詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
風「満開! 人類の敵ぶっ殺す!」
丹羽「ナツメさん、お願いします」
ナツメ『風、思い出してくれ。私と一緒に過ごした日のことを』
風「そんなの知らない!」
ナツメ『記憶は失っていても、身体は憶えているはずだ』
風「え?」
ナツメ『風の胸は最高だ。揉んでよし、枕にしてよし、抜群の安心感を与えてくれる。まるで故郷の海のように』
風「ちょ、ちょっと!?」
ナツメ『そんな風のおっぱいが、私は大好きだ』
丹羽(無言の拍手)ナツメフウテェテェ
風「なんなのよアンタらは⁉」
アカミネ『お姉さまはそんなこと言わない!』
風「アンタも誰よ!?」


【ノーマルルート】勇者であることを否定する VS結城友奈

 8月31日。友奈宅。

 自室に戻った友奈は大赦から新しく支給されたスマホをタップし、勇者システムを起動させる。

『~♪』

「牛鬼だー! 会いたかったよー」

 出てきた自分の精霊との邂逅に頬を擦り寄せた。懐かしい感触に思わず笑顔が浮かぶ。

「待っててね、今牛鬼の好きなビーフジャーキーあげる」

 いそいそと部屋に常備しているビーフジャーキーの封を切り自分の精霊に与える。

 もきゅもきゅと食べる姿に友奈はとろけた顔をした。

 ああ、かわいいなぁ。

 実は友奈はひそかにお役目が終わってもまだ精霊がそばにいる丹羽のことをうらやましく思っていた。

 自分だって牛鬼ともっと一緒にいたいのに丹羽君だけずるい! と普段はそんなことを思わない友奈が不満を持つほどに。

 それは夏祭りで内心を吐露して丹羽に心を開いた結果、少しだけ人並みなわがままを彼に抱くことができた結果なのだが、彼女は気付かない。

「えへへ~。牛鬼はかわいいなぁ」

 だから彼のように精霊と一緒にいられる今の現状は、彼女にとって至福の時間だった。

 久しぶりに再会した牛鬼と遊び、満足した友奈は牛鬼に尋ねる。

「そうだ! 牛鬼も丹羽君の精霊みたいにできるの?」

『?』

 宿主の唐突な質問に、牛鬼は首をかしげる。

「ほら、丹羽君の精霊さんは丹羽君と合体していろいろできるでしょ? 牛鬼もできるかなーって」

 それは単純な思い付きだった。

 彼ができるのならば自分もできるのではないか。

 今までの自分ならば思いついても口にはしなかっただろう。ただ、なんとなく、自分も彼がやっていることを真似してみたくなった。

 それは妹が姉の真似をして同じ髪型にしたり、同じ習い事をしたいと駄々をこねたりするのと似たような気持ち。

 親愛、憧れ、あるいはもっと近づきたいという想い。

「おぉ~。こんな感じなんだ。不思議」

 牛鬼が身体の中に入ると、なんとなく気力が充実してくる気がする。

 これがいつも彼が感じている感覚。なんとなくそれが嬉しくて、友奈はベッドに転び足をバタバタとさせた。

 早く明日にならないかな。彼に会いたい。

 明日から学校は再開し、勇者部の部活も本格的に再開される。

 そうすればまたあの楽しい日々が始まるのだ。

 お役目もあるけど、彼や部活の仲間が一緒なら負ける気がしない。

 友奈はわくわくしながら9月1日になるのを待っていた。

 身体の中に牛鬼を入れたことなどすっかりと忘れたまま。

 

 

 

