詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
 丹羽君vs三好夏凛&防人隊。夢のタッグ戦。
 百合の間に挟まった報いを受ける丹羽君。
ピスケスもどき「ここか、祭りの場所は」
丹羽「うぉおおお! 王蛇専用ガードベントー!」
芽吹「えっ、なんで自分から突撃するバーテックスに飛び込んでいくの?(困惑)」
丹羽「俺はただ、百合イチャを近くで見て幸せになりたかった」
夏凜「台詞はインペラーだけどやってることはタイガの最期なのよねあんた」



全部神樹様のおかげじゃないか!

 9月2日。東郷美森は2学期初めて学校に登校した。

 前日高熱を出し、大赦が所有する病院で精密検査を受けていたのだ。

 結果は問題なし。いたって健康体と診断され即日帰ってもよいとのことだった。

 もっとも救急車で運ばれていた時にはもう快方に向かっていたと東郷家のお手伝いさんも言っていたことから、大赦が気を回しすぎたということもある。

 あの日、東郷は神託を受けた。

 いや、あれは本当に神託だったのか。今となっては疑わしい。

 なにしろ自分を神樹だと名乗るそいつはこともあろうに自分の仲間であり部活の後輩でもある丹羽明吾を人類の敵と名指しし、滅ぼすべしと宣言したのだ。

 当然承服できず東郷はその自称神樹に反論した。丹羽君は立派に勇者としてお役目を果たし、四国を守ってくれていると。

 帰って来たのは【不遜である】という重々しい声だった。

 気が付けば身体が燃えるように熱くなっていた。まるで骨の代わりに灼けた鉄骨を身体に入れられたような熱さだったと今になって思う。

 娘の急な発熱に東郷家は上へ下への大騒ぎとなり、大赦に連絡し、救急車を手配するまで話が大きくなってしまったのだ。

 その熱もある瞬間急に落ち着き楽になった。まるで自分の中に巣食っていた悪いものが全部追い出されたように体調がよくなったのだ。

 あれは何だったのか。東郷の推測としては神樹様を騙るバーテックスが勇者である自分に向けて精神攻撃をしてきたのかもしれない。

 身体が楽になったあの時、意識はおぼろげだったが部屋に誰かいたような…。

 そんなことを考えながら授業を受け、昼休み。東郷は同じクラスの友奈と共に部室に入る。

「結城友奈、東郷美森、入りまーす」

「こんにちは、風先輩。樹ちゃん」

「おー、東郷! 熱はもういいの?」

「東郷さん、体調はもういいんですか?」

 同じ部活の仲間である風と樹が東郷の体調を心配してくれる。

「大丈夫。もうすっかり元気よ」

「変な風邪が流行ってるのかしらねー。今日は夏凜と乃木が休みだし」

 風の言葉にもう1人の2年生部員を思い浮かべる。

 登校すると夏凜は席にいなかった。

 東郷も今日友奈から聞いて知ったのだが昨日園子が同じクラスに転入してきたらしい。

 彼女の姿も教室にはない。転入してきたのなら一言くらい自分に連絡して欲しかったと思う。

「もう、おねえちゃん! 夏凜さんと園子さんは大赦のお役目でしょ」

 姉の言葉を妹の樹が訂正する。「おっとそうだったわね」と風は頭をかいた。

「お役目?」

「うん。昨日夏凜ちゃんにだけ大赦から連絡があって。その後そのちゃんも急いで出て行って帰ってこなかったし、同じ連絡がいったんじゃないかな?」

 東郷の疑問に友奈が答える。その言葉に東郷は首を傾げた。

 おかしい。どこか他人事のように言っている。

 目の前の少女は友達や仲間がそんな事態に巻き込まれたらそれを良しとせず自分から困難に乗り込むような子だ。それは東郷が1番よく知っている。

 なぜ夏凜を1人で行かせたのか。自分の知っている友奈なら無理やりにでも一緒についていこうとしたはずだ。

「友奈ちゃん、どうしたの?」

「え? なにが?」

 だが目の前の少女は何事もなかったように首をかしげている。

 見た限りでは東郷の知るいつもの友奈だ。おかしいと思ったのは気のせいだったのだろうか?

