詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
帰って来た百合厨。早くね? 消滅してからまだ1日経ってないぞ?
壁「ああ、今回もダメだったよ。あいつ(東郷)は誰にも相談しないからな」
四国を守る壁、崩壊。壁さん、なんですぐ死んでしまうのん?
レオスタークラスター「うわー遅刻遅刻!」
タチェットの群れ「」この先、通行止め
レオスタークラスター「え、なんで?」
(+皿+)「ごめんねー。君の出番はグッドエンドルートなんだよー」
レオスタークラスター「そんなー」
(+皿+)「このルートのラスボスは、クソウッドさんだからさぁ」
神樹「ヒェッ。勇者たち助けて!」
東郷「どの口が…お断りします!」
風「ぶった切られないうちにその口閉じなさいよ」
樹「嫌です。早く滅びればいいのに」
夏凜「さすがに今回のことはトサカに来たわ」
園子「あははー。ねえどんな気持ち? 自分が選んだ勇者にことごとく見放されてどんな気持ち?」
神樹「ゆ、友奈? 友奈は神樹様のこと大好きだよな? な?」
友奈「ごめん、神樹様。今回のこと、さすがに許せないかなぁ」
神樹「嘘だろおい」
天の神「なに? 神樹滅ぼすの? 手伝おうか?」
十二星座の獅子座の外殻につかまり、東郷は眼下の樹海を見下ろす。
目指す神樹はまだ見えない。結界を超えればすぐにたどり着けるとは思わなかったが、この進軍速度ではまだまだかかるだろう。
敵の視点になって改めて思う。バーテックスが神樹の元へたどり着くのは並大抵の難易度ではない。
まず物理的な距離。四国を丸ごと樹海化しているのだから当然だが、その中心である神樹にたどり着くにはかなりのスピードが必要だ。
続いて結界。これが難敵だ。今回は東郷が内から破壊したが、本来絶対破られることのなかったものだ。大抵はこの結界に弾かれ、四国へ入ることができない。
そして最後の難敵が神樹の力を宿した勇者。つまり自分たちだ。
結界を通り抜けてもこの勇者たちに倒されるバーテックスがほとんどだろう。決して神樹がいる最奥へまでは進ませない。
なにしろバーテックスが神樹の元へたどり着けば四国が滅びると言われているのだ。心優しい勇者たちは四国に住む人々を守るため死に物狂いで戦い続ける。
今まではそうだっただろう。
だが、今回の一件で神樹に対する信仰心や信頼は地に落ちた。自分以外の勇者部メンバーも命を懸けてまで神樹を守ろうとは思わないだろう。
もし四国に生きる無関係の人を助けるために誰かが立ちふさがっても、東郷は説得できる自信があった。友奈以外は。
友奈は優しい子だ。たとえ騙されたとわかっていても四国に生きる人々のために1人でも自分に立ち向かうだろう。
だからその時は、死なない程度に彼女の四肢をこの銃で撃ち、行動不能にする。
できればしたくない、そんなことは。
だが彼女が自分の邪魔をするのであれば容赦はしない。そう決意を抱かせるほど、東郷は神樹に対して憎悪を抱いていたのだ。
「ごめんなさい、友奈ちゃん」
東郷は眼下の樹海を目にしながら言う。
おそらく彼女はこの樹海のどこかにいるはずだ。星屑がまだ消滅していないことから、勇者たちとはまだ接触していないのだろう。
あるいは、自分の意思を知って同調した勇者たちに見逃されているか。
そうであってほしいと東郷は思う。自分だって、彼女たちと戦いたいわけではないのだから。
「さあ、神殺しと行きましょうか」
バーテックスの群れに囲まれながら1人つぶやく。
目指すは神樹。生まれてからずっと自分たちを騙していた神様のふりをした邪神の元へ。
「いざ、突撃!」
『残念。それはさせられない』
頭の中に直接声が聞こえた。
「え?」
突如放たれた水でできたワイヤーにがんじがらめにされ、動きを封じられた12体の巨大バーテックスを見て東郷の思考は停止する。
なんだこれは? こんなもの今までなかったのに。
自分が乗っていた獅子座にも巻き付いている水のワイヤーをどうにかしようと東郷が触れようとすると、脳内に響く声がそれを制止した。
『触らない方がいいよ。指がスパッといっちゃうから』
「っ⁉ あなた誰? どうして私の邪魔を」
周囲を見渡し、声の主を探す。すると信じられない光景が目に入ってくる。
「えっ――」
星屑が星屑を食っていた。
