詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
 丹羽君、晴れて人類の敵認定。
 勇者部部長、犬吠埼風は日ごろの家事とお役目の疲れからか不幸にも黒塗りの高級車の中で大赦の最高責任者から部員の東郷と乃木が人類の仇敵である【丹羽明吾】に洗脳されたと知らされてしまう。
 後輩たちをかばい、自分が人類の仇敵をぶっ殺そうと決意する風に対し、車の主、大赦の最高責任者が言い渡したアドバイスとは…。
大赦の偉い人「絶対丹羽明吾のこと否定したりして勇者同士で戦わないでね?」
風「了解」
ゴールドタワー
東郷「そのっち、丹羽くんはいたわよね!」
園子「うん、いたいたー」ヘンシン
風「お、やる気かこの野郎」
友奈「そのちゃん、投降して!」ヘンシン
樹・夏凜「えぇ…」


【ノーマルルート】わたしはあなたが大嫌い

 乃木園子が大赦に連れていかれて何日経っただろうか。

 6人からまた5人になった勇者部の部室で部長の犬吠埼風は思う。

 いや今は3人か。と、あれ以来学校にも登校してこない東郷とその家を訪ねるために部活を欠席している友奈にため息をつく。

 あれからいろいろあった。

 まず夏凜だが、防人隊と共に壁の外で人類の仇敵を追い詰めた時、魚座もどきと遭遇したそうだ。

 その際足に怪我を負い、大赦に直接帰還せず防人たちに伴われてゴールドタワーで治療を受けていたらしい。

 後に丹羽明吾を助けるために壁の外へ現れたと判明した園子に大赦への連絡を頼んだそうだが、大赦によればそんな連絡はなかったそうだ。

 夏凜のスマホの電源が落とされていたのも園子の仕業だと判明した。風や大赦の人間が気付かなければ夏凜が園子に洗脳されていたかもしれない危険な状況だったらしい。

 人類の仇敵を逃がしてしまった夏凜と防人隊たちにはおとがめなし。今まで通り夏凜は勇者部に所属してお役目を果たし、防人隊は壁の外の調査をしているそうだ。

 一方園子はというと大赦に投降したあとはおとなしくしている。

 反抗らしい反抗もせず、不気味なほど穏やかに暮らしていた。スマホも取り上げられたのだし学校に通っても問題ないと思うのだが、自ら進んで大赦の座敷牢にこもっているらしい。

