詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
1、神樹によって勇者や四国に生きる人々から丹羽の記憶が消える。さらに神託により人類の敵認定。
2、夏凜、防人隊と対決。唯一の精霊であるセッカも行動不能となる重傷を負い変身不可能。丹羽君絶体絶命。
3、そこに現れる最強の勇者そのっち。敵かな? 味方かな?
壁の外、赤一色の世界に降り立ち、白い勇者服に変身した園子はその場所を目指した。
安芸から聞いた防人たちが向かったという座標のポイント。そこに丹羽もいるはずだ。
彼に会ったら何と言おう。なんと謝ればいいだろう。
自分のせいで、彼は人類の敵にされてしまった。
勇者部の仲間たちからも忘れられ、ともすれば先に部室を出た夏凜と戦闘し、傷ついているかもしれない。
もしくは防人隊たちに囲まれ、抵抗できぬまま銃の的になっているか。
もしポイントに向かった時、彼の死体があったら自分は冷静でいられるか自信がない。
「ごめんね、ごめんねにわみん」
軽率だった。甘く見ていた。
神樹という存在を。四国を守る神を。
自分たちに力を貸してくれていると思っていた神は、善良に決まっていると。
真摯に頼めばお願いを聞いてくれる。心から祈れば助けてくれると。
とんだ勘違いだ。
相手は神様。人間ではないのだ。人間の道理が通じるわけがない。
ましてや人間の心を察して優しくしてくれるなどとんだ幻想だ。
ポイントにたどり着いた時、園子は自分の血の気が引くのを感じた。
防人隊がぼろぼろの白い勇者服の丹羽明吾に向けて、銃を構えて包囲している。
しかも明確な敵意を持って。引き金にはすでに指がかけられていた。
まさに絶体絶命。思わず逃げて! と叫びだしそうになり園子は慌ててその言葉を飲み込む。
もしそれを言えばどうなるか。
少なくとも乃木園子は防人たちの求心力を失う。最悪この場にいる32人が敵に回るかもしれない。
だがそれがなんだ。
目の前でピンチになっているのは自分の代わりに人類の敵にされてしまった少年だ。自分が助けなくてどうする!
覚悟を決めた瞬間、異変が起こる。灼熱の地面から巨大バーテックスが現れた。
「えっ――」
園子は次の瞬間信じられないものを目撃する。
今まで銃を向けていた防人隊の隊長である芽吹を、丹羽がかばい巨大バーテックスの攻撃をまともに受けたのだ。
その姿に、助けるための行動を一瞬でも迷った自分を園子は恥じた。
心の中のどこかで神樹の神託が本当で、本当に彼が人類の敵だったらどうしようという思いがまだあったのかもしれない。
だが、そんな疑念は今の行動で消え失せた。
丹羽明吾は、自分が命を懸けてでも守るべき相手だと。
あんなに自分の身を犠牲にしてでも他人を守るために行動する人が、人類の敵であるはずがない。
「ありがとう、にわみん。にぼっしーと防人隊の皆を助けてくれて」
だから自分は行動する。彼を助ける四国で唯一の人間であるために。
たとえ何を犠牲にしてでも、彼を助けると。
丹羽明吾は2つの選択を迫られた。
1つは自分の創造主である人型のバーテックスを頼り、四国から脱出する道。
もう1つは四国に残り、敵だらけの中自分のことを憶えてくれている園子を頼り戦っていく道。
目の前ではその2つを示した1人と1体が互いの主張をぶつけている。
『そのっち、大体事情は察してる。四国にこいつが安全でいられる居場所はない。だから俺が保護する』
「そんな! そんなことしなくてもわたしが」
『君には無理だ。キミ1人が世界を敵に戦うなんて、俺もその白い勇者も望んでいないだろう』
「それは…でも、それでもわたしは」
『さあ、来い! 白い勇者!』
人型のバーテックスが手をこちらに伸ばす。
それを見て丹羽は――
【選択してください】
