詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
丹羽君の存在が勇者部の皆の記憶から消されたことに気づいた東郷さんと園子。
神樹「ふんふんふ~ん♪」
天の神「なにしてんの?」
神樹「人間の書物を参考に勇者たちの記憶弄って我が活躍した記憶を植え込んでるんだ~」
天の神「どれどれ?」
参考画像:漫画【BLE〇CH】の月島さんによる公式クソコラ
天の神「お、おう?」
赤一色の灼熱の大地に、その衣装の色は映えていた。
白を基調として徐々に薄い紫色へ染まっている勇者服。
自分に向かってくる乃木園子を見て、丹羽は素直に美しいと思う。
幼さと美しさが同居した天真爛漫な彼女にしかない美は、作中で美人と評される東郷の美しさとは別の魅力がある。
勇者アプリのモチーフである睡蓮、あるいは蓮は彼女という人間をよく表しているなと改めて丹羽は思う。
泥の中から美しい花を咲かせるその姿は2年間散華により身体の大半の機能を失った後遺症から回復し、元の姿に戻った再生を表現するのはぴったりだし、これ以上ないほどベストマッチだ。
その美しい死神は丹羽に向かって一歩一歩近づいてくる。
戦力の差は歴然としていた。こちらは精霊1体だが半死半生。恐らく勇者として変身できない。
武器である槍も呼び出せないし、身体能力は変身前の強化版人間型星屑程度しかないのだ。
しかも先ほどの魚座もどきの攻撃をもろに受けたせいで瀕死。一方向こうは無傷で万全。
詰んだな。と丹羽は冷静に分析する。
全力で逃げたとしても追いつかれて死。
立ち向かったとしても実力差から間違いなく死。
よっぽど地面がひっくり返るような展開でもなければここで自分はおしまいだろう。
「にわみん、ありがとう。にぼっしーと防人隊の皆を助けてくれて」
園子の言葉に「え?」と丹羽と夏凜は顔を上げた。
「憶えているんですか、俺のこと」
「もっちろん。これでも記憶力はいい方なんよー」
えっへんと胸を張る園子に、丹羽は安心から力が抜ける。
友奈も夏凜も樹も、おそらく風も自分のことを忘れていた。
だがなぜ園子だけが…と考え思い至る。
精霊か。
園子の中にはウタノとミトがいた。夏凜が丹羽の記憶を取り戻したきっかけのセッカも精霊だ。
おそらく、精霊が身体の中にいる人間は丹羽の記憶を失っていないのではないか?
神樹の丹羽明吾という勇者の記憶をなくすために行った何らかの手段を身体の中にいた精霊が防いでくれたのだろう。
高熱を出した東郷の元に行った時セッカも言っていた。東郷の中に入って来た悪いモノを退けていたと。
そうでないと説明がつかない。
それに夏凜が記憶を取り戻した理由を考えると、出現した精霊と仲が良かったことが挙げられる。
ということは仲の良かった精霊を目の前に出せば精霊の記憶と関連付けて丹羽のことを思い出す可能性があるかもしれない。
希望が見えてきた。これなら勇者部の皆に自分のことを――。
思い出させてどうするというのだ。お前はどうせ役目を終えたら消える人形なのに。
「にわみん?」
泣きそうな表情で固まっている後輩に、園子は首をかしげる。
「そのっち先輩。結城先輩やみんなは、俺のことを忘れていて俺はなぜか四国を滅ぼす人類の仇敵になってるんですよね」
丹羽の言葉に、園子は防人隊を見た。
皆一様にどうするべきか園子の一挙一動を見守っている。まるで園子がいつ丹羽を倒すのかと期待しているかのようだ。
「心配しないでにわみん。誰が何と言おうとわたしが守ってみせる。たとえ四国中を敵に回したって」
「じゃあ、三ノ輪銀さんと東郷先輩はどうするんです?」
丹羽の言葉に、園子は固まった。
「え?」
「それだけじゃない。ご両親やそのっち先輩の大切な人も、俺に味方すればみんな四国の敵として襲われるかもしれない」
「そんなの、わたしがなんとかしてみせるよ!」
園子の言葉に、丹羽は首を振る。
「できませんよそんなこと。受け売りですけど、人間が守れるのは手の届く範囲の人間だけ。そんな大勢を1人で守るなんて」
「だったら、にわみんも協力してよ! 勇者部の皆の記憶を取り戻して、戦おう」
「戦うって何とです? バーテックス? 俺を忘れてる勇者部のみんなと? 大赦? それとも守るべき四国の住人全員とですか?」
「それは…」
園子は答えられない。丹羽の言うことももっともだからだ。
もしここで園子が丹羽の味方をすれば少なくとも大赦は敵になるだろう。
いや、大赦だけではない。神樹様を信仰する四国の住人全てが敵に回るかもしれないのだ。
