詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
Bパートはあ(だちとしまむ)ら^~の嵐が止まらない。
(+皿+)「安達としまむらはいいぞ」
あらすじ
丹羽「百合、いいよね」
園子「いい…」
勇者部一同「変態が増えてる!?」
前回5徹してそのっちを回復させた丹羽君ですが、バーテックスなので問題ありません。
人間なら普通に精神に異常きたしてるけど、よかったねバーテックスで。
丹羽「まあ、バーテックスってバレたら即死亡なんですけどね」
園子「何言ってるのにわみん? 次あれやりたーい」
丹羽「はいはい、お供しますそのっち先輩」
8月の最終週。もうすぐ9月だというのに日差しは強く、気温もまだまだ高い。
あまりの暑さに熱中症患者が今年も2桁を超えたと連日朝のニュースで報じているくらいだ。
その日、神社の木立から聞こえてくる無数のセミの声を聞きながら、丹羽は祭りに参加する屋台の準備を手伝っていた。
「これはここに置けばいいんですか?」
「おう、ありがとよ兄ちゃん。うちの若いのに見習わせてぇくらいの働きぶりだな」
禿頭の親父の言葉に、丹羽は笑顔を返す。
正直こういういかにもな雰囲気の大人は苦手だったが、話してみると悪い人間ではなかった。みんな気のいいおっちゃん兄ちゃんだ。
だがそんな力自慢な人間たちも夏の暑さには勝てず、数人が救護テントに運ばれていた。
その代わりに神社のお祭りの手伝いに来ていた勇者部から丹羽が派遣されたのだ。
強化版人間型バーテックスである丹羽は壁の外の灼熱の世界にも耐えられる肉体を持っている。だからこんな暑さなんてへっちゃらなのだ。
「ったく、若い奴らは根性なしだからいけねえ。おっと、兄ちゃんのほうが若いんだったな」
ガッハッハと大口で笑う禿頭の親父に、熱中症は根性論で何とかならないんだよなぁ…と内心で思うだけにしておく。
「今夜店に来てくれたらサービスするぜ。みんなにも話は通しとく」
「ありがとうございます。じゃあ俺は次の場所に行くので」
そう言って頭を下げ、丹羽が去ろうとすると呼び止められた。
「ああ、待って。おい、タツ!」
禿頭の親父が声を上げると、グラサンをかけた剃り込みが入った髪型の頬に刃物傷がある男が近づいてきた。
神歴でもいるんだ。こんないかにもなヤのつく自由業な見た目の人。
「へい、オジキ」
「おまえんとこのアレ、この兄ちゃんに分けてやれ」
「いや、そんな悪いですよ」
その言葉に丹羽は手を振り遠慮する。何かはわからないが、嫌な予感がする。
「おどれオジキに恥かかせるんかい?! オジキが受け取れ言うんじゃけぇ受け取れや」
「ヒェッ」
「なに素人さんにイキっとんじゃお前は!」
ずいと丹羽に怖い顔を近づけたグラサンの兄ちゃんが、禿頭の親父にどつかれていた。
えっと、素人さん? 本当に見た目だけで普通の人なんだよな?
「すまんな兄ちゃん。ほれ、その箱から好きなだけ持ってけ」
「えっと、大丈夫ですか? 口から血が出てますけど」
「ちょっと切れただけじゃ。心配いらんけぇとっとけ」
とクーラーボックスを突き出す。
中は包装されたアイスキャンディーのようだ。白いのだけだがバニラオンリーで売っているのだろうか?