 1度面会に訪れた時に理由を尋ねると、三ノ輪銀や東郷、それに家族が大赦に人質に取られるのが嫌だからだそうだ。

 大赦はそんなことをしないと言っても彼女は首を振るだけだった。

「大丈夫だよふーみん先輩。バーテックスが襲ってきた時は、ちゃんと力になるから」

 彼女はそう言っていたが、どこまで信用していいものか。

 東郷はというとすっかり塞ぎこんでしまった。

 どんなに風と友奈が説得しても「丹羽君は勇者部にいた」と言って聞かず、ついには心を閉ざして現在は部屋に引きこもっている。

 親友である友奈が部屋の前で話しかけても返事もしない。家族によれば部屋の前に置いた食事には手を付けているらしいが、心配だ。

「2学期に入って早々、勇者部はバラバラね」

 東郷の代わりにパソコンの前に立って慣れない作業に四苦八苦している妹の樹を見ながら、風はつぶやく。

 それもこれも人類の仇敵という丹羽明吾のせいだ。

 あいつがこんなややこしい状況にさせたそもそもの原因。風としては文句の1つでも言ってやりたい。

 それに大赦から人類の仇敵は存在するだけで危険と言われていた。それは大赦にいる巫女全員が受け取った神託らしい。

 勇者部のみんなにそんな敵と戦わせるわけにはいかない。それに相手は人間のような姿をしているということだ。

 優しい友奈や妹の樹には酷な相手だろう。

 だから、いざというときは自分が――。

「なーに眉間にしわ寄せてんのよ」

 思いつめた様子の風に、夏凜が言う。

「夏凜」

「ストレスに効くサプリ、極めとく?」

「いや、大丈夫よ」

 自然と自分を気遣ってくれる勇者部2番目の新入部員に、風は笑顔を見せる。

 最初会った時には考えられないほど柔らかい態度になった。今では確かな絆の芽生えた頼れる勇者部部員だ。

「東郷、今日も来なかったわね」

「ええ。友奈も頑張ってくれているみたいだけど」

「しばらく勇者部の活動は中止する? 東郷と友奈が戻って来るまでの間」

「いえ、アタシたちはアタシたちのできることをやりましょう」

 その方が気がまぎれるからという本音は言わないでおいた。

「風、悩んだら相談。それが勇者部5箇条でしょ」

「夏凜…そうね。じゃあ、今日うちに泊まりに来てくれない? アタシと樹、2人分のぼやきを聞いてもらえたら嬉しい」

「はいはい。その代わりおいしい夕食をお願いね」

 軽口を交わし合う和やかな雰囲気を切り裂くようにスマホからけたたましいアラーム音が部室に鳴り響く。

「樹海化警報⁉」

「こんな時に!」

 風と夏凜はスマホをタップし、変身する。

 次の瞬間世界が光に包まれ、部室内にいた3人は樹海に飛ばされていた。

 

 

 

 樹海の外から侵略してくる巨大バーテックスを、すでに変身済みの風、樹、夏凜は迎え撃つ。

「友奈と東郷が合流するまで持ちこたえるわよ! できる、樹⁉」

「うん、任せてお姉ちゃん」

 問いかけに勇ましく返事をしてくれる妹を、風は頼もしく思った。

 皮肉なことだがバーテックスとの戦いが彼女を強くしたように思う。と同時に自分の陰に隠れて甘えてくれた妹はもういないのだと若干寂しくも感じる。

 さて、では前衛としてのお役目を果たそうか。

「行くわよ、に――」

 いつものように隣にいる人間に声を掛けようとして、風は次の言葉が出てこなかった。

 あれ? 自分はなんて言おうとしたのだろう。

 夏凜? 友奈? でも今までの戦いで彼女たちと組んだことはなかったはずだ。それに彼女たちの名前は「に」で始まらない。

 いったい自分は誰の名前を言おうとしたのか?