園子1人なら先ほど宣言した通り覚悟はできていた。
だが丹羽に改めて銀や東郷、家族も守れるのかと問いかけられ、園子は「できる!」と即答できないことに気づく。
「にわみん、それでもわたしは――」
園子が何か言おうとした瞬間、遠くからすごい勢いでこちらに近づいてくる白い何かが見えた。
思わず槍を構え戦闘態勢に入る園子の目に映ったのは、見覚えがある高速移動する巨大なバーテックスだ。
あの人型のバーテックスと一緒にいた、園子と防人隊が乗ることをすすめられたこともある巨大フェルマータ・アルタ。
『乗れ! 白い勇者!』
それに乗った子供が作ったようなデザインの仮面をした人型のバーテックスが丹羽に言う。
『ここで死ぬべきではないというと思うならこちらに来い! 命は助けてやる』
「なんであなたがここに!?」
親友を助けてくれた恩人の突然の出現に驚愕する園子に、人型のバーテックスは言う。
『そのっち、大体事情は察してる。四国にこいつが安全でいられる居場所はない。だから俺が保護する』
「そんな! そんなことしなくてもわたしが」
『君には無理だ。キミ1人が世界を敵に戦うなんて、俺もその白い勇者も望んでいないだろう』
人型バーテックスの言葉に園子は何も言えない。
どうしてそこまでこちらの事情を知っているのかは疑問だが、その通りだからだ。
「それは…でも、それでもわたしは」
『さあ、来い! 白い勇者!』
人型のバーテックスが手をこちらに伸ばす。
それを見て丹羽は――
【選択してください】
➡人型のバーテックスの手を取る。(ノーマルルート)
そのっち先輩を信じる。(2週目以降解放、グッドエンドルート)
人型のバーテックスの手を取り、巨大フェルマータ・アルタに乗った。
「にわみん!」
「丹羽⁉」
灼熱の大地に立ち呆然とする園子と夏凜を見ながら、丹羽は言う。
「大丈夫です。そのっち先輩、三好先輩。絶対にまた帰ってきますから」
『行くぞ! スピードが出るから舌をかむなよ』
そう言い残すと巨大フェルマータ・アルタに乗った丹羽と人型のバーテックスはすごい速さで飛び去りあっという間に見えなくなった。
「そんな……にわみん」
「園子、あいつが前言っていた人型のバーテックスなの? 丹羽は安全なの?」
膝をつく園子に撃たれた足を引きずりながら近づいた夏凜が問いかける。
「下がりなさい、三好夏凛」
だがその質問に答える前に防人隊が2人の勇者を包囲していた。
「園子様、お手を」
「ごめん。大丈夫だよ」
芽吹が差し出した手を取ることなく立ち上がった園子は、自分を囲む32人の防人隊を見る。
その瞳にあるのは猜疑、あるいは不信。
「とりあえずゴールドタワーに戻りましょう。三好夏凛、あなたもよ」
夕海子としずくが足を怪我している夏凜に肩を貸す。
「離して弥勒! あたしはあいつを」
「夏凛ちゃん、発言にはお気をつけになって」
本人は意図していないだろうがいつもふざけたことを言ったりやったりしている夕海子がいつになく真剣に言う。
「貴女がかばったあの男は、人類の仇敵と大赦に認定されているのですわ。今は知っているのがわたくしたちだけですが、誰かに知られたら」
「芽吹でもかばいきれないと思う」
その言葉にはっとする。
そうか、楠芽吹が直接大赦に向かうのではなくゴールドタワーへ向かうと言ったのにはそういう理由もあるのか。
「ごめん」
夏凜が知る限り楠芽吹はマジメを擬人化したような少女だ。大赦の命令に逆らいこんな犯罪者をかばうようなこと、不本意に違いない。
「謝るのは後。まずは安全な四国に…いえ、ゴールドタワーに戻りましょう」
芽吹は防人隊の中心に園子と夏凜を囲むような陣形となり、本拠地であるゴルドタワーを目指す。
言葉は場合によっては大赦…いや四国の人間すべてを自分たちは敵に回すかもしれないという意味をはらんでいることを、園子と夏凜、そして防人隊全員が承知していた。
フェルマータ・アルタに乗った丹羽は脱力する。
なんてタイミングで来たのか。いや、来てくれたのか。
あのまま四国へ戻っても大赦に捕らえられるのは時間の問題だっただろう。
園子の手を取って防人隊の本拠地であるゴールドタワーに立てこもっても彼女たちに迷惑をかけるだけだし、丹羽をかくまっていたことがばれたらただでは済まなかったはずだ。
つまりこれ以上ないタイミングで救援に来てくれた。
それはいい。丹羽明吾という個体に関しては九死に一生の天の助けだ。
だが、人型のバーテックスとしてはどうなのか?
