詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
神樹様vs乃木園子
神樹「君かわいいねー。我と神婚しない?」
園子「あははー。お断りかなー」つチェーンソー
神 は バ ラ バ ラ に な っ た
救急車に運ばれていく友奈と一緒に付き添った東郷と樹を見送った風の足は、気づけば部室に向かっていた。
東郷はひどく取り乱していたが、樹がいれば大丈夫だろう。
少なくとも今の自分よりは。
「ふぅ、くっうぅ…うぅううう~」
部室に入ると鍵をかけ、壁にもたれかかった。
ようやく泣くことができる。
あの場では年長者の自分が涙を見せるわけにはいかなかった。友奈が丹羽を殺してしまったことを責めることも。
ずっとがまんしていた。丹羽の記憶を思い出した時から、ずっと。
「うわぁああああああああああああ!」
誰もいない部室で、風は人目をはばからず大声をあげて泣き叫ぶ。
こんなに泣いたのはいつ以来だろうか。
両親の告別式でも妹の樹の手前泣くことはできなかった。
考えてみれば自分が思うまま感情をぶつけることができたのは、樹が生まれるまでの間の2年間だけかもしれない。樹が生まれてからはいいお姉ちゃんとして見本にならなきゃと無暗に泣いたり怒ったりした記憶はない。
両親と死別してからは、それが特に強くなったように思う。
だけど、彼の前だけは…丹羽明吾の前でだけは犬吠埼はお姉ちゃんや勇者部部長ではなく、ただの犬吠埼風になれた気がする。
一緒にいると安心できて、与えられる無償の好意が心地よくて。彼なしの生活が物足りなく感じるほど。
「なんで、なんで、なんで!?」
なぜ彼はいなくなったのか。
なぜ彼は人類の敵として四国を滅ぼす敵とされたのか。
なぜ友奈と丹羽は敵対しなければならなかったのか。
丹羽を、勇者部の大切な仲間を奪ったのは誰だ!?
友奈を追い詰め、丹羽と戦うように仕向けたのは誰だ!?
風は自分が怒りをぶつけるべき相手を考える。そして1つの結論に至った。
「みんな、みんな大赦のせいだ!」
そうだ。丹羽の記憶を持った勇者が丹羽に洗脳されたという間違った情報を教えたのは大赦だ。
友奈があそこまで神樹様に…いや、神樹の神託に盲目的なまでに従っていたのも、大赦の教えのせい。
そもそも大赦が友奈や自分たちを勇者に選ばなければ、丹羽と戦うこともなかった。勇者部はただ困った人や地域を助けるボランティア活動をする部活であったはずだ!
全部、全部大赦が壊していった。平穏な時間も。仲間の笑顔も。
犬吠埼風の、丹羽明吾への想いも!
「許さない! 絶対に、絶対に!」
風は頭に血が上っていた。スマホの画面をタップし勇者服へ変身する。
「大赦を、つぶす!」
大剣を持ち、宣言して窓から飛び出す。
目指すは大赦。自分たちを騙し、丹羽を友奈に殺させた憎むべき敵のいる場所。
「風、風! 待ちなさい!」
弾丸のように大赦へ向かい突き進む風の元へ赤い勇者服の少女が追いかけてくる。
呼びかけに風は足を止めて大剣を構えた。目の前の少女をにらみつける。
「夏凜! どきなさい!」
大剣を突き付けられても、夏凜は冷静だった。
夏凜は大赦側の勇者だ。妨害は覚悟していた。
だが自分の邪魔をするなら…自分たちを騙していた大赦の味方をするなら容赦しない。
「あんた、大赦に乗り込もうとしてるんでしょ?」
「だったら何!? 邪魔するなら」
「誰が邪魔するなんて言ったのよ。間違えないで」
その言葉に思わず「え?」と声が漏れる。
「あたしはあんたの味方よ。あたしだって、今回の大赦のやり方…神樹様のやり方には頭に来てる」
見れば夏凜の頬にも涙の跡があった。
そうか、と風は理解する。彼女も自分のように誰もいない場所で泣いていたのだろう。
そして部室の窓から飛び出してきた自分を追ってきた。