 9月1日。その日友奈は東郷の声ではなく母親の焦ったような声で目を覚ました。

 寝ぼけ眼で急かす母親に促され急いで制服に着替えて居間へ行くと、そこには大赦の仮面をつけた人間が3人待ち構えている。

「結城友奈様。朝早くから申し訳ありません」

 頭を下げる大赦仮面たちに両親は恐縮していた。友奈も慌てて顔を上げるように言う。

 それから聞いた話は信じがたい内容だった。

 昨日まで勇者として一緒にお役目を果たし、大赦にも一緒に行っていた丹羽が神樹様の神託によって人類の仇敵と告げられたこと。

 人の姿をして勇者のふりをして自分たちをだましていたということだった。

 大赦の人間が言うには大赦にいる巫女が全員同じ内容の神託を受けたらしい。

「じゃあ、本当に」

「結城友奈様は東郷美森様が巫女の資質をお持ちなのをご存じですか?」

 大赦仮面の言葉に、友奈は首を振る。

「今、東郷美森様は高熱を出して意識不明の状態です」

「そんな!?」

 友奈は驚き、急いで東郷の元へ向かおうとする。

「お待ちを。その前に結城友奈様にお伝えしておきたいことがございます」

 大赦仮面によればおそらくそれは人類の敵による精神攻撃であり、東郷の発熱はそれに抗っているものだと推測されるという。

 友奈としては訳が分からない。

 今まで一緒に戦ってきた丹羽がそんなことをするとは思えない。

 でも、もしそれが自分たちを騙すための行為だとしたら? 目の前の大赦仮面が言うように東郷を苦しめているのが彼だとしたら?

 それは絶対に許してはいけない【悪】だ。

 だって、神樹様が嘘を言うわけがないのだから。

 それから大赦仮面に、もし丹羽明吾のことを憶えているものがいたらそれは彼に洗脳された証だと言われ肝が冷えた。

 なぜなら自分も彼のことを憶えていたからだ。

 だが幸いにも大赦仮面はそのことを友奈には確認しなかった。ただ注意を促しただけで帰っていく。

 大赦仮面を見送ると、友奈は急いで東郷の私室へ向かい、彼女を見舞った。

 あわただしく部屋を出入りするお手伝いさんに少しだけと釘を刺され、東郷と対面する。

 珠のような汗をかき、呼吸も荒い。手を触れるまでもなく高熱を出しているのがわかり、友奈は怒りに震えた。

 自分の親友をこんな目に合わせた存在に。そしていままで仲間のふりをして皆をだましていた存在を。

 東郷が心配だったが、友奈は学校へ登校した。

 夏凜と話した時、「勇者部に男の人っていたっけ?」とそれとなく探りを入れたら否定されてほっと息をつく。

 よかった。夏凜は洗脳されていないようだ。

 その直後ホームルーム中に丹羽明吾本人が来たときはうまくごまかせただろうか? 知らないふりをしたが、彼への怒りを隠しきれたとは思えない。

 だが、同時に自分の言葉にショックを受けた顔を見た時、本当に彼は悪い存在なのかと疑ってしまった。

 一瞬でも神樹様の神託を疑ってしまった自分が恥ずかしい。だって、神樹様は四国を守ってくれる神様で、自分たち勇者に力を貸してくれ存在なのに。

 そんな【善】の存在が自分たちを騙すために嘘をつくわけがない。

 その後園子が転校してきて、昼休憩になった。その時に園子が丹羽明吾に洗脳されていたことが判明する。

 園子が部室を去った後すぐ大赦に連絡したが大丈夫だろうか? 園子を監視するために夏凜についていかなかったが、園子の目的が夏凜に追い詰められた丹羽明吾の救出だったら失敗だったかもしれない。

 だが同時に風と樹が洗脳されていないこともわかり、友奈は一安心する。

 これで明日東郷が丹羽明吾のことなど忘れていれば、また昔の勇者部に戻り、平和になるはず。

 でもなぜか、その光景を想像した時どこか物足りなさというか、寂しさを感じてしまった。

 

 

 

 9月2日。恐れていたことが起こる。

 なんと東郷が丹羽のことを憶えていて、風や樹に憶えていないのかと訊き始めたのだ。

 完全に丹羽明吾に洗脳されてしまった東郷の言葉に、友奈は否定するしかなかった。

 その際彼女が言っていた内容に、胸を引き裂かれるような痛みを感じる。

 違うんだよ東郷さん。それは丹羽君が私たちを騙すためにしていたお芝居なんだよ。

 でも、本当にそうだろうか? お芝居であんなに自分の身を犠牲にするようなことができるの?