「何してるの風! 置いていくわよ」

 声に顔を上げればすでに戦闘態勢の夏凜が考え込んで足を止めていた風を見ている。

「わかってる! じゃあ、樹。気を付けてね」

 戦闘に雑念は不要だ。今は目の前の敵に集中。

 夏凛と並びたち次々と神樹様を目指し向かってくる星屑を殲滅していく。

「うぉおおお! 女子力斬りぃいいい!」

 巨大化した剣を薙ぎ、一気に星屑の群れを消滅させる。

「ちょっと風! 最初から飛ばしすぎよ! 巨大バーテックスに備えて体力は温存しておきなさい」

 夏凛の注意に風は内心でわかってるわよ! と叫ぶ。

 だがおかしいのだ。先ほどから戦っていると妙な記憶がちらつく。

 自分の隣にいた、夏凜とも友奈とも違う白い勇者服の誰か。

 色的には園子だがその勇者が持っていたのは槍ではなく2丁の斧だった。

 そいつが隣にいると自分はとても安心できた。

 背中合わせならどれだけの数の星屑に囲まれても生きて帰れると確信できるほど。

 だがそんな存在はいるはずがない。今までバーテックスと戦ってきたのは友奈、東郷、樹、夏凜と自分の5人。他の勇者などいないのだ。

 なんなのよこれは。

 星屑を剣で切り伏せるたびにそんなイメージがちらつきイライラする。

 思い出せないのがもどかしくて、悔しくて、腹立たしい。

 これも人類の仇敵による精神攻撃なのだろうか。

 そんな内心のイライラを晴らすように攻撃していると、いつの間にか星屑の大半が消滅して巨大バーテックスが姿を現す。

「来た! 風、用意して」

 夏凛の言葉に風は大赦の技術部が用意してくれた対巨大バーテックス用の武器を取り出す。

 今回の巨大バーテックスは双子座もどき。以前東郷が神樹様に受けた神託の情報によれば動きが早く突破力がある要注意個体らしい。

 風と夏凛は対双子座用の捕縛ネットを発射する武器を取り出す。

 これは神樹様が双子座の特徴を神託で巫女に告げ、大赦の技術部に作るよう命令したものだ。

 強靭なワイヤーが双子座もどきの足に絡みつき、動きを止める。

 2体に分離する双子座の特徴に対処し、まずは風が最初に撃つ。次に夏凛が分離した小型の双子座もどきに向かって撃ち動きを止めた後攻撃。

 双子座には樹の武器が有効らしいがこの武器があれば自分たち2人でも大丈夫だろう。

「さあ、来なさいバーテックス。アタシたちが神樹様のもとには通さないわよ」

「そうね、やるわよ風!」

 そう、双子座もどき1体なら確かにこの方法で完封できたはずだ。

「なっ!?」

 ものすごい速さで近づいてくる双子座もどき達の姿に風と夏凜は困惑する。

 最初に見えた双子座もどきの陰に隠れるようにして一直線に並んだ2体の影。

 そう、双子座もどきは3体いた。

「どういうこと⁉ 情報では1体って」

「しかも同じ個体が3体同時。なんなのよこれ」

 遠くからものすごい速さでこちらに向かってくる双子座もどき達を見て、風と夏凜が混乱する。

「とりあえず足を止めるわよ、風、準備はいい?」

「あたし近接系なのよね…。こういうのは東郷の役目でしょうに」

 ぼやきつつ双子座用の捕縛ネットを大赦支給のバッグから取り出す風。

 対バーテックス用の武器は勇者が樹海に持ち込んで戦闘にも支障がないよう極限まで小型化されている。

 使い方も簡単で、クラッカーのように相手に向けて発射ボタンを押すだけ。

「来た! 風、先にあんたが!」

「ええい! ままよ!」

 風は先頭の双子座もどきに向けて対双子座用の捕縛ネットを発射する。

 狙いは違わす双子座もどきの足に強靭なワイヤーが絡みつき、先頭の双子座もどきの進行を止めた。

「よし!」

 だが、後列の2体の双子座もどきはそれをものともしない。

「嘘でしょ、前の双子座を踏み台に⁉」

 動けなくなった双子座もどきを跳び箱の踏み台にようにして大きく跳躍する。

 2体の双子座もどきが風と夏凜の頭を飛び越えて樹海に降り立つと、またすごい速さで神樹様の元に向かっていく。

「追わなきゃ!」

「いや、待って! あれは…」

 先頭を走る双子座に、桃色の勇者が迫る。

「勇者…パーンチっ!」

 友奈の渾身の一撃が先頭の双子座もどきに突き刺さった。

 スピード×拳=破壊力となり、一直線に神樹様の元へ向かっていた双子座もどきは吹っ飛ぶ。

「友奈!」

「よかった。間に合ったのね」

 会心の一撃だ。これなら後ろにいた双子座もどきも巻き込まれて――。

「躱した!?」

「嘘でしょ!?」

 最後の1体は自分の進路上に飛んできた双子座もどきを華麗な足さばきで避けてすごいスピードで神樹様の元に向かっていく。

 友奈が振り返り急いで追おうとしているが、スピードが違いすぎる。とても追いつけないだろう。

 残っているのは樹と東郷。樹はこのバーテックスと相性がいいらしいが、自分たちが到着するまで持ちこたえてくれるだろうか。

「夏凜、ここの双子座もどきは任せていい?」

「あたしを誰だと思ってるのよ! 御霊持ちならともかく、もどきならあたし1人で充分よ」

 頼もしい言葉に風はこの場を夏凛に任せ、後衛の樹の元へ向かった。

 友奈がここにいるということは東郷も一緒だろうか。だが、塞ぎこんでいる彼女が戦力になるとは思えない。

 最悪、樹が東郷を守りながらの戦いになるかもしれない。やはり大赦の人が言ったように、東郷のスマホも大赦に預かってもらうべきだったか。

 友奈も双子座もどきを追って後衛に向かっているようだが、間に合うかどうか。

 人外の存在とはいえ、そのスピードに風は歯噛みする。せめて風のような速さで誰か樹の元に向かってくれたら。

 そう考えていた風の横を、ものすごい速さで何かが通り抜けていった。

「え?」

 思わず呆然としてその姿を見送る。

 一瞬見えたが、あれは人間?

