詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
四国全国指名手配された丹羽君、人型のバーテックスにより新天地へ高飛び。
そこはのんのんなびよりがおくれそうな自然あふれる場所だった。
(+皿+)『お前は俺がただ人間型星屑を作ったと思っているようだが、それは違うぞ』
丹羽「え? 何か違うのか?」
(+皿+)『あのお団子頭の子には赤座あかりちゃんの記憶がインストールされている』
丹羽「は?」
(+皿+)『そして横のツインテの子は吉川ちなつ。ちょっと離れた位置にいる髪の長いのは歳納京子。その隣のポニーテールの子は杉浦綾乃。短髪の子は船見結衣。それを見つめて鼻血を出しているのは池田千歳の記憶がインストールされている』
丹羽「ここはゆるゆり村ってことか!? じゃああそこでイチャイチャしてるのは」
(+皿+)『ひまさく、さくひま。両方いける素晴らしいカプだとは思わんかね?』
丹羽「さっすが、俺! わかってるぅー」ハイタッチ
(+皿+)『イエーイ!』ハイタッチ
スマホから園子に電話をかけたが相手は電源を落としているようだ。風はため息をつきスマホ画面をタップする。
「ダメね。乃木は電源を落としてる。夏凜の方は?」
「こっちもダメです。出てくれません」
同じように夏凛に電話をかけていた友奈が首を振った。
「ラインは既読がつかないし、返信もありません」
「どうしたのかしら。ひょっとして夏凜ちゃんとそのっちになにか」
勇者部専用のラインアプリにメッセージでどこにいるのか、無事なのか問いかけた樹だったが、返信のメッセージは送られてこない。それに東郷が心配そうにしている。
2人ともスマホの電源を落としているようで、勇者アプリで位置を確認しようにも居場所がわからないのだ。
「こうなったら大赦に直接訊くわよ。勇者2人が行方不明なんて、異常事態なんだから動いてもらわないと」
風が連絡すると、大赦も園子と夏凜の居場所はわからないということだった。
ただ重要な話があると迎えをよこしてくれるらしい。
「とりあえず大赦まで行きましょう。大赦が昨日夏凛に何を命令したのか気になるし、もしアタシたちに黙ってひどいことしてたなら」
「その時はみんなで2人を取り戻しましょう」
風の言葉に東郷が決意を込めて言い、友奈と樹がうなずく。
やがて風のスマホに迎えが来たという通知が入り、4人は学校の裏口に止められた大赦の車へと向かった。
「犬吠埼風様と樹様はこちらへ」
「東郷美森様と結城友奈様はこちらへ」
車が2台あることに風と東郷、樹は困惑する。てっきり1台だけだと思っていたのに。
「え、1台に2人ずつ? ちょっと豪華すぎない?」
「しかもこれ、お金持ちが乗るような長くてすごい車ですよ」
「東郷さん、早く早く」
腰が引けている風と樹を置いて、友奈は早くも車に乗り込んでいた。
「待って友奈ちゃん。私も今行くわ」
「お姉ちゃん。わたしたちも」
「そうね。じゃあ、お願いします」
友奈に続き東郷も車に乗り、風は樹と共に黒塗りの高級車に乗る。
座席がフカフカで、中はかなり広い。運転手によれば備え付けの冷蔵庫に飲み物もあるので好きに飲んでいいらしい。
居心地が良すぎる環境に犬吠埼姉妹は逆に落ち着かない。思わずキョロキョロしていると、備え付けのテレビの画面に映像が映った。
『犬吠埼風様、樹様。このような場所で恐縮ですが至急お伝えしたいことがあります』
それは以前大赦で会った大赦の最高責任者だった。
『結城友奈様にはすでにお伝えしたのですが、勇者様の記憶は改ざんされています』
「え!?」
「どういうことですか」
突然告げられた内容に、風と樹は驚愕する。
『昨日、東郷美森様が高熱を出してお休みになりました。憶えておいでですか?』
大赦の最高責任者の言葉に、2人はうなずく。
『あれはバーテックス…いえ、神樹様を襲う人類の仇敵の仕業によるものだと我々は考えております』
その言葉に風と樹は首をひねる。
人類の仇敵とはなんだ。バーテックスとは違うのか?