 ああ、また神樹様の神託を疑ってしまったと友奈は心の中で自分を罰する。

 彼のことをなまじ憶えているせいで、こんな気持ちになってしまう。どうして神樹様は私の記憶も風先輩や夏凜ちゃん、樹ちゃんのように消してくれなかったのか。

 疑問に思うが、これはきっと意味のある事なのだと思う。仲間を騙し、勇者部をバラバラにしようとする丹羽君の正体を知っている私を、神樹様はどう動くか見守っているんだ。

 そう無理やり自分を納得させ、友奈は東郷の言葉に同調するふりをしてゴールドタワーに向かった。

 そこで洗脳された園子と対峙した時、後に自分は親友の東郷の気持ちなど思いやっていなかったことを痛感する。

 なにしろ彼女がスマホを取り出した瞬間こちらも変身して、園子を取り押さえようと考えていたのだから。

 親友同士が戦う姿を見て、東郷がどれだけ傷つくのかなど考える余裕もなかった。ただ、神樹様の神託通り丹羽君を倒さなきゃと焦るばかりで暴走してしまったのだ。

 その後の東郷の沈みようは重傷で、帰りの車の中でも「丹羽君はいたの」と壊れた人形のように繰り返していた。

 幸いにも夏凜や防人隊の皆は丹羽君に洗脳されていなかったようだ。一緒にお役目も果たせるし、これまでのように勇者部として活動できるらしい。

 だが、東郷は心を閉ざしてしまった。

 友奈が何度「丹羽君なんて人はいないんだよ」と言っても彼女は「いた」と言い続けた。ついには部屋へ引きこもり姿も見せてくれなくなる。

 ああ、自分は間違えてしまったと友奈は後悔した。あの場でもう少し東郷の気持ちを思いやっていれば。

 その後も友奈は東郷の元に通い続けた。何度も何度も東郷は丹羽君に騙されていたんだと告げ続ける。

 しかし彼女はそれを受け入れず、ついにお役目でバーテックスが襲来する日を迎えてしまった。

 塞ぎこんだ彼女を戦場に連れていくことにを躊躇したが、引きこもってばかりいるのは身体に悪い。樹海でもいいから外に出れば気分が変わるかもという期待もあった。

 だが戦場に出て、友奈は後悔する。まさか双子座もどきが3体も出現していたとは。

 1体は風と夏凛が。もう1体は自分が倒したが最後の1体をとり逃してしまった。

 急いで樹と東郷のいる後衛へ元へ向かう中、友奈は悔やむ。また自分は間違えた。こんな危険な場所に東郷を連れてくるべきではなかったと。

 だがそんな友奈の横をすごい速さで何かが通り過ぎていく。

 それを友奈は正しく認識した。

 勇者システムで強化された身体能力が、空手で鍛えた動体視力がその姿を見逃さない。

 あれは自分の記憶にある勇者部唯一の男子部員であった、そして自分も勇者だと思っていた人類の敵、丹羽明吾。

 自分が倒すべき相手。神樹様が早急に滅ぼすべしと神託を下した相手。

 だが一瞬、自分は願ってしまった。

 丹羽君、樹ちゃんと東郷さんを助けてと。

 なんてことだ。この期に及んで自分は騙されていると知っている相手に頼ろうとしている。

 しっかりしなくてはと猛省した。

 友奈が2人の元にたどり着くと、もう双子座もどきとの戦いは終わっている。2人は黙っていたが、おそらく丹羽君に双子座もどきを倒してもらったんだろう。

 そしておそらく東郷は丹羽と会話した。以前のように元気を取り戻したのがその証拠だ。

 どうして丹羽君なんだろう。私があんなに頑張っても彼女の笑顔を取り戻すことができなかったのに。

 友奈は知らず自分が嫉妬しているのに気付き、恥じた。こんなの全然勇者じゃない。

 ましてや仲間に対してこんな感情を抱くなんて…。

 ちがう、丹羽君は仲間じゃない。人類の仇敵だ。だって神樹様がそうおっしゃったんだから。

 東郷さんだって、きっと丹羽君に洗脳されて、こうなってるだけ。

 彼を倒せば全部元通りになる。

「だって、友奈ちゃん痛いのを我慢している顔をしてる」

 だから、東郷にそう言われた時は心臓が止まるような気持だった。

 神樹様の神託通り丹羽を倒そうと心に決めてから、ずっと胸が痛むのをごまかしていた。

 彼と一緒に勇者部の活動で訪れた四国の町を歩くたびに、その記憶の残滓がちらつき、苦悩する。

 本当に彼は人類の仇敵なのかと。

 神樹様に仇名す【悪】なのか。本当に自分たちが戦うべき相手なのかと。

 その度にそんなことを考えた自分が許せなくて、猛省した。

 自分たちは神樹様に選ばれた勇者。その神樹様が倒せというなら、自分たちが倒すのが当たり前なのだ。

 

