詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
丹羽君vs友奈。キック対決はお約束。
丹羽「結城先輩。俺はずっとあなたのことが大嫌いでした」
友奈「たとえ丹羽君が私のことを嫌いでも、私は君のことが大好きだよ」
丹羽「結城先輩は結城先輩でしょ。勇者なんかじゃない!」
友奈「ありがとう。そう思ってくれる君がいるから、私は戦えるんだ」b
丹羽「俺、助けてくれ! 結城先輩がクウ〇初期の五代〇介並に全然話聞いてくれない!?」
(+皿+)「ごめん。ハイパー無敵モードの攻略王の相手は無理」
友奈「さあ、丹羽君。いや、明吾君。私と友達になろうよ」
丹羽「いやー! 攻略しないで―!?」
「園子様! 乃木園子さまー!」
大赦の座敷牢で軟禁されていた…いや、自ら進んで軟禁されている乃木園子の元にスマホを持った巫女が飛びこんできた。
「なーにー? そんなに慌ててどうしたの?」
「お役目です! バーテックスの襲来と四国の樹海化が確認されました!」
自分より少し年上の巫女が息を切らせて頭を下げ、スマホを持った両手をこちらに伸ばしている。
この娘は今の園子の世話役の1人で、名前は何だっただろうか? 確か五穀米とかに関する名前だったはずだ。
ヒエ、アワ、キビ、麦、豆…あれ? 大豆と小豆だったっけ?
まあいっかと園子はスマホをタップする。
園子の周囲に蓮の花が咲き誇り光に包まれた。
光が収まるとそこには白い勇者服を着た園子が槍を持っている。
「ありがとう、キビちゃん。じゃあ、行ってくるね」
「小麦です! どうか勇者様にご武運を。神樹様の加護がありますように」
熱心に自分に祈りをささげてくれる少女にまじめだなぁと思いながら園子は座敷牢から出て大赦の外へ出た。
「へー。樹海化した四国ってこうなってたんだ」
初めて見る樹海化した四国に、思わずそんな感想が出た。
見た目はバーテックスと戦っている神樹の結界に守られた樹海と変わらない。
ただ木の根の中心である神樹があるのが特徴だろうか。
園子は勇者システムで強化された跳躍力でその場に向かう。
この時のために園子は大赦で軟禁されていたのだ。
園子は大木に手を当て、念じる。
(神樹様、神樹様、どうかお答えください)
【我を呼ぶものは誰ぞ?】
園子の呼びかけに神樹はすぐに答えた。
この場に丹羽がいたら、おい、俺の時と態度が違うじゃねーかとツッコんでいただろう。
【心清き人間の乙女よ。我に何用か?】
しかも呼び名まで違った。ここまで露骨に違うと逆に感心するレベルだ。
(お聞きしたいことがあります。どうして丹羽明吾を四国の平和を脅かす人類の敵と巫女たちに神託なさったのですか?)
園子が念じると、神樹の大木が揺れ、枝葉がざわめいたように感じた。
【なぜ? なぜだと? 心清き乙女よ。あれが何かわかっていて言っているのか?】
(はい。丹羽明吾は男でありながら勇者として襲来した数々のバーテックスを倒しています。あなたに尽くした勇者に対してこの仕打ちはあまりにも非道としか)
【あれは我が選んだ勇者ではない。いや、勇者ですらなく人ですらない】
神樹の言葉に園子は混乱する。
(どういうことですか?)
【心清き乙女よ。お前たちは騙されていたのだ。あれは人にあらず。人の姿をした天の神の使い、バーテックスよ】
「バーテックス? そんな、にわみんが?」
神樹の言葉に園子はさらに混乱した。
見た目も言動も、完全に人間にしか見えない。あれが演技なら大したものだ。
それに命がけで自分を助けてくれた。東郷も彼に助けられたというし、バーテックスならなぜそんなことを?
それに自分と同じ趣味をもつ彼との会話は一朝一夕で身につくものではない。本気で百合を愛する人間でなければあそこまで語れない。
(神樹様、本当に、本当に丹羽明吾はバーテックスなのですか? 何かの間違いでは?)
【くどい。我は真実しか言わぬ】
無機質な感情を感じさせない神樹の声に、園子は考える。
丹羽がバーテックスならば目的はなんだ。何のために讃州中学勇者部に近づいたのか?
