詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
 待望のゆみかりん。そしてそのっち無双。
園子「どうした? 変身しないのか」(^U^)
風「」(無言の腹パン)
樹「」(無言の手刀)
友奈「勇者なら、人類の敵を…丹羽君を倒さなくちゃいけないんだー!」
園子「感動的だな。だが無意味だ」(^U^)
夏凜「これが先代勇者…乃木園子の実力」
東郷「もうそのっち1人でいいんじゃないかな…」
丹羽(この人絶対敵に回しちゃいけない人だ)


【グッドエンドルート】丹羽君、自覚する

 この世界に来てからどれほどの時間が経っただろうか、と三ノ輪銀は回想する。

 最初は死後の世界だと思った。

 自分はあの時、確実に死んだ。射手座の無数に放たれた矢を受けて、獅子座の熱光線に身体を焼かれて。

 だから、この腕と足に繋がれた鎖の先にある岩盤以外存在しない荒涼とした世界に飛ばされた時、ああ、これは死後の世界なのだと思った。

 なぜなら天には生きていた世界ではありえない真っ黒な太陽が浮かんでいたから。

 よく子供のころに悪い事をしたら落ちると聞かされていた地獄の景色との違いに驚いたものだ。

 実際見て見るのと聞いているのとは違う。それにしたってこれは違いすぎるだろうと。

 最初のうちは鎖から何とか抜け出そうといろいろ試してみたが、どれも徒労に終わった。

 ここで銀は炎のようでない炎の熱で身体を焼かれ、風でない風で身体を切り刻まれるような痛みに常に苛まれていた。

 逃げることはできない。手と足に繋がれた鎖がそれを許してくれなかったからだ。

 最初はそれでもなにくそと抵抗していた銀だったが、いつのころからか疲れてしまった。

 抵抗しても、耐えても続く永遠ともいえる責め苦。さらに睡眠も許されず、時間の概念すら歪む曇天の空と黒い太陽だけが浮かぶ変わらない景色。

 銀の精神は早々に限界を迎えてしまった。

 勇者と言っても所詮11歳の少女である。大の大人でも発狂するような空間にあってまだ自我を保てているということ自体が奇跡だ。

 だが、そんなある日。銀のいる世界に突然の来訪者が現れた。

 乃木園子。自分の親友で、同じ勇者の仲間だった1人。

 てっきり銀は彼女が死んだと思ったのだがそうではないらしい。しかも彼女の言葉によれば、自分も死んでいないのだという。

 どういうことだろう。ひょっとしてここは死後の世界ではなにのか?

 だが、この世界の理が彼女から思考するという能力を奪っていた。

 ただ、園子がこの世界に自分と同じように繋がれなかったことに、銀は心から安堵する。

 こんな目に遭うのはあたしだけで十分だと。

 だというのに……なんだこいつは?

