詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

84 / 105
 あらすじ
 別ルート攻略モウハジマッテル!
 このルートではノーマルルートでは出番の少なかったくめゆ組の百合イチャが見れるらしいですぜ。
 前回で言っていたおトイレ事情ってどうなったの? 編
園子「にわみんおトイレー」
丹羽「俺はトイレじゃないですよそのっち先輩」
園子「ついてきてー」
丹羽「はいはい」
園子「ドアの前にちゃんといてね。手を離しちゃ嫌だよ。あと耳も塞いで。鼻もできれば」
丹羽「無理です。俺片手しか空いてませんから」
夏凜「あんたら…それなんてプレイ?」
 結局夏凜ちゃんに両耳をふさいでもらい鼻をつまむことで解決しました。
 え? 丹羽君? バーテックスだから排泄しないよ?


【グッドエンドルート】ママ力強い弥勒さん

 9月2日。午前7時のゴールドタワーの食堂。

 そこでは普段防人たちが思い思いに集まり朝食をとり、その日の授業や壁の外の調査というお役目に備えて英気を養っている。

 だが今日に限っては食卓で交わされている話の内容は、1人の少年に対する話題で持ちきりだった。

 丹羽明吾。四国を滅ぼす仇敵とされる少年。

 それが脅威か否か、ではない。自分たちが手を下すか、下さないかという物騒なものでもない。

「ねえねえ聞いた? 園子様とあの男の子。あーんして食べさせあってたんだって!」

「ふっ、情報遅いわね。私は今朝こっそり医務室を覗きに行ったら、あの男の子の手をつないだまま寝ている園子様を見たわ。男の子は椅子で座ってて、園子様はベッドで寝てた」

「え、それっておかしくない? 確か私が聞いた話だと、園子様が椅子でベッドには男の子のほうが寝てたって」

「だーかーらー。園子様が寝ている間に自分のベッドに寝かせてあげたのよ!」

「えっそれって…きゃー!」

 他の席から聞こえてくる黄色い声に辟易しながら芽吹は朝食の乗ったトレイを席に置く。

 メニューは鮭の塩焼きとみそ汁、卵焼きにお漬物とご飯。まさしく日本の朝食の見本のような食事だ。

「なんだか、今朝は騒がしい」

「そうですわね。まあ、理由はおおよそ察せますが」

 声と共に同じ席に食器のトレーを置いたのは同じ防人のしずくと夕海子だった。

 しずくはトーストとオムレツ、スープにサラダの洋朝食のセット。夕海子はカツオのたたきが乗ったうどん。うん、いつも通りだ。

「みんなアレだよねー。女子ばっかりだったからって男の子に過剰反応しすぎだよ」

 やれやれといったように芽吹と同じ和風の朝定食のトレーを置き、雀が座る。席はちゃっかり芽吹の隣をキープしていた。

「そういう雀が…一番はしゃいでた」

「ですわね。芽吹さんが止めるまであの殿方のことを根掘り葉掘り聞いて。品がありませんでしたわ」

「だって気になるじゃん! 人類の敵って言われてんだよ! 本当に味方か安全かどうか!」

 しずくと夕海子が言う通り、四国に帰って来た後の雀は丹羽にくっついてあれこれと尋ねて医務室に入るまでしつこく付きまとっていたのだ。

 その間雀の危険感知センサーを常にオンにして少しの危険の兆候も見逃さないように。

「で、どうだったの雀。あの人は?」

 芽吹が尋ねると雀は箸を止めてうーん、と考え込む。

「危ない感じは全然しなかった。むしろ安心? でも、害はないって感じじゃなくて…どう言ったらいいかな? 『このライオンは草食だから人は襲いません』って紹介されたような感じっぽい」

