詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
樹ちゃんが丹羽君のことを思い出して東郷さんも元気になりました。
丹羽「このチェーンジ・アタッカハンドの元ネタって仮面ラ〇ダースーパー1?」
(+皿+)「ああ。ニコ〇コ動画で毎週放送してたからな。俺はB〇ackから見てるぞ」
丹羽「元ネタは5つの腕だったけど、俺のは何個あるんだ?」
(+皿+)「腕はアタッカ、グリッドサンド、カデンツァ、フェルマータ、タチェット、マエトーソ、スケルッツォの7つ。足はフェルマータ、ロンド、カノン、コンフォーコの4つだ。変身形態は頭の部分のない〇ーズかビ〇ドに近いな」
丹羽「そうなんだ。特撮好きじゃないとついていけない会話だな」
(+皿+)「そもそもお前の精霊を内に入れて別フォームっていうのも仮面ラ〇ダー電王が元ネタだし」
丹羽「そうなの!?」
記憶が戻り感情があふれ出して泣いていた樹が落ち着くと、丹羽は2人を見守っていた東郷に声をかけた。
「東郷先輩、ナツメさんを返してもらっていいですか? 代わりにシズカさんが中に入りますから」
『どーもー!』
言葉と共に宙に関西弁をしゃべるポニーテールの人型の精霊が現れる。
ゆゆゆいでもまだ謎が多い鏑矢世代の巫女、桐生静をもとに作られた精霊のシズカだ。
丹羽が今変身しているアカミネも含めてテラフォーミング中の中国地方で生まれた。今回の双子座戦に向けて治療を受けたセッカを含めた3体を身体の中に入れてきたのだ。
「丹羽君、また精霊が増えたの? そういえば私の中にいたのはセッカだったはずなのにいつの間に」
「しかもまた女の子…丹羽くんはハーレム願望でもあるの?」
自分の中にナツメがいることに困惑する東郷となぜか厳しい目でこちらを見る樹。
「四国を脱出する前に東郷先輩の様子を見に行った時、ナツメさんとセッカさんを入れ替えたんです。セッカさんだと東郷先輩を高熱にしていた神樹の怒りを追い出し切れなかったので。それと犬吠埼さん、そんなものは俺にはない」
「ええっ!?」
丹羽の言葉に東郷は驚く。
そうか、急に熱が引いて楽になったとき部屋に誰かがいたような気がしたが、あれは丹羽だったのかと納得する東郷。
一方で「え~、本当に~?」と樹はどこか疑わしい視線を送っている。
「ありがとう。私、また知らない間にあなたに助けられていたのね」
「お礼ならナツメさんに言ってください。身体が治ったのもナツメさんのおかげなんですから」
その言葉に東郷の胸元が光り、中からナツメが出てきた。
『礼ならいい。東郷があのままだと風も悲しむ。それに私は口下手だから、セッカのように気落ちした東郷を励ませなかった。すまない』
謝るナツメに、東郷は首を振る。
「そんな、あの時落ち込んだのは全部私の…。私、ずっと自分のことばかりで、誰かに相談しようなんて考えられなくて。ごめんなさい」
「東郷先輩が謝ることじゃ! あの状況に追い込んだのはわたしたちが丹羽くんのことを忘れちゃったせいで」
「それを言ったら俺がみんなの前から勝手にいなくなったのがそもそもの原因ですし」
東郷の言葉に樹が、樹の言葉に丹羽が必死にフォローしていた。
それに対してまた東郷がフォローしようとして気付く。これではいたちごっこだ。きりがない。
「やめましょうか。誰が悪いとかそういう話題は」
「ですね」
「はい」
3人がうなずき、シズカが東郷の胸の中に入り、ナツメが丹羽の中に入る。
白い勇者服に水色のラインが追加され、桃色と水色の2色のラインが勇者服に走っていた。
「丹羽君はこれからどうするの? 四国には戻ってこないつもり?」
「そんな! 丹羽くん帰ってきてよ」
東郷の問いかけに、樹は丹羽の勇者服をつかみ懇願する。
「ごめん、犬吠埼さん。俺は人類の敵だから…もう四国に戻ることはできない」
「人類の敵って…わたしがお姉ちゃんやみんなを説得するよ! だから」