まるで餌を求める鯉のように2回りほど大きい星屑が四国の結界付近にいた星屑を群れで襲い、食らっている。
星屑たちは抵抗することなくその星屑たちに食われていき、気が付けばあれだけいた星屑の大群が数えるほどしかいない。
12体いた巨大バーテックスも東郷の乗る獅子座の他には乙女座、天秤座、蟹座、射手座、牡牛座、双子座の7体しかいなかった。
魚座、蠍座、水瓶座、山羊座がいない。牡羊座をかろうじて見つけることができたが、すでに巨大化したむき出しの歯が並んだ口に食われているところだった。
「なに…これ?」
あまりにも現実離れした光景に思わずそんな声が出る。
身長は成人した人間並みの高さ。胸部に凹凸はなく、性別をうかがい知ることはできない。
人間と同じような両腕と両足、それに5本ずつの手と足の指。そして星屑そのままの顔。
明らかにさっき食った牡羊座よりも小柄なそいつ――人型のバーテックスは次は近くにいた双子座を手刀で貫き、まるで蟹か海老を解体するように豪快に分解し、また顔を巨大化させて
悪夢だ。いままで自分たちが苦労して戦ってきた巨大バーテックスたちをまるで飴細工を握りつぶすように千切っては喰らっていく姿は悪夢としか言いようがない。
あるいは怪獣映画だろうか。絶望的なまでの力の差。
出会ったら諦めるしかない。どんな人類の英知を結集させた兵器を投入しても意に介さない怪物。東郷の大好きな戦車の号砲も、空を飛ぶ戦闘機のミサイルもこの人型のバーテックスには一切通用しないだろう。
人型のバーテックスの存在を危険だと感じた巨大バーテックスたちが逃げようと水のワイヤーが絡みついた体躯を必死にもがいている。だが水のワイヤーは動けば動くほど体躯に食い込み、巨大バーテックスを弱らせていく。
あるいは人型のバーテックスに向けて攻撃を仕掛ける個体もいた。
乙女座はビームを。射手座は無数の矢を。獅子座は巨大な火球を人型に向けて放つ。
だがそのことごとくを人型のバーテックスは巨大な水球で受け止め、あるいは光を屈折させて攻撃を逸らす。どの攻撃も傷つけるには至らない。
『お返し』
人型のバーテックスの言葉と共に、巨大な水球は分裂して複数の刃が付いた円月輪のような形になる。
放たれた高速回転する水の刃は乙女座と蟹座と射手座、天秤座を切り裂き行動不能にした。それをまた巨大化した大きな口で丸呑みし、咀嚼していく。
残るのは東郷が乗る獅子座と牡牛座のみ。
『ちょっとどいててね』
言うや否や東郷に水のワイヤーを飛ばす人型のバーテックス。あまりの速さに東郷は反応すらできない。
気が付けば樹海の地面に向かって放り投げられていた。
見ると20体以上の見たこともないバーテックスが人型の周囲に集まり、さっきまで東郷が乗っていた獅子座を集中攻撃している。拳を握った甲冑のような形のバーテックスの突進に獅子座は火球をぶつけようとするが全て人型のバーテックスが出した水球に打ち消されていた。
その隙をついて牡牛座が怪音波を人型のバーテックスへ向けて放つが人型のバーテックスは自分の周囲を水球で囲み音波攻撃を無効化している。さらに一緒にいたとげの生えた牙のようなバーテックスの放つ光線で牡牛座はハチの巣にされていた。
なんなんだあの化け物は。勝てるわけがない。
圧倒的な力の差を見せつけられ、東郷はこの身に降りかかる理不尽さを呪う。
神樹に騙され、大切な仲間を失った。その仲間の仇討ちに天の神を借りようとしたら、規格外の化け物にそれを邪魔される。
自分はなんてついていないのか。四国を守る壁を壊すという大罪まで犯したというのに、これではただの骨折り損だ。
知らず、涙があふれる。自分の情けなさに、無力さに腹が立つ。
こんなのだから、園子は自分に何も話してくれなかったのだ。
こんな風だから、丹羽を守り切ることができなかったのだ。
全部自分の不徳が招いたこと。力が及ばなかったばかりに。
もうこのまま樹海に頭を打ち付けて死んでしまいたい。どうせ神樹を裏切った勇者の死など誰も悲しまないのだから。
そう思い目を閉じた東郷の身体が、急に抱き留められた。
おかしい。目測では地面に頭を打つのはもう少し後だったはず。
目を開けるとそこには見覚えがある顔と見覚えのない顔。
「東郷さん、大丈夫⁉」
1人は結城友奈。こんな自分も助けてくれる親友だ。