「大赦へ行くんでしょ? あんたは夏休みの最後に行っただけ。あたしのほうが内部構造に詳しい」
「夏凜、アンタ…」
三好夏凛は大赦の勇者ではないのか? そんな疑問に夏凛は答える。
「行くわよ、風。大赦を…友奈と丹羽を戦わせるように仕向けたクソ野郎どもの巣窟に。讃州中学勇者部に喧嘩を売った奴らに、目にものを見せてやるのよ」
決意を込めた夏凜の瞳に、風はうなずく。
「ありがとう、夏凜。でもいいの? アンタお兄さんが」
「兄貴ならわかってくれるわよ。ていうか、あたしにとっては兄貴より勇者部の皆の方が大事。もういなくなった丹羽も含めて、ね」
その言葉に風はまた涙を流しそうになり、ぐっとこらえる。
今やるのは泣くことじゃない。この胸から沸き立つ怒りをぶつけること。
「行くわよ、夏凜!」
「誰に言ってるのよ! あんたこそ後れを取るんじゃないわよ、風!」
黄色と赤の勇者は拳を打ち付けあい、宣言する。
「「大赦を、ぶっ潰す!!」」
大赦にたどり着くとすでに中は大混乱していた。
大赦仮面が慌ただしく出入りしており、上へ下への大騒ぎだ。
「ちょっと、何なのこの状況?」
「わからない。でも、あたしたちにとって都合がいいことには間違いない」
夏凛は風についてくるようにハンドサインを送り、大赦の最高責任者がいるはずの大赦の最奥を目指す。
だが、そこはもぬけの空で、大赦仮面1人いない。
「どうする?」
「ここから先はあたしも入ったことがない。正直もっと詳しいのは、園子様…いや、園子くらいしか」
とそこで気付いた。ここには座敷牢で軟禁された、いや自ら進んで軟禁されている乃木園子がいたはずだ。
彼女が現状を知れば、きっと力になってくれるはず。
風と夏凜は作戦を変更し、乃木園子と合流することにした。
なるべく大赦仮面に見つからないように慎重に園子が監禁されている座敷牢へ向かう。
「いない!?」
だがそこには乃木園子の影も形もなかった。
おかしい。何が起こっている?
まさか、丹羽と同じく園子も大赦に何か…。
嫌な予感がした2人の背中に、「ひっ!?」と息をのむ声が聞こえる。
「勇者の三好夏凛と讃州中学の勇者⁉ もう園子様のことをかぎつけたのか?」
大赦仮面の言葉に嫌な予感が的中したと、夏凛は手に持つ刀を大赦仮面に突き付ける。
「これはどういう状況? 乃木園子はどこに行ったの?」
「い、言えない! 私だって大赦の職員だ! 守秘義務がある」
「アタシや勇者部の皆を騙していたくせに、何が守秘義務よ!」
大赦仮面の言葉に風が怒りを隠そうとせず怒鳴る。
「御覧の通りうちの部長は気が荒いの。あたしたち、いろいろあって今すごく気が短くなってるのよ」
夏凛は持っていた刀を振るう。大赦仮面の仮面が真っ二つにされ、地面に落ちた。
「ひ、ひぃいいい!?」
「もう一度だけ聞くわよ。乃木園子はどこ? この状況は何? 大赦の職員はあんただけじゃないってこと、忘れてないわよね?」
再び突き付けられた刀に、素顔の大赦仮面は叫ぶように言う。
「そ、園子様は地下の牢に! 園子様は勇者でありながらこともあろうに神樹様を傷つけ、勇者になる力を奪われてからも何度も何度も御神体に刃を突き立てた罪で今詮議の最中で」
「園子が神樹様を⁉」
とても信じられない内容に、風と夏凛は仰天する。
「そうだ! なぜ巫女は園子様にスマホなど渡したのだ!? いや、我々もこんな事態は想定していなかった。それもこれもあの人類の仇敵、丹羽明吾の策略」
「違うわよ!」
苦々しそうに言う大赦仮面の言葉を遮り、風が言う。
「丹羽は人類の敵じゃない。あいつは、讃州中学勇者部所属のアタシたちの仲間よ! それをアンタらが」
「なっ、まさか貴女様も丹羽明吾に洗脳されて」
「少し黙ってなさい」
大赦仮面の延髄をチョップし、夏凜は意識を失わせる。
「訊くべきことは訊いたわ。まずは園子を救出。それから大赦の奴らに落とし前をつけさせましょう」