 雀の言葉にテーブルについていた3人は思わず首をひねる。

「えっ? どういうことなのそれは?」

「ほら、ライオンって肉食動物で危ないじゃん。でも草食だから安心してくださいって紹介されたような…わっかんないかなー」

「弥勒、わかる?」

「わかりませんわ。雀さんの貧弱な語彙力では伝えられないのではなくて?」

「なにをー! 弥勒さんみたいにトンチンカンなことは言ってないぞー!」

 いつもの漫才みたいな会話になりそうな2人を芽吹は止める。

「よしなさい2人とも。で、結局どうなの雀。あの人は私たちにとって危険なのかどうか。それを確かめたくて、昨日あなたにあの人の食事を持って行ってもらったのよ」

「そう言われてもわかんないよ。ただ、危ない感じはしなかった。隠してるだけかもしれないけど、あややが受けた神託みたいに悪い奴には見えなかったよ」

 その言葉にふむっ、と芽吹は思考した。

 昨日の壁の外での自分をかばった行動。その後の会話。さらに園子と夏凜が自分たちからかばったという事実。

 自分にとっては園子が守りたいというだけで充分な理由だったが、他の防人たちはそうはいかないだろう。彼は人類の仇敵ではないと説得するだけの確証が欲しい。

 それに彼を無害な存在だとしてこのゴールドタワーに匿うことには、別の問題が浮上する。それが今1番芽吹を悩ませていたのだ。

「亜耶ちゃんに、どう納得してもらうかね」

 自然と口に出てしまった言葉に、思わずハッとした。

 気が付けば雀、しずく、夕海子がこちらを見ている。

「まあ、メブがあややに弱いことは知ってたけど」

 防人隊周知の事実を雀が口にして、芽吹が顔を真っ赤にさせた。

 楠芽吹は国土亜耶に頭が上がらない。

 それは巫女と防人隊隊長という役割からではなく、人間的な意味で。それほど2人のつながりは深いのだ。

「でも、国土は神樹様に対する信仰心が人一倍強いから。今回に限っては芽吹の言葉でも届かないかも」

「巫女ですから仕方ないですわよ。今回ばかりは芽吹さんには分が悪いですわね」

「どうして私が失敗する前提で話しているのかしら。まあ、難航しそうなのはたしかね」

 いつも自分の隣に座る巫女の少女がまだ姿を現さないことを心のどこかでほっとしながら、芽吹は3人に言う。

「亜耶ちゃんは、多分嫌がるわよね。あの男の人がここにいるのを」

「当たり前じゃん。だってあややは巫女だよ! 神託で敵って言われている人間を匿うだなんて神樹様に対する裏切り行為じゃん」

 身もふたもない雀の発言に、ギロリと芽吹はにらみつける。

 誰が聞いているかわからないのに軽率な。自分たち防人は園子とその友人であるあの男を匿うと決めたのだ。

 それを翻意にするのは隊長である自分が許さない。

「ううっメブの目が怖いよぉ~」

「今のは雀が悪い。そういうことならこの場にいる防人全員が神樹様を裏切ってる」

「ですわねー。これでは弥勒家再興など夢のまた夢ですわ」

「弥勒さん、それは…」

「もちろん弥勒ジョークですわよ。この弥勒、恩人や仲間を売ってまで立身出世したいとは思いません。そんなことをすればそれこそご先祖様に合わす顔がありませんわ」

 その言葉に芽吹はほっとする。と同時に年長者である彼女を頼もしく思う。

 普段の言動は芸人だが、締める時はちゃんと締めてくれる。そんな彼女だからこそ、任せたいことがあった。

「弥勒さんがまともなことを言ってる…今日は何かやばいことが起こるかも」

「天変地異の前触れかもしれない。芽吹、ゴールドタワーの警備レベルを上げるべき」

 真剣な顔をして言う2人に、「あなたたちねぇ」と夕海子は声を震わせている。まったく、彼女らしい。