「あら^~ゆうみもお姫様抱っこをこんなに近くで見られるとは。やはりゆうみもは夫婦」
もう1人は東郷を受け止める友奈を抱えているショートボブの白髪の少女。だがその少女の着る白い勇者服と彼女の言動には見覚えがあった。
「丹羽、君?」
東郷の問いかけに、少女はうなずく。
「はい、丹羽明吾。ただいま帰りました」
言葉と共に、少女――丹羽明吾が樹海に降り立つ。どうやら変身できない友奈を抱えて跳躍していたらしい。
後でそのことについて訊くと「やっぱり東郷先輩を抱き上げるのは結城先輩じゃないと」ということらしい。その言葉にやっぱり丹羽君は丹羽君ねと東郷は嬉しそうに笑った。
樹海の地面に2人を下ろし、丹羽は改めて東郷を立たせる。
「東郷先輩、怪我はありませんか?」
「丹羽君? 本当に丹羽君なの? 偽物じゃなくて?」
「あー、そこらへんはちょっと微妙ですけど。俺は勇者部の皆と海へ行ったり夏祭りに行ったあの丹羽明吾です。身体はちょっとちがいますけど」
実は双子座戦前、丹羽は自分にもしもの時のことがあった場合のためにスペアのボディ作りを人型のバーテックスに頼んでいた。
ただ残念なことに人型のバーテックスの元にあった素体は女性型のみで、できるだけ中性的な素体を選んで自分の記憶と視界を同調させた。そのためこの素体は友奈と最後の決着をつけたあの瞬間までのことを憶えている。
魂の証明をするならば今の丹羽は「丹羽明吾という記憶を持った」強化版人間型バーテックスで偽物だが、バーテックスとしては同じ記憶を持った同個体だ。
これもあの時人型のバーテックスが、身体がバーテックスであるのはただの個性と後押ししてくれたおかげだった。その言葉がなければ踏ん切りがつかなかっただろう。
彼女たちに受け入れてもらえないのではないかという恐怖はあった。最悪、嫌われても彼女たちさえ守れればいいと決意して人型のバーテックスにお願いしたのだ。
だが、事情を説明した結果友奈、風、夏凜、樹は喜んでこの手を取ってくれた。
あとは東郷だけだが、この様子を見るに大丈夫だろう。
「丹羽君、丹羽君、ごめんなさい。私、あなたが死んじゃったと思ってとんでもないことを」
「大丈夫です、東郷先輩。まだ間に合います」
自分がしでかしたことの大きさに怖くなった東郷が謝ると、丹羽は優しい顔でその言葉を受け入れる。
「シズカさん」
『はいよご主人。おっ、ロックおるやん』
東郷の胸から出てきた精霊が丹羽を見て言う。その言葉に友奈の胸が光もう1体精霊が出てきた。
『え、なに? レンちいるの?』
『フッ。ミロクはここにいるわよシズさん、アカミネ…なんだか名字で呼ぶのは変な感じね』
同時に丹羽の中から精霊のミロクが登場し、ゆゆゆいの鏑矢組が勢ぞろいする。
「3人とも、俺の中に入ってもらっていいですか? さっき犬吠埼先輩と犬吠埼さん、それとそのっち先輩に託された三好先輩から4体の精霊を返してもらったので」
丹羽の言葉に3体の精霊がうなずき、丹羽の中に入っていく。
白い勇者服に青、桃色、銀色、水色、紫、黄色、緑の7色のラインが走る。まるで虹のようだ。
「じゃあ、ちょっと行ってきます」
「行くって、どこへ?」
「また危ないこと、しないよね?」
問いかける東郷と友奈は心配そうな顔だ。
「大丈夫ですよ。すぐ済みます。不安なら、見ていてもらってもいいですよ」
丹羽の言葉に2人はうなずく。
「ついていくよ。今度こそ私は丹羽君の味方として」
「あなたが無茶をしないように見守るわ。友奈ちゃんの時のようなことには、絶対しない」
疑う気満々の2人にがっくりと肩を落とす。こういうことに関しては信用がないのだなと思う。
「じゃあ行きますよ。偽神満開!」
丹羽の言葉と共に光に包まれ、無数の百合が咲き誇る。
「きれい」
「これが、丹羽君の満開」
咲き誇る百合の花の美しさに目を奪われている友奈とは対照的に、東郷は丹羽の姿を見て驚いた。
神道の神職みたいな姿は風と似ている。だがその後ろに背負うものは扇状に広がった花のようで、様々な種類の百合の意匠がデザインされていた。
周囲を7色の光が飛び回り、手には白い神道の儀式で使う巨大な
「じゃあ、やりますか皆さん!」
丹羽の声に7体の人型の精霊が現れた。
『フッ。このミロクにかかればこの程度の些事、大船に乗ったつもりで任せて頂戴』
