詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
 大正義勇者部。
 双子座は犠牲になったのだ。みもゆうというカップリングの犠牲にな…。
丹羽「てぇてぇ、てぇてぇ…」
園子「ビュォオオオ! 尊いんよー」
銀「なあ、その尊いってなんだ? 2年間眠ってたアタシにもわかるように教えてくれよ」
丹羽「そうですね…。例えば三ノ輪先輩がそのっち先輩に膝枕される。それは尊いです」
園子「えー、そうかなー? わっしーの方が尊くない?」
丹羽「東郷先輩でも尊いですが、2年間会いたくても会えなかった。話したくても話せなかったそのっち先輩だからこそ尊いんですよ」
園子「にわみん…そうだね」
銀「んじゃ早速……おおっ! これは、見事な富士山! これが尊いか?」
園子「ミノさん…多分それ違う」


【グッドエンドルート】あなたを1人にしない

「しかし俺やそのっち先輩たちが説得するまでもなく結城先輩を説き伏せるとは…やっぱり愛ですね」

「だねぇ。ゆうみもはやはり夫婦。ビュォオオオ!」

「も、もう! からかわないの2人とも!」

 安心と信頼のゆうみもを大絶賛する丹羽と園子に、満更でもないのか東郷が顔を赤くしている。

「丹羽君。その…」

 声に顔を向けるともじもじしながら友奈が丹羽に向って何か言おうとしていた。

 ちょっと待って。そんな表情と仕草はかなりレアかもしれない。現に友奈の背後で東郷がどこから取り出したのかカメラ回してるし。

「今まで、ごめんね? 私、ひどいこと言ったりしようとしてた。そのちゃんと東郷さんが止めてくれなかったら、丹羽君と戦ってたかも」

「そうならなかったんだからいいじゃないですか。これで勇者部全員勢ぞろいで万事丸く収まったってことで」

 にっこりと笑う丹羽に、敵わないなぁと友奈は思う。

「ところで…全然樹海化が解けないんだけど。双子座倒してから結構経ったわよね?」

 夏凛の言葉にそう言えばと全員が首をひねった。双子座の御霊を破壊してからすでに十分以上は経過している。

 いつもならとっくに讃州中学の屋上へ転送されているはずなのに、なぜ?

