詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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神樹「おい貴様ぁ! よくもあんなゲームを寄越してくれたな!?」
(+皿+)「あ、女装山脈どうだった? 萌えゲーアワード金賞取った作品だから名作だっただろ」
神樹「あんなかわいい子に生えてるなんて頭おかしいだろ!」
(+皿+)「むしろかわいいなら生えてなきゃ失礼だろ」
神樹「え?」
(+皿+)「え?」
神樹「とにかく、この恨みは絶対晴らすからなぁあああ!」
(+皿+)「行っちゃった。気に入ったなら無印おとボク貸してやろうと思ったのに」



勅令

 8月31日。8月最後の日にして夏休み最終日である。

 その日、勇者部全員は大赦に招かれていた。園子を含む7人が広間に待たされている。

 勇者部の他には6人の大赦仮面がいて、それぞれが各部署を管理する偉い人間だと紹介された。

 やがて1人の大赦の仮面をかぶった人間が入ると、他の大赦仮面たちが恭しく頭を下げる。

「あなたは…」

 その姿に園子が反応した。

「お久しぶりです。園子様」

 それは儀式で使う汚れを祓う鈴のような声音だ。

「初めまして讃州中学勇者部の皆さま。わたくしがこの度の件に関する代表である大赦の最高責任者です。以後、お見知りおきを」

「た、大赦の最高責任者ぁ!?」

 あまりに雲の上の存在である人物の登場に、風と夏凜は驚いている。

「まさか、本当に?」

「うん。本当だよ皆。この人が大赦の最高責任者」

 東郷の疑問に園子はうなずく。

「あなたが出てくるなんて、意外だったよ。どうせ首を斬られても痛くも痒くもない人間が出てくるものだと思ってたよ」

「あれから我々は心を入れ替えました。今回の件、大赦の総力を上げて全力で取り組んだので責任者は代表のわたくしであるのが当然かと」

 その言葉を聞いて園子は目をパチクリとさせる。一度直接自分に謝りに来たとはいえ、以前の大赦の最高責任者なら絶対言わないような言葉だったからだ。

「この度の件、讃州中学勇者部の皆様に再び勇者としてお役目を行っていただくことについてご説明させていただきます」

 その言葉に7人は姿勢を正す。

 そう、勇者部7人が今日ここにいる理由。それは一週間前大赦からこれからのことについて話があると呼び出されたからだ。

 それはバーテックスが襲来し、勇者として戦い続けるということ。

 園子としては一体どんな言い訳をするつもりかと考えていたが、次の行動に目を丸くする。

「申し訳ございませんでした」

 大赦の最高責任者が、頭を下げたのである。

 それは本来なら絶対にありえないことだ。人類を守るためなら勇者を道具や手段の1つとして考えているような組織のトップがとる行動ではない。

「あれから皆様の他に勇者の適性がある人間を四国全ての人間を調査しましたが、皆様以上の適性を持つ人間はいませんでした」

 その言葉にそれはそうだろうと丹羽は思う。

 四国で最高の勇者適性を持つのは結城友奈に他ならない。先代勇者である東郷と園子。それに大赦の懐刀である完成型勇者の夏凜。それに風と樹。

 この6人以上の存在なんて、ゆゆゆい時空で経験を積んだゴールドタワーにいる防人組でも引っ張ってこないと釣り合わない。

「適性は低くとも勇者に変身できるものはいます。ですがそうなると生存率はそれに応じて低くなる。それならば適性の高い皆様にお役目を続けていただこうと」

「つまり、私たちや風先輩をだましたんですか? また」

 東郷の言葉に大赦の最高責任者は深々と頭を下げる。

「結果的にそうなってしまいました。誠に申し訳ございません」

「謝るのに、ずっと仮面をしているのは失礼じゃないかな?」

「ちょっと、園子!?」

 園子の言葉に夏凛がびっくりしていた。

 ひょっとしてこの人は影武者で、本人じゃないんじゃないのか?

