詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
風・夏凜「「大赦をぶっ潰す!」」
大赦仮面A「勇者が攻めてきた! 園子様にスマホを!」
大赦仮面B「馬鹿! 園子様は神樹様を傷つけて今詮議の最中だ!」
大赦仮面C「じゃあどうするんだよ」
大赦仮面D「それでも春信なら…春信なら何とかしてくれる!」
春信「え゛⁉」
風「大赦ぁあああ!」
夏凜「ぶっつぶーす!」
園子の勇者服コスプレしてる春信「……」
風「ねえ、あれ」真顔
夏凜「無視よ無視」赤面
春信(わずかな時間だけど、夏凜とおそろいうれしいなぁ)
園子が大赦に拘束されていた。
その事実は東郷にとって四国を守るために自分たち勇者を助けてくれているという夏休み最終日に大赦に感じた感謝を打ち消すのに充分な情報だった。
そしてその組織が崇拝している神樹に対して敵意を向けるには充分過ぎる動機。
『わっしー、にわみんを悪者にしたのは神樹様だよ。そしてミノさんの魂を肉体に返さないのも』
『神樹様は自分の都合でにわみんを四国を滅ぼす敵にしたんだよ。自分にとって気に入らないことを言ったから。捕らえているミノさんの魂を身体に返してって頼んだから』
園子の言葉を思い出す。
丹羽明吾を四国の敵と断定し、滅ぼすように告げたのは誰だ?
みんなの記憶から丹羽の記憶を消し、争うように仕向けたのは?
それに異議を申し立てた自分を高熱にしたのは? そしてそれを助けてくれたのはそいつが人類の敵といった丹羽だ。
断じて、今まで自分たちが崇めていた四国の守護神とされる神樹様ではない。
「東郷さん?」
昏い瞳の東郷を心配し、友奈が声をかけてくれる。
そうだ。彼女がこうなったのも…自分の大切な人を奪ったのもみんな神樹様だ。
全部神樹様が悪い。
「友奈さん、東郷先輩! あの、わたしどうすれば」
東郷はベッドのそばに置かれた椅子から立ち上がると樹の元に向かう。
「大丈夫よ、樹ちゃん。安心して」
肩に手を置いた東郷の表情に、樹は身を硬くする。
「全部私が終わらせてくるから」
「東郷先輩?」
神樹様は神様なんかじゃない。
私たちを騙していた悪者だった。
それに気づいた自分は悪を倒さなければならない。なぜなら自分は勇者なのだから。
「東郷さん⁉」
「友奈ちゃんは休んでて。大丈夫。眠っている間に全部終わっているから」
そう。全部終わらせるんだ。
彼を滅ぼした自分を神様だと思っている悪者を倒して、全部。
呆然として自分を見送る友奈と樹の視線を背中に受けて東郷は病室を出る。
さらに病院から外に出るとスマホをタップし変身した。
東郷は夏凛から防人の話を聞いてから、独自に四国を守る壁の調査をしていて、その場所を把握している。
どこにどれくらいバーテックスが集まっていて、どこの結界が1番弱まっているかも。
これから自分がすることを、親友と彼は許してくれないだろう。
だが、東郷は勇者の力で神樹を傷つけられるとは思っていなかった。
勇者とは神樹の力を借りて変身するのであり、自分を倒すためにあなたの力を貸してくださいというのは不条理だ。
だから、人類の敵の力を借りる。いままで自分たちが戦ってきた、バーテックスの力を。
壁にたどり着き結界を超えるとそこは四国の青い空ではなく赤一色の世界。
数えきれないほどの星屑が腐肉に沸く
少し離れた場所では星屑が集合し、巨大バーテックスのもどきになっていた。
もし自分が四国を守る勇者だったらこの光景に絶望していただろうなとどこか他人事のように思う。戦っても戦ってもバーテックスは無限に沸き、勇者としてのお役目として自分たちは戦い続ける運命にあることを突き付けられたのだから。
だが、もうどうでもいい。お役目を終わらす方法は、もう1つある。
それは、このバーテックスを神樹様に向けて解き放つこと。バーテックスに神樹様を滅ぼしてもらうこと。
