詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
 神樹様の強制散華により勇者部を含む四国の人間から丹羽明吾に関する記憶、消える。
 一方こんなところにも影響が。
園子「誤眠ワニさんの投稿小説が全部消えてるー!」
百合好き「マリみて最後まで読んでないのにページがねえ!?」
百合作家「俺の投降したゆるゆり2次ssが掲示板から勝手に消されてる!?」
百合絵師「私がpix〇vに投稿した絵(丹羽の書いた百合小説のキャラ)の大半が消えてる!?」
百合系コミケ運営委員会「参加していたはずの大手作家さんの新作が全部消えてる!?」
みんな「だれだ、こんなことをやった奴は!? 絶対に許さない!」
神樹「なんか寒気が…」
 神樹様が四国中の百合好きを敵に回した歴史的瞬間である。


雪は溶けて花は散る

 四国の壁の外。赤一色の世界。

 本来人間は生きていけない灼熱の世界に、剣戟が響く。

「シッ!」

 三好夏凛の繰り出す2振りの刀による息をつかせぬ連続攻撃に、槍を手にもつ丹羽は防戦一方だ。

 今回は夏合宿の時や夏休みに行っていた夏凛との戦闘訓練とは違う。勇者の武器を使った実戦。

 一撃一撃が致命傷になりかねない真剣勝負だった。

 ここまで丹羽が夏凛の攻撃に対応できたのは夏休みの間夏凛と対人戦闘訓練していたというのが大きい。もしそれをさぼっていたなら最初の数撃の打ち合いで勝負は決まっていただろう。

