にも希望が見えてきたんだ。ミノさんも絶対に良くなる。

 そう日記に書き記し、その日園子は眠った。

 4日目。朝起きた時に足が動いた気がする。

 気のせいかもしれないと丹羽には報告せず見舞いに来てくれた東郷にだけ内緒で話したが、彼女も同じようなことがあったらしい。

 ということはこれは回復の兆候だろうか。園子は嬉しくなる。

 さっそく明日丹羽が来たら報告しよう。早く来ないかなとわくわくしていた。

 5日目。今日丹羽は来れないらしい。勇者部の先輩に頼まれて大橋の方に行っているそうだ。

 東郷にそれを聞いた時、わかりやすく落ち込んだ自覚があった。今日こそは百合小説について語り合えると思っていたのに。

 東郷と話すのは楽しい。今まで会えなかった時間を埋め合わせるように互いにあったことを話し、笑いあう。

 話の流れで「わっしーは好きな子いる?」と訊いたら「愛している人はいるわ。2人」とすごく色っぽい顔で言っていた。

 なんだか東郷がすごく大人に見えた。入院生活で2年間の間にここまで差をつけられるとは。

 わたしも学校に行ければそんな人が見つかるかな、と園子は漠然と思いながらいつもの小説投稿サイトで誤眠ワニさんの新作百合小説を読んで尊い成分を補給してから眠りについた。

 勇者部の皆と出会ってから1週間後。園子の身体は劇的な変化が起こっていた。

 まず内臓の機能が少しずつではあるが回復している。

 身体が受け付けないから、ちょっとは食べられる程度にレベルアップしたのだ。

 おかげで簡単な軽食なら食べることが許された。サンドイッチがおいしい!

 パンの食感も、レタスのみずみずしさも。マヨネーズの甘さを含んだ酸味と匂いも全て新鮮に感じられた。

 これが食事か。味のある食べ物って素晴らしい!

 これなら入院中に書いた『食べたいものリスト』に書かれたものを食べるのも夢じゃないかもしれない。

 園子はウキウキしながらそのリストを開いてみた。そこにはうどんやハンバーガーといったファストフードなどで埋め尽くされている。

 それを書いた時のことを懐かしく思いながらページをめくっていると、ある1ページを最後にそのリストは途中で終わっていた。

「ああ、そっか」

 そこに書かれている2つのメニューを見て、園子は思い出す。

 わっしーのつくったぼたもち。ミノさんがつくってくれた焼きそば。

 これを書いた後、どうしようもなく悲しくなって、この遊びはやめたんだった。

 でも、もう少ししたらこの2つも食べられる。それまでに身体が治るといいな。

 そう思いながら園子は眠りについた。

8日目。右目がぼんやりではあるが見えるようになる。

 その日ようやく丹羽明吾とゆっくり話す機会が訪れた。

 東郷がお見舞いから帰った数分後、彼がお見舞いに来てくれる。

「ねえ、これってあなたが書いたんだよね」

 夏凜からコピーさせてもらった百合小説をノートパソコンの画面に映しながら言うと、丹羽はわかりやすく動揺していた。

「はい、すみません。調子乗って東郷先輩をモデルにしました。お叱りはいかようにも」

 青い顔をする丹羽がおかしくて、園子は思わず吹き出す。夏凜と反応が全く一緒だったからだ。

「ごめんごめん。別に怒ってるわけじゃないんだよ。ただ、好きなの? 女の子同士のイチャイチャ」

 園子が聞くと、「大好きです!」と丹羽は食い気味に言った。

 その後は百合好き同士、多くは語らず時間が過ぎる。

 いや、嘘だ。実際はすごくいっぱいしゃべった。もう1年分くらいのエネルギーと言葉を使って理想の百合イチャシチュエーションを話し合った。

 異性でここまで話が合う人間は初めてだ。この男、理解して(わかって)いる。

 今度オススメの百合小説を持ってくると約束してくれた。わたしも彼が好きそうな百合小説をネットで探すことにする。

 やっぱりマリみてかなぁ。他にもいろいろあるけど、これが園子のベストなオススメ百合小説だ。

 商業作品ではないけど、きっと彼は気に入ってくれるだろう。

 早く明日が来ないかな。

 そんなことを想いながら、園子は夢に落ちた。

 

