詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
サイコロを2つ振り
合計が11以上の目が出た場合→【わすゆルート】
合計が10以下の目が出た場合→【ゆゆゆルート】
あれから一向に見つからない星座級に、俺は焦っていた。
スコーピオン・バーテックスを発見したのを最後に、遠征隊も四国周辺で星屑を食っている部隊からも星座級バーテックス発見の報告がなかったのである。
当初はあまり気にしていなかった。神樹の体液に耐えられる強化版人間型バーテックスの開発に忙しかったし、それに勇者と意思疎通するための精霊づくりに必死だったからだ。
だが、壁の外に出ても耐えられる強化版人間型バーテックスの完成。それをもとにした精霊型星屑の完成にこぎつけると、あまりになにもない状況に不安をおぼえ始めた。
そして精霊が20体繭から
いくらなんでもおかしい。
遠征隊がスコーピオンを見つけた位置から考えても、もう四国付近にいてもいいはずだ。
というか、四国付近にいないと間に合わない。
ひょっとして襲撃をあきらめたのかと希望的観測を抱いたが、すぐに否定した。
この世界はそんなに優しくない。
ある日突然平和になりましたなんて、
こうなったら数々のゆゆゆいプレイヤーに辛酸をなめさせたアジタートを四国周辺に配置すべきか。
アジタートとはやられると大爆発を起こし勇者に大ダメージを与えるゆゆゆいオリジナルバーテックスだ。
移動速度は遅く、触れると爆発する機雷のような存在だ。その特性から近距離攻撃型や範囲攻撃型勇者の天敵ともいえる。
だが一方で遠距離攻撃には滅法弱く、こいつが出てくるステージはまず東郷や須美、杏、雪花などの遠距離攻撃型の勇者で倒してから他のバーテックスを倒していくのがセオリーだ。
そう、遠距離にめっぽう弱い。
キャンサーとともに行動しているだろうサジタリウスのことを考えると、配置しても効果があるのかは疑問だ。
最悪サジタリウスの矢に全滅させられて、キャンサーには傷ひとつつけられませんでしたということになりかねない。
悩みに悩みぬいた結果、俺はアジタートの母艦であるカルマート2体を制作して配置することにした。
このカルマート。星座級ぐらいの質量がある星屑をまるまる使って作ったので相当な数のアジタートを生み出すことができるだろう。
俺自身も取り込んだアクエリアスとリブラの能力を合体させて水でできた武器を風で威力を上げて放つようにしてみたり、回転数を上げて攻撃力を増してみたりといろいろ試してみた。
前回取り込んだスコーピオンの能力も試してみる。カプリコンの御霊が出す人体には有毒な霧の毒素を上げてみたり、手を直接毒針に変えて相手を突いたりと攻撃手段はいろいろありそうだ。
これは防御力の高い対キャンサー戦で役に立つことだろう。
あと毒を取り込んだことでゆゆゆいに出てきたアイツを作れるかなと試してみたが姿が似ているだけで固さや厄介な能力は再現できなかった。うーん、まだ俺自身の能力や材料の質量が足りないのかな?
そんな試行錯誤を繰り返していると時間はあっという間に過ぎていき、運命の日を迎えた。
俺はサーバー星屑から異常事態の報告を受け、すぐに作業を中止しサーバー星屑のもとへ向かった。
意識を移すと数体の星屑の数字の光が消えていた。あれは、結界付近にいた星屑たちの番号だったか?
何かを発見した黄色になる前に色がなくなったということは、感知する間もなく消滅したということか。
サーバー星屑に消滅する前の映像を映すように念じると、画面が複数表示される。
一見何の変哲もない、いつもの壁の外の映像だった。だがまばゆい光のようなものに包まれた後、すべての星屑の視界が真っ黒になった。
おいおい、これって…。
俺は結界付近に一番近い場所にいた星屑2体を別々の方向から結界付近に近づくように命令する。
見えてきた光景に言葉を失った。
それは結界の外からレオとサジタリウスが一方的に結界内にいる勇者たちへ攻撃している姿だった。
いくら何でも反則過ぎるだろ!!