『レンち、シズ先輩。がんばりましょう!』
『巫女の本領発揮っちゅうことやな』
『がんばる』
『勇者とは畑違いの作業なんだけど、まあなんとかなるっしょ』
『畑? ナウ畑ってワードが聞こえてんだけど⁉』
『もううたのんってば。今回は私の得意分野だから、がんばります!」
東郷の破壊した壁の結界の前に立ち、厳かに呪文を唱え始める。
「
「わぁ…」
「すごい、花が」
呪文を唱えるたびに白い輪の外側から様々な種類の百合の花が咲き誇り、朽ちてはまた咲きを繰り返し東郷に破壊された四国を守る壁を覆っていく。
やがて壁全体が百合の花に覆われると丹羽は呪文を止め、白い巨大な輪に腕を伸ばす。
すると輪が腕輪のような大きさに収縮し、それを引き抜くと完全に隙間なく百合の花でできた結界が作られていた。
「これで破壊された壁は直りました。むしろ前より丈夫になってると思います」
丹羽の言葉に「おお~!」と友奈と東郷は拍手を送る。
さて、これで勇者の章に続く奉火祭フラグはへし折った。
後は頼むぞと丹羽は頼れるもう1人の自分に心の中でエールを送る。
勇者の章を回避し、勇者部皆が笑顔でいられる世界のために。
カデンツァ・アルタの攻撃で絶命したタウラスを丸呑みして味わい尽くし、レオをアタッカ・アルタに命令してタコ殴りにしている人型のバーテックスは、丹羽の手によって東郷が破壊した四国の壁が修復されるのを見てよくやってくれたと思う。
たぶん自分だけではここまでうまくできなかった。やはり彼を…いや、今は彼女か。四国に送り込んだのは間違いではなかったと改めて思った。
さて、と。じゃあここからは保護者同士の話し合いの時間かな。
往生際悪くこちらに向かってビームを放とうとしているレオの砕けた外殻に向かって水のワイヤーを放つ。そして外殻から中身に侵入するとアリエスの振動能力を発動させる。
ふははは! どうだー! 体躯の大事なところをいじられながら脳みそを揺らされる気分はー!
ここかー? ここがええのんかー? と長い鍛錬の結果もはや手足のように操れるようになった水のワイヤーでレオの内部を探っていると、数センチワイヤーを進めるたびにあっちこっちに体躯を動かし、しかし思うように動かないのか痙攣していた。
あ、ここが反応いいな。それ、最大出力!
水のワイヤーを通したアリエスの超振動にレオの核が光を失い、行動不能となる。あとはアタッカ・アルタとカデンツァ・アルタに任せても大丈夫だろう。
その光景を見守りながら人型のバーテックスは手から星屑を生み出し、樹海化した四国に向かって放つ。
分離した星屑は目指す。四国の中心、神樹の元へとただただまっすぐ進む。
やがてそれは見えてきた。樹海化した四国に根を張る巨大な大樹の姿が。
星屑は矢のような姿に体躯を変え、神樹の幹に突き刺さる。そして今度は蛇やロープのような細長い姿に体躯を変え、神樹の幹に巻き付いていく。
それはまるで神木を表すしめ縄のようだった。
『あー、あー。テステス。クソウッド様聞こえやがりますか?』
人型のバーテックスの言葉に、重々しく無機質な声が返ってくる。
【貴様、何者だ? ただの天の神の使いではないな?】
どうやらこちらの念じた言葉がちゃんと聞こえるようだ。発射した星屑は問題なく仕事をしてくれたらしい。
『俺は天の神の使いじゃない。もちろん地の神の味方でもない。ただの百合を愛する第三者だ』
【なんだそれは。不遜な】
『言葉に気をつけろよクソウッド。俺はなぁ、大事な弟分と勇者の女の子たちを傷つけたお前に対して怒ってるんだ。本編での神婚とか、散華とかにも』
神樹は脳内に響く人型バーテックスの怒りの念を感じ取り、押し黙る。
ここまで近づいたということは、相手は自分をいつでも倒せるということか。
その上で自分に話しかけてきたということは、なにか取引があるのだろう。
【話したいことがあるのならば勝手に話せ。どうせ貴様の手で葬られるこの身。いかようにでもするがいい】
捨て鉢のように言いながらも内心は相手の言葉を聞き逃すまいと必死だ。相手の言葉からこちらに都合の良い条件を引き出し、生き残るために。
だがそんな神樹の予想もしていなかった言葉が人型のバーテックスから語られた。
『なあ、神樹様。もうそろそろ限界じゃないか?』
なんだ? こいつは何を言っている?