『なあ、お前何してんの?』

 自分と岩盤をつなぐ鎖を必死に断ち切ろうと斧を振るっている自分そっくりの白髪の人型の生き物を見る。

 大きさは女の子がよく遊ぶ人形くらい。人型で、こういうのはナルシストと思われそうだが自分そっくりだ。

 凛々しい眉、元気に輝く瞳。髪の後ろでまとめたしっぽのような髪は色こそ違えど自分そのもの。

 そんな生き物がある時突如出現し、銀と背後の岩盤をつなぐ鎖を必死に断ち切ろうとしていたのだ。

『しっかりしろ、アタシ! スミとソノコ、待ってる!』

 時折励ましの言葉をかけてくれるがそれに銀はどう答えていいかわからない。

 しっかりしろって、どうしろって言うんだよ。

 もうやれることは全部やった。それなのにまだがんばれというのか。

 この世界に来て初めて銀は苛立ちを覚えた。そしてそれを目の前の小さい自分そっくりの生き物にぶつける。

『やめてくれ、もう無理なんだよ! 無駄なんだよ! ここじゃどんなに頑張ったって、全部無駄なんだ。だから』

『無理じゃない! 無駄じゃない! ソノコ、泣いてた! スミ、悲しんでる! なのにアタシは何もしないのか?』

『しないじゃなくてできないんだ! あたしだって、本当は帰りたい。須美と園子の元に帰りたい。かなうなら、家族の元にも。だけど』

『諦めんな!』

 小さい手が銀の頬をはたく。痛くはなかったが、不思議と衝撃が全身に響いた。

『こんな弱い奴がアタシだなんて、許せない! アタシはスミとソノコが大事。大切! なのにお前は諦めてる! アタシだったらそんなことしない!』

『ふざけんな! お前はこの世界に来たばかりだからそんなことを! あたしみたいにこの世界の責め苦…を?』

 その時銀は初めて気づいた。この小さな自分が来てから、体の芯まで焦がすような熱も、骨まで凍るような凍てつく風の刃も受けていないことに。

 そして銀は改めて目の前で斧をふるう小さい自分の身体を見て、気づいた。

『お前、ボロボロじゃねーか⁉』

 どうして気づかなかったんだろう。

 目の前にいる小さな自分が、自分の受けるべき責め苦を代わりに受けていてくれたことを。

 それなのに自分はふてくされて、 諦めて。本当に、恰好悪い。

 こいつのほうが、よっぽど根性あるじゃないか。

『お前が帰らないと、だめなんだ』

 目の前で斧を振るう、小さい自分が銀に言う。

『アタシじゃ、あの2人の隙間をうめられない。2年間の間にできた広がりを狭くすることはできない。だから、お前が帰るんだよ、三ノ輪銀!』

『お前…』

 自分を見つめる真摯な瞳に思わずたじろぐ。その熱意に、銀は覚悟を決めた。

『わかったよ。小さいあたし。あたしも協力するから、まず足の鎖を切ろうぜ!』

『よっしゃ、その意気だ!』

 こうして三ノ輪銀と精霊スミによるこの世界からの脱獄は本格的に開始された。

 

 

 

 目を覚ました犬吠埼風は、そこが見知らぬ部屋であること。なぜかベッドで眠らされていることに困惑する。

 さらに顔を横にやると自分を心配そうに見つめている4人の顔を見てますます混乱した。

 妹の樹、部活の仲間である東郷、乃木、そして勇者部唯一の男子生徒である丹羽。

「丹羽? それにみんな…。あれ? どうしてアタシこんなところに」

「よかった、お姉ちゃん! 丹羽くんのこと思い出したんだね」

 安堵したような部員たちの顔を見ながら風は身を起こし、今までの出来事が走馬灯のように脳内を駆けて抜けていった。

 4人分の朝食。3つ目のお弁当。部室で誰も憶えていない丹羽の存在を必死に訴えていた東郷。それに、大赦の偉い人から神樹様に仇なし、四国の平和を脅かす存在として丹羽明吾の名が告げられたこと。

「あれ、なんでアタシ丹羽のこと忘れて……東郷になんてことを。それに乃木にも」

 さっきまで自分が刺し違えてでも丹羽を倒そうと考えていたことを思い出し、風は冷たいものが背筋を走る。

 自分はなんてことをしようとしていたんだろう。勇者部の仲間に、しかも今まで戦ってきた相棒をこの手にかけるなんて。

「よかった。ふーみん先輩、正気に戻ってくれたんだね」

「そうね。樹ちゃんも丹羽君のことを思い出してくれたし万々歳だわ」

 きゃっきゃと手を握り合う東郷と園子を見て、「見て! そのみもがイチャイチャしてるよ。尊いね!」と丹羽がいつもの不審者顔をしている。

「丹羽くん、顔」

「はい、すみません」

 樹に注意され、顔が一瞬で元の真面目なものに戻った。

 相変わらず変わり身早いわね、と考えて変わらぬやり取りについ笑みがこぼれる。

「アンタ、いつも通りね。大赦から四国の敵認定されてるのに。それにしても、どうして東郷と乃木以外の皆は丹羽のことを忘れてたのかしら」

「それは、多分精霊のせいですかね」

 風の疑問に丹羽が答えた。

「散華の治療のために東郷先輩の中にはセッカさん、そのっち先輩の中にはウタノさんとミトさんがいましたから。犬吠埼先輩の中にも今ナツメさんがいて、それで俺のことを思い出してくれたんですよ」