 

 

 そこは寂しい場所だった。

 荒野というか、背中にある鎖につながれた岩以外には何もない。

 気づけば自分の両腕と両足はその鎖につながれていた。動こうとしても全く動けない。

 ただ身じろぎしかできないこの身が歯がゆく思う。

 見上げれば太陽の代わりに昏い真っ黒な穴が宙に浮かんでいる。それが不気味で仕方ない。

『誰か来たのか?』

 聞こえてきた声に、園子は顔を向ける。

 そこには自分と同じように大きな岩に繋がれた鎖に手足を拘束されている自分と同じような人間がいた。

 いや、人間なんだろうか? よく見れば全体的な雰囲気が違うというか、人間よりも絵本に出てくる妖精や精霊に近いのかもしれない。

 少なくとも、自分が今まで見たことのない存在がそこにいた。

『よう、新入り。お前はどうやって死んだんだ?』

 その人間のような生物が言った言葉に園子は首をかしげる。

 自分は死んでなどいない。むしろ治っている途中だったはずだ。

『自覚ないのか。まあ、一瞬で死んじゃったらそうなるかもな』

 人間のような生物はそう言って笑った。その笑顔がどこかで見たように思えて、園子は戸惑う。

『あたしは、失敗した。友達を守ろうとして、逆に悲しませちまった。って、わかんないよな』

 そう言って園子の顔から視線を外し、天に浮かぶ黒い穴を見上げる。

『ここは地獄なんだろうなぁ。父さんや母さんより早く死んじゃったから、こんなところに来ちまった。弟…鉄男や金太郎にもお別れを言えなかった』

「え?」

 その言葉に園子は思わず自分と同じように鎖につながれた存在を見る。

 その名前を自分は知っている。忘れるはずがない。

 なぜなら自分と同じ階にいる親友を毎日見舞っている男の子の名前だったからだ。

『須美や園子も怒ってるんだろうなぁ。約束、守れなくて。すぐ帰るって言ったのに、嘘つきだって』

「ミノ…さん?」

 園子の言葉に、鎖につながれた存在は驚いた顔をした。

『もしかして、お前……園子か?』

「そうだよ! わたしだよミノさん!」

 思わず涙が出る。2年間ずっと目を覚まさなかった親友がここにいる。

 だがここはどこなのか? なぜ身体が無事なはずの彼女が面影もない全く違う姿になってこんなところで鎖につながれているのか?