『順番にお話します。昨日巫女たちが皆同じ神託を受けました。神樹様に仇なし、四国の平和を脅かすものが現れたと。その人類の仇敵は人の姿をし自らを勇者と名乗っていると』
大赦にいる巫女全員が一様に同じ神託を受けたとなると信用性はかなり高いだろう。
『神樹様は人類の仇敵の名を告げられました。丹羽明吾と』
「丹羽明吾って」
「お姉ちゃん」
東郷が言っていた名前だ。ずいぶんと必死に自分たちが彼のことを忘れていると訴えていた。
『その様子だとやはり…東郷美森様は洗脳を受けたのですね』
「洗脳って、どういうことですか!」
画面の中の大赦の最高責任者に向け風は尋ねる。
『昨日東郷家から美森様が高熱を出したと聞いた時、我々は病院で徹底的に検査をしました。しかし身体に何も影響はなく、健康そのものでした』
それは丹羽が東郷の中にナツメという精霊を入れて神樹の怒りを身体から追い出したためなのだが、ここにいる人間は誰もそのことを知らない。
『そこで我々は推測したのです。この出来事は人類の仇敵による精神攻撃であり、勇者である東郷美森様は神樹様の加護によりそれに抗い高熱を出したのではないかと』
いや、そうはならんやろ。とこの場に丹羽がいれば言っただろう。
すごい想像力だったが、言っているのが大赦の偉い人なので犬吠埼姉妹は真剣にうなずく。
『人類の仇敵は神託により隠れていたところを我々が追い詰めましたが壁の外へ逃げられてしまい、やむなく防人隊と三好夏凛様に壁の外へ逃げた人類の仇敵の殲滅をお願いしました』
「それって昨日夏凛さんの出た電話の」
「アイツ、なんでアタシたちにそのことを言わなかったのよ!」
連絡の取れない勇者部部員に、風は怒る。
悩んだら相談! それが勇者部5箇条じゃなかったのか。
『おそらく皆様を巻き込みたくないと思ったのでしょう。優しい方です。ですが、それが今回は裏目に出ました』
「それってどういう」
樹の疑問に、大赦の最高責任者は神妙な顔をする。
『人類の仇敵と遭遇した防人隊と三好夏凛様と連絡が取れません』
その言葉に「え?」と犬吠埼姉妹はそろって声を上げる。
『同じように乃木園子様とも。おそらく人類の仇敵に洗脳され、四国を滅ぼす手先にされたのかもしれません』
「洗脳って、何を根拠にそんな」
荒唐無稽な話に、風が言う。
夏凜が後れを取るとは思えないが、洗脳されるなんてありえない。それなら返り討ちにあったと言われた方が納得できる。
『実は、大赦にも洗脳された者がいるのです』
その言葉に犬吠埼姉妹は驚く。
『丹羽明吾は勇者だ。なぜお役目をはたしている勇者を人類の敵扱いするのかと。そう言う人間が大赦職員の中に何人かいたのです。その人間を詳しく調べてみると、とんでもないことがわかりました』
大赦の最高責任者は、黒い下地に人間の頭蓋骨や脳が映っている写真を見せた。
『この、白いモノがわかりますか?』
「え、なんですかコレ?」
「気持ち悪いよぉ」
『寄生虫です。おそらく、これが人類の仇敵の能力』
重々しく言う大赦の最高責任者に、ごくりと犬吠埼姉妹は固い唾を飲む。
『おそらくこの寄生虫を通して【丹羽明吾は勇者である】という情報を寄生した相手に送っているのでしょう。そして本人の知らぬ間に洗脳し、共に戦う仲間として丹羽明吾に洗脳されてしまう』
「じゃあ、園子と東郷は」
『洗脳されていると考えて間違いないでしょう。ですが、犬吠埼風様と樹様は丹羽明吾という存在をご存じないのですよね?』
大赦の最高責任者の言葉に、2人はうなずく。
『でしたら人類の仇敵が現れた時、東郷美森様を止めてほしいのです。もし人類の仇敵と共に神樹様に害をなそうとする前に』
「それは、アタシたちが東郷を説得するんじゃダメなんですか?」
風の提案に、大赦の最高責任者は首を振る。
『洗脳された者たちは、どれだけこちらが説得しても聞く耳を持ちませんでした。おそらくは』