勇者に選ばれた少女たちを利用しようとした? それになぜ同じバーテックスと戦って…
「あっ」
同じような存在に、園子は心当たりがあった。
人型のバーテックス。親友である三ノ輪銀を助けてくれた恩人だ。
彼もあのバーテックスと同じなのだとしたら。
いや、もしも彼自身があのバーテックスなのだとしたらどうだろう。
彼と一緒にいた精霊のスミが銀に似ていた理由もそれなら説明がつく。
銀が勇者であると知っているのは大赦と銀の両親を除けば須美と自分、そして銀をさらって治療していた人型のバーテックスだけ。
もし人型のバーテックスが人工(?)的にバーテックスから人間を、勇者を作り出そうとして、そのモデルに銀を選んだなら。
いや、それならば丹羽明吾が銀に似ていないとおかしい。なぜ精霊なのか?
(もしかして、逆なの?)
丹羽は精霊の力を体の内側にいれることで勇者に変身して戦うと言っていた。
これが本当は逆で、勇者の力を封じ込めた精霊が実は銀のデータを基に作られたバーテックスで、人間の丹羽明吾は別の目的で作られたバーテックスなのだとしたら。
園子の頭の中で急速にパズルのピースが組み立てられていく。
2年以上前の記憶がないのは2年前に作られて壁の外から四国に送られたから。
東郷を守ったのもそのように命令されていたから。それが実行されたから銀とそっくりの精霊と融合し、勇者に変身出来た?
つまり、丹羽明吾というバーテックスは最初から勇者を――東郷美森こと鷲尾須美を守るようにプログラムされていたのか?
だとしたらそれは…とても悲しいことだと思う。
丹羽明吾は自分が作られた存在とは気づかず、ずっとプログラムされた命令通り勇者たちを守って来た。
それこそ命がけで。園子の散華を治療したあの出来事も、それなら納得できる。
その優しさが、献身が、本人の意思ではなく彼を作った人型のバーテックスの命令だったなんて。
だとしたらあのタイミングで丹羽明吾を助けに来たのも納得がいく。彼の正体がばれたので回収に来たのだろう。
だが、園子にはもう1つ気になったことがあった。
(神樹様、丹羽明吾は本当に三ノ輪銀の魂を返すように頼んだのですか? 鷲尾須美…東郷美森の供物としてささげた記憶を返すように頼んだのですか?)
そう、これが嘘ならば園子は丹羽と人型のバーテックスを許せない。
最初から自分や勇者の皆をだますために近づいたことが確定するからだ。
【愚かな奴よ。天の神の使いごときの穢れた魂と心清き乙女のものとが釣り合わぬのは道理だろうに】
(え?)
神樹の言葉に園子は自分の推測が外れまた混乱する。
本当に彼はそう願ったらしい。しかも自分の命を対価に? だとしたらなぜ?
【古き事柄まで持ち出して、今思い出しても業腹である。だが、勝手に我がそれを承諾したと勘違いして意気揚々と去っていった姿は滑稽だった】
自分の魂まで差し出してまで天敵である勇者の三ノ輪銀の魂を取り戻してどうするのか。それでは何のために四国に潜り込んで――
『俺にとって、君たち女の子…もとい子供たちが笑顔でいられる世界はそれだけで尊いんだ。君たちが笑顔でいてくれることが、俺にとっての得なんだ』
まさか。
いやいやまさか。
そんなことのために? でもそれ以外の理由が思いつかない。
「本当に、ただの善意で…勇者の皆を助けたくてこんなことをしていたっていうの?」
同じバーテックスを敵に回し、勇者の皆を命がけで助けて。神樹様に自分の魂の代わりに三ノ輪銀の魂を肉体に返してくれと嘆願したのがただの善意だなんて、誰が思うだろう。
自分だってまだ半信半疑だ。でも、あの日丹羽が言った同志という言葉は嘘ではないように思う。
それに、よくよく考えてみたらあの人型のバーテックスの言っていた言葉は百合イチャ好きの彼が言っていたこととよく似ている。
「まさか…」
まさか本当に、百合イチャが見たいがためにバーテックスを相手に戦って、わたしたちを助けてくれようとしたの?