「そうね。でも乃木はどうして」
「それは会って訊いてみないことにはね。ただでさえあたしたちの予想を超えたことをなさる方だったから。多分、あたしたちの知らない情報も持っていると思う」
報告書を提出する一方的な関係だったが、大赦職員の話や逸話から彼女が一筋縄ではいかない存在であることを夏凜は充分承知していた。
彼女を救出することは多分今の自分たちの状況にとって必ずプラスになることだ。
夏凜の先導により2人は大赦地下牢へと向かう。
途中見つかったり見張りをしていた大赦仮面はみねうちで昏倒させておいた。いざという時は大赦職員全員を相手にするつもりだったが、見つからないに越したことはない。
大赦の地下牢はめったに使われることがない。大赦の長い歴史においても数えるほどしか中に人を入れたことはないという。
いずれも大赦に弓引いた極悪人。あるいは大赦が行う儀式に絶対必要な巫女が逃げ出さないように閉じ込めたことがあるくらいだと以前夏凜は兄に効いたことがある。
あの時は「へーそうなんだ」と聞き流していたが、まさか自分がここに来ることになるとは。
牢の見張りを昏倒させ、鍵を奪う。かび臭い地下牢を進み、園子の名を呼ぶ。
「園子様-! じゃなかった。園子ー! どこー!?」
「乃木ー! いたら返事しなさーい!」
「え、にぼっしー、ふーみん先輩!? どうして」
園子はあっさり見つかった。地下牢にいたのは彼女だけだったからだ。
「乃木、無事⁉ 待ってて。今鍵を開けるから」
「2人はどうしてここに? 何かあったの!?」
夏凛が鍵を開け、園子を檻から出す。困惑した顔の彼女に、自分たちの目的を告げた。
「あたしたちは、大赦をつぶしに来たんです」
「大赦を⁉」
「ええ。丹羽を人類の敵、四国を滅ぼす敵とアタシと樹、友奈たちに吹き込んで、アタシたちを丹羽と戦わせたあいつらを絶対許さない!」
「そう。ふーみん先輩は記憶を取り戻したんだ。じゃあ、にわみんは?」
園子の言葉に、風と夏凛は目を逸らし、拳を強く握る。
「丹羽は…死んだわ」
「え?」
「友奈と戦って、消滅した。樹海化が解けると死体すら残らなかった。ただ、灰のような塊が少し残っただけで」
その時のことを思い出したのか、2人の表情が曇った。
「そっか。にわみんが…そっか」
一方で園子もショックを受けていたが、何かに納得している様子だ。
「ふーみん先輩、にぼっしー。これから言うことはわたしが神樹様…いや神樹に直接訊いて来たこと。だから信用できる情報だと思って聞いてほしいんだ」
園子の言葉にごくりと2人は固唾を飲んで聞く。
「にわみんはバーテックスだった。多分だけどあの人型のバーテックスの仲間。あるいはあの人型さんが四国に送り込んできた皆を守るためのバーテックスだったんだよ」
「「なっ⁉」」
告げられた言葉に、2人は驚愕した。
「本人は自分がバーテックスだと気づいていなかったかもしれない。でも間違いなく勇者の皆を大切に想う気持ちは本物だった。たとえプログラミングされた感情だとしても、それはきっと」
「ちょ、ちょっと待って乃木⁉」
園子の言葉を混乱する風が遮る。
「確かに友奈と最後に決着をつける時、アイツは自分がバーテックスでアタシたちを騙してたって言ってたけどあれは友奈を本気にさせるための言葉で」
「そっか。にわみんは自分がバーテックスだとわかってたんだ。その上でわたしの散華を治したり、皆を助けてくれた」
「ちょっと待ちなさいよ。それじゃ道理が合わない。だって…だってバーテックスはわたしたち人類の敵なんでしょ!?」
自分で言ってハッとしたのか、夏凜が口をつぐむ。
その言葉は神樹の神託や自分たちを騙していた大赦の言葉が真実だと認めているようなものだったからだ。
「うん。そうだね。でも、バーテックスの中にもわたしたちに味方してくれた存在がいたんだ。2年前、わたしには理解できなかったあの人型のバーテックスみたいに」