人型のバーテックスの手を取る。(ノーマルルート)
➡そのっち先輩を信じる。(2週目以降解放、グッドエンドルート)
うつむく園子の手を取り、微笑んだ。
「にわ、みん?」
園子が驚いた顔で見ている。人型のバーテックスにとっても予想外のことだったのだろう。固まっていた。
すまんな、俺。だけどこれが俺の選んだ道だ。
『…その選択に、後悔はないんだな』
「ああ、ない」
『そうか。だったら俺にもう、言うことはない』
人型のバーテックスはそう言い残すと高速移動する巨大バーテックスの向きを変え、再度振り向く。
『じゃあな、白い勇者。そしてそのっち。俺の力が必要な時はこいつを使え。いつでも駆け付ける』
言葉と共に1体の精霊が丹羽の胸に吸い込まれる。それを見届けると次の瞬間にはすごいスピードで遠くへと移動して行った。
「にわみん……ありがとう、わたしを信じてくれて」
園子の言葉に、丹羽は改めて向き直り告げる。
「そんなの、当たり前じゃないですか。だって俺たち同志でしょ」
「そっか。そうだね。うん、同志。魂のソウルメイトなんだぜー!」
「あのー、園子様―。感動的な場面なんですけど進言してもよろしいでしょうか」
見つめあう2人に声をかけたのは防人隊の1人、加賀城雀だった。
「とりあえず、ここから撤退しません? ていうかしましょう! またあんな巨大バーテックスもどきが出てきたらヤバイですよ! 四国へ帰りましょうよー!」
「雀、あなたねぇ…。しかし園子様、私も同意見です。ここは1度ゴールドタワーに帰還すべきかと」
保身全開の雀の発言だったが、一理あると芽吹も園子に進言する。
確かに先ほどの魚座もどきのようにいつ他のバーテックスがやってくるかわからないこの場に残ることは、決していい選択とは言えない。
「そうだね。にぼっしーの治療もしないといけないし、にわみんも」
「その男も、連れていかれるのですか?」
不信と猜疑に染まっている防人隊の視線を受けながら、園子はうなずく。
「この人は今まで四国を守って来た勇者。わたしにとって大切な人。だからみんなが反対しても」
「園子様、勘違いしていらっしゃるようですからこの際はっきり言います。ここにいる32人の防人隊の中に、あなたの敵はいません」
自分を見つめる真剣な芽吹の瞳に、園子は息をのんだ。
「私たちはあなたにすくい上げられ、ここまで来ました。あなたがいなければ、私たちはずっと勇者になれなかった捨て石として大赦でさげすまれていたことでしょう。それこそそこで醜態をさらしている完成型勇者のスペアとして順番待ちの状態で」
「悪かったわね。こんな様で」
夕海子としずくに両肩を支えられて運ばれている夏凜が、ジロリと芽吹のことをにらむ。どうやら聞こえていたようだ。
「だから、あなたと共に地獄までついていくことはあっても、あなたを裏切り1人にすることはありえません。それほど、貴女に受けた恩義は私たちにとって重いのです」
「メブー! そういうのいいから早く戻ろうってぇー! なんかまた星屑が来そうなんですけどー!?」
感動的な話をしているのに台無しだよ…。と雀の発言に残りの30人の防人たちは思う。
しかし本当に危ないらしい。見れば雀の言う通り、星屑たちがこちらに向かってきていた。
「ありがとう、楠さん。殿はわたしに任せて、みんなは撤退して」
「園子様…。わかりました。お言葉に甘えさせていただきます。総員撤退! 負傷者2名の輸送を最優先にして急げ!」
「やったー! 伝説の勇者様が守ってくれるなら安心だよー!」
「雀、あなたは私と一緒に1番後ろよ。撤退戦は最後の最後まで気を抜けないから、しっかりしなさい」
「え? いやだー! 安全な中央がいいよぉ! あの男の子の護衛でいいから私を安全なところに行かせてぇー!」