 双子座もどきと同じ、いや、それ以上の速さで星屑とは違うバーテックスが両足と融合した人間みたいな何かが通り過ぎたように見えた。

 いや、きっと見間違えだろう。人間がバーテックスと同じスピードで動けるなんてありえない。

 もし動けたとしても身体がそれに耐えられないはずだ。

 風は立ち止まっていた足を再び動かし、樹の元に向かう。

「やっと来たのね、あの馬鹿。遅いのよ」

 双子座もどきを2振りの刀で滅多刺しにして消滅させた夏凜がどこかうれしそうに呟いた声は誰にも聞かれることはなかった。

 

 

 

「お姉ちゃんたち、大丈夫かなぁ」

 一方の残された樹は前線で戦う風と夏凜を見守っていた。

 スマホの画面には勇者の名前の他に【双子座】と表示されている。以前『樹ちゃんの攻撃が有効だにゃー』と教えてもらった。

 だったら自分も前線に行った方がいいだろうか。悩む樹だったが、思わず「ん?」と首をひねる。

 わたし、神樹様と話したんだっけ? しかも『だにゃー』って語尾、なんかイメージと違うような。

 よく考えれば7体の巨大バーテックスの攻撃手段や弱点は神託ではなく黒板に書いて懇切丁寧に教えられたように思う。

 神樹様が東郷先輩の身体を操ってそんなことをした? それって何かおかしくない?

「お待たせ、樹ちゃん!」

「友奈さん! と、東郷先輩⁉」

 そんなことを考えていたら東郷を抱えた友奈がやって来た。

 肩に東郷を米俵のように抱えており、いわゆるお米様抱っこという状況だ。ロマンスのかけらもない。

「友奈さん、いくらなんでもその運び方は」

「でも緊急事態だったし。東郷さんも許してくれるよ」

 いえ、東郷先輩は目の光がなくて黒いオーラが以前より増してるんですけど。

 樹が内心で思っていると友奈は東郷を樹に託し、風と夏凛が戦っている前線を見る。

「あれが今回の敵だね。じゃあ、行ってくる!」

「ちょ、友奈さーん!」

 おかしい。彼女はこんな状態の東郷先輩を置いて戦いに向かうような性格ではなかったはずだ。

 いままで丹羽明吾という人類の仇敵に洗脳された東郷の方がおかしいと思っていたが、友奈も何か変だ。この戦いが終わったら、お姉ちゃんに相談しないと。

 そう思った樹が戦況を把握するためスマホの画面を見ると、双子座と書かれた個体が3つ連なっていた。

「え?」

 見間違えかと思い画面を切り替えてもう1度元に戻してみても表示は変わらない。

 どうやら同じ双子座の巨大バーテックスもどきが3体同時に出現したようだ。

 だとしたら、風と夏凜が危ない!

 画面を見ると先頭の双子座もどきは風と夏凜の前で止まっていた。だが2体がそれを突破しこちらへ向かっている。

 今度は友奈に近づいた1体が動きを止めた。だがその横を通って双子座と表示されたアイコンがこちらへ向かってくる。

 隣を見るが東郷はうつむいたまま変身すらしていないし、とても戦えるようには見えなかった。

「わたしが、やらないと」

 樹はスマホを閉じ、向かってくるであろう双子座もどきに向けて戦闘準備をする。

 この先へは絶対に行かせない。自分がここで止めるしかないのだ。

「お姉ちゃんに、任せてって言ったんだ」

 前線へ向かう姉に言った言葉を思い出す。もう自分は姉の陰に隠れていただけの子供ではない。

 今こそ自分だって、変わるべきなのだ!

 

『でも、1番嫌いなのはそんな■■くんに嫉妬するだけで何も変わろうとしないわたし。お姉ちゃんに甘えるだけで強くなろうとしないわたしが、わたしは大嫌い!』

 

「え?」

 なんだ今の記憶は? こんなのわたし知らない――。

「っ、しまった!?」

 戦闘中なのにぼーっとしてしまった。

 見れば目前まで双子座もどきが迫っている。樹はワイヤーで双子座もどきを捕らえ、足をからめとり動きを止める。

 ギリギリ間に合った。樹は戦闘中なのに別のことを考えてしまった自分に猛省する。

 ここを突破されたら神樹様の元へ一直線だ。絶対にここで止めなければ。

 双子座もどきを拘束したワイヤーがギリギリと音を立てている。御霊なしとはいえ、樹は抑えるのが精いっぱいだ。

「東郷先輩!」

 隣でうずくまっている東郷に声をかけるが返事はない。

 ダメだ。彼女は当てにできない。

 だったら友奈さんが戻ってくるまで持ちこたえないとと決意する樹だったが、双子座もどきを見て戦慄する。

「分裂っ!?」

 そう、双子座は大型と小型に分裂できる。

 今、樹のワイヤーは大型を拘束するので手いっぱいだ。小型と分離されれば間違いなく突破される。

 どうする? どうすればいい?