 なにしろ自分は人間の姿をしているとはいえ星屑。勇者の武器は特攻でかすり傷でも致命傷になりかねない。

 人型のバーテックスなら耐えられるダメージも丹羽が耐えられるという確証は一切ないのだ。

 それともう1つ、丹羽が防戦一方なのは理由があった。

「このっ、いい加減にっ! しろぉおおお!」

 一向に反撃してこない丹羽に焦れた夏凜がさらにギアを上げる。

 丹羽明吾は彼女たちを傷つけることができない。それはかつて人型のバーテックスが乃木園子の攻撃を一切反撃せず受けたのと同じ理由だ。

 自分は、いや自分たちは勇者の少女を傷つけることはしない。それは信念であり矜持だ。

 そのために命を落としたとしても、悔いはない。

 もっともこの命、そう簡単に落とすわけにはいかない理由もあるのだが。

 1つは神樹にとらわれた三ノ輪銀の魂を解放させ、肉体に戻すため。

 現在四国内に入れるのは自分だけだ。神樹と交渉できるのは自分しかいない。

 失敗した結果、勇者部の皆に忘れられて現在夏凜に追われているわけだが、再チャレンジして今度こそ成功させるには神樹を屈服させるための切り札(交渉カード)が必要だ。

 もう1つは次の双子座の襲撃と最終決戦のレオ・スタークラスター戦。それが終わるまで自分は死ぬわけにはいかない。

 だから、逃げる。

「あっ、こら! 待ちなさいよ!」

 攻撃が止む一瞬の隙を突き丹羽は四国から離れ灼熱の大地を駆け抜けた。

 スタミナ勝負ならこちらに分がある。勇者システムで全ステータスが底上げされているとはいえ、所詮は人間。戦えば体力と精神力は摩耗し、疲れる。

 スタミナ無限の強化版人間型星屑である自分の方が有利だ。

 逃げようとする丹羽。追いつき戦う夏凜。打ち合いの末できた一瞬の隙を見逃さずまた逃げる丹羽。

 この繰り返しだ。そろそろ諦めてくれてもいいと思うのだが、さすが完成型勇者というべきか。しつこい。

 気が付けば四国から大分離れている。これ以上は危険だ。

 勇者の章で壁の外へ本格的に進出した勇者部だったがあれは満開状態で短時間だった。もし長時間壁の外にいればどんな影響が身体に起こるかわからない。

「三好先輩、そろそろ諦めて四国へ戻ってくれませんか?」

 無駄だとわかりつつ、丹羽は夏凜に問いかける。

「はっ、冗談! 人類の仇敵の言葉にあたしが従うとでも? 冗談はいつもの――」

 とそこで夏凛は急に動きを止めた。丹羽は困惑した。

 なんだ? 油断を誘うための誘いか? それにしては隙だらけだ。

「三好先輩?」

 心配して思わずいつものように夏凜に近づこうとした丹羽の足を、銃弾が止めた。

「がっ!?」

「っ!?」

「何をしているの! 早く距離をとりなさい三好夏凛!」

 声に飛びのき丹羽との距離をとった夏凛が見たのは、かつて勇者の座を巡って共に切磋琢磨したかつての戦友たち。

「楠芽吹! 加賀城雀、山伏しずく、弥勒夕海子! それにみんな!」

「銃剣隊、構え! 敵は星屑より小型です。よく狙って!」

「うわーん! 今日もデブリを探すだけの安全な任務だと思ってたのにー!」

「神樹様の敵ってことはしずくやオレの敵ってことだよなぁ! ぶっ殺す!」

「夏凜ちゃん、熱くなると周りが見えなくなるのは相変わらずですわね」

 くめゆ組をはじめとする防人隊32人の増援。

 それは勇者である夏凜にとっては心強い味方の登場。

 丹羽にとっては最悪の展開だった。

 

 

 

 いつまでも自分を攻撃しようとしない人類の仇敵に、夏凜は焦れていた。

 こいつ、一体何を考えている? 攻撃しようとしてもすぐ逃げるし、全然反撃しようとしない。

 まるで戦闘の意思がないみたいだ。

 一瞬浮かんだその考えをすぐ否定する。そんなわけはない。

 目の前にいるのは人類の仇敵。見た目こそ人間っぽいが自分の敵に違いない。

 だから、攻撃を苛烈にして追い詰める。だが向こうはそんな夏凜の動きを知り尽くしているかのように攻撃を防ぎ、一瞬の隙を見逃さず逃げの一手で四国の外へ向かっていた。

 これでは相手の思うつぼだ。おそらく向こうは夏凛をどこかに誘導しているのだろう。

 だが、だったらなぜ反撃してこない? 人類の仇敵の癖にフェミニスト気取りなのか?

 だとしたらそれは侮辱だ。この完成型勇者、三好夏凛に対する。

 少なくとも夏凛はそこらの男よりも断然強い自信があった。勇者に変身しなくても剣道有段者を圧倒できるほどの実力があると。

 だからムカムカする。自分相手では本気になれないとでもいうのか?

『いえ、こっちは本気で防御してましたよ。ただ、俺が武器を振るうのはバーテックスを相手した時だけ。人間には振るいません』

 クソ、またか。

 人類の仇敵と打ち合っていると時々頭に浮かんでくる言葉。これが気になってなかなか本調子になれない。

 トップギアになったと思ったらこの言葉が、声が思考に割り込んできて隙を作ってしまう。

 それを敏感に察した敵は逃走し、また追いかけっこだ。これではいつまで経っても決着がつかない。

 第一なんで人類の仇敵が自分の名字を知っているのだ?

 三好先輩とあいつが言うのを夏凜は確かに聞いた。だが夏凜はあいつとは会ったことも言葉を交わしたこともないはず。

 よく似た奴は朝自分のクラスに来て友奈に話しかけていたが髪の色も違うし、まさか同一人物ということはないだろう。どっちにしろ夏凜とは面識がない。

 だから手心を加えられる理由なんて、ないはずなのだ。

「こっのぉおおお!」

 渾身の一撃を相手に見舞う。だが相手は槍でその攻撃を受け流し、夏凜は大きな隙を作ってしまう。

(まずいっ!?)

 反撃が来るととっさに身を固くするが、衝撃は訪れなかった。

 敵は夏凜に隙ができたとみるやすぐに距離をとり逃げようとする。

 今のは夏凜を攻撃する絶好の機会だったはずだ。それをみすみす見逃すなんて…。

(馬鹿にしてっ!)

 夏凜は自分の頭に血が上っていくのを感じた。視野を狭めるよくない傾向だとわかっているが、感情は止められない。

 こうなったら敵の罠だろうが食い破ってやる! 絶対に追い詰め討ち取る!