あまりにも…あまりにも馬鹿馬鹿しい考え。以前の自分なら一笑に付して考慮するべきではないと斬り捨てた内容だろう。
だが、同じ趣味を持つ同志として丹羽と語り合ったあの時間が、魂を震わせるほど語り合った百合への愛がそうに違いないと結論付ける。
そう、丹羽明吾こと人型のバーテックスは、勇者の女の子たちの百合イチャを見たいがため同族を裏切り、人類に味方をしたバーテックスだと。
「あは」
思わず笑い声が出た。おかしくて仕方ない。
「あははははは!」
突然笑い出した勇者に、手を触れた大木の幹から神樹が困惑するのがわかる。
(神樹様。最後に1つ教えてください。どうして丹羽明吾の記憶をみんなから消したんですか?)
園子の言葉に、何を馬鹿なことをというように神樹は答える。
【人類の敵を討つのに心清き乙女たちが悩まぬよう我からの心遣いだ。それにあのような者の記憶などあっては心清き乙女が穢れてしまうだろう】
そうか。と園子は納得する。
今まで大赦の大人は信用できないと思っていた。それがなぜかわからなかった。
いま、ようやくわかった気がする。
園子は槍を持ち、大木に向かって振り下ろす。
【何をするのだ! 心清き乙女よ!?】
敵は人型のバーテックスではなかった。もちろん丹羽明吾でもない。
目の前にいる、百合の尊さを知る彼が差し出そうとした命を穢れた魂と言い放った四国の信仰の対象。神樹だ!
「返してよ」
園子は声を上げる。かつて人型のバーテックスに言ったように。
「ミノさんを返せ! わっしーの記憶を返せ! この偽物の神様め!」
【なんということを! 心清き乙女よ、我を傷つけるとは…お前はあの天の神の使いの味方をするつもりか!?】
「バーテックスだからどうとか、人間だからどうとか関係ない! にわみんは、人型のバーテックスさんはわたしたちの恩人で、あなたなんかよりずっと素敵な存在だよ!」
【愚かな。我も眼が狂ったか。このような穢れた魂を清き乙女と見まがうなど】
「うるさい、返せ! ミノさんの魂を! わっしーの記憶を! みんなから勝手に奪っていったものを返せぇえええ!!」
園子は叫びながら一心不乱に神樹の大木に向かって槍を振るう。
が、次の瞬間園子の変身は強制的に解除された。
【馬鹿者が。我が与えた力で我を滅ぼそうなど。許すはずがあるか】
「人間を、舐めるな!」
園子はいざという時のために隠し持っていた乃木家に伝わる守り刀を手に、神樹に刃を振り下ろす。
(ご先祖様、わたしに力を貸して!)
万感の思いを込め、神樹の大樹に向かって振り下ろす。
「うわぁああああああああああああ!」
【やめろ、穢れし乙女よ! 我を、我らを苦しめるなぁあああ!?】
園子が力いっぱい手に持った小刀で神樹を斬りつけると、神樹の樹液が樹海に飛び散る。
「返せ! 返せ! 返せぇえええ!」
【やめろぉおおお! この恩知らずめえええ⁉】
園子は刃を振り下ろす。何度も、何度も、何度も。力の続く限り。
その攻撃は樹海化が解けるまで続けられた。
讃州中学の屋上に戻って来た勇者部5人は、意気消沈していた。
6人目にいたはずのイレギュラーな勇者は、いない。樹海化が解けるのと同時に光の粒子になって消えてしまった。
後に残ったのは、友奈の手に残ったわずかな灰のような粉だけ。
「あの馬鹿! あれだけ注意したのに!」
夏凛がすでにいない丹羽に向けて怒りを吐き出す。
「ちゃんと話し合いなさいって。みんなの言葉を受け入れて、納得できる結論が出るまで話し合えって! 自分が嫌われて身を引こうとするのはやめなさいって! なのに、こんな…こんな終わり方って」
「夏凜」
風は涙を流す後輩を抱きしめる。そうしないと自分が泣いてしまいそうだからだ。
「丹羽くんはうそつきだよ」
ぽつりと同級生でもあった樹はつぶやく。
「勇者部の皆が傷つけあうのが嫌だって言っておきながら友奈さんに喧嘩売るし、空手やってる友奈さんに勝てるわけないのに。帰ってきてねって言ったのに」
樹の視界が涙でぼやけ始める。
「サラダうどん、食べてくれるって言ったじゃない! わたしの作った料理、全部食べてくれるのなんて、丹羽くんしかいないんだよ!」