「樹ちゃん」
黙って首を振る東郷に樹は思い出す。同じようなことをしようとした東郷に、自分たちが何をしたのか。
「……ごめんなさい、東郷先輩」
「いいのよ。あの状況では仕方なかったんだから」
顔を伏せる樹を東郷が優しく抱き寄せる。
「あら^~たまにはみもいつもいいよね」
「丹羽くん、顔」
「あ、すみません」
相変わらず変わり身が早い。懐かしいやり取りに思わず笑ってしまう。
「お姉ちゃんや友奈さんの記憶は戻さないの?」
「うーん、時間と相談ですかね。俺がここにいられるのは樹海化が解けるまでだし、それまでにできる限りのことはしたいですけど」
「そういえば、敵を倒したのにまだ樹海化が解けないわね」
東郷の言葉に樹はスマホを開きアプリで樹海の地図を表示する。
「っ、これ!?」
たしかに双子座はすでに消滅して画面の地図からは消滅していた。
だが代わりに【人類の仇敵】と表示された赤い丸が樹と東郷のそばに表示されている。
樹は急いで丹羽と東郷にその画面を見せると、2人は難しい顔をした。
「まさか、神樹がここまで本気だったとは」
「丹羽君を倒すまで樹海化を解かないってこと? そんな」
神樹様はどうあっても丹羽明吾を人類の仇敵として滅ぼしたいらしい。
なぜ彼がこんな目に合わないといけないのか。樹は今まで人に抱いたこともない感情が自分の胸の奥から湧き上がるのを感じる。
「だけど、ある意味この状況はチャンス、なのかも」
丹羽のつぶやきに、どういうことかと2人は丹羽を見た。
「タイムリミットがあると思ってましたが、これなら作戦を立てて事に当たれます。今のまま2人を四国に返しても姉妹喧嘩したり勇者部を2つに分けた冷戦状態になりかねませんし」
たしかにそうだ。それは彼も自分たちも望むものではないだろう。
「私たちにできることはある?」
「そうだよ。遠慮なく頼って!」
東郷の言葉に樹も声を上げる。
これが少しでも彼に恩を返すことに繋がればという打算もあったが。
「じゃあ、いざというときは俺のこと、忘れてくれますか?」
「怒るわよ、丹羽君」
「それだけは、絶対に、嫌!」
丹羽の提案はすぐさま却下された。
丹羽としては割と本気の提案だったのだが、質の悪い冗談だと思われたらしい。
しかたない。怒られないために、これは絶対に生き残らなければならないなと丹羽は決意する。
「できれば何もしないでください。俺としては勇者部の皆が戦って傷つけあうのが最悪の展開なんですから」
「それは…うん、わかったわ」
丹羽の言葉に東郷はうなずく。
先ほど丹羽に自分を盾にせず置いて逃げろと言っていたら自分は変身して樹に銃口を向けていただろう。場合によっては彼の言うように勇者部の仲間同士で殺し合いになっていたかもしれない。
多分そうなったらどうあっても彼は傷つくだろう。東郷をとらえようとする樹のワイヤーに切断されるか、樹を無力化しようとする東郷の銃弾に撃たれて死んでしまうか。
なぜかそんな場面が想像できてしまった。
「まずは、犬吠埼先輩の記憶を取り戻してきます。その後に結城先輩を」
「でも地図によれば友奈さんの方が近いよ?」
樹の言葉に丹羽は首を振る。
「犬吠埼先輩の記憶を取り戻すための精霊はナツメさんで確定してます。でも、結城先輩の記憶を取り戻すために必要な精霊は、いないんですよ」
丹羽の精霊の中に友奈と特に親しい精霊はいなかった。
強いて言えばバーテックスの講義をしていたセッカを「せっちゃん」と呼んでいたが、他の人型の精霊にも同じように接していたように思う。
彼女が特にかわいがっていたのは自分の精霊の牛鬼だ。それ以外の精霊とは特に親交はなかったはず。
逆に風とナツメはプロポーズしたされた間柄だ。ナツメは風のことが大好きだし、これ以上の精霊はいないだろう。
「気を付けてね、丹羽君」
「ちゃんと帰ってきてね。帰ってきたら丹羽くんの好きなサラダうどん作ってあげるから」