もしこの出来事がきっかけでせっかく築き上げることができた乃木園子との信頼関係を壊す事態になったら?
さらに言えば四国で何が起こっているかわからなくなったのだ。これはかなりの痛手だろう。
自分がもっとしっかり考えていれば、ちゃんと立ち回れていれば。丹羽の心にそんな後悔が鉛のように重く胸の内に沈んでいく。
「すまん」
『え? 何か言ったか?』
謝罪の言葉に、しかし人型のバーテックスは聞こえなかったのか訊き返す。
「俺が失敗したせいで、こんなことに」
『失敗? 馬鹿言うなよ。上出来じゃないか!』
声に顔を上げると、人型のバーテックスが親指を上げてこちらに向けていた。
顔は仮面をかぶって見えないし、見えたとしても星屑なので表情はわからないが、多分笑顔なのだろうとなんとなく察する。
『勇者部全員満開せず総力戦を乗り切って、東郷さんとそのっちの散華を治した。しかもそのっちにいたっては2学期から学校に通えるとか快挙じゃねーの!』
「でも、銀ちゃんは」
『銀ちゃんの中にはあの精霊…えっとスミちゃんだっけ。それが今入ってるんだろ? 神樹と交渉以外の方法で治る可能性もあるだろうが』
その言葉に思わずハッとする。そうか、神樹が三ノ輪銀の魂を捕らえているという園子の情報から三ノ輪銀を治すには神樹と交渉するしかないと思っていた。
こいつの言う通り、別の方法からのアプローチで治る見込みだってあるのだ。
『そろそろ見えてくるぞ。俺が作った人間が住める新世界が』
人型のバーテックスの言葉に丹羽はフェルマータ・アルタから前方を覗き込む。
「あっ」
そこに広がっている光景に思わず丹羽は驚きの声を上げた。
青い瀬戸内の海がそこにあった。
マグマが沸き、灼熱の炎が噴き出す大地から切り取られたようにある部分を境に青い海が広がっている。
天を仰ぐと境目の上にはひし形のバーテックスが浮かんでいる。あれが灼熱の大地から守る結界のような役割をしているのだろうか?
