詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
園子「ねえ、にわみん。にわみんはどんな百合イチャが好き?」
丹羽「そうですねぇ…幼馴染で私生活が完全に夫婦なソレの亭主関白と腹黒巫女のカップリングとか、病弱で読書家な後輩と活発で小さな先輩のカップリングとか、相互依存とか、誰も信用してないけど表面上は誰にでも優しい優等生とツンデレだけど心の深いところでつながってる理解者とのカップリングとか、クールに見えて実はポンコツな女の子と快活だけど実は寂しがり屋の女の子のカップリングとか大好きです」
瞬間、園子の脳内にあふれ出した――存在しない記憶
銀「なあ、小さいあたし。お前は須美の奴によくなついてるけど、須美のどこが好きなんだ?」
スミ「おっぱい!」
瞬間、銀の脳内にあふれ出した――存在しない記憶
夏凜「あんたら、呪術〇戦ごっこは別のところでやりなさい!」
国土亜耶は大赦に所属する巫女である。
敬虔な神樹信仰の信者である両親に育てられ、生まれたころから、あるいは生まれる前から神樹様に対する信仰を続けてきた。
彼女にとって神樹様を信仰するということは息を吸って吐くように当然のことであり、その神託に従うのは至極当然のことなのだ。
巫女の素質を見出されとある理由から大赦で生活するようになってからもその考えは変わらず、むしろますます神樹様への信仰は強くなっていった。
そしてゴールドタワーで防人たちと共に巫女としてお役目を果たすことにも迷いはなかった。
すべては神樹様のため。そして神樹様が守る四国に生きる人々のため。
そのためならば自分の存在など小さいものだ。それなのに神樹様は防人隊のみんなや芽吹先輩、雀さん、弥勒先輩、しずくさんと引き合わせてくれた。
感謝してもしきれない。なんて自分は果報者なんだと思う。
だが、数日前にこのゴールドタワーにやってきた人物に対し、亜耶は穏やかならざる気持ちになっている。
丹羽明吾。神樹様が明確に敵と神託なされた存在。
早急に滅ぼすべしと神託で告げられた時、1も2もなく亜耶はそれに従い防人隊の隊長である芽吹と大赦との連絡役である安芸にそれを伝えた。
きっと芽吹先輩と防人隊のみんなが人類の仇敵を倒してくれる。
武運を祈り送り出した亜耶を待っていたのは、その人類の仇敵を保護するためにゴールドタワーに帰還してきた防人たちだった。
訳が分からない。これは何かの間違いではないか。
芽吹の話によると彼は危険な存在ではないらしい。バーテックスもどきに襲われた芽吹を助けてくれたそうだ。
さらに先代勇者乃木園子の話では今まで四国を守って来た勇者の1人であり、どうしてこんな神託を受けたのかわからないそうだ。
その言葉に亜耶はつい「神樹様の神託が間違っているというんですか!」と芽吹を問い詰めてしまった。
自分らしくないと思う。だが許せなかったのだ。
亜耶にとって神樹様は絶対の存在であり、疑うことすら許されない。神樹様の神託は間違いなどでは決してあり得ないからだ。
だがそう言っても芽吹はしつこく彼が危険な存在ではないと言って来た。それにあろうことか「神託だって間違うこともあるでしょう?」と言ってきたのだ。
それが亜耶の逆鱗に触れた。「芽吹先輩なんかもう顔も見たくありません!」とつい言ってしまい、自己嫌悪から部屋に閉じこもってしまったのである。
今もあの人類の仇敵とされている人はこのゴールドタワーにいるのだろうか?
考えて、亜耶は首を振る。神樹様がこの状況を見たらなんとおっしゃられるだろう。人類の仇敵を匿うなど立派な裏切り行為だ。
でも、芽吹先輩は理由もなくそんなことはしません。
頭の中でもう1人の自分がささやく。確かにその通りだが、でも巫女として自分は…。
そう、神樹様の巫女として、国土亜耶は確かめなければならない。その人類の仇敵に防人の皆が騙されていないかと。
思い立ったら行動と亜耶は引きこもっていた部屋から出て食堂へ向かった。
今の時間なら防人の皆は朝食をとっていることだろう。その様子をこっそり観察するのだ。
あと、空っぽのお腹の中に何かを入れたいというのもあった。
朝の食事時と言うこともあって、食堂はにぎわっていた。
いや、いつも以上ににぎやかだ。みんな食事をそっちのけで何かを話している。
朝定食のトレーを受け取った亜耶は食堂のおばちゃんにお礼を言っていつものようにお決まりの席へ行こうとして、慌てて引き返す。
芽吹とはまだ顔を合わせたくない。それに今日来たのは情報収集のためだ。
いつもと違う席に1人で座るというのは、少しドキドキする。亜耶は両手を合わせて「いただきます」と行儀よく言いきれいな箸使いで料理を食べ始めた。
あ、おいしい。
昨日昼食と夕食を食べなかったせいか久々の食事に胃が喜んでいる。箸が止まらず次々と白米とおかずを食べて完食した後は食後のお茶を飲む。