 せめてあと1人、一緒に戦ってくれる勇者がいれば…。

「お姉ちゃん、友奈さん、夏凜さん」

 誰でもいい。早く来て!

 願う樹をあざ笑うように小型の双子座もどきが分離し、拘束するワイヤーから逃げ出す。

 もうダメ。

「フェルマータ・キーック!」

 思わず目を閉じた樹の耳にそんな声とすごい音が聞こえてきた。

 びっくりして目を開けるとそこには小型双子座もどきを踏み抜いた白い勇者服に桃色のラインが入った男の子がいる。

 髪は白く、顔は中性的でひげもない。一見すると男か女の子かわからなかったが、なぜか樹は彼が男の子だという確信があった。

「あなた…誰?」

 思わず問いかけた樹の言葉に彼はショックを受けたような顔をする。だが、すぐに笑顔になりこう言った。

「憶えていてくれなくていい。俺は勇者を守る勇者、それだけで充分だ!」

 そう言い放つと樹が拘束している双子座もどきに向かい拳を放つ。

「チェーンジ・アタッカハンド! 勇者パーンチ!」

 白い手甲を双子座もどきに打ち込み、白い勇者は双子座もどきを消滅させた。

 

 

 

 東郷美森の意識は暗闇の中にあった。

 なぜ自分の言葉を誰も信じてくれないのか。

 なぜ丹羽のことをみんなが忘れてしまったのか。

 なぜ自分と同じように丹羽のことを憶えていた園子に勇者部の皆はあんな敵意に満ちた視線でにらみつけたのか。

 考えても考えても、答えは出ない。いや、答えは出ているがそれを認めたくなかった。

 丹羽明吾は勇者にとって敵なのだという事実を。

 園子はこの状況を神樹様が作ったと言っていた。自分に気に入らないことを言ったから。三ノ輪銀の魂を身体に返してと頼んだために。

 それはこんな状況に彼を追い込むほど大それたお願いだろうか? 三ノ輪銀は身体も健康で、あとは意識を取り戻すのをみんなが待ち望んでいる状態だ。

 目を覚まして喜ぶ人間はいるだろうが、このままの状況で喜ぶ人間などいない。

 神樹様は人類の味方なのではなかったのか? だったら神樹様と四国を守るために戦った勇者の魂をすぐ返してほしいと思う。

 それに、どうして満開の代償に勇者の肉体を供物として奪うのか。これでは勇者は戦う度に日常生活が困難になり、戦うことを尻込みしてしまう。

 これでは神様ではなく悪魔だ。力を得る代償に何かを奪おうとするなど、悪魔そのものではないか。

 そもそもどうして自分たちは神樹様を信仰しているのだろう? 

 両親が信仰しているから? 国が信仰しているから? 四国で絶大な権力を持っている大赦が信仰しているから?

 神樹様のおかげで四国には恵みがもたらされているというが、それを誰が確かめたのか。

 野菜やお米を作っているのは農家の人だし、四国を襲う脅威であるバーテックスと戦っているのは自分たち勇者だ。

 ひょっとして、自分たちは生まれたころから神樹様に助けられていると騙されていたんじゃないだろうか。

 そんなことまで考えていた東郷の耳に、懐かしい声が聞こえてきた。

 姿を消してからずっと聞きたくて、探しても見つからなくて。

 ついには疲れて夢の中では会えるかと部屋に閉じこもってしまった自分がずっと聞きたかった声。

「丹羽、君?」

 顔を上げると、そこには白い勇者服の少年がいる。

「はい、ただいま戻りました。東郷先輩」

「丹羽君!」

 会いたかった! ずっとずっと会いたかった!

 思わず抱き着いた東郷を彼は受け止めてくれる。その感触が夢でないのだと伝えてくれた。

「夢じゃない? 本物? 本当に丹羽君なの!?」

「えっと、偽物の俺がどういうのかわからないんですが。多分東郷先輩が憶えている俺だと思います」

 困った顔で言う彼に、思わず涙があふれる。

 ああ、やっぱり丹羽明吾という少年はいた。いや、間違いなくいるのだ。

「私、みんながあなたのこと憶えてなくて、人類の敵って言われて……そのっちが大赦に投降して、友奈ちゃんと風先輩と樹ちゃんが怖い顔でそのっちを見て、私もそういう風になるのかと思ったら怖くて」