『300年だ。自分の身を削って人類を生かしたのはよくやったと思うよ。だが、それだけだ。あんたの未来はどん詰まりで、終わりが見えてる』
【何を…】
こいつは何を言っているんだ? 自分は四国の人類を守ってきた。それは今までもこれからも変わらない。
なぜならそれが神樹という地の神の集合体の役目なのだから。
『これでもあんたを少しは尊敬しているんだ。なにせ1から世界を作るのがこんなに大変だとは思わなかったからな』
という言葉と同時に神樹の脳内にイメージが浮かぶ。
そこは瀬戸内の海。色づいた山。そして田や畑を作り生きる少女たちの姿。
『照魔鏡。遠くにある景色を見せることができる、俺が作った精霊だ』
【精霊を、作った…だとっ⁉】
人型のバーテックスの言葉に神樹は驚愕する。
あり得ない。精霊とは地の神の知識や霊力の集合体だ。自分たち以外が生み出せるはずが。
ましてや相手は天の神とはいえその尖兵。天の神本人ならともかくその末端が作り出せるわけがない。
『一応今は中国地方…ああ、旧国名で行った方がいいか。安芸と周防、長門と備後、備中はこんな風にテラフォーミングしてる。そこで眠っていた神霊の力も借りてな』
言葉と共に100を超える精霊の姿が神樹の脳内に浮かぶ。その中には自分たちの知っているものもいた。
【おお、あれはウカノミタマ様】
【懐かしや。我が同族もいるではないか】
【ああ、安芸の山だ。懐かしいなぁ。帰りたいなぁ】
【待て! 待て我らよ! 貴様、こんなものを見せてどうするつもりだ!】
『俺は提案しに来ただけだよ神樹様。四国を守る以外の道を』
その言葉に神樹は自分を形作っている神樹と一体化している神たちがざわざわと騒ぐのを感じた。
『神樹の寿命は近い。それはあんたが1番わかっていることだろう。それこそ神婚して寿命を延ばさなければならないほどに』
【それは…】
人型のバーテックスの言葉に神樹はうなる。こいつ、どこまで自分のことを知っているのか。
『恵みを与えられなくなった神に対する人の態度はわかりやすいぞ。あんたらはそれを一番よく知っているだろう?』
その言葉に神樹の中で隠し切れないほどの神の動揺が広がった。
そう神樹は地の神の集合体である。なかには名前を忘れられ妖怪や精霊となった神。信仰する者がいなくなり消滅しかけたが神樹と一体化することでかろうじて命をつないだ神もいる。
彼ら、あるいは彼女たちにとって「信仰されない」あるいは「存在そのものを忘れられる」というのはぬぐい切れないほどのトラウマだ。
だからこそ、神樹として真の名でなくても敬われ、信仰される道を選んだものもいる。
そのトラウマをえぐるような人型のバーテックスの言葉は効果てきめんだった。
【ああ、いやだいやだ! 忘れられるのはいやだ!】
【違うのだ人の子よ。我とて常に恵みを与えられるわけではない。土を休ませねばならぬ年もあるのだ】
【なぜ新しい神を奉納するのだ。この土地の恵みは我がずっと与えていたではないか。そんな名の神は知らぬ!】
【落ち着け、我らよ! 落ち着くのだ!】
神樹は昔のことを思い出し動揺する自分たちを何とか落ち着かせようとする。が、なかなか統率できない。
『現に四国の民に与える恵みの量は年々少なくなっているだろう? 来年はもっと少なくなる。それでいつまで信仰されるんだ?』
そこにこの追い打ちである。事実とは言え神樹の中は一気に騒がしくなった。
【あああああ! いやだ! 我はいやだ!】
【人の子と共にあらぬ生活などに、もう戻りたくない!】
【この四国に流れ着いても、我の安住の地などなかった。今はただ、みちのくの故郷が恋しい】
【やめろ! 落ち着くのだ我らよ! 貴様、これ以上我らを苦しめるな!】
『苦しめるつもりはない。言っただろ。提案をしに来ただけだって』
そう言うと人型のバーテックスは照魔鏡に映る映像を変更する。
そこには黄金の波に揺れる小麦畑や様々な野菜が育っている畑が映っている。
【これは…】
『テラフォーミングした大地の作物だ。この秋に四国全土は無理でも香川県1つに配られる恵みに相当する穀物や野菜が取れると思う』
【こんなものを見せてどうする? 我らに何をさせたい⁉】
神樹の言葉に、人型のバーテックスは言った。