「三好先輩、そろそろ諦めて四国へ戻ってくれませんか?」

 人類の仇敵がこちらを振り返り、馴れ馴れしく言う。

 冗談じゃない。ここまで追い詰めたのに、どの面下げて帰れっていうのよ。

 そんな冗談はいつもの気持ち悪い顔だけに――。

 

『やはりゆうみもは夫婦』

『丹羽、顔』

『あ、すみません』

 相変わらず変わり身早いわねこいつは。

 

 なんだ今のは。こんなの、あたし知らない…。

「三好先輩?」

 気が付けば人類の仇敵の顔がすぐ近くにあった。

 なによ。なんでそんなに心配そうな顔をしてるのよ。

 人類の敵の癖に、神樹様を脅かすあたしたち勇者の敵の癖に。

 そんな、大切な人を心配するような顔であたしを見るんじゃないわよ!

 怒りに任せ武器を振り下ろそうとしたとき、敵が足を抑えうずくまった。

「何をしているの! 早く距離をとりなさい三好夏凛!」

 声に従い慌てて敵との距離をとると声のした方を見る。

 そこにいたのはかつて勇者の座を巡って共に切磋琢磨した仲間たちがいた。

 防人隊。彼女たちも大赦の命を受け増援に来てくれたのか。

 楠芽吹に助けられたのは正直言って複雑だが、心強い。

 敵は手負いだ。今ならトドメを――

 

「あたし、結局失敗して。みんなの足引っ張って、馬鹿みたい」

『誰もそんなことを思ってませんよ。それにもし今回のことを失敗だと思ったなら、三好先輩は次は同じ失敗しないようにって心構えができたはずです』

 

 なんだ、この記憶は。

 知らない。と夏凛は首を振る。こんな優しい声と言葉なんて、自分は知らない。

 

『だから、同じような失敗をしようとする仲間を見たら止めることができます。それは多分、三好先輩しか気づかないことで、特別なことです』

 

 あたしのことを認めてくれたのは友奈、東郷、風、樹の4人だけ。今は園子も加わって5人に増えたが、讃州中学勇者部の皆だけだ!

 

『すごいですよ三好先輩は。人を助けるための手札を俺なんかよりいっぱい持ってるんです。だから、みんなが困った時にそのカードを切って助けられるのは先輩だけかもしれないですね』

 

 この言葉は多分友奈の…いや、だったらなんで自分のことを俺なんて。先輩ってことは樹? でも彼女はたしか中衛で星屑を倒していたはず。

 いや、そもそもあの戦いで誰が負傷した自分のことを治してくれたんだっけ?

 あれ? あれ? あれ?

 おかしい。記憶のつじつまが合わない。

 何か変だ。忘れている? 何か大切なことを?

「撃てーっ!」

 そんなことを考えていた夏凜が顔を上げると、防人隊の銃剣隊が撃った銃弾が人類の仇敵を襲っていた。

「待っ!?」

 思わず自分の口から出かけた制止の言葉に驚く。なんであたしは人類の仇敵をかばうような言葉を!?

