詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
安達がしまむらの犬なのはもう公式なのね。姉むらもいいぞ。
天の神(百合好き)「抱け! 抱け! 抱けぇえええ!!」
(+皿+)「落ち着いて。見終わったら最初からもう1周しよう」
天の神(百合好き)「うん、しゅるぅ~」
コロナ禍なのにこんな神作を作ってくださったアニメ会社様と原作者様に最大の敬意を。
すげぇよ本当に。今季は日常系百合作品と神作が多すぎて尊い成分過剰摂取でどうにかなりそう。
(+皿+)「来期まで撮りためたアサルトリリィとおちこぼれフルーツタルト見よ」
天の神(百合好き)「我は来期に向けてSHOWBYROCK! シリーズ全部見る!」
神樹「ええ、お前ら……ええ?(困惑)」
あらすじ
丹羽「銀ちゃんの魂を返さないとお前を殺す!」
デデン!
神樹「何なのこの人…はわわわ!? 巫女にこいつが危険な奴って伝えなくちゃ」
丹羽「ついでに東郷さんの記憶も元に戻せよ」
神樹「なんだこの無礼な奴は!(豹変)丹羽明吾、絶対許さねぇ!」
新学期初日の朝、丹羽明吾は自分の教室を訪れると自分の席がなくなっていることに気づいた。
新手のいじめだろうか? たしかに樹の件で自分は男子の恨みを買っているという自覚はあるが、何もこんな陰湿な手を使わなくても気に入らないのなら直接言えばいいのに。
まあ、言えないからこんな手を使っているんだろうが。
仕方なく空き教室から机を持ってきて元自分の席まで運んでくると、なぜかクラスメイト達が自分を見てひそひそと話していた。
まあ、そりゃめずらしい光景だけど、そこまで遠巻きにしなくても。
ひょっとしてクラス中がグルで俺をいじめている!? と疑心暗鬼になったとき、すぐ近くの席に樹が座っているのが目に入った。どうやら机と椅子を運んできている間に来たらしい。
「おはよう、犬吠埼さん」
「ひぅ!?」
声をかけると、なぜか樹が怯えていた。まるで最初に会った時のようだ。
おかしい。確かに彼女は男性が苦手だが、同じ部活の仲間である自分には普通に接してくれていたのに。
「どうかした? 犬吠埼さん?」
丹羽が不審に思い近づこうとすると、数人の女子生徒が樹と丹羽の間に入り彼女を守る盾のように立ちはだかる。
「ちょっと、あんた誰よ!」
「樹ちゃんに何の用? それに、勝手に机と椅子を持ってくるなんてどういうつもり?」
その言葉に丹羽はキョトンとした。
どういうつもりも何も自分はこのクラスの生徒だし、少なくとも目の前にいる3人とは3か月は同じ部屋で授業を受けた旧友であるはずだ。
それなのにどうしてクラスに入って来た異分子を見るような目で見るのだろう。
丹羽が戸惑っていると、チャイムの音とともに教師が入ってくる。
「静かに。みんな席につけー。おや、君は? どこのクラスの子だい?」
「先生、こいつ勝手に机と椅子を持ってきて変なんです! 居座るつもりですよ!」
その言葉に丹羽は一瞬固まる。まさか自分のことを言われているとは思わなかったからだ。
女子生徒の声にようやく丹羽は周囲から好奇の視線を向けられているのに気付く。
いたずらにしては度が過ぎている。なんなんだこの状況は?
