詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
丹羽君、バーテックスだとバレる。というか本体にバラされる。
【あのシーンの真実編】
丹羽、バーテックスであると勇者たちに証明するために自分の手を噛み切る。
友奈(え、何してるの丹羽君。うわぁ、すっごい痛そう!)
東郷(丹羽君てば何を…いやぁあああ! 血が! 血が出てる!)
風(丹羽、アンタ何を…うわっ、グロっ! 傷の断面図見せないで!)
樹(丹羽くん、一体何して…ふぅ(気絶))
夏凜(え、丹羽あいつなにやってんの? うわっ、食いちぎった⁉ なんで得意げな顔してんのあんた!)
銀(丹羽、あいつ何を…うわ、あたしグロいの苦手なんだよ! 見ないでおこう)
園子(にわみん、いったそー。自分をいじめるの好きな子なのかなぁ。今度首輪とかプレゼントしてあげよ)
(+皿+)「丹羽明吾、お前……(ドン引き)」
結論。みんな丹羽君がバーテックスなのを怖がったわけではなく行動にドン引きしただけ。
大赦は大混乱に陥っていた。
理由は巫女たちが相次いで高熱で倒れたせいだ。原因不明で大赦お抱えの医師たちも原因を特定できず匙を投げるほどの症状だった。
無論、大赦の最高責任者はおおよその見当はついていた。だがそれを認めることは自分の失敗を認めざるを得ないことになってしまう。
「まさか、神樹様がこの事態を引き起こしているというのですか」
自分たちが信仰している神がまさかこの事態を引き起こしているなど、あり得るわけがない。
なにしろ神樹様と言えば四国にいる人間はもちろん大赦に務めている人間ならだれでも知っている信仰の対象である。
自分たちが信仰している存在が自分たちに害をなす行為をするなど、あってはならないからだ。
だがそうとしか考えられない。勇者である東郷美森も同じような症状にかかったが、あれは人類の仇敵、丹羽明吾の仕業のはずだ。
「ひょっとして我々は勘違いしていたのか?」
東郷美森は丹羽明吾のことを憶えていたことから人類の仇敵に洗脳されていたのだと大赦は推測を立てた。
それが根本から間違えていたのだとしたら?
東郷美森は神樹様になんらかの罰を与えられて今の巫女のように高熱に犯されているのだとしたらどうだろう。
そうすればこの状況も腑に落ちる。
「いや、まさかそんな」
だが同時にありえないと首を振った。
まさか自分の勇者の病状が快方に向かうように祈祷しただけで、神樹様が巫女を罰するなどありえるはずがない。
それとも神樹様は巫女が祈り、自分に意見するのすらおこがましいとお怒りになられたのだろうか?
「そんなことがあり得るのか?」
呟いても巫女たちの病状が快方に向かうわけではない。ただでさえ今日バーテックスが襲来するとされているのに、巫女が使い物にならないのは大問題だ。
「っ、樹海化が確認されました!」
大赦職員の報告に、会議室にいた大赦仮面たちはうろたえた。
「結城友奈様1人で守れるのか、この四国と神樹様を?」
「しかし勇者様しかバーテックスと戦えない。我らは座して見ているより他はないだろう」
「くっ、何もできないこの身が口惜しい。何か我らも勇者様をお支えすることはできないのか!」
「祈ろう。結城様の無事を。我らの願いが神樹様に届くと信じて」
原作勢からしたら「え、何このきれいな大赦?」と困