とりあえず丹羽は勇者部の人数分もらい、1度みんなと合流することにする。
「ありがとうございます。さっそく部活の皆にも渡してきますね」
嫌な予感は気のせいだったらしい。丹羽はアイスが溶ける前にと勇者部の皆に渡しに行くことにした。
「最近、丹羽がおかしい」
始まりは風の言葉だった。
「夏休みなのに部屋にいないことの方が多いし、帰ってくるのも夕方近く。なんかことあるごとにお土産を持ってきてくれるし、どこで遊んでるのかしら?」
「あの、風先輩。それ今じゃなきゃダメですか?」
迷子センターのテントを張り放送機材の配備や机や椅子を運ぶのに大忙しな勇者部メンバーを代表して、友奈が言う。
「いや、あいつがいないうちにみんなに相談しておこうと思って」
「だったらまずは仕事を片付けなさいよ! 話はその後でもできるでしょ」
と夏凜。もっともである。
「夏凛は何か知らない? アンタいつも丹羽と訓練してるんでしょ?」
「いつもじゃないけど…まあ、多分あれね。園子様と一緒にしてる三ノ輪銀のお見舞い」
「そうね。私もそのっちが退院してからそのっちと丹羽君が何度も一緒にお見舞いに来ているのを目撃したわ」
夏凛の推測を裏付けするように東郷が言う。
「それって、毎日ですか?」
「ええ。ご家族がいらっしゃる時間とは被らないようにしているってそのっちは言っていたわ。丹羽君はできるだけそのっちと私が銀と一緒にいる時間を守りたいって言ってたから、彼と会うようになったのはここ最近ね」
樹の疑問に東郷が返事をする。
夏休み中6日も病院から帰らなかった丹羽に隣の部屋に住んでいる犬吠埼姉妹は心配していた。その後園子の治療のために精神力を使い果たし丸1日寝込んだ時は血相を変えて病院に来たほどだ。
「銀ちゃんの治療…うまくいってるの、東郷さん?」
「何とも言えないわね。相変わらず昏睡状態だし。丹羽君とそのっちは何か話し合っていたけど、私には教えてくれなかったわ」
東郷としても園子の時のような無茶はまたしてほしくないのでできれば相談してほしいのだが、丹羽は遠慮しているのか話してくれない。
こんな時に頼ってくれないのは少し腹が立つ。彼のことだから悪いことにはならないと信じているが、園子の時だって自分に一言くらい相談してほしかった。
「あいつ、また自分の中だけで解決してから話そうとしてるんじゃないでしょうね」
「夏凜ちゃん、どういうこと?」
苦虫を嚙み潰したような顔をする夏凜に、友奈がテントに椅子を運びながら尋ねる。
「あいつ、いざという時は自分が身を引けばいいとか言ってたことがあったのよ。何についてとは言えないけど、自己犠牲的というか。自分が嫌われてもいいからみんなが救われるような選択をするというか」
その言葉に友奈はびくっとする。
「友奈? どうかした?」
「な、なんでもありません。風先輩」
「だから言ってやったのよ。ちゃんとみんなの言葉を聞いて話し合いなさいって。風と樹も言ってたじゃない。悩んだら相談って」
「うん…うん。そうだね」
いつものはつらつとした様子とは違い、よく見ている東郷でなければわからないほど若干沈んだ様子の友奈にどうしたのと声をかけようとする。
「友奈ちゃん」
「お、何夏凜? あんた勇者部には仕方なく入部したって言いながら5箇条暗記してくれたの?」
「嬉しいです。夏凜さん!」
「べ、別にそういうわけじゃ…ただあいつがあんまりにも馬鹿なこと言うから言っただけだし」
犬吠埼姉妹に挟まれ、赤い顔をしながらぷいっと顔を逸らす夏凜。
話している間にテントの設営は終わっていた。これで思う存分話せるというものだ。
「もうアンタ勇者部大好きっ娘じゃん。言ってみ? 恥ずかしがらず風部長尊敬してます。大好きって」
「だ、誰がそんな!?」
「でも勇者部5箇条を実践できてる夏凜さんはすごいと思います。丹羽くんも少しくらい相談してくれていいのに」
グイグイくる犬吠埼姉妹に夏凜は顔を赤くしてツンツンだ。
それを見つめる不審者が1人。
「あら^~。やっぱり犬吠埼サンドはトウトイ…トウトイ…。ようやく風にぼに至ったんやなって」
「丹羽君!」
いつも通り不審者モードになっている丹羽に気づいた友奈が近づくとすぐに元の顔になった。
相変わらず変わり身が早い。
「お疲れ様です皆さん。これ、屋台の皆さんからの差し入れですって」
「わー! アイスキャンディーだ。嬉しいなー!」
アイスという言葉に勇者部メンバーのテンションが上がる。
暑い外での作業で冷たいものがちょうどほしかったのだ。
「お、気が利くじゃない丹羽」
「1つ1つ包装してあるのね。これなら多少溶けても安心だわ」
「全部バニラかー。アタシソーダに囲まれた奴が好きなのよねー」
「ありがとう、丹羽くん」
目を輝かせ夏凜、東郷、風、樹が丹羽から受け取る。
みんなの手に渡ったのを確認したあと早速包装をはがし、口に入れる。
ひんやりとした冷たさと同時に甘さと独特な風味が鼻を駆け抜けた。
これは…バニラじゃない?
