詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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(+皿+)「尊さではなでりん一強。やはりゆるキャン△はいいな。のんのんびよりもいいぞ」
天の神(百合好き)「かわいいの過剰摂取で糖尿病になりそう。あぁ^~こころがほわんほわんするんじゃ^~」
神樹「え、何急に?」
(+皿+)「2021年冬アニメの感想に決まってるだろ!」
天の神(百合好き)「今季はファンタジー系多くて日常系は少ないがクオリティーは前期に負けていないからな!」
神樹「えぇ…(困惑)。汝、仮にも天の神だろ? いいのそれで?」
天の神(百合好き)「シリアス担当は別次元の我に任せたから。我自身は百合アニメ好きを貫く!」
神樹「断言しちゃったよ…。汝のいる次元の世界(わすゆルート)はそれは平和なんだろうなぁ(遠い目)」


【80話突破特別編】
 全国のドスケベ変態叡智を愛する皆さん、シコんにちは~!
 ほんの2話前に東郷パイパイセンのを投稿したのにもう投稿とかア〇コが乾く暇もないハメねぇ。
 これから本編はグッドエンドルートに突入するんだけど唐突に思いついたR-18小説とかバトルファ〇クもののせいで投稿が滞ってるパコ。
 もし長い間本編の更新がなかったら多分寝室の方に投稿してる可能性が高いからご容赦してほしいハメ。
 寝室を見るためにはタイトルの横にある作者の百男合ってリンクがあるパコ。こう書いて【百合の間に男を挟む】って読むハメね。
 このクリックしてほしくてたまらないって名前、どんだけいやらしいことを考えてるんだハメ。
 そこから詰みシコRの寝室て名前のリンクを焦らしたり焦らさなかったりしながらクリッククリックぅ!
 とうとうR-18ページに来ちゃったパコ。本編ではカットされた風パイパイセンとご主人とのドスケベ〇ックスと叡智叡智ライフとかがチンチ〇列されてるハメ。
 あ、もちろん18歳以下のよい子は読んじゃ駄目パコよ。
 それ以外で投稿が滞っている場合は多分体調を崩して寝込んでいるかネタ出しのためにエロ同人を読み漁ってるハメ。
 それでは今回紹介するのはハメら!

【caution】ヘテロ注意報【caution】
 主人公(星屑)は無性でそれが操る丹羽も無性ですが、作中にヘテロ表現があります。
 勇者部の女の子同士の百合イチャを期待される読者の方、またはヘテロ表現に著しいアレルギー反応のある方は読み飛ばすことを推奨します。
 よろしいですか? よろしいですね?
 では、本編をどうぞ。


【ヘテロ】バッドエンドルームへようこそパコ(樹編)【注意】

 映像が終わり、室内に照明がつく。

 友奈、風、樹、夏凜の4人は東郷を見る。すると彼女はにっこりと微笑んで見せた。

「「うん、知ってた」」

 東郷の自作自演で丹羽に告白させたシーンを見て、まずそう思った風と夏凜は正直な感想を述べる。

「東郷が怖がるほどのストーカーなんて、存在しないでしょ。常識的に考えて」

「というか、東郷の世界線のあたしは馬鹿なの? 友奈のストーカーを人知れず撲滅してる東郷がストーカーなんかに負けるはずないじゃない」

「ひどいわ風先輩、夏凛ちゃん。私だって普通の乙女なのに」

「普通の乙女は狂言であんなことしないと思うよ東郷さん」

 東郷のやり方に親友である友奈も流石にドン引きしていた。

『ちなみに翌朝東郷パイパイセンのベッドで2人仲良く眠っているご主人をお手伝いさんに発見させて、東郷パイパイセンのお父様とお母様とご対面。ご主人は針の(むしろ)のような環境の中、東郷パイパイセンに「私の大切な人」と紹介されて外堀を完全に埋められたハメ』