 それとは別に東郷にはもう1つ気になることがあった。

「ねえ、樹ちゃん。丹羽君は今日は来ていないの?」

 そう。樹と同じクラスである1年生の男子部員、丹羽明吾の姿が部室にないこと。

 最初は別件で席を外しているのかと思ったが、風と樹がそのことに言及しないことはおかしい。

 ひょっとして以前のように友奈と東郷の百合イチャを授業中に録画して教師に怒られているのかもしれないが。

 そう思っていた東郷は、風の言葉に面食らった。

「え、ニワクン? 誰それ? 東郷の知り合い?」

「えっ」

 風の言葉が信じられずに困惑していると、続いて友奈も言う。

「そのちゃんも昨日言ってたよね。にわみんがどうとかって。その人と同じなのかな?」

「あれは園子さんの夢の話って結論が出たじゃないですか」

 うーんと宙を見つめ昨日のことを思い出している友奈に、にこやかに樹が言う。

「そうよね。だってアタシたち勇者部は5人で、昨日入部した園子を入れて6人。男子部員がいた事実なんてないんだから」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 断言された言葉を看過できず、東郷は待ったをかける。

「丹羽君ですよ。丹羽明吾君。樹ちゃんと同じクラスで、夏休みまで風先輩たちの隣の部屋で生活していた」

「え、何言ってんの東郷」

「うちのお隣はずっと空室ですよ」

 きょとんとする犬吠埼姉妹に、彼女たちは嘘をついているわけではないのだと東郷は理解する。

 おかしい。何かおかしい。

「友奈ちゃん! 友奈ちゃんは憶えているわよね?」

「えっと…ごめん。そのちゃんにも言ったんだけど、わからないかな」

 そんな…と東郷は困惑する。一体みんなどうしてしまったんだろう。

「丹羽君ですよ! 私と友奈ちゃんを乙女座の爆風から助けて、私に向かって突撃してきたバーテックスから助けてくれた!」

「何言ってるのよ。最初の戦いのときは今いる4人(・・・・・)しかいなかったじゃない」

 必死に訴える東郷に、風が言う。

「それに東郷先輩に突撃してきたバーテックスなんていませんでしたよ」

「そうだよ。あの時は私たち3人で乙女座を倒して、それで終わりだったじゃない」

 風の言葉を肯定する樹に、それに同意する友奈。

「そんな…じゃあ、その後大赦から来た人に私も含めて4人で戦ったって言ってくれたのは誰? 丹羽君でしょ!?」

「そんな人来なかったよ? どうしたの東郷さん」

「あの後すぐ部室に戻ってアタシがバーテックスに対する説明をしたんじゃない」

 東郷にとって自分の気持ちを救ってくれた言葉も、目の前の3人の記憶からはなかったこと(・・・・・・)になっていた。

「じゃあ、その次の3体同時に巨大バーテックスが襲ってきた時に蠍座を倒したのは」

「あれは東郷先輩が神樹様の神託を戦闘中に受けてくれたおかげで助かったんですよね」

 樹の言葉に、東郷は「えっ?」と困惑する。