「ちょっと待って、俺ですよ。丹羽明吾。このクラスでずっと授業を受けてきたじゃないか?」
「にわ? にわみんご……」
丹羽の言葉に担任教師は出席簿の名前と照らし合わせる。
「そんな生徒、うちにはいないぞ」
「は?」
信じられない言葉に丹羽は呆然とした。
「多分夏休みボケで別のクラスと間違えてるんだろう。早く自分のクラスに帰りたまえ」
教師の言葉に笑い声が起こる。どうやら丹羽のことをクラスを間違えたうっかり者だと判断したらしい。
その光景に丹羽はようやく得心する。彼らは初めて見る丹羽明吾という男子生徒に困惑していたのだ。
となると樹のあの態度は…。
丹羽は持ってきた机と椅子をそのままに教室を飛び出す。教師の注意する声が背中から聞こえてきたが今はそれどころではない。
2階にたどり着き2年3組の教室のドアを開ける。
ホームルーム中に突然現れた男子生徒に教室にいた人間が一斉に注目するが、構わず進む。
教室を見渡すと友奈と夏凜の姿を確認できた。東郷は…いない。
好都合だ。急いで友奈の席へ向かう。
「結城先輩! 俺のこと分かりますか?」
「え、あのえっと? どちら様?」
苗字を呼ばれ困惑する勇者部の攻略王に、丹羽は間違っていてくれと願った可能性が事実なのだと確信する。
やっぱりか。彼女は嘘をつける性格ではない。
となると予想した通り最悪の状況だということだ。
丹羽明吾という存在が勇者を含め周囲の人間の記憶から消えている。
どうやら自分は勇者の章開始時の東郷と同じような状況に陥っているらしい。
違うのは東郷と違いこの状況を望んでいないことか。
さらに言えば東郷と違い自分のことを思い出してもらえないかもしれないという可能性が濃厚なことも挙げられる。
勇者部で1年一緒にいた友奈、東郷、風、樹と違い自分はたった3か月の付き合いだ。
バーテックスとの戦いには参加していたが、それがどれだけ彼女たちの心に残っただろう。
とても記憶に残っているとは思えない。しょせんそれだけの付き合いだ。
それに隣の部屋に住んでいて同じクラスだった樹があの反応だったのだ。風も恐らく…。
「ちょっとあんた。友奈に何の用なのよ」
考え込んでいると突然教室に飛び込んできて友奈に話しかけた丹羽に、夏凜が厳しい視線と共に声をかけている。
もしこの場に東郷がいたらもっと早く止められていた。どうしていないのかは不明だが、今は助かる。
「あ、もしかして勇者部へのご依頼かな? だったら昼休みに部室で」
「すみません。お騒がせしました」
笑顔で言う友奈に背を向け、入って来たドアから丹羽は出ていく。
こんなことをできるのは、この世界で1人、いや1柱しかいない。
丹羽がスマホをタップするとオトメユリの花が舞い光に包まれる。
白い勇者服に水色のラインが入った姿に変身すると全速力で大赦へ向かった。
大赦にたどり着く前にバーテックス人間を操り今の状況を探ろうとしたが、うまくいかない。
まるで何者かに妨害されているようだ。だとしたらこの状況を作り出した張本人が行っているのだろう。
「クソウッドめ、なにが少し時間がかかるだ!」
今回の出来事の黒幕に対して吐き捨てるように言う。
昨日丹羽が念話で話した時に、既にこの状況を作り出そうと考えていたに違いない。
この四国にバーテックスが存在し、しかも人の姿をしていると。
だから近しい人間の記憶をすべて奪った。ひょっとしたら自分を倒すように神託を下したのかもしれない。
だとしたら東郷がいないのも納得できる。恐らく彼女は同じ部活の仲間である丹羽がそんなことをするとは思えないと反論したのではないか?