芽吹の指示に一喜一憂する雀を見ながら、「すずメブ共依存はいいぞ!」と丹羽は不審者顔をして護衛の防人隊の女の子たちをドン引きさせていた。
ゴールドタワー。そこは防人隊32人と巫女の国土亜耶が生活する場所である。
医務室に運ばれた丹羽と夏凜は治療を受けていた。もっとも治療が必要だったのは夏凜だけだったが。
「三好先輩、傷の具合は」
「大丈夫よ、これくらい。それより、その…セッカは? 本当に大丈夫なの?」
芽吹から受けた銃弾の摘出作業も終わり、治療が完了してベッドに寝かされた夏凛は、浮かない顔で隣のベッドで寝かされている丹羽を見つめる。
正確には丹羽の胸に消えた自分と仲の良かった精霊の安否を気にしていた。
「ええ、無事です。さっきも言いましたけど、今は俺の中で寝ています。出てこれるようになるまで時間がかかりそうですけど」
「そう。よかった…本当によかった」
心から安心したように言った後、緊張が解けたのか夏凛は寝息を立て始める。
どうやら思った以上に消耗していたらしい。無理からぬことか、と丹羽は思う。
夏凛にとっては激動の1日だっただろう。人類の敵とされた丹羽を討伐しに壁の外へ行ったら実は味方で、仲間の防人隊と敵対して丹羽をかばって怪我を負ったかと思ったら魚座もどきに襲撃された。
自分が原因とはいえ夏凜は振り回されっぱなしだったろうなぁと思う。それもこれも全部神樹ってやつのせいなんだ。
「ユグドラシル…じゃなかった。神樹のやつ、絶対許さねぇ!」
「にわみーん、入っていいかな?」
丹羽が1人決意していると、医務室のドアをノックする音と園子の声が聞こえた。
どうぞと言うと3人の女の子が入って来る。
園子と防人隊隊長の芽吹。そして芽吹の後ろに隠れながらこちらに視線を向けるロングヘアの少女。
国土亜耶。防人隊と一緒にゴールドタワーで生活する巫女がそこにいた。
「にぼっしー、寝ちゃった?」
「ええ、ついさっき。緊張の糸が解けたのかぐっすりです」
「情けない。そんなので完成型勇者なんてよく名乗れるわね」
言葉とは裏腹に芽吹の声は心配そうだった。それに丹羽は答える。
「セッカさん…三好先輩と仲の良かった精霊を事故とはいえ自分で傷つけた心労のせいですよ。楠先輩のせいじゃありません」
「そ、そんなこと⁉ 私は別に三好夏凛の心配なんて」
はいはい、メブにぼ、にぼメブケンカップルごちそうさまです。
おっと危ない。また尊いモードになっていた。亜耶ちゃんがドン引きして完全に芽吹の後ろに隠れてしまっている。
「で、にわみんは? どこか痛いところとかある?」
「いえ、特には」
「そんなはずないでしょう! あなた、魚座もどきの体当たりから私をかばったのよ!」
納得いかないというように芽吹がベッドの上で半身起こしている丹羽に詰め寄った。
あの程度の傷ならバーテックスである丹羽にとって膝を思いっきり擦りむいたぐらいの怪我だ。むしろ夏凜の刀による切り傷とか防人隊の銃弾みたいなバーテックス特攻の武器による傷の方が怖い。
といっても納得しないだろうなぁと思いながら、丹羽は身体に手を当てる。
「大丈夫です。精霊と一体化しているおかげなのか、俺は普通の人間より丈夫なんです。多分、無意識に精霊バリアみたいなものが発動しているからかもしれませんが」
「そう…でも、なぜあの時私をかばったの? あなたは私たちに敵として追い詰められて攻撃を受けていたのよ? 混乱に乗じて逃げ出す絶好の機会ではあっても、攻撃を仕掛けてきた相手をかばうだなんて」
芽吹はずっと疑問に思っていたことを尋ねる。なぜ彼は自分をあの状況で助けたのか。
それにきょとんとした顔で、こともなげにその男は言った。
「え、だって楠先輩が傷ついたら三好先輩が悲しむじゃないですか」
「……えぇ?」
あまりにも予想外な返答に、思わず芽吹は困惑する。こいつ、何を言っているんだ?