 言葉と共に風の胸元が光り、中から人型の精霊のナツメが出てくる。2日ぶりに会う見知った顔に、思わず風は笑いかけた。

「そっか。ナツメがアタシの忘れてたことを思い出させてくれたのね。ありがと」

『礼には及ばない。風の中は私の故郷の海のように穏やかで気持ちよかった』

 精霊の発言に「キマシ?」「ビュォオオオ?」と丹羽と園子が何やら審議している。なにしてんだこいつらと風は白い目を向けた。

「じゃあ樹は?」

「私の中にはセッカさんが。最初はナツメさんと一緒だったんだけど、丹羽くんのことを思い出してからはセッカさんは東郷先輩の中に、ナツメさんはお姉ちゃんの中に入ったんだぁ」

「私も驚きました。まさか私の中にいたセッカがいつの間にかナツメと入れ替わっていたなんて。丹羽君によると高熱を出した時、私の中にいた悪いものを追い出すためにナツメを私の中に入れて、代わりにセッカを連れて行ったみたいです」

「そう…ん? 東郷が高熱? それってどういうこと? それに、結局なんでアタシたちは丹羽のことを忘れてたの?」

「わたしが説明するよ、ふーみん先輩、いっつん」

 園子から説明された内容は信じがたいものだった。

 丹羽が神樹様に捕らえられている三ノ輪銀の魂を返してもらうように嘆願したら、勇者部はもちろん四国の人々の記憶から存在を消されたこと。

 さらにいままで勇者として戦ってきたのにその功績を忘れたかのように人類の敵と認定し、丹羽が四国に生きるすべての人間から追われる立場になったことを。

「なんで、神樹様はそんな…神樹様はアタシたちの味方をしてくれるいい神様じゃないの?」

「わたしも、そう思う。銀さん…勇者の魂を神樹様が捕らえてるなんて初めて知ったよ。なんだか怖い」

「そうね。三ノ輪銀さんが意識を取り戻して喜ぶ人間はいても、あのまま昏睡状態じゃ家族の人も…」

 園子の説明に3人は口々に感想を漏らす。さらに東郷の口から神託の内容に異議を唱えたことにより神樹様の怒りを受け高熱を出したことを知った風は怒りをあらわにする。

「なんなのよそれ! 東郷は間違ったことは言ってない。なのに一方的に不遜って言って意見に従わない巫女に罰を下すなんて」

「相手は神様だから、多分考え方が違うんだよ。わたしの考えが甘かった。やっぱりにわみんじゃなくてわたしが直接頼めば」

「そうしていたら高熱で倒れていたのがそのっち先輩になってただけですよ。多分神様にとって人間は気が向けば助ける程度の存在で、その逆はあり得ない。一方通行な関係で、こっちの意見なんて聞いちゃくれないんですから」

 まあ、四国の敵認定うんぬんは自分がバーテックスだとバレたせいで、園子たちは関係ないのだが。と丹羽は内心で思う。

「でも、わたしがにわみんに頼んだせいでこんな…謝っても謝り切れないよ」

「そうよそのっち! どうしてわたしやみんなに相談してくれなかったの? もし相談してくれていたら」

 そのみもがギスギスしかけてしまいました。全部神樹様のせいです。あ~あ。

 と、某見て! サボテンがおどってるよコピペのように見ているわけにはいかないので、丹羽は必死にフォローする。

「だから、それはもういいですって。そんなことよりこれからどうするか考えましょうよ」

「そんなことって、アンタ」

「俺なんかのことよりも、勇者部の皆のことの方が重要です。結城先輩の記憶も取り戻さないといけないし」

 こいつ、どこまで馬鹿なんだ。

 自分のことを後回しにして必死に他の皆を助けようとして。

 自分たちはそんな薄情な奴だと思っているのだろうかと風は憤りを感じる。

「丹羽、ちょっとこっち来なさい」

「? はい」

 樹の後ろを通り自分に顔を近づけた丹羽の頭をつかみ、風は思いっきり頭突きした。

「かはっ⁉」

「お、お姉ちゃん⁉」

「なにするのふーみん先輩⁉」

「風先輩っ⁉」

「この馬鹿丹羽! アタシたちがアンタがいなくても大丈夫みたいな言い方するんじゃないわよ! そんなにアタシたちは薄情に見える? 仲間の1人も助けず見捨てるような連中に見えるっていうの?」