「それって…」
「いたぞ! ここだ!」
もっと詳しく聞こうとしたとき、大赦仮面の大声が地下牢に響いた。
「応援をよこせ! 対バーテックス用の兵器を使ってもいいから取り押さえるんだ!」
「まずい! 風!」
「オッケー!」
夏凜の言葉に風は大声を出していた大赦仮面を昏倒させ、さらに大剣で天井や周囲を破壊し、廊下に即席のバリケードを作る。
「園子、その話は後で詳しく。とりあえずここから脱出しましょう」
「うん。でも逃亡先は決めてあるの?」
その言葉に夏凛は「あ」と思わず声を上げる。
しまった。感情が先走って行動していたが、その後のことを考えていなかった。
おそらく風も同じだろう。その考えを見透かしたのか、園子が言う。
「ひとまずゴールドタワーに逃げよう。わっしーや勇者部の他のメンバーと合流する方法は後で考えるとして、あそこなら当面の間は大丈夫だから」
安芸には知らぬ存ぜぬを通してもらうつらい役目をさせてしまう。せっかく決まっている大赦の出世コースを棒に振るかもしれない。
だが、ここで頼らない方が彼女に怒られる気がした。
「子供が何を遠慮してるの! 生徒を守るのが教師の務めです!」と彼女なら叱りながらも受け入れてくれるだろう。
だが防人たちの家族を人質に取られれば内部からほころびが出るだろう。つまりあまり長居はできない。
「わかった。今園子は変身できないのよね。じゃあ、あたしが抱えていくから」
「ありがとうにぼっしー。あ、お姫様抱っこだー」
車椅子だったころ、同じように抱き上げてくれた彼のことを思い出す。
そうか。彼はもういないのか…。
あらためてその事実が園子の心を重くする。
夏凛は風と合流し、指示を出す。
「風、できるだけ建物を壊しながら園子を守ってついてきて。あたしは先行して出口までいる大赦の奴らを無力化してくる」
「え? 大赦の偉い奴らをぶっ飛ばすんじゃないの!?」
「それは園子の話を詳しく聞いてから。ひょっとしたらその人たちも神樹様に騙された被害者なのかもしれないから」
夏凜の言葉に納得いかない様子の風だったが、続いて告げられた言葉にうなずく。
先を行く夏凛は次々と出てくる大赦仮面を昏倒させ、意識を取り戻してもすぐに追ってこれないように風が床を破壊したり壁を壊してバリケードを作ったりして進行するのを遅らせる。
こうして勇者2人が大暴れし、ただでさえ乃木園子が神樹様を傷つけるというありえない事態に混乱していた大赦をさらに大混乱させた。
園子の提案通りゴールドタワーに逃げ込んだ3人を、防人の皆と安芸は快く迎えてくれる。
特に夏凜と風は現役の勇者として防人たちから羨望のまなざしを受け、中にはサインをねだる者もいて2人を困惑させた。
「ごめんね、安芸先生。メブー。迷惑をかけて」
「こら。子供が遠慮しないの。それにあなたはわたしの教え子。生徒を守るのは教師の仕事です」
「迷惑なんてとんでもない。この程度のことで園子様に受けた恩が返せるならば。いつまでも好きなだけいてください」
想像した通りの言葉を言ってくれる安芸に感謝しながら、園子は芽吹にも感謝をする。
部屋を1室用意してもらい、そこに風と夏凜と共に入りようやく2人は変身を解いた。
「あー、疲れたぁ」
「ちょっと風。だらしないわよ」
変身が解けるや否や室内に設置されたベッドに倒れこんだ風に、夏凜が注意する。
「ありがとうふーみん先輩、にぼっしー。わたしを助けてくれて」
改めて2人に感謝の言葉を告げると、2人は何をいまさらという顔をする。
「何言ってんのよ乃木。アンタはもう勇者部の部員でしょ。部長のアタシが助けるのは当然よ」
「右に同じ。園子さ…園子はもう勇者部の仲間なんだから、遠慮は無用よ」
「夏凜。そう言うならいい加減様付けはやめたら?」
「仕方ないじゃない、今までずっと園子様って呼んでたんだから! ちゃんと言い直してるでしょ!」