 問いかけたいことはたくさんあった。だが、今はそんなことよりようやく彼女に会えたことが嬉しくて園子は何度も彼女の名前を呼ぶ。

「ミノさん、ミノさん、ミノさん! 会いたかった! ずっとずっと探してた」

『あたしは…会いたくなかったよ』

 その言葉に思わず「え?」と漏らす。銀の顔は厳しかった。

『ここに来たってことは、お前もバーテックスにやられたんだろ? だったら残っているのは須美1人。あいつ1人じゃすぐつぶれちまう』

 そうか。彼女はまだ3人で戦っていると思っているのだ。

 だったらその誤解は解かなければ。

「違うよミノさん! わっしーは今他の仲間と一緒に戦ってる!」

『何だって?』

「新しい勇者5人と一緒に。バーテックスも12体倒したんだ。無事なんだよ!」

 その言葉に銀の顔が明るくなる。

『そうか、そうか…あいつは無事なのか』

「ミノさんも無事だよ! あの人型のバーテックスが傷を治してくれた。迎えに行くのが遅れてごめん! 2年も待たせてごめんなさい!」

 園子の謝罪に、銀は目を点にしている。

『え、あたし死んでないのか?』

「そうだよ! ね、帰ろう? こんなところからすぐにでも」

『それは…無理っぽいなぁ』

 園子の言葉に銀は遠い目をする。

『ここに来てからどれくらい時間が経ったのか…わからないけどそうか。少なくても2年は経ってたのか』

「ミノさん?」

 なんだか様子が変だ。いつもの彼女らしくない。

 自分の知っている三ノ輪銀なら、「よし、任せとけ園子!」と引っ張ってくれるはずなのに。

 なぜそんなすべてを諦めたような顔をしているんだろう。

「ミノさ――」

 園子が銀に声をかけようとした時、身体がズレた(・・・)

 そう表現するしかないような奇妙な感覚。まるで魂と肉体が別れたように不安定で、身体から離れていく。

『ああ、そうか。お前はまだ』

 それを見て銀は安心したように笑っていた。まるで園子が無事であったことを確認したあの時のように。

「待って、ミノさん! 嫌だ! 離れたくない!」

 園子は必死に銀に向かって手を伸ばす。だが身体から魂は離れていき、宙に浮かんで風に巻き上げられた煙のように自分という存在が消えていく。

『ばーか。お前がここに来るのは早すぎんだよ園子』

 そんな声が、目の前が真っ暗になる前に聞こえた気がした。

 

 

 

 目を覚ました時、自分の手を誰かが握っているのに気づいた。

 誰だろう? ミノさん? わっしー? 安芸先生? それともお父さんかお母さん?