「いや、犬吠埼さん。それ死亡フラグ。それに俺は別にサラダうどんそんなに好きなわけじゃ…」
サラダうどんはうどんをゆでて生野菜を盛るだけなので、樹の料理の腕でも比較的成功率が高いというだけなのだが。
「え? 好きだよね、サラダうどん。カレーうどんの方がよかった?」
「サラダうどん大好き!」
以前しょっつるとかを使って作り出した物体Xを思い出し、丹羽は前言を撤回する。
「じゃあ、行ってきますね。東郷先輩、犬吠埼さん」
笑顔でそう言うと丹羽の足が見たことのない形になる。まるでバーテックスと融合したみたいだ。
「その足は?」
「アカミネさんと一体化するとバーテックスと融合してパワーアップできるんですよ。これは速度上昇の足ですね」
説明を受けていた東郷はそれが以前どこかで見たような気がする事に気づく。
「バーテックスと融合ってどういうこと⁉ それにそのバーテックス、以前どこかで見たような…」
「おっと、そろそろ結城先輩がこっちに来ちゃう! 行かなきゃっ!」
もっとよく見ようと近づこうとした東郷から逃げるように丹羽は樹海の上を駆け抜けていった。
なにか怪しい…。
「東郷さーん! 樹ちゃーん! 無事?」
丹羽と入れ替わるように友奈がこちらへ向かってくる。どうやら鉢合わせはしなかったらしい。
「友奈ちゃん。双子座もどきは樹ちゃんが」
「はい、頑張りました」
「そっか。樹海に来たら東郷さんも元気になったみたいでよかったよ」
にっこりと笑う友奈に東郷は違和感を感じた。
「友奈ちゃん、どうしたの?」
「え?」
「どこか怪我したの? 大丈夫?」
「あははは、変な東郷さん。大丈夫だよ、どこも怪我なんて」
「だって、友奈ちゃん痛いのを我慢している顔をしてる」
「っ!?」
東郷の言葉に樹が見てもわかるほど友奈は動揺している。
「なんで…そんな」
「え?」
友奈が拳を握り何かを呟いた。遠かったのでよく聞こえなかったが、振り絞るような声だ。
「友奈ちゃん?」
「大丈夫! 東郷さんと樹ちゃんは何も気にしなくていいよ。私に任せて!」
そう言うとにっこりと笑顔を浮かべる。それは東郷が見たらすぐに無理した作り笑顔だとわかるものだった。
「友奈ちゃん。迷ったら相談。それが勇者部のはずよね」
「そうですよ友奈さん。もし何か悩んでいるなら」
「大丈夫だって。2人とも心配性だなぁ」
友奈は貼り付いたような笑顔でスマホを操り、地図が表示された画面を見て「よしっ!」とうなずく。
「じゃあ、行ってくるね。絶対
丹羽がいるであろう樹海の前線に向かって2人に手を振り、友奈が走っていく。
おかしい。今の友奈はおかしい。それに今の会話、どこか違和感が…。
「あっ」
考え、東郷は思い至った。
友奈は丹羽のことを人類の仇敵とは呼ばず、丹羽君と呼んでいた。
風でさえ「丹羽明吾」というフルネームか、人類の敵と呼んでいるのに。彼女だけが以前と同じように君付けで呼んでいる。
どうして? ひょっとして、彼女は丹羽明吾のことを憶えている?
だとしたらなぜ東郷が聞いた時「知らない」といったのか?
疑問をそのままにできるほど、東郷は無能ではなかった。
スマホをタップし、スカイブルーの勇者服に変身する。
「東郷先輩!?」
「行きましょう樹ちゃん。何か嫌な予感がする」
丹羽には何もするなと言われたが、その約束は守れそうにないかもしれない。
東郷は友人が間違った道に進もうとしていたら、彼との約束を破ってでも止めるつもりだった。
スマホの地図アプリを見ながら樹の元へ向かっていた風は困惑する。
双子座もどきを表すアイコンは樹の近くで止まり、その後消滅した。
妹が御霊なしとはいえ巨大バーテックスを倒してくれたことに、風はほっとすると同時に妹の成長に驚いたものだ。
だが今度はその隣にまた赤い点が付き、そこには【人類の仇敵】と表示される。
これはどういうことだ? 双子座の中から人類の仇敵が出てきたのか?