おいしかった。だけど何か少し物足りないような気もする。
(あ、そうか)
いつも亜耶の隣には芽吹がいて。その芽吹を挟んで隣にいる雀が何か話題を提供してくれて、それを対面にいるしずくと夕海子が呆れたり話に乗っかったりとしていた。
気が付けばみんながいつもいた。
亜耶が1人で食べる食事はこのゴールドタワーに来て久しぶりだったのだ。
「ねえねえ、聞いた? あの男の子の話!」
1人物思いにふけっていた亜耶の思考を、そんな声が引き戻した。
そうだ。今は情報収集が大事。亜耶は狐のように耳をピーンと立てるように意識をして話を聞き漏らすまいとする。
「私の最新の情報では、あの男の子、2年前も園子様達と一緒に戦ってたんだって」
「え? それっておかしくない? だって男の勇者なんてこの前初めて確認されたんでしょ?」
どうやら朝園子が勇者部の面々と銀を集めて話していた【もしわすゆ時代に丹羽がいたら】という小説の話をさっそく防人隊の誰かが聞きつけたらしい。その話題で食堂は持ちきりだった。
「だーかーらー。神樹様にその子がいたっていう記録と記憶を消されちゃったんだって。かわいそうだよね」
「しかもその理由が満開で記憶や体の一部を失った仲間に対する怒りからの暴走だって言うじゃない。泣ける―」
え、なんだそれは? 亜耶はさらに聞き耳を立てる。
「仲間や両親からも忘れられたってことでしょ? 神樹様ひどくない?」
「しかも本人も満開の後遺症で記憶喪失になったんだって。よく生きてたよねー」
「それに入学した中学校で偶然かつての仲間と樹海で出会ったとか、感動もんだよ」
「勇者として覚醒したのもその仲間だった女の子を助けたいって願ったからだっていうからさぁ。そういうの王道だけどいいよいいよー」
どうやら園子の創作話は防人たちにとって真実として伝わっているらしい。みんな丹羽に対して同情的だ。
「あ、あの!」
亜耶はいてもたってもいられず意を決し、その話をしていた防人たちのグループに近づいた。
「そのお話、詳しく聞かせていただけませんか?」
ゴールドタワー。防人たちが訓練で使う道場。
そこに三ノ輪銀の姿があった。
「じゃあ、三ノ輪先輩。今まで使っていたようにスマホをタップして変身してもらえますか?」
「おう、わかったー」
丹羽の言葉に銀は手に持ったスマホの画面をタップする。
次の瞬間牡丹の花が咲き誇り光に包まれ、光が収まるとそこには赤い勇者服を着て両手に斧を持った銀がいた。
「よかった、問題なく変身出来ているみたいね」
期待通り変身出来たことに東郷が喜ぶ。
今、銀が変身してみせたスマホには東郷が大赦のサーバーをハッキングして得た情報から勇者システムのひな型をコピーしたプログラムがアプリとして搭載されている。
元々の銀が持っていたスマホの勇者システムは夏凜が継承しており、銀が目覚めてからどうするかという話になったのだ。
話し合いの結果、夏凜のスマホはそのままで、新しいの作ればいいのでは? ということになった。
といっても勇者システムは量産できないはずである。それは最新式の勇者システムに精霊を使ったバリアや満開が組み込まれているという問題があった。
だがその問題はあっけなく解決する。
『かっこいいぞーアタシ! おっぱいも昔より大きくなったしな!』
「判断するとこそこかよ!」
銀の精霊としてスミを組み込んだからだ。
おかげで銀は何の問題もなく2年前と同じように勇者に変身できて精霊バリアまで使えるようにバージョンアップしていた。
ちなみに大赦へのハッキングとアプリ作り。精霊の登録などは東郷さんが一晩でやってくれました。
さすがゆゆゆいで何度も大赦のセキュリティーを突破してハッキングしているだけのことはある。しかも巫女だから精霊の扱いもうまい。
彼女以上の適役はいなかっただろう。
「よーし。じゃあ、ちょっと腕試ししてみるか。園子、模擬戦やろうぜー」
「「だめ(だ)よ!」」
身体を動かしたくてうずうずしていた銀はさっそく園子に声をかけたが、東郷と園子に止められた。
「今はどれだけ動けるか未知数なんだから、まずは体力測定。その後軽い運動のリハビリから始めましょう」
「ミノさん、一応昨日まで昏睡状態だったんだからね。もっと自分の身体を大事にしようねー」
親友2人に詰め寄られてタジタジの銀は思わず「お、おう」と返事するしかない。
「さーて、あっちはあっちでやるみたいだけど、あたしらはどうする? 楠芽吹」
「そうね。完成型勇者様の鼻っ柱を折るのも面白そうだわ三好夏凛」
ゴゴゴゴゴ! と擬音が付きそうな空間で、夏凜と芽吹は双方好戦的な顔で笑う。
夏凛は変身していない道着姿で両手に竹刀を持っている。一方で芽吹は防人の衣装に変身済みで訓練用の銃剣を構えていた。
「どうしたの? 変身しないの?」