境界線を越えると、潮の匂いがした。波もあり、完全に四国の海と変わらない。
「これ、本当に海なのか?」
『正確には海に似せたものだな。まだプランクトンしかいない』
驚く丹羽に、人型のバーテックスが言う。
フェルマータ・アルタが結界内に入ってどれくらい経っただろうか。陸地が見えるまで少なくとも10分は経ったと思う。
波が打ち寄せる砂浜。フェルマータ・アルタから降りた丹羽は勇者服の靴を脱ぎ、砂浜の上に立ってみる。
四国の砂と同じ、あの時勇者部のみんなと遊んだ海で感じた砂だ。その感触に思わず感動を覚える。
これが本当に2か月ほど前まで炎が吹き出しマグマの海が広がっていた壁の外の世界なのか? とても信じられない。
特に海の広さだ。最速のバーテックスであるフェルマータ・アルタが10分以上かかるほどの距離まで海が広がっているという事実は驚愕しかない。
こいつ、本当にやりやがった。
四国以外に人間が住める土地を作ると言った時は何を馬鹿なことをと思ったが、この光景を見せられては何も言えない。
「すごいな…。俺は本当に10年…いや、100年はかかるもんだとばかり」
『驚くのは早いぞ、俺。陸に上がってみな』
人型のバーテックスの声に明らかに人工物とわかる堤防を登ってみると、音に驚いた何かが逃げていくのが分かった。
「フナムシ⁉ 本物か?」
『いや、バーテックスだ。まあ、限りなく本物に近い自信はあるがな』
海が汚くなり田舎じゃないと見なくなった海の掃除屋。一部からはゴ〇ブリに似ているため嫌われている存在に丹羽が驚くと、人型のバーテックスが得意げに言う。
『まあ、それもだがもっと大きなものを見てみろ。景色とかさ』
その言葉にさらに堤防を登り、頂上までくると目に入って来た光景に呆然とする。
山があった。
それもただの山ではない。
青々とした緑の色や鮮やかに色づいた赤、黄色などが混じった四国で見るのとほとんど変わらない山だ。
『どうだ。ちょっとしたもんだろ』
感動から言葉も出ない丹羽に、人型のバーテックスが言う。
『デブリからの植物の種とかまだ生きてる樹を持ってきて植えたり、いろいろやったからな。土づくりは結構大変だった。中国地方はどこからでも山が見える場所らしいから張り切っちゃったぜ』
「すごい…すごいぞ俺! こんなの、本当にすごい!」
『驚くのはまだ早いっての。ついてこい』
得意げなもう1人の自分に丹羽は喜んでついていく。
先ほどまで沈んでいた気持ちは、目の前に広がる自然の衝撃に追い出されてしまった。
それから丹羽は人型のバーテックスに様々な場所に連れていかれた。
森林公園、太田川という県内を流れる大きな川、牧草地、田んぼや畑。
そこで暮らしていたのは丹羽のような強化版ではない人間型星屑たちだった。壁の外では5分と持たず消滅する人間並みの耐久力である存在も、このテラフォーミングされた場所では充分生存できるらしい。
「なあ、俺。1つ聞きたいんだが」
『なんだ。俺?』
畑や田んぼで農作業をしている人間型星屑たちを見て、丹羽は言う。
「どうしてここにいるのはみんな女の子だけなんだ?」
そう、人間型星屑たちは全員女性型で、男性型の姿は一切なかったのだ。
畑仕事や農作業は力仕事だ。男性型がいた方がはかどると思うのだが。
『そんなの、女の子の百合イチャが見たいからに決まってるじゃないか!』
力説する人型のバーテックスに、「あ、そう」と丹羽は返す。わかりきっていた答えだからだ。
というか、勇者部の皆が尊いモードの自分を注意するのはこんな気持ちなのかと丹羽は「人の振り見て我が振り直せ」ということわざを実感する。
『まあ、それは冗談として…お前俺に男型作れってことは下半身のジョイスティックを作れって言ってるのと同じだぞ。そんなのめんどくさいじゃん」
あ、そういう理由もあったのか。
丹羽が1人納得していると、人型のバーテックスは地面に座り、隣を叩く。座れということだろう。
『どうだ。いいところだろう』
その言葉に丹羽もうなずく。
これなら四国の人が移り住んでも大丈夫だろう。
畑にまかれた種はデブリから拝借したもので、大豆や小麦の他にコマツナやハツカダイコン、ホウレンソウなんかがあるらしい。
『それもこれもこいつらのおかげだけどな』