混乱する風は樹の元へ急ぐ。早く、早く樹を助けに行かないと。
そう思っていたら友奈が樹と東郷の元に近づくと、その人類の仇敵は樹の元から離れてこちらに向かってきた。
見ればその人類の仇敵はすごい速さでこちらに向かってきている。もうしばらくすれば目視で視認できる距離だ。
「来るなら来なさい」
やって来た友奈を見て2体1は不利だと悟ったのか。前衛と後衛の間で孤立している自分に狙いを定めたらしい。
相手はなめてかかって来たのだろうが、こちらは勇者部部長だ。返り討ちにしてやる。
風は走るのをやめ、敵の襲撃に備えて大剣を構えどこからでも来いと集中した。
やがて現れた白い服の人型の敵に、風は奇妙な感覚に陥る。
初めて会ったような気がしない。むしろ自分は目の前の敵をよく知っているような…。
いや、気のせいだ。相手は人類の敵。もう精神攻撃が始まっているのかもしれない。
「犬吠埼先輩。一応先に言っておきますけど、俺に敵意はありません。武器を収めてくれませんか?」
人間のような姿で人間のような言葉を話せば相手が油断すると思っているのだろう。
なぜ自分のことを犬吠埼先輩などと呼ぶのか疑問に思ったが、それも敵の能力なのだろう。風はその言葉を無視する。
当然武器を手放すつもりはない。これが答えだと言わんばかりに風は人類の敵に斬りかかった。
「っ、ダメか⁉」
人類の敵は風の剣を躱し、インファイトに持ち込もうとする。
だがそれは想定済みだ。友奈ほどではないが風も格闘戦は得意だ。
相手の服をつかみそのまま巴投げでぶん投げようとしたとき、人類の敵の腕が光りに瞬く。
「マエトーソ・ハンド。スタン」
次の瞬間電撃が風の身体を襲った。
体がしびれて動かない。しまった! 組み合うこと自体が罠だったか。
「ごめんなさい、犬吠埼先輩。でも、これで」
人類の敵、丹羽明吾がこちらに向かって手を伸ばしてくる。
ダメだ。ここで自分が倒れたら誰が勇者部の皆を、妹を守るんだ。
アタシが頑張らないと。勇者部部長、犬吠埼風は奮起する。
幸いにも先ほどの戦闘で空になった満開ゲージは充分たまっていた。
あとは決意するだけ。
「満開!」
「なっ!?」
丹羽明吾が驚いている。相手もまさかこの状態から切り札を出すとは思わなかっただろう。
さあ、今度はこちらがやり返す番だ。風は人類の敵を攻撃しようと大剣を振りかぶる。
「それは……それは違うでしょう。満開は、みんなと相談して…決して1人で抱え込まないってあの時言ったじゃないですか!」
自分を見つめる丹羽明吾の悲痛な顔に、風はなぜか胸が痛んだ。
なぜそのことを知っているのか。そんなことはもうどうでもよかった。
こいつさえ倒してしまえば、風も、勇者部の皆も、誰も彼ももう悩む必要はないのだから。
ゆゆゆいバーテックスのマエトーソの力を使って風の動きを止め、その間にナツメを身体の中に入れて記憶を取り戻す。
そんな単純な考えでいた丹羽は己の考えの浅さに怒りが沸いていた。
彼女は勇者部で2番目にメンタルが弱いくせに責任感だけは人一倍強い少女だ。
それが四国を滅ぼすと神託されている自分に対してどんな感情を向けているか、考えればわかることだったのにと。
おそらく風は自分が差し違えてでも丹羽明吾という人類の仇敵を滅ぼそうとしている。
あれだけ勇者部の皆に禁止していた満開まで使って。
今まで自分は勇者たちに満開をさせないために戦ってきたが、その自分が原因で彼女を満開させてしまうとは…皮肉にしてはキツすぎないか神樹様よ。
丹羽は歯噛みする。もっと彼女のことを考えるべきだった。慮るべきだったのだ。
ここまで彼女を追い詰めたのは、他でもない自分。
「なんでアンタがそんなことを…いや、どうでもいい! 人類の敵、必ずアタシが倒す!」
風の大剣が丹羽に迫る。
よく風の満開は他の勇者に比べて「地味」だとか「実はバーテックス1体も倒していない」とかネタにされるが、そんなことはない。
あのレオの巨大な火球も受け止めて押し負けないほどだし、純粋なパワーアップという点では正当な形だろう。
まあ、園子を含め他の5人がチートじみてるだけなのだが。
日輪のような輪を背負い、神道の神官のような衣装となった風に丹羽はどう対応しようか攻撃を避けながら考える。
下手に攻撃を受け止めるのは悪手。人型のバーテックスならともかく、自分の身体が耐えられるとは思わない。
逃げ続けるのも悪手だ。こうしている間に友奈が追い付いて彼女まで戦闘に加わったら間違いなく自分は死ぬ。
最善手はたとえ自分が傷ついても最速で風に組み付き、ナツメを体内に入れて記憶を取り戻す!