「あ、これ見てください!」

 疑問に思っていると地図アプリを起動させた樹がスマホの画面をみんなに見せる。

 そこには勇者たちの名前の他に【人類の仇敵】と表示された真っ赤なアイコンが1つ表示されていた。

「この人類の仇敵って、丹羽のこと?」

「みたいだねー。どうやら神樹様はどうあってもにわみんをここで倒せって言ってるみたい」

 風の疑問を園子が肯定する。

「じゃあ、わたしたちが丹羽くんを倒さないといつまでも樹海から帰れないってことですか?」

「そんなのって!」

 樹の言葉に、東郷が怒りを抑えきれず拳を固く握った。

 どこまで四国を守る神は残酷なのだろう。せっかく仲直りして勇者部がまた1つになったのに、それに水を差すようにこんなことを。

「ねえ、にわみん。こんな時こそあの人型さんにもらった精霊を呼んでみたら?」

「精霊? ああ、あいつですか」

 園子の言葉に丹羽は人型のバーテックスが去り際に自分に渡して行った精霊を呼び出す。

 照魔鏡。遠くにある景色を見せる人型のバーテックスが作り上げた精霊だ。

 照魔鏡は出現するとその鏡のような体躯に映像を流しだす。それは黄色や赤に染まった山々であったり、黄金色に色づいた小麦畑であったり。

 稲穂が揺れる水田やたくさんの野菜が生えている畑。そこで働く美少女が平穏に暮らす村の様子が映し出されている。

「えっ、これどこだ?」

「多分、壁の外の人型さんがテラフォーミングしてるって言ってた場所、だと思う。わたしも見るのは初めてなんよー」

 銀の言葉に園子が答える。相当びっくりしているのか、目を丸くしていた。

「え、壁の外? 嘘でしょ⁉ だってあそこは人間が住めない場所なのに。あたしこの前出たけど、こんな場所じゃなかったわよ」

 夏凛の言葉にそうなのかと園子以外の他の勇者部の面々は思う。

 それに四国の外で普通に生活している人々。なぜか女の子ばかりだったが、四国以外にも人が生きていることに園子と夏凜は驚いていた。

『ん? あっ、映像来てる? やっほーそのっち。元気してるー? 3日ぶり』

 その時やけにフランクな言葉と共に子供が作ったような稚拙な面を被った人間が画面に出てきた。

 いや、人間なのか? 首や肩、腕に手の指が5本あるが肌は病的に白いし、胸に凹凸はなく性別はうかがい知ることはできない。

 ただ、確実に人間ではない。そんな確信が映像を見ていた勇者たちにはあった。

「あっ、人型さん。3日ぶりなんよー」

「えっ、こいつが人型? あたしの命の恩人っていう?」

 園子の言葉に銀が驚き、慌てて頭を下げる。

「あ、あの。ありがとうございました。あたしの傷を治してくれて。この恩は一生忘れないっす!」

『いいっていいって。俺がやりたくてやっただけなんだから。銀ちゃん目を覚ましたんだ。よかったねそのっち』

「うん。本当によかったんよー。で、人型さん。頼みたいことがあるんだけど」

『うんうん。そのっちの頼みなら何でも聞いちゃうよー。神樹ぶった切る? 神樹の体液吸いつくして枯らす? 何でも言ってよ』

「「「「「「いや、そんなぶっそうなことしない(ねー)よ!」」」」」」

 人型バーテックスの言葉に思わず丹羽と園子を除いた全員がツッコむ。こいつ、やべーやつなんじゃないかと疑念の目を向けた。

「ちょっとにわみんをそっちで預かってほしいんよー。今、神樹様の結界の中にいるんだけどにわみんを倒さないと樹海化が解けない状態で壁の外の安全な場所に人型さんに連れて行ってもらいたくて」

 園子の言葉にふむ。と人型のバーテックスは何事か考えているようだ。

『それは、もう君たちの手に余る状態になった、と考えていいかな?』

「そ、そんなことないです! 丹羽君は勇者部の皆が守ります!」

 答えたのは友奈だった。他の面々もそうだそうだと友奈に続く。

「大赦が何か言ってきても、部長のアタシが守って見せるわ!」

「そうよ、丹羽は勇者部の仲間。それはかわらないわ」

「丹羽君を傷つける相手は許さないわ。たとえそれが神樹様でも」

「丹羽くんはわたしたちの仲間です。いてくれないと困るんです」

「付き合いの短いあたしでも、丹羽がいい奴ってわかるからな。応援するぜ」

 上から風、夏凜、東郷、樹、銀の発言である。

 その言葉に丹羽は胸の中が熱くなった。同じように思ったのか、人型のバーテックスもうんうんうなずいている。

 ちなみになぜ距離の離れた勇者たちの言葉が人型のバーテックスに届いているかというと、丹羽の中にいるウタノのような人型の精霊のおかげだ。これにより人型のバーテックスは離れていても丹羽の近況を知ることができた。

 そして、丹羽にもうできることが何もなくなったことも。

『それは、そこにいる丹羽明吾がバーテックスだとわかっていてもそう言えるかな?』

 その言葉に、全員が固まった。

 丹羽自身も何を言われたのかわからず硬直する。

 え、何考えてるの俺? 今、それ言う?