たしかに東郷も同じような症状だ。まるで自分が正しくて、風たちが忘れているのがおかしいというような。
『もしできないのであれば、わたくしたちが東郷美森様のスマホをお預かりします。巨大バーテックス相手に3人で当たるというのは大変危険かと思いますが、敵になるかもしれない人間と一緒に戦うよりは』
「いえ、それには及びません。勇者部部長として部員の暴走は止めて見せます」
風の言葉に大赦の最高責任者はほっとした様子だった。
『負担をかける様で申し訳ありません。我々としても勇者様を拘束するなど罰当たりなことはしたくありませんので』
「教えてくださってありがとうございます。…あれ? だったらこの車はどこへ?」
てっきり大赦へ向かうのだと思っていたが、今の話だとむしろ大赦へ向かうのは危険なように思う。
『ゴールドタワーです。防人隊の本拠地。行方不明の乃木園子様と三好夏凛様がいるとすれば、まず間違いなくここではないかと』
「そこに行ってアタシたちに何をしろと?」
『防人隊32名の安否確認。それと勇者である乃木園子様と三好夏凛様がそこにいるかどうか。可能ならば洗脳されているかどうかの確認も』
「もし、洗脳されていたらどうすれば?」
樹の質問に、大赦の最高責任者は言う。
『決して丹羽明吾という存在など知らないと否定しないでください。もし意見の食い違いにより逆上して勇者同士で戦うようなことがあれば人類の仇敵の思うつぼです。丹羽明吾が現れるまでは、いつも通りで』
「もし、丹羽明吾っていう人類の仇敵がそこにいたら?」
『その時は滅ぼしてください。騙し討ちでもなんでも。神樹様は早急に打ち滅ぼすべしと神託でおっしゃいました。存在するだけで危険なのです』
その言葉に風は重い息を吐く。
とんでもないことになった。勇者部の人間同士で戦うことになるかもしれないなんて。
少なくとも東郷はすでに洗脳されている。昨日の様子を見るに園子もだ。夏凜もどうなっているかわからない。
場合によっては勇者同士での殺し合いになるかもしれないと考え、人類の仇敵の悪辣さに吐き気がする。
洗脳して騙し、仲間同士で戦わせようなんて…最悪の敵。
「丹羽明吾…アタシたちが倒すべき人類の仇敵」
これならバーテックスを相手にした方がまだマシだ。人間の姿をしているというのも油断させるためだろう。
もしこの事実を知らなかったら、友奈と樹は間違いなく騙されていた。ここは年長者の自分がしっかりしなければ。
犬吠埼風は決意する。そんな最悪の敵は自分が倒そうと。
大赦の人間の言葉が間違っているなど少しも疑わなかった。
「にぼっしー。にわみんのことはしばらく忘れたふりをしてほしいんだ」
「なんですって!?」
時間はさかのぼり9月1日。
ゴールドタワーの医務室で足の治療を受けていた夏凛は、とても承服しかねる園子の言葉に思わず身を起こしかけて痛みに顔を引きつらせる。
「痛ぅ~っ」
「無理しないの三好夏凛。園子様、それはいったいどういうことでしょう」
園子と共に夏凜の治療に立ち会っていた楠芽吹が言う。
本人は夏凜と園子の監視と言っていたが、実際は自分が撃ってしまった夏凛の足の怪我の具合が心配だったのだ。
「にわみんも言っていたけど、今にわみんは四国にいる人間全員の敵なんだ。大赦も、神樹様も。ひょっとしたら勇者部の皆とも」
「だったら、あたしたちで勇者部みんなの記憶を取り戻せば」
「にぼっしー。わたしがにわみんのこと話した時、どう思った? 少しでも信じられた?」
園子の言葉に夏凜はぐうの音も出ない。
おそらく自分以外の勇者部メンバーもそうだろう。園子の話をただの妄言だと思ったはずだ。
「じゃあ、丹羽はどうなるのよ」
「あの人型さんが保護してくれると思う。多分、四国にいるよりずっと安全な場所に連れて行ってくれたはずだよ」
その言葉に芽吹は首をかしげる。
たしか園子と人型のバーテックスは仇敵というべき間柄だったはずだ。一体どういう心境の変化だろう。