「そうですか。大変だったんですね」

 胸に顔をうずめて泣きじゃくりながら言う東郷の言葉を丹羽は優しく聞いてくれる。

 これではどちらが先輩なのかわからない。

「ねえ、丹羽くんが神樹様に三ノ輪銀さんの魂を返してって頼んだのは本当なの? どうして私に黙ってそのっちと一緒に? 神樹様はどうしてあんな神託を」

「ゆっくり話したいんですけど、まずはこの状況をどうにかしないと」

「え?」

 その言葉にようやく東郷は周囲を見る。

 今居る場所は自分の部屋ではなく樹海だった。近くには怖い顔をした後輩の樹が丹羽をにらみつけている。

「東郷先輩を離して!」

 言うや否やこちらに向かってワイヤーを放ってくる。

 それを丹羽は必死に避けていた。よく見れば自分は丹羽に抱き抱えられており、いわゆるお姫様抱っこというような状況だ。

「ちょっ、丹羽君⁉ 恥ずかしいから離して!」

「いや、東郷先輩が最初に抱き着いてきたんですが」

「この卑怯者! 東郷先輩を盾にするなんて!」

 どうやら樹は東郷が丹羽に密着しているため思うように攻撃できないらしい。同じように丹羽も東郷を抱きかかえているため逃げることに専念している。

 このままではジリ貧だ。しかも時間が経てばたつほどここにはいない他の勇者部のメンバーが集まってきて状況は悪くなる一方だろう。

 東郷は決意した。

「丹羽君、私を置いて逃げて! 早く」

「東郷先輩!?」

「このままじゃ風先輩や友奈ちゃんが合流しちゃう。その前に、早く!」

 東郷の鬼気迫る表情に、丹羽はうなずき東郷を樹海の上に降ろす。

「じゃあ、東郷先輩、また――」

「させない!」

 言葉と共に樹のワイヤーが丹羽に絡みつく。

「樹ちゃん!?」

「人類の敵! お姉ちゃんやみんなが戻ってくるまで拘束させてもらうよ」

「くっ⁉」

 丹羽は何とか樹のワイヤーから逃れようとしているが、そのたびに身体にワイヤーが食い込み身体を傷つけていく。

 やめて、樹ちゃん。こんな、こんなのって…。

「いやぁあああああ!」

「東郷先輩!?」

 気が付けば東郷はスマホをタップして変身していた。銃口を仲間である樹に向け、懇願する。

「お願い樹ちゃん、丹羽君を離してあげて!」

「東郷先輩、あなたはこのにわみんごっていう人類の敵に洗脳されて騙されているんです。お願い、元の東郷先輩に戻ってください!」

「違う! 騙されているのは樹ちゃんや風先輩のほうなの! お願い、信じて!」

 まずい。恐れていた事態になったと丹羽は思う。このままでは勇者同士での殺し合いになってしまう。

「2人とも落ち着いて。東郷先輩、銃をしまってください!」

「嫌、嫌、嫌ぁあああ! これ以上、丹羽君のことを否定しないで! 丹羽君は私たちと同じ勇者で、仲間なのよ!」

「東郷先輩っ!」

 銃声が響いた。

「あっ、あっ……」

 東郷の手から銃が落ちる。

「なんで…」

 自分をかばった人類の敵に、樹は困惑した。

 東郷が樹に向けて銃を撃った瞬間、丹羽は自分の身体がワイヤーで引きちぎれるのも構わず射線上に立ち樹を守ったのだ。

「丹羽君…? いやぁあああああ!」

 駆け寄る東郷に、丹羽は笑う。気にするなというように。

「東郷先輩、仲間を撃つのは違いますよ」

「でも、でも丹羽君が…私、本当に撃つつもりは」

 いや、確実にかばわないと樹ちゃんに当たってましたってと丹羽は思う。多分東郷はワイヤーを使う手を狙ったんだろうが、それでも丹羽は看過できなかった。

 勇者部の仲間同士で傷つけあうということは。

「東郷先輩、実は俺、バーテックスなんです」

「えっ?」

「ほら、血。紫でしょ? 人間じゃないんですよ。だから、気にする必要はないんです」

 にこりと笑う丹羽に、東郷は膝をつく。

 こんな状況なのに自分を気遣ってそんな嘘をつくなんて。

「セッカさん、アカミネさん、シズカさん」

 丹羽が告げると3体の精霊が出てきた。

「ごめんなさい、せっかく来てもらったのに。3人の出番はなさそうです」

 謝罪の言葉に3体は首を振り、セッカが樹の胸の中に入る。

「え、なに…こんな記憶、わたし知らない」

 何か様子が変だ。見ていると急に驚いた顔になり丹羽に駆け寄る。

「丹羽くん、なんで?! どうしてわたしこんな大切なこと忘れて」

「樹ちゃん…?」

「東郷先輩、わたし、わたし」

 目に涙をためた樹が丹羽と東郷を交互に見ている。ひょっとして彼女も思い出したのだろうか。

 だが、どうしようもない。今更思い出したところで。

 なぜなら彼はもう東郷の腕の中で息を引き取ったのだから――。

 