『それに、結城先輩はそう考えるのが間違いだって自分を顧みることができる冷静さを持ってるじゃないですか。魔王を倒せばすぐ平和が訪れると思ってる短絡的で思考放棄してるよりずっと立派ですよ』

 

 違う! 自分は思考停止なんてしてない。

 神樹様の言うことは、大赦の人が言うことに間違いなんてあるはずはないんだ。

 

『いたいけな中学生をだまして戦わせるなんて、なんてひどい組織なんだ。おのれ大赦!』

 

 そうだ。今思えば丹羽は最初から大赦を敵視していたように思う。

 あれは大赦とその信仰の対象である神樹様を最初から敵視していたことにつながるんじゃないだろうか。

 うん、きっとそう。

 なぜなら丹羽明吾は、自分が倒すべき【悪】なのだから。

 樹と東郷はダメだ。多分丹羽君に洗脳されてしまった。

 だってそこにいたはずの丹羽君の存在を自分に秘密にして、樹1人で双子座もどきを倒したと嘘をついたから。

 きっと、彼女たちはこれから自分のしようとすることを許してくれないだろう。

 だけどわかってくれる。彼を倒せば洗脳が解け、また元の勇者部に……。

 元の勇者部ってなんだ?

 唐突な疑問に友奈は思わず足を止める。

 考えてみれば、乙女座戦から丹羽明吾はずっと勇者部の部員たちを助けてくれた。

 それこそ、このいなくなった数日でどれほど彼に依存していたかわかるほど。

 いつも重い荷物を誰に頼まれるでもなく自分から進んで運んでいた。

 友奈がいないときは車椅子の東郷が作業しやすいようにさりげなく補助したり、障害物があって車椅子が通れないような事態に陥らないように事前に部室を掃除してくれたり廊下のごみを片付けたりしていた。

 樹が苦手な初対面の人との会話は彼が担当していたが、徐々に樹に話すのを任せ今では樹も立派に人に意思を伝えることができるようになった。

 風は彼がいなくなってわかりやすく覇気がなくなって、友奈も心配したほどだ。部活でも戦闘でも1番息の合っていたコンビだっただけに、それは仕方ないのかもしれない。

 夏凜はそんな風を友奈の代わりに支えてくれていた。そういえば夏凜が勇者部の皆に心を開いたきっかけであるメールの返信も、丹羽の精霊のセッカのお節介によるものだと本人に聞いたことがある。

 あれ? だったら丹羽君がいなくなった勇者部ってなんだろう?

 風が友奈と東郷と樹を勇者部に入れたことをずっと気にしたままで、東郷は変身できないのを気にして悩んでいたのだろうか。

 樹が自分の意思をはっきり言えず周囲に流されるままで、夏凜が勇者部と打ち解けることができずバラバラのままの部活。

 それって、本当に自分が望む勇者部なの?

「違う」

 友奈は首を振る。そんなのはまやかしだ。

 風先輩はそんなに弱い人じゃない。

 東郷さんは、自分の弱さを他人に当たり散らすような人じゃない。

 樹ちゃんは助けなんてなくてもちゃんと成長している。

 夏凜ちゃんだって、きっと丹羽君がいなくても自分たちと打ち解けてくれた。だってあんなにいい子なんだから。

 じゃあ、貴女は?

「え?」

 唐突に自分に語り掛けてきた胸の内から聞こえてきた疑問に、友奈は驚く。

 丹羽君がいなかったら、貴女はどうなっていた?

「そんなの、今と変わらないよ」

 呟く声は、弱弱しい。

 そうだ。丹羽がいなければ自分は本心を東郷や勇者部の皆に語ることはずっとなかっただろう。

 でも、それってそれほど重要なことだろうか?