俺は叫びだしたい気持ちを抑え、すぐに人型へと意識を戻し巨大フェルマータと強化したアタッカ・バッサ6体に準備するように念じる。
遠距離攻撃用のカデンツァと防御特化のタチェットは足が遅い。一応結界付近の地点に来るよう指示を出しておくが、間に合うかどうか。
フェルマータに乗り込み、リブラの能力で先端に風の繭を作る。これにより風の抵抗が緩和され、普通よりも早く移動できるはずだ。
アタッカ・バッサを置き去りにするようだが、今はとりあえず現場へ向かうのが先決だった。
おそらく最初に防御力の強いキャンサーを先行させ、勇者たちが出てきたところを狙って射程距離外から2体の巨大バーテックスは攻撃を開始したんだろう。
サジタリウスの連続して放つ矢が届くのは中距離程度であまり怖くない。だがチャージして放つ矢は非常に強力で、長距離攻撃向きだ。
その威力は勇者の満開バリアでも防ぎきれるかどうか。
もちろん鷲尾須美は勇者である時代の今は満開バリアなんてない。精霊もまだ持っていない。生身だ。
当たればひとたまりもないだろう。
レオの放つ火球と熱光線は強力だが、本来壁を守る神樹の結界を破壊するには及ばない。
結城友奈は勇者であるでも壁を破壊したのは東郷美森の武器による内側による攻撃で、外側からのバーテックスの攻撃ではびくともしなかった。
そう、普通なら何の問題はない。
だが結界のなかで戦う勇者たちを滅ぼすには十分すぎる火力なのだ。
現に西暦時代の勇者、群千景の7体を同時に倒さないと死なないチートのような七人御先という精霊を6体まで一瞬で消滅させたことからもその規格外さをうかがい知ることができるだろう。
そんなレオがなぜ今ここに? と考える。
レオはラスボスと言ってもいいほど星座級の中でも屈指の強大な力を持つバーテックスだ。
鷲尾須美の章でも最後に出てくる3体のうちの1体として登場しているし、結城友奈は勇者である1期では牡牛座など複数の星座級と融合し、レオ・スタークラスターとして実質ラスボスを務めていた。
つまり中ボス戦にいきなりラスボスが出てきたような理不尽さなのだ。
お前、出てくるのもっと後だろ! とこちらが言いたくなる気持ちがわかっていただけただろうか。
俺のせいか。
考えても考えても、やはりそこに行きつく。
俺が調子に乗って本来出てくるはずのスコーピオン・バーテックスを倒してしまったから、代わりにレオが出てきた。
良かれと思ってやったことが、結果として最悪の事態を引き起こしてしまった。
これでは、もう3人が生きているかどうか…。
いや、希望を捨てるな。決めただろう、銀ちゃんを救うって。
その展開が待つ物語ごとぶち壊すって。
頼む、間に合ってくれ。
俺はこの世界に来て初めて神に祈りながら見えてきた神樹の結界に突っ込んだ。
遠足の帰りにスマホからアラームが鳴り、神樹様の結界に巻き込まれた。
あたしと園子、須美はすぐ変身して、近づいてくる巨大バーテックスを迎え撃とうとする。
白い3つに分かれた顔に扇みたいな頭部が6つ甲冑みたいに重なってる。段々になった腹部からハサミのついた腕が2つ生え、しっぽにもハサミがついていた。
前回2体同時に来た敵を倒して油断があったと言われれば確かにそうだ。
1体くらいならすぐ倒せる。そう思っていた。
だけど一瞬そいつの背後が光って、次の瞬間須美が倒れたことで状況は一変した。
「わっしー!?」
園子がいち早く気づいて、須美に駆け寄る。見ると口から血を吐いていて、生気のない顔でぐったりしている。
なんだよこれ。
思わず呆然としていると、「ミノさん!」と園子が叫ぶ。考えるより先に身体が動いていた。
須美と園子を守るように前へ出ると、両手の斧でガードする。
だが今度の攻撃はあたしたちから大きく逸れ、結界にある神樹様の根をえぐって爆発した。
「園子! 須美は!?」
前方に視線を向けたまま、園子に尋ねる。光が、今度は2つ。
「大丈夫、息はある。でもこのままじゃ…きゃぁ!」
瞬間、目の前にあった樹海が燃えた。
光が走った後、急に明るくなって肌を熱が焦がす。光が走った場所は黒くなっていて、ところどころに赤く光る筋が見える。
あまりのことに言葉を失っていると、首元を掴まれた。
どこにそんな力があるのか、園子は負傷した須美を抱えてあたしを引きずりながら結界の奥へと向かっていく。
「園子?! 敵は」
「黙って! 7、8、9、10、11」
園子は数字をつぶやきながら進む。58、59、60と数えたときに、また光った。
「この野郎!」
今度は防ぐことができた。こちらに向かってきた攻撃をはじく。
受け止めようとしたが逸らすのが精一杯だった。斧で完全に防いだはずなのに、腕がビリビリする。
あたしが無理やり立ち上がったので、園子はバランスを崩して転んでいた。あわてて駆け寄って起こす。
「大丈夫か、すまん」
「ありがとう、ミノさん。大体わかったよ」
園子が血を流す姿を初めて見たかもしれない。須美は相変わらずぐったりしたままだ。
よく見ると足にも酷いやけどをしている。さっきの樹海が燃えたときか。
そんな状態で、須美とあたしを運んでくれたのか。
「さっきから続いている攻撃、多分わたしたちを狙ってるわけじゃない」
蟹座とその後ろにいるだろう見えない敵をにらみつけて、園子が言う。
「多分、敵は2体。結界の外ギリギリからあの蟹座を避けて無作為に撃ってるんだ。だから姿が見えないし、狙いが甘かったり全然違うところに当たったりしてる」
「無作為ってことはでたらめに撃ってるってことか?」
「そう。最初に当たったわっしーは運が悪かったとしか」
園子が勇者服を脱がして傷の具合を確かめている。左胸の下、あばら部分に被弾していた。
「ただ、ここに来るまで8発しか撃ってこなかったってことはそう連射できる攻撃じゃないってことだと思う。わっしーに当たったやつはチャージに1分。樹海を焼いた光線みたいなのは3分くらいかかるみたい」
内臓は傷ついてないみたい。と安堵する園子を見て、あたしは戦慄していた。
こいつ、あの状況でそこまで考えてたのか?