決意をすると丹羽は大剣を振り回す風の隙を伺う。
――今!
攻撃の前段階、わずかにできた隙を見逃さず丹羽は風に向かい突っ込む。
だが、それは風がわざと作った隙だった。
「え?」
視界が縦に二分割される。
ややあって、自分の身体が風の大剣によって真っ二つに切断されたのだと知った。
ああ、焦りすぎて失敗したなと反省する。こんな終わりになるなら、樹の記憶を取り戻さなければ…よか、た。
丹羽明吾の意識はそこで消滅した。
BADEND【丹羽君、真っ二つ】
………
……
…
その時、不思議なことが起こった!
はっ、今のは⁉ 俺の身体ちゃんとくっついてる!?
丹羽は思わず自分の身体を見た。ちゃんと正中線から右半身と左半身はサヨナラしていないことにほっと息をつく。
改めて満開状態の風に向かい合う。風は作った隙に飛び込んでこなかった丹羽に警戒しているようだ。
焦るな、落ち着けと丹羽は心の中で自分に告げる。むやみに突っ込むのと考えた末での行動は違う。
ここは自分の持てる最高の手段で風を無力化する!
「マエトーソ・ハンド、スタン!」
とりあえず初手電撃は基本。風の持つ大剣に向けてさっき放ったものよりも強力な電撃を放つ。
「くっ⁉」
大剣を通じて風に電撃が届くここを期待したが、そうはいかないらしい。だったら!
「チェーンジ・アタッカハンド!」
力技で大剣を叩き落す。
「なんだか小細工をしているみたいだけど、食らえええ!」
風が電撃をまとった大剣をこちらに振り回してくる。
それを丹羽はスウェーで避けていく。当たれば必死。ギリギリの距離でどんどん風との距離を縮め、ついに大剣の根本にたどり着く。
「勇者パーンチ!」
「なっ!?」
放たれた渾身の一撃に風の大剣は宙を舞い、樹海に突き刺さる。
「ナツメさん!」
『了解した。主』
丹羽がすかさず風を地面に押し倒し行動を封じると、現れたナツメが風の胸元に入っていく。
『風の作る料理はうまいな』
『風を娶るのは私。これは譲れない』
『風、毎日私のために味噌汁を作ってくれ』
『? 風がどれだけいい女かみんなに知ってほしかったからだ。その上で私は主へ風を娶ると宣言する』
『やはり風の胸枕は世界一。主でもここは絶対譲れない』
風の記憶の中からナツメとの記憶がよみがえっていく。同時にその宿主である丹羽の記憶も。
最初会った時、状況を説明する自分に悪いのは大赦だと言ってずっと抱えていた罪悪感を軽くしてくれた。
3体同時に訪れた蟹座、射手座、蠍座戦では嘔吐する自分の背を優しくなでてくれたっけ。
生まれて初めてのデートではどちらが払うか揉めたこともあったが、楽しかった。男の子に服を買ってもらうなんて初めての経験だ。
それから、それから、それから。
どんどんとダムの放流のようにとめどなく丹羽との記憶があふれてくる。その時掛けてくれた言葉も、その時受けた感情も。
どうして自分はこんな大事なことを忘れてしまっていたんだろう?