 敵は防人隊の銃撃を手に持った槍で防いでいたが、全部は叩き落とすことができなかったのか銃撃を受けていた。

 見た目は人間なので見ていてつらい。しかも相手はこれまで抵抗らしい抵抗もしていないことが夏凜の心情的に余計にその姿を痛々しく見せていた。

「よし、効いてる。防人隊の武器でも充分ダメージを与えられているみたいね!」

 芽吹の声に防人隊の戦意が上がる。続けて人類の仇敵を狙い撃つ銃弾が放たれた。

 今度は銃撃を叩き落すより回避に専念することにしたらしい。夏凜から離れ別方向へ逃げていく。

「護盾隊、展開! 準備して! 雀、皆、いけるわね!?」

「無理無理無理無理! みんな、できないよね? ね?」

「できます!」

「いやー!? なんていい返事ー!? ちくしょーやってやるぜー」

 なにをするつもりだ? 夏凜が思っていると銃剣隊の放つ攻撃に人類の仇敵がある方向に誘導されているのが分かった。

「今っ!」

「うおりゃぁあああ!」

 芽吹の号令と共に加賀城雀を始めとする護盾隊が盾を構え突撃する。いわゆるシールドバッシュというやつだ。

 これは相手が人間サイズだからできる芸当だろう。巨大バーテックス相手なら押し負けていた。

 しかし報告によれば加賀城雀は蠍座もどきもこれで攻撃をしのぎ活路を開いたらしい。となるとなかなか有効な戦術のようだ。

「三好夏凜!」

「っ、わかってるわよ楠芽吹!」

 芽吹の声に夏凛はすぐさま意図を見抜き、刀を両手に持ち人類の仇敵に向かう。

 頭の中に引っかかることは後回しだ。今はまず目の前の敵を殲滅を優先!

「行くぜ行くぜ行くぜぇ!」

「今こそ訓練の成果を生かす時ですわよ、皆様方!」

 シズクと夕海子を先頭に銃剣隊が人類の仇敵に接近する。

 盾による面の攻撃の後銃剣による点の攻撃。いい戦略とそれを可能にするチームワーク。

 楠芽吹は夏凜が思った以上に優秀なリーダーらしい。

 銃を撃ちながら接近する銃剣隊の間に人類の仇敵は虚空から槍を射出させ、大地に突き刺し盾にする。

 それこそ芽吹の計算通り。今人類の仇敵は全面の防人隊に集中していて背後から迫る夏凛に気づいていない。

 獲った!

『危ないご主人!』

 えっ、と夏凛は目の前に飛び出してきた眼鏡をかけた人型の精霊を見つめる。

 白いふわふわした髪。『夏凜は特別だよ』と何度か触らせてもらった。

 オシャレに詳しくて、時々勇者部でファッション雑誌を広げていると寄ってきて『これなんか夏凜に似合うと思うにゃー』とオススメされた服は今も持っていて夏凛のお気に入りだ。

 眼鏡にうっかり触ってしまった時はすっごく怒って、『今日は髪触らせてあげない!』ってスネたことがあったっけ。

 走馬灯のようにその精霊との思い出が夏凛の脳内で再生されていく。

 ダメだ。この子を攻撃するのは絶対ダメだ!

 必死に脳が命令するが、身体は急に止まらない。

 人類の仇敵に向けた必殺の攻撃は、突如飛び出してきた人型のメガネの精霊が身を挺して宿主を守ることで阻止されてしまった。

「セッカさん!」

 人類の仇敵が何か言っている。夏凜は呆然と自分の両手に構えた武器を見た。

 紫色の体液が刀を濡らしている。自分があの精霊を斬った証拠だ。

 

『いやー、部活サボって訓練とは夏凛はまじめだにゃー』

『セッカだって。自己紹介したじゃんか。それよりいいの? みんな夏凛を待ってるよ』

『いやいや、それが約束ぶっちしていい理由にはならないでしょ。夏凛だってそれはわかってるでしょ』

『そのみんなって誰さ? 勇者部のみんな? お兄さん? それとも大赦の大人たち?』

『馬鹿みたい』

『ともかく、誰かに認めてもらいたいから戦うなんて命を縮める理由にはなっても生き残る理由にはならんのだよ。これ、人生の大先輩からの金言』

『お、ツッコミが戻って来たね。さすが完成型ツッコミ勇者』

『まあ、私から言えるのは肩の力を抜いてほどほどに頑張りなさいってことよ。夏凛には5人も仲間がいる。私みたいに1人で頑張らなきゃいけないってわけでもないんだからもっと頼って頼って』

『ね。みんな夏凛のこと大好きな奴らしかいないのよ』

『大丈夫。みんないい子だから夏凛が心配することにはならないよ』

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 突如響いた夏凜の慟哭に、防人隊は驚愕する。

 どうしたんだろう。もしかして人類の仇敵に返り討ちにあったのか?