「2人は知らないかもしれないけど、弥勒さんは頼りになる人よ。こういう時は、特に」

 芽吹の言葉に雀としずくは目を点にしていた。それを見ながら一足早く朝食を食べ終えた芽吹は夕海子に言う。

「弥勒さん、三好夏凛のことをお任せしていいですか? 私は亜耶ちゃんをできるだけ説得してみます」

「よろしいんですの? あなただって夏凛ちゃんと…いいえ。そうですわね。わかりました。この弥勒に万事お任せになって」

 正直夏凛とはまだ顔を合わせたくない。彼女に銃を向け足を撃ったことを謝罪しなければならないとは思っているが、顔を合わせるとケンカをしてしまいそうだ。

 それに自分は他にもやるべきことがある。

 だがその日どれだけ芽吹が言葉を尽くしても亜耶はかたくなに神託を信じて疑わず、ついには意見の相違から部屋に引きこもってしまった。

 それと雀としずくの言ったことが現実になるなど、この時の芽吹には思いもしなかったのだ。

 

 

 

「お加減はいかがですの? 夏凜さん」

「心配しなくてももう大丈夫よ。って、あんたまたカツオのたたき…訓練生時代にも皆にふるまってたわね」

 朝食に引き続きカツオのたたきうどんが載った昼食のトレイを机に置いた弥勒夕海子に、夏凜がうんざりしたように言う。

「まあ、あたしはサプリがあるからいいけど…って、あっ⁉」

「またこんなに身体に悪そうなものを。そういうのを食べるならカツオをお食べなさいな。高知のカツオは万病に効くんですわよ」

 なんなんだその迷信は。聞いたことがない。

 この世界では夕海子と夏凜、そして防人隊隊長の芽吹は勇者候補生の同期であった。

 故に本編やゆゆゆい時空より付き合いが長い。共に勇者になるべく訓練を積み、切磋琢磨しあった仲だったのだ

「夏凜ちゃんは昔から1人で突っ走りすぎですわ。少しは人に頼るということを学びなさい。まあ、今回に限ってはわたくしたちが悪かったですが」

「お姉ちゃん面しないでよ、あたしより弱いくせに! それとそのカツオ万能主義やめなさいよね。打ち身や骨折にカツオが効くわけないでしょ!」

 だからこそこんな風に遠慮なく話せる。勇者部の他の面々がここにいたら目を丸くしていることだろう。

 ちなみにこのカツオのたたきうどん。夕海子が食堂の職員に直訴してメニューに加えたものだ。夕海子自身が開発に協力し、うどんにもカツオのたたきにもあうタレと薬味のおいしさに他の防人たちからも評判がいい。

「それだけ言える元気があるなら大丈夫ですわね。芽吹さんも心配していましたわよ」

「心配…ねぇ。失望の間違いじゃない? あんな無様をさらして、きっと見切りをつけられたでしょうね」

 精霊バリアによって軽傷で済んだほぼ完治済みの足を手で押さえ、夏凜は言う。

 記憶を取り戻した後、丹羽をかばった自分を見る芽吹の目を思い出す。

 あったのは困惑、怒り。そして失望。

 きっと芽吹はまだ怒っているだろう。人類の仇敵とされた丹羽を助けた自分を。

 大赦からの使命を全うできなかった夏凜より、自分の方が勇者にふさわしいと思っているに違いない。

「あーなーたーたーちはー! まったく、昔から全然進歩してませんわね! 勝手に悪い方に悪い方に考えて深みにはまるところ。いったい何度わたくしが仲介したと思ってるんですの?」

 だから夕海子がずいっと顔を近づけ、うつむいた夏凜の顔を無理やり上げさせたのには驚いた。

「いいですの? 芽吹ちゃんはあなたの足を撃ったことを昨日からずっと悔やんでいるんですわ! あれは状況的に仕方なかったし、防人の隊長としてはああするしかなかった。そんなこと夏凜ちゃんだってわかってますわよね? でも、あなたがそんな顔をしていると、芽吹ちゃんはさらに落ち込んで負のスパイラルの完成ですわよ!」