 そう思った園子に向けて最高責任者は仮面を外し、素顔を見せる。

 その顔は間違いなく以前病室で自分に素顔を見せた本人そのものだった。

「これで、よろしいでしょうか」

「うん。ごめんなさい。あなたが実は偽物の影武者かもしれないと疑ってた」

 素直に謝罪する園子に、大赦の最高責任者は首を振る。

「いえ、そう疑われても仕方のないことを我々はしてきました。その御指摘はごもっともです」

 そう言うと大赦の最高責任者は手を上げて合図をした。

 すると奥から大赦仮面がやってきて神社の祭壇に飾る三方の上に置かれた4つのスマホがそれぞれ友奈、東郷、風、樹の前に置かれる。

「どうぞ。お受け取りください。前回までの戦闘データを参考にして最新バージョンにアップグレードした勇者システムが組み込まれたスマホです」

「あ、あの! その前に12体のバーテックスを倒せば戦いが終わるんじゃなかったんですか!?」

 声を上げたのは意外なことに樹だった。

「樹」

「最初からお姉ちゃんをだますつもりでそんなことを言ったんですか! 答えてください」

「そうですね…。犬吠埼様には大変失礼をいたしました。申し訳ありません」

「いえ、そんな」

 自分に向かって頭を下げる大赦の最高責任者に風は恐縮する。

「バーテックスは周期的に神樹様を倒し人類を滅ぼすためにやってくる存在。ですから12体のバーテックスを倒せば少なくとも1年は大丈夫…そう考えてあえて真実は伏せていました」

「つまり、だましてたんですね」

「はい、その通りです。1年あれば勇者様に頼らずとも何らかの対策を打つことができる。その考えが甘かったことに、我々は気付かなかった」

 むろん嘘である。本来の大赦は勇者たちをだまし、使いつぶす気満々だった。

 だがバーテックス人間化し、勇者のことを第一に考えている大赦の最高責任者にとってそれは真実なのだろう。声に悔しさがにじんでいる。

「ですが、ご存じの通りバーテックス襲来の周期は不規則で、我々の予想を超えていました。対応策を生み出す前にまたバーテックスの出現が神託により予想され、皆様の力を借りなければならない事態に…情けないことですが」

「次はいつなんですか?」

 大赦の最高責任者の言葉に、友奈が尋ねる。

「9月中、とのことです。星座級の巨大バーテックスが1体と星屑の群れが」

「そんな、たった2か月で!?」

 衝撃の事実に勇者部5人がざわめいた。

「しかもそれ、7月の時点でわかってたんだよね」

 続いて園子の言った言葉に、大赦の最高責任者は「はい」とうなずく。

「じゃあどうしてお役目が終わったなんて言ったの? ぬか喜びさせてから結局無理でしたから頼りますなんて、虫が良すぎると思うな」

「返す言葉もございません。ですが、こちらも戦闘データから勇者システムのアップグレードや対バーテックス用の武器の開発などにも研究を重ねておりましたので。ギリギリまで別の勇者候補の選出を粘ってみようと」

 園子の言葉に、深々と大赦の最高責任者は頭を下げる。

「園子様のおっしゃる通り、虫が良すぎるのは百も承知です。ですが、どうか皆様の力をお貸し願いたい。こちらとしてもできる限りのバックアップは行いますし、新に医療班やメンタルケアのチームもご用意いたしました」

 園子は驚いた。医療班はともかくメンタルケアなんて今までの大赦では考えられないことだ。

 本当に心を入れ替えたのだろうか? まだ半信半疑だが、少しは信じてみてもいいかもしれない。

 同じように勇者部の面々も戸惑っていた。大赦がどういう風の吹き回しでこんなことをしてくれたのか、まだ真意を測りかねているのだ。

「俺からも質問いいですか?」

 手を上げたのは丹羽だ。それに大赦の最高責任者はうなずく。

「どうぞ、丹羽明吾様」

「今回わざわざ大赦に呼び出して説明したのはなぜです? 連絡事項なら春信さんに命じればよかったのに」

 その言葉に、「あっ」と全員が得心した。

 今までの違和感の正体。それは大赦がわざわざ自分たち勇者を招いて失態を謝り説明してくれたという点だ。

 昔の大赦なら一方的にスマホを送り付け、「敵がこれからも来ます。これで戦ってください」という簡素な文章が送信されただけだっただろう。

 なのになぜ勇者たちが事実を知り反発して襲い掛かってくるリスクを冒してでも大赦の最高責任者が出てきたのか。その真意がわからなかったのだ。

「責任者として、前線に立つ方々に説明する責任があるのは当然だからです。そういった意味では、勇者の皆様に口止めさせた上にその責任を押し付けてしまい犬吠埼風様には大変失礼なことをいたしました」