 BADEND【にわ、お前だったのか…】

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 その時、不思議なことが起こった!

 

 はっ⁉ なんだ今のイメージは。

 丹羽は突然の白昼夢に混乱する。メガロポリスに顔をうずめながら死ぬというある意味幸せな死に様だったが、ここで自分が死ぬわけにはいかない。

「丹羽君、私を盾にしなさい」

「ファッ?!」

 唐突に告げられた東郷の言葉にさらに混乱した。

「樹ちゃんは私がいるとあなたにうまく攻撃できない。だから」

「なるほど。了解です」

 言うや否や丹羽は東郷を抱えたまま、樹に突進する。

「卑怯者!」とののしる樹の言葉が聞こえた。

 卑怯結構。どうせ四国中の人間から人類の敵認定されたこの身だ。こうなったらとことんやってやる!

 丹羽は樹に向かって東郷を放り投げる。樹は慌てて東郷を受け止めるためにワイヤーで優しく包んでいるが、それが最大の隙となった。

「セッカさん!」

『はいよー』

 丹羽が樹にタックルし、樹を樹海の地面に押し倒す。それと同時に宙に現れたセッカが樹の胸の中に入っていく。

 夏凜が記憶を取り戻したきっかけはセッカだった。だったら、同じようにセッカと仲が良かった樹もこれで記憶を取り戻すはず。

 これは賭けだ。しかも分の悪い方の。

 だがこれで樹が記憶を取り戻してくれれば、少なくとも東郷が孤独である今の勇者部の現状は正すことができる。

 さあ、どうだと丹羽は樹を見る。

 変化は見られない。必死に上に覆いかぶさった丹羽から抜け出そうと抵抗していた。

 だが今丹羽が一体化している精霊は赤嶺友奈をモデルにしたアカミネ。対人戦闘のエキスパートだ。

 ちょっとやそっとでは抜け出せないはず。さあ、どうだ!

「……なにをしているのかしら、丹羽君?」

 その時ぞっとするような冷たい声が背中からかかった。

 ギギギと油の切れた人形のようにそちらを見ると、黒いオーラ全開の東郷が仁王立ちしている。

「確かに私は盾にしろと入ったわ。でも放り投げていいとは言っていない。しかも戻ってきてみれば樹ちゃんを押し倒しているなんて」

「ち、違うんです東郷先輩! これには理由が」

「破廉恥!」

 東郷の渾身のヤクザキックが丹羽の横腹に決まった。

 変身前とはいえ結構な威力で丹羽は樹の上から強制的に引きはがされ、ゴロゴロと樹海の地面の上を転がる。

 この人、変身しなくても充分強いんじゃないか?

「いてて、だから、違うんですってば東郷先輩!」

 抗議の声を上げた丹羽に手を差し出したのは、意外なことに樹だった。

「大丈夫、丹羽くん?」

「丹羽くんって、樹ちゃん。記憶が」

 東郷に問われ、樹はうなずく。よかった。賭けには勝ったらしい。

 ほっと一息つく丹羽に、にっこりと樹は微笑む。

「この…馬鹿丹羽くん!」

「えぇ―っ!?」

 それはそれは腰の入ったビンタだったと後に東郷は語る。

「女の子を無理やり押し倒して、わたし何度も胸を叩いたのに全然どいてくれなくて! しかも足まで絡ませて!」

 ぽかぽかと丹羽の胸を叩く。だが全然痛くないのでダメージはゼロだ。

「もうダメだって思った時にいつも来てくれて! なんでわたしを助けてくれるの!? そんなに親切にしてもらったら女の子は勘違いするんだよ! 自分が特別なんじゃないかって思っちゃうじゃない!」

 ん? 何の話だっけ?