「に、わ?」
瞳を見ると、安心した顔の丹羽が風に微笑む。
「はい。思い出してくれましたか? 犬吠埼先輩」
「丹羽、丹羽! この馬鹿!」
風は涙を流し自分に覆いかぶさっている丹羽に抱き着く。
それと同時に満開が消え、いつもの勇者服へと戻った。
満開の後遺症で左目の光が失われていく。それを見て丹羽の表情が陰るが、風は気付かない。
「いや、馬鹿はアタシだ。東郷があんなに言ってたのに大赦の言うことを鵜呑みにして! アンタのことを思い出そうともしなかった! ごめん! ごめん」
「仕方ないですよ。今の俺は人類の敵なんですから」
泣きじゃくる風を優しく慰めてくれる。
この場に他の誰もいなくてよかった。勇者部部長のこんな情けない姿なんて見せられない。
「丹羽、なんでみんなアンタのことを忘れちゃったの? それに神樹様がアンタを人類の敵って神託をしたのはどうして?」
「えっと、話せば長くなるんですが……っ!?」
どこから話そうかと考えていた丹羽は、自分に向けられた殺意に風を抱え横に転がる。
「ちょ、丹羽⁉」
ドゴン! と音がして先ほどまで自分がいた樹海の地面がえぐれていた。相変わらずの破壊力に冷や汗が流れる。
「犬吠埼先輩まで、殺すつもりだったんですか? 結城先輩」
最後に立ちはだかる勇者部最強の存在。いや、バーテックスにとって最強の天敵に向かって丹羽は言う。
「うん。だって、神樹様の言うことは絶対なんだよ。丹羽君は絶対に滅ぼさないと」
勇者パンチを放った結城友奈は、こともなげに言う。
「風先輩が命を懸けて人類の敵を抑えてくれてたんだもん。私はその覚悟に報いるよ」
「違うのよ友奈、これは⁉」
風が友奈を必死に説得しようとしていたが、多分彼女の耳には入っていないだろう。
なぜなら彼女の瞳には人類の仇敵である丹羽明吾しか目に入っていないのだから。
四国に生きるものにとって神樹様は絶対の存在である。
生まれてからずっと両親が、教師が、政治家が。すべての人間がそう教えてきた。
そして学校で行われる神樹様への「拝」。これも神樹に対する信仰心を刷り込む立派な手段だ。
つまるところ四国に生きるものにとって、神樹様のお告げである神託は絶対であり、逆らったり疑問に思う方がおかしい。
ましてや彼女の元になったのは神樹に取り込まれた勇者、■■■■である。
彼女以上に神樹の熱心な信徒は存在しないだろう。
「結城先輩。俺はあなたに敵意はない。だから」
「うん、じゃあ抵抗せずに死んで」
勇者パンチ。
完全に油断していた丹羽に彼女が放った渾身の一撃が突き刺さる。
「友奈⁉ 丹羽ぁあああっ!」
風の悲鳴が樹海に響く。
丹羽は吹っ飛び樹海の地面に何度もバウンドして腹を抑えうずくまった。
まずい、まずい、まずい。
7つの御霊を持った水瓶座戦でもここまで絶望的な状況ではなかった。
敵として対峙して改めてわかる。彼女はまさしく自分の天敵だ。
現にたった一撃でバーテックスの肉体がもう限界だと悲鳴を上げている。
「勇者ぁあああキーック!」
追撃の勇者キックを丹羽は転がるようにしてギリギリ躱す。
「勇者パンチ! パンチ、パンチ、パンチ、勇者キーック!」
連撃。そのどれもが文字通り必殺。
何とか立ち上がりフェルマータの足で逃げ回る。
こうなったらしっぽを巻いて逃げた方がいいかもしれない。
自分が生き残るためにはそれが最善手だ。
だが、それでも丹羽明吾という勇者は。勇者を守る勇者として存在することを創造主である人型のバーテックスの言葉で決意した自分はここで引くわけにはいかない。
彼女たちが笑顔でいられる未来が、自分にとっての至上命題なのだから。
「結城先輩。これが最後になるかもしれないから、訊かせてください」
だから、丹羽明吾は決意する。この戦いで、彼女の中から【勇者】というがんじがらめになっている
「あなたは今、なんのために戦っているんです?」
神樹様と敵対するなら、ラスボスはもちろん主人公に決まってるよなぁ。
果たして丹羽君は主人公補正に勝てるのか?