 その言葉に、「なによそれ」と思わず夏凛はつぶやく。

 夏凜もあの状況での発砲は仕方ないと思っているし、全然気にしていない。むしろなんでそんなことであのクソマジメな芽吹が悔やんだりするのか訳が分からない。

「それに、芽吹ちゃんも言葉ではああ言いましたがあなたのことを誇りに思っているはずです。仲間のために大赦の命令にまで背いて孤軍奮闘したあなたは立派でしたわ。それは(ほまれ)であっても決してあなたを貶めるものではありえません。がんばりましたわね」

 夕海子の言葉に、知らず夏凜の瞳から涙が流れていた。

 この人はわかってくれたのだ。自分の行為の意味に。そして褒めてくれた。

 丹羽をかばうあの行動を誰に理解されなくてもいいと思っていたが、本当は理解者が欲しかったのだ。そのことに今更ながらに気づく。

「夏凜ちゃん、夏凛ちゃんは芽吹ちゃんが仲間が傷ついて、あるいは傷つけられて平気な子だと思いますの? ましてやそれが自分が原因だったら」

 その言葉に夏凛は少し考える。

 楠芽吹は融通が利かない真面目人間で、規律や規則だとかで衝突することが何度もあった。

 だけど1度だけ訓練中事故で血が出る怪我をした時だけは、決して自分のそばを離れようとしなかった。

 あれは派手に血が出ただけで実際は大した怪我ではなかったのだが、それに驚いた夕海子が失神。対戦相手の芽吹が泣いてしまい大ごとになったのだ。

 芽吹がわんわん子供のように泣いた姿を見たのはおそらくあれが最初で最後だろう。クールビューティーな普段の姿からは考えられないほど取り乱し、しきりに「ごめんなさい」と繰り返す姿に夏凛はそっちの方が衝撃的すぎて固まってしまった。

 その後大赦の大人たちが引き離そうとしても芽吹は夏凜のそばを離れず仕方なく病院まで連れて来た。処置が終わると大真面目な顔で芽吹はこう言ったのだ。

「もしその傷が一生残るようなものなら、私が責任をとります」と。

 今にして思えばただの笑い話だが、夕海子に言われるまで忘れていた。

「そうね。あたしの頭が割れて血が流れていただけであんだけ泣いてたあいつが、平気なわけないわよね。ごめん、弥勒さん。あたし気付けなかった」

「そういえばそんなこともありましたわね。あの時はわたくしだけ役立たずで申し訳なかったですわ」

「いや、弥勒って結構役立たずよ。むしろ役に立っている場面を思い出す方が難しいわ」

 夏凛の言葉に「ガーン」とわざわざ口で言い、わかりやすく落ち込んでいる姿に変わらないなぁと夏凜は懐かしく思う。

 先ほど弥勒に言った言葉は嘘だ。実際は彼女に頭が上がらないほど夏凛と芽吹は世話になっている。

 主にメンタル的な意味で。夕海子のとりなしがなければ夏凜と芽吹が絶交状態になっていたケンカは挙げればきりがない。

 だが夏凜も芽吹も素直になれず、その言葉を口にしないだけなのだ。

 本当は、誰よりも頼りに思っている。それこそコンプレックスの対象である兄よりも。

(まっ、そんなことを言ったら調子に乗らせるだけだから絶対言ってやらないけど)