「よけいなことは言わなくてもいいのよ鳥さん」

 用意周到なその後の計画を暴露され、東郷が黒いオーラを出しながらセキレイをにらむ。

『完全に東郷パイパイセンにハメられてシコられたご主人様がんばえーという股間の大きなお友達は、励ましのお便りをシコシコ送ってほしいパコねぇ』

 セキレイは東郷の眼光を華麗に躱し、相も変わらずセクハラ発言を連発してる。

 一方他の4人は恐れおののいていた。

 やばい。こいつぶっちぎりでヤベー奴だ。

 勇者部の面々は先ほどまでの風が1番警戒すべきだという認識を改める。彼女こそ自分たちが1番危険視すべき相手だ。

 なぜなら東郷は丹羽の隣にいるためなら手段を選ばないのだから。

「あの映像見て思ったけど東郷って明吾以外の人間を駒としか見てないっていうか、犠牲になってもどうでもよさそうよね」

「そんなことないわ夏凛ちゃん。友奈ちゃんや夏凜ちゃんも大切なお友達よ。ただ私にとって明吾君が1番大切な相手っていうだけで」

「あの、みなさん。わたしとんでもないことに気づいちゃったんですけど」

 夏凛に弁解する東郷を見て、恐る恐るといったように今まで沈黙していた樹が手を上げた。

「最初会った時、東郷先輩お仕置きが必要って言ってたじゃないですか。今思うとあれ、明吾くんにじゃなくてわたしたちに対して言ってたのかなと」

 沈黙が場を支配する。

 いやいやまさか。そんなことあるはずが…。

 ちらりと風は東郷を見る。にこにこしていて感情は読めないが、彼女は勇者部の常識人枠。時々国防思想に傾き変になるけど仲間にそこまで過激なことはしないはず。

「それはもちろん皆にお仕置きしますよ。私の明吾君に手を出したんですから」

「嘘でしょ東郷⁉」

 思わず立ち上がりかけた風の背筋を冷たいものが走る。

 よく見ると自分を見る目が、目が全然笑っていない。

「特に風先輩は、私の明吾君とあんなにエッチなことをしてたんですから。まずは10枚くらい抱いてもらわないと」

 抱くって何⁉ しかも10枚? 石抱き? あの時代劇でよく見る拷問の石抱きなの?

 風が戦々恐々としていると、親友の友奈が恐る恐る声をかける。

「お、お仕置きって具体的に何をするのかな、東郷さん」

「友奈ちゃん。聞きたい?」

「いや、いいややっぱり。うん」

 親友の見たことのない一面を覗いた友奈は慌てて目を逸らす。

 少なくとも自分の世界の東郷はこんな恐ろしいオーラは出さない。この東郷は別人と考えた方がよさそうだ。

「でもさ。さすがに友奈は例外なんでしょ東郷」

 夏凜がわずかな希望を抱いて質問した。もし友奈までお仕置きの対象だったら自分は何を信じればいいのか。

「友奈ちゃんは大切な友達だけど…もしそんなことがあったら泣いて馬謖を斬るわ」

 斬っちゃうのかよ⁉

 自分たちの世界でイチャイチャしている2人を思い浮かべ、風、夏凜、樹の3人は震えた。

 なにをどう間違えば友奈ちゃんラブの東郷がこんな風になってしまったのか。

 どうすればこんなぶっちぎりでヤベーモンスターが生まれてしまうのかと。

「でも、ここにいるのがみんな別世界線の明吾君と恋人になったってわかったから心配しなくてもいいですよ。お仕置きはなしです。告白までの流れも参考にさせてもらっています。だって明吾君って優しいから、これ以上悪い虫が付かないように」

 しかもこいつ、まだまだ成長するつもりだ。別世界の自分たちが告白したされた映像を見て、傾向と対策を立てて丹羽を独り占めするつもりに違いない!