「あんた相手に変身する必要なんてないわよ。なんたって、あたしは完成型勇者なんだから」
夏凛の言葉に芽吹はスマホをタップし、変身を解く。そして改めて訓練用の銃剣を構える。
「いいわ、あなたと同じ土俵に乗ってあげる。あのまま勝っても変身していたせいで勝ったって言われるのは癪だわ」
「いいの? 後悔しても知らないわよ楠芽吹」
「ぬかせ! 三好夏凛っ!」
激しい打ち合いに防人たちは拳をぎゅっと握り観戦している。
中には「隊長がんばってー」とか「三好さん負けるな―」という声も聞こえる。
「隊長の楠先輩は当然として、三好先輩も応援されてるんですね」
「あの娘の人柄のおかげですわ。勇者の選抜の時に彼女に助けられた防人たちは多いですから」
丹羽のつぶやきに答えたのは弥勒夕海子だった。隣には山伏しずくの姿もある。
「あの2人はいつもああやって切磋琢磨していました。互いにまだ負けてない、もう一本と言って時間ぎりぎりまで。懐かしいですわね」
「へー、そうだったんだ。で、どっちが強かったの?」
話に入って来たのは加賀城雀。勇者部に男性恐怖症を治したいと訪ねてきた少女だ。
まあ、丹羽の記憶が消えた時点でその記憶も別のものに変わっているかもしれないが。
「わたくしが知る限り、夏凜さんの197勝194敗6引き分けでしたかしら」
「違う! 私の200勝198敗8引き分けです!」
「嘘つくんじゃないわよ! あたしが203勝でアンタが201敗でしょ!」
夕海子の言葉に戦っている2人がすぐさま訂正する。
あ、聞こえてたんだと雀と丹羽は驚く。すごい地獄耳だ。
「すごい…息ぴったり。それに芽吹、楽しそう」
しずくの言葉に雀がそうかなーと首をひねる。
「なんかいつも以上にメブが本気なのはわかるよ。でも楽しそうっていうのは…あっ、夏凜さんの攻撃を受けてすっごい悔しそうな顔してる。あんなメブ初めて見たかも」
「ああいう方法でしかコミュニケーションが取れない娘たちなんですわよ。本当に、普段もあれくらい素直なら」
ふぅ…とため息をつく夕海子は完全に保護者モードになっていた。うーむ。この前のゆみにぼ、ゆみメブといい、この世界の弥勒さんは保護者力強いなぁ、と丹羽は思う。
そうだ、保護者と言えば…と丹羽はスマホを取り出す。
「弥勒先輩。一応確認しておくんですけど、俺が送った三好先輩の画像や情報ってスマホに残ってます?」
「え? 夏凜さんの画像と情報ですの? そんなの…うん、ありませんわね。というか、なぜわたくしがあなたにそんなものを?」
「実は俺たち、以前会ってるんですよ。加賀城先輩とは2度だけですけど、山伏先輩とはちょくちょく、弥勒先輩とは三好先輩の近況を教えるメル友でした」
衝撃的な事実に、3人は「ええ⁉」と驚く。と同時に疑わしいものを見るような目で丹羽を見る。
「本当ですの? とても信じられませんわ」
「うん。嘘くさい」
「チミチミ、嘘はいかんよー」
「加賀城先輩には言われたくないです。勇者部に来た時、依頼がないのをごまかすのに俺を見て男性恐怖症って大嘘ついたくせに。えーっと俺のスマホにはデータが残ってるから…はいこれ」
丹羽が開いたスマホのページを見ると、夕海子を送信先にした画像と文章が付いたファイルが開かれた。
【稽古後、自販機で間違えてあったか~いぜんざいを買ってしまった三好先輩】
【稽古後、私服に値札タグが付いてることに気づかない三好先輩】
【帰宅途中、野良猫に話しかけている笑顔の三好先輩】
【業務用スーパーでにぼしの入った袋を爆買いする三好先輩】
などなど。
それを見て夕海子は「まぁまぁまぁ!」と目を輝かしている。
「その画像、送っもらって構いません? あ、アドレスはですね」
「知ってます、憶えてないでしょうけど交換してたんですから。じゃあ、改めて送信しますね」
言葉と共に丹羽がスマホをタップすると夕海子のスマホから着信音が鳴る。
「あら、本当にあなたとわたくし、アドレスを交換していましたのね。送り主はunknownとなっていますが」
「え、神樹様が丹羽くんの記憶と一緒に三好さんの写真まで消したってこと? 何のために?」
「さぁ? そんな小さなほころびから誰かが俺の記憶を取り戻すことを恐れたんじゃ…って、なんで知ってるんですかそのこと」
雀の言葉に当たり前のように答えてしまったが、防人たちは丹羽が神樹に四国にいる人々から記憶を消されたという情報を知らないはずだ。
なのになぜ? と視線を向けると、雀は思いっきり視線を逸らしていた。
「えー、私そんなこと言ってないよー。チュンチュン」
「いや、でもたしかに」
「ねえ、わたしとの写真とかもあるの?」
声に顔を向ければしずくが袖を引っ張っていた。
「うーん。記念撮影くらいですかね。こういうのとか」
丹羽が画像をスライドさせるとそこにはしずくがどんぶりを抱えた写真が映っていて【完食】という文章がつけられていた。