仲の良い2人を見て笑い、園子はこれまでのことを話した。
神樹様との会話。自分が推測した丹羽明吾と人型のバーテックスの関係。そしてそれを知っても自分は神樹よりも丹羽と人型のバーテックスを信じる道を選んだこと。
「そう。そんなことが」
話を聞いた風は考え込んでいる。丹羽が作られた存在だということに、少なからずショックを受けている様子だ。
「でも、園子の気持ちもあたしはわかるわ。例えば友奈や東郷が神樹様に魂を捕らわれたとして、それを丹羽が自分の命を犠牲にしても助けたいって思っていてくれたなら、たとえバーテックスだからって」
「そうだよ、にぼっしー。たとえバーテックスっていう正体を隠していたとしても、わたしたちにしてくれた彼の行為は変わらない。たとえ神樹様の言う通り騙されているのだとしても、あの優しさは嘘じゃないって確信を持って言える」
園子の言葉に2人はうなずく。
「たとえ、それが……百合イチャ見たさからの行為だったとしても」
「「いや、台無しよ!」」
せっかくイイハナシダナーで終わりそうだったのに、園子の語った動機で台無しだ。
「だって、人型さんがそう言ってたもん。『俺にとって、君たち女の子…もとい子供たちが笑顔でいられる世界はそれだけで尊いんだ』って」
「それを丹羽のあの百合好きと一緒にするのは…うん、あってる部分もあるから否定できない」
考えれば考えるほど園子の推測を補完するような丹羽の言動を思い出し、風と夏凛はうなだれる。
勇者の少女を命の危険を冒してまで助けようとした共通点。
かつて園子が言われたという純粋な善意からの言葉と似通った丹羽の言動。
そしてバーテックスでありながら同じバーテックスを倒し勇者を守ったということ。
考えれば考えるほど人型のバーテックスと丹羽明吾は同一人物ではないのか? という裏付けになってしまう。
「それに2年以上前の記憶がないのも、乃木の説が当たってるなら」
「うん。海に1度も来たことがないって言ったあいつの言葉も納得ね」
なにしろ相手はバーテックスだ。壁の外は灼熱の大地とマグマが流れ、炎が噴き出す世界。
海なんて神樹様に守られた四国以外ではお目にかかれないだろう。
「でも、それなら精霊は? 丹羽と一緒にいた精霊はどうなるの?」
「そうね。直接訊いてみましょうか。ナツメ?」
風の言葉に胸が光り、ナツメが出現する。
「農業王、ミントンちゃん。出てきて」
同じように園子が語り掛けると、2体の精霊が出現した。
『ソーリー園子。その件に関しては私たちは話せないのよ』
『ごめんなさい』
ウタノとミトが気まずそうに言う。
『すまない風。右に同じだ』
「そう。じゃあもうナツメのお味噌汁作ってあげない」
『なっ』
ナツメがわかりやすく動揺していた。
「話してくれたら沖縄そばとかラフテーとかの沖縄料理作ってあげようと思ったのになー」
『だ、ダーティーよ風さん。イートで釣るなんて!』
『ナツメさん、こらえてください。あの人にお願いされたじゃないですか!』
『ウタノ、ミト…すまん』
沖縄そばには勝てなかったよ…というようにナツメは語りだす。
自分たちはかつて西暦で戦った勇者の記憶を持つ精霊であること。
なぜバーテックスの丹羽に力を貸していたのかというと、自分たちの創造主である人型のバーテックスの話を聞き、勇者たちを守りたいという彼の考えに同調した結果だという。
もちろん自分たちの天敵であったバーテックスに力を貸すのに抵抗がなかったわけではない。
だが、人型のバーテックスは決して人間相手にその力を使わないと約束してくれた。破ったら君たちの手で俺を倒してくれても構わないと。
その時は一切抵抗せずナツメたち精霊の制裁を受けると誓約したのだそうだ。
ちなみに人間と違い、神霊や精霊の約束は口約束でも有効なのだと説明を受けた。
決して破ることは許されず、もし破ればそれ相応の罰を受けるのだという。