 首をひねる東郷に、樹はまだ丹羽に対して怒りが収まらないのか、胸を叩き続ける。

 それを丹羽は東郷がよく知る優しい顔をして抵抗せず受け止めていた。

「意地悪言うくせに優しくて、それが当たり前で、気づかないうちにわたしも甘えちゃって! 急にいなくなって部活で初めて重いもの持った時、翌日筋肉痛だったよ! 丹羽君が手伝ってくれたらこんなことにならなかったのに! ううん、丹羽君がいなかったらわたしにも筋肉ついて楽々運べたのに!」

「じゃあ、俺はこのままいない方がいいですか?」

「いいわけないじゃない! 丹羽くんの馬鹿!」

 樹の目から涙がこぼれている。

「夕ご飯だってお姉ちゃん作りすぎて体重増えちゃったよ! 責任取ってよ! 毎日家にご飯食べに来てよ! じゃないとわたしブタさんになっちゃう!」

「でも、俺寮に帰っちゃったし」

「解約してまた戻ってきなさい! これ、命令だから! お姉ちゃんも口に出さないけど、ずっと寂しがってるんだよ!」

 言ってることが無茶苦茶だ。だが、微笑ましいやり取りに久しぶりに東郷の顔に笑顔が浮かぶ。

「丹羽くんがいないせいでわたし今度女の子グループと男の子グループの遊びに誘われちゃったんだよ! どうしてくれるの!」

「え、どこ誰ですかそのふてえ野郎は。ぶっ潰してやります!」

 樹は丹羽の胸に顔をうずめ、「そうだよ!」とくぐもった声を出す。

「丹羽くんはわたしのことを守ってくれないとダメでしょ! お姉ちゃんとの百合イチャを見るために、守ってよ。ちゃんとそばにいて安心させてよ!」

 その言葉に東郷は思う。ああ、この娘も丹羽君を大切に思っていたんだなと。

「そばにいて迷惑をかける丹羽君も大嫌いだけど、勝手にいなくなって安心させてくれない丹羽くんはもっと大嫌い!」

「どっちにしろ大嫌いなのでは?」

「そうだよ。だってわたし、丹羽くんのこと大嫌いなんだから!」

 樹ちゃん。大嫌いな人にはそんな笑顔は見せないわよ。

 かわいい後輩の笑顔を見ながら東郷はそんなことを思う。

 勇者部1年生組の丹羽と樹は片方が保護者で、片方は大嫌い。

 でも互いに大切に思っていて、いなくなったら泣くほどつらい思いをする。

 そんな不思議な関係だった。




Q.なんで双子座もどきが3体も出たの?
A.天の神の粋な計らい。ぶっちゃけ「俺を踏み台にしたぁあああ⁉」がやりたかった。
  ゆゆゆいで赤嶺ちゃんもやってたし。いいよね?
Q.なんで双子座に御霊がないの? 本編では御霊があったのに。
A.普通に忘れてました。それに御霊ありだと複数同個体が出せないし、もどきの方が都合がいいし。

 夏凛ちゃんがいなければ勇者部戦闘前に内部崩壊してた説。
 公式勇者部大好きっ娘はサスガダァ…。


精霊:「アカミネ」
モデル:山本五郎左衛門+赤嶺友奈(造反神)
色:白(バーテックス専用)
レアリティ:SSR
アビリティ:「造反神に召喚された勇者」
効果:ゆゆゆいバーテックスに命令して操ることができる。あるいは取り込んで能力を強化する。
   ナツメと共に勇者として変身すると全能力アップ。

 髪が白いこと以外はゆゆゆいに出てくる造反神側の勇者、赤嶺友奈のSD姿。
 勇者の力の欠片である英霊碑を取り込み生まれた人型精霊。
 友奈シリーズの宿命なのか近接戦闘特化。他の友奈とは違い対人戦闘に特化している。
 なぜきらめきの章以後のブレイアブルキャラになった赤奈ではなく敵対していた頃の赤奈なのかというと、単に人型のバーテックスの趣味。
 お姉さまことナツメが大好きで、猛アプローチしている。
 もちろん鏑矢組の2人も大好き。
 変身した丹羽と一体化すると白い勇者服に桃色のラインが入り、友奈と同じように拳で戦うことができるようになった。
 さらに強化版人間型星屑である丹羽明吾でも人型のようにゆゆゆいバーテックスを操れるようになり、人型のバーテックスが作ったゆゆゆいバーテックスと融合してパワーアップしたりできる。
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