 大赦の最高責任者の言葉に、風と園子はポカンとする。

 この人は本当に今まで大赦から自分たちに命令していた人物と同じなのかと。

 まるで別人のような責任をとろうとするちゃんとした大人の姿に、2人はただひたすらに困惑していた。

「断ってもいい…と言えないのが本当に申し訳ない。あなた方以上に勇者適性がある存在がいないのは事実です。なので、情けないことですが断らないでくれと願うしかありません」

 改めて、大赦の最高責任者は頭を下げる。

「どうか四国を…そこに生きる人々をお救いください。勇者様」

「お救いください、勇者様」

 大赦の最高責任者だけでなく、広間にいた大赦仮面たちも平伏し、勇者部の面々に頭を下げていた。

 これは暴力だ。と園子は思う。

 彼らは勇者部のみんながそれを断れないと知っていてこんなことをしている。

 少しはましな組織になったかと思ったが、しょせんこんなものか。だが、丹羽が言ったようにスマホではなく直接対面して告げた点は評価したい。

「それは、私たちにしかできないことなんですね」

「友奈ちゃん!?」

 目の前に置かれたスマホを受け取った友奈に、東郷は驚きの声を上げる。

「だって、ここで私たちが断ったら、別の人が傷つくんでしょ。だったらその分私が頑張れば」

「あたしたち、の間違いでしょ」

 自己犠牲モードになりそうな友奈の言葉を遮り、夏凜が言う。

「あたしは大赦所属の勇者だもの。当然参加するわよ。あんたたちと一緒に戦えたら頼もしいと思うけど、強制はしない」

 その言葉に風は目の前に置かれたスマホを手に取り、立ち上がる。

「勝手に2人で盛り上がってるんじゃないわよ。部員が頑張るのに部長が怖気ずくなんて、違うでしょ! アタシもやるわ」

「風先輩!」

 風の言葉に友奈がうれしそうな顔をする。

「わたしも、頑張ります!」

 樹もスマホを手に取り、風に続く。

「樹、あんたはべつに無理しなくても」

「そうよ。お姉ちゃんに任せてアンタは普通の生活に」

「ううん。前にも言ったでしょ。ちゃんとお姉ちゃんもみんなも守れる勇者になるって」

「樹ちゃん」

「わっしーは、どうする?」

 園子の言葉に、東郷は目の前に置かれたスマホを手に取る。

「そんなの、決まってる。友奈ちゃんの隣が私の居場所よ。たとえそこが戦場でも」

「そっか。にわみんは?」

「俺は初めから戦うつもりでした。皆さんと違う変身方法なのも何か意味があるのかもしれないし」

 そっか。と園子は微笑む。どうやら自分は6人も仲間ができるらしい。

「申し訳ございません。我々の力不足でこのようなことに……いえ、この場合は戦う決心をしてくださりありがとうございますと言うべきでしょうか」

「勘違いしないで。わたしや勇者部の皆はあなたたちのために戦うんじゃない」

 頭を下げる大赦の最高責任者に、園子は言う。

「四国に住む何も知らない人たちや友達、家族を守るために戦うんです。あなたたちが今までしたこと、これくらいであがなえるとは思わないで」

「それは、もちろんです」

 神妙な顔をする大赦の最高責任者に、友奈は言う。

「でも、こうして直接話してくれてありがとうございました。大赦の人も苦しんでたんだなってわかってよかったです」

「もったいないお言葉です。我々の力が及ばないばかりに皆様に頼りきりになって、この身の未熟さを呪っております」

 友奈の言葉に恐縮している。どうやら本当に心を入れ替えたのかな? と、園子の信頼度が上がった。

「大赦は勇者の皆様を全面的にサポートさせていただきます。何かありましたらご連絡ください。いつでも駆け付けます」

「あ、ありがとうございます」

 大赦の最高責任者に言われ、部長の風は腰が引けている。

 これで風をはじめとした勇者部の大赦に対する信頼度は回復したようだ。これで本編通り起こるはずだった風の暴走フラグは完全に消失しただろう。

「それじゃあ、讃州中学勇者部、第2陣もやるわよ!」

「「「「「「「おー!」」」」」」」

 風の掛け声に他の6人も声を合わせてを上げる。

 それは本編とは違い、非常に前向きな新しくやってくる敵と戦う決意だった。

 