「起きましたか?」

 そこにいたのは丹羽明吾だった。白い勇者服を着ていて、髪も真っ白になっている。

「丹羽君? ミノさんは?」

「三ノ輪銀さんはいつもの病室で寝ています。それよりどこか痛いところや違和感を感じるところはありますか?」

 その言葉に首を振る。すると「そうですか」と丹羽は安心した様子だった。

「ナツメさん、もういいですよ」

 そう言うと園子の胸が光り、中から褐色で白髪の精霊が出てきた。

『うん。乃木はよくなったのか、主』

「ええ、おかげさまで。ナツメさんや皆のおかげです」

 その言葉に園子は首をかしげる。一体何のことだろう。

「じゃあ、俺は皆さんに乃木先輩が起きたことを知らせてくるので」

 そう言って丹羽は病室を出ていく。しばらく経つと園子の両親が涙を流しながら部屋に転がり込むように飛び込んできた。

 約2年ぶりの再会だったが、そんなに泣かなくてもと思う。

 すると衝撃的な事実を知らされた。

 どうやら自分は丸5日意識不明の状態だったらしい。

 理由はおそらく散華によって失った心臓が丹羽の精霊によって元に戻ったからというのが医師の推測だった。

 臓器や足はともかく心臓は生物にとって必要不可欠な器官だ。それが神樹様の供物としてささげられながらも園子は生きていられた。

 まさに奇跡のような存在。だがそんな奇跡が2年ぶりに活動を再開したことで、身体に不具合が起こった。

 下手をすれば死んでいただろう。だが、勇者という役割がそれを許さなかった。

 勇者は勇者である限り死ねないからだ。

 結果園子の身体と意識は休眠状態になり、意識不明の昏睡状態になった。

 異常事態に医師たちもどうしていいかわからず、両親も呼ばれ最悪の事態も覚悟してほしいと言われたらしい。

 そして両親はあろうことか園子に精霊を入れて散華を治療しようと提案をした丹羽を責めたのだという。君さえ余計なことをしなければ、娘は生きていられたと。

 それを聞いた東郷は反論しようとしたが丹羽に止められ、丹羽はひたすら頭を下げて両親の言葉に一切反論しなかった。

 そして絶対に園子を助けると約束をして5日間一睡もせずに園子のそばにいて治療をしていたらしい。

「そんな…丹羽君はそんなこと一言も」

 両親から経緯を聞いた園子はいてもたってもいられず丹羽を追うために立ち上がった。

 歩けることに両親は驚いているが、それどころではない。今は丹羽を探さないと。

 病室のドアを開けると、そこには東郷がいた。

「そのっち!? もう動いて平気…」

「わっしー! 丹羽君は!?」

 必死の形相の園子に東郷は驚きつつも「三ノ輪さんの病室」と返す。

「ありがとう」と言いそのまま銀の病室に向かおうとする園子に東郷は驚いている。

「そのっち、足が」という声が聞こえてきたが、今はそれよりも伝えなければならないことがある。

 この角を曲がれば病室はすぐだ。急ごうと走り出そうとした園子は、足を止めた。

『だから、無理はするな主。大分消耗をしているんだろう』

『そうよマスター。私とみーちゃんだけでなくてナツメさんまで園子さんの中に入れてさらにリカバリーを促進させたなんて、ノーグッドだわ!』

『無茶なんてレベルじゃないです。下手したら死んじゃってたんですよ』

 精霊が丹羽を心配している言葉が聞こえた。

 そんな、自分の身を削ってまでわたしのことを助けようとしてくれたの?

 会ってまだ数日の自分のためになんでそんなになるまでしてくれたんだろう。園子は理解できなくて混乱する。

「大丈夫、ですよ。これぐらい」

『大丈夫なものか。主、しばらくは絶対安静だ。園子の治療は中止し、ウタノとミトに身体に戻ってもらおう』

『そうね。園子さんには申し訳ないけど、マスターが倒れちゃ』

『だね。じゃあ、戻ろうか、うたのん』

「いえ、ウタノさんとミトさんは乃木先輩の元に戻ってください」

 その言葉に園子は息をのんだ。

『ワッツ!? マスター、ナツメさんの話を聞いていなかったの?』

『このままじゃ、あなたの身体が危ないんですよ』

「俺の身体は普通の人間より丈夫にできてますから。それよりせっかく治りかけているのに、お2人が身体から離れていたらまた元通りです。俺のことを思うなら、乃木先輩の中に戻って治してあげてください」

 なんで彼はそんなことが言えるんだろう。

 自分が最強の勇者だからだろうか。

 あるいは両親にお前のせいだと責められたから?