「えっとぉ…人型さん? 笑えない冗談は、やめてほしいんだけど」

 沈黙の後、最初に声を上げたのは園子だった。笑顔だったが少しぎこちない。

『冗談も何も、そこにいる丹羽明吾は俺が四国に送り込んだ強化版人型星屑。俺が作った人間に似せたバーテックスだよ』

 その言葉に、全員何も言えなかった。

『神樹がそいつを人類の敵って言ったのは間違いじゃない。だってバーテックスなんだから。本人は自覚なかったみたいだけど』

「ふざけないで!」

 声を上げたのは風だ。人型のバーテックスをにらみつける。

「丹羽がバーテックス? それってなんの冗談よ! 丹羽は人間でアタシたちの仲間! 勇者部1年の丹羽明吾よ!」

「そ、そうですよ! 丹羽くんはわたしと同級生で、同じクラスの男の子です!」

 必死に言ってくれる犬吠埼姉妹に感謝しながら、丹羽はどんなに自分が大切に想われていたのを知った。

「丹羽が星屑? そんなの嘘に決まってるじゃない。ただの星屑なら、あたしのシゴキについてこれるわけないわよ」

「丹羽君は私たちの仲間で、大切な存在です! あなたみたいな化け物じゃない!」

 夏休みの間に行った夏凛との訓練は確かにきつかったなぁと丹羽は思う。それにしても化け物は言い過ぎじゃないですかと東郷の言葉に少し傷ついた。

「丹羽君は…丹羽君は私たち、いえ、私のことを支えてくれた大切な仲間です。そんなの、信じない!」

「ただのバーテックスがなんであたしの病室に毎日来てくれてストレッチとかのリハビリを手伝ってくれたんだよ。ふざけんな!」

 友奈と銀の言葉に、ありがたくて涙が出る。この2人は本当に自分が人間だと思ってくれているのだ。

 こんなに嬉しいことはない。

「ありがとうございます。みなさん。でも、いいんです。なんとなく俺わかってましたから」

 多分人型のバーテックスは丹羽が何も知らずに操られていたという形で話を進めようとしているのだろう。

 それで園子や勇者たちと信頼関係が崩れては元も子もない。丹羽は自ら自分が人間でないことを確信していたと話す。

「「「丹羽⁉」」」

「にわみん⁉」

「「丹羽君⁉」」

「丹羽くん⁉」

「勇者に変身すると目が紫になるところとか、心臓の音がしなくなるところとか。それと2年以上前の記憶がないところとか。そのっち先輩の話はちょっと無理がありすぎましたしね。バーテックスだったって言われた方がいろいろ納得できます」

「ちがうよ、にわみんはわたしたちの仲間で、神樹様に記憶を消されて」

『そうじゃない、そうじゃないんだそのっち』

 丹羽の主張を否定しようとする園子に、人型のバーテックスは言う。

『2年前、君に話を聞いてもらえなかった俺は考えた。この姿がいけないのだと。もし人間と同じような姿で君たちと信頼関係をちゃんと築けていれば、きっと話を聞いてもらえたのにと』

 その言葉に身に憶えがあったのか、園子は黙り込む。他の面々は黙って話を聞いていた。

『だから、人間そっくりのバーテックスを作り、君たちの元へ送り込んだ。勇者を守り、勇者として君たちと共に戦うバーテックスを。ただ、四国で生活していくうちに自我を持ったのは正直予想外だった。1人の人間として人格を持つなんて、奇跡と言ってもいいだろう』

 人型のバーテックスの言葉に、そうなのかと丹羽は自分の存在が予期せぬイレギュラーだったことをこの時初めて知る。

『あとは君たちの知っての通りだ。そいつは勇者として君たちと共にあり、バーテックスを屠って来た。12体の星座級を倒し、残るのはレオスタークラスターのみ。銀ちゃんの意識も取り戻せたから、そいつはこれ以上そこにいる理由はなくなった』

「えっ、あたし?」

 突如自分の名が告げられて銀は困惑した。

『銀ちゃんは俺が2年間治療している間1度も目を覚まさなかった。まさか神樹に魂を捕らわれているとは思わなかったからね。だから、あの世界から帰ってきて元の肉体に魂が戻った時点で丹羽明吾の役割は終わったんだ』

「にわみんの役割って?」

 園子の言葉に、人型のバーテックスは告げる。

『勇者を誰1人失うことなく戦いを乗り切ること。誰1人満開させることなく散華で身体の一部を神樹に捧げさせないこと。乃木園子と東郷美森の散華の治療をすること。そして三ノ輪銀の魂を神樹の元から取り戻すために交渉すること』