 

 

 勇者部の5人が帰った後、丹羽と園子は大赦のある場所を訪れていた。

 そこは大赦サイバー課第1係。主に神樹のバイオデータを管理し、バイタルをチェックする部署。大赦にとって絶対守らなければならない絶対防衛線だ。

「ねえ、にわみん。わたしの仮説、あってると思う?」

 その言葉に、丹羽は大きくうなずく。

「はい。そのっち先輩の考えは理にかなっているし、俺も納得しました」

 園子の言う仮説とは、三ノ輪銀の魂が神樹様の元にとらわれているのではないかというものだ。

 園子の心臓を治すため休眠状態だったときに見たあの場所。そして銀の言葉から考えるに、あそこは死んだ勇者の魂がたどり着く場所ではないのか。

 それが丹羽と話し合い、園子が出した結論だった。

 ちなみに園子の話を聞いた時丹羽は『あのロリコンクソウッド、勇者の章で分かった1期最終回の友奈みたいにイメージ拉致してやがったのか!?』と激怒したのだが、何とか顔に出さずに済んだ。

 もし人型バーテックスだった時にこのことに気づいていれば、神樹の樹液をチューチューして枯れる寸前まで追い込んでやれたのにと悔しがった。

「でもよかったんですか、東郷先輩に話さなくて」

「多分、わっしーが聞いたら変な方向に突っ走っちゃいそうだから。四国の壁を壊すとか」

 その言葉にデスヨネー。と内心で思う。追い詰められた結果本編では本当に壁を壊してしまうのだから、園子の推測は間違っていない。

「だから、まずは神樹様にお願いしてみる。ミノさんを返してくださいって。あなたの勇者はまだ戦えますよって」

 その言葉に丹羽はゆゆゆいのエピソードを思い出す。

 神託を受ける側だった西暦の巫女、上里ひなたが「元の世界に戻ってもどうかこの世界の記憶がなくならないように」と嘆願したことがあった。

 その後ひなたは高熱を出し、命に関わるような危険な状態になったのだ。

 結果的に助かったからよかったものの、そのエピソードで「俺」は思った。

 なんて傲慢な奴だと。ひなたのみんなを想うささやかな願いでさえもこんな恩を仇で返すようなやり方で不遜と斬り捨て罰を与えるのかと。

 神樹の恵みがなければ四国は存在できないのは知っている。だが、自分を守ってくれている勇者や巫女に対する態度がこんなのでは、あんまりではないか。

 だから、「俺」である人型バーテックスと丹羽明吾は神樹が嫌いだ。

 そしてそれを信仰し、勇者を都合のいい道具として扱い多くを生かすという大義名分のために勇者の章で友奈を神婚させようとした大赦を憎んですらいる。

 その結果バーテックス人間を生み出し風の暴走フラグの消滅や大赦に対する勇者たちの信頼回復といろいろしてきたが、今回はその親玉が相手だ。

 覚悟をしなければならない。

「そのっち先輩。その役目、俺にやらせてもらえませんか?」

 丹羽の言葉に、園子は「え?」と困惑する。

「相手は神様で、人類よりも格上の存在(だと思っている奴)です。昔で言えば直訴みたいなことをそのっち先輩はしようとしているんだと思います。もし無礼打ちなんてことになってなんらかの罰が下れば、東郷先輩やまだ目を覚ましていない三ノ輪銀さんが悲しみます」