「あれ、これバニラじゃなくて甘酒? 不思議な味ね」
「甘酒は飲む点滴ともいわれているから今の時期にはピッタリね」
同じ感想を抱いたのか、夏凜の言葉に東郷が解説をしている。
丹羽は嫌な予感がした。甘酒、勇者部。この2つから連想するものは…。
『食欲はなかったけど甘酒が美味しくて喉が喜んでた。でも、家で吐いちゃった』
「オロロロロロ」
「丹羽ーッ!?」
「丹羽君、ちょっとどうしたの!?」
思わず勇者の章トラウマシーンを思い出し丹羽の顔は真っ青になっていた。急にがくりと肩を落とす姿に夏凜と東郷が心配そうにしている。
「す、すみません。ちょっと立ち眩みが」
「頑張りすぎだよ、そこのテントで休んでて」
いつの間にか隣にいた友奈が丹羽の手を取ると引っ張って椅子に座らせる。これは大丈夫と言っても聞いてくれなさそうだ。
自分の顔を見つめる丹羽に心配そうな顔をする友奈。そうだ、今はまだ8月。勇者の章にはなっていなかった。
「ごめんなさい、結城先輩。ちょっと嫌なこと思い出して」
「心配事? もしよかったら相談――」
「うぇえええん!」
友奈が丹羽に何か言葉をかけようとしたとき、風の泣き声がそれを遮った。
「あははははは!」
「え、風先輩?」
「ちょっと、樹!? あんたらどうしたのよ」
顔を真っ赤にして泣いている風と笑う樹に東郷と夏凛が困惑している。
ああ、そうか。甘酒に関するゆゆゆ公式設定はもう1つあった。
犬吠埼姉妹はノンアルコールの甘酒で酔っぱらうことができるトンデモ体質だという公式設定が。
「とうごぉ~! 丹羽が遅くまでうちに帰ってきてくれないの~! きっとよそに女ができたのよ~」
「よそに女って、風先輩と丹羽君は付き合ってるわけじゃないですよね?」
「あははははは! お祭り楽しみですね夏凜さん、あははははは!」
「ちょ、樹!? あんたテンション高っ」
いつもと違う2人に東郷と夏凜が困惑している。
そうか、さっき感じた嫌な予感はこれだったか。
「うわぁあああああん! 丹羽のバカ~! なんでうちの隣から寮に引っ越すなんて言うのよ~」
「あははははは! お姉ちゃん面倒くさーい。そんなだから恋人ができないんだよ~」
風の言葉に普段なら絶対言わないような言葉を樹が言っている。
これは放っておくとまずいな。
「三好先輩、救護テントってまだ空きがありましたっけ」
「え? うーん、どうだろう。見てきましょうか?」
「あ、やっぱり大丈夫です。先に水を飲ませた方がいいっぽいですし、神社の方に運びます」
そう言うと丹羽は風をおんぶしようと前に来てしゃがむ。
「犬吠埼先輩、どうぞ。運びますから」
「やだ~! 重い女って思われるからいや~」
「あははははは! 丹羽くんのすけべ~! お姉ちゃんのおっぱいを背中に感じたいからおんぶしたいんだ~!」
泣きながらイヤイヤする風とそれをからかう樹。
これ、思ったよりも厄介だな。
「結城先輩、もう無理やり運ぶから犬吠埼さんの方をお願いします」
「え、うん」
丹羽は風の足と腰を持つと抱きかかえ、そのまま神社へと歩いていく。
自分とほぼ同じ身長の風を軽々と運んでいる姿に、改めて男の子だなぁと友奈は思う。
「あははははは! お姉ちゃん顔真っ赤! あははははは!」
「樹ちゃーん。私たちも行こうか」
「手伝うわ、友奈ちゃん」