 逸る気持ちを抑えながら槍の盾を突破した防人隊が見たのは、傷ついた白髪で眼鏡をかけた精霊を抱き起こす夏凜だった。

「セッカ、ごめん。ごめん、あたし」

『ごほっ、か…りんは、忘れんぼさんだ…にゃー。ご主人のこと忘れるなんて……でも、私のこと憶えててくれて、ちょっと嬉しい…ごほっごほ』

「しゃべらないで! ねえ、丹羽! この子を…セッカを早く助けて!」

 夏凛の言葉にセッカに近づいた人類の仇敵…丹羽明吾は傷の具合を確かめる。

 傷は…深い。自分の中に戻しても完全回復するのはどれくらいかかるか。いやひょっとしたらもう。

「こんな…あたしが、あたしのせいでセッカが」

『はは、気にすることないよ、夏凜』

 涙を浮かべる夏凛に、セッカは微笑む。

『心配しなくても、私にはすぐ会えるから……だから、その時は優しくしてやって。自分でいうのもなんだけど、面倒くさい奴だから』

「セッカ、どういうこと⁉」

『ご主人。呼んでくれてありがとう。あの世界に来る前の夏凜や勇者部の皆と会えて楽しかったよ』

「セッカさん、諦めないで! 早く俺の中に!」

『夏凜、少しの間だったけど、私と会う前の夏凜に会えて楽しかったよ。じゃあね』

「セッカ⁉」

 セッカの身体が光の粒子になって消え始めた。このままだと、その名前のように本当に消えてしまうだろう。

「そんなこと、俺がさせない!」

 丹羽はセッカを無理やり自分の中に入れて自分を存在させるための星屑の質量を注ぐイメージをする。

 彼女が消える世界なんて許さない。

 ましてや、仲の良かった夏凛によって消滅してしまう物語なんか、俺は絶対認めない!

「ぐっ?!」

 自分の質量と神樹の体液が急速に失われていくのがわかる。力が抜け、身体がグズグズに溶けていくあの感覚だ。

 だから何だ。と丹羽は心の中で叫ぶ。

 目の前の少女の笑顔すら守れないで、何が物語を変えるだ。残酷な結末を変えるだ!

 三好夏凛という少女が悲しむ世界も、精霊のセッカが消滅する世界も。

 丹羽明吾という勇者は否定してみせる!

 決意した丹羽の身体に光があふれ、白い勇者服から紫色のラインが消えていく。

「あ、ああ……」

 その姿に夏凜の身体から力が抜ける。

「そんな、セッカ……あたし、取り返しのつかないことを」

「大丈夫ですよ、三好先輩」

 崩れ落ちた夏凜を助け起こし、丹羽が自分の胸に手を当て言う。

「セッカさんはここにいます」

「本当?」

 夏凜の顔は涙でぐしゃぐしゃだ。そんなに大切に思っていたんだなと丹羽は2人の関係を尊く思う。

「はい、ギリギリでしたけど命はつなぎました。出てくるのには時間がかかるかもしれませんけど」

「よかった。本当に…よかった」

 夏凜の頬から落ちた涙が灼熱の大地に落ち蒸発する。

 事故とはいえ夏凜に相当な心の傷を作らせてしまった。急いでメンタルのケアをしたいがそうもいかない。

 夏凜の姿に困惑しつつも銃剣の照準を丹羽に向け外さない防人隊と、自分を見つめる冷たい瞳の防人隊隊長の楠芽吹を丹羽は見返す。

「三好夏凛、これはどういう状況? 説明しなさい」

 声はどこまでも冷たかった。

「貴女は勇者でしょう! 私や皆に勝って選ばれた最強の勇者なんでしょう⁉ それなのに、どうして」

 どうして絶好の機会に人類の仇敵を倒さなかったのか。

 言外の言葉に、しかし夏凛は動かない。それに芽吹は奥歯をぎりりと音が鳴るまで噛む。

 戦闘中なのに子供のように泣いているかつての好敵手を軽蔑しているのかもしれない。丹羽がそう思っているとそんな考えを追い出すかのように芽吹は首を振る。

「もういい。銃剣隊、構え! 人類の仇敵を掃討します」

 芽吹きの言葉に銃剣隊が一斉に丹羽に向けた銃の引き金に手をかけた。

 

 

 