丹羽と友奈を戦わせるように仕向けた神樹に対する信仰心など、東郷からはすっかりなくなっていた。
代わりにあるのは憎しみ。なぜ自分はこんな存在を必死になって守っていたのかという怒りが胸を満たしている。
東郷はもう1度結界の中に入り、四国の内側から壁に向けて銃を構えた。
「神罰招来」
今こそ神を名乗り、今まで自分たちを騙していた神樹という存在に罰を与える時。
引き金が引かれ、轟音と共に壁が破壊される。
その時を待っていたかのように今まで結界に阻まれ侵入できなかった無数のバーテックス達が四国へ侵入してきた。
東郷美森という少女について尋ねれば、皆こう答える。
まじめでしっかり者の、厳しいところもあるけど優しい子。
だがそれは彼女の一面でしかない。
勇者部の皆に東郷をどう思うのかを聞けばこう答えるだろう。
頼りになる先輩。頼りになる後輩。護国思想の鬼。しっかりものの勇者部のお母さん。
どれも好ましい答えだ。
それもまた、彼女の一面で深淵ではない。
本当の彼女は、誰よりも弱い。
2年前、鷲尾須美だった頃の彼女はまじめで人づきあいが苦手で、初対面の相手には壁を作ってしまう少女だった。
それは2人の少女と友奈との交流で大幅に改善されたが、本質は変わらない。
まじめで人づきあいが不器用なところ。心を開く人間は限られており、愚直なまでのまじめさは逆に友奈に依存する性格になってしまった。
だから本編では友奈を危険に巻き込んだ風に怒りをぶつけ、ギスギスした雰囲気になったこともある。それは自分だけ変身できず戦えなかったといういらだちを含んだ八つ当たりという面もあったが。
だが、彼女の根本は変わらない。まじめということは言い換えれば自分の考えを正しいと信じ突き進む頑固さでもある。
そして有能であるがゆえにこの物語の真実に近づきすぎ、知らぬ間に自分を追い詰めてしまう。
勇者の満開の後遺症の「散華」と精霊について独自に調べたこともそうだ。真実を知らなければ彼女はあそこまで追い込まれることはなかっただろう。
本編で四国を守る壁を破壊したのだってそうだ。バーテックスが何度倒しても復活するという事実に絶望し、その逃れられぬ輪廻から勇者を救おうと1人暴走してしまった。
もし友奈だったら、何度倒してもバーテックスは襲ってくるという事実を知ってもくじけなかっただろう。なぜなら彼女は「勇者」だったから。
もし風と樹と夏凜だったら、その状況に絶望はしただろうが、互いを守るために奮い立ち、運命に抗って見せただろう。
だが、なまじ有能で頭がよかったからか、東郷は壁を破壊するという最悪の事態を起こした。それは絶対勝てないとわかったゲームを最後まで続けるのではなく盤面をひっくり返して試合放棄するのに等しい行為だ。
有能であるがゆえに絶望的な状況に誰よりも先に気づき、失敗するリスクを誰よりも先に考えて行動するのをやめてしまう。
つまるところ、東郷美森という少女は絶望的な状況に対応する能力が勇者部で1番低い。
運命に抗うよりも戦うための武器を手放し諦めてしまう少女なのだ。
だから丹羽明吾は同学年の樹の次に彼女を特に気にかけた。
最初の乙女座戦で言葉を尽くし彼女のメンタルケアを努め、風とのギスギスを回避させることに成功。
変身できない理由を明らかにし、彼女の意識改革に努めた。
たとえ自分が何らかの理由でいなくなっても、この物語の絶望的な終焉に抗えるように。
その甲斐あってか、本編よりも東郷は前向きになったように思った。友奈への依存は相変わらずだが、それはゆうみも好きの丹羽明吾の望むところだったから問題ない。
足が治ってからは特に活動的になり、明るい顔を見せてくれた。勇者部の皆とも仲良くなり、多様性を認めて受け入れた姿は頼もしくて安心できた。