「えっ、何か言いましたか夏凜ちゃん?」

「別に。ていうか、いつの間にか呼び方が昔みたいにちゃん付けになってるわよ。やめてよね恥ずかしい」

「あら。わたくしとしたことが。ごめんあそばせ、おほほほ」

 相変わらずツッコミ要素満開なエセお嬢様ごっこをしている夕海子の膝に、夏凜は頭をのせる。

「夏凜ちゃん?」

「ここの枕、ちょっと固くて寝不足なのよ。あんたの膝、貸しなさい」

「あらあら、弥勒家令嬢の膝枕は高いですわよ。それに寝るのはご飯を食べてからになさったら?」

「知らない。食べさせたかったら、あんたが無理やり食べさせたらいいじゃない」

 ぶっきらぼうな言葉だったが、耳は真っ赤だ。時折ちらりと夕海子の表情をうかがうように視線を向けてくる。

「仕方ないですわね。夏凜ちゃんには早く治ってもらいませんと。弥勒家令嬢のあーんなんて、一生宝にできる自慢話ですわよ」

 うどんの上に乗ったカツオのたたきを一切れ箸でつまみ、自分の膝に頭をのせる夏凜の口へ運ぶ。

「お味はいかがですの? この弥勒監修ゴールドタワー名物のカツオのたたきうどんは」

「おいしい…わよ。昔から、ずっと」

 その言葉ににこりと破顔し、夕海子はうどんとカツオのたたきを夏凜の口元へ運ぶのだった。

 そしてそれを覗き見る者が2人。

「ゆみにぼとはこれは予想外のカップリングですねそのっち先輩」

「だねぇ。弥勒さんがこんなにお母さん力強いとは思わなかったんよー。これはゆみメブにも期待ですなぁ」

 百合好きである丹羽と園子が人知れず気配を消し、その様子を見ていたのだ。

 夏凜がそのことに気づいたのは、完食したうどんのどんぶりの乗ったトレーを持って夕海子が医務室を出た後。

 顔を真っ赤にして、「今見たのは全部演技なんだからね!」と言うのを丹羽と園子は温かく見守るのだった。

 

 

 

 正午過ぎ。突如ゴールドタワー前に乗りつけられた2体の黒塗りの高級車に防人隊の間に緊張が走った。

「おそらく大赦の手の者でしょう。私が話をつけてきます」

 大赦の仮面をつけ防人たちや園子を守るように矢面に立とうとする安芸を、園子が止める。

「先生はここにいて。防人の皆も。いざというときはわたしに脅されてたって言えばいいし、そのためにはわたしが行くのが1番だから」

「園子様…」

 こんな時でも自分たちのことを考えてくれる園子に、防人たちの忠誠度がぐーんと上がっていく。

 これなら心配する必要はなさそうね、と隊長の芽吹は思う。さすがの人心掌握術だ。

「そういうわけだからにわみんもここにいてね。にぼっしーも」

「わかりました」

「いいけど、本当に手伝わなくてもいいの?」

 夏凛の言葉に、にっこりと笑顔で返事する。

「もっちろん! どーんと任せてほしいんよー」

 大勢の視線に見送られ園子はゴールドタワーの外に出て黒塗りの高級車から出てきた勇者部の面々と対峙した。

「やっほー。ゆーゆ、ふーみん先輩、いっつん。昨日ぶり。わっしーは熱下がったの? よかったぁ」

 友奈と風と樹の視線に隠し切れない敵意が自分に向けて注がれているのを園子は敏感に感じる。

 そっかぁ、3人は少なくとも無力化しなくちゃいけないか。

 この場に東郷がいるのは正直予想外だった。丹羽の話では神樹の神託に逆らった影響で高熱を出していたそうだが、丹羽の精霊のおかげで完治したのだろうか。だとしたら嬉しい。