それに、人類の仇敵とされる丹羽明吾についても不明な点があった。
なぜ銃を向けた敵である自分をその身を犠牲にしてでも助けたのか。
なぜバーテックスが襲ってきた時にこれ幸いと逃げなかったのか。
どんなに考えても納得いく答えは出ない。
「園子様、三好夏凛。1つ聞いてもよろしいですか?」
芽吹の言葉に、2人がこちらを見る。
「丹羽明吾とは何者なんです? どうして2人は人類の仇敵をかばうのですか?」
その言葉に、2人は笑顔で答える。
「同じ志を持つ魂でつながったソウルメイトだからだぜー。助ける理由なんてそれで充分」
「百合イチャ好きの変態でどうしようもない奴だけど、後輩だしね。樹を守るついでに守ってやってるのよ」
ますますわからない。混乱する芽吹に、2人は言う。
「メブーも話してみたらわかると思うよー」
「いやいや、あいつ擬態が得意だから話すだけじゃわからないでしょ。そうね、楠芽吹は1回助けられたからその理由について訊いたら、あいつの馬鹿さ加減がわかると思うわ」
夏凜は悪口を言っていたが、決して嫌っていないのは言葉の端々から感じられた。
「さて、これからどうしようか。にぼっしー、メブー」
「先ほどから気になっていたのですが、メブーとは私のことですか園子様」
芽吹が尋ねるとすごくいい笑顔でうん! とうなずかれた。
かなりフレンドリーだ。三好夏凛のこともにぼっしーと呼んでいたし、これが本来の彼女なのかもしれない。
「防人隊としては人類の仇敵をみすみす目の前で逃がしたわたしたち2人を大赦に突き出すかな?」
「ご冗談を。園子様にそんなことはできません」
乃木園子は防人隊直属の上司であり、自分たちをここまで引き上げてくれた恩人だ。そんな恩を仇で返すようなことはできない。
「メブーは固いなぁ。様付けなしでいいのに」
「そういうわけには…下の者に示しがつきませんので」
「本当、そういうところは昔からクソマジメよねあんた」
昔のことを揶揄する夏凛に芽吹はきっとにらみつける。
「貴女はいつも後先考えずに行動するわね三好夏凛」
「なんですって!」
「まあまあ、2人とも。ステイステイ」
ヒートアップしそうな2人に、園子が間に入りとりなす。
「わたしとしてはにぼっしーとメブーたち防人隊たちが丹羽明を追い詰めたけど魚座もどきの襲撃を受けて戦っている間に見失ったっていうシナリオにしようと思うんだけど」
園子の提案に、2人は考え込む。
「まあ、妥当ですね。そうなると園子様がなぜあの場にいたのかという話になりますが」
「うーん。わたしはもう勇者部のみんなと大赦にはマークされてると思うんよー。大赦に電話して無理やり神託のことを聞き出した時から覚悟はしてたけど」
「だったらこれから園子はどうするの? 讃州中学には帰らないつもり?」
夏凛の言葉に園子は考え込んでいる。
このままゴールドタワーに籠城すれば防人隊の子たちが自分を守ってくれるだろう。
だが家族や東郷、銀を人質に取られる可能性がある。となるとここにいるのは得策ではない。
できることなら自分が無害だと相手に信じさせ、いざというときは反撃できる位置にいるべきだ。
そうなると――
「大赦に、投降するかなぁ」
「「なっ!?」」
園子の発言に夏凜と芽吹は驚く。
「誤解しないで。戦闘放棄するわけではないよ」
その言葉に、2人はほっとする。
「ただ、人類の仇敵であるにわみんと通じているかもしれない勇者であるわたしを、大赦は最大の警戒で対処すると思うんだ。だから逆に懐に入って安心させる。人質をとられないためっていうのもあるけど」
「それは…もしかして我々のことを考えて」
芽吹の言葉に、園子はあはは~と笑う。肯定はしないが否定もしなかった。
それに個人的に神樹様にはお礼参りもしたいし、という内心は語らないでおく。