「風、ごめん。性欲(獣)とか言って。東郷に比べたらあんたはまともよ」

「あれと比べられるのはちょっとあれだけど。わかってくれたらいいのよ」

「でもその…勇者服でエッチなことをするのはどうかと」

 話がまとまりかけたのに蒸し返す攻略王友奈。会話に爆弾を放り込まなければ気が済まない性分らしい。

「あれは、その。部屋で水着着た時のあいつの反応が嬉しかったから、つい」

「風先輩はいいですよね。付き合ったのが勇者アプリを返す前で。私だって勇者服で明吾君を誘惑したかった」

「「「「え?」」」」

 東郷が漏らした言葉に、思わず全員が東郷を見る。

「こほん。今のは冗談です」

「でもちょっとわかります。わたしもあの勇者服、かわいいと思ってましたし。お姉ちゃんとのハッスル具合から言っても、1回くらいは」

 神樹が聞いたら憤死しそうなセリフだ。お前ら我の力で変身してるのにナニやってんの⁉ と。

「あんたらねぇ。そんなことで悩んでるの?」

 夏凜がやれやれというように首を振る。それに東郷と樹が厳しい目を向けた。

「夏凜ちゃんはいいわよね。新天地の調査のためにまだスマホを返していないんだから」

「夏凜さんは自分の世界の明吾くんとバーテックスと戦うけど力及ばず敗北する勇者のくっ殺プレイとかやってるんでしょ! 知ってますよ!」

「するか! そんなこと!」

 東郷と樹の指摘に夏凛が顔を真っ赤にして否定する。

『え~、してるパコよねぇ。それだけじゃなくご主人様とワンワンお散歩プレイとか疑似親子プレイとか、逆赤ちゃんプレイとかそれはもういろんなラインナップが』

 いやらしい顔で笑うセキレイの顔が次の瞬間あらぬ方向を向く。

 見ると席から一瞬で跳躍した夏凛が飛び蹴りをかましていた。

「ふー、ふー、いい? あんたらは何も聞かなかった。いいわね?」

「「「「アッハイ」」」」

 あまりに必死な赤面した夏凛の気迫に、思わず声をそろえてうなずく4人。

 興味はあったが先ほどエッチなシーンはカットするようにセキレイに言った手前、それを聞くのはマナー違反だ。

『ひ、ひどいハメ。これ絶対お尻が9つに割れちゃったパコ。ボク、9尻器(きゅうけつき)になっちゃったハメ⁉』

「蹴られたのは頭でしょ! この馬鹿鳥!」

『中折れしたらどうしてくれるんだパコぉ~⁉』というセキレイを無視し、夏凜は東郷と樹に言う。

「服ならセッカに頼めばいろいろ都合してくれるわよ。あの娘服作るの好きだしセンスもいいし。ファッションの相談にも乗ってくれてるもの。…それと内緒だけど、その、あいつとのプレイ用の服も作ってもらってるし」

「ほほう」

「「「詳しく」」」

 夏凛の言葉に風が目を輝かせ、残りの3人が食いついた。

 この訳の分からない場所に連れてこられて初めて有益な情報が聞けるかもしれない。4人は興味津々だ。

『えーっと、みなさーん? 次は誰の世界線の映像を』

「「「「今忙しいから後で!」」」」

 5人集まり女子トークを始めた勇者たちに、セキレイは『ハメ~?』と首をかしげながら話があらぬ方向へ行ったことに困惑する。

『え~本当にいいパコ? じゃあボクが勝手に決めちゃうハメよ?』

 セキレイの言葉をガン無視して勇者部は女子トークに花を咲かせていた。

『あ、放置プレイパコね! ボクは産まれた瞬間からご主人に捨てられるという放置プレイをされてるからこんなヌルヌルな放置プレイには屈し…屈しちゃうハメェ~! ウサギは寂しいと死んじゃうんだパコ! 万年発情期のバニーガールに種〇けプレスしてアイドル射〇()ビューさせてほしいハメェ~!』

 ツッコミ要素抜群の発言も無視して勇者部女子たちは盛り上がっている。それにセキレイは寂しそうな顔をした。

『え、本気で放置パコ? ガチハメ? あ、今のは下ネタじゃなくて正直な感想パコ。ほ、本当にボクが映像選んじゃうハメよ? いいパコ?』

 ガン無視である。セキレイの不自然にでかいデフォルメされた瞳に液体が溜る。なぜか白く濁っているが。

『じゃ、じゃあ次は初変身で1人だけウィンク決めちゃうヤベー奴こと樹ちゃんに決定ーハメ!』

 無視である。室内には勇者部女子たちがキャッキャッと別の話題に花を咲かせている声が響くのみだ。

『うわぁあああん! みんなが無視するパコォオオオ! もうヤダ、おうちかえりゅぅううう! あ、ここがボクのお家だったハメね。呟いても1匹。セッ〇スをしても1匹。所詮人間は孤高のソロプレイヤーなんだハメねぇ』