だとしたら…。
「東郷先輩が危ない!?」
思い至り、丹羽は思わず足を止めた。
神樹と巫女の関係は完全な一方通行だ。神樹が神託を告げ、巫女がそれを受け取り人類に告げる。
その逆はあり得ない。もしそんなことをすれば不敬とし、罰を与えるだろう。
ゆゆゆいの上里ひなたのエピソードのように。
だとしたら危険だ。早急に東郷の身の安全を確認しなければ。
大赦に向かうべきか。それとも先に東郷の無事を確認すべきか。
悩むまでもない。後者だ。
丹羽は引き返し東郷の家へ向かう。何もなければよし、もしゆゆゆいの上里ひなたのように高熱を出していたら…。
考えて、しまったと思う。ミトは今園子の中にウタノと共にいるのだ。
記憶のない園子に頼み込み、親友を助けるためだと言い近づけばどうなるか。
考えるまでもない。丹羽を東郷を高熱にした犯人として疑い拘束し尋問するだろう。そんなことは人型バーテックスの時に思い知っている。
だとしたらミトとウタノの回収はあきらめた方が賢明だ。
「ナツメさん、そのっち先輩を治した時のこと憶えてますか?」
問いかけに宙に褐色で白髪の人型精霊が現れる。
『もちろんだ、主』
「質問なんですけど、ナツメさん単体で高熱にうなされている人間を治すことってできます?」
その言葉に精霊は首を振る。
『無理だ。私の能力はあくまで戦闘に特化したもの。ミトのような人を癒す力を求められても困る』
「じゃあ、例えば勇者の身体に巣食っている神樹の力を消滅させたりは?」
『消滅は無理だと思う。だが弱めることなら…主も知っての通り、私やセッカは神樹の勇者ではないからな。風や皆みたいな制約はない』
よし、と丹羽は心の中でガッツポーズをとる。
丹羽の精霊であるスミ以外の精霊、ナツメ、セッカ、ウタノ、ミト。
この4体の精霊の共通点は、西暦の勇者であることと四国以外の地で生まれた勇者であること。
つまり神樹を信仰し、神樹の勇者として選ばれた存在ではないということだ。
もし神樹が直接自分に手を下してきた時のために彼女たちをモデルに選んだのだが、今回はそれがいい方に向いたらしい。
東郷の中にいるセッカと力を合わせれば神樹の怒りである彼女を蝕む高熱を取り払える。
あくまで可能性だが。それでも何も希望がないよりはいい。
もっとも1番いいのは彼女が何事もない健康な姿でいることだが、それならなぜ学校を休んだのかという疑問に行き着く。
考えたくないが、やはり……。
そんなことを考えているうちに東郷の屋敷へたどり着く。玄関は人目があるので直接部屋へ乗り込む。
「ナツメさん、お願いします」
『ん、わかった』
勇者の章で東郷が友奈の部屋に忍び込んだようにナツメに中から窓のカギを開けてもらう。カチャンと音がしたので窓をずらし部屋に入り込む。
部屋の中には東郷の匂いが充満していた。ああ、女の子の部屋だなと緊急時なのに考えてしまう。
まずは東郷の無事を確かめなければと周囲をうかがうと、東郷はいた。
ベッドで荒い息を吐き、珠のような汗をかいている。呼吸も荒く、一目で高熱を出しているのだとわかった。
やはり恐れていた事態になっている。東郷の性格を考えればこうなるのはわかっていたが、改めて自分の目で見ると神樹に対して怒りが沸き上がってきた。
「あいつ、自分の勇者までこんな目に」
『主、怒るのはわかるが今は東郷を』
「わかってます。お願いします、ナツメさん」
丹羽の言葉にナツメはうなずき、光となって東郷の胸の中へ吸い込まれていく。
しばらくすると東郷の呼吸は静かになり、汗も少しずつ引いてきた。
心なしか顔も穏やかになって来たように思う。あとは中にいるセッカとナツメに任せれば東郷は大丈夫だろう。
とりあえず一安心だ。丹羽は胸をなでおろす。
さて、これからどうするか?