「そうねー。神樹様が蟹座と射手座がコンビで戦う奴らって教えてくれなかったら危なかったわ」

「そうですね! さすが神樹様!」

 笑顔で言う風と友奈に東郷は心の中で否定する。

 違う。おかしい。あれは丹羽君が立てた作戦でまず蠍座を倒した後、風と丹羽の2人とで挟み撃ちにした戦いだったはず。

 それに東郷はいままで戦闘中に神託を受けたことなど1度もない。

「樹ちゃん。今年の風先輩の誕生日、サプライズパーティーをしたわよね」

「はい。もちろん」

「楽しかったよねー」

「その時、会場の準備をしている間に風先輩を連れ出して時間稼ぎをしてくれたのは誰?」

 東郷の言葉に樹はキョトンとする。

「え、忘れちゃったんですか東郷先輩。なんだかさっきから変ですよ?」

「そうよ。アンタらが姉妹水入らずのデートをセッティングしてくれたんじゃない」

 樹を抱き寄せる風に、樹が「やめてよー」と照れている。

「おかげですっごい楽しい誕生日だったわ! 本当に感謝!」

「全員プレゼントがおうどんだった時は焦ったけどねー」

 その時のことを思い出したのか友奈が笑う。

 違う。誕生日に風とデートしたのは丹羽のはずだ。樹は自分と一緒にケーキを作っていた。

「樹ちゃん。風先輩のケーキ、一緒に作ったわよね?」

「はい。もちろん! 東郷先輩に手伝ってもらって…あれ?」

 樹も違和感に気づいたみたいだ。

「そうそう。結局映画が終わって早々風先輩が帰ってきちゃってバレちゃったんだよね。で、風先輩と東郷さんで樹ちゃんの初めてのケーキ作りを手伝ったんだよ」

 友奈の言葉に、樹は「そういえばそうかも?」と納得する。

「あれはいい思い出だったわ。妹の成長が感じられて、アタシは涙が止まらなかった」

「もう、お姉ちゃんってばー」

 違う。樹のケーキ作りは失敗続きで大変だった。

 何度作り直しても予測のつかない失敗で東郷は憔悴し、「これからは一切ケーキなんて作らないぞ」と決意させたほどに。

 どうしてそんな間違った記憶で盛り上がることができるのだろう。

「東郷さん、どうかした? 怖い顔してるよ」

「友奈ちゃん」

 友奈が困惑する東郷を心配そうに見つめていた。

 その表情に偽りはない。本当に自分のことを心配しているのだろう。

「本当に、丹羽君のことを憶えていないの?」

「だから、そんな人知らないよー」

「でも…そうだ、ラインアプリに!」

 どうしてこんな簡単なことを思いつかなかったんだろう。 

 丹羽のアドレスは東郷が作った勇者部のラインアプリに保存してある。

 大赦からもらったスマホとは別に東郷は友奈ちゃん写真保存用として以前使っていたスマホを常備していた。

 だが、

「そんな!?」

 アドレス帳には丹羽明吾の名前はなかった。

 それどころかやり取りしたはずのメッセージの履歴も消失している。

 ここまでくると本当に自分が妄想から丹羽明吾という存在を生み出したのではないかと思えてきた。

(そんなはずない!)