「なんのつもり、三好夏凛」

「撃て」という号令を止めたのは人類の仇敵を守るように両手を広げた夏凜だ。

「楠芽吹、聞いて。こいつは敵じゃない」

 その言葉に何を馬鹿な…と芽吹は息をつく。

「大赦から連絡が来たでしょう。そいつは人の姿をしているけど、人類の仇敵よ。神樹様が巫女に神託をくだした、四国の平和を脅かす敵よ」

「違う! こいつは…丹羽はそんなんじゃない!」

 夏凛の言葉に芽吹は反応する。

「貴女、そいつと知り合いだったの? かばうなら今までどうして攻撃をしていたの」

「そんなの、わからない! でも、今思い出したの! こいつはあたしたちと一緒に戦った勇者で、絶対四国の平和を脅かす敵なんかじゃない!」

 夏凛の言葉に人類の仇敵は驚いた顔をしていた。

 おそらく演技だろう。芽吹たちが槍の盾で視界を塞がれた瞬間夏凜を洗脳したに違いない。

「三好夏凛、貴女はその人類の仇敵に騙されているのよ。今ならまだ間に合う。そこをどきなさい」

「どかない! 芽吹、話を聞いて! みんなも!」

 夏凛の言葉に防人隊の何人かに動揺が走るのが分かった。

 いけない。これはよくない流れだと芽吹は夏凜の足元に向けて銃弾を撃つ。

「っ!?」

「どきなさい。次は足に当てるわ」

「どかない!」

 宣言通り、夏凜の足を狙い撃つ。

「くぅっ⁉」

「三好先輩!」

「どきなさい。三好夏凛。次は反対の足を狙うわよ」

 頼むからどいてくれと芽吹は祈る。自分だってこんなことをしたいわけじゃない。

 だが三好夏凛はうずくまった体勢から立ち上がり、再び人類の仇敵の前に立ちはだかる。

「どいて…お願いだからどいてよ! これ以上私に貴女を撃たせないで!」

「どかない! 今度こそ、あたしは間違わない!」

「三好先輩」

 なにが彼女をそこまでさせるのか。やはりあの人類の仇敵に洗脳されてしまったのか。

 やむを得ない。

「人類の仇敵、聞きなさい。もしこれ以上三好夏凛が傷つく姿を見たくないのなら、こちらに投降しなさい」

「なっ⁉」

 夏凜は驚いているが、人類の仇敵はまずい事態になったとさぞ焦っていることだろう。

 なにしろここで自分が出ていけば夏凜を盾にした意味がないし、逆にこのままでいれば夏凜がこの状況はおかしいと正気を取り戻すだろう。

 悪役みたいな台詞で嫌だが、これなら夏凜も正気に戻るはず。

「わかりました」

「ちょ、丹羽⁉」

「その代わり、三好先輩に危害は加えないでくださいね」

 なるほど、そう来たか。

 夏凜の性格ならそれが正解だ。どうあっても投降しようとする人類の仇敵を守ろうとするだろう。

 だったら、こうするまでだ。

 間抜けにも芽吹が言った通り両手を上げて投降しようとした人類の仇敵に、芽吹はハンドサインで銃剣隊に指示を出す。

 目標に照準を合わせ、自分が指示したら撃て、と。

 一歩一歩近づいてくる人類の仇敵に、芽吹は知らず固い唾を飲む。タイミングがずれればすべてが台無しだ。

 よし、今――っ⁉

 突然自分に向かい走り出した人類の仇敵に、ついに正体を現したかと声を上げる。

「全員、撃」

「危ない、メブ!」

 雀の悲鳴が耳に入るのと、そいつの存在に気づいたのは同時だった。

 灼熱の大地から不意打ちで突撃してきた巨大バーテックス、魚座もどき。

 樹海や大地を潜る能力でここまで接近するのに気付かなかったのだ。

 四国から離れた場所であることを失念していた。敵は人類の仇敵だけではなかった。

 ダメだ。間に合わない。浮上する魚座もどきの白い頭部が見える。

 防人のスーツは勇者のように身体機能が上昇するような効果はない。大型バーテックスに攻撃されれば、それは死に直結する。

 自分の判断ミスだ。人類の仇敵と三好夏凛に気を取られすぎてバーテックスの存在を失念していた。

 こうなったのは自業自得だが、せめて皆は絶対生きて帰らせると指示を伝えようとしたその時。

「えっ?」

 人類の仇敵が、自分を突き飛ばした。

 その結果、浮上する魚座もどきの攻撃をもろに受け吹っ飛ばされている。

 なんだ? なにが起こった?