 その言葉に、園子は膝を折り樹海の地面にうずくまった。

 なんてことだ。今まで自分たちが必死にやってきたことは全部このバーテックスの手のひらの上だったということか。

『勘違いしないで欲しい。俺はあくまでも君たちが何1つ失うことなく幸せな結末を迎えてほしいだけ…といっても信じてくれないかもしれないが』

「ううん、信じるよ。だって、あなたはそういう人だから」

 以前交わした言葉を思い出し、園子は気力を振り絞り立ち上がる。

「俺にとって、君たち女の子が笑顔でいられる世界はそれだけで尊いんだ。君たちが笑顔でいてくれることが、俺にとっての得なんだ」

 え、なんだそれは。

 園子が突然発した丹羽が言いそうなことに全員が首をかしげる中、園子は悲しそうに笑う。

「今思うと、にわみんの言うこととそっくりだ。どうして気づかなかったんだろう」

「ちょっと待ってよ乃木! そいつの言うことが本当だって…丹羽がバーテックスだって言うの⁉」

 風の言葉に、園子はうなずいた。それでもまだ信じようとしない勇者部の面々を見て、丹羽は最終手段に出る。

「ごめんなさい、皆さん。俺が自分が人間じゃないって気付いた理由はもう1つあるんです」

 丹羽は自分の手にかみつくと、血が出るほど強く噛み、肉を食いちぎった。

「ほら、変身した状態だと血、赤くないんですよ。こんな色の血を流す人間なんて、いないでしょ?」

 ぽたりぽたりと紫色の血が樹海に落ちていく。その姿に、全員が丹羽を見る。

 その瞳にあるのは異質なものを見る目、あるいは恐怖。

 顔を青くし、我知らず丹羽から逃げるように一歩足を引いた。

 まあ、そういう反応になるよなと丹羽は思う。どうやら最終決戦を一緒に戦うのは無理そうだ。

『丹羽明吾、お前……。少し予想外だったがわかってくれたかな? 丹羽明吾がバーテックスだということが。じゃあ、そちらに迎えをよこそう。結界の外で待っていてくれ』

「だ、そうです。じゃあ皆さん、お別れですね」

「待ってにわみん!」

 結界を抜け壁の外へ行こうとする丹羽の手を取ったのは園子だった。

「行かないで! 一緒にいて! バーテックスでも構わない。にわみんがいい人だって、わたしはわかってる! だから!」

「ごめんなさい、そのっち先輩。どうやら俺は勇者部部員じゃなかったみたいです」

「え?」

 丹羽の視線を追うと、園子は息をのんだ。

 友奈が、東郷が、夏凜が、風が、樹が、銀でさえも武器を構え丹羽をにらみつけていた。

 まるでいつでも戦える準備ができているように。

「みんな……なにしてるの?」

 園子の言葉に誰も反応しない。

「にわみんだよ? みんなを一生懸命助けてくれた、大切な仲間でしょ? なのに、どうしてそんな……身体がバーテックスってだけなのに!」

 その言葉にハッとしたように全員が武器を下ろしたが、もう遅い。

 丹羽は覚悟を決めて勇者部の面々に言う。

「じゃあ、さよならみなさん。お元気で」

「待ってにわみん!」

 1度離した手は、もう1度つかもうとするには遠すぎた。

「にわみん、にわみーん!」

 丹羽が壁の外へ向かうのと同時に樹海化が解けていく。

 園子の叫ぶ声に、壁の外へ出た丹羽は最後まで1度も振り返らなかった。

 

 

 