「三好先輩だけでなく、防人隊の皆も。楠先輩がいなくなったらみんな泣いちゃいますよ。悲しいし、つらい。俺はそれを見たくなかっただけです。あとこれは個人的なお願いなんですが…隊員の人たちともっとイチャイチャして! それが見られたらこんな怪我なんてすぐ治るから」
「園子様、この男は何を言っているんですか? 頭の病気ですか?」
「さすがにわみんなんだぜー。わかってるぅー!」
頼りになる上司のはずの園子は丹羽の発言を聞いて大変満足げな様子で両手の親指を突き出して「グー!」と表現していた。
あれ、園子様もちょっとおかしいな。
「まさか、本当にそんなことが理由? 死ぬかもしれないあの状況で、私を助けたのが」
「そんなこととは何ですか。俺にとっては死活問題です」
真面目な顔で言う丹羽明吾という人類の敵とされる少年に、芽吹は困惑するしかない。
こいつ、本当に馬鹿なのか。
少なくともこんな馬鹿が何か悪い事を企んでいるなんて、自分は信じられなかった。
「あの、あなたは本当に丹羽明吾さんなんですか? 神樹様が神託なされた、人類の仇敵の」
その言葉に、全員の視線が亜耶に向く。
亜耶がここにいるのはどうしても確かめたかったからだ。人類の仇敵と神託された人間の本性を。
だから園子と芽吹に無理を言って連れてきてもらった。
「芽吹先輩を助けてくださってありがとうございます。でも、あなたは人類の仇敵なんですよね? どうして防人の皆を助けてくれたんですか?」
「え、人類の敵だったら勇者や防人を助けちゃいけないの?」
逆に質問され、亜耶は言葉を失う。
芽吹も同じ反応だった。ただ園子が優しい顔でその言葉を聞いている。
「俺は、たとえ四国中の人から憎まれても、神樹に滅ぼすべしと告げられても。勇者の皆と防人の人たちが困っていたら助けるし、彼女たちに降りかかる困難があればそれを取り除きたいと思う。それじゃ、駄目なんですか?」
「駄目というか…それであなたは何の得があるの? なにがしたいの?」
芽吹の言葉に、丹羽は自信満々に断言する。
「そんなの、女の子がキャッキャウフフしてるところを見たいからに決まってるでしょ! 勇者部のみんなと防人のみんながイチャイチャしてるだけで俺は嬉しいんだから」
えぇ…何なのコイツ。
やっぱりあの魚座もどきの体当たりで脳のどこかに障害が…と心配になってきた芽吹だったが、園子が自慢げに言う。
「どう、これがにわみんなんだぜー。勇者部唯一の男性勇者で、わたしのソウルメイト。そして同志! すっごいでしょー」
「すごいというか、何と言うか…。少なくとも亜耶ちゃんに近寄らせてはいけない存在だとわかりました」
背後にいる亜耶をかばうように抱きしめる芽吹。あら^~めぶあやてぇてぇです。ありがてぇありがてぇ。
「さて、そろそろいいかな? ここからは2人っきりで話したいから、席を外してもらっても」
「はい。では私たちはこれで。亜耶ちゃん、行きましょう」
芽吹に声を掛けられた亜耶はそれでも丹羽が気になるのか、何度も視線を送りながら退室していった。
やはり巫女にとって神樹の神託は絶対ということか。あまり歓迎されていないらしい。
もっとも天使のような優しい性格と気配りができることから、ゆゆゆい時空の勇者部陣営で取り合いされるような少女だ。露骨に丹羽を排除するような動きはしない…というかできないだろう。
優しいっていうのはある意味では生きにくいのかもしれないなぁとこの時の丹羽は思った。
2人が部屋から退出して完全に人の気配がなくなったことを確認し、園子は告げる。
「さて、にわみん。まずはわたしの持っている情報から話すね」
それから園子は話し始めた。勇者部の人間が丹羽のことを忘れていること。大赦の巫女たちに神樹の神託が下され、丹羽が人類の仇敵とされて早急に滅ぼすべしと告げられたこと。
「なるほど。とりあえず、これからどう動きましょう?」
「心配しなくても向こうから動いてくれると思うんよー。まずはわっしーたち勇者部のみんなを正気に戻す。それからミノさんを奪還。最後に神樹様にお礼参りかなー」
具体的なプランを話す園子に、敵に回さなくてよかったと丹羽は改めて思う。