人型のバーテックスがそう言うと、人型のバーテックスの周囲に精霊が現れた。
100、いやその倍はいるだろう。数えきれないほど多い精霊の中にはゆるキャラのような見た目ではない人型に近い存在もいる。
その中から数体の精霊に近くに来るように人型のバーテックスは手招きした。
『この子がオイナリ、見ての通り狐の精霊。で、こっちがウケモチ、オオゲツヒメ、ウカノミタマ』
それぞれ日本の有名な豊穣神の名を持つ精霊だ。お稲荷様は五穀豊穣をつかさどる神でもあるのでその使いである狐にもその効力があるのだろう。
「うかさま?」
『そう、うか様だ。乙女ゲーム大好きのいなりこんこんで恋いろはな』
丹羽と人型のバーテックスはガシッと無言で握手をした。
「いなりちゃんとの百合は最高だったな!」
『ああ、兄貴が百合の間に挟まる男だったが、元々ヘテロ作品だったからな。それに俺はトウウカはおねショタとしてみれば全然イける』
「原作の京子ちゃんと黒染さんもいいぞ!」
『ああいう友情と愛情が一方通行な百合もお兄さん大好物!』
話が合う。さすが自分と丹羽は思う。
『この子たちが頑張ってくれてるおかげで作物もすくすく育ってる。たまにこの土地で眠っていた精霊…いや、神霊なのかな。そういうのが出てきて土地の再生にも協力してくれるんだ』
人型のバーテックスの言葉に丹羽は驚く。
「四国以外にもそういう神様とか、精霊がいるのか?」
『いることはいる。ただ、休眠状態になっているだけだ。灼熱の大地からこんな風に生物が住める環境になってくると自然に出てきたりする。中国地方のテラフォーミングから始めたのだって、近くに出雲があるからだしな』
なるほど。そういうことだったのか。
てっきり香川から1番近いからだと思っていたが、こいつはこいつなりに考えていたらしい。
『まあ、香川から1番近いっていうのもあるんだけどな』
「お前、一瞬尊敬した俺の純情を返せよ」
丹羽が言うと『すまんすまん』と人型のバーテックスは笑う。
『だが、どんなに自然が元に戻ったってそこに生きる生物はいない。いるのは生物の形をしたバーテックスだけだ』
そう。丹羽が確認しただけでも鹿や鳥、カエルにいたるまで生物はすべてバーテックスだった。
『新しい生命を生み出すのって難しいな。そりゃ時間がかかるわけだ』
「焦る必要はないって。作物ができるってだけでもすごいと思うぞ」
目の前の光景に丹羽は純粋に賛辞を贈る。
ここがほんの2か月前まで灼熱の大地だったなんて信じられない。よほど苦労したはずだ。
それに比べて自分はどうだ。人型のバーテックスから頼まれた勇者の皆を守るという役目を放り出し、ここにいる。
「情けねぇ…」
『情けなくなんてないぜ、俺』
呟いた丹羽の言葉に、人型のバーテックスは返す。
『お前は俺でさえできなかったことを楽々やっちまったんだ。すげぇとしか言えねえよ』
「なんだよそれ。俺はそんなことなんて」
『そのっちの散華した身体を治しただろ。それに勇者の皆と協力して、7つの御霊を持つ水瓶座を倒した』
手放しでほめてくれるもう1人の自分に、丹羽の顔が曇る。
「お前がいれば、もっと簡単に倒せた」
『そうじゃない。お前がいたから誰も満開せずに総力戦を乗り切れた』
「運が良かっただけだ。俺は、肝心な時に役目を果たせなくて…三好先輩も、そのっち先輩も、悲しませた。あんな顔をさせるために、頑張ってきたわけじゃないのに」
膝を抱え涙を流す丹羽に、人型のバーテックスは優しく頭をなでる。
『楽しかったか? 四国での日々は』
「ああ。本来の目的を忘れるくらい…いや、俺がバーテックスであることを忘れるくらいに。俺はお前の代わりに四国で勇者の皆を助けるために作られた道具なのに、馬鹿みたいだ」
『道具? 違うな。お前は勇者の丹羽明吾だ』
人型のバーテックスの言葉に、丹羽は思わず見返す。
「え?」
『少なくとも、勇者部の皆はそう思ってるはずだ。みんなにそう期待されてるなら、それを演じ続けてみせろ』
人型のバーテックスは立ち上がり、座る丹羽を見る。
『最後まで人間の勇者として勇者部の皆と一緒に戦え。その後のことは、それから考えよう』
「でも、俺はバーテックスで、お前が作った道具で」