『俺と一緒に来ないか?』
【なっ⁉】
言葉を失うとはこういうことを言うのだろう。神樹の主神格は絶句する。
こいつ、まさか我らを引き抜こうというのか?
『見ての通り、俺はバーテックスに滅ぼされた世界を元に戻す活動をしている。今は中国地方だが近いうちに出雲に到着する。そうすれば大量の神霊が手伝ってくれるようになり、あんたらの故郷にもテラフォーミングの手が伸びるだろう』
【ふ、ふざけるな! 誰がそんな!】
【我は行きたい!】
【我も我も!】
提案を真っ向から否定しようとする神樹の主神格は、自分の中から聞こえてきた言葉に声を失う。
それも1柱や2柱ではない。
数えきれないほどの神たちが先を争って自分から離れていき、人型のバーテックスの元へ向かっていたのだ。
【き、貴様ら! 自分が何をしているのかわかって】
【すまぬな神樹。だが我らがいた土地が無事だとわかった以上、懐かしき信仰の地に帰りたいと思うのは道理】
【それによみがえった地には神霊がいるというではないか。我が友もおるやもしれぬ】
【もともとこの地へは人類を守るために来たにすぎぬ。これから人類が戻るのなら、この地にとどまる理由はもうあらぬよ】
怒る主神格に別れを告げ、どんどん神霊が離れていく。その光景に神樹の主神格は歯噛みする。
【待て、貴様らは忘れているぞ! 信仰があるのは四国だけだ! 人の子の信仰を捨てるというのか⁉】
その言葉に離れていった神霊の何体かは迷っている様子だった。よし、やったぞと神樹の主神格は思う。
『それなら問題ない。その土地で働く女の子たちにあんたたちを信仰するように言っておくから。バーテックスでもいいならだけど』
だがその言葉に神霊たちが続々と人型のバーテックスの元へ向かうのを止められなくなった。中には新しい土地に少女しかいないことを聞いて気が変わった現金な神霊もいる。
【やめろ! やめろぉおおお! これ以上出ていかれたら我が、我が維持できぬぅううう⁉】
『それは仕方ないな。大丈夫。あんたがいなくなっても人類が生きていける土地は俺が守ってみせるよ』
【いやだ! いやだ! 我らの中から我らが消えていく。これ以上我がいなくなると、我は我々を維持できぬぅううう⁉】
神霊が離れるたびに神樹からは生命力である光が失われていき、どんどん朽ちていく。
『ついでだ。新世界のためにその体液ももらっていく』
【やめろぉおおお⁉】
人型のバーテックスは樹海に降り立つとその腕を地に突き刺し、神樹の根から樹液を吸い取る。
神樹が枯れるスピードは止まらない。パラパラと樹海がどんどん風化して砕けていき、神樹の枝葉も色を失い枯れてしまう。
【ふざけるな! ふざけるなぁあああ! なぜ我がこんな目に遭わねばならぬ⁉ 我は神ぞ!】
『神? おまえこそふざけるなよ。お前はただの人類を生かすためのシステムだろ』
人型のバーテックスの言葉に、神樹は激昂する。
【なんだと⁉ たかが天の神の使い風情が何をわかる⁉】
『わかるさ。たしかにあんたは300年間人類に恵みを与え、バーテックスの脅威から守ってきたのかもしれない。だが、あんたは信仰を受けたが神様になれなかった。勇者の肉体を供物として受け取ったとき、あんたは善き神であることをやめた。人類の守護者であることを放棄した】
神樹からどんどん生命力が失われていく。これでは遠からず四国は消滅するだろう。
その時はテラフォーミングした新天地に、人型のバーテックスは四国の人類を移住させるつもりだ。
バーテックスによって失われた土地を人が住めるようによみがえらせる方法は確立した。もう四国にこだわる理由はない。
【ふざけるな! ふざけるな! 我は神ぞ! たかが人間のためになぜ滅びねばならぬ】
『その言葉があんたの滅びた理由だよ。神様は人の信仰がなきゃ神でいられない。人をないがしろにした神は滅びるしかない』
どこか悲しそうな声音だったが、怒れる神はそれに気づかない。
『だから、神樹様。今までありがとう。そしてさよならだ』
【Another End「おまえはそこでかわいてゆけ」】
………
……
…
四国の守護者『いや、四国が滅んじゃ駄目だろ。キングストーンフラッシュ!』
(+皿+)『あ、ですよねー。すみません』
その時、不思議なことが起こった!