天の神の使いである人型のバーテックスもその例にもれず、約束を破れば手痛い罰を受けるそうだ。
だから人型のバーテックスはこのことを話さないように「お願い」していたそうだ。約束ではなくお願いならば強制力はないし、破っても罰はない。彼女たちに拒否権もある。
「じゃあ、本当に」
2年前、自分が人型のバーテックスに武器を向けた時から彼は本当のことしか言っていなかったのかと園子はあらためて気づかされた。
そしてそれを信じることができなかった己を恥じる。
「なるほどねー。つまりアンタらはアタシたちの大先輩だったと」
「ということはウタノって、白鳥歌野⁉ あの初代勇者、乃木若葉が名誉家名として石碑を立てたっていう」
『ワォ、私ってそういうことになってたんだ。サプライズねみーちゃん』
『そうだねうたのん』
もう1体の精霊とイチャイチャしている精霊に夏凜が驚愕する。
「とりあえず、この情報も含めて勇者部皆で共有したいわね。今東郷と樹は友奈のいる病院にいるはずだから、どうしましょう?」
「わっしーやいっつんをゴールドタワーにお迎えするのが1番なんだけど、難しいよね。ゆーゆが入院中だと」
「最悪、もう大赦の手が回ってると考えるべきよね。となると友奈を奪還して、それから残りの2人を」
風の言葉に園子が提案とその問題点を告げる。それに夏凛が具体的な案を出していく。
「とりあえずラインで樹には無事だって連絡はしておくわ」
「風、ここでは」
「わかってる。ちょっと変身して遠くに行ってからメッセージを送ってくる」
夏凛の言葉に風はうなずき、部屋を出ていった。
大赦がどこまで把握しているかわからない以上、軽率な行動は控えるべきだ。念には念を入れるに越したことはない。
「しかし、園子も思い切ったことをしたわね。神樹様に刃を突き立てるなんて」
夏凛の言葉にあははーと園子は笑う。
「我ながら少し軽率だと思ったよ。勇者の力で神樹を傷つけられなかったのは誤算だった。いざというときの守り刀がこんな形で役に立つなんて」
「で、どうするのよこれから。まさかこれで諦めるってことはないんでしょう?」
夏凛の言葉に、園子はうなずく。
「あの人型さんの力を借りようと思う。多分勇者じゃ神樹に傷一つつけられない。でも、バーテックスなら」
「園子、わかってる? あんたの提案は、下手したら四国を滅ぼすかもしれないのよ?」
自分をじっと見つめる夏凜の視線を受け止め、それでも園子は首肯する。
「わかってる。四国を滅ぼした大罪人になっても構わない。わたしは神樹に奪われた友達を、友達との記憶を取り戻す」
「そう。それなら何も言わないわ。あたしも、今回の神樹様のやり方には、胸糞悪さを感じてたから」
夏凜の言葉に園子は目を点にする。まさか同調されるとは思わなかったからだ。
「なにその顔? 言っておくけど、風も…いや、勇者部みんな同じ気持ちだと思うわよ。バーテックスだからって、今まで一緒に戦ってきた仲間同士を何の説明もなく戦わせるなんて悪趣味過ぎるでしょ」
「にぼっしー」
「それに、そのせいで友奈まであんな…」
夏凜の言葉にそういえばと園子は気になっていたことを尋ねる。
「そういえばゆーゆはどうして入院を? にわみんとの戦いの怪我で?」
「だったらよかったんだけどね。あの娘、丹羽を倒したショックで屋上から身投げして自殺しようとしたのよ」
夏凛の言葉に園子は固まった。
「幸い救急隊の人の話では出血してたけど命に別状はないって。多分精霊が守ったんだと思うわ。ただ、場所が場所だから病室で精密検査を受けるって」
「待って、ゆーゆが自殺しかけたの? わっしーじゃなくて?」
園子の言葉に、夏凜は不思議そうな顔をする。
「ええ、よっぽど自分の手で丹羽を…その、殺しちゃったことがショックだったみたいで。気持ちはわかるけど」