 目の前が頭突きの衝撃でチカチカするが関係ない。さらに丹羽の胸ぐらをつかみ、風は言う。

「大体、俺なんかってどういう意味よ! アンタも勇者部の1人でしょうが! まるで自分が部外者みたいな言い方はアタシが許さないわよ」

「いや、犬吠埼先輩。今そう言う話をしてるんじゃ…」

「そういう話をしてるのよ! 東郷だけが丹羽のことを憶えてて、どれだけ必死にアタシたちに丹羽がいたことを伝えようとしてたのか。それでもわかってもらえなくてどれだけ傷ついたかアンタわかってるの? アタシたちがアンタのこと忘れていて、どれだけ悔しいかわかってる?」

 その言葉に丹羽は目を白黒させている。こいつ、全然そんなこと考えてなかったんだなと風の心に改めて怒りが芽生えた。

「アタシは、悔しい。なんで大赦の口車に乗って記憶がないとはいえアンタを倒そうと思ってたのか。大切な仲間なのに。傷つけちゃいけない相手なのに…なのにあんたはいつも自分のことを後回しにして」

「風先輩…」

 風の言葉に東郷がうつむいている。自分の気持ちを代弁してくれた風の言葉に何か感じることがあったのだろうか。

「もっとアタシたちを頼りなさいよ! 自分のことを大事にしなさいよ! アンタがいないだけでこっちは物足りないのよ。食事も4人前作っちゃうし、弁当も3人分作るのに慣れてて…だから」

 最後のほうは涙声だった。丹羽の胸を叩く風の手は決して強くはなかったが、それでも今まで受けたどんな攻撃よりも痛く感じた。

「なんで、忘れちゃったのよ。アタシは……アタシたちはアンタを忘れたひどい奴なのに、なんで何もなかったような顔で気遣ってくれるのよ。恨み言の1つでも言ってよ」

 風が胸を叩く手は、ほんの数回で終わり肩をつかむ。それから丹羽の胸に頭を押し付け、くぐもる声で言う。

「どうして東郷と乃木が憶えていて、アタシは憶えていなかったのよぉ…悔しい…悔しくて仕方ないわよこんな」

「ふーみん先輩」

「お姉ちゃん」

 瞳から光るものがこぼれる姉を、樹がぎゅっと抱きしめている。

 今ここで「あら^~」って言ったら絶対怒られるよなぁ…と丹羽は半分現実逃避していた。

 え? なんで風先輩こんなに怒ってくれてるの? たかが5か月一緒にいただけの百合イチャ好きの変態に。

 自分はただの人型のバーテックスに作られた観測者で、路傍の石のような存在のはずだ。なのになぜこんな。

「えっと、結城先輩と間違えてません? 俺、そんな自己犠牲とかしてませんよ。自分の行動はあくまで百合イチャを見たいからだけですし」

「なに言ってるの丹羽くん。さすがに怒るよ」

 と樹。丹羽の言葉にご立腹の様子だ。

「丹羽君の献身というか、誰にも気づかれないようにしていた優しさには、気付いているわよ。勇者部の皆に平等に注がれる無償の愛は」

 東郷はなぜか優しい顔でこちらを見ている。

「にわみんの自己犠牲っぷりは付き合いの短いわたしでも充分知ってるんだぜー。わたしの身体を治すために5日間も寝ずに精神力を削ってがんばってくれたしね。わたしより付き合いの長い勇者部の皆だったら、言わずもがなだね!」

 園子に至っては親指を立てて丹羽に向けていた。

「アンタがいなくなって、痛いくらいわかったわよ。アタシたちがどんだけアンタに依存してたのかって。ていうか、アタシたちをこんな状態にしたのに今さら俺関係ありませんとか言っていなくなるのはやめてよね」