「うっさい! 今大事な話してるのよ!」

 と風。

「やるならさっさとやってください。東郷先輩の映像を見た後だと多分わたしの映像なんてかすんじゃいますし」

 と樹。こちらはもう完全にどうでもよさそうだ。

「そうね。東郷のあれを見た後だと、多分誰の世界線の映像でも大したことないって思えるし、樹の世界を見て癒されるのもいいかもね」

 と夏凜。完全にホラー映画を見た後の気分転換に見るハートフル映像扱いになっている。

「私の映像ってそんなにかしら? むしろショック的には風先輩の映像の方が破壊力はあったわよね」

 元凶である東郷は首をかしげてそんなことを言っている。確かに脳破壊度では風の方が上だがそれは告白の後のR-18的な映像のせいで、告白までの流れは明らかに東郷より健全だった。

「樹ちゃんかぁ。同級生だし、同じクラスだからくっついても不思議ではなかったんだよね」

 友奈に至っては完全に勝利者からの目線だ。それより今は夏凜の情報が重要なのか、「それでそれで?」と話の続きを促している。

『うぅ、オチン〇ン。オチ〇ギン欲しいパコォ。せめて今までのボクの働きに関するガンシャ…もとい感謝のお言葉が欲しいハメ』

「はいはいありがとね。じゃあさっさと初めて頂戴」

『おっけーパコ! それじゃあ始めるハメね!』

 投げやりな感謝の言葉を聞くと一瞬で機嫌を直したセキレイが能力を発動して室内が暗くなった。こいつ、チョロい。

 5人が見守る中、目の前の画面に映像が流れだす。

『それではよいドスケベライフを~!』

 

 

 

 双子座戦の後、東郷が壁を破壊して大量のバーテックスが侵入した出来事から2週間ほど経った。

 あの後丹羽は樹との約束通り犬吠埼家の隣の部屋に再入居した。

 一緒に朝ご飯を食べ、学校に行き、同じクラスで授業を受けて昼休みに同じお弁当を食べる。

 放課後は勇者部として一緒に活動し、学校が終わってからは家に帰り、夕食ができたら呼びに行く。

 そんな夏休みが終わる前まで続いていた毎日が戻ってきてくれたことが、樹はこの上なく嬉しかった。

 最近樹は夕食の後片付けだけではなく料理の手伝いもしている。

 丹羽との料理特訓のおかげで今では姉に並ぶほどの腕前になった。樹はもはや紫色のスペシャル仕様の料理を作ることは(ほとんど)ない。

 時々さりげなく風が作った料理と共に食卓に並べても丹羽はそれをすぐ見抜き、「今日は犬吠埼さんが作ったんですね」と指摘してくれる。

 そのことが少し…いやすごく嬉しいのだ。

 そんな妹の様子を見て思うところがあったのか、風も段々樹に家事を任せてくれるようになった。

「いい、樹。怪我したらすぐ言うのよ。お姉ちゃんいつでも救急箱用意してるから」

「お姉ちゃん。掃除機かけるだけでどうやったら怪我するの…」

 シスコン気味で過保護なのは相変わらずだが。

 そんな嬉しいことがたまに起こりながらも毎日一緒にご飯を食べて勉強をして、部活をして一緒に帰る。

 そんな毎日が続くと思っていた。

「にわみん、大好きだよ。わたしとずっと一緒にいてほしいな」

 そう、丹羽と園子が2人きりでいた部室から聞こえてきたその言葉を耳にするまでは。

 

 

 

 偶然だった。

 決して覗き見や聞き耳を立てていたわけではないと樹は誰に言うでもなく弁解する。

 2学期から勇者部に入部した先代勇者であり東郷の親友、乃木園子。

 彼女が丹羽に告白しているシーンを目撃してしまった。

 丹羽が返事を聞く前に逃げ出して……気が付けば昇降口にいる。

 心臓の音がうるさい。冷たい汗が背中から噴き出て気持ち悪くて思わずしゃがみ込む。

「なんで…」

 思わずそんな言葉が出る。

 なんで園子さんがあんなことを? なんで丹羽くんに告白を? なんで2人が?