 神樹の結界から出るとそこには赤一色の世界が広がっていた。

 壁の外。バーテックスが生きる世界。

 そこには四国のような生命が生きられる自然は何もなく、ただ灼熱の大地とマグマが吹き出す海があるだけだ。

 青い空も、瀬戸内の青い海もここにはない。

 丹羽は思う。こここそがバーテックスである自分が本来生きる世界なのだと。

 きっと、勇者部の皆に囲まれた日常が幸せすぎて勘違いしてしまったのだ。自分が人間だと。

 既に再生が終わりわずかに紫色の血痕が残る手を見ながら思う。

 こんな化け物が、彼女たちのいる日常にいてはならない。

 この壁の外こそが、自分の居場所だ。

『すまんな、損な役回りをさせて。もっと円満に勇者部の皆と別れる手段もあっただろうに』

「何言ってんだ。あのまま俺が口を挟まないと、全部自分のせいにしようとしてたくせに」

 照魔鏡に映る人型のバーテックスが肩をすくめる。お見通しかと言うように。

『だって、それが一番いい方法だからな。お前は操られていただけ。そうすればみんな同情してくれるだろ?』

「そんなわけないだろ。さっきの反応見たら…誰だって自分とは異質な存在は怖いよ。ましてやそれが今まで戦ってきた敵だったら」

 先ほど園子以外の勇者部の皆が自分を見つめていた視線を思い出す。

 少なくとも好意的なものは一切なかった。戸惑いこそあったが、敵意に満ちたものだったと思う。

『そうだな。俺たちが真の意味で彼女たちと共にあるのは難しいかもしれない』

「それでいいだろ。いや、そのほうがいい。俺もお前も、もう百合の間に挟まるという事態は避けたいし」

 丹羽の言葉に『違いない』と人型のバーテックスが笑う。その時巨大アタッカ・アルタがこちらに向かって進行してきたのがわかった。

「フェルマータじゃないのか?」

『念には念を入れてな。東郷さんに見られたらまずいだろ。まあ、杞憂だったみたいだが』

 もし巨大フェルマータが迎えに来ていたら、あの時突進してきたバーテックスが人型のバーテックスの仕込みだとバレてしまう。

 それを避けるためにアタッカ・アルタを使いにやったのだが、どうやら巨大フェルマータでも問題なかったようだ。

「そうだな。まあいいさ。急ぐわけでもないし」

『ああ、そうだな。こっちに来たらゆっくり休め。今まで大変だっただろう』

 そうでもないさ、と丹羽は巨大アタッカ・アルタに乗り込みながら言う。

「たしかに結城先輩はやめてって言っても何度も東郷さんの前で名前を呼ぼうとするしグイグイ距離を縮めてきたけど、話してみれば普通の女の子だった。鋼メンタルなのは外側だけのメッキで、中身はきっと誰よりも弱い」

 先ほどまで子供のように泣いていた人一倍神樹様に対する信仰心が強い先輩を思い出して丹羽は言う。

「東郷さんは、友奈ちゃんラブで近づく男は見境なく見敵必滅するのかと思いきやそんなことなくて、優しくて頼れる先輩だった。それとコンプレックスとか1人で抱え込む傾向が原作より緩やかだったな。今回も結城先輩を説得してくれたし」

 二次に毒されすぎてメンタルポンコツのゆうなちゃん大好きっ娘だと思っていた丹羽は苦笑する。

「犬吠埼先輩は、思った以上に世話焼きだった。そりゃナツメさんも惚れるわ。あんなにかいがいしく世話を焼いてくれる料理上手の女の子がいたら、惚れるしかないだろ」

 5か月間ほぼ毎日3食用意して部屋に招いてくれた彼女のことを思う。男相手だとチョロそうとか思っていてすいませんでした、と心の中で詫びる。

「犬吠埼さんは…まさかヘテロだったとは。ゆゆゆいでナツメさんのことキャーキャー言ってたからこっち寄りだと思ってたのに。同じ学年で等身大の彼女を見られたのは貴重な経験だったよ」

 アニメ本編やゆゆゆいでは見せてくれなかった表情を見せてくれた同級生の樹のことを思う。ただのいい娘ではなく、少し謀略を巡らせるあの性格は、丹羽の影響があったかもしれない。

「三好先輩は…うん、なんか本編よりポンコツだった。でも、その後はちゃんと俺の知ってる彼女で、稽古でも情け容赦なく木刀を振り下ろしてきて、結構痛かった」

 初登場の山羊座戦で本編通り1人で倒せなかったのは多分この世界だけだろう。それが人型のバーテックスがこの物語に関わったせいかはわからないが。

 あと、彼女は風と違うベクトルで世話焼きだった。自分はあくまで手助けするだけで、大切なことは本人に決めさせるように誘導する。丹羽がいなければ理想のにぼいつになったに違いない。