「ねえ、そのっち! そのっちは丹羽君のことを憶えているんでしょう! みんなに話して」

 いや、さらに嬉しいことがあった。東郷は丹羽のことを憶えていた。

 これで味方が3人に増えたことになる。それだけでぐっと戦略の幅も広がるというものだ。

 友奈と風、樹の3人は園子の言葉を待っている。それで次の行動を決めようとしているのだろう。

 だが、甘い。

「うん、わっしー。にわみんはちゃんといるよ。昨日わたしが保護した。いまはここの医務室で治療中なんだー」

 園子の言葉に3人の意識がゴールドタワーに向く。

 その瞬間を狙い、袖に忍ばせたスマホアプリの画面をタッチする。蓮の花が舞い、光に包まれた後、そこには白い勇者服の園子がいた。

「がっ⁉」

「お姉ちゃん⁉」

「ごめんね、ふーみん先輩、いっつん」

 風の腹部に拳を当て昏倒させ、それに驚いた樹の後頭部を手刀で打ち気絶させる。

 あと1人、と目標に向かい駆けだそうとした園子だったが対象の姿はすでにない。次の瞬間自分の鼻先をものすごいスピードの拳が横切るのをぎりぎりで避けた。

「さすがゆーゆ。判断が早いなぁ」

 すでに園子と同じように変身して桃色の勇者服を着た友奈に、園子は冷や汗を出す。

 あれは確実に獲りに来た攻撃だった。手加減の一切ない、実戦と同じ本気の拳。

「ゆーゆ、大赦からどう聞いたかは知らないけど、にわみんはわっしーやみんなと一緒にバーテックスと戦い四国を守って来た勇者。それは間違いじゃない」

「そのちゃん。そのちゃんは騙されてるんだよ。目を覚まして」

 言葉と共に拳打が繰り出される。武器のある分園子のほうがリーチは長いが、一撃が重い。それにスピードも早い。

「友奈ちゃんやめて! そのっちも!」

「大丈夫だよ東郷さん。そのちゃんを説得したら、東郷さんも大赦の人に頼んで治してもらうから。難しいかもしれないけど、洗脳された2人を救ってみせる。だって、それが勇者だから」

「そんな! そんなのおかしいわ友奈ちゃん!」

 東郷の叫びなど聞こえないように友奈は園子への攻撃の手を緩めない。

 参った。正直友奈を見くびっていたと園子は反省せざるを得ない。実力は確かに自分の方が上かもしれないが、こちらは相手を傷つけまいとしていて、相手は力づくでもねじ伏せるために全力を出せる状態。

 このままではやられてしまう。

「わっしー! 今決めて! わたしとにわみんを信じるか、大赦とゆーゆを信じるか!」

 園子の必死な叫びに、東郷は動揺する。

「もしわたしたちを信じるなら、変身してふーみん先輩といっつんをゴールドタワーの中に運んで! そこでにわみんに正気に戻してもらえるはず。でも、大赦側につくなら……その銃でわたしを撃って!」