 風の真剣な瞳に思わずたじろぐ。

 おかしい。こんなの絶対おかしい。

 なんだこの展開は。まるでどこぞのハーレム系主人公じゃないか。

 そんなのは丹羽の最も忌避する存在で、百合の間に入る男そのものだ。それを避けるためにいい人ムーブで彼女たちから何とも思われないように細心の注意を払い無償の愛を注いでいたというのに。

 いや、ちょっと待て。そう言えば夏凛が…。

 

『あんたにとっては当たり前のことだったんでしょうけど、その優しさは毒にもなりかねないってことをちゃんと自覚しなさい。じゃないとそのうち後ろから刺されるわよ』

 

 このことかー! と丹羽はようやく夏凜の言っていたことの意味を理解する。

 そんな、自分はいつの間にか百合の間に挟まるクソ野郎になっていたというのか? しかも女に気を持たせて気付かない鈍感系主人公に?

 たしかに夏合宿の時に夏凛に注意されてからはそうならないように気を付けていたはずなのに。手遅れだったとでもいうのか?

『よくないなぁ…そういうのは』

 その時某913のライダーの中の人が言いそうなセリフを言う、顔が星屑のまま青筋を立てて怒っている人型のバーテックスの姿を脳内にはっきりと思い描けた。

 えらいこっちゃぁあああ! 創造主に殺される! というか下手すれば存在ごと抹消される⁉

「あばばばばばばばばばば」

「え、ちょっ丹羽⁉」

「大変、丹羽くんが口から泡上の物を出して白目向いてる!」

「丹羽君、どうしたの丹羽君!」

「安芸先生ー! 医療班の人呼んできてー!」

 遠のく意識の中、4人の少女の声を聞きながら丹羽はようやく自覚した。

 勇者部の皆にとって、自分はもうすでに大切な仲間の1人にされていることに。

 自分が陰ながら百合イチャを見るために奮闘していたことが全部裏目に出て、自分自身が百合の間に挟まる最低野郎となっていると。

 

 

 

 室内から響くぎゃーぎゃー騒がしい声に夏凜は困惑する。

 どうしよう、完全に入るタイミングを逃してしまった。

 樹が目を覚ました時は近くにいてセッカが回復したことを喜んだのだが、その後の風の回復した姿を見る前に所用で席を外してしまったのだ。

 そのため帰って来た時風が意識を取り戻してみんなと話し込んでいるのに驚いた。よし、ここは完成型勇者として話のいいところで入ってやろうと部屋の前でスタンバっていたのである。

 それがこのざまだ。今更入るのは、なんか違うような気がする。

 仕方ない。こうなったら医療班を呼ぶついでに自然と最初からいたかのように部屋に混ざろうと思いながら廊下を歩いていると、見知った顔を見つけた。

「げっ、楠芽吹」

「三好夏凛」

 防人隊隊長の芽吹。勇者候補生時代の同期であり、最後まで夏凜と勇者の座を争った間柄だ。

 そして先日自分の足を撃った相手。弥勒夕海子の話によればそれを大層気にしているという。

(って言ってもねぇ)