これなら大丈夫だと丹羽は思う。たとえ自分がいなくなっても、彼女は四国を守る壁など壊さないだろう。
そう信じていた。
だが丹羽明吾は見落としていた。東郷美森が自分に対して抱いている気持ちに。
いや、過小評価していたというべきか。勇者部の部員たちが自分に向ける好意の大きさを。
丹羽は自分のことを路傍の石。勇者部にとっては異物でいてもいなくてもいい存在だと位置づけ、ただひたすらに無償の愛を彼女たちに与え続け百合イチャを観察していた。
それが彼女たちの心にどれほど影響を与え、居なくなった時の喪失感を与えるか理解せずに。
気が付けば東郷美森にとって、丹羽は友奈に次ぐ「大切な人」という存在となってしまった。
自分を命がけで助けてくれて、変身できずにいたときに適切な助言を与えてくれた存在。
ハンディキャップだと思われていた車椅子なのにも同情の視線を向けず、むしろ(友奈とイチャつくための)個性の1つだと接してくれた懐の深さ。
自分にとってコンプレックスであった胸の大きさを気にせず東郷美森という人格を見てくれた初めての異性。
世間一般では異常とも言われかねない友奈への想いを全肯定してくれ、応援してくれた唯一の理解者。
そして大きいくせに痒い所に手が届く、見返りを求めない無償の愛。
もしこれが自分1人に向けられ、東郷がそれを独り占めしたいと思えば2人は恋人同士になっていたかもしれない。
だがそうではなかった。
東郷はその有能さゆえ早い段階から気付いてしまう。丹羽の愛情は勇者部全員に等しく注がれていて、自分だけが特別なのではないと。
だから、1歩身を引いて見守ることにした。彼のよき理解者として、1番近くにいようと。
たとえ誰からもその愛し方を否定されようと、自分だけは彼の理解者でいようと。
それは東郷美森という少女が見せた、結城友奈以外の人間への初めての執着だった。
そしてその執着の対象を、最悪の形で無くしてしまう。
友奈と丹羽が互いに信念をかけて争い、片方が消滅するという形で。
結果、東郷の心には本編同様、あるいはそれ以上の絶望が広がり最悪の事態を引き起こす。
どうあっても壁は破壊され、バーテックスの大群が四国へと侵入する。
そんな物語の終焉への筋書きは決して変わらないのだというように。
「嘘…なんなのこれ」
病室から樹海へと飛ばされた友奈と樹は、ただ呆然とその光景を見る。
視界を埋め尽くす星屑の大群。そしてその後ろに控える12星座の巨大バーテックス12体。
今まで見た中で、1番多い敵の数だ。水瓶座戦の時よりも多いかもしれない。
その圧倒的な物量に、樹はもう笑うしかない。
「ははっ、無理だよこんなの…丹羽君もいないのに」
自分の言葉に知らずもういない彼に頼ってしまっていることに気づく。
彼と一緒なら、この状況もなんとかできるかもしれないと思ってしまった。彼はもういないのに。
そう、他ならぬ自分たちが信仰し、必死に守って来た神樹様の謀略によって。
「どうして! 変身できない⁉」
声に顔を向けると、友奈がスマホを手にして何度も画面をタップしていた。
「友奈さん」
「樹ちゃん、どうしよう⁉ 私、変身できないよ⁉ このままじゃ皆を守れない⁉」
この人は何を言ってるんだろう。
樹の心に冷たいものが広がっていく。
ひょっとしてこの人は、まだ神樹様を守ろうとしているのだろうか?
「友奈さん。どうして変身して戦おうとしてるんですか?」
「だってそれは、私が勇者で、バーテックスを倒さなくちゃいけないから」
「そのせいで、丹羽くんは死んだのに」
自分でも信じられないくらい、ぞっとするほど冷たい声が出た。
「あっ」
「友奈さんが勇者の使命に従ったせいで、神樹様を信じたせいで、丹羽君は死んだのに」
樹の言葉にみるみる友奈の表情が青ざめていく。だが、樹の言葉は止まらない。