「それは…うん。そうかもしれない」

 丹羽の言葉にその可能性は思い至らなかったというように園子は言う。

 普段の彼女なら思い浮かんだんだろうが、銀を目覚めさせたいという焦りがあったのだろう。仕方ない。

 その後それでも自分がお願いするという園子をなんとか説き伏せ、丹羽は大赦の職員に頼み、神樹に直接語り掛けるために特別室に入れてもらった。

 そこには巨大な木の根と細い根がツタのように枝分かれして部屋のいたるところにはびこっている。

 神樹様と対話する社と呼ばれているらしい。本来なら選ばれた巫女しか入れない場所だが、バーテックス人間である最高責任者が許可を出し、バーテックス人間である職員を使って丹羽はその部屋に侵入した。

 細い根は触れると風化してパラパラと塵になって消える。改めて太い木の根を触れると、ビリっと自分の中のバーテックスの部分が反応するのが分かった。

 これは危険だ。自分の天敵だと。

 だがそれがなんだ。俺なんかの身体より少女たちの笑顔の方が大事だ。

『神樹様、神樹様、どうか我々の願いをお聞きください』

 丹羽は心の中で語り掛ける。だがうんともすんとも返事がない。

『神樹…おいこらロリコンクソウッド。信者を五穀米にする恩知らず。JCを物理的に食ってる異常者。神樹様の恵みモード(スク水)。聞いてんのかオラッ!』

【……我を呼ぶのは何処の人ぞ】

 心の中で散々罵倒すると、ようやく脳内に重々しい言葉が響いてきた。

 というか、今のワードのどこに反応したんだろうか? ロリコンクソウッド? スク水大好き?

 反応しなかったらもう1つの猫耳メイド大好きについても言及しようと思ったが、それには及ばなかったらしい。

『神樹様、お願いです。あなたが魂を捕らえている三ノ輪銀さんの魂を解放し、元の身体に戻してください。彼女はまだ生きていて身体も完全回復しているんです』

【貴様……人間ではないな? なぜ天の神の使いがここにいる】

 その言葉に、さすがにごまかせないかと丹羽は冷や汗をかく。

『たしかに俺はバーテックスだ。でも、本気で勇者の女の子たちを助けたい。頼む、銀ちゃんの魂を解放してくれ!』

【断る】

「なっ!?」

 明確な意思の拒否に、思わず丹羽から声が漏れる。

【なぜ我が貴様の願いなど聞かねばならぬ。身の程を知れ、天の使い】

「だったら、俺の魂の代わりでもいい、三ノ輪銀さんの魂を」

【アレはすでに我のモノだ。なぜ貴様なぞの願いで手放さなければならぬ】

 その言葉に、ぷつんと頭の中が切れた。

 モノだと? 自分を命がけで守ってくれた存在を所有物扱い。

 大赦のクソどもと同じじゃないか!

「ふっざけんな!」

 気が付けば叫んでいた。モニター室に園子がいたが、そんなことは怒りに満ちた頭の中から消えていた。

 バーテックス人間である職員が気を利かせて音声をオフにしてくれなければまずい事態になっていたかもしれない。

「銀ちゃんはなぁ、お前が守る四国を守るために文字通り命がけで戦ってきたんだぞ! それに対して思うところはないのかよ」

 それだけじゃない。

「いや、銀ちゃんだけじゃない。乃木若葉、土居球子、伊予島杏、郡千景、そして高嶋■■! 今までお前を守ってきてくれた勇者たちにお前は何か報いたのか!」

【愚かな……我は人に恵みを与え、勇者はその人を守るために我を守る。それは当然だろう」

 コイツ…っ!

「じゃあ、どうして死んだ勇者の魂まで弄んだ! 高嶋■■は、■■は何度勇者に転生して戦い続けなければならない!?」

【あれは本人が望んだこと。我はそれをかなえてやったのみ】

 嘘だ。例え最初にそう望んだとしても赤嶺■■はそう望んだのか? 他の■■も?

 感情のままに言葉を出そうとする心に、落ち着けと命令する。今は銀ちゃんが大事だ。

『とりあえず、お前の考えはわかった。そのうえで銀ちゃんの魂を解放しろ』

【断る】

『お前の命をこちらが握っている、と言ってもか?』

 丹羽が念じた言葉に動揺するのが、根に触れた手から伝わった。

【ほう、ハッタリも過ぎると滑稽だぞ。天の神の使い】

『俺が何の準備もなくこんなことすると思ってるのか? 巫女の嘆願に命を落としかねない高熱にさせることで返したお前に』

 神樹の思考が分かりやすく乱れるのが分かった。なるほど、ゆゆゆい時空じゃなくてもやってたのか。クソウッドめ!