予定通り大赦へ行くか? 精霊がいない今の状態では丹羽は強化版人間型星屑と変わりがない。人間よりは幾分か強いとはいえ、勇者と敵対すればすぐ負けるだろう。
ならば東郷が治ったのを確認した後大赦に向かう? それだと後手に回り神樹が次の手を打つ時間を許してしまう。それに大赦にいるはずのバーテックス人間に指示ができないのも気になる。
「んっ、うぅ…」
考えを巡らしていると、東郷が身じろぎした。
その際ブラをつけていないことがわかる胸元のふくらみをつい見てしまう。さすがメガロポリス、でかい。
丹羽はなるべく見ないようにしながら東郷に掛け布団を掛け直す。その時胸元が光り、1体の精霊が出てきた。
『いやー、参った。助かったよナツメさんが来てくれて』
「セッカさん? 大丈夫なんですか東郷先輩の中にいないで」
飛び出してきたセッカに丹羽が尋ねる。
『あー。私が一応東郷の中に入って来た悪いモノを退けてたんだけど、数に負けちゃって。手が足りなかったのよねー』
「だったら余計に2人とも東郷さんの中にいた方が」
『いやいやご主人。ナツメさんのスピードナメてたらダメだよ。私1人でもそれなりに戦える自信があったんだけど、近接のスピードで言えば多分ナツメさん以上の存在はいないよ。次から次へと侵入してきた木の枝みたいなやつらあっという間に倒しちゃった』
セッカのいう木の枝のような奴というのは多分神樹の怒りを具現化した存在だろう。
それが東郷の身体に巣食い、高熱を出させていたのだと推測する。
『で、東郷さんの中にいた奴らほとんど倒しちゃったから、ここは任せてご主人の助けに行ってくれって』
「そうですか。ありがとうございます」
そう言うとセッカは丹羽の中に入っていった。
たしかに戦闘スピード特化の精霊であるナツメなら、神樹から東郷に送られる怒りというよくないものを追い出すのにぴったりだろう。
それに遠、中、近距離のオールレンジ攻撃ができるセッカが自分の中にいた方が大赦を襲撃をするのに適している。
なるほど。適材適所というやつか。
ナツメ1体だけで大丈夫かと心配したが、本人が任せろと言ったのなら大丈夫なんだろう。
「がんばってください、東郷先輩。神樹のやつになんかに負けないで」
そう言って丹羽が東郷の手を握り元気づけようとした時、ノックの音が室内に響く。
「お嬢様。美森お嬢様? お加減はいかがですか?」
扉を開けたお手伝いさんは首をかしげる。閉めていたはずの窓が開いていたからだ。
急いで窓を閉め、東郷の様子を確かめる。呼吸はすっかり落ち着き、表情も幾分か穏やかだ。
これなら予定していた病院への搬送は必要ないかもしれない。まずは汗で寝冷えしないように着替えさせなければ。
「あら?」
タオルと着替え、氷枕を取りに行ったときに息をしやすいようにパジャマのボタンをはずして胸元を少し緩めておいたのだが、なぜかきちんとしまっていた。
自分の記憶違いだろうか? 東郷家のお手伝いさんは首をひねりながら東郷を着替えさせるために服を脱がせていく。
それは目の毒なので胸元を閉じるようにセッカに頼んだ丹羽のせいなのだが、それを知る人間は誰もいなかった。
東郷家へ寄り道したが、おかげでナツメの代わりに東郷の中にいたセッカを自分の中にいれることができた。
これでもしも銃剣を使う防人隊が自分を襲撃してきても対応できるだろう。
というか、神託の詳しい内容がわかるまではあまり派手に動くべきではないかもしれない。もし勇者部や周囲の人間から自分の記憶をなくしただけなら、丹羽としては痛くもかゆくもないわけだし。
夏休み前から自分は勇者部のみんなと関わりすぎているという自覚があった。
夏凜に指摘されてからは必要以上に接しないことを心掛けながらも百合男子として無償の愛を注いできたのだが、本来自分は彼女たちの百合イチャを観測する立場。バーテックスとの戦いに向け信頼関係を築くためとはいえ深入りしすぎたのも事実だ。
だから神樹の記憶操作はある意味丹羽にとって渡りに船のはず。信頼度をリセットされたのは痛かったが、親愛度がゼロになったのはむしろ観察する立場に専念できるというものだ。
「だったら…」
だったらなぜ樹に自分のことなど知らないと思われたのを理解した時、あんなに絶望的な気分になったのだろう?