 だって、彼も言っていたではないか。誰にだって秘密にしていることはある。それは悪い事ではなく、健全なことだと。

 それにたとえフリでもそれはもう結城友奈という人間の一部だ。内面も含め魅力だと言ってくれた。それによって救われた人もいたと。

「そうだよ。別に丹羽君がいなくても」

 変わらない。勇者部は何も変わらない。

 友奈は迷いを振り払ってスマホの画面に映る人類の仇敵の元に向かう。絶対に神樹様に仇なす【悪】を倒すという決意を秘めて。

 この時友奈は気付かなかった。

 自分を支える言葉が神樹様の教えではなく、自分がこれから倒そうとしている人類の仇敵がかつて自分にかけてくれた言葉だということに。

 

 

 

「あなたは今、なんのために戦っているんです?」

 唐突な丹羽の言葉に、内心の動揺を悟られることなく友奈は返す。

「もちろん、神樹様の神託により人類の敵になった丹羽君を倒すためだよ」

「そうですか。でも自慢じゃないですけど俺は四国の人たちや皆さんに悪い事をしたつもりはないし、これからもするつもりはありません。それでも?」

「神樹様がそう言ったんなら、私は丹羽君を倒すよ」

「やめなさい、友奈! 丹羽は敵じゃない!」

 風の言葉を無視し、友奈は丹羽に攻撃を打ち込む。

「勇者パーンチ!」

「ぐっ⁉」 

 打点をずらされた。有効打にはならない。

 だが攻撃をかばった腕はだらんと垂れ下がっている。骨が折れたのだろうか?

「それが、結城先輩の答えですか? 本当に?」

「当たり前だよ。だって私は神樹様の勇者なんだから」

 まるで自分に言い聞かせるように言う友奈に、丹羽は強い否定の言葉を叫ぶ。

「違うでしょう! 結城先輩は勇者じゃない!」

 その言葉に、友奈はびくりと身体を硬直させる。

「何言ってるの? 私は勇者だよ」

「結城先輩は結城友奈って言うただの女の子でしょう! 初対面なのにグイグイ来て、東郷先輩が嫉妬するからやめてって言っても名前で呼ぼうとするのをやめない。コミュ力モンスターでメンタル鋼かと思いきや内面は普通の女の子よりちょっと臆病で、実は誰よりも人の距離感を測っている。そんなただの女の子なんですよ!」

「うるさい! 私はそんなんじゃない。私は、私は勇者なんだぁあああ!」

 丹羽の言葉に友奈が激昂して大ぶりの攻撃をしてきた。それこそ丹羽の狙いだ。

「チェーンジ・スケルッツォハンド! カノンレッグ!」

 防御力に優れたゆゆゆいバーテックス、スケルッツォの力を腕に、ノックバックしないカノンの力を足に宿した形態に変化し、友奈の攻撃を受け止める。

「ほら、ただの女の子だからこんなに簡単に攻撃を受け止められる」

 実際は防御特化のこの姿でなければ致命傷なので内心は冷や汗ものだ。

 だが、彼女を説得するためならここで体を張らなくてどうする!

「それとも手加減してくれたんですか? 優しいですね。他人が傷つくくらいなら自分が傷ついた方がいい。みんなが苦労するなら自分がもっと頑張って支えればいい」

 友奈の攻撃を受け止めながら、丹羽は告げる。

「そんな結城先輩の考えが、大嫌いでした!」

 カウンターで友奈の腕を掴んで投げる。だが勇者システムで強化された友奈の身体能力は猫のように体を回転させ、きれいな受け身を取る。

「自己評価が低くて、自分が傷ついても誰も傷つく人間なんていないって言う傲慢な考えが嫌いでした!」

「それの何がいけないの⁉ みんなが傷つくくらいなら、私が頑張れば誰も傷つかずに済むなら!」

「チェーンジ・ロンドレッグ!」

 丹羽は脚部の能力を6つの足を持つゆゆゆいバーテックスに変化させる。

「勇者キーック!」

「サイクロンエッジ!」

 友奈の必殺技と丹羽の蹴りが空中で激突した。

 衝撃波が戦いを見守っていた風を襲う。丹羽の足から繰り出された疾風の刃が友奈の蹴りを押し返し、吹っ飛ぶ。

「結城先輩が傷ついて、東郷先輩や勇者部の皆が心配しないわけないでしょう⁉」

 丹羽の言葉に、友奈は頭をガツンと殴られたような気がした。

「犬吠埼先輩も! 三好先輩も! そのっち先輩も! 犬吠埼さんも! もちろん俺も…大好きな結城先輩が傷ついて、ボロボロになっていく姿を見て何も思わないはずがないじゃないですか!」