「わたしたちは、あの時みんな丹羽くんのことを思い出してました。友奈さんだけが丹羽君を倒そうと躍起になってた。友奈さんだけが丹羽くんの敵だった」
「それ、は…」
「どうして神樹様の味方をするんですか? わたしたちの仲間を、丹羽くんを人類の敵にしてわたしたちと戦わせるように仕向けた奴のために」
「ち、ちがうよ! ただ私は、皆を守らなくちゃって! 四国には何も知らない人たちがいる! だからその人たちを守らなくちゃ」
「でも、その人たちは丹羽くんを敵だと思っている人たちですよね」
樹の言葉に友奈は反論できなかった。ただうつむき、ぎゅっとスマホとこぶしを握る。
「わたしたちに全部押し付けて、気に入らないことをしたら人類の敵にして。そんな人たちのために、どうしてがんばれって言うんですか?」
「樹ちゃん、そんなこと言っちゃ」
「友奈さんは誰の味方なんですか!」
今まで聞いたことのない後輩の叫びに、友奈はひるむ。
「神樹様? 丹羽くんを憶えていた東郷先輩を洗脳されたって嘘を教えた大赦の人? それともわたしたち勇者部?」
「樹ちゃん、私は」
「少なくともわたしはもう、神樹様や大赦の人のために戦おうなんて思いません。思えません。丹羽くんを四国を滅ぼす敵なんて神託を下した神様なんて、滅びてしまえばいい」
樹の言葉に、友奈は何も言えなかった。黙り込む2人に徐々にバーテックスの大群が迫ってくる。
「友奈! 樹! 無事⁉」
「あんたら2人とも変身しないで何突っ立ってるのよ!」
声に顔を上げると、すでに変身している風と夏凜がこちらに向かってきていた。
「お姉ちゃん。夏凜さん」
「早く変身しなさい! バーテックスを迎え撃つわよ!」
夏凜の言葉に、樹は首を振る。
「わたし、もう戦いません」
「なっ」
妹の言葉に風は言葉を失う。
「丹羽くんを人類の敵って言ってわたしたちと戦わせようとする神様なんか知らない。そんな神様も、それを信仰する人も滅んじゃえばいい」
「樹、あんたなんてことを⁉」
駆け寄ろうとする夏凛を手で制し、風は樹に声をかける。
「樹。アンタ、それを本気で言ってる?」
「うん。お姉ちゃんはどうして戦うの? 神樹様は丹羽くんを人類の敵って言った相手だよ。なのにどうして?」
「そっか。そうよね。アタシも大赦に乗り込んでえらい奴らとっちめようと思ってたから、樹の言うこともわかるわ」
「風⁉」
風の言葉に夏凜が驚く気配がした。
「でも、もしここでアタシたちがこのままバーテックスを見逃したら、丹羽はどう思うかしら?」
その言葉に、樹ははっとしたようだ。
「自分のせいで四国が滅んでしまった。見られるはずの百合イチャがもう見れないじゃないですかヤダーとか言うでしょうね。多分」
「うん、言いそうだね」
本当に言う姿が想像できてしまった。思わず笑ってしまう。
「神樹様は確かにアタシたちにとって敵よ。でも、四国に住む人たちは守らなくちゃ」
「それは、お姉ちゃんが勇者だから?」
樹の言葉に風は首を振る。
「いいえ、こうするのはアタシが犬吠埼風だから。たとえ勇者の力を持っていなくても今の状況に抗うと思う。それはアイツもきっと同じ」
「そっか。うん。そうだね」
決意した樹がスマホをタップすると、樹の身体が光に包まれ鳴子百合の花が舞う。
光が収まるとそこには緑の勇者服を着た樹がいた。
「ごめんなさい、友奈さん。さっきはあんなことを言ってしまって」
戦いに行く前に樹は友奈に謝罪する。これが最後になってしまうかもしれないから。
「ううん。樹ちゃんの言うことはもっともだから…。私がしたことはもう取り返せないし」
「それでも、言うべきじゃありませんでした。丹羽くんにも言われてたのに。誰も責めないでくれって」
「そうだ友奈! あんた頭の怪我をしたはずじゃ…なんで樹海に来てるのよ⁉」
夏凜の言葉にそういえばと樹は思う。神樹様にとってこの程度の怪我、戦闘に支障はないと思ったのだろうか?