 多分、どちらとも違うことはすぐ分かった。でもそれ以外に理由が思い浮かばない。

『ナツメさんも何とか言ってよ!』

『……主、本当にそれでいいんだな?』

「もちろんです。乃木先輩が1日でも早く治ることが俺にとっての願いですから」

 丹羽の言葉に精霊たちは黙って顔を見合わせている。

『はー。マスターにそういわれちゃ仕方ないわね』

『うたのん!?』

『ナツメさん、任せて大丈夫?』

『問題ない。スミがいなくても、私が主を支えて見せる。主がいなくなると、風も悲しむから』

 その言葉にウタノはミトの手を引く。

『行こう、みーちゃん。ナツメさんに任せておけば大丈夫よ』

『え、うたのん? え? え~?』

 そう言って病室に戻ろうとしていた2体の精霊は、すぐそばに園子がいることに驚いたが、主の言いつけ通り園子の胸の中に入っていった。

 園子は一歩踏み出し、丹羽の背中を見る。宙に浮くナツメという精霊と目が合ったが、彼女は何も言わずに丹羽の中へ帰っていった。

 スマホをタップし、丹羽の変身が解ける。すると急に体勢を崩して前のめりに倒れようとしていたので、園子が後ろから抱えるようにしてそれを受け止めた。

「乃木先輩?」

「なんで…」

 園子は思わず口にしていた。

「なんで、そんなにしてくれるの?」

 園子の言葉に丹羽は意味が分からないというような顔をしている。

「だって、会ってたった数日だよ。わっしーのためならともかく、わたしみたいな人間のためにこんなにボロボロになってまで、なんでこんなに必死になってくれたの?」

「だって、乃木先輩は俺と同じ同志ですから」

 そう言って丹羽は持っていた鞄から一冊の本を取り出す。

 それは丹羽が言っていたオススメの百合小説だった。

「俺と同じ趣味の人間なんて周りにいないから、同志は貴重なんです。乃木先輩がいなくなったら、好きなことを思いっきり話して盛り上がれる存在がいなくなっちゃいます」

「それだけ?」

「え、それ以上何があるんです?」

 キョトンとした顔で言う丹羽に、園子は何も言えない。

 たったそれだけで、この男の子は自分を助けるために必死になってくれたのか。

「それが丹羽君なのよ、そのっち」

「わっしー」

 いつからいたのか、顔を上げるとそこには東郷がいた。

 東郷は優しい目で丹羽を見ると、いつの間にか気絶していた彼の頭を撫でる。

「頑張ったわね、丹羽君。えらいわよ」

 その顔に、園子は気付く。そうか、わっしーが好きな人って…。

 人を呼んでくるという東郷を見送り、園子は膝の上に丹羽の頭をのせる。

 報告書で何度も見た中性的な顔。化粧をしたらきっとかわいくなるだろう。

 だけど、今まで見たどんな男の子よりも格好よく見えた。

「5日も寝てないなんて、わっしーを心配させて悪い子なんだー」

 気持ちよさそうに眠っている少年に、園子は頭にぐりぐりと自分の拳を回す。

「自分のことを後回しにして、他人を助けるのに必死になって。本当にミノさんそっくり」

 だからわっしーも気に入ったのかな? と園子は思う。

 そして意識を失っていた間見た世界で出会った銀らしき存在。

 あれは銀が意識を取り戻さないことと関係があるのだろうか?

 なんにせよ、丹羽が意識を取り戻したら相談してみよう。そう思った自分が自然と彼のことを頼りにしていることに驚く。

 自分と親友以外は誰も信じないと決めていたのに、こんなに簡単に変えられてしまうなんて。

「すごいね、君は」

 自分より1つ年下の少年の頬をつかみ、思いのほかよく伸びることに驚きながらも園子は言う。

 彼と出会ってから驚くことばかりだ。すべてがいい方向に変わっていっている気がする。

 それから丸1日丹羽は眠り続け、2日目には普通に起きて医師たちを驚かせていた。

 そして同じ日、乃木園子の肉体は完全に元に戻り、両足で歩いている。

 その姿に両親はもちろん防人隊との連絡役である安芸も駆けつけ、みんな喜んでいた。

「回復おめでとうございます。乃木先輩」

「うん。ありがとう、にわみん!」

 病室を訪れた丹羽に、園子が笑顔で言う。

「にわ、みん?」

「うん、丹羽明吾のにわとみんをとってにわみん!」

 そこまで行ったら「ご」くらい横着せずに言ってくださいよと丹羽は一瞬思ったが、これも彼女らしいなと思い了承した。

「えっと、あだ名なんだけど…いやだった?」

「いいえ。乃木先輩がそれでいいなら好きに読んでください」

「やったー! あ、あとねあとね、その乃木先輩っていうのもちょっと?」

「嫌ですか?」

「嫌ではないんだけど……親しみを込めて園子先輩か、そのっち先輩って呼んでほしいな!」

 キラキラとした笑顔で言われ、丹羽は困惑する。

 が、園子先輩はマズいなと思い後者を選択することにした。

「わかりました、そのっち先輩。これでいいですか?」

「うん!」

 ただ名前を呼んだだけなのに、とても嬉しそうだ。

 あとは銀ちゃんが意識を取り戻せば…そう思う丹羽だが、園子に急に腕を引っ張られた。

「ちょ、そのっち先輩!?」

「身体が治ったらやってみたかったことがいっぱいあるんだ。つきあってよにわみん!」

 こっちの返事なんて待たずに駆け出す彼女に、しょうがないなと丹羽は付き合うことにする。

 その笑顔は人型のバーテックスだった時に自分が見たかった1番尊いと思える表情だった。

 