他の勇者部部員が全員昏倒するなか、最後まで樹の料理を食べきってくれた姿を思い出す。
とても食べられたものではなかっただろう。料理の腕が上がって気付いたが、最初のころの自分の料理の腕はひどいものだったと思う。
口には出さなかったが、それでも全部食べてくれる彼の心遣いが嬉しかった。今ではなぜそれを伝えなかったんだろうという後悔が胸を満たす。
「樹、おいで」
「お姉ちゃん」
涙を流す妹を風は優しく抱きしめる。
「あの丹羽のことだから、ひょっこり現れるかもよ。それこそ、ほら『犬吠埼サンドトウトイ…』って」
「ごめんなさい」
おどけた様子で言う風の言葉を遮り、友奈が言う。
「全部、全部私のせいだ。私が勇者としての使命にこだわったから。神樹様の決定は絶対だって…丹羽君を倒さなきゃいけないって意固地になってたから」
「友奈、それは…」
誰も口にしなかった。いや、口にしてはいけないと思っていた言葉を告げられ、4人はどう反応していいかわからない。
なぜなら丹羽に、「どんな結果になっても誰も責めないでくれ」と念押しされたからだ。
彼があんなことを言ったのは、こうなるとわかっていたからだろうかといまさらながら思う。
だったら最後にとんでもない厄介ごとを押し付けてきたものだと腹が立つ。
なぜなら勇者部5人は、失って改めて丹羽の存在の大きさを痛感したのだから。
「丹羽君の言う通り、勇者の使命なんて忘れてただの女の子になればよかった。そうすれば、今まで通り丹羽君といっしょに部活もできたし、東郷さんとだって仲直りできたのに」
「友奈、終わったことをこれ以上言っても」
「そうだよ。全部私のせいなんだ」
風は嫌な予感がした。友奈の目から光が消えている。
「東郷! 友奈を止めて!」
だが東郷も丹羽が消滅したことに少なからず…いや、かなり動揺していた。
だから、風の言葉への反応が遅れる。
「え?」
気が付けば友奈が変身して落下防止用の屋上のフェンスを飛び越えていた。
「友奈ちゃ…」
フェンスを飛び越えた瞬間に変身を解いた友奈がさかさまになって、笑顔で「さよなら」と言ったような気がする。
「友奈ちゃん? 友奈ちゃん! いやぁあああああ!」
一拍遅れて質量をもった何かが地面に落ちる重い音がした。
急いで屋上のフェンスにしがみつき、下を見た東郷は絶叫する。
「「友奈⁉」」
「友奈さん⁉」
東郷に続いて下を見た風と夏凛は、樹が見ないよう必死に抑えた。
「救急車を!」
「もう呼んでる! 樹はここにいなさい。東郷が変な気を起こさないように見張ってて!」
風と夏凛が急いで屋上の扉からスマホを使いながら階段を下りていく音が聞こえる。
勇者とはいえこの高さから頭から落ちたのだ。おそらく、もう。
「友奈ちゃん…丹羽君…どうして」
どうして、2人とも自分を置いて行ってしまうの?
東郷の言葉にならない声を、樹は黙って抱きしめることで受け止める。
どうして神樹様はこんな残酷なことをなさるんだろう。
丹羽を人類の仇敵扱いして今まで仲間だった勇者と戦わせるように仕向けたり、巫女に神託を下して四国の敵にしたり。
本当に、神樹様は自分たちの味方なんだろうか?
生まれて初めてそんな疑問が樹の胸から湧き上がって来た。
友奈の意識は闇の中にあった。
このまま消えてしまいたいと思う。どこまでも深い闇に溶けてしまいたい。
だって、自分にはもう帰る場所なんてないんだから。
『あっきれた。ご主人が何を考えてあんなことをしたのかわかってないなんて』
闇に包まれた世界に、そんな声が響く。
閉じていた瞳を開けると、そこには自分そっくりな女の子がいた。
胸の部分が自分より大きくて肌は褐色。髪は白かったが、間違いなく顔はいつも鏡で見る自分だ。
「私? でも、なんで」
『あー。うん。そこらへんは説明すると長くなるからただのそっくりさんってことにしておいて』
白い髪の友奈はそう言うと、友奈に向けてウインクする。
『私はアカミネ。ご主人の精霊の1体で、結城ちゃんとご主人とのガチファイトに協力してたって言えばわかるかな?』
アカミネの言葉に友奈は首をひねった。どういうことだろう?