「そんな、そのっち!」

「早く! これ以上長引くと、ゆーゆを無傷で無力化するのが難しくなる! だから」

「そんなこと、しなくていいよ東郷さん」

 園子を槍ごと勇者キックで蹴り飛ばし、園子を見つめたまま友奈は言う。

「だって、敵に洗脳されたのはそのちゃんだけなんだから。東郷さんはまだ治せる。だから、私と一緒に大赦で治してもらおう」

「友奈ちゃん。友奈ちゃんは、丹羽君のことを憶えているんじゃないの? だからここに連れてきてくれたんじゃ…」

 東郷の言葉に、友奈の拳が固く握られる。

「私がここに来たのは、人類の仇敵に洗脳されたそのちゃんを助けるためだよ。神樹様に害をなす人類の敵を守るなんて、勇者じゃない」

「そう…そうなのね」

 言葉と共に東郷がスマホをタップし、アサガオの花が舞い光に包まれる。

 光が収まるとそこにはスカイブルーの勇者服を着た東郷がいた。

「ごめん、友奈ちゃん。私、今のあなたの味方にはなれない!」

「え?」

 背後からかけられた東郷の言葉に、思わず友奈が硬直する。

 その隙を突き東郷は倒れている風と樹を回収すると、ゴールドタワーの内部に転がり込んだ。

「東郷さん、どうして…」

「どうするゆーゆ。ここで勇者同士が戦うのは、大赦としてもまずいと思うんだけど」

 ちらり、と友奈の背後の黒塗りの高級車に隠れている大赦仮面たちを見ながら園子が言う。

「そんなの決まってる。そのちゃんを倒して風先輩と樹ちゃんを助けるよ。洗脳された東郷さんだって救ってみせる。だってそれが勇者だから!」

「まだそんなこと言ってるの? ゆーゆは神樹様と大赦に騙されてるんだよ! にわみんはずっと一緒に戦ってきた仲間! それなのになんで」

「おかしいのはそのちゃんだよ! 神樹様の神託は絶対なんだよ! なのにそれに逆らうなんて」

 その言葉に園子は違和感を抱いた。

 なぜ彼女は神樹様の神託は絶対と言ったのか。普通なら丹羽に洗脳されて騙されていると言うはずなのに。

「勇者なら、丹羽君を倒さなくちゃいけないんだ! 神樹様がそう言ったんだ! だから!」

「そうか…ゆーゆ、本当は憶えてるんだね。にわみんのこと」

 園子の言葉に、友奈は激しく動揺した。

「違う! 私は丹羽君のことなんて…だって私は勇者なのに! 丹羽君に洗脳なんてされているはずないのに!」

「ゆーゆは洗脳なんかされてないよ。ただにわみんのことを憶えていてくれただけ」

 昨日会った時何か様子がおかしいと思っていたが、このせいだったのかと園子は納得する。

 おそらく丹羽のことを憶えている人間はすでに洗脳された後だと大赦の人間から聞かされたのだろう。

 なのに自分は丹羽のことを憶えていて、人類の仇敵とされる丹羽を倒さなければならないという矛盾。

 それが彼女を苦しめているのだ。

「ねえ、ゆーゆ。にわみんは本当に大赦の人が言う通り悪い人だと思う? 私よりずっと長い間にわみんと一緒にいたゆーゆが」

「わかんない。わかんないよそのちゃん。でも、神樹様が倒せって言ったなら、それは守らないと」

 言葉とは裏腹に、友奈の拳は完全に下を向いていた。その姿を見て、園子は構えていた槍を下ろす。

「ゆーゆ。もしゆーゆが心の底からにわみんを悪と決めて戦うなら、多分わたしは止めることができない。でも、もし神樹様が言うから、大赦の人が言うからっていう理由なら、私は負けてあげられないよ」

 言葉と共に、園子はゆっくりと友奈の間合いに入る。

「今のゆーゆは多分、戦うとかそういう段階じゃないんだと思う。だから、少し頭を冷やしてきて」

 ヒュッと風を切る音がして、園子の持つ槍の石突の部分が友奈の顎をかすめた。

 それだけで友奈は軽い脳しんとうを起こし気絶する。地面に倒れそうになる友奈を抱き留め、園子は黒塗りの高級車に向けて声をかけた。

「大赦の人―! ゆーゆを持って帰ってほしいんよー。できるだけ丁重にねー。それとわたしは別に大赦と事を構えるつもりはないんよー。バーテックスが来たらちゃんと倒すから心配しないでって偉い人に伝えてねー」