「銀ちゃんは…本編通りだったよ。助けられて本当に良かった」

 2年間の昏睡から目覚めた彼女のことが、丹羽と人型のバーテックスにとって最大の懸念事項だった。

 それが解消されたから、もう何の心配もなく最終決戦に臨める。

「あとは…そのっち先輩。ある意味結城先輩よりもグイグイ来たことに驚きだよ。彼女、ゆゆゆいでもどちらかというと傍観者ポジションだったよな?」

『そうだな。何かを計画して糸を引くことはあっても、自分から積極的に物事に関わっていたのは園子メモに関すること以外は特になかったように思う』

「だな。同じ趣味っていう共通点はあったけど、それだけだ。あんな告白まがいなこと言われるなんて俺、そんなことした覚えは」

『ん? 告白まがい? なにそれ聞いてないんだけど』

 うっかり口にした今朝園子に言われた「百合を観察するには同じ趣味の女の子と付き合ってカモフラージュしたほうがいいんじゃないか」という話に人型のバーテックスは食いつく。

 いや、別に告白されたわけではないし、匂わせ程度のものだが丹羽と同じ百合厨の彼からしたら聞き捨てならない案件だったらしい。

『お前…まさか他の勇者部の子たちにもそうやってコナかけてるんじゃないだろうなぁ。それは許されざる行為だぞ』

「してねーよ! というか、してたらお前にバレるだろ! 少なくとも俺は百合の間に挟まるクソ男になるのは御免だ」

 それは偽らざる本心だ。だからこそ、このタイミングで彼女たちの元を離れるのは良かったかもしれないとどこかで安心している自分がいた。

 丹羽は勇者部の皆に関わりすぎていた自覚があった。それこそ園子に言われた通り百合の間に挟まっている状態で。

 そんなの自分が望むものではない。勇者部の皆が百合イチャするためにはあれくらい嫌われて目の前からいなくなった方がいいだろう。

『じゃあな、丹羽明吾。積もる話は帰ってから聞こう。俺は出雲地方のテラフォーミングに戻るよ』

「出雲? もうそんなところまで土地の再生が終わったのか?」

『ああ、これでこの地にいる大量の神霊を解放できると思う。じゃあな』

 言葉共に一瞬遅れて照魔鏡の映像が消える。通信が終了したようだ。

 さて、丹羽の西暦知識から推測するに香川から一番近い岡山でも車なら1時間はかかる。アタッカ・アルタならそれより早く移動できるはずだが少なくとも30分はかかるだろう。

 フェルマータならその半分くらいの時間でついたのだろうが、別に急ぐわけでもない。

 のんびり待とうと丹羽は巨大アタッカアルタの手甲のようにつるっとした背から落ちないように乗り直す。

 目を閉じれば勇者部の皆と過ごしてきた思い出が手に取るように思い出された。

 乙女座との戦い。2度目の戦いで女子力(嘔吐)を樹海にぶちまけた風。風の誕生日のために性癖を曲げて行ったデート。味覚がないのにダメージを受けた樹のスペシャルクッキー。原作と違うポンコツな夏凜に戸惑った山羊座戦。予想外の敵である7つの御霊を持つアクエリアススタークラスター戦。勇者部夏合宿。そして夏祭り。