「夏休みの間セッカさんがラーメン食べたいときにお店で結構遭遇しましたから、俺が撮ったのはこの3枚だけですね。これ見せると次お店に行った時温玉1つ追加してくれるサービスがあるみたいで送ったんですよ」
『あー、あの時の写真だー。懐かしいなー』
話していると件の精霊、セッカが会話の輪の中に入って来た。どうやら話を聞きつけて東郷の中から出てきて飛んできたらしい。
「あなたは…ラーメンの食券を買うのに困っていた私を助けてくれた精霊さん?」
「え、どうしたの急に。まさか思い出したとか?」
「うん。どうして忘れてたんだろう。丹羽とは夏休みの間結構な頻度で会ってたのに。初めて会った時は芽吹と雀、弥勒も一緒だった」
しずくの言葉に「えぇっ⁉」と夕海子と雀が驚いている。一方で丹羽はセッカを見ただけで記憶を取り戻したしずくの方に驚いていた。
「思い出したんですか? え、本当に?」
「嘘は…つかない。それにわたしは覚えてなくても、シズクは君のことを憶えていたかも。シズク、丹羽のこと気に入ってたし」
「えぇっ、この子シズクさんとも知り合いだったの?」
雀の言葉に、シズクはうなずく。丹羽もその情報は初めて知ったので驚きだ。
「わたしとシズクの関係を気味悪がらずにすぐ受け入れてくれたから。芽吹や弥勒以外でそんな人は初めてだった」
「え、私は? 私はどうなのしずくさん⁉」
「……加賀城、最初の方すごく怖がってたし。シズクにも敬語だった。今もシズクにはさんづけだし」
「ちょっ、なんで今更苗字呼びになるのさ! そんな会ったばっかりの時みたいに!」
ぷいっと顔を背けるしずくに雀が必死に見捨てないで―というように追いすがっている。
これは、しずすずかな? うーん、百合イチャセンサーが反応しないということはまだ仲良しレベルが低いか。
カップリングにはまだ至らないかなぁと丹羽は残念がる。せっかく新規カプの百合イチャが見られると思ったのに。
「え、そしてなんで丹羽君はそんなに残念そうな顔してるの?」
「ああ、気にしないでください。俺の趣味の問題なので」
「趣味って何!?」
「しっ、そろそろ芽吹さんと夏凜さんの決着がつきそうですわ」
夕海子の言葉に視線をやると、裂ぱくの気合と共に双方決め技を放つ瞬間だった。
「三好夏凛ー!」
「楠芽吹ぃー!」
互いの名を叫びながら激しく稽古用の木刀と銃剣が打ち合う音が道場に響く。
膝をついたのは2人同時だった。どうやら今回は引き分けらしい。倒れないのは双方負けたくないという意地からかもしれない。
「はぁ、はぁ、やるじゃない。三好夏凛」
「はぁ、はぁ、あんたもね楠芽吹。前より腕を上げたんじゃない?」
互いの健闘をほめたたえるように、道場内に防人たちの拍手が響く。それに丹羽も続く。
うむ。めぶにぼ、にぼめぶはいいぞ! この後はメチャクチャ仲直りックスだな!
「…丹羽、あんた今変なこと考えてるでしょ。あたしと芽吹で」
「ソンナコトナイデスヨー」
ジトっとした夏凜の視線を受け、丹羽は明後日の方向を見てすっごい棒読みで返事をする。
これはもう疑ってくれというような見本だった。
「楠芽吹。ちょっと道場が汚れるかもしれないけど勘弁してね。どうやら後輩への指導が必要なみたいだから」
「なんだかわからないけど、手伝うわ三好夏凛。あの男から感じた邪念は正直私も不快だったし」
何ということでしょう。ケンカップルだった2人が共通の敵を前にして手を取り合う理想的シチュエーション。
その敵が自分なのは正直想定外だが、百合イチャのためならば死ぬのも本望。さあ、存分にやるがいいと丹羽は決意する。
「っしゃあ! よろしくお願いします!」
「ねえ、しずく。あの丹羽って子との付き合いは考え直した方がいいんじゃない? なんかメブと夏凜さんのお仕置きを喜んで受けようとしてるよ」
「うん。わたしはどちらかというとこのメガネの精霊さんと仲良くしたい。丹羽はあくまでそのおまけ。心配しなくていい」
『えー。ご主人いいやつだよー。百合イチャ好きの変態だけど』
「その百合イチャというのはなんなんですの? 聞きなれない言葉ですが」
喜んで夏凜と芽吹からお仕置きを受ける丹羽に、防人たちの評価が1下がった。
食堂で亜耶が防人たちに効いた話は衝撃的であった。
大赦が先代勇者を騙し、記憶や身体の一部を代償にパワーアップする満開の副作用を隠していたこと。
そしてそれに怒った丹羽が大赦と神樹様に反旗を翻したが力及ばず徒労に終わったこと。
その結果神樹様は自分に歯向かった丹羽を許さず四国の人々から丹羽の記憶を消し、丹羽自身も満開の後遺症ですべての記憶を失ったということ。
これらはすべて園子の創作話であったが、防人たちは本当のことのように噂していた。しかも噂にはつきものの尾ひれまでつけて。