 そう言うと跳躍してことの成り行きを見守っていた大赦仮面に友奈を預けると、にっこり笑って再び跳躍する。

 今度はゴールドタワーの前に降り立つと、呆然とする大赦仮面たちに向け笑顔で手を振り中に入っていった。




 ぅゎそのっちっょぃ。
 ノーマルルートで書けなかったゆみにぼを書けてまんぞく…。
 やっぱりヘテロより断然百合を書いてた方が楽しいんだよなぁ。

芽吹「弥勒さん、三好夏凛は」
夕海子「心配せずとも大丈夫ですわ。芽吹さんが夏凜さんを撃って悔やんでいることはちゃんと伝えてきましたから」
芽吹「なっ⁉ 別に私はそんな…。ただ弥勒さんに三好夏凛のことを元気づけてもらおうと思っただけで」
夕海子「はいはい、お姉ちゃんの前ではそんなに意地を張らなくてもいいですわ」
芽吹「わぷっ⁉ ちょ、弥勒さん。胸が!」
夕海子「ん~? 芽吹ちゃんはこうされるの、好きじゃありませんでした? ぎゅーって抱きしめられるの?」
芽吹「いつの話ですか! あれはその、子供だっただけで今は別に」
夕海子「子供ですわよ。今も昔も。夏凛ちゃんと仲直りするのが苦手なところなんて全然変わっていないじゃありませんの」
芽吹「ぐっ、それは…」
夕海子「で、そっちはうまくいきまして?」
芽吹「それも…その。私は口下手ですから、やっぱりうまく伝わらなかったみたいで」
夕海子「そんなことありませんわ。あなたが言葉を尽くして説得しようとしたとしたことが大事なんですの。あの娘だって、きっとわかってくれますわ」
芽吹「そう…かしら。私、弥勒さんや雀みたいに自分の意思を伝えるのがうまくないし、夏凜の言う通り堅物だから」
夕海子「こら! 自分を貶める発言はおやめなさいな。それは自分の価値を下げるだけでなく、自分を好きでいてくれる周りの人の評価も下げる言葉ですのよ」
芽吹「うっ、ごめんなさい」
夕海子「心配しなくても、あなたががんばっていることは防人隊のみんなが知っています。この弥勒も太鼓判を押しますわよ」
芽吹「弥勒さんの太鼓判は、あんまり信用できないかも」
夕海子「ガーン! ですわ。うぅ、夏凜ちゃんといいどうして今日はそんなことばっかり言われてしまうんですの?」
芽吹「三好夏凛に何か言われたんですか?」
夕海子「いえ、大したことは。むしろ昔通りで少し安心しましたわ。あなたの気持ちに鈍いところとか、甘えるのが不器用なところとか」
芽吹「甘える…? 三好夏凛に何かしたの?」
夕海子「ええ、少し膝枕を。それとご飯を食べさせて差し上げました。あ、内緒ですわよ。あなたにバレたと知ったらあの娘すっごく恥ずかしがるんですから」
芽吹「…ずるい」
夕海子「え?」
芽吹「私だって、そんなことされたことないのに。私の方が弥勒お姉ちゃんと長く一緒にいるのに…はっ、何でもありません。忘れてください!」
夕海子「いいえ、無理ですわね。残念ながら弥勒イヤーは地獄耳ですので」
芽吹「忘れて…忘れなさい! 隊長命令です!」
夕海子「ではこちらもお姉ちゃん命令です。今日は普段がんばってくれている隊長さんの慰安会を開きます」
芽吹「な、なんなのそれは⁉」
夕海子「いわゆる楠芽吹ちゃんを励ます会ですわね。しずくさんや雀さんも呼んで、盛大にやりましょう。今後の展開の話し合いなんかも」
芽吹「やだ」
夕海子「え? 別に恥ずかしがることはありませんのに。あの2人になら、弱音を吐き出しても平気でしょう?」
芽吹「そうじゃなくて…2人きりじゃないと、お姉ちゃんに甘えられないから」
夕海子「……あらあら。たしかにこんな姿、あの2人には見せられませんわね。いいですわ、今夜わたくしの部屋にいらして。思う存分甘えてくださいまし」
芽吹「うん……ありがとう、弥勒お姉ちゃん」

園子「撮れた? にわみん」
丹羽「ええ、ばっちり。録音もクリアです」
園子「まさか夜のお散歩をしていたら偶然あんな場面に出くわすなんて…ラッキーだったね」
丹羽「ええ。弥勒さんをストーキングしていた行為を散歩と言い張るそのっち先輩の胆力には脱帽です。盗聴器まで仕掛けて」
園子「だって百合イチャの波動を感じたんよー。見逃す手はないぜぇ」
丹羽「ですね。さすがそのっち先輩、一生ついていきます」
 百合厨たちの夜はこうして更けていくのだった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。