『俺の命令があればお前のバイタルを管理している人間に命令して大赦が行っているお前の生態維持のサポートを全部止めることができる。人間の協力なしで一体どれくらい生きられるかな?』

【待て、しばし待て! もし我が滅びれば四国に生きる人間はどうなる? 滅ぶぞ? いいのか?】

『構わないさ。俺は自分の大事な人だけが生きていればそれでいい』

 嘘だ。そんなことをすれば彼女たちは悲しみ人類を何とか救済しようと身を粉にして働くだろう。

 そんな彼女たちが悲しむような世界は望んでいない。

 だが同時に本音でもある。「俺」は推しが幸せになるためなら他の人間なんて知ったことじゃない。

 特に、バーテックス人間になる前の勇者を道具扱いしていた人間なんかは。

【……しばし待て。時がかかる】

『それは、俺の願いを聞き入れたと考えていいのか?』

 丹羽の言葉に神樹は沈黙する。

『じゃあ、ついでにお前が供物として奪った東郷さんの記憶も戻せ』

【まて! 願いは1つだけではなかたのか!?】

 丹羽の言葉に神樹が慌てるのが分かった。

『すぐ返事してくれれば1つだったんだけどな。これはペナルティーだと思ってくれ』

【卑怯な!】

『どっちがだよ。とにかく数日中に銀ちゃんが目を覚まさなかったら、宣言通り大赦からの生命維持措置を終了するからな』

 そう言い…念じ残すと丹羽は根から手を放し、部屋を出て園子の元に戻る。

「どうだったにわみん!?」

「ええ、神樹様は三ノ輪銀さんの魂を返してくれるそうです。あと供物としてささげた東郷先輩の失われた記憶も戻るって」

 その言葉に園子は涙ぐんでいる。そうか、そんなに嬉しいんだ。

 無理もないな。これでようやくわすゆ組3人が元に戻るんだから。

「ありがとう、にわみん……そうだ! にわみんのことは? にわみんの記憶も取り戻してもらったの?」

 その言葉に「あー」と丹羽は目を逸らす。そう言えばそんな設定なんだっけ。

「ごめんなさい、すっかりそのこと忘れてました」

「忘れてたの!?」

「でも大丈夫ですよ。俺としては東郷先輩やそのっち先輩と三ノ輪銀さんが一緒に笑いあえる世界の方が大切です」

 あっけらかんとした態度で答える後輩に、園子は呆然とする。

「にわみんって…馬鹿なの?」

「失礼な。これでも成績は上の下くらいです」

 いや、そういうことじゃないんだけど…と思いつつ園子はこみ上げる笑いをこらえられない。

 本当にこの子は、自分より勇者部の皆を優先しているんだなぁ。

 どうして園子が笑うのかわからず困惑する丹羽を見て、園子の笑いはしばらく止まらなかった。

 

 

 

 その夜、四国にいる巫女、あるいは巫女の資質を持つ少女に神樹様からのお告げがあった。

 

 勅である。

 我に仇なし、四国の平穏を脅かすものが現れた。

 彼の者は人の姿をし、自らを勇者と偽る傲岸不遜な敵である。

 こともあろうに我の所有物を奪い、この身を脅かさんと魔の手を伸ばしてきた。

 彼の者の存在を絶対に許してはならない。

 彼の者の名は【丹羽明吾】。大赦と人類を偽り、四国の平和を脅かさんとする仇敵である!

 早急に打ち滅ぼすべし!