亜耶は善良な少女である。人を疑うことを知らない。
ましてや話を聞いたのは自分が信頼する防人の少女たちであったから、亜耶は疑いもなく丹羽が神樹様と大赦によって人生を狂わされた人間だと信じてしまったのだ。
「嘘です…。大赦が…神樹様がそんな」
授業を受けている間も亜耶は上の空だった。普段は真面目でいい子なだけにその異常はすぐに伝わり、医務室に言った方がいいんじゃないかと勧める防人の同級生には心配ないと伝えたのだが、結局早退してしまった。
自室に戻っても眠る気にはなれない。なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいで、猛烈にお掃除がしたい。
でも、体調を崩したと思われているのに防人たちのお部屋を掃除したとバレたらお叱りを受けてしまう。現に1度だけ体調を崩しかけた時いつものようにお掃除をしていたら芽吹に大目玉を食らったことがあった。
「亜耶ちゃんはもう少し、自分の身体を大切にしなさい」と。そして同時に「あなたが倒れたら私だけでなくこのゴールドタワーにいる防人みんなが心配するのよ」と優しく諭してくれた。
あの時の思い出は亜耶にとって宝物だ。
そうこうしているうちに時計を見ればお昼時。くうくうと亜耶のお腹が鳴る。
丹羽のことについて芽吹にも話を聞いてみよう。丹羽明吾という少年の境遇を知った今なら芽吹と話し合える気がする。
昨日のように意固地にならず聞く耳持たないという態度は今思えば大変失礼だった。芽吹はあんなに真摯に自分と向き合ってくれたのに。
そうと決まればいつもの席で待っていよう。
思い立った亜耶は食堂へ向かうことにした。今日は芽吹たちのグループは午前中訓練で午後は座学だったはずだ。
きっとお腹を空かせていることだろう。うどんを3杯食べるかもしれない。
亜耶はいつも5人で座る席で待っていた。芽吹と雀、しずくと夕海子が昼食の乗ったトレーを持ってやってくるのを。
「芽吹先ぱ…っ⁉」
だが、いつも自分たちと一緒にいる4人と一緒にいる2人を見て、思わず身を固くしてしまった。
「だから、あそこの突きは薙ぎに変えた方がいいでしょ。そうした方が弥勒の動きがぐっと良くなるって」
「勇者のあなたが防人のことに口を挟まないで頂戴。あそこは薙ぎじゃなくて突きでいいのよ。防人は集団で戦うし、銃剣という武器の特性を生かしているんだから」
1人は芽吹と仲良くケンカしている三好夏凛。
「メブってこんなに口数多かったんだねー。プラモのこと以外でこんなにしゃべってるの、初めて聞いた」
「うん…びっくり」
「芽吹さんと夏凜さんは昔からこんなのでしたわよ。互いに意見をぶつけ合って、試行錯誤しながら戦略を組み立てていったんですわ」
「なにそれ詳しく」
もう1人は丹羽明吾。人類の仇敵とされている人物。
それがごく自然に夕海子としずく、雀と会話しているのを見て、亜耶はこう思ってしまった。
取られたと。そこは本当は自分の場所なのに。
「あれ? あやや?」
最初にテーブルにいた亜耶に気づいたのは雀だった。驚いていたが嬉しそうに亜耶に近づいてくる。
「なになに、席取っておいてくれたの? ありがとう! ほんとあややはいい娘だねー」
「うん。国土はいい娘。みんな知ってる」
「その通りですわ。昨日と今朝は姿を見せなかったから心配していたんですのよ?」
「じゃあ、三好夏凛。あなたとはここでお別れよ。私たちは亜耶ちゃんと一緒に食事をするから」
「ちょっ、逃げる気楠芽吹⁉」
「はいはい、行きましょう三好先輩。犬吠埼さんと犬吠埼先輩が待ってますから」
いつも通り自分の隣に座る芽吹に食って掛かろうとする夏凜を丹羽が引っ張っていく。
その姿に、一瞬でも彼に今まで感じたことのない嫉妬に似た感情を抱いた自分を亜耶は恥ずかしく思った。
「あら? 亜耶ちゃんの分の食事は? 持ってきていないなら、私が取りに行きましょうか? なにがいい?」
「いえ、芽吹先輩。自分で取りに行けます」
親切な先輩に、どうして昨日あんなに意固地だったんだろうと不思議になる。そして改めて亜耶は自分の決意を告げた。
「芽吹先輩、食事が終わったら昨日わたしに話そうとしていたことを聞かせてください。わたし、昨日は意地悪でした。芽吹先輩の話を一方的に打ち切って、部屋にこもって逃げ出して」
「そ、そんなことないわよ。あれは私の配慮が足りなかったわ。亜耶ちゃんのことをもっと考えるべきだった。それに」
「はいはい、そこまで。いちゃつくのはご飯食べてからにしてね、メブ、あやや」
雀の言葉に芽吹と亜耶は顔を赤くする。
「イチャイチャって、私はそんな」
「そうです。芽吹先輩とわたしなんかがそんなおこがましいです。芽吹先輩は頼りになって格好良くていらっしゃいますから、憧れていますけど」
いつも通りの2人に雀、しずく、夕海子の3人はようやく元に戻ったかと安堵した。