 東郷はくじけず、この場にいる3人に問いかける。

「みんな、体育祭の時ビデオ撮影してくれたのは誰?」

「東郷さんでしょ? 精霊を使ってカメラ撮影もしてくれるなんて。精霊が3体いる東郷さんにしかできないよね」

 違う。自分はジャンケンに負けて涙を呑んで写真撮影に専念していた。

「樹ちゃんのクッキーが危険だと教えてくれたのは?」

「そんなメッセージあったかしら? でも、かわいい妹が作ってくれたものだから姉であるアタシが責任を取って全部食べたわ」

 違う。風は一口食べて昏倒したから丹羽が残りを全部食べていた。

「猫探しの時、探しに行ったのは本当に3人だけだった?」

「はい。確かその時撮った写真が…ありました!」

 樹が差し出したスマホの写真には猫を抱きかかえる樹とそれを挟むように両側に立つ友奈と風が写っている。

 丹羽の姿は影も形もない。

「夏凜ちゃんが参戦した時、御霊から出た毒ガスに酸素スプレーを渡して苦しむ彼女を助けてくれたのは?」

「アンタでしょ東郷。よくあんなもの持ってるなーってみんな感心してたわよ」

「山羊座もほとんど東郷先輩が倒しちゃいましたしね」

 明るく言う犬吠埼姉妹に東郷は首を振る。

 違う。酸素スプレーを持っていたのは丹羽だ。

 それに毒ガスで姿が見えない山羊座へ攻撃の目印を作ってくれたのは彼だ。でなければ東郷の銃撃も夏凜に当たっていたかもしれない。

「夏凜ちゃんの誕生日プレゼントに何を上げたのか、皆憶えてますか?」

「え、そりゃまあ。そこまでぼけてないわよ」

 と風。友奈が指折り数えだす。

「えっと、風先輩が女子力アップグッズ、樹ちゃんが占いセット。私が押し花手帳で東郷さんが私の写真集だったよね」

「それだけ?」

「え?」

「本当に、それだけ?」

 いつになく真剣な表情の東郷に、友奈は困惑する。

「あっ、友奈さん! アレがあったじゃないですか!」

「そうよ友奈。アレを忘れちゃだめよ!」

「アレ? ……ああ⁉」

 犬吠埼姉妹の言葉にようやく思い出したというような顔をする友奈。

 それに東郷の期待が高まる。

「春信さんのニボシ抱き枕! あれいりこ臭いって夏凜ちゃん文句言ってたのに、ずっと使い続けてるよね!」

 違う、それじゃない!

「夏凜ちゃんをモデルにした…その、百合(小声)小説は誰がプレゼントしたんですか?」

 東郷の言葉に、一瞬全員が黙る。その後笑いが起こった。

「と、東郷。アンタでもそんな冗談言うんだ」

「自作の小説をプレゼントするなんて、それなんて罰ゲームですか」

「そんな人、勇者部にいないよ」

 居たのよ! と東郷は叫びだしたくなる。

 そんな他人が見たら罰ゲームとしか思えないことを平気でやるような変な人間が勇者にいたの!

「じゃあ、7体のバーテックスが襲撃してくるって大赦から連絡がきた時、私たちにバーテックスの攻撃方法や弱点を教えてくれたのは誰なの?」

 東郷の心は折れかけていた。

 ここまで来たら自分が間違っているのではないかと思い始めている。ひょっとしたら高熱を出した時、もう1人勇者部に男子部員がいた夢を見たのではないかと。

「それはもちろん、東郷さんでしょ」

 自分を見つめる純真無垢な親友の瞳に、東郷の心は折れた。

「違うわよ友奈。東郷が神樹様から神託を受けて教えてくれたんでしょ」

「あ、そうだった!」

 笑顔の風と友奈が歪んで見える。涙があふれているのだと東郷は理解した。

「あの時ほど神樹様に感謝したことはなかったですよね! しかも大赦の職員さんたちにも勇者をサポートする武器を作るように神託を下していたなんて」

「本当に、神樹様様よね! って東郷、アンタどうしたの!?」

 口々に神樹様を褒める皆が、泣いている東郷に気づき慌てる。

「どうしたの? どこか痛いの東郷さん?」

「友奈ちゃん」

 そばに来て心配そうに自分を見つめる友奈の腕を取り、必死に東郷は訴える。

「ねえ、みんな。本当に丹羽君のことを憶えていないの? スミちゃんは? ナツメは? セッカは? ウタノとミトは? 全然憶えていないの?」

「ごめん、東郷さんが何を言っているのか全然わからないよ」

 声と態度から嘘を言っていないのはわかる。だって自分は彼女の親友なのだから。

 だからこそ、余計に悔しい。彼のことを憶えているのが自分だけなのが。

「私やそのっちの身体が治ったのはどうして? それだけ聞かせて」

「それは、12体のバーテックスを倒したご褒美に神樹様が」

「違う!」

 東郷は強い否定の言葉を発した。

「散華で失ったこの足を治してくれたのも、そのっちの身体を治してくれたのも! みんな丹羽君のおかげ! 精霊のおかげなのよ! どうしてみんな忘れちゃってるの!?」

「東郷、アンタ一体」

「落ち着いていください、東郷先輩」

「2人もどうして忘れてるんですか。風先輩は毎日丹羽君のお弁当を作って、樹ちゃんは同じクラスで丹羽君と付き合っているって噂されて困っているって相談していたのに!」

 東郷の言葉に犬吠埼姉妹は困惑する。そんなこと言われてもそんな記憶はないからだ。

「私は、彼に命を救われました。友奈ちゃんへの気持ちも偏見なく認めてくれたうえに応援してくれた! それに治らないと思っていた足まで…感謝してもしきれないほどの存在なんです」