どうやら彼女たちに関わりすぎたせいで自分も知らない間に自分が丹羽明吾という人間で、勇者部の一員だと錯覚してしまったらしい。
とんでもない勘違いだ。
あくまで丹羽明吾という存在は四国に入れない人型バーテックスの代わりに大赦と勇者の間を取り持ち信頼関係を回復させ、勇者たちのメンタルケアを行うために送られたただの
本質的には今壁の外にいて四国以外に人類が住める土地を作っている人型バーテックスと何も変わない。
ただ、この残酷な物語から彼女たちを助けたかった。散華で身体機能の一部を失うという痛々しい姿を見たくないというだけ。
幸いなことにそれはもう達成された。あとはレオ・スタークラスターを壁の外にいる人型のバーテックスと共闘し倒すのみ。
それさえ終われば丹羽明吾という存在は不要となる。彼女たちの記憶に残っているのはむしろデメリットでしかない。
だからこれでいい。これでいいんだ。と丹羽は自分に心の中で言い聞かせる。
こんな風に考えるのは百合男子として無償の愛を注ぐうちに知らない間に勇者部のみんなの優しさに触れすぎただけ。
自分を分裂したバーテックスの細胞の1つではなく、意思を持った1人の人間だと錯覚してしまっただけなのだ。
そんなことを考えているうちに大赦へ到着する。
とりあえず結果だけ言うと潜入任務は思いのほかうまくいった。
「で、味は?」でおなじみの段ボールをこよなく愛するCIAの特殊部隊の人間のゲームの知識があったおかげで平和ボケした大赦の警備はザル同然だ。
それにこっちは放り投げると壁抜けバグを起こすバナナみたいなチートじみた存在である精霊も持っている。はっきり言ってちょろい。
誰にも気づかれることなく大赦内に入ると、とりあえず大赦サイバー課第1係を目指す。
神樹に一言言ってやるというのもあるが、今の現状を確かめるためにある程度神託を受ける巫女と近しい部署の人間に事情を聴く必要がある。
大赦内に入っても丹羽の命令にバーテックス人間は反応しなかったことからおそらく神樹によって無力化されたと考えるべきだろう。
丹羽は柱の陰に隠れ、大赦仮面をやり過ごすとその背後に忍び寄り隙をついて人差し指から耳の穴へ寄生型バーテックスを注入する。
ガクンと膝をつこうとする大赦仮面を暗がりに連れ込みぐへへ…な展開になることもなく質問を開始した。
「巫女に何が起こったか聞かせてくれ」
「今朝、巫女たち全員が神樹様の神託を受けた。皆一様に神樹様を脅かす存在、丹羽明吾を滅ぼすべしと」
「巫女に体調を崩した人間は? 高熱にうなされている者は?」
「いない。だが東郷家から勇者の東郷美森様が高熱を出し倒れたという報告を受けた。大赦は大事をとって緊急検査と入院をさせる予定だ」
なるほど。熱病に犯されていたのは東郷だけらしい。しかも大赦がちゃんと勇者をフォローするために動いている。
これは丹羽にとっては嬉しい知らせだ。
「丹羽明吾についてわかっていること。これから行おうとしていることを教えろ」
「名前から四国にいる人物のデータベースを参照したが、存在を確認されなかった。午前8時30分、讃州中学1年1組でそう名乗る男子生徒がいたことが判明。その後同学校の2年3組の勇者である結城友奈様と接触したことを確認。以後の足取りは不明」
なるほど。神樹は丹羽明吾という人間の記憶を消したことを巫女の神託で告げなかったのか。神様なのに間抜けすぎる。