 

 

 

 9月1日。新学期の開始の日である。

「樹ー! もう今日から新学期でしょ。そろそろ起きなさい」

 朝の犬吠埼家では風がなかなか起きてこない樹に声をかけていた。

「もう起きてるよぉ。ふわぁ~」

 寝ぼけ眼で髪も寝癖で一部跳ねている樹が部屋からパジャマ姿で出てくる。

 時刻は7時半。朝食をゆっくり食べて身支度をし、制服に着替えて学校まで行くのに十分余裕がある時間だ。

「お、めずらしい。毎年あとちょっと寝させてって駄々こねるのに。今年は早起きさんね」

「わたしだっていつまでもお姉ちゃんに頼りっぱなしじゃないの」

 えっへんと胸を張る樹だが、朝食と弁当の用意は5時起きの風に任せっきりである。

 いつものようにテーブルに座り朝食をとろうとする樹だったが、違和感に気づいた。

「ねえ、なんで今日は4人分も用意してるの?」

「え?」

 その言葉に制服エプロンの風も思わず振り向く。

 テーブルの上には風と樹の分の目玉焼きとトースト。それと同じセットがもう2組用意されていたのだ。

 まるでこれから4人で食事をするように。

「あ、あれー? なんかつい無意識に」

「もう、お姉ちゃんしっかりしてよ」

 しっかり者の姉が犯したミスに、樹は笑う。

 だってこの部屋に引っ越してきてからここでは自分たち姉妹2人しかご飯を食べたことがない。4人分の食事が用意されたのなんて恐らく初めてだろう。

 夏休みボケが続いている姉に樹は言う。

「お父さんとお母さんの分なんて、今更だよぉ。お盆はもう終わったんだよ」

「ごめんごめん。なんか作っちゃった。まあ、朝食は大事って言うし、食べちゃおう」

「お姉ちゃんはともかくわたしは太っちゃうよぅ」

 あははと笑う姉に、樹は抗議の声を上げる。

「あ、それにお弁当も3つ作って! お昼ごはんも2人分食べるの? 今日何か運動系の部活の助っ人あったっけ?」

 樹の言葉に風は驚く。

 犬吠埼家では食事をするリビングから台所が丸見えなのだが、そこに蓋をずらし粗熱をとっている弁当が3つ置かれている。

 完全に無意識に3人分作っていた。まるで長い間そうしてきたかのように。

 これはあれだろうか。女子力が上がりすぎた弊害…。本人も気付かぬうちに2人分の弁当を作るところを3人分同じ手間で作れるようにパワーアップしたとか?

「なんか変なこと考えてるんだろうけど、違うと思うよ」

 そんなことを考えている姉の心を見透かして樹がツッコむ。まあ、そんなわけはないよね。

 作ってしまったものは仕方ない。今日は自分が2人分の弁当を食べよう。あるいは夏凜の昼食がにぼしとサプリだけだったら渡すのもいいかもしれない。

 今日からまたお役目が始まる。バーテックスを倒すという命がけのお役目が。

 風、樹、友奈、東郷、夏凜、園子。勇者部6人(・・・・・)が一丸となって戦うためにも健康管理は大事だ。

 だから栄養を取るに越したことはないだろう。

 それにほら、勇者部5箇条にもあるし。「よく寝て、よく食べる」と。

 風は弁当を2つ自分の鞄に入れ、1つを樹の鞄に入れる。

 さあ、今日から新学期だ。気張っていこう!




 休暇はもう充分楽しんだだろう?
 さあ、地獄の始まりだ。

 一部のわゆネタバレを防ぐため伏字をさせていただきました。
 ついに人類の守護者である神樹様を敵に回した丹羽君。やべぇよやべぇよ。

 さて、ここで少し質問を。付き合ってくださる方だけで結構なので読み飛ばしても大丈夫です。
 以前大赦の真人間化、通称OTONA化計画を開始した時に「アンチヘ・ヘイト」タグ付けた方がいいよという感想をいただきました。
 自分としては「大赦=クソ」というアニメ本編での事実は揺るがしがたく敵対することは最初から決めていたので運営様からお達しが来るまではアンチヘ・ヘイトタグはつけないつもりでした。
 ですが今回の神樹との敵対はそれに当てはまるのかなー? と微妙なラインだと思っています。
 神樹様は人類の世界である四国の守護者であり、「ロリコンクソウッド」などという蔑称もありますが基本人類の信仰の対象であり、人類の味方です。
 今回の行動もあくまで自分を害そうとする存在を排除しようとしただけで、人類側にとっては当然の行動です。
 まあ、主人公が星屑(バーテックス)な時点で避けられない展開ではあるんですが。

追記:20201230
 アンケートへのご協力ありがとうございました。改めてアンチ・ヘイトタグをつけさせていただきました。
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