あたしが呆然として、みっともなく取り乱していたなか怪我を負いながらも戦況を分析していたって、嘘だろ。
以前、須美になんで園子をリーダーにしたのか聞いたことがある。
「目を背けてた相手の真価を認めただけよ。くやしいけど、多分、私はそのっちみたいにできない」
あの時は何のことかわからなかったけど、今納得した。
多分、園子がリーダーじゃなかったらあたしたちはこれまでの戦いで全滅していただろう。
「怪我がこの程度で済んだのは、多分神樹様の結界のおかげだよ。威力が落ちてなかったら樹海は焼け野原になってるだろうし、わっしーも」
「園子」
現状を説明してくれるのはありがたい。でもあたしは須美みたいに頭が良くないから、アドバイスはできないんだ。
なのでもっと簡潔に自分ができることを尋ねる。
「3人で生き残るにはどうすればいい? あたしは、何ができる」
覚悟を決めて見つめた。園子はあたしの視線を受けて――目をそらした。
「ごめん、ごめんなさい。わからない」
初めて見る園子の余裕のない表情だった。
「勝ち筋が、全然見えないんよ。攻撃してくる敵は結界の外。近づくには危険すぎるし、撤退して仕切り直そうにもあの蟹座のバーテックスがいる限りは」
「じゃああいつを結界の外に押し出せば」
「多分、敵もそう考えて誘ってるんだと思う。近づいた瞬間攻撃を変えて、今の攻撃の比じゃない密度で襲ってくる」
じゃあどうすれば、と考えようとしてやめる。
あたしが考えつくような方法はもうとっくに園子は考えた後だろうし、そのうえで勝ち筋がないと言っているんだ。
つまり、詰んでるってことか。
「っ!? 考える! 考えるからもうちょっとだけ時間をちょうだいミノさん!!」
考えが顔に出てたか。園子が泣きそうな顔で掴んできた。
「だから――特攻しようなんて、馬鹿なこと考えないで……」
ごめん、園子。でもこのままだとジリ貧だしさ。
2人も動けないし、敵さんも待ちきれないみたいだ。
結界の奥にこもったあたしたちに業を煮やしたのか、蟹座がこっちに向かって進軍していた。
巨大なバーテックスが進んだ分だけ樹海が侵食され、世界の終わりが近づいてくる。
頭に家族や安芸先生、クラスメイトの顔が思い浮かんでは消えていく。
この人たちが生きる世界は、あたしが守らないといけないんだ。
「ミノさん! 待って!! せめてわたしも一緒に」
「ばーか、けが人を一緒に行かせられるかよ」
立ち上がろうとして痛みに顔をゆがませる園子を座らせて、あたしは言う。
「大丈夫。すぐ帰ってくるから。料理教えるって、約束しただろ」
蟹座の前に行くまで、遠くから2体のバーテックスの攻撃は続いた。
園子の言う通りでたらめに撃っているのか、樹海をえぐったり壁を燃やすだけであたしに当たることはない。
やがて蟹座の正面まで来ると、樹海の地面に斧で線を引く。
「悪いな、こっから先は人間様の領域だ」
ここは、怖くてもがんばりどころだ。
あえて不敵に笑ってみて、目の前の化け物をにらみつける。
樹海の奥にいたときには気づかなかったが、2体の巨大バーテックスが結界の中に入ってこちらに向かってくるのが見えた。
どうやらエサに食いついたと思ったらしい。
しゃらくさい、あたしはエサごとかみ千切ってやるさ。
天の神「いつまで手こずってるの?」
獅子座「はい」
天の神「はいじゃないが。もう神樹の樹海全部燃やしちゃいなよ。反撃できない遠距離から攻撃したりとかさ」
射手座「それはいささか卑怯では?」
天の神「やれ」
獅子座、射手座「はい」
蟹座(大変だなぁ)
天の神「あ、お前勇者を釣る囮な」
蟹座「ファッ!?」
だいたいこんな感じ。