 そんなの考えるまでもない。丹羽は散華で失った園子の身体を治した。いわば命の恩人だ。

 それに趣味も合う。百合イチャ好きという共通点があった2人は、出会ってまだ1か月だというのに他の勇者部の面々に負けないほど仲がいい。

 時々樹ですら2人の間に特別な絆を感じることがある。それに、園子を見る丹羽の目が、他の勇者部の仲間を見る時より優しいことも最近気づいた。

 それに気づいてからずっと胸がざわざわしていたのだ。そこにあの光景である。

 正直、お似合いの2人だと思った。園子は無邪気さと美しさが同居した類稀な美人で姉の風よりも美少女かもしれないと樹も認めている。

 ちんちくりんな自分よりもよっぽど丹羽の恋人にふさわしい。

 なのに。どうして。

「どうしてわたしじゃなくて…園子先輩」

 自分の口から出た言葉に思わず驚く。

 自分は姉の風と丹羽をくっつけようとしていたはずだ。

 姉の風の幸せのために。男性が見る目が肥えた責任をとってもらうためのキープとして丹羽を姉に夢中にさせるために頑張って来た。

 なのにどうして、自分が丹羽となんて。

 たしかに丹羽の記憶を失い、取り戻してからは彼の存在の大きさを痛感した。そして彼と再会した時は理不尽なことを言って困らせてしまったのだ。

 だが丹羽はそれを優しく全て受け止めて、樹が言った通り寮の部屋を引き払い隣の部屋に戻ってきてくれた。

 自分は何もしていない。ただ彼に甘えて、彼の優しさに溺れて。

 このままの時間がずっと続けばいいと思っていた。

 馬鹿かわたしは、と樹は思う。

 自分は行動すべきだったのだ。姉の風の幸せのために。丹羽が他の女の子に目移りしないように。

 だって、そうじゃないとわたしはずっと丹羽くんと一緒にいられないのだから。

「え?」

 自分の中に思い浮かんだ言葉に、思わず樹は愕然とする。

 今、自分は何を考えた?

 丹羽と一緒にいるために、他ならぬ大切な姉を口実にしていた?

 いやいや、それどころか。

 丹羽が他の女に目移りしないようにという名目で丹羽から女子生徒を遠ざけ、自分の嫉妬を正当化していた?

「嘘、嘘だよそんなの」

 樹の顔が真っ青になっていく。廊下がどんどん近づいてくる。

「樹⁉ 樹、どうしたの⁉」

 幻聴か姉の風の声が聞こえてきた。

「ごめん、お姉ちゃん」

 あなたの妹は、ずるい子です。そう自覚した瞬間、意識は途切れた。

 

 

 

 目を覚ませばベッドの上だ。

 布団の温かさとシーツの冷たさが心地いい。

 もう1度眠りそうになって、樹は自分の手を誰かが握っているのに気付く。

「丹羽くん?」

「残念。アタシよ」

 声に顔を上げるとそこにいたのは姉の風だった。

「お姉ちゃん」

「軽い貧血だって。今日調子悪かったの?」

 姉の言葉に樹は起き上がり、首を振る。

「ごめん、ごめんねお姉ちゃん」

「謝ることないわよ。体調が悪いときは誰でも」

「そうじゃないの!」

 保健室に樹の声が響く。

「わたし、ずるい子だった。お姉ちゃんのためって言って、全部自分のためだった。本当は誰よりも自分が丹羽くんの1番近くにいるのに優越感を感じてた。嫌な子だ。なのに、わたしは」

「ちょ、ちょっと樹。落ち着きなさい」

 風が優しく抱きしめてくれる。その優しさに自然と涙があふれてくる。

「わたし、お姉ちゃんが丹羽くんのこと好きなの知ってた。誰よりも頼りにしてることも。それにわたし、勝手に嫉妬して2人を困らせた」

「そうね。そんなこともあったわね」

 夏休み、勇者部全員で水着を買いに行った時のことを風は思い出す。

 あの時は自分は号泣して、丹羽は土下座をしたんだっけ。

「あの時、お姉ちゃんには内緒にしてたけど、友奈さんや東郷先輩、夏凜さんに頼んでお姉ちゃんと丹羽くんを2人きりにしようとしてた。お姉ちゃんを女として見てもらおうと思って」