 その言葉に、「そうよ友奈ちゃん!」と東郷の言葉が続く。

 見れば後衛にいたはずの東郷が自分を見つめていた。隣には心配そうな顔をしている樹の姿もある。

「友奈さん!」

「友奈! 丹羽の言う通りよ。アタシは、アンタが傷つく姿なんて、見たくない!」

「東郷さん、樹ちゃん、風先輩」

 自分を見つめる3人の顔に、友奈は呆然とした。

「私、そんな皆を傷つけるつもりなんて。ただ、私が頑張らないと…。丹羽君を倒すなんてつらいこと、みんなが傷つかないように、私がやらないと」

「じゃあ、その傷ついた結城先輩は、誰が助けてくれるんですか?」

 丹羽の問いかけに、友奈は答えられない。

 そんなことを考えたこともなかった。ただ自分は勇者として、四国に生きる人々を、勇者部の皆を守れればいいと思っていたのだ。

「そんなの、あたしたちに決まってるじゃない」

「夏凜ちゃん」

 声に顔を向ければ、そこには前線にいたはずの夏凜がいた。

「あんたも風も1人で抱え込みすぎなのよ。勇者部5箇条、悩んだら相談! これ作ったのあんたらでしょうに」

「夏凜…そうね。返す言葉もないわ」

 自分で禁止していた満開まで使ってしまった風は、視力を失った左目を抑え夏凜の言葉に反省する。

「だから、困ったときは頼りなさいよ。あたしは悩んで傷ついたのを隠されるより、痛いって言って頼ってくれた方が嬉しいわ」

「わたしもです! 友奈さん」

「夏凛ちゃん、樹ちゃん」

 夏凜と樹の言葉に、丹羽はうなずく。

 これなら自分がいなくなっても勇者部の皆は大丈夫だろう。

「友奈ちゃん! 本当は丹羽君のことを憶えているんでしょ?」

 東郷の言葉に友奈は身体をびくっとさせる。

「どういうこと、東郷?」

「友奈ちゃんは丹羽君のことをずっと人類の敵とかフルネームじゃなくて以前と同じように呼んでいたんです。だから」

「違う!」

 東郷の言葉を友奈は強く否定した。

「だって、私は勇者だから……勇者じゃなくちゃいけないから! そのちゃんや東郷さんみたいに丹羽君に洗脳なんかされてない! 神樹様が人類の敵って認めた丹羽君と仲良くしちゃいけないんだ。倒さなくちゃいけないんだ!」