「だから、にぼっしーにお願いしたいんだ。他のみんながにわみんのことを憶えているかそれとなく探ってみて。そしてもし次のバーテックスとの戦いでにわみんがやってきたら、守ってあげて」
「そんなの当然でしょ。あたしはあいつに受けた恩をまだ返しきれてないし、セッカのことも」
言っていて思い出したのか、夏凜は右手を見る。
この手で握った刀で斬ってしまった、自分を見つめ直す機会を与えてくれた精霊のことを想う。
「セッカが無事な姿を見せるまで絶対に守ってみせるわよ。あいつのことを」
「にぼっしー。うん、そうだね」
決意する夏凛の胸元に、園子は自分の拳を軽く打ち付ける。
「頼んだよ完成型勇者さん。わたしのかわりに…ううん。わたしの分までにわみんを助けてあげて」
「ええ、任せなさい。今まで四国を一緒に守って来たあいつを、人類の仇敵として死なせたりしないわ」
1つ年下の後輩を想い2人の勇者は誓う。
その姿に勇者ではない芽吹は黙って部屋から出ていくのだった。
時は戻って9月2日。
ゴールドタワーの前に停車した2台の車を大赦の仮面をつけた安芸が出迎えた。
「ここにどのような御用でしょうか、勇者様」
「夏凜と乃木がここにいるんでしょう! うちの部員を返してもらうわよ」
「ちょっとお姉ちゃん、落ち着いて」
噛みつかんばかりに詰め寄る風に、樹がストップをかける。
「三好夏凛様は昨日人類の仇敵追跡中に襲われた魚座もどきの治療のため昨日はここに泊まりました。連絡を入れたつもりが行き違いがあったようで。乃木園子様は」
「やっほーみんな!」
話していると件の乃木園子が元気いっぱいの笑顔でゴールドタワーから出てきた。
「乃木⁉ アンタ無事なの?」
「うん。無事だよー? どうしてそんなに心配してるの?」
「だって、アンタ」
「ねえ、そのっち! そのっちは丹羽君のことを憶えているんでしょう。みんなに話して」
風が何か言おうとしたのを遮り、必死な顔で東郷が親友に食いつく。
その言葉に園子は一瞬驚いた顔をするが、すぐにまた元の表情に戻る。
「あはは、やだなーわっしー。にわみんはわたしが夢に見た男の子で、そんな人いないんだよ」
「そんな」
崩れ落ちる東郷を抱き留め、園子は耳元で囁く。
「わっしー、にわみんを悪者にしたのは神樹様だよ。そしてミノさんの魂を肉体に返さないのも」
思わず訊き返そうとした東郷の口に指を当て、しーっと反対の手で自分の口にも指をあてる。
「だからわたしも丹羽明吾君なんて知らない。って言っても信じてくれないよね」
そう言って園子はスマホを取り出し画面をタップした。
蓮の花びらが舞い、光に包まれる。
そこには白を基調とした勇者服に変身した園子が、残念そうな顔でほほ笑んでいた。
「え?」
園子の言葉に東郷は振り返り、ぞっとする。
友奈が、風が、樹が。勇者部の仲間たちが園子を怖い顔で見ていた。
まるでバーテックスを相手にする時のように敵意に満ちた目で。
「乃木、アタシたちと戦うつもり?」
スマホを取り出し、いつでも変身して戦う準備ができている風。
「園子さん。園子さんはそのにわみんごっていう人類の仇敵に騙されているんです」
同じく樹もスマホを取り出し臨戦態勢だ。
「そのちゃん。できることなら戦いたくない。だからお願い、抵抗しないで」
友奈に至ってはもう変身を済ませ、桃色の勇者服になっていた。
「うーん、3対1は分が悪いなぁ。仕方ない、投降するよ」
もう1度スマホの画面をタップして変身を解き、お手上げというように両手を上げる園子に、3人はようやく緊張を解く。
「友奈ちゃん、風先輩、樹ちゃん…これは」
呆然とする東郷に、風はしまったと後悔する。
大赦からは勇者同士が戦えば人類の仇敵の思うつぼだと釘を刺されていたのに。
「違うのよ、東郷。これは…」
「ふーみん先輩とゆーゆ、いっつんはにわみんを四国を滅ぼす人類の敵だと思ってるんだよ。大赦の巫女全員がそういう神託を受けたから」