 目の前の少女からはそんな態度、かけらも感じられない。いつもの真面目と頑固を人の型に押し込めたような通常運転だ。

「なにしてるの? こんなところで 」

「えっと、医療班の人を探してて」

 うちの百合好きの阿呆が錯乱したからと言おうとして、急に自分の肩をつかんだ芽吹に夏凜は驚いた。

「この馬鹿! まだ足が痛むならなんで出歩いてるの! 今すぐ医務室に!」

「へ? 違う違う! って、なに人のことお姫様抱っこして運ぼうとしてんのよ! 医者が必要なのはアタシの後輩! アタシの足は全然平気だから!」

「本当? 無理してないでしょうね? あなたは昔から怪我しても大したことないって言うし、やせ我慢が多いから信用できないわ」

 突如思いもよらない行動をしでかそうとする芽吹を止めながら夏凛は言う。それに芽吹は疑わしそうな視線を送る。

「アンタ、昔から変なところで行動的よね。普段クソマジメだからそういう暴走すっごい驚くのよ」

「なんですって⁉ あなたの1人で突っ走るのよりは…って、そうじゃないわね」

 いつものように突っかかろうとするのをやめ、こほんと咳払いすると夏凛の斜め上を見ながら芽吹は言う。

「その、もう歩いて大丈夫なの? 足の怪我は…」

「へ? いやもう平気よ。銃弾自体も精霊バリアで防いでくれたからそんなひどい怪我じゃなかったし」

 夏凜の言葉に「そう」、と返事をして芽吹はどこかソワソワしている。

「ひょっとして、あんたあたしを撃ったこと気にしてるの? …って、そんなわけないわよね」

 からかうように言う夏凜に芽吹は目を伏せた。え、マジで? と夏凜は逆に狼狽する。

「いや、あれはしょうがないでしょ。あたしがあんたの立場だったら普通に撃ってたし。そんなこと気にしてどうするのよ?」

「そんなことですって! あなた、私があの時からどんな思いでいたか」

 あ、本当に気にしてたんだと夏凛は夕海子の情報が正しかったことを知った。伊達に夏凜より長い間一緒にいたわけではないらしい。

「馬鹿ねあんた。そういうとこは昔からクソマジメなんだから」

「ば、馬鹿? あなたみたいな考えなしよりはマシでしょう?」

「誰が考えなしよ! あれはあんたが悪いわけじゃないし、あたしも気にしてないわよ。それが理解できないあんたの方が馬鹿でしょっ!」

「あなたが気にしなくても私が気にするのよ! それに私だってあなたを好きで撃ったわけじゃ…」

 ほんとうに、クソマジメで頑固よねぇ。あたしは大丈夫って言ってるのに。

「あーもー。じゃあ、貸し1ってことで。それでこの話はおしまい! いいわね?」

「ちょっ、なによその貸しって! 私はそんなもの作りたくない!」

「別に大したことじゃないわよ。今度なにかサプリでもおごってくれれば…」

 とそこで夏凛は何か視線を感じて振り向く。そこにはさっきまで錯乱していたであろう男が気配を消して夏凛と芽吹のやり取りを観察していた。

「丹羽、あんたいつからそこに?」

「あ、俺はそこら辺にあるもの言わぬ観葉植物だと思ってくれていいので続けて続けて。次のデートの約束取り付けまで進めてください」

「いや、無理でしょそれは」

「え? 三好夏凛、その男は? 一体いつから」

 突如現れた丹羽に芽吹は混乱している。夏凜も慣れたとはいえ初対面の相手にこれは驚きだろうなぁと思う。

「って、あんた。さっきぶっ倒れたんじゃないの? 風達が騒いでたけど」

「百合の波動を感じて死の淵から生還しました!」

 どんな理屈だそれは。

 夏凛がそう思っているとなにやら向こうが騒がしい。

「丹羽いた⁉ なんで気絶したと思ったら急に病室からいなくなるのよ!」

「そんなの知らないよぉ! 本当にちょっと目を離した隙にいなくなって」

「また丹羽君がいなくなって…どうして私のそばからいなくなるの、丹羽君」

「にわみーん! 早く戻ってきてー! わっしーの目からハイライトがなくなってるー!」

「……戻ってあげなさい、早く。可及的速やかに」

「はい。すみませんでした」

 神妙な顔をして丹羽は声のするほうに向かっていった。どことなく足取りも重そうだ。

 まあ、あいつにはいい薬でしょうと夏凜は思う。散々自分が忠告したのに聞かなかった丹羽が悪い。

 せいぜい今まで無自覚に優しくしていたツケを払うといいわと思いながら夏凜は芽吹に向き直る。

「じゃ、そういうわけでまたね楠芽吹。多分これからお互いいろいろ忙しくなるでしょうけど、終わったらなんかおごってよね」

「ちょっと、私はそんなことまだ! 三好夏凛ー!」

 後ろから聞こえてくる芽吹の言葉に、夏凜は何をおごってもらおうか。その時はどうやって丹羽を撒こうかと考えていた。




 勇者部の皆から想定していたより大事に思われていたことを自覚した丹羽君。
 下手をしたら百合の間に挟まる男になってしまうぞ! さあ、どうする?
丹羽「救いはないんですか?」
(+皿+)「いや、お前がこの物語にとって救いになるんだろ?」
天の神(百合好き)「だからさぁ、女の子になろうよ。ね?」
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