 なるほど。様子がおかしいとは思っていたがそんなことを。と風は得心する。

「でも、本当は…わたし、ぐすっ。お姉ちゃんを利用して丹羽くんが離れられないようにしようと思ってたんだ」

 その言葉に風は首をかしげる。

「え? どういうこと?」

「わたし、胸も小さいし、ちんちくりんだから。友奈さんみたいに明るくて人とすぐ仲良くなれないし東郷先輩みたいにきれいじゃない。お姉ちゃんみたいに人を引っ張っていくようなこともできない。夏凜さんみたいに強くもない」

「そんなことないわよ。樹は誰よりもかわいいし、歌だって」

「でも! それじゃきっと丹羽くんは振り向いてくれないの!」

 自分を見つめる真剣な妹の瞳に風は息をのんだ。

「だから、お姉ちゃんを利用した。少しでも可能性のある方を。お姉ちゃんと丹羽くんの仲の良さを利用したの。丹羽くんとずっと一緒にいられるように。大好きな丹羽くんが他の女の子を好きにならないようにお姉ちゃんのためって言って友奈さんたちをけん制した」

 樹の告白に、風はただただ優しい顔でうなずく。

「わたし、ずるい子だ。ひどい子だ。悪い子だ。お姉ちゃんのためって言って全部自分のため。こんな汚い子、丹羽くんが好きになってくれるはずないのに」

「そんなことないわよ」

 風は泣きじゃくる樹の頭を再び抱きしめる。

「樹はアタシの大切な妹。そして誰より優しい心を持った自慢の妹よ。そんな風に自分を責めるのも、きっと優しいからね」

「違う、違うのお姉ちゃん。わたしは」

「それと樹。アンタ勘違いしてるようだから言うけど、別にアタシは丹羽のこと、好きじゃないわよ」

 その言葉に「へ?」と樹は目を点にした。

「アイツは弟みたいなもん。そりゃ、頼れる相棒ではあるけどね。いい奴だけどあんな百合厨恋人としてはお断りよ」

「でも、お姉ちゃん…」

「アタシがそうと言ったらそうなの。アンタの考えはお門違い」

 風はそう言うと、優しく樹の頭をぽんぽんと叩く。

「じゃ、そういうことで。あとはアンタが倒れたって聞いたら血相を変えて部室からここまで来ようとした奴に任せようかしら」

 そう言うと風はベッドの周りを囲んでいたカーテンを開く。

 そこには丹羽が気まずそうな顔をして椅子に座っていた。

「丹羽くん⁉ いつから……」

「最初からよ。アタシが大丈夫だから部室に戻りなさいって言っても目を覚ますまでここにいるって全然聞かなかったんだから」

 呆れたように言う風に樹は顔が真っ赤になる。

 ということはつまり今までの会話を全部聞かれていたということだ。

 自分勝手な劣等感からの策謀も、告白じみた暴露も。

「というわけで丹羽。さっきも言ったけど、アタシアンタのこと何とも思ってないから。オッケー?」

「はい。オッケーです」

 丹羽の返事に、「よし!」と風は返事をすると保健室の扉に手をかける。

「それじゃ、丹羽。アタシのかわいい妹を頼むわよ。今日の部活は終わりで、かばんは持ってきたから。もう少し休んでから一緒に帰ってきなさい」

 そう言うと犬吠埼風は保健室のドアを閉め、廊下に出た。

「まったく、世話が焼ける妹なんだから」

「ふーみん先輩」

 声に顔を向けると、廊下の向こうに園子がいた。

「乃木? アンタどうしてここに?」

「にわみんを追いかけてね。で、ごめんなさい。さっきのいっつんとの話、聞いちゃった」

 律義に謝ってくれる勇者部の新人に、風は部長として注意する。

「本人の前では言わないようにね。あの子、あれで気にしいだから」

「うん。わかった。あのね、ふーみん先輩」

 てててーっと走ってきて、園子が風の手を取ると引っ張っていく。

「わたし、かめ屋行ってみたいんだ。1人だと恥ずかしいから一緒に行ってくれない?」

「おっ、いいわね。なに? 乃木から誘ってくれるなんて珍しいじゃない」

「うん。ちょっとやけ食いしたい気分なんだぜー」

 本人はいつものように元気いっぱいで言っているようだが、どこか空元気に見える。