園子の言葉に東郷は昨日のことを思い出す。
あれは神樹様の名を騙ったバーテックスだと思っていたが、本物だったのか。
「でも、それっておかしいわ。だって」
「うん。神樹様は自分の都合でにわみんを四国を滅ぼす敵にしたんだよ。自分にとって気に入らないことを言ったから。捕らえているミノさんの魂を身体に返してって頼んだから」
園子の言葉に東郷は驚く。
「そんなこと、私一言も聞いて」
「ごめんわっしー。黙ってて。でも、大丈夫」
報いは受けさせるから。
言葉にせずに心の中で告げる。それが乃木家の家訓だ。
「さっ、大赦に連れて行くんでしょ? スマホも渡した方がいい?」
「お預かりします。乃木様」
運転手の大赦職員が恭しく園子からスマホを受け取る。
「そのっち、どうして!?」
どうして自分に相談してくれなかったのか。どうして丹羽君を巻き込んだのか。どうして自分と園子だけ丹羽の記憶があるのか。
他にも問いかけたいことがあった。だがすべてこの「どうして」という言葉に行きつく。
それに園子は笑顔で答える。
「取り戻したかったんだ。2年間の間に奪われた時間も、友達も、記憶も。だけど失敗した。にわみんに身体を治してもらって、欲張りになりすぎたせいだね」
「そのっち!」
「じゃあね、わっしー。ばいばい」
そう言うと園子が乗り込んだ車は発進してしていった。
残った4人に、ゴールドタワーから出てきた夏凜が言う。
「なにこの状況? どうしたの」
その言葉に友奈はスマホをタップし、変身を解いた。
「東郷、ごめん。でも、アタシは」
「もう、いいです。丹羽君も、そのっちも、私に相談してくれなかった」
「東郷先輩」
打ちひしがれている東郷に、友奈、風、樹の3人はなんと声を掛ければいいのかわからない。
「園子も言ってたけど、そのにわって誰なのよ?」
夏凜の言葉に、わかっていたこととはいえ東郷は落ち込む。
「いたのよ。私より1つ年下の、男の子が。勇者部に」
東郷は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「優しくて、与えるばかりで見返りなんて求めないで。陰ながらみんなを助けてくれて、私の弱さと勇者として戦う理由を気付かせてくれた。車椅子のかわいそうな女の子じゃなくてただの東郷美森として私を見てくれた大切な男の子が」
「勇者部に男なんているわけないじゃない。東郷、あんた」
「夏凜!」
夏凜の言葉を風が止める。友奈がうずくまる東郷に肩を貸す。
「帰ろう、東郷さん。東郷さんはきっと悪い夢を見ただけなんだよ」
友奈の言葉にも東郷は反応しない。ただうつろな目で「いたのよ。丹羽君はいたの」と繰り返している。
「どうしたのよ、あれ」
「夏凜、あんたは丹羽明吾のこと」
「だから誰よそれ? 園子も言ってたけど、人類の仇敵が勇者部にいたなんてあるわけないでしょ」
夏凛の言葉に風は安心する。よかった。彼女は洗脳されていないみたいだ。
友奈に肩を貸され、車に乗せられる東郷を見て夏凜は思う。
(ごめん、東郷。あたしも丹羽のことを思い出したって、今は言えない)
先ほど園子を見る東郷以外の3人を見てわかった。彼女たちは本気で丹羽のことを忘れ、人類の敵だと思っている。
彼女たちから丹羽を守るためには、今は彼女たちの仲間のフリをするしかない。
いつか丹羽に例えで話していた勇者部内が修羅場になるという話は、原因こそ違うが現実になり始めていた。
そしてその日から数日後、神託にあった巨大バーテックスの襲来。対双子座戦が始まる。
本編より大赦が仕事してる件。これも大赦OTONA化計画の賜物だな!
勝手に勘違いして明後日の方向にすすんでるけど。
神樹「人類の敵への認識改変、ヨシ!」
(+皿+)「ヨシ! じゃねえ⁉ バーテックス人間浄化するならきちんと全部浄化しろ!」
アンケートの結果アンチ・ヘイトタグをつけることにしました。
次回、丹羽君VS勇者部