おそらく頭の中では次の一手を複数用意して最善の行動をとるためにどうすればいいか常に考えているに違いない。さすがだ。
「あ、そのっち先輩。ミトさんを1度返してもらっていいですか? 俺の中にいるセッカさんをできるだけ早く治して三好先輩を安心させたいので」
先ほど夏凜にはセッカが治るまで時間がかかるといったが、ミトの力を借りれば勇者に変身はできずとも姿を見せて安心させることはできるかもしれない。
できるだけはやくセッカに会わせて彼女の心の傷をいやしてあげたい。そう思ったからだ。
「いいよー。ミントンちゃんでてきてー」
言葉と共に園子の胸が光り、ミトとウタノの2体の精霊が出てくる。
「いや、出てくるのはミトさんだけでいいんですよ。ウタノさん」
『みーちゃんが行くなら私もゴーよ! みーちゃんあるところにわたしありなんだから!」
『うたのん!』
『みーちゃーん!』
ひしっと抱き合う2体の精霊に、はいはいといつものように園子がウタノをつかんで引き離す。
「農業王はこっち―。あれ、でも精霊が2体いる方がにわみんの傷の具合の治りも早いの?」
「もちろんそうですけど、そうなるとそのっち先輩の散華の治療が遅れるでしょう。完全に治ったように見えても今も精霊の力で散華した部分を治している最中なんですからね。忘れないでください」
こんな状況下でも自分のことを心配してくれる丹羽に、園子は呆れると同時に嬉しくなる。
やっぱり、この子はいい人なんよー。絶対、絶対守らないと、と。
「ぴっかーんと閃いた! あのねー。えいっ!」
園子は丹羽の手をつなぐと、宙に浮かぶウタノに尋ねる。
「ねえ、農業王さん。こうやってわたしが手をつないでいれば、わたしの中にいてもにわみんの中にいるミントンちゃんと一緒ににわみんを治せるんじゃない? ほら、わたしが病院でにわみんに治療を受けてた時みたいに」
『オフコース! そうね。その手があったわ! さすが園子さん。じゃあ、さっそくみーちゃんの元へ!』
ウタノが光となって園子の中に入る。すると園子が握った手から暖かいものが丹羽の中に流れ込んでいくのを感じられた。
「おぉ~。これが精霊さんの力…。すごいんよー」
「そのっち先輩。まさか、1日中手をつないでるつもりですか? 俺が治るまで?」
丹羽の言葉に「もちろん!」と返す笑顔のまぶしさに、思わず丹羽は浄化されそうになる。
なんだこの娘、天使か?
「ありがたい申し出なんですけど、食事とか寝る時に困るでしょう。だから」
「やめないよ」
真剣な言葉に思わず園子を見ると、自分を見つめる真摯な瞳があった。
「絶対に、やめない。この手を離さない。これくらいで、わたしが君に受けた恩を返せるとは思っていないから。せめて、今日だけでもわたしのわがままを通させて。君の助けになりたいの」
散華の治療の時、5日間寝ずに自分の体力と精神を削り命がけで自分を助けてくれた時のことを思い出す。
報いは必ず受けさせる。それが命を救うほどの恩ならなおさら。
乃木家の家訓を園子は誠実に受け継いでいた。
先ほども言ったようにこの程度で彼から受けた恩をすべて返せるとは思っていない。
だけど、これが彼に恩を返す最大のチャンスだ。傷ついている彼を独り占めして力になれる機会なんて、これからの人生でいくつあるかわからない。
だって彼は――丹羽明吾はどうしようもなく優しいから。
勇者部のみんなや自分を助けるためなら、自分が傷つくことをいとわず園子の想像もしない方法で助けてくれる。
そんな彼に甘えてしまえば親切の負債だけが積み重なってしまう。だからこそ、園子はこの手を離すつもりはない。彼が嫌がってもだ。
「じゃあ、せめてご飯はちゃんと食べてください。それと睡眠も。その間はこの手を離しましょう」
決意が固いことを知った丹羽は、どうにか妥協案を提案する。
「嫌。離さない。にわみんのご飯はわたしがあーんしてあげるね」
園子の言葉に丹羽は困惑した。なんだそのバカップルは。
「えっとご飯の時は改めて話し合うとして、睡眠はさすがに…」
「ここの椅子で寝るんよー。大丈夫! どんなことをしてもこの手は離さないんだぜー!」
「じゃあトイレとかどうするんですか」