 




 前回に引き続き百合描写が…百合描写が足りない!
 書かなきゃ!(使命感)
球子「園子、タマは怒っています。申し開きがあるなら言いタマえ」
園子「えーどうしてー? 見当もつかないよー」
球子「それはなぁ……お前が後輩に「そのっち先輩♡」なんて呼ばせてるからだー! 被るだろあんずのタマっち先輩とー!」
園子「えぇ―!? そんなの知らないよぉ。別次元のわたしだしー」
球子「うっさい! よって罰を与える! しんみょうにしタマえ」
園子「そんなー。およよ~」
球子「泣いたフリしたってごまかされないぞ! あんず、あいつをひっとらえるんだ!」
杏「はーい♡」ガシッ
球子「え? いや、あんず。こっちじゃない。捕まえるのはあっちの園子のほう」
杏「ううん。こっちであってるんだよタマっち先輩」
球子「へ?」
園子「ふっふっふ。タマ坊がそういう風に因縁つけてわたしに日頃の仕返しをしようとしているのは予測済みでした。なので先手を打ってあんずんにはわたしに協力してもらうよう約束していたのです!」
球子「な、なにーっ!?」
杏「ごめんね、タマっち先輩。園子先生の小説のためって言われたら断れなくて」
球子「あ、あんずー! そんな紙切れのためにタマを売ったのか!? 2人の絆はそんなもんだったのくわぁ―!?」
杏「か、紙切れって何?! 園子先生の小説は最高なんだよ! タマっち先輩だって面白いって読んでるじゃない」
球子「面白いよ。面白いけどさあ、それで仲間を売るのはいいのか?」
杏「いいんです。面白い小説のためならばすべては許される」
園子「あ、ちなみに提案した時は迷ってたけどリトルわっしーの変身シーンの高解像度ビデオ映像を提供すると快く協力してくれたよ」
杏「ちょっ、園子先生! それは内緒」
球子「……あんずぅ~?」
杏「(ぷいっと顔を逸らせる)」
球子「ふざけんな! 小さい子ならだれでもいいのか!? このロリコン! ワザリングハイツ伊予島!」
杏「人の技名をいかがわしい代名詞みたいに使わないで!」
園子(いや、もう半分公式で認められてるんだよねぇ…)
園子「まあ、それはそれとして…因縁つけてわたしにひどいことしようとした報いは受けてもらうよ」
球子「報い報いって、乃木家のやつってのはどいつもそうなのか(家訓です)!? なんだよ、吊るすなら吊るせー!」
杏「そんなひどいことしないよぉ♡」
園子「そうそう。わたしたちはタマ坊をかわいくしたいんだから」つピンクのワンピース
球子「へ?」
園子「まずは髪を下ろしてー」
杏「エナメルの靴に、レースのついた靴下を組み合わせるととってもかわいいですよねー♪」
園子「水玉のリボンに白の麦わら帽子~」
杏「口紅もつけちゃいましょう。ちゃんとお化粧もしてー。はい、かわいい♡」
園子「タマ坊ってば、とーってもオシャレさん♪」
球子「ふざけんなー! これっていつか言ってた園子の妄想したタマじゃないかー!」
園子「そうだよー♪ おお、想像していたよりも2割増しでかわいい」
杏「かわいい、タマっち先輩かわいい…」
球子「変態! 変態! 変態!」
杏「かわいい…タマっち先輩かわいい…」
園子「じゃあ、あとはごゆっくりー」
球子「え、園子? 嘘だよな? この状態のあんずと2人きりって……おい、マジでやめろ、ドアを閉めて部屋から出ていこうとするな! これなら吊るしてもらった方がまだマシ」
杏「タマっち先輩、ハァハァ」
球子「いやー!? 百合乱暴、百合乱暴はやめてくれー!」
 ちゃんちゃん♪
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