「友奈⁉」

 突如態度を豹変させた友奈に勇者部の他の4人が混乱している。

 しまった、勇者スイッチが入ったかと丹羽は内心で舌打ちした。

 結城友奈は勇者という存在に固執している。だから神樹が敵と認定している丹羽を仲間として認めることは彼女としては許せないことなのだろう。

 だが東郷の言う通り丹羽のことを憶えていたとしたら、なぜ自分のことを攻撃したのだろうと丹羽は首をひねる。

 丹羽は知らないことだが、大赦は丹羽明吾の記憶を失っていない人間は丹羽明吾に洗脳されたと勇者に教えていた。

 神樹が強制散華で勇者たちの記憶を奪った時、友奈はたまたま牛鬼を身体の内に宿していたせいでそれを防ぐことができたのだ。

 だが、それが自己矛盾という苦しみを生む。

 自分は神樹の勇者でありながらもなぜか神樹の敵である丹羽明吾のことを憶えている。

 それがずっと友奈の心を傷つけていた。

「何言ってるの友奈ちゃん。丹羽君は勇者部の仲間で、一緒に戦ってきた仲間でしょ?」

 そのことを知らない東郷は、知らず友奈を追い詰めてしまう。

「違うよ! それは丹羽君が私たちを騙すためのお芝居で、本当じゃなくて」

「友奈、それ本気で言ってるの?」

 友奈の言葉に風が呆然とする。

「だって、だって! そうじゃないと神樹様が嘘の神託をしたことになるじゃないですか! 丹羽君は四国を滅ぼす敵じゃないとおかしいんですよ!」

「おかしいのは友奈さんですよ! 丹羽くんは騙すなんて器用なことはできないし、百合イチャ好きの変なところはあるけど大切な仲間じゃないですか!?」

「違うよ、樹ちゃん。それは私たちを油断させて騙すため…だってそうじゃないと」

「友奈、どうしてそんなに意固地になって丹羽を敵にしたいの?」

「夏凛ちゃん! 夏凜ちゃんは大赦の勇者だからわかるよね! 神樹様の神託は絶対で、丹羽君は敵だよね!」

 友奈はすがるような目で見るが、夏凜はそれに首を振る。

「丹羽はあたしたちの仲間で、四国を一緒に守って来た仲間よ。人類の仇敵なんかじゃない」

「違うよ、違うよ…みんな騙されてる! 神樹様の神託は嘘なんかじゃない!」

「友奈!」

「そうですよ。俺は人類の敵で、皆をだましてました」

 頭を抱えイヤイヤするような友奈をさらに追い詰めるようとしている他の部員の声を遮り、丹羽は言う。

「実は俺、バーテックスなんです。人類の敵っていうのも本当で、いままで人間のふりをして皆をだましていました」

「丹羽、アンタなにを」

 何か言おうとする風の言葉を手を上げて止め、友奈に言う。

「でも、結城先輩にはどうすることもできませんよね。自己犠牲大好きな結城先輩はみんなの代わりに俺を倒すつもりみたいでしたが、さっきも攻撃を防がれましたし。人類の敵になすすべもないただの女の子ですもんね」

 丹羽の言葉に、友奈が反応する。

「勝手に暴走して勝手に傷ついて。誰も頼んでいないのにつらい役目を引き受けた挙句つぶれる。迷惑な存在ですよ。それでいて本人はいいことをしたつもりだから手に負えない」

「丹羽君、言いすぎよ!」

 友奈への悪口を流石に看過できず、東郷が丹羽をにらみつけた。

「神樹様に選ばれた勇者? 違いますよ。あなたはただの結城友奈。コミュ力モンスターな攻略王の仮面をかぶっている臆病な、ただの女の子です」

「違う違う違う! 私は神樹様の勇者で、四国を滅ぼす敵を倒すんだ!」

 友奈が憎しみを込めて丹羽をにらみつける。この時初めて丹羽は人間らしい彼女の生の感情を見た気がした。

「いい顔ができるじゃないですか。それなら本気の一撃を出せそうですね」

「ちょっと、丹羽くん⁉」

 友奈を挑発するような丹羽の言葉に、樹は混乱する。

 勇者部の仲間同士が戦うのが嫌だと言ったのはどこの誰だったのか。

「もし俺が結城先輩の攻撃を耐えられたら、認めてください。自分は勇者なんかじゃなくて、ただの中学2年生の女の子だって。勇者の結城友奈ではなく、ただの結城友奈だって」