【やめろ! やめろぉおおお! これ以上出ていかれたら我が、我が維持できぬぅううう⁉】
『それは仕方ないな。大丈夫。あんたがいなくなっても人類が生きていける土地は俺が守ってみせるよ』
【貴様ぁ…何が目的だ! 天の神の末端が神気取りか! そんなことをしても貴様は神にはなれぬぞ!】
『当たり前だろ。神様なんて面倒くさいこと、俺がするわけないじゃん』
帰って来た意外な言葉に、神樹の主神格は目を点にする。
【待て、ではなぜこんなことを…貴様の目的は⁉】
『そんなの決まってるだろ』
こともなげに、人型のバーテックスは言う。
『かわいい女の子がきゃっきゃうふふで百合イチャしてる世界を守るため。少女たちが理不尽な運命に打ちのめされることなく平和に過ごせる世界を作るため。それ以外に何がある』
その言葉に神樹は思い出していた。自分がまだ1柱の神と崇められていた時のことを。
ああ、あの時は幼子を抱えた母親が我を熱心に敬ってくれた。
そのお返しに我は春は花を咲かせて見る者の目を楽しませ、夏は葉を広げ涼しさを与え、秋は木の実を地に落とし豊穣の実りを与え、冬は薪にする枝を落としたものだった。
いつからだろう。そんな生活に不満を持ったのは。
もっと、もっと敬われ、人の子の感謝を受けたいと願ったのは。
恵みと力を与えればその返礼として少女の肉体を供物として受け取るのをおかしいと感じなくなったのは。
【我は、いつ、間違えた?】
思わず出た言葉に、人型のバーテックスは首を振る。
『多分、間違えたのは人だ。神様はその間違ったやり方に従っただけ。歪んだ願いに応えただけだ。だからあんたが間違ったわけじゃないんだよ』
【我は、取り戻せるだろうか? あの時の赤子の笑顔を、母の愛を】
『それは、これからのあんた次第だ。まずは銀ちゃんの魂と今まで勇者から奪ったものを返してみたらどうだ?』
人型のバーテックスの言葉に神樹の主神格は何やら考えているようだ。
やがて人型のバーテックスのもとには千を超える神霊が訪れていた。いずれも神樹の中にいた力ある精霊たちだ。
【毛色が違う魂を持つ天の神の使いよ。同族を頼む】
神樹の言葉に人型のバーテックスは驚く。
『いいのかそんなことを言って。俺はあんたの敵だぞ?』
【構わぬ。敵は己の心の中にあった。それを気付かせてくれたお主は恩人だ】
神樹の枝葉がざわめく。言葉はまるで憑き物が落ちたかのように穏やかだ。
【我はこれより眠りにつく。それで四国の寿命は100年ほど伸びるだろう。それと新しい神格に代わる前に勇者から供物としてささげられたものは返すつもりだ。これで償いになるかわからぬが】
『充分だ。ありがとう』
【不思議な奴よ。天の神の使いでありながら人の子を守り、生きていくための世界を切り開くとは】
『はは、よく言われるよ。そのせいであんたのとこの勇者に1回殺されかけたしな』
笑顔で言う人型のバーテックスに、神樹の主神格だった神は言う。
【できることなら、貴様とはもっと早く出会いたかったものだ。そうすれば…いや、この話はよそう】
『そうだな。たらればの話をしてもキリがない』
この神様なら約束を守るだろう。人型のバーテックスにはその確信があった。
『ああ、それと今の勇者の子たちを罰しないように神託してくれ。このままだと人間の世界に彼女たちの生きる場所はないからな』
【承知した。あの娘たちには悪い事をした。決して罰することなく健やかに暮らせるよう祝福を与えよう。それがこの愚かな神に仕えてくれたせめてもの礼だ】