「東郷さん」

 泣きじゃくる東郷を、友奈はぎゅっと抱きしめる。

「信じるよ。私は、東郷さんのこと」

「友奈ちゃん?」

 真剣な瞳の友奈を東郷は見る。

 それは決意を固めた少女の瞳だった。

「ちょっと友奈」

「風先輩。昨日のこと、憶えてますか? そのちゃんの言ったこと」

 困惑する風に、友奈が言う。

「えっと、にわみんだっけ? 東郷の言うニワクンと同一人物かもしれないと思ったけど、まだそうと決まったわけじゃ」

「ううん。きっとそうですよ」

 確信をもって、友奈は言った。

「だって、昨日だけ風先輩が朝ごはん4人分作ったり、お弁当3つ作るなんておかしいですもん。やっぱりそのちゃんの言った通り」

「そのっち? そのっちが何か言っていたの?」

 自分が高熱でうなされている間に何があったのだろう? 問いかける東郷に、友奈は優しく微笑む。

「東郷さん。にわ君のことを憶えているのは東郷さんだけじゃなかったみたいだよ」

 魔法みたいだった。

 たった一言。その言葉だけで救われたような気がする。

 よかったと。自分は間違っていなかったんだと。

「風先輩、樹ちゃん。行きましょう!」

「行くって、どこに」

 状況についていけてない風と樹に、友奈は宣言する。

「そのちゃんがいるところに。多分、そのちゃんは東郷さんと同じで私たちの知らないもう1人の勇者部の部員を知っているはずです」

 

 

 

 時間はさかのぼり9月1日。讃州中学2年3組。

「転校生の乃木園子だぜー! 昔は大橋の方でブイブイ言わせてたんよー! どうぞよろしく~」

 大きく乃木園子と書かれた黒板を背に、園子は言う。

 それにホームルームの直後謎の男子生徒が飛び込んできて混乱していたクラスはようやく落ち着いていたのだが、また騒がしくなる。

 なにしろ乃木家といえば四国で知らない人間がいない名家。その1人娘となると話題の人物としては満点だ。

 しかも美少女である。10人いれば10人が振り向くような美少女転校生に男子生徒はもちろん女子生徒も園子の天真爛漫な言動に夢中だった。

 休み時間になるたびにクラスメイトに囲まれ、ついには他のクラスからも人がひっきりなしに訪れ勇者部の友奈と夏凜と話せたのは昼休み。群がる学生を振り切って逃げ込んだ勇者部部室の中だ。