そしてそれを物陰から見つめる百合厨が2人。
「やはりメブあやは大正義。トウトイ・・・トウトイ・・・」
「いいぜぇ、メブあやいいぜぇ。もっとわたしたちに百合イチャを見せてほしいんよー」
「はいはい、丹羽も園子もそこまで。ご飯食べるわよ」
丹羽と園子、2人の首根っこをつかみ引っ張っていく夏凜に「にぼっしーのいけずー」と園子は恨みがましく言うのだった。
昼食を食べ終えた5人は改めて亜耶に向き直り、丹羽のことを説明していた。
四国を守ってバーテックスと戦っていた勇者の1人であったこと。それなのになぜか急に神樹様に人類の敵認定され、仲間であったはずの勇者を含め四国にいるすべての人の記憶から自分の存在を消されたこと。
それにしずくや夕海子も含まれていたことを知った芽吹と亜耶は驚いた。まさかこんな身近にも神樹様の影響を受けた人物がいたとは思わなかったからだ。
「え、あなたたちあの人と知り合いだったの」
「メル友、だったらしいですわ。夏凜ちゃんの近況を聞いて、それを芽吹さんに…って、これは内緒でしたわね」
「ラーメン仲間。正確には丹羽じゃなくて精霊のメガネの女の子とだけど」
「メブとも会ったことあるんだって。先輩への贈り物にプラモを買いに行った時、アドバイスもらったって」
そう言われても芽吹には記憶がない。これも神樹様による記憶消去の影響だろうか。
「あの、わたし朝の食堂で聞いたんですが」
亜耶は他の防人から聞いた丹羽が2年前にも勇者として戦い、神樹様に今と同じように四国の人々から記憶を消された話をした。
「あ、それ私も聞いた。今朝勇者のみんなが集められて、園子様が話してたって」
雀の言葉に芽吹、しずく、夕海子は神妙な顔をする。
「なるほど。となるとかなり信ぴょう性の高い話だと考えた方がいいわね。亜耶ちゃんの聞いた話はおそらく真実でしょう」
この場に丹羽がいたら、「いえ、全然違います。大暴投でした」と否定していただろう。
園子創作によるもしわすゆ時代に丹羽がいたらという創作話は防人たちの間ですでに真実として広まっていた。みんな園子の存在しない記憶に毒されている。
「そんな…じゃあ、丹羽明吾さんは大赦に何度も騙されて、裏切られて……こんなひどい事って」
「しかも記憶喪失ってことは生まれてからの記憶が全部ないんでしょ? それに神樹様の力によって両親も丹羽君のこと忘れてるって、それもうどうしようもないじゃん」
雀の言葉に全員が黙り込む。改めて彼のおかれた悲惨な状況を確認できたからだ。
さらに神託により人類の敵認定を受けて大赦を含め四国の人々全ての敵となっている。
神樹と大赦に人生を狂わされたといっても過言ではないその生き様を聞いて、同情するなという方が無理だろう。
なにしろ防人たちは現在は改善されたとはいえ以前のひどい大赦を憶えている。大赦の大人たちに捨て石扱いされたことに腹に抱えるものがある人間もたくさんいた。
そんな人間たちと心優しい巫女である亜耶が丹羽の状況を不憫に思わない者はいない。
【勅である】
その時亜耶の脳内に重々しくも無機質な声が響いた。神託だ。
「あやや、どうしたの?」
「しっ、神託みたいよ。しずかにしなさい」
突如黙った亜耶を心配して雀が声をかけるが、芽吹に止められた。
【人類の仇敵、丹羽明吾を早々に滅ぼせ。
彼の者は姿形こそ人だが、我に仇なし四国を滅ぼさんとする存在である。
早々に滅ぼすべし。彼の者が滅びてこそお前たちの安息はあると知れ】
「神樹様! お尋ねしたいことがあります!」
突如声を上げた亜耶に、4人は驚く。
「丹羽明吾さんは…丹羽明吾さんは勇者だったというのは本当なんですか? それなのに神樹様は丹羽明吾さんが2年前に神樹様と大赦にひどいことをしようとしたから、だから2回も丹羽明吾さんの記憶を四国の人々から消したんですか?」
「亜耶ちゃん、なにを?」
「丹羽明吾さんには昔の記憶がありません。多分ご両親も丹羽明吾さんを忘れています。それはとてもとても悲しいことだと思います。もし神樹様がそんなことをしたのなら、せめてご両親と丹羽明吾さんの記憶だけは戻してあげてください。お願いします!」
心からの願いを亜耶は祈りという形で信仰する神樹様へと送った。
たとえ人類の仇敵、四国を滅ぼす存在という決定を覆すのは無理でも、せめてその救いようのない2つだけは改善してあげたい。
それに神樹様は寛大な方だ。たとえ自分を傷つけようとした者にでも慈悲の心をかけてくれるに違いない。
少なくとも国土亜耶は、純真な心を持つ巫女はそう信じていた。
だが、帰ってきた言葉は、それを全否定する。
【不遜である】
次の瞬間、亜耶は座っていた椅子から床に倒れた。
「亜耶ちゃん? 亜耶ちゃん! 熱っ」
亜耶を抱き起した芽吹はその熱さに思わず顔をしかめた。亜耶の額には珠のような汗が次々と現れている。