友奈と東郷は樹を両方から挟むように肩に手を回し、丹羽の後を追い神社の社務所まで向かう。
そこで宮司さんに頼み込んで犬吠埼姉妹に水を飲ませ、頭に冷えピタを貼り付けクーラーが効いた部屋で休ませてもらった。
「ふー。一仕事したよ」
「お疲れ様です結城先輩、東郷先輩。宮司さんたちが麦茶用意してくれたみたいですからどうぞ。俺は三好先輩を呼んできますね」
そう言ってまた外に出ようとしている丹羽に、友奈は声をかける。
「あ、丹羽君!」
「はい? なんですか、結城先輩?」
「あの、なにか無理してない? 疲れてるんなら2人と一緒に少し休んだ方が」
「大丈夫ですよ。じゃあ、行ってきますね」
友奈の言葉に笑顔を返し、丹羽はうだるような暑さの外に出ていった。
「友奈ちゃん、どうかした?」
「うん。なんていうか…丹羽君の様子がおかしかったから」
その言葉に東郷は「優しいわね、友奈ちゃんは」と答える。
「風先輩もそんなこと言ってたけど、考えすぎだと思うわよ。本人は元気そうだし」
「そうかな?」
「ええ。でもそうやって何でもないようだから、私も知らないうちに頼っちゃってるのかもしれないわね」
「あはは、うん。それ、あるかも」
東郷の言う通り、勇者部の皆は知らないうちに丹羽に助けられている。少し依存しているかもしれない。
風先輩と樹はそれが顕著なだけで、友奈も彼に頼ってしまっているなと感じる時もある。
もっともそれは丹羽が望んでやっているところも多分にあるのだが。
「それにしても、夏凜ちゃんが言っていたけど、少しは私たちに相談してほしいわ。1人で抱え込んだって、思考の袋小路に入っちゃうだけなんだから」
東郷のぼやきに、友奈の心臓が跳ね上がった。
「友奈ちゃん?」
親友の変化を見逃さず、東郷がどうしたのかと首をかしげている。
「どこか具合が悪い? もしかして熱中症? よかったら風先輩や樹ちゃんと一緒に少し涼んでいったらどう?」
「大丈夫だよ東郷さん。よし、休憩もしたし私も行ってくるね!」
東郷が自分を呼び止める声が聞こえたが、友奈は聞こえないふりをして外へ向かう。
なんとなく、1人になれる場所へ行きたかった。
その後会場の設営の手伝いを終えた勇者部は宮司さんや屋台の人々から感謝され、1度着替えに帰るため解散することとなった。
日が沈み少し涼しくなってきた頃、神社の前で再び合流する。
「お待たせ―みんな!」
「お待たせしました」
「おっ、来たわね友奈、東郷!」
出迎えてくれた風はオキザリスの柄が入った黄色い浴衣だった。隣にいる樹は成子百合の柄が入った緑の浴衣を着ている。
「わー! 樹ちゃんかわいい! 風先輩も似合ってますよ」
「そう? やっぱり浴衣を着ててもアタシのあふれんばかりの女子力はにじみ出ちゃってるかー」
「友奈さんもかわいいですよ」
樹が褒める友奈の浴衣は桜の花弁が舞っている薄いピンク色だ。渋めの緑の帯と相まってよく似合っていた。
風と樹は浴衣に合わせ、普段とは違う髪型にしていた。風は後ろの髪をアップにして髪留めで結い、樹は短い三つ編みをあしらい普段とどこか雰囲気が違う。
こういうのは本当に女子力が高いと思う。
「いいなー、その髪型。私も風先輩にセットしてもらいたい!」
「はっはっは、ほめても何も出ないわよ。東郷は…うん、すごいわね色々」
風の言う通り、東郷の浴衣姿は目を引いていた。