「大変だ…ふーみん先輩に連絡してもらって、いや、それでも間に合うかどうか」
夏凛の言葉を聞いているのかいないのか園子がぶつぶつ呟いている。
「ちょっと、園子?」
「にぼっしー! 今すぐゆーゆかいっつんに電話して! わっしーから目を離さないでって。この際この場所がばれてもいいから」
「ちょ、ちょっと園子⁉」
急に必死な顔になって自分に食って掛かるように言う園子に、夏凜は面食らう。
どうしたというんだろうか。親友が心配なのはわかるが冷静沈着な東郷のことだ。間違いを起こすとは思えない。
「早くして! 手遅れになるかも!?」
「落ち着きなさい。友奈はともかく相手はあの東郷よ。友奈が死んだらそりゃ発狂しそうだけど、死んだのは――」
そう、死んだのは丹羽だ。東郷が唯一好きと言った男子の。
『好きよ。友奈ちゃんとは違った意味で。車椅子のかわいそうな先輩じゃなくて1人の女の子、東郷美森として見てくれた最初の異性だもの。そしてみんなと戦う勇者としての目的を気付かせてくれた大切な後輩』
「あっ」
自殺しかけた友奈の行為がショックで、忘れていた。
東郷美森にとって丹羽明吾という存在がどれほど大きな存在かということを。
自分たちが丹羽のことを忘れた時は、心を病むまで彼の存在を訴えていた彼女だ。
自分たちでさえ理不尽な神託を下した神樹や大赦に怒りを覚え、「大赦をつぶす!」と息巻いた。
彼女が何もしないとは到底思えない。
今は友奈が無事かどうか心配しているが、もし無事だとわかってしまったら。
その思考を遮るように、突如夏凜のスマホがアラームを鳴らす。
「何よこれ…」
画面は見たこともない【樹海化警報】という文字で埋め尽くされていた。
「にぼっしー、これ」
「わかんない! こんなこと、今まで1度も」
「落ち着いて、にぼっしー!」
パニックになりそうな夏凜を園子は抱きしめ落ち着かせる。
「聞いて、にぼっしー。今の私は神樹様から見放された。悔しいけど、樹海には行けない」
「園子?」
「だから、貴女に託す。お願い、わたしの親友を……東郷美森を四国を滅ぼす悪にしないで」
その言葉の意味に気づき、夏凜の背に冷たいものが走る。
まさか、いやまさかこの状況は。
「農業王、ミントンちゃん。ニボッシーの中に」
園子の言葉に2体の精霊はうなずき、夏凜の胸の中に入っていく。
「おねがいね、にぼっしー」
「園子⁉」
世界が光に包まれ、気が付けば自分は樹海にいた。
傍らにいたはずの園子の姿はない。
スマホを開き、勇者アプリから地図を呼び出し状況を確認する。
「嘘でしょ」
赤一色。
自分を示すアイコンからスライドさせた樹海の地図は、敵を示す赤い点が多すぎて赤に染まっていた。
思わず顔を上げた夏凜は、その光景に変身するのも忘れ膝をつく。
「なんなのよ、これ」
そこにいたのは天と地を埋め尽くさんばかりの星屑。
まるで樹海に降り続ける大雪のようだ。
そしてその白い弾幕から覗く巨大な12体のバーテックス。12星座の巨大バーテックスがそろい踏みの光景だった。
ようやく1期本編10話に追いついた。7話が18話前とかウッソだろお前。
(+皿+)「しかも本編の重要イベントをスキップしてこの遅さという。まあ、内容が散華関連だから満開回避したこの物語なら仕方ないけど」
神樹「やっぱり満開して散華した方がよかったんじゃない?」
(+皿+)「は?(ガチギレ)」
神樹「供物カモン! 美少女の左目とか舌の上で転がしながらチュッチュしたい!」
(+皿+)「お前、味覚と左目を奪ったのって…(ドン引き)。まて、それじゃ樹ちゃんの声と東郷さんの聴覚は」
神樹「最近、ASMR収録始めたんだ。『神樹様だいすき!(樹ちゃんボイス)』再生して……あぁ^~」
(+皿+)「うわぁ…(ドン引き)」
次回:壁「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」