「それは…その。にわみんについてきてもらうしか…あ、にわみんがしたい時はこの尿瓶に」
「いやですよ! 普通に行かせてください」
どうやらどうあっても手は離してくれないらしい。
こうなったら園子が寝てしまったら外してしまおう。そしてちゃんと眠れるようにベッドに運べばいい。
その後有言実行とばかりに食事中も2人は手をつなぎ、園子に「あーん」されているところをたまたま目を覚ました夏凜に見られてすっごい冷めた視線を送られてしまった。
違うんです違うんですと必死に説明したが、理解してくれたかどうかは不明だ。
というかその後「三好先輩も楠先輩にあーんしてもらったらどうですか?」と言ったら「あたしが怪我したのは手じゃなくて足なんだけど」と呆れられた。
せっかくのメブにぼ、にぼメブチャンスだったのにと丹羽と園子は非常に残念がる。
食事が終わるとこっくりこっくりと園子が舟をこぎだしたので丹羽が繋がれた手をほどきベッドへ運ぼうとすると万力のように強い力で握られて全然ほどけなかった。
え、なにこの娘。握力強っ⁉ と丹羽が困惑し、どうにかほどこうと四苦八苦していると隣のベッドで寝ていた夏凛が「諦めたら?」と言ってくる。
「園子さ…園子もいろいろ責任感じてるんでしょ。あんたに神樹様の説得を任せたこととか」
「聞いてたんですか?」
「ごめん。聞こえてた。園子があんたに謝ってた話も全部聞いた」
園子と情報交換した時、園子は丹羽に何度も謝っていた。自分のせいで丹羽が人類の仇敵になってしまったことを。勇者部の皆から忘れられてしまったと。
それは神樹が丹羽の正体を見抜き神託した結果なので園子のせいではないのだが、今自分の正体をばらすわけにはいかない丹羽は決して園子のせいではないと繰り返すしかなかった。
「多分、あたしが園子と同じ立場だったら同じようにしてると思う。というか、神樹様ぶった切りに行ってるわね、多分」
大赦所属の勇者とは思えない発言に思わず夏凜を見る。「冗談よ」と言っていたが目は本気だった。
「だから、園子の気持ちは痛いくらいわかる。いえ、多分共感できる、かしらね」
「? それはいったい」
「なんでもないわ。でも、丹羽。前にあたしが言ったこと忘れてないわよね」
じっと自分を見つめる夏凛の視線に、思わず丹羽はたじろぐ。
「あんた、ここまで園子に心配をかけたんだからケジメは自分でつけなさいよ」
「ケジメって…」
「あんたにとっては当たり前のことだったんでしょうけど、その優しさは毒にもなりかねないってことをちゃんと自覚しなさい。じゃないとそのうち後ろから刺されるわよ」
真剣な夏凜の言葉にそんなまさかと丹羽は思う。一体どこの世界の伊〇誠だ。
「ほんと、自覚してないのね。まあ、そのうち痛い目を見るといいわ」
そう言って夏凛は反対側に顔を背け、早々に眠ってしまった。規則的な寝息が聞こえてくる。
優しくすることが毒になる。
そんなこと、あるはずがないと丹羽は思う。だって自分はしょせん人型のバーテックスに作られた人形。路傍の石だ。
突然いなくなっても誰も気にしない、ただの百合好きの観測者なのだから。
どうあってもつないだ手を放してくれない園子を見ながら、丹羽は思う。
今度こそ、彼女を助けてみせる。2年前は失敗したが今度こそ。たとえこの身がどうなろうと。
「にわみん…絶対わたしがまもってあげるんよー。すぴー。すぴー」
まさか目の前の少女が同じことを考えているとは夢にも思っていなかった。
グッドエンドルート突入条件
〇1週目クリア済み。
〇園子を含む勇者たちの信頼度max
〇トロフィー【勇者を守る勇者】獲得済み。
〇夏休みに三ノ輪銀のお見舞いに20回以上行く。
〇精霊「スミ」の熟練度max
精霊の熟練度について
丹羽の精霊には身体の内に取り込み変身して戦うごとに熟練度というポイントがアップします。
いわば精霊との絆であり、これが上がると変身時能力が上がり、切り札、満開などの威力も上がります。
1週目のプレイで最高値に持っていくのはまず不可能で、最初の精霊であるスミでも最高値の半分満たせればいい方です。
なお終盤丹羽の精霊となる「アカミネ」「ミロク」「シズカ」の3体は最初から熟練度がmaxとなっています。