「なにこの熱さ。普通じゃない⁉ すぐ医務室に運ぶわ」
「わ、私安芸先生呼んでくる!」
「わたくしは園子様にこのことを知らせてきますわ。行きましょう、雀さん。しずくさんは芽吹さんと一緒に亜耶さんを!」
「わかった」
芽吹としずくに挟まれるようにして医務室へと運ばれる亜耶は、薄れゆく意識の中でどうして? と繰り返していた。
(どうして神樹様はあんなに冷たい声を? どうして神樹様はあんなにひどいことを丹羽明吾さんに? どうして)
その問いに答えてくれるはずの神は、沈黙したままだった。
冷たくて心地いい。
まるで以前防人の皆と遊びに行ったプールのようだ。
あの時は雀さんがイルカの浮き輪を貸してくれて、シズクさんと一緒に挟むようにしがみついてプールでぷかぷか浮かんだんだっけ。
スポーティーな水着を着た芽吹先輩はそれはそれはお綺麗で格好良くて、プールにいた防人の皆さんの視線を独り占めしていました。
隣にいた弥勒先輩もナイスバディーで、ちんちくりんなわたしと比べて思わず羨ましいと思ってしまったものです。
そんなことを考えていると、ふふっ、と自然に笑みが浮かんでしまう。すると何か聞こえた気がして、ゆっくりと亜耶はまぶたを開ける。
「亜耶ちゃん!」
「あやや!」
「亜耶さん!」
「国土!」
「みな…さん?」
そこにいたのは芽吹と雀、夕海子にしずくだった。皆心配そうに、けれど亜耶が目を覚ましたことで安堵したのかほっと息をついている。
「よかった。もう身体は熱くないですか? 痛みとかは?」
声に顔を向ければそこには髪が真っ白で緑のラインが入っている白い勇者服を着た少年が亜耶の手を握っていた。
「あなたは…丹羽明吾さん?」
「あ、知ってたんだ。初めまして国土さん。ナツメさーん、大丈夫ですか?」
丹羽が尋ねると亜耶の中から光の玉が出現し、人の姿となった。白髪で褐色の肌をした人型の精霊だ。
『問題ない。東郷の時のように全部追い払ったぞ、主』
「一応まだ送り込んでくるかもしれないから、今日1日は国土さんの中にいてください。もしまた何か悪いものがいたら追い返してほしいんですがやれますか?」
『了解した』
言葉と共に亜耶の中に再び精霊が入る。暖かさと一緒にどこまでも広がる海を見たような爽快感が亜耶の胸の中に広がっていく感覚がした。
「これは……わたしにいったい何をしたんですか?」
「俺の精霊…ナツメさんに君の中に入って来た神樹の怒りを追い出してもらった。同じ症状の東郷先輩もこれで治ったから、多分これで治ると思って」
とそこで亜耶の手を握ったままだったことに気づいたのか、丹羽は手を離して芽吹に席を譲る。
「亜耶ちゃん、大丈夫? どこか痛くない? お水欲しくない? それともジュースの方が」
「メブストップ! 園子様も言ってたじゃない。丹羽君に任せておけば問題ないって。心配しすぎ!」
亜耶に近づくや否や手を両手でつかみ怒涛の質問をする芽吹に白い目を向けながら雀が注意した。
「その姿…それに精霊による治療。あなた、何者ですの?」
「丹羽明吾。ただのイレギュラーな勇者ですよ。そして今は四国の人々の敵。人類の仇敵です」
「そんなことない。丹羽、国土を助けてくれた。少なくともわたしたちは感謝する」
夕海子の質問に答えた丹羽がしずくの言葉に困ったような顔をする。
「いやいや、こんなに順調に国土さんが回復したのは皆さんがすぐに連れてきてくれたからですよ。みなさんの国土さんを想う気持ちが彼女を救ったんです」
「丹羽明吾さん…その、ごめんなさい!」
亜耶の突然の謝罪にその場にいた5人は目を点にした。特に謝罪された丹羽は何が何だかわからず困惑する。
「え、えっと? なにがです?」
「わたし、実はあなたにひどいことをしてたんです」
その言葉に「ん?」と5人は首をひねる。
国土亜耶と言えばゴールドタワーにいる防人たち誰もが知るいい子である。それはもう四国のどこに出してもいいほどの。
そんな娘がひどいことをしていた? とても信じられない。
「えっと。具体的にどんな?」
「それは…防人の皆さんや勇者の皆さんのお部屋は掃除したのに、あなたの部屋だけは掃除しなかったり。神樹様に悪い人だって言われていたからよく知りもしないのに芽吹先輩に丹羽さんの悪口を言ったり」
「……え? それだけ?」
「ねぇ、メブ。あややからなにか丹羽君の悪口、聞いた?」
「いいえ全然」
なんとも心から善良な彼女らしい。丹羽が全然気づいていない…というか誰も気づかないような小さな悪意ですら彼女にとってはすごい罪悪感を覚えるようなことだったんだろう。
「それにわたし、あなたが芽吹先輩たちと一緒にいた時、思ってしまったんです。取らないでって。そこは私の場所なのにって」
その言葉に思わず「あら^~」と丹羽は我慢していた不審者顔をしてしまう。
やはりメブあやはいいな!