まあ、そのおかげでこっちは追われることなくこうして大赦に潜入できたわけだが。
「丹羽明吾は見つけ次第勇者様の手を煩わせることなく無力化して拘束ないし殺害することが決定された。大赦技術部で開発された対バーテックス用の装備を使うことも許可されている。現在情報を分析しながら捜索部隊が讃州中学を中心に香川県内を捜索中」
「勇者部や防人たちへの連絡は?」
「まだだ。勇者の方々にはお役目だけに集中していただきたいとの考えで情報は規制されている。防人隊にも出動要請はない」
そこはいままでの大赦と同じなのか。
報告、連絡、相談は基本だろうに。というかもし丹羽が勇者を害する存在だった場合情報を共有してないとやばいだろう。
まあ、今回はその無能さに救われたのだが。
「わかった。仕事に戻りできるだけ仲間を増やしてくれ。俺が指示したら情報の改ざんや誘導を」
「了解した」
うなずくと大赦仮面は暗がりから出て職場へと戻っていく。
さて、今自分が置かれた状況は理解した。
それではいよいよ本命との対面だ。
丹羽はセッカを先行させ、監視カメラの位置を確認して必要なら破壊してもらう。
それから室内にいる人間の場所を記憶し、内側から鍵を開けさせると突入する。
制圧は1分もかからない。というか、1分以上もかかれば職員に他の部署に通報されたりするから失敗なのだが。
そうならないように事前にセッカに通報するような機械は壊してもらったが、早いに越したことはない。
大赦職員を気絶させたついでに耳から寄生型バーテックスを注入しておく。これで神樹の命は再び手中に収めることができた。
さて、今回の出来事の説明をしてもらおうか。
丹羽は昨日ぶりに神樹と対話する部屋に入り、太い木の根に手を重ね念じる。
『やってくれたな、神樹様よ』
【まだ生きていたのか。人間も案外無能よな】
頭の中に響く声に悪びれる様子はない。
『昨日言ったよな。銀ちゃんの魂を返すって。東郷さんの記憶を返すって』
【言っていないな。ただ我は時間がかかると言っただけだ。ただの1度も貴様の言うことにうんと言ったつもりはない】
その言葉に丹羽は昨日の会話の内容を思い出す。
たしかに神樹は丹羽の言葉に1度も承知した、承諾したという言葉を返していない。
【貴様が勝手に勘違いして間抜けにも正体をさらして意気揚々と帰っただけだ。あの姿は滑稽だったぞ】
うーん、この畜生。
思ったよりも人間の悪い面を学習している神様にそんな感想しか出てこない。
それにしてもこいつ、今の自分の立場分かっているんだろうか?
『言ったよな。俺はお前の命を握っているって。その気になれば大赦が行っている生命維持装置を停止させるって言ったよね』
【貴様が操っていた人間はすべて我が浄化した。貴様は手も足も出まい】
『俺が自爆覚悟で大赦に突入して生命維持装置を止めるとは考えなかったのか? 俺はお前の言う通りバーテックスだし、人間より普通に強い。現に今ここにいるんだが?』
【あっ】
沈黙が思考を支配する。
【……話し合おうではないか、天の神の使いよ】
『いや、ないわー』
組織が組織なら崇める神も崇める神過ぎる。
こいつら、本当にそういうとこだぞ!
【another end 大赦無能。神樹無能】
【我がそんなに無能なわけがないだろう! いい加減にしろ!】
その時不思議なことが起こされた!