 これは賭けだと丹羽は思う。

 もしこれが成功すれば、結城友奈を縛っている勇者という呪縛を解くことができるかもしれない。

 失敗してもどうせ自分が死ぬだけ。だが先ほど東郷と樹に怒られないために生き残らなければと決意したばかりだ。

 当然死ぬつもりはない。

「……いいよ。丹羽君。私の全力全開をぶつける。そして丹羽君を倒す」

 友奈がまっすぐに丹羽を見つめる。勇者部の他の4人が必死にそれを止めようとするが、丹羽と友奈が告げた。

 これは自分という存在をかけた戦いなのだから、手を出すなと。

 そしてどんな結果になっても、誰も責めないでくれと約束させた。

 4人が見守る中、先に動いたのは友奈だ。

「勇者パーンチ!」

「スケルッツォ・アーム!」

 友奈の必殺の一撃を防御特化の腕で防ぐ。

「勇者パーンチ、パンチパンチパーンチ」

 連撃を次々とさばいていく。これも夏休みの間夏凜と訓練をしたおかげだろう。

 友奈は距離をとり、助走をつけて走り出した。恐らくこれが決め技。

「勇者、キィイイイック!」

 渾身の一撃を迎え撃つように、丹羽も宙に跳躍し迎え撃つ。

「コンフォーコ・キーック!」

 炎をまとわせた蹴りが友奈の勇者キックと衝突し、衝撃波が樹海に広がる。

「きゃっ!?」

「東郷先輩!」

 吹き飛ばされそうになる東郷を樹がワイヤーを使って捕まえた。

「何よこの威力⁉」

「立って、られないっ!?」

 風と夏凜も自分の武器を突き立てて衝撃波に飛ばされないように必死だ。

 やがて衝撃波が収まり、煙が晴れていく。

 膝をついていたのは友奈だった。立っている丹羽は友奈に向けて声をかける。

「結城先輩、この際言わせてもらいます。結城先輩はいろんなものを背負いすぎです。勇者としての使命であったりいい人であろうとする道徳であったり。でも結城先輩はまだ子供なんだから、もっと甘えたりずるくなってもいいんです」

 いや、お前の方が年下だろうと夏凜は思わずツッコミかけたがそういう雰囲気ではないので黙っておく。

「だから全部自分で背負い込もうなんて思わないで。そうやって自分が傷つくことで心配する人間が自分の周りにいることを忘れないでください。それが――俺の最期の願いです」

「え?」

 声を上げたのは誰だったか。

 ゆっくりと倒れた丹羽は、そのままピクリとも動かない。

 冗談だと思った。いつものように友奈と東郷がイチャイチャしたらすぐに飛び上がり「あら^~」と目を輝かせると勇者部の誰もが…友奈でさえも思っていたのだ。

「丹羽、君?」

 いつまでも動かない後輩に、友奈は声をかけ身体を揺さぶる。だが、反応はない。

「丹羽君? ねえ、丹羽君! 丹羽君ってば!」

 友奈は涙でぼやける視界の中、必死に丹羽に声をかける。

「勝ったんだよ丹羽君は! 私、もう丹羽君のこと勇者として倒そうなんて思ってないよ。ただの結城友奈になって、神樹様の神託に絶対従おうなんて考えてない」

 友奈に近づいた東郷が肩に手を置き、ゆっくりと首を振る。それでも友奈は声をかけるのをやめない。

「もう丹羽君のことを人類の敵だなんて思ってない。これからは困ったことがあったらみんなに相談するし、頼れる優しい後輩の丹羽君にも聞いてほしい。だから、だから…ねえ」

 樹海化が解けていく。それと共にスマホの画面に表示されていた【人類の仇敵】というアイコンは消滅した。

「目を開けてよ、丹羽君!」

 丹羽は答えない。ただ丹羽の中から出てきた友奈そっくりの精霊が、無言で友奈の中に入って行く。

 その日、2人の勇者が消えた。

 1人は人類の仇敵とされたイレギュラーな勇者、丹羽明吾。

 もう1人は結城友奈。神樹様を盲信し、誰よりも大赦が望む勇者に近かった勇者だった。

 

 結城友奈は、もう勇者ではない




 丹羽君は死にましたが友奈ちゃんの自己犠牲精神と勇者としての妄執を断つことができたので問題ありません。
 やっぱりサラダ(うどん)は最強の死亡フラグでしたね。
 今回丹羽君が生き残るためにはダイスを2個振り11以上の目を出す必要がありました。
 あるいはヘテロ堕ちしてルートが確定していると、恋人との絆としてヘテロブーストがかかった状態なので食いしばりスキルが発動します。
 ちなみに一般的な四国民の神樹様信仰度を50とすると友奈が100で亜耶ちゃんが200です。 
 それだけ信仰している対象の言葉なので、友奈にとって神樹様の神託は絶対です。
 だから、その信仰を打ち消すためには命を投げ出す必要があったんですね。
 命は投げ捨てるもの。
丹羽「安いもんだ。特に俺の命なんて」
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