『誰がお前を道具なんて言った。俺は勇者を守って支えてくれる存在としてお前を生み出した。そしてお前は自分で考え、行動する意思を持った』
人型のバーテックスは丹羽に向けて手を差し出した。
『だったら、それはもう道具なんかじゃない。お前自身だ。そして彼女たちがお前を人間の勇者として望んでいるなら最後の瞬間までそれに応えてみせろ』
丹羽は人型バーテックスの手を取り立ち上がる。
『お前は丹羽明吾。讃州中学1年。犬吠埼樹ちゃんと同じクラスで勇者部唯一の男子部員。そしてイレギュラーな勇者だ』
「いいのか、それで? 俺は銀ちゃんの魂を取り返すのに失敗した欠陥品だぞ?」
『人間なら失敗するのは当たり前だぞ? そして失敗から学べるのも人間だけだ』
その言葉に、丹羽明吾の瞳から自然と涙が流れる。
『お前は間違いなく、人間だよ。身体がバーテックスなだけで、魂はもう人間だ』
人型のバーテックスは手を取った方の腕とは反対側の手で丹羽の頭に手を置く。
『背、高くなったな。成長してくれてお兄さんは嬉しいぞ』
「なんだよそれ」
『なあ、丹羽明吾。お前はバーテックスは人間じゃないと思っているかもしれないが、それは違う。人を愛する心があるなら、身体がバーテックスであるのはただの個性だ』
きっと、弟がいたらこんな感じなのかもしれないと人型のバーテックスは思う。
『だから、その個性でしかできないことで大切だと想う人を助けろ。それは俺にはできなくて、お前にしかできないことだ。そのためなら俺は協力を惜しまない』
人型のバーテックスの言葉に、丹羽は考える。
勇者部の皆のこと。バーテックスである自分のこと。そしてこの物語の結末のこと。
「頼みがある。俺…いや、なんて呼べばいい?」
『今まで通り「俺」でいいさ。で、何がお望みだ? 勇者を守る勇者、丹羽明吾』
丹羽は告げる。自分の望みを。願いを。
それに人型のバーテックスはうなずき、彼の望むものを与えるのだった。
人形は夢見ただけだった 誰もが幸せな世界を。
彼女たちと交わした言葉、触れ合いがなかったはずの「こころ」ができる引き金だった。
それが感情を作り 想いはとめどなく広がり大きくなっていった。
この身が犠牲になっても その決意を抱かせるほどに。
【現在四国の外のテラフォーミングの進行具合について】
中国地方のテラフォーミングは人型のバーテックスの手により順調に進み、現在は隣県の岡山と山口にも手が伸びています。
四国が神樹様に愛され守られた大地なら中国地方は精霊が住む人外の(百合を楽しむ)楽園といった感じですね。
空は青くこそないですが、人類に有害な強力な紫外線や熱光線はリブラとアクエリアスの能力で作った結界で守られていて、気温も比較的温暖で住みやすい状態が保たれています。
作中でも触れましたが丹羽が四国に入る前までの2年間でデブリから拝借した植物の種や樹なども植えられ、見た目的には自然が多い田舎といった感じです。
文明レベルは弥生時代。農耕や畑づくりが主。ちなみにトラクター型バーテックスなどの作業用バーテックスも人型のバーテックスが作れたりするので収穫や種まきは結構楽。
さらに農耕神というか、作物がすくすく育つように力を貸してくれる精霊もいるので充分すぎるほどの量がこの秋収穫できる予定。ただ、この場所にいるのは全員バーテックスなので食事の必要がなくどう処理するかが問題。
今は生活基盤が村レベルだがいずれは地下排水路が張り巡らされた都市を作り、江戸時代レベルまで文明を引き上げるのが目標。
人型のバーテックス『みんな、俺が主人公ってこと忘れられてないかな?』
丹羽「俺も俺なんだからどっちにしろ同じなのでは?」
人型のバーテックス『お前もう自我持ってるし、丹羽明吾って名前もあるだろ」
丹羽「じゃあ名前決めようぜ。人型の~って長いんだよ」
人型のバーテックス『そうだなぁ。まあ、今まで呼ぶ人間がいないから不便なかったけどそろそろつけていいか』
丹羽「星屑(人)、スターダストマン、白ほっしー、白ソラ〇ラちゃん、エヴ〇量産機、攻撃力2500」
人型のバーテックス『待て待て、なんだそのふざけた候補は!』
丹羽「え、俺の呼び名の候補だけど」
人型のバーテックス『そういえばこいつ俺だった。ネーミングセンス一緒だ!?』