「はっ、今のは一体!?」
丹羽は白昼夢から目を覚ます。どうやら潜入シュミレーションに没頭しすぎたらしい。
まだ大赦へと潜入していないのに成功したイメージなんて気が早すぎる。反省しなければ。
とりあえずセッカを先行させて大赦施設の警備の様子をうかがおうとすると複数の気配が自分のいる場所に向かって近づいてくるのが分かった。
「いたか!?」
「いや、見当たらない。巫女の神託によればすぐ近くにいるはずだ!」
「探せ! なんとしても丹羽明吾なる存在を神樹様の元へ近づけさせるわけにはいかん!」
荒々しい足音と共に丹羽と人型バーテックスが開発に協力した対バーテックス用の武器を装備した大赦仮面がこちらに向かってきている。
あれは、まずい。星座級の巨大バーテックス用のメタ性能を追求した武器だが、普通に丹羽にも効く。
まさか自分が開発を手伝った武器に追い込まれるとは。
それに大赦仮面が言っていた神託とはどういうことだ? 神樹が丹羽のいる場所を把握しているということだろうか?
20人は超える大赦仮面はまだ丹羽を探している。とっさに地上からは死角である高い建物へ飛び移って隠れることができたが、見つかるのは時間の問題かも……。
「あ」
丹羽の目の前をドローンが飛んでいた。カメラにばっちり姿が映っている。
そういえば今は神歴。西暦のころは珍しかったドローンも今は珍しくない。
西暦から何百年も経っているのだ。丹羽の知るものよりも精度はよく、実用的になっているのも当然だろう。
「くそっ」
丹羽は目の前を飛ぶドローンを破壊すると転進し、この場を後にする。
「いたぞ! そこのマンションだ!」
「逃がすな! 人類の仇敵だ!」
と同時に下で大赦仮面たちが叫ぶのが聞こえてきた。
いつもは無能なのに、今回はずいぶん有能だ。これが本気を出した大赦か。
とりあえず大赦潜入はあきらめた方が賢明だ。できないことはないがせっかく真人間になった大赦職員を殺すのは忍びない。
とにかく逃げなければと屋根の上を走り、あるいはマンションの屋上から飛び移りながら安全な潜伏先を探す。
が、そんな場所はどこにもない。四国に大赦の手が及んでいない場所などないし、たとえ他県に逃げても見つかるのは時間の問題だ。
となると潜伏するなら人間がまずいけない場所。行こうと思っても躊躇するような場所がベストか。
そんな都合のいい場所なんて……あった。
丹羽は跳躍し、その場所を目指す。
目指すは壁の外。人類が生存できない、強化版人間型星屑である自分だけが無事でいられる場所だった。
神樹の結界を越え赤一色の世界にたどり着くと丹羽はようやく人心地着く。
危なかった。本気を出した大赦がここまで厄介な存在だったとは。
最初は数十人だった丹羽追跡部隊も移動して時間が経つにつれ増えていき、いつの間にか100を超える数になっていた。
開発に協力した対バーテックス用の武器もバンバン使ってきて結構ピンチに陥ることも1度や2度ではない。特に双子座用に開発した拘束ネットを射出された時は本気で焦った。
あれにつかまれば丹羽も完全にお手上げだ。動けなくなったところを囲まれ対バーテックス用の武器で襲われれば命はなかっただろう。
しかもドローンがどこに逃げても追ってきて破壊してもすぐ沸いてくる。結局壁の外に逃げ出したのも大赦に知られてしまったに違いない。
どうやら四国に戻ることはできそうにないなと丹羽は嘆息する。バーテックスなのでその気になれば食事は必要ないし、何日でもここにいられるからだ。
あとは双子座の襲撃とレオ・スタークラスター戦まで壁の外で息を殺して待つだけ。多少退屈だが仕方ない。
スマホを広げればそろそろ昼時だ。勇者部の皆は今お昼休憩中だろうか?