 どれも輝かしい思い出だ。作り物の自分にはもったいないくらい。

 それに勇者部の皆はモブではなく仲間として自分の名前を呼んでくれた。それが創造主である人型のバーテックスにはない丹羽にとって唯一誇れる部分だった。

「にわみーん!」

 そう。なぜか園子だけはあだなだったが。あと1文字「ご」くらい略さず呼んでほしいと思ったが、それも彼女らしい。

「にわみーん! ねえ、にわみんってば!」

「え?」

 てっきり幻聴だと思っていた園子の声がすぐ後ろから聞こえてきた。振り向くとそこには勇者服の園子が必死に巨大アタッカアルタを追ってきている。

「え、そのっち先輩? なんで」

「行かないでにわみん! 行くならわたしも連れて行って!」

 今まで見たことのない必死な表情の園子に、丹羽は慌ててアタッカアルタに停止するように言う。それから灼熱の大地に降りると急いで園子の元に駆け寄った。

「そのっち先輩。壁の外まで来ちゃったんですか? 四国から? なんで」

「そんなの、にわみんと一緒にいたいからに決まってるでしょ馬鹿!」

 なぜか抱き着かれた。息が荒い。

 恐らく転移された讃州中学の屋上からここまで休みなく走って来たのだろう。何が彼女をそこまでさせたのかと丹羽は困惑する。

「言ったじゃない! 四国の人がみんな敵になってもわたしはあなたの味方だって! それなのに、なんでにわみんは」

「ちょ、ちょっと待ってください。俺はバーテックスなんですよ。そのっち先輩やみんなの敵の。それなのに」

「関係ない! だって、あなたはにわみんでしょ! わたしの散華を治してくれて、ミノさんやわっしーを助けてくれた。それ以上何か理由が必要?」

 真剣な顔で言う園子に、丹羽はすぐに言葉を返せない。ただ園子が息を整える荒い呼吸が壁の外の世界に響いていた。

「わたしにとって、にわみんは特別な人。たとえ身体がバーテックスでも、心はにわみんのままのはず。人間でもバーテックスより悪い奴らはいっぱいいるんだから、それに比べたらにわみんの方がよっぽどいい人だよ」

 それは幼いころから同年代の子供より大人に多く囲まれてきて、大赦に現人神として祀られていた彼女だから言えることだろう。

 乃木園子という少女の境遇を思い出し、丹羽は返すべき言葉を返せない。なにより園子の言葉が嬉しくて仕方ないからだ。

「わたしは、2年前親友を2人失った。1人は自業自得だけど、2人とも取り戻せた。それはにわみんのおかげ。感謝してもしきれない」

 息を整えた園子は、ぎゅっと丹羽の両手をつかみ言う。

「だから、わたしにとってにわみんは大切。恩人で同じものが好きな同志で、ソウルメイトで特別な人。いなくなってほしくない人なんだ」

「そのっち先輩」

「ちょっと! 2人の世界を作ってるんじゃないわよ!」

「そうです。そう思ってるのは園子さんだけじゃないんですから」

 声に顔を向ければ、そこには夏凛と樹がいた。2人とも追ってきてくれたのだろうか。

「ごめん、丹羽。あんたがバーテックスだってわかったとき、正直騙されたと思った。あんただってつらかったはずなのに」

「ごめん丹羽くん。わたし、あんなに近くにいたのに丹羽君が悩んでいたのに気付かなかった。いつも自分のことばかりで、甘やかしてくれる丹羽君に頼りきりで」

 2人の言葉に丹羽は目を白黒させる。

 いや、バーテックスだってことは自分は最初からわかってたし、悩んでいなかったんですよと今言うのは間違いなく違うだろうなぁと思いながら。

「あんたがいないと、あたしは誰と稽古すればいいのよ。あたしは強くなりたい、完成型勇者として誰よりも、だから…」

「丹羽くんがいないとわたし、お姉ちゃんのご飯食べすぎて太っちゃうよ。女の子のグループの誘いもまだうまく断れないし、このままだと男の子のグループとの遊びに連れていかれちゃう。だから」