「えっと、怪我したとかしてないとか関係ないみたい。でも、スマホをタップしてもなぜか変身できなくて」
「馬鹿! なに戦おうとしてるのよ! あんたは今回休んでなさい!」
夏凛の剣幕に押され、友奈は思わずうなずく。どうして変身できないのかは不明だが、今回はそれでいいと思う。
もし友奈が戦闘中に怪我が悪化して取り返しのつかないことになったら夏凜は本気で神樹という存在を許せなくなりそうだ。
「とりあえずいまここにいる3人でできるだけのことをやるわよ。みんな、準備はいい?」
風の言葉に友奈はあと1人の勇者部部員がいないことに気づく。
「風先輩、東郷さんは?」
「東郷は…その」
言いづらそうな風に変わり、夏凜が説明する。
「友奈、落ち着いて聞きなさい。この状況を作ったのは東郷なのよ」
夏凛の言葉に友奈は思わず耳を疑う。
「え、冗談はやめてよ夏凛ちゃん。東郷さんがそんな」
「温泉旅館に行った時、あたし東郷に訊いたことがあるのよ。丹羽が好きかって。そしたら東郷にとって丹羽は友奈と同じくらい大切な存在だって。あんたら寝てたから聞いてないでしょうけど」
夏凛の言葉に全員が「ええっ⁉」と驚愕する。そんなそぶりは今まで見せたことがなかったからだ。
「だから、今回のことはよほど腹に据えかねたみたいね。まあ、東郷がやらなかったらあたしたちの誰かがやってたかもしれないことだけど」
その言葉に全員が顔を伏せる。丹羽という存在を失った東郷の気持ちがわかりすぎるほどわかるからだ。
「とにかく友奈はここにいなさい。絶対変身するんじゃないわよ」
「いやいや、犬吠埼先輩。それ逆効果ですから。そんなこと言ったら余計に結城先輩はついてこようとしますよ」
「それもそうね。じゃあ、樹、ここで友奈のことを守ってくれる?」
「うん、わかった」
「結城先輩、絶対無理やり変身して満開しないでくださいよ。そうじゃないと俺が戻って来た意味がなくなるので」
「それは…ごめん。約束できないかな」
「犬吠埼先輩。やっぱり犬吠埼さんじゃ結城先輩を止めるのは無理かもしれないので三好先輩も置いて行った方が」
「それって風1人で突っ込むってこと? 馬鹿言ってんじゃないわよ!」
「ですよねー。じゃあ、犬吠埼先輩もここで待っててもらえますか? 結城先輩は東郷先輩を説得するのに絶対必要なので」
「それだと戦う人間がいないでしょ! 誰があのバーテックスの大群を…ってちょっと待って?」
自然に会話に割り込んできたが、こいつは誰だ? と風はそいつを見る。
白いショートボブの髪。凛々しい切れ長の目。そして白い勇者服に青いラインが入った服装。
右手には刃のない剣の柄を持っている。初対面の人物に、勇者部の面々は思わず「ん~?」と首をひねる。
「えっと、誰? アンタ?」
「ああ、そういう反応になりますよねやっぱり」
「待って、その白い勇者服…まさか」
「丹羽なの⁉」
夏凜の言葉にその場にいた4人は驚く。
「でも丹羽君は私が…」
丹羽明吾は確かに友奈の腕の中で消滅したはずだ。それをあの場にいた全員が目撃していた。
だというのになぜ? 疑問に思ったが確かめる方法が1つある。
「風、樹。あんたらちょっと抱き合いなさい」
夏凛の意図する意味に気づいたのか、風と樹は互いにぎゅっと抱き着く。
しかも今回は恋人つなぎで互いに見つめあうサービス付きだ。
「あら^~やはりふういつは正義」
その不審者顔には見覚えがあった。というか見覚えしかない。
「「「「丹羽(くん)⁉」」」」
「どうも、恥ずかしながら帰ってきました」
にこりと笑うイレギュラーな勇者の帰還に困惑する4人の声が樹海に広がった。
時はさかのぼりテラフォーミング中の中国地方。
仮面をかぶった人型のバーテックスは丹羽明吾に告げる。
『残念なお知らせだが丹羽明吾。お前の身体はボロボロだ…ちがう。オマエノカラダハボドボドダァー!』
「いちいちオンドゥル語にしなくていい」
隙あらば会話にネタを仕込んでくるもう1人の自分に辟易しながら丹羽は言う。
よっぽど会話に飢えていたのだろう。お前は久しぶりに田舎に来た孫をもてなす爺かと思うほど何かあるごとに話しかけてきた。
『まあ、冗談は置いておいて検査の結果だ。せっちゃんを治すのに力を使いすぎたな。今のお前は満開はおろか東郷さんの通常射撃にも耐えられない。全力勇者パンチ喰らったら多分灰も残らず消滅するだろ』
「せっちゃん言うな。それは結城先輩か三好先輩こそ使う呼び名だ」
軽口を言いながら丹羽は自分の胸に手を当てる。