「そのちゃん人気者すぎだよー」

「当然でしょ。園子さ…園子の見た目と話題性ならこれくらい」

「もー、にぼっしー。そんなに褒められたら照れるんよー」

 顔を赤くして照れ照れする園子を、先に部室に来ていた風と樹の犬吠埼姉妹は笑顔で迎える。

「ようこそ乃木。勇者部へ」

「歓迎します、園子さん」

「ふーみん先輩といっつんも昨日ぶり~」

 ぽわぽわした空気を出しながら園子が言う。

 これが人類最強の勇者とは信じられない。と内心思いながら、風は改めて新たに入部した6人目の部員を歓迎する。

「よろしくね、乃木。今日は運動部系の部活の助っ人が入っているから、とりあえず何をするか見てって」

「はーい。お手並み拝見しまーす」

「そのちゃん、私と一緒に回ろうよ! 夏凜ちゃんが活躍しているところ一緒に見よ」

「はいはいくっつかない。それよりまずはお昼ごはんでしょ」

 さっそく距離を詰める攻略王を引きはがし、夏凜は自分の分の弁当を取り出す。

「あれ? 夏凜お弁当持ってきたの? 珍しい」

「珍しくて悪かったわね。新学期になったし、そろそろ自炊を始めようと思ったのよ」

 ほぼ6割冷凍食品の弁当箱を見ながら風が言うと、夏凜がツン多めに言う。

「そっかー。じゃあ、これはアタシが2つ食べるかな」

「どうしたんですか風先輩、そのお弁当?」

「それがですね、友奈さん。今日のお姉ちゃんボケボケなんです」

 弁当箱を2つ出す風に首をかしげる友奈に樹が内緒話をするように言う。

「朝は4人分朝食を作ったり、お弁当も3人分作るし。おかげで朝ごはん食べ過ぎて午前中ちょっとつらかったです」

 樹の言葉にへーと友奈は相槌を返す。しっかり者の風が珍しいこともあるものだ。

「もう、ふーみん先輩。照れなくていいのに」

「へ? 照れるって何が?」

「本当はそれ、にわみんのために作ったお弁当なんでしょ? にわみんもふーみん先輩の料理はおいしいって自慢してたよ。アツアツだね、ヒューヒュー」

 園子の言葉に勇者部は首をかしげる。

「それよりにわみんはまだ部室に来ないの? 朝2年生の教室に入るのを見てサプライズのために急いで隠れたんだけど、あんまりじらされるとわたしも不安になっちゃうなー」

「あの、乃木? にわみんってなに?」

 風の言葉に、「へ?」と園子はポカンとした。

「あれじゃない? 朝あたしたちの教室に入ってきて、友奈にいきなり話しかけてきた」

「ああ。あの子。そのちゃん知り合いだったの?」

 夏凜と友奈の言葉に園子は何かおかしいことにすぐ気づいた。

「え、あの。冗談だよね? にわみんだよ。夏祭りにもみんなと一緒に行ったじゃない」

「夏祭りはここにいない東郷を含めて6人で行ったでしょ」

「お姉ちゃん、わたし、友奈さん、東郷先輩、夏凜さん、園子さん。うん、6人ですね」

 風の発言に樹が指折り数えて確認する。それに友奈と夏凜もうなずいた。

「え、にわみんだよ。みんな…」

 とそこで園子は昨日のことを思い出した。

 

「どうだったにわみん!?」

『ええ、神樹様は三ノ輪銀さんの魂を返してくれるそうです。あと供物としてささげた東郷先輩の失われた記憶も戻るって』

 その前彼は何を言っていた?

 相手は神様で自分たちより格上の存在。昔で言えば直訴みたいなこと。

 もし無礼打ちみたいになんかなってなんらかの罰が下れば――

 

「まさか」

 園子が思考に没頭していると、夏凜のスマホが着信を告げる。

「げっ、大赦から。ごめん、風、みんな。ちょっと出てくるわね」

「お役目? だったらアタシたちも」

「それはまだわからない。あんたらに手を借りるような案件だったら詳しく話すわ」

 そう言って夏凜は部室を出ていった。どうやら電話だったらしい。

「ねえ、そのちゃん。どうかしたの?」

「ゆーゆ」

 心配そうに自分をのぞき込んでいる友奈に、園子は質問する。

「ゆーゆのお家はわっしーの隣だよね。今日休んだことについて何か聞いてる?」

「え? うーん。どうだろ? 今日は一緒に来なかったからなー」

 その言葉に園子の中に疑問が芽生える。

 確か東郷や丹羽の話によれば2人は常に一緒で、丹羽いわく「ゆうみもは夫婦」と言わしめるほどの仲らしい。

 それなのに休んだ理由を知らないなんてことがあるだろうか?

 もし片方が休めばもう片方が看病するといって休むほど仲がいいと聞いている。それなのになぜ?