「えっと、丹羽くーん。顔がちょっと」
「おっとすみません」
雀に注意されすぐさま元の顔に戻す。あまりの変わり身の早さに亜耶を除くくめゆ組全員がドン引きしていた。
「わたし、悪い子です。ひどい子です。丹羽君は大赦に裏切られて、神樹様に友達や両親から存在した記憶を消されているのに勝手に嫉妬して。こんな汚い気持ちがわたしにあったなんて」
なにこの子、いい子すぎ。天使か!
この場にいた全員の気持ちがシンクロする。それに代表して答えたのは芽吹だった。
「亜耶ちゃん。私はそんなの全然汚いなんて思わないわ。むしろ嬉しい。亜耶ちゃんに嫉妬されるくらい、私が特別な存在だったってわかって」
「め、芽吹先輩!?」
「あら^~メブあやはいいなぁ! 視力上がるわー」
「丹羽、顔が変」
「はい、すみません」
今度はしずくに指摘されて顔を元に戻す。2回目ともなるとさすがに慣れたのか、誰も反応してくれなかった。少しさびしい。
「ちょっとメブ、あややは私たちを取られたと思ったんでしょ。なのになんで自分だけ特別って思うかなぁ」
「そうですわ。芽吹さんだけズルイですわよ。わたくしたちも亜耶さんを甘やかす権利がありますわ」
言うが否や雀と夕海子も亜耶を囲み頭をなでていい子いい子し始める。出遅れたしずくは仕方ないので芽吹が握っていた手とは反対側の手をつかんだ。
「えっ、ちょっと。皆さん!?」
「国土はいい子すぎ。もっと悪い事もしていいし、甘えてもいい」
「悪い事はともかく、私も同意見よ。もっと私たちに甘えて頂戴、亜耶ちゃん」
「そ、そんな。今でも充分よくしてくださっているのにこれ以上甘えるなんて、罰が当たってしまいます」
おっと今度は亜耶ハーレムですかな?
くめゆ組に囲まれ目を白黒させている亜耶を見ながら丹羽は静かに、誰にも気づかれないように医務室を出る。
この尊い世界を壊してしまわないように。
「どうだった。にわみん?」
室内から出るとそこには園子が待ち構えていた。思わずヒェッと心の中で叫んでしまう。
「寿命が縮むのでその登場はやめてください、そのっち先輩」
「あはははー。で、あーやはどうかなぁ? 無事?」
「大丈夫です。すぐに対応できたのが幸いで、東郷先輩みたいに一日病室で過ごすってことにはならなそうです。俺もミトさんの力をそんなに使わなくて済んだし」
言葉と共に丹羽の中からミトが出て、園子の中にいたウタノが出現し「みーちゃーん」「うたのーん」といつものラブイチャをしている。
「わっしーも神託を受けたって言ってた。最初の神託から今日で3日。神樹様も焦ってるみたいだねー」
「ええ。まさか国土さんが神託に異議を唱えるなんて予想外でした。東郷先輩はともかく、国土さんは俺のこと何にも知らないはずなのに」
「はっはっは、どうやら朝撒いていた種が花を咲かせて実をつけたみたいで、良かったんよー」
その言葉にまさか…と丹羽は戦慄する。
「ひょっとして、そのっち先輩。ここまで計算して? 防人の皆さんに俺を信用させるためにあんなことを?」
「さあ、どうだろう。にわみんはどう思う?」
いたずらっぽく笑う園子に改めて彼女が味方でよかったなと丹羽は思う。多分敵だったら詰んでた。
「残るのはゆーゆの説得だけだねぇ。これはちょっと厳しいかもしれないよ」
「ええ、でもやってみせます。今の結城先輩だけ孤立している勇者部は、勇者部じゃありませんから」
自分の安全を度外視して言う丹羽の言葉に、そういう君だから私は手助けするんだけどねと園子は思う。
おそらく園子が手を貸さなかったとしても丹羽は何らかの方法で亜耶や芽吹たちと信頼関係を築けていたように思う。
「にわみん。その前に伝えておくことがあるんだ。実はゆーゆは」
園子が何か言いかけた時、スマホのアラームがけたたましく鳴る。
「樹海化警報⁉ バーテックスが」
「おあつらえ向きだねえ。行こうかにわみん!」
次の瞬間、ゴールドタワーにいた7人の勇者たちは樹海へと飛ばされていた。
亜耶ちゃんにひどい事したら、保護者(32人)が黙っていないぞ。
神樹「狂信者怖いなーとずまりしとこ」
芽吹「ここか、亜耶ちゃんにひどいことしたクソウッドの根城は」
雀「あややが受けた痛みの10分の1くらいの痛みは受けてもらうよ!」
シズク「なんだっていい! ぶった切ってやりゃいいんだろ!」
夕海子「許しませんことよ」
防人×28「神樹ぶった切る」
神樹「ヒェッ」