 それは多分、頬にうっすらと残る涙の原因のせいだろう。

「……奇遇ね。アタシも今日、ちょっとやけ食いしたい気分なのよ」

 妹にはああ言ったが、風は丹羽のことをちょっといいなと思っていた。

 それこそ、恋人にしたいと思うぐらい。

 だが、わかってしまった。樹を心配して保健室に駆け込んで来た彼の表情を見た時、丹羽が誰を1番大切に想っているかを。

「まさか樹がねぇ。今思えば料理の腕もアイツのおかげで上達したようなもんだし」

「うん。でも、いっつんだったら納得かな。もしわたしがみんなと同じくらいにわみんと一緒にいられたら…なんて」

 まだ未練たらたらの後輩の肩を抱き、風は昇降口へ向かう。

「こんな美少女2人に想われてるアイツは幸せものね。そのハートを射止めたうちの妹も。アタシたちも負けないようにうどん食べて女子力補充しましょう」

「こんないい女2人をフったんだから、いっつんを幸せにしないと承知しないんよー。でも、女子力ってうどんで補充できるの?」

 園子の疑問に、風はハッハッハと豪快に笑うだけだった。

 

 

 

 保健室に丹羽と樹の2人きりになって5分経った。

 その間一言も会話なし。気まずい空気が流れる。

「あの、犬吠埼さん」

 ついに我慢できなくなった丹羽が樹に声をかけた。

「ひゃ、ひゃい⁉」

「えっと、体調は大丈夫?」

「そっち⁉ 今そっち聞くの⁉」

 すっとぼけたことを言う丹羽に、思わず樹がツッコむ。

「もっと言うことあるでしょ! さっきのお姉ちゃんとの話というか、わたしが丹羽君をどう思ってるのかとか!」

「うん…うん。そうだね」

 樹の言葉に丹羽は椅子から立ち上がり、ベッドから身を起こしている樹の元へ行き、視線を合わせるためにひざまずく。

「犬吠埼先輩から犬吠埼さんが倒れたって聞いて気が気じゃなかった。正直君が俺のことを忘れていた時並みにショックだった」

 その時のことを思い出し、樹の顔が曇る。

 あの時の丹羽の顔がフラッシュバックして胸が痛んだ。それほど彼を傷つけてしまったのだろうか。

「俺は何をやっていたんだって。誰よりも君の近くにいたのに、異変に気づけなかった。大切な人なのに」

「それって」

 彼を困らせたはずなのに、嬉しさが胸の奥から湧き上がる。同時に期待も。

「俺は、多分…君が思うより君のことが、犬吠埼樹ちゃんのことが大好きです。他の誰にも渡したくないくらい。傷ついた姿を見たくないし、そんなことに絶対させないと誓えるくらい」

 樹の目元に暖かいものがこみ上げてくる。視界の丹羽が涙で歪んで見える。

「いいの? わたし、ずるい子だよ。卑怯な子だよ。多分、丹羽くんに好きになってもらえる資格なんて、ないくらい」

「犬吠埼さん…樹ちゃんはずるくも卑怯でもないよ。それに、たとえ君が自分を嫌いでもそんな君が俺は大好きだ」

 自分を見つめる真剣な瞳に、思わず顔を覆う。

 こんな自分が情けない。

 卑怯で、愚かで、自分の弱さばかりに目を向けて。まだ彼の言葉全てを信じられない疑り深い自分が。

 同時にそれを打ち消すくらい嬉しい彼の言葉に、このまま身を任せてしまおうかという誘惑を振り切り、樹は言う。

「わたし、多分嫉妬するよ。丹羽くんのそばに女の人がいる限り、自分と比べてその人が優れていると思う限り」

「構わないよ。俺はそんな樹ちゃんが好きだ」

「優しくして、ずっとそばにいてくれないと浮気を疑うかもしれない。他の女の子にちょっとでも優しくすると、勝手に落ち込んじゃう面倒くさい子だよ」

「じゃあ、これからは樹ちゃん以外に優しくしない。君が嫌がることは絶対しない」

 丹羽の言葉に樹は首を振る。

「無理だよ、丹羽くんは優しいから。そんな丹羽くんだから、多分わたしは好きになったんだ」

 その言葉に困った顔をする丹羽に、ほらね? と樹は思う。

 あなたに好きになってもらう資格なんて、わたしにはないんだよ。こんな面倒くさい子、嫌でしょ?