そうか、あの時自分の存在する力が大幅に削れる感覚があったが、そういうことになっていたのか。
『で、どうする? 治してもいいが多分応急処置にしかならんぞ。根本的な解決をするには』
「新しい身体に精神を移す、か」
それは今ある肉体を、勇者部の皆が知ってくれている丹羽明吾という存在を捨てるということだ。
たとえ魂と記憶は同じでも、彼女たちは自分を受け入れてくれるだろうか? そんな不安が丹羽の胸の内に渦巻く。
だが、これはバーテックスである自分にしかできないことだ。
目の前の創造主が言ってくれた丹羽にしかない「個性」でもある。
それに彼女たちを助けるのに自分が丹羽明吾であることにこだわる必要はない。名前や姿が変わっても自分は「勇者を守る勇者」であり続けられればいい。
「頼む。やってくれ。俺はどうしてもみんなを…勇者部の仲間たちを助けたい。この残酷な物語の終焉に訪れる悲劇から。だから!」
『そう言うと思ってたぞ。で、どの身体にする?』
人型のバーテックスはまだ意識がない強化版人間型星屑の素体を水のワイヤーで運んできて整列させる。
『まずはガー〇ズ&パンツァーの西〇まほ、ア〇チョビモデル』
「もろ女性型じゃねーか! しかもなんでこの2人⁉」
あまりにも予想外のチョイスに思わず丹羽はツッコむ。
『ほら、好きな陣営と推しカプは違うから…。俺、大学生同棲中シチュのまほチョビ推し』
「知ってるよ、俺なんだから! でもま〇さんはともかくア〇チョビのこの髪はなぁ」
2次ネタで散々ウィッグ扱いされているすっごい量の髪の毛を見て丹羽は言う。ちなみに2人ともまほチョビ同棲もので油断しているすっぴん髪下ろし眼鏡安斎が大好きだ。
『じゃあこのゆゆ式3人組モデル』
「悪くない。悪くないけどなんか違う」
日常系百合アニメの金字塔である主役3人を見て丹羽は首を振る。この3人はゆゆゆの世界観に絶妙にミスマッチだ。
『わがままな奴め。だったらストラ〇クウィッチーズのお姉ちゃんとEMT』
「この世界だと痴女じゃん!」
パンツじゃないから恥ずかしくないもん! はこの世界では通用しない。だがきちんと服を着ればいいので候補には入れておくか。
『俺の中の女の子バトルロワイヤルモノの原初にして頂点。舞-H〇MEの藤〇静留』
「ぶっちぎりでヤベー奴じゃねーか! パスだパス」
親友が眠っている間に貞操を奪うヤベー奴の登場に思わず叫ぶ。それに武器が薙刀でそのっち先輩と被る。
「もっとこう、男っぽい素体はないのか? この身体みたいに」
『ないよ』
「え?」
『ここは百合の楽園だから、女の子の素体しかないよ』
人型のバーテックスの言葉に丹羽は絶句した。そうか、そう言えばそうだったな。
「……じゃあ、西住ま〇さんの胸の部分を削った感じでお願いします」
『了解。じゃあ、さっそく作業に取り掛かるな』
悩みに悩んだ末、1番中性的でゆゆゆ世界の世界観を壊さなそうなキャラを選択する。
だがこの時丹羽は気付かなかった。人型のバーテックスの狙いに。
自分が操るんじゃなくてもう自分の意志を持ったなら、もう男にこだわる必要なくね? という企みに。
その結果自分も勇者部少女たちとのカップリングの対象にされていることに気づいたのは、全てが終わって平和になってから大分経った後だった。
女の子の輪に自然と混じる百合厨(無性)。冷静に考えると怖くない?
ちなみに丹羽君が選ばなかった百合アニメのキャラはその後人型のバーテックスの記憶から人格をコピーして田んぼや畑のある村に派遣される予定です。
穀物も取れて百合イチャも見られる。まさに理想の環境。
天の神(百合好き)「そうそう、こういうのでいいのよ(ご満悦)」
神樹「これは…男? 女? どっちだ?(疑心暗鬼)」
丹羽「無性なんだけどなぁ。下ついてないし」
丹羽明吾:第2形態
見た目はガー〇ズ&パンツァーのお姉ちゃんこと西〇まほを白髪にした感じ。
人型のバーテックスは胸を削ると言ったが、実際に精神を身体に移すと樹と夏凜よりあったことに丹羽は軽く絶望した。
もちろん創造主のお茶目心である。乙女はかわいくなくっちゃね!
勇者のかけらを使っていないためそのままでは四国へはいれないが精霊を身に宿せば問題なく入れる模様。
四国へ入ることができれば英霊碑を削って持ち帰り、近いうちにアップデートする予定。
現在は中国地方で生まれた最後の精霊、弥勒蓮華をモデルにしたミロクを内に入れている。
次回:(+皿+)「うちの子がおたくに色々お世話になったそうで」
神樹「ヒェッ」