その言葉に人型のバーテックスは安心する。
人と違い、神霊は約束したことは絶対に守らなければならない。
だから彼女たちにこれから先ふりかかる災難からは神樹の加護で守られるだろう。四国の地においてそれは絶対的な安全に他ならない。
『じゃあな、神樹様。よい眠りを。農作物が取れたら四国に運びに来るわ』
【そなたの進む道に幸あらんことを、毛色の違う天の神の使いよ。人の子の未来に幸あれ】
言葉と共に神樹から淡い緑の光が樹海に降り注ぐ。
おそらくあの中には供物としてささげられた東郷の記憶や銀の魂もあるのだろう。
『さて、これからどうなるかね』
原作と大分変わってしまった物語のことを考える。
レオスタークラスターはあとで自分が破壊しておくにしても、勇者部のみんなは神樹や大赦をもう信用しないだろう。
だが丹羽によって結界と壁の修復は終わり、勇者の章に繋がるフラグはへし折ることができた。
あとは彼女たち次第。勇者としてどう生きていくか。
『あ、そういえば丹羽明吾が人類の敵っていう神託を取り消してもらうの忘れてた』
人型のバーテックスはいまさらながら気づく。
まあいいか。丹羽明吾という人間は死んだことになっているのだから。
人型のバーテックスは壁の外に行く前にもう1度だけ樹海を見る。
そこにはこちらに向かって手を振る丹羽と友奈と、人型のバーテックスの存在に戦々恐々としている東郷をはじめとする勇者部の姿があった。
もうお前は居場所を見つけたんだな。
勇者部の皆を助けるために四国へ送り込んだ強化版人間型バーテックス。
まさか意思を持って自分で考えて行動するようになるとは思わなかった。
こういうの、確か神話にあったよな。ギリシャ神話だっけ。
まあどうでもいい事かと人型のバーテックスは思う。
彼…いや、彼女にはこれからも良質な百合イチャの映像を送ってもらわなければ。
そのために協力は惜しまないつもりだ。
ただし、元の性別に戻りたいというお願い以外は。
せっかく意思をもったんだ。だったら男より女にしていっしょにイチャイチャさせた方が自分としてははかどるし。
思わぬ誤算だったが、新しいカップリングも増えてお兄さんは嬉しいぞ。うんうん。
こうして結城友奈が無理やり満開して身体の大部分が神樹のものに代わることもなく、東郷美森が奉火祭でその命を差し出して壁と結界を修復することなく、勇者の章へ続くフラグを全部へし折り、この物語は終了する。
勇者の章へは続かない。
結城友奈は勇者であるの物語は、ここでおしまい。
Q。なんで東郷さんはコシンプいないのに人型のバーテックスの言葉がわかったの?
A。身体の中にシズカという精霊がいたからです。精霊が中にいるとその精霊を通して勇者に語りかけられます。
丹羽君が遠く離れていても人型のバーテックスと交信できるのはこれが理由です。
人型のバーテックスが神樹をぶった切る展開かと思った? しませんよそんな野蛮なことは。
だってそれじゃあ神樹が絶望する姿が見られないじゃないですか。
ぶっちゃけ今まで自分の中にいた神霊が次々と人型のバーテックスの元に行き、絶望する神樹様が見たかった。
神樹(新)【僕、新しい神樹。よろしくね】
(+皿+)「あんな邪悪な奴でも生まれたての頃はかわいいんだな」
天の神(百合好き)「せやな」
(+皿+)「まあ英才教育は早い方がいいって言うし」つ「ゆるゆり・ゆゆ式・きんいろモザイク・ごちうさ」
天の神(百合好き)「それな」つ「やがて君になる。アサルトリリィ」
どうせみんな、百合好きになる
次回、ノーマルエンドエピローグ