「「帰って来なさい(来て)丹羽(くん)」」

「三好先輩、犬吠埼さん」

 自分に向かって手を伸ばす2人に、丹羽は戸惑う。

「「ちょっと待ったー!」」

「おおっと! ここでふーみん先輩とミノさんのちょっと待ったコールだー!」

 夏凜と樹に続きやって来た風と銀を某番組の司会者のように紹介する園子。あれ、君って神歴生まれだよね? と丹羽は思わず思う。

「丹羽、行かないで! アンタがバーテックスでも関係ない! アンタはアタシたちと同じ勇者部部員。部員に向けて武器を向けるなんて、アタシどうかしてた!」

「考えてみりゃあたしを治してくれた人型だってバーテックスだしな。お前がバーテックスでもあたしは別に関係なかったわ」

 思いつめたように言う風とは対照的にあっけらかんと銀は言う。それがおかしくて、つい丹羽は笑ってしまう。

「な、なに笑ってるのよ! 言っておくけど、もうアンタとナツメの分を含めて4人分作るの癖になっちゃったんだから、責任取って毎日食べに来なさいよね!」

「あたしはお前に受けた恩を全然返せてない。だから、ここでお別れなんて寂しいこと言うなよ」

 だから、と2人は丹羽に向けて手を伸ばす。

「「帰って来て(来い)、丹羽!」」

「犬吠埼先輩、三ノ輪先輩」

「丹羽君、ごめんなさい。私も夏凛ちゃんが言うように疑ってしまったの。あなたが私たちを騙してたんじゃないかって。そんなはずないのに」

 今度は東郷が友奈にお姫様抱っこされて登場した。東郷の言葉に友奈も続く。

 その姿に思わず「あら^~」と尊いフェイスをしていたら無言で園子に腹パンされてしまった。どうやらそういう状況ではないらしい。

「うん、私もやっぱり神樹様は正しかったんだって思っちゃった。東郷さんや亜耶ちゃんって人にしたことは変わらないのに。それを助けてくれた丹羽君をひどい人だって決めつけて倒そうと思っちゃった」

「それは、仕方ないですよ。俺は人類の敵でバーテックスなんですから」

「「仕方なくなんかない!」」

 2人重なった強い否定の言葉に、丹羽は驚く。

「私、知ってるもの。丹羽君は優しくて、それをみんなに気づかせないように気遣いができる子。私の命を助けて、心も救ってくれた大切な存在なのに、少しでも疑った自分が許せない」

「また同じ間違いを犯すところだった。自分で選んで、自分で決めなくちゃいけないのに。丹羽君の今までしてくれたことで、私は君が敵じゃないって知ってるはずなのに」

 言葉と同時に2人は丹羽に向かって手を差し出す。おずおずと、だが丹羽がしっかりとつかんでくれるように。

「許してくれとは言えない。でも、もしこの手を取ってくれるなら、私に挽回の機会を与えて。今度こそあなたを手放したりしない」

「丹羽君は私、ううん。勇者部の皆にとって大切な仲間。それは私が決めたこと。神樹様やみんなが言うからじゃなくて、私がそう思うんだ。だから、もう1度私を信じてください」

 差し出された6つの手。そのどれもが丹羽が仲間であり、四国へ帰ってくれるように願っている。

 その事実に丹羽の胸に熱いものがこみ上げてきた。

「皆さん…でも、俺。バーテックスだから。人類の敵は、みんなと一緒にいちゃいけないから」

「まだそんなこと言ってるのにわみん」

 顔を伏せようとする丹羽の顔を無理やり上げさせ、真剣な顔をした園子が言う。

「この中に、あなたのことをそんな風に思っている人は1人もいない。みんな、あなたの味方。たとえ四国中の人がみんなあなたの敵でも、わたしは…ううん。わたしたち7人は君を最後まで守ってみせる」

 園子の言葉に勇者部全員が力強くうなずく。

 その光景を見ておずおずと、ゆっくりと丹羽が手を伸ばす。それを6つの手がしっかりと握った。

「「「「「「お帰り、丹羽(君)」」」」」」

 満面の笑みを浮かべる6人に、はにかんだように丹羽は言った。

 ただいま。これからもどうぞよろしくお願いしますと。




 瀬戸大橋って名前のせいで香川から一番近いのは岡山じゃなくて広島だと思っていた件。
 実際地図を広げてみると断然岡山の方が近い。しかも瀬戸大橋って岡山の倉敷市と香川県の坂出市をつないでたのね。
 瀬戸って名前から広島だと思っていた人型さん。実際テラフォーミングしていたのは岡山でした。
 このように前世知識でも思い込みにより多少ズレが生じます。怖いね、思い込みって。

丹羽「なんであそこで俺がバーテックスってバラすかなぁ。黙ってりゃバレないのに」
(+皿+)「詰むぞ」
丹羽「え?」
(+皿+)「下手に隠し事したままだと、そのっちに槍で刺されたりして詰むぞ。俺の経験上」
丹羽「はは、まさか」
(+皿+)「お前、俺の記憶を持ってるならわかるだろ。そのっちはヤる。必要なら情け容赦なくヤる」
丹羽「……せやな(トラウマ発動)」

 ちなみに本当にバラさずに神樹様に会うと詰みます。
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