『あー、その様子だとわかってないっぽい。いい、ご主人は精霊と一体化して勇者みたいに戦ってるの。つまりさっきまで結城ちゃんと戦っていたのは私の力を借りたご主人ってこと』
その言葉になるほど。と友奈は納得する。つまり今までの丹羽とは違うあの近接特化の格闘形態はこの精霊の能力ということか。
『で、もう1つ気付いてないでしょ。なんでご主人が私1体だけの力で戦ったのか」
「え?」
『あの場にはお姉さまや他の精霊を宿した勇者がいたでしょ。本気なら皆に頼んで精霊を返してもらえばよかった。ご主人は精霊がいるほど能力が上がったんだし、さらにいえば切り札も使わなかったでしょ』
たしかにそうだ。丹羽は友奈との戦いで水瓶座戦で見せた切り札を一切使わなかった。
それにこの精霊の言うことが本当なら、なぜ風先輩や部員の皆に頼んで精霊を一時的にでも返してもらわなかったのだろう?
『あー、もう! 全然わかってない! 私も筋肉馬鹿とかよく言われるけど、結城ちゃんも相当じゃない!?』
よっぽど呆然とした顔をしていたのだろう。自分そっくりの白髪の精霊が頭をかく。
『ご主人は自分の言葉を、自分の決意を結城ちゃんに届けたかったんだよ! 勇者はたくさんいるけど、結城ちゃんは1人しかいないんだって』
その言葉に友奈は驚愕する。
あの時は友奈の自己犠牲を否定し、挑発する言葉ばかりが耳に入って、友奈が勇者としての責任を放棄させようとしているのだと思っていた。
結城友奈はただの女の子で、勇者ではないと。
それは半分正解で、半分不正解。
『ご主人は、別に結城ちゃんが勇者であることを完全に否定したかったわけじゃない。ただ、勇者という使命にがんじがらめだった結城ちゃんの心を解きほぐしたかっただけ』
「そんな」
だとしたら、あの時の言葉は自分の本心を引き出すために?
勇者としての使命に意固地になっていた自分じゃなく、ただの結城友奈としての言葉を引き出すために?
『第一結城ちゃんの考え方は極端。勇者なら神樹様の神託は絶対なの? 大赦によって歪められたとか考えないわけ? どうしていきなり人類の敵に認定されたのか疑問に思わないの?』
いちいちもっともだ。気が付けば友奈は正座し聞いてていた。
『ご主人と過ごした5か月で築いた絆は、信頼できないくらい薄っぺらだった?』
「それは違う! 違うけど…」
たしかに丹羽と過ごした時間は大切で、とても楽しい思い出だ。
だが、神樹様の言葉は無視できない。逆らえない。そう言う風に生まれてからずっと教育されてきたのだから。
四国に生きる人間ならそれは当然のことだ。友奈はただそれが人より敬虔なだけで。
『まあ、そんな結城ちゃんだから、ご主人もガチでぶち当たるしかなかったんだけど』
「どういうこと?」
ここまで話しているのにまだわからないのか、と呆れたようにアカミネは言う。
『他人の主張を否定するためには、自分もガチでぶつかり合うしかない。言うなればあれは拳と拳の語り合いだったんだよ』
それは何となく友奈もわかる。だったらなぜ切り札を使ったり他の精霊の力を借りなかったのか。
そのほうが圧倒的な力でねじ伏せられたし、丹羽だって消滅しないで…。
「あっ」
『気付いた? ご主人は結城友奈という人間とぶつかり合いたかったんだよ。本音で、複数の精霊の力を借りることなく。切り札っていうズルを使うことなく。自分の言葉で結城ちゃんの考えを変えさせたかったんだ』
『まあ、私の力を借りるのもギリギリ妥協点だったんだけどね』というアカミネの言葉に、友奈はうなだれる。
そうか、彼が否定したかったのは友奈の人格じゃない。ただ、勇者という使命に凝り固まっていた自分の信念を全力で否定していたのだ。
それなのに自分は、勘違いして。
「私…うぅっ、ぐす」
『ちょ、泣かないでよ! 私が泣かせたみたいじゃない!? 泣かせたのはご主人のせいなのに⁉」
涙を流す友奈にアカミネは慌てる。
「でも、私気付く前に死んじゃって。貴女に言われるまで、丹羽君の覚悟なんて全然気づかなくて」
『あー、それは仕方ないかも。ご主人百合イチャでは
アカミネの言葉に思わず「え?」と声が出る。
『ていうか、勇者がそんな簡単に死ねるわけないじゃん。バーテックスの攻撃ならともかく、自殺程度で死のうなんて甘い甘い』
続いて告げられた驚愕の事実にさらに「ええ!?」と驚く。
『あれ、これ言っちゃまずかったんだっけ? まあいいや。じゃあ、そろそろ時間だからばいばーい』
待ってと声を掛けようとするがアカミネを中心に光が周囲を照らし、友奈もその光に飲み込まれていく。
『自殺なんてご主人もあなたの友達も喜ばないだろうからもうやめなさいよ! それにご主人は――』
最後の言葉を聞く前に友奈の意識は白一色となる。
ちょっと待って、なんて言ったの!?