「じゃあ、どうしたら俺のことを信用してもらえます? どうすれば樹ちゃんを好きな俺を認めてくれますか?」

 ああ、それなのに。どうしてこの人はこんなに優しいんだろう。

 自分の汚さを見せてもそれを好きだと言ってくれるだけでも嬉しいのに、さらに歩み寄ろうとしてくれる彼に、樹は完全敗北した。

「証明して」

 だから、これは最後のわがままだ。

「丹羽くんが、わたしのことを好きで、他のきれいな人に目移りしないって証拠が欲しい。確かな絆が欲しいの」

「それは…その」

「ここでわたしに許可をもらうようなら、絶交だからね! そこは男らしく、無理やりにでも」

 言葉は途中で止まる。唇が丹羽によってふさがれたからだ。

 たっぷり10秒。唇が触れる。その後顔を離し、丹羽が言った。

「これで、証拠になりましたか?」

「…だから、そういうの聞くのが駄目なんだって。丹羽くんはわかってないなぁ」

 本当は飛び上がりたいほど嬉しいくせに、本心を隠してまだ彼を試すような言動をする自分は卑怯だと思う。

 でも、しょうがないのだ。これが犬吠埼樹だから。

 卑怯で、ずるくて、弱くて、自分に自信がなくて、周りと自分を比べて不安になって、常に自分に向けてくれる愛情を試さずにはいられない少女。

 そんな自分を好きだと言ったのだ。彼には責任をとって心行くまで自分を安心させてもらおう。

 自分が不安を感じないくらい強く、深く愛してもらうために。

「しょうがないから丹羽くんにはわたしが女心ってものを教えてあげるよ。いい、男の人は言わなくても女の子のことを察して行動出来て初めて一人前なの」

「はい。ご指導お願いしますね」

「違うでしょ! そこはそのうるさい口をふさいでやるぜ! ってキスするところでしょ!」

 樹の言葉にえぇ…と丹羽が困惑している。

「……してくれないの? キス」

 不安げな顔をして言う姿はたしかにずるいと丹羽は思う。

 そんなことを言われたら、がまんなどできるはずがない。

 2度目のキスはゆっくりと、互いの愛情を確かめ合うようなものだった。

 

 

 

 ちなみに「女心がわかっていない」と言う樹に丹羽が自分が無性であることを明かすのは、この出来事からほんの少し経った後のことだった。




 犬吠埼樹ルート確定条件
〇9月までに樹の親愛度がmax。
〇サブクエスト「樹ちゃんのお願い」全クエストコンプリート。
〇夏合宿で樹の水着をほめる
〇夏祭りで樹の浴衣をほめる。
 樹ちゃんは風先輩と同じく1日1回は「一緒にお食事」が発生する信頼度、親愛度が上がりやすいキャラです。
 ただ攻略難易度はけた違いに高く、攻略はステータスを引き継いだ2週目以降をオススメします。
 サブクエスト、「樹ちゃんのお願い」は丹羽のステータスが高くないとクリアできないものが存在するので1週目でクリアするのは困難です。
 全クエストをコンプリートするためには勇気【若葉級】根気【プラモ達人芽吹】寛容さ【国土級】伝達力【園子級】知識【伊予島級】が最低でも必要です。
 逆にステータスさえ充分なら攻略するのは難しくないキャラです。同じクラスなので親愛度アップの会話イベントは発生しやすく、「樹ちゃんのお願い」で全報酬をもらったあとは水着と浴衣をほめるだけでルートは確定します。
 プレゼントには占いグッズ。話題は占いなどが効果的。ヘテロ主義者なので百合小説をプレゼントすると笑顔ではありますが好感度はガタ落ちします。注意。

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