「ごめん。ちょっと厄介な用事ができたからあたしに来ていた案件は風か友奈にお願いしていい?」

「お役目? だったらアタシたちも」

「あんたたちが来ると逆に足手まといになりそうな内容なのよ。それにいつ予測されてるバーテックスが来るかわからないんだし、備えておきなさいよ」

 昼食の途中だが立ち上がりついて来ようとする風を夏凛が制す。

 大赦からの要請である「壁の外へ逃げた人類の仇敵を殲滅せよ」という内容は伏せておいた。

 話によれば人類の仇敵は人の姿をしているらしい。だとしたら勇者部の皆がそれを相手にするのは酷だろう。

 なにしろ勇者部の皆は優しい。下手をしたら人類の仇敵に同情し、なんとか仲良くできないかと言い出すかもしれない。

 だが、それは絶対に無理だ。なにしろ巫女が受けた神託によれば神樹様が早急に打ち滅ぼすべしと宣言されたからだ。

 よっぽどのことがない限りそれは覆らない。人類の仇敵が死体になるまで神樹様は満足なさらないだろう。

 そんな後味が悪い事を勇者部の皆にやらせるわけにはいかない。

「じゃあ、あたしは行ってくるから。みんなお願いね」

「うん。いってらっしゃい、夏凛ちゃん」

 友奈の言葉に夏凜は驚く。てっきり絶対1人で行かせないと駄々をこねられると思っていたが考えすぎたらしい。

 夏凛が部室を出ると、風は園子に向き直る。

「で、乃木。にわみんだっけ? そういう人間がうちの部活にいたって?」

「あはは、ごめんふーみん先輩。わたしの勘違いだった。夢で見た勇者部とごっちゃになっちゃってたよー」

 そう笑う園子に、風も樹もなーんだと笑顔になった。ただ、友奈だけがじっと園子を見ている。

「ねえ、そのちゃん。それって本当に夢だった?」

「うん。だって男の子なのに勇者っておかしいよね」

「そうよ。勇者は神樹様に選ばれた乙女しかなれないんだから」

「お姉ちゃん。乙女って、それ自分で言う?」

 それからは和やかな昼食が続いた。途中園子のスマホが鳴り、電話に出るためなのか園子は廊下に出ていく。

「うーん。なんというか、とらえどころのない子ね」

「でもすごいですよそのちゃん。頭いいし」

「夏凜さん、大丈夫かなぁ」

 園子への感想を言う風と友奈。一方樹は大赦の呼び出しで出ていった夏凜を心配している。

「ごめん、ゆーゆ、ふーみん先輩、いっつん! わたしも用事ができた!」

「え? ちょっと乃木?」

「そのちゃん?」

「園子さん?」

 突如廊下から戻った園子は止める間もなく弁当と荷物を持って教室を出ていき、残された勇者部3人娘は呆然とする。

「もしもし安芸先生? 訊きたいことがあるんだけど」

 スマホを取り出し移動しながら電話した園子は、自分が感じた嫌な予感が当たったことに歯噛みした。

「なんてことを…」

 すぐさま大赦に電話し、巫女が受けた神託の内容を聞き出す。最初は内容を伝えることを渋っていたが園子が緊急事態だと強く言うと折れ、詳しい内容を教えてくれた。

 どうやら丹羽を取り巻く状況は最悪らしい。四国に味方は文字通り1人もいない。

「いや、違う」

 少なくともここに1人いる。

 園子は迎えに来た車に告げ、できるだけ急いで壁の外の近くへ向かうように頼む。

(お願い、無事でいて)

 先ほど安芸に電話した時、大赦から要請があり防人隊が壁の外へ出撃したと教えてくれた。

 きっと彼は自分を守るためとはいえ防人を攻撃したりしないだろう。それにさっき大赦から連絡がきたという夏凜の様子から察するに目標は同じはず。

「わたしの…わたしのせいだ」

 車のシートの上で園子はぎゅっと膝の上に置かれたこぶしを握り締める。

 自分があの世界で見た銀のことを話したから。

 自分が銀の魂を神樹様から取り返したいと相談したから。

 もし願っていたのが自分だったら追われていたのは――。

「そんなこと、絶対にさせない」

 決意を込めて、園子はつぶやく。

 今度こそ、守って見せる。たとえ四国中の人間を敵に回すとしても。




 俺ともう1人の俺は夢見ただけだ。
 少女たちが無事に生き延び、何も失わない平和な世界。
 それが物語に(ゆが)みを生み (いびつ)さはどんどん広がっていった。
 この物語の終焉に起こる悲劇を避けられないほどに。

 次回分岐。
 1週目なら強制的にノーマルないしバッドエンド。
 2週目以降で条件を満たしていればグッドエンド。
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