アジサイ柄の藍色の浴衣に普段は降ろしている黒髪を結い上げている。
まさに大和撫子。日本の美を体現したような姿に道行く人も思わず見惚れ、振り返り見ているのだ。
「本当、きれい」
ほう、とため息を漏らしながら言う後輩の視線に照れながら、東郷は言う。
「そんな、樹ちゃんの方がかわいいわよ。それに私は体型が胸で崩れるから、浴衣って苦手で」
「「嫌味か貴様ッッッ!」」
尊敬の視線が怒りと嫉妬の視線となった。
樹と共に東郷の胸元をにらみつけている夏凜はヤマツツジの柄が入った赤い浴衣だ。
髪はいつものツインテールなのだが、結わえているリボンはいつもより大きくてかわいい仕様。気合が入っている。
ちなみに夏凜は風と樹と一緒に最初からいた。
「この胸か! この胸が言うのか!」
「ちょ、夏凜ちゃん!? こんな往来で」
浴衣の上からさらしを巻いた胸をつかもうとする夏凛に困惑する東郷。それを見て友奈は「2人はすっかり仲良しさんだね」とのほほんとしている。
「はいはい、2人とも往来ではしゃがない。樹もそんな怖い顔しないの。かわいい顔が台無しよ」
「うう~、わかった」
勇者部部長の言葉にようやく5人は人心地着く。あと1人くれば全員そろうのだが。
「で、丹羽の奴はまだ来ないの?」
「さっき電話したけど応答がないのよ。もう1回かけてみるわね」
風がスマホから電話をかけると、着信は意外に近くから聞こえてきた。人がいる雑踏の中でも聞こえるほどだ。
「ん?」
「ちょっとにわみん! なんでマナーモードにしてないの!?」
「すみませんそのっち先輩。でもこの距離じゃマナーモードにしててもどの道聞こえます」
なにやら後ろにいたカップルがこそこそと話している。よく見れば片方はこれから暗くなるのにサングラスをしていて怪しさ抜群だ。
「って、園子様!? こんなところでなにをしてらっしゃるんですか!」
「えへへ、バレちゃったかぁ」
驚く夏凛にサングラスを外し、舌を出して笑顔を見せたのは乃木園子だった。
蓮の花の柄が入った白い浴衣に長い髪を纏めていたから誰だか一瞬分からなかったのだ。
となると隣にいる紺色の浴衣を着たヒーローもののお面を被った男は…。
「おい丹羽ぁ、アンタ彼女同伴とはいい度胸してんじゃないの」
「彼女じゃないです同志です」
ドスを利かせた風の声に丹羽は弁解する。
「ひどい、わたしとは遊びだったのね!? 慰めてわっしー」
「はいはい。丹羽くんはひどい人ね。よしよし」
よよよと泣く真似をして近づく親友を、東郷は抱き寄せ頭を撫でる。
イイヨイイヨー、そのみもイイヨー!
「丹羽くん、顔」
「はい、すみません…って見えてないよね!?」
「見なくてもわかるよ」
「そうね。十中八九、いや10割気持ち悪い顔してるでしょうから」
手厳しい樹と夏凜の言葉に丹羽は反論できない。事実だからだ。
それに「あはははー」と友奈が笑っている。
ん? なんか表情がどこか固いような…。
「とにかく全員そろったわね! では、讃州中学勇者部出陣じゃー」
「「「「「おー!」」」」」
「あたしは言わないわよ。…って園子様ぁっ!?」
自分の代わりにノリノリで手を上げ号令に参加している園子に夏凜は驚く。
「もう、様づけなんてやめてよにぼっしー。園子って呼んで」
「は、はぁ」
なんだかフランクでテンションが高い。お祭り効果だろうか?