 楠芽吹は混乱する。なぜ今まで敵対していた人類の仇敵が自分を助けるようなことをしたのか。

 なぜ三好夏凛を洗脳した悪い敵が善人みたいなことをしたのか?

 わからない。なにもわからない。

「楠芽吹!」

 呆然としていた芽吹は夏凛の叫びに正気に戻った。

 まずはこの状況を解決しなければ。

「護盾隊、展開! 銃剣隊は集合し発砲準備! 目標は魚座もどき!」

 芽吹の号令にすぐさま防人隊は陣形を組み直す。

 突然の敵に動揺していても反応できる。これも日ごろの訓練のたまものだ。

「丹羽、これを!」

 夏凜が吹っ飛ばされて倒れている人類の仇敵に向けて自分の武器を投げるのが見えた。こんな時に何を⁉

 それにそれを投げるならそいつにじゃなくて私にでしょうと内心で憤慨する。

 動揺するが今は目の前の敵を倒すのが先決。

「地面に潜る前にケリをつける! みんな、ありったけの銃弾を撃ち込んで!」

 空中に浮くヘルメットから長いマフラーのような水色の3本のしっぽと2本の青い触手を持った敵が地面に潜航するタイミングを狙うため、芽吹は号令を発す。

「撃てーっ!」

 芽吹の号令と共に銃剣隊の銃が火を噴く。

 狙い違わず白いヘルメット部分に集中射撃が成功し、地面に潜らせずに動きを止めることに成功する。

 あとは銃剣の槍でとどめを刺せば。突撃の命令を出そうとした芽吹たち防人組の上を、何かが飛んで行った。

「完成型勇者の切れ味をくらえぇえええ!」

 それは人類の仇敵だった。夏凜が投げて渡した武器を取り、魚座もどきに襲い掛かっている。

 ちょっと待てと芽吹は混乱した。さっきあいつは魚座もどきの攻撃を受けて吹っ飛ばされたはず。

 いくら勇者の偽物とはいえ、ノーダメージとはいかないはずだ。それなのに、なぜ?

 いや、それ以前になぜ動けたなら逃げ出さなかったのか? 敵ならば自分の命を奪おうとした防人隊と魚座もどきが戦っている間にこれ幸いと逃げるはずだ。

 それになぜ夏凜の武器をとったのなら防人隊ではなく魚座もどきに向かったのか。人類の敵ならバーテックスと共闘してもおかしくないが、自分を殺そうとした防人隊と共闘するなんてありえない。

 そんなあり得ない存在の攻撃に、魚座もどきは撃沈していた。その姿を防人隊は呆然と見るしかない。

「ありがとうございました。三好先輩。おかげでみんな助かりましたよ」

「いいから丹羽、逃げなさい。ここはあたしが芽吹たちを抑えるから!」

 律義に夏凛に武器を返し、お礼を言っている人類の敵に夏凜が逃げるように言っていた。

「それはもう、無理っぽいですね。だって」

 人類の敵の視線を追うと、そこにいた人物の姿に夏凜は身を固くする。

 そこにいたのは人類最強の勇者。白い勇者服を着て武器である槍を持った乃木園子の姿だった。




 雪と花の名を持つ少女。それが1つ目の対話の代償だった。
 君は知るだろう。
 対話も戦いも、代償は付きまとう。
 果たしてその代償は取り戻したものと等価なのか。
 それがこの物語の変わらぬ問いかけであり
 答えは自らの選択 そのものだということを。

ピスケスもどき「寄ってたかって弱いものいじめとは感心しないな」
 第3勢力として割って入るピスケスもどきさんマジ敵役の鑑。
ピスケス「え、なんで御霊有りの俺がもう出番なくてもどきの方が活躍してんの?」

 ちなみにダイスの出目次第では今回セッカは夏凜の手で消滅します。その場合夏凜ちゃんは最終決戦まで曇ったままで戦力になりません。
 書いててあまりにも救いようがなくてせっかりん好きには胃が痛い展開だったので生存ルートにしました。
 ファフナーのデスポエムは改変しやすくていいなぁ。
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