今日は始業式で一般生徒はすぐ帰るが、部活をやっている生徒の助っ人の依頼が入っていたはずだ。そのミーティングを兼ねて勇者部の皆は昼食を食べているに違いない。
ああ、風先輩のお弁当が恋しいなと思う。夏休みが終わる前、「パンだけの食事なんて許さない」とこれからも弁当を作ってきてくれると言っていたが、多分そんなものはないだろう。
なぜなら勇者部の皆の記憶からは自分の存在など消滅しているからだ。
「こういうの、マンガだとどうなるんだっけ?」
自分の中にあるサブカル知識からその情報を検索する。
確かこういう時にありがちなのは「俺のこと憶えてないのかよ?」と仲の良かった人間に問いかけて回り、トラブルに巻き込まれたり嫌われたりするのがお約束だ。
その際良かれと思って行った行動も裏目に出て結局主人公は孤独となる。
自分のことを思い出してくれる存在。あるいは自分のことを憶えてくれる存在が出てくるまで受難は続く。
たしかそういうのがテンプレだったはず。
「だったら自分は勇者部のみんなと接触しない方がいいか」
自分で言ったはずの言葉なのに、なぜか急に胸が締め付けられるような痛みを感じた。
胸に手を当て、こんなのはまやかしだと言い聞かせる。
だって自分はただの人形で、人型バーテックスの代わりに四国へ潜入して勇者部の皆を近くで助けていただけだ。
たまたま彼女たちが警戒しない人間の姿なだけで、アタッカやカデンツァなどのゆゆゆいバーテックスと何も変わらない。
しょせん人型バーテックスに作られた人形に過ぎないのだ。
だからこんな感情を持つなんて、おかしい。この感情は人型バーテックスの物で、丹羽明吾という人形の気持ちでは決してあり得ない。
「そうだよ。俺はしょせん……っ!?」
殺気に気付き飛びのくと今まで自分がいた灼熱の大地に2つの小太刀が突き刺さるのは同時。
そうだ。記憶を操作されて存在を消滅させられた人間のテンプレ展開がもう1つある。
それは信頼しあっていた仲間だったはずの人間との避けられない戦闘。
「ここであなたが来るんですか。三好先輩」
自分に向けて明確な殺意を向けてくる赤い勇者服のツインテールの少女に、丹羽はうめくようにつぶやく。
「神樹様に仇なす人類の仇敵! この完成型勇者があんたをぶっ倒してやるわよ!」
2振りの刀を構えて自分をにらみつける三好夏凜を見て、この状況を見て神樹はおそらく嗤っているのだろうと思った。
好きを貫くことが性癖である限り、嗜好とそれを超える尊さもまた争いの中にある。
全てが愛に満ちた優しい世界を目指して、僕たちは無償の愛を与え続けた。
それがいつ誰かに壊されるかという、可能性から目を背けながら。
丹羽君は初期設定だと人型のバーテックスが視界を共有して操っていましたが四国で生活するうちに自我を獲得した感じです。
これは人型のバーテックスも予想をしていなかったことで、もう1人の自分として彼の存在を認め、四国と勇者部の皆を任せて新天地に移り住みました。
一方丹羽君はあくまで自分が人型のバーテックスが作った道具の1つであり、自我を持つこと事態がおかしいとすら考えています。
大赦の人間をバーテックス人間にして真人間化したのも、勇者たちのメンタルケアしたのも、バーテックスを共闘して倒したのも自分がそのために作られた道具であり、人型のバーテックスの指示でそれを行っていると思っていました。
それに人型のバーテックスは百合男子としての矜持を教え、無償の愛を勇者たちに注ぐように諭したわけですね。
現在は勇者部の皆に忘れられてショックを受けたことで、無意識に自分の中に芽生えていた自我に気付いて戸惑い、必死に否定している感じです。
さて、感情と自我を持った人外は人間たりえるのか? 専門家の方にいらしていただきました。
仮面ライダーサソード「人間の姿をしていても、ワームは敵だ!」
仮面ライダー滅「アークの意志により人類は滅ぼす」
仮面ライダー迅「ヒューマギア解放のために人類は滅ぼす」
あれ? ゲストとして呼んでいたモグラ怪人さんとロイミュード072さんは?