友奈は必死に問いかける。
だが返事が返ってくることはなかった。
目を覚ませば病院だった。
なぜか心拍を図るテレビで見るような仰々しい機械に囲まれている。
頭に触れようとするとそこには果物を包むネットのようなもの。
どうしてこんなものがあるんだろうと考え、友奈は今までの出来事が走馬灯のようによみがえる。
そうか、私は学校の屋上から変身して飛び降りて頭から…。
「友奈、ちゃん?」
声に顔を向ければ、そこには東郷がいた。
目元が腫れて赤い。どれだけ泣いたのだろうか。
どうして? と考えて自分のせいかと思い至る。自分が丹羽君を…。
「ごめん、東郷さん。私が丹羽君を」
「馬鹿! 友奈ちゃんの馬鹿! どうして自殺なんか!」
謝罪しようとする友奈の言葉を遮り、東郷が友奈を抱きしめる。
「私のせいだから。私が丹羽君の覚悟を理解していれば、戦わなくても話し合いで分かり合えていたはずなのに」
「でも、友奈ちゃんまでいなくなってしまったら私はこの世界に生きている意味なんか」
反省の言葉を口にする友奈だったが、東郷の目から光が失われているのに気付き慌てた。
「だ、大丈夫だよ東郷さん。もうこんなことしない! 丹羽君の精霊にも怒られたし」
「精霊? ひょっとして丹羽君の中にいた友奈ちゃんそっくりの」
「うん。アカミネちゃんって言うんだって。さっきまでお話ししてたんだ。丹羽君がどうしてあんなことを言ったのか。本当の気持ちを教えてもらってて」
「た、大変です!」
あの空間での出来事を離そうとしていた友奈は、病室に慌てた様子で入って来た樹を見る。
「どうしたの樹ちゃん。そんなに慌てて」
急いできたのか、荒い呼吸の彼女を見つめた。ようやく呼吸が落ち着いた樹は病室にいる友奈と東郷に告げる。
「さっき、大赦から連絡が来て……お姉ちゃんと夏凜さんが大赦で大暴れして拘束されていた園子さんを連れて逃げたって。お姉ちゃんからはラインのメッセージで心配しなくていいから病院にいなさいって連絡があって。もうわたし、どうすればいいか」
その言葉に、2人は顔を見合わせた。
勇者たちへの各自メンタルケア。
大赦に対する勇者たちの信頼回復。
大赦組織の健全化。勇者にやさしい組織へ方向転換。
満開、散華について事前に教え、勇者からの不信感フラグを回避。
本来起こっていた樹の散華を回避。風の暴走フラグをへし折る。
カウンターである園子の散華を治し、勇者部の仲間として絆を深める。さらに大赦への不信感を無くす努力。
(+皿+)「を、台無しにした気分はどうだクソウッド」
神樹「我悪くないもん! 本当のこと言っただけだもん!」
神託を曲解して勇者を追い詰めたのはあくまで大赦。神樹氏は「我悪くないもん」と繰り返しており……。
次回:どうあがいても大赦はつぶされる運命。