そんなことがありつつ、勇者部は屋台に繰り出した。
屋台の設営を手伝ったということもあって、勇者部メンバーが行くとみんなサービスしてくれた。
ただ、きれいどころのJC6人を連れている丹羽への視線がかなり痛かったが。
「たこ焼きクレープりんご飴。他にもまだまだ、おいしいのいっぱい!」
「そのっち、あんまり食べるとお腹壊すわよ」
口元をソースやクリームでべたべたにしている園子をかいがいしく東郷が面倒を見ている。
ああ、いいなぁ。ほんとうに平和だ。
これに銀ちゃんが加われば、本当にいいのになぁ。
「丹羽君、どうしたの?」
思わず見とれていた丹羽に友奈が言う。
「ああすみません。思わず尊さから固まってました」
「あははは、何それ?」
「それよりにわみんはなんでそんな後ろに下がってるの? 一緒に歩けばいいのに」
屋台巡りから一定の間隔を空けてついてくる丹羽に疑問を持った園子が問いかける。
「いやだって、視線が痛いんですよ。皆さんきれいだし、そんな中に俺みたいな男がいると」
「ちょ、きれいだなんてやめてよも~」
丹羽の言葉に顔を真っ赤にして風がバンバン背中を叩いてくる。
「お姉ちゃん、そういうとこだよ?」
「え、なにが?」
「風、あれが正解の反応よ」
夏凜が指さす方向を見ると、友奈、東郷、園子が顔を真っ赤にして丹羽から目を逸らしていた。
「きれいだなんて、そんな」
「もう、丹羽君。先輩をからかわないのよ」
「きれいって、男の人に初めて言われたかも―」
「え、アタシと何が違うの?」
「こいつ、マジか…っ!?」
「お姉ちゃん…」
3人のリアクションと自分のそれと何が違うのか本気でわかっていない風に、夏凜と樹は驚愕する。
「犬吠埼先輩はそれでいいんですよ。素直なのが素敵です。それが先輩の魅力だと思います」
「もう、丹羽くんがそうやって甘やかすから」
なにやら1年生組が揉めている。それを横目に見ながら夏凛は風に近づく。
「あんたもちょっとはあの3人を見習って」
とそこで夏凛は気付いた。風の耳が真っ赤になっていることを。
「……なんだ、あんたも結構乙女じゃない」
「え? なに? 夏凜がかき氷おごってくれるって? よし、行こー!」
「ちょ、誰もそんなこと言ってないでしょ!? 待ちなさいよ風!」
照れ隠しなのかずんずん先頭を行く風を追って夏凛が走っていく。
「風先輩待ってくださーい」
「あ、友奈ちゃん。私も行くわ!」
それを追って東郷と友奈もついて行った。
「ねえにわみん、そんなに気になるならちょっとおねえさんといいことしようか?」
「い、いいことって!? ダメですよそんないやらしい」
園子の意味ありげな言葉に顔を真っ赤にして樹が声を上げる。
「大丈夫、トイレですぐ済むから」
「トイレ!?」
トイレという単語に思春期の樹の頭はアレやコレが出したり入れたりする光景が思い浮かぶ。
「にわみんは恥ずかしいかもしれないけど、女子トイレで我慢してね。じゃあ、行こっか」
返事も聞かず丹羽を連れていく園子を止めようと樹は反対側の腕をつかむ。
「ダメー! そんな、わたしたち中学生なんですよ! なのにそんな」
「じゃあいっつんも来る?」
「え?」
とんでもない提案に、樹の思考がフリーズする。
「うーん。でもトイレも混んでるかもしれないし、そこの茂みでしよっか」
「茂みで!?」
もはやモラルも何にもない。樹の頭は沸騰して脱水症状寸前だ。
「そのっち先輩、犬吠埼さんをいじめるのはそのくらいで」
多分園子がやろうとしていることの見当がついていた丹羽はクラスメイトがこれ以上いじられるのを見過ごすわけにはいかず、ストップをかける。
「ごめんね、いっつん。実はね」
後半へ続く