詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
 丹羽みん子ちゃん爆誕!
 男心を計算しつくした仕草や言葉で勇者部の女の子に近寄ろうとする男たちをメロメロにしちゃうぞ♡
友奈「みん子ちゃんかわいいー!」
東郷「かわいい…友奈ちゃんの次くらいに」
風「男に女子力で負けたー!」
夏凜「えぇ…(困惑)」
園子「わたしがプロデュースました!」
樹「わたしが手伝いました!」
丹羽「勘弁してください」


1日早い園子の誕生日

 8月28日。乃木邸では久しぶりに家族水入らずの夕食が行われていた。

 だがその場は奇妙な緊張感が支配していて誰も言葉を交わさない。ただカチャカチャと肉を切り分けるフォークやナイフの音がするだけである。

 時折ちらりと両親が園子の表情をうかがう。だが園子は勇者部の面々が見たら信じられないほど冷たい無表情で食事をしている。

「ごちそうさま」

 ぽつりとつぶやくと園子は手を合わせる。口元をぬぐうナプキンを手渡すお手伝いさんに「ありがとう」と声をかけた。

「もういいのか? おかわりも用意しているが」

 父親の言葉にも園子は返事をせずに席を立ち、その場を後にする。

 その様子を見て、母親は何か言おうとしたが何も言えず、結局無言で部屋に戻る娘を見送った。

「やっぱり、怒っているのかしらあの子」

「ああ、仕方ないこととはいえ私たちは許されないことをしたからな」

 2年前の満開の副作用、散華のことを知りながらお役目として娘を戦場に送り出したことを、園子の両親は悔いている。

 乃木園子と両親の間には決定的な溝ができていた。

 それは大赦に禁止されていたとはいえ2年間1度も見舞いに訪れなかったこと。

 園子を助けようとした丹羽に娘可愛さからとはいえ言葉でなじり、責めたこと。

 なにより先日娘を騙すような形で行おうとしたお見合いがとどめを刺した。

 結局見合いは先方が駆け落ちをして破談となったが、それから逃げた園子を人をやってまで連れ戻そうとしたのだ。

 その時の娘のショックはいかほどだろうか。おそらく自分よりも乃木家の体面をおもんばかったのだと思ったことだろう。

 四国や乃木の家を守るためとはいえ、自分たちは彼女に過酷な運命を強いてきた。

 だからせめて将来は幸せになってほしいと思っての行動だったが、完全に裏目に出たらしい。

 お見合いの一件から園子は一言も両親と言葉を交わさなくなった。退院した時は色々と話してくれたが、それも遠い昔のようだ。

 思えば罰なのかもしれない。お役目とはいえ12歳の子供に重すぎる運命を背負わせてしまったことへの。

 親ならばすがってでも止めるべきだった。口止めされていても散華の事実を話し、絶対に戦うなと抱きしめ離さないべきだったのだ。

 それを四国を守るため、多くの命を守るためという理屈で感情を抑え込み、送り出した結果がこれだ。

「私たちは、間違っていたのかな」

「ええ。親ならば…彼の言うように親ならば止めるのが当然だったのかもしれません」

 園子が回復したと同時に目を覚ました丹羽に、園子の両親は謝罪した。

 感情が先走り君を責めてしまってすまない。娘の身体を治してくれたお礼をしたいと。

 そういう2人に、こともなげに彼はこう言ったのだ。

「親なら子供を大切に思うのは当然ですよ。そのっち先輩を大切に思っての言葉なら、あんな事態を引き起こした俺を責めるのは当然で、俺はその言葉を全部受け止める義務があります。きっとご両親はそのっち先輩が大切で大好きだからあんなに必死だったんです。悪いことなんて何もしてないですよ」

 その言葉を2年前の自分たちに聞かせてやりたかった。

 園子という勇者の娘を持つ親である前に乃木家の人間なのだと考えていた自分たちの頬をぶたれた気持ちだ。それで正気に戻ることができた。

 親ならば娘の幸せを願うのが当然だと。傷つけばそれに対し心配し、怒るのが当たり前なんだと。

 なぜ自分たちは大赦に言われるがままだったのか。娘が大切なら両足や内臓を失い日常生活も困難にさせた大赦に怒りの矛先を向けるべきだったのに。

 後悔しても今更どうしようもない。

 なぜなら乃木家の親子関係は、すっかり冷え切ってしまったのだから。

 

 

 

 8月29日。その日園子は珍しく東郷から家へ呼び出された。

 家から送迎してくれた車から降り、運転手に礼を言う。

 鷲尾家を訪れたことはあったが、東郷の家を訪れたのは今回が初めてだ。なんだか緊張する。

 チャイムを鳴らすとしばらくして東郷が顔を出した。それに園子も笑顔で応える。

「やっほー、わっしー。来たよー」

「いらっしゃいそのっち。待ってたわ」

 玄関で靴を脱ぎ、改めて東郷家にお邪魔する。

「おじゃましまーす。わっしーが誘ってくれるなんて久しぶりだから、緊張するんよー」

「そうね。私は飲み物用意してくるから、そのっちは先に居間に行ってて」

 そう言うと東郷は居間の場所を園子に教え、台所へと向かっていく。

 てっきり東郷の部屋で遊ぶのかと思っていたのに、居間へ通された。となると他に誰かいるのだろうか?

 そう思いながら園子が和室の居間へ入るために顔を出すと同時に炸裂音が響いた。

「わ、なに!?」

「「「「「ハッピーバースデー!」」」」」

 舞い散る紙吹雪と細長い紙の束に、それがクラッカーなのだと気づく。

 と同時に5人の声が聞こえ、園子は目を白黒させた。

 見るとそこにいたのは讃州中学の勇者部の面々。みんな笑顔で驚く園子を見ている。

「1日早いけど、お誕生日おめでとう。そのっち」

 声に振り替えれば東郷が【そのっち14歳おめでとう】と書かれたチョコのプレートが乗せられたホールケーキを持っていた。

「え、みんなどうして?」

「明日はそのちゃんお家のお誕生日で大変だろうから、先に私たちでお祝いしようって東郷さんと夏凛ちゃんが」

 園子の疑問に友奈が答える。

「その、差し出がましいとは思ったんだけど。あたしもやってもらったし、やっぱり部員の誕生日お祝いは大切だなって」

 名前を呼ばれた夏凜は顔を赤くしてぷいっと目を背けていた。東郷はケーキを持ったままニコニコしている。

「ケーキはアタシも手伝った生クリームや牛乳を使わない消化にいいやつだから、退院明けの乃木でも平気よ!」

 風の言葉にテーブルの上に並べられた料理を見る。

 どれも園子が食事ができるようになったら食べたいと思っていたものだ。ごくりと自然と生唾を飲んでしまう。

「わたしも手伝いたかったんですけど、丹羽くんと東郷先輩に止められて」

 樹が言うと、丹羽と東郷が顔を青くした。

「だ、大丈夫よ樹ちゃん。料理は私と風先輩に任せてくれれば。ね、丹羽君」

「そうですよ。犬吠埼さんはその分部屋の飾りつけを一緒に手伝ってくれたじゃないですか」

『そうだ樹。もてなしに飾りつけは重要』

『樹ちゃん。誰にでも向き不向きはあるんだし、頑張れるところでがんばればいいんだにゃー』

 丹羽と共に以前見た精霊、ナツメが言う。眼鏡をかけた精霊は初対面だが。

「えっと、初めましてだね。わたしは乃木園子。あなたは?」

『ん? ああ、そっか。初めましてになるんだ。私セッカ。今は東郷さんのところにお世話になってます』

 眼鏡の精霊、セッカはそう言うとよろしくーと気さくに挨拶してきた。

「え、わっしーのお世話って?」

「ああ。セッカは普段私の中にいて、スミちゃんの代わりに散華した足の治療をしてもらっているのよ。お城に詳しくて話も合うしいい子よ」

 園子の言葉に東郷は説明し、園子のために用意された中央の空席、誕生日席に敷かれた座布団の上に座るよう促す。

「最近では短時間ならセッカが外に出ても歩けるようになったの。そのっちもそのうちそうなるかもしれないわね」

 席に座った園子の前に誕生日ケーキが置かれ、ろうそくが14本刺される。

「そのっちもそのうち…ぷぷぷ」

「だ、ダジャレじゃないです! 決して狙って言ったわけじゃないですからね風先輩!」

「はいはい、それより火つけましょう。東郷、ライターは」

「ありません。うちは誰もタバコを吸いませんから」

「え、じゃあどうしましょう?」

「チャッ〇マンとかないの東郷さん?」

「ごめんなさい。用意してないわ」

 ろうそくを用意したはいいが火をつけるものを用意していなかったらしい。停電の時はどうしているんだろうか?

「火打石ならあるけど」

「逆になんでそれはあるのよ…」

『仕方ない。セッカ、いいか?』

『え、あれやるんですか? まあ、いいですけど』

 どうしたものか考えていると精霊のナツメとセッカに案があるようだ。

『東郷、中庭を借りるぞ。主、ろうそくを1本持ってそこに立ってくれ』

「わかりました。ナツメさん』

 精霊の言う通り居間から中庭に出ると、ろうそくを1本持って立つ。その近くに浮かぶナツメがセッカに声をかけた。

『こい、セッカ』

『はいよー。っせ!』

 セッカが放ったフォークぐらいの大きさの槍がナツメに向かう。それをナツメがヌンチャクで払い落し、火花が散る。

 その火花によりろうそくに火が付いたのだった。

「おーっ!」

 ナツメの業前に6人は拍手を送るなか、耳の横数ミリをすごい速さで飛んできた小さな槍が目の前で叩き落された丹羽は冷や汗をかく。

「…2人とも、こういうことやるなら事前に言ってくださいね」

『それより主。早くろうそくの火を』

『風で消えちゃったらもう1回だけどいいの?』

 その言葉に丹羽は慌ててケーキのろうそくに火を移す。

 それから全員で誕生日おめでとうの歌を歌い、園子が火を吹き消すと拍手が起こる。

「うわぁ、こんな誕生日久しぶりだよー」

「え、そうなの?」

「うん。いままで入院してたし、ご飯も食べられなかったから…あっ」

 友奈の言葉に思わず答えてしまったが、勇者部のみんなが自分に同情的な視線を送るのがわかってしまった。

 参ったなぁ。そんなつもりじゃなかったのに、雰囲気暗くしちゃった。

「あ、あの。えっとね」

「じゃあ、誕生日2年分今日1日で楽しむわよ! みんなー! 宴の準備はできてるかー!」

 風の言葉に「おー!」と5人が声と手を上げる。

 どうやら自分のせいで盛り下がったのではないかという園子の心配は杞憂だったらしい。

 それからは楽しい誕生日パーティーだった。

 友奈と夏凜の即興漫才。なぜか途中から夏凜のツンデレをいかに友奈が攻略していくかという催しに代わっていたが、園子は目を輝かせていたので大成功だろう。隣で東郷を抑えていた丹羽と風はハラハラだったが。

 それから東郷のマジックショー。2年前よりキレが増したマジックに拍手の嵐が鳴りやまない。

 その後に樹の誕生日お祝いソング。きれいな歌声にみんなが感動した。

 それから丹羽監督による風と夏凜による百合イチャ演劇。園子は目を輝かせて時々「ビュォオオオ!」と謎の擬音を口にしながら大興奮だ。

 園子の中から精霊のウタノとミトも登場し、大変にぎやかな誕生日会になった。

 セッカの髪のふわふわ具合がとても気になった園子はどうにか触らせてもらえないか頼み込んだ。

『今日だけ特別だからね』とセッカに許してもらいふわふわの髪を触らせてもらうと、思った以上にふわふわで驚いた。これは魔性だ。1度触ったら抜け出せないかもしれない。

 2年前に三ノ輪銀と鷲尾須美の2人の親友と行えなかった自分の誕生日会。

 不思議とそれを今行っているような錯覚に園子は陥る。

 それほど楽しい誕生日会だった。

「じゃあ、そろそろ誕生日プレゼントを渡しましょうか」

 その言葉に園子は恐縮する。こんなに楽しいのにプレゼントまでもらっちゃっていいんだろうかと。

「じゃあ、部長のアタシから。はい、女子力アップグッズ」

「あんた、それあたしの時にも渡したわよね」

 風のプレゼントに夏凜がツッコむ。

「あれは顔をスリムにする器具。これは赤ちゃんみたいに足がツルツルになるグッズよ」

 夏凜の言葉に風が解説する。14歳なのにそれ、必要なんだろうか?

「じゃあ次は私! そのちゃん小説が好きだって言ってたから、押し花で作ったしおりのセット!」

「小さいヒマワリ、ハス、ヒツジグサ、スイレン、ヨシ、サギソウ、アサガオ。全部夏の花だね。かわいいよ、ゆーゆ。ありがとう」

「私は手帳とペンを」

「え?」

 銀と同じプレゼントをしてくれた東郷に、園子は驚く。彼女はこのことを知らないはず。

「どうかした? もしかして気に入らなかった?」

「違うよわっしー。嬉しくて…すっごい嬉しい!」

 偶然の一致だろうが、それでも嬉しかった。銀にもらったものは今も大切に使っているが、そろそろ余白がなくなってきて継ぎ足そうと思っていたのだ。

「私からはこのいつでも簡単に今日の運勢を占えるおみくじボックスを」

「ねえ、樹。あんた勇者部を占い研究会にしようと画策してない?」

「そ、そんなことないですよぉ」

 夏凜の指摘に樹は明後日の方角を見て否定する。図星か!

「あたしからはこれです。園子さ…園子用に調合したサプリ1年分!」

「あはは、ありがとうにぼっしー」

 つい今までの癖で園子様と呼ぼうとしたのを訂正し、自分が希望した通り様づけなしで律義に呼びなおしてくれる夏凜に園子は好感を持つ。

 だがプレゼントのサプリは正直…うん。量も多いし3年くらいあれば消費できるかなぁ。

「俺はそのっち先輩をモデルにした百合小説を」

「「「「「またか!」」」」」

 相変わらずの丹羽のプレゼントに、5人は声をそろえた。

「あんたねぇ、それで喜ぶ人間は限られてるのよ? わかってる?」

「え、でも三好先輩なんだかんだ言って全部読んでくれましたよね」

「それは…うん」

「え、夏凜。アンタ全部読んだの?」

「普通に面白かったし、その」

「ちょっと待って。なぜそこで友奈ちゃんを見て顔を赤くするのかしら?」

 夏凜の微妙な表情の変化に気づいた東郷が問いかける。

「ち、ちがうのよ! 決して友奈とチューするエンディングシーンを思い出したわけじゃ」

「え? 私夏凜ちゃんとチューしちゃったの? その小説で」

「えー! それってどんな話なんですか!?」

 衝撃的な展開に友奈と樹が目を輝かせていた。一方で東郷からは黒いオーラが。

「丹羽君、正座」

「もうしております」

「よろしい。その潔さに免じて今日の折檻は免除します」

 それから東郷による丹羽の説教が始まった。

 一方で園子は夢中になって丹羽が書いた小説を読んでいる。時々「ビュォオオオ!」と声を上げていることからお気に召したようだ。

 こうして1日早い園子の誕生日は、大成功のうちに幕を閉じた。

 

 

 

「今日はありがとうね、わっしー、みんな。これで明日の誕生日も乗り切れるよー」

 園子の言葉に友奈と犬吠埼姉妹は首をかしげる。

「え、乗り切れるって?」

「わかるでしょ。乃木家と言えば四国でも知らない人間がいない名家よ。そのご息女の誕生日と言ったら四国中から人が来て、あいさつ回りとか大変なの」

 いまいちわかっていない3人に、夏凜が解説した。

「ああ、だから1日早くやろうって言ったのね」

「風、あんたわかってたんじゃなかったの?」

「も、もちろんわかってたし! アタシは勇者部部長よ!」

 嘘だな。と他の5人は思った。口にはしなかったが。

「そんなわけで明日はミノさんのお見舞いにも行けないかもしれないけど、ごめんねわっしー、にわみん」

「ええ、わかったわそのっち」

「存分に祝われてきてください、そのっち先輩」

「うーん。わたしとしてはもうちょっと人が少なくてもいいかなーって」

 丹羽の言葉に園子は苦笑いする。

 彼らは別に園子をお祝いにしに来るわけではない。

 乃木家という存在に取り入るために家へ押しかけてきているだけなのだ。

 園子の誕生日というのはその名目に過ぎない。目の前の勇者部の面々のように本心から自分を祝ってくれている存在など誰もいない。

「祝われるので疲れるんだったら、そのっち先輩も祝ってみたらどうですか、ご両親を」

 だから丹羽がそんなことを言ったのには面食らった。

「え?」

「だって誕生した日を祝うってことなら産んでくれた母親や父親に感謝してもいいんじゃないですか? 後にそういう楽しみがあればモチベも上がると思うし」

 明るくそう言う丹羽に、園子の心は急速に冷えていった。

 この子は忘れているんだろうか? 自分のことを罵った園子の両親のことを。

 その後謝罪して丹羽は受け入れていたが、園子は許すには至れなかった。なにか黒いモヤモヤが胸の内に渦巻いている。

 それが前日のお見合いを勝手に決められたときに爆発して、お見合い当日丹羽のふうにぼ発生の報告を名目に逃げて夏祭りに繰り出したのだが。

「丹羽君は、どうしてそう思うの?」

 気づけばそう尋ねていた。思いのほか冷たい声が出たのか、丹羽以外の全員が園子を驚いた顔で見ている。

「だって、ご両親がいなければ俺や勇者部の皆はそのっち先輩に会えなかったし。こんなに楽しいパーティーも開けませんでしたよ」

 その言葉にガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。

 そうだ。報告書で読んだが丹羽には今から2年以前の記憶が何もないのだ。

 両親の記憶も、その2人に誕生日を祝われた記憶も。

 それなのに、どんな気持ちであの2人の言葉を聞いていたんだろう。園子は想像しかできないが、多分こう思ったのではないだろうか。

 ああ、両親に心配されていいなぁと。

 自然と、涙が出ていた。「どうしました?」とびっくりして慌てる丹羽を、園子は抱きしめる。

「そ、そのっち先輩!?」

「にわみん。わたしにどれだけできるかわからないけど、あなたの両親を探すのを手伝わせて。必ず見つけてみせるから」

 園子の言葉に色々と察したのか、勇者部の面々も丹羽の肩をつかんだり頭をなでたりする。

「丹羽の両親探しか。結構歯ごたえがありそうな依頼ね」

「うん。でもなせばたいていなんとかなるのが勇者部だし」

「ネットを使った作業なら任せて。必ず見つけてみせるわ」

「考えてみれば夏休みが絶好のチャンスだったのに、気づかなかったね」

「まーね。これからバーテックスとの戦いもあるけど、それと並行してやればいいのよ」

 上から風、樹、東郷、友奈、夏凜の言葉である。それに丹羽はなんだかわからないというように目を白黒させる。

 丹羽明吾。考えてみれば謎の存在だ。

 2年以上前の記憶が一切ない。

 なぜか三ノ輪銀とそっくりの精霊、スミと一体化して東郷を守って勇者になった。

 それからしゃべる人型の精霊を5体も持っている。

 情報だけなら怪しさの塊なのに、彼と出会い話してみるとだからなんだと思ってしまう。

 それほど彼は自分たちに害を与える存在とは到底思えないからだ。

 

 

 

 8月30日。乃木園子の誕生日パーティーはつつがなく終了した。

 最後まで笑顔を崩さず訪れる招待客に対応してくれた娘には感服する。

 もしつらいようなら退院したばかりで体調が悪いと断ってもいいと言ったのに、最後までやり通してくれた。

 これで乃木家も安泰だろう。考えて、また娘より家を優先に考えている自分に嫌気がさす。

 そんな風だから、2年前取り返しのつかないことをしてしまったのに。

「旦那様、奥様。園子様があちらの部屋でお待ちでございます」

 そんなことを考えていると、執事が告げてきた。

 何事だろう。自分たちに対する恨み言でもいうために人がいない場所で話したいのだろうか?

 だったら自分たちはそれを甘んじて受け入れるべきだ。

 園子の両親は覚悟しながら案内された部屋のドアを開く。

 そこにはテーブルの上に小さなケーキと3枚の皿が用意されていた。

「これは…?」

 当惑していると、パーティードレスの園子が両親に向けて頭を下げる。

「お父さん、お母さん…いままで失礼な態度をとってごめんなさい」

 突然の行動に園子の両親は驚く。

「あ、謝るのは私たちの方だ。私は、2年前園子を」

「そうです。恨まれるのも、あんな態度をとられるのも仕方ないと思っています」

 その言葉に園子は首を振る。

「わたし、2人を怒ったことはあっても恨んだことはないよ。満開したのは自分の意思だし、それから2年間お見舞いに来なかったのも大赦の人に言われたからでしょ。全部わかってる」

「だが、親ならば無理やりにでも戦わせるべきではなかった。私たちは、大赦から満開の副作用についても聞いていたのに」

「あなたに教えることをしなかった。誰よりも大切な娘よりも、見知らぬ四国の大勢の命を選んだのよ。恨まれても仕方ないわ」

 顔を伏せる両親に、園子は明るく言う。

「だから、恨んでなんかいないって。正直にわみんにしたことには腹が立ったし、許せないと思ったけど。昨日ね、そのにわみんに言われたの。2人がいなかったらにわみんやわっしーたち勇者部のみんなが私に会えなかったって」

 その言葉に園子の両親は何も言えなかった。

「にわみんはね、2年以上前の記憶がないんだ。だから両親のことも、誕生日を祝ってもらった思い出もない。そんな彼に言われたら、わたしもへそ曲げてるのってかっこ悪いなって」

 そう言って園子は両親の後ろに回り、背中を押して椅子に座るように促す。

「ほらほら、座って座って。今年からパーティーが終わった後はわたし主催による【お父さんお母さんわたしを生んでくれてありがとう】会をするんだから」

「園子…私たちは」

「それ以上何か言ったら、怒るからね。これはにわみんの提案で、わたしはそれを受け入れただけ。お礼や文句なら彼に言って」

 その言葉に、園子の母親がすすり泣く。父親の目にも熱いものがこみ上げてきた。

 ああ、なんて自分たちにはもったいないできた娘なんだ。

「このケーキ、わっしーとふーみん先輩に教わってわたしが作ったんだ。おいしくできたと思うけど、お腹いっぱいなら残してもいいからね」

「いや、いただこう。全部」

 そう言って3人は園子が作ったケーキを食べ始めた。

 甘さ控えめのケーキは正直先ほどまで自分たちが食べていた一流シェフが作ったスイーツには遠く及ばない。

 だが、涙で少ししょっぱく感じるこの味はこれからの人生で決して忘れることができない味となるだろう。

「丹羽明吾君か」

 ぽつりとつぶやいた父親の声に、園子は顔を向ける。

「いい友達を持ったな。園子」

「友達じゃなくて同志なんよー。魂より深い部分でつながったソウルメイトだぜー」

 とびっきりの笑顔を見せる園子に両親はうなずきあう。

「あなた」

「ああ」

 彼ならば自分たちが選んだ財力だけの存在よりも娘を幸せにしてくれるだろう。

 というか娘のためにお見合いを仕組んだが、これからはもう必要ないかもしれない。

 なぜなら娘には心に決めた存在がいるのだから。

 そして永遠に縮まることのないと思っていた娘との距離をとり持ってくれた存在。

 どれだけ感謝してもし足りない。

 こうして丹羽本人のあずかり知らぬところで丹羽明吾の乃木家婿入り計画は秘密裏に行われることになった。




 乃木家の親子関係修復ヨシ!
 これでわすゆ関係の大赦の被害者で救われてないのは三ノ輪家と銀ちゃんだけになったな!

丹羽「まさかこんな形で記憶喪失設定が生かされるとは」
園子「にわみん、絶対ご両親を見つけてみせるから!」
丹羽「アッハイ」
園子「乃木家の情報収集能力を甘く見ないでね。絶対の絶対に見つけてみせるよ!」
丹羽「やばい、どんどん大ごとになってる」
園子「いざという時はわたしの権限で大赦も動かすからどーんとまかせなさーい!」
丹羽「タノモシイデスネ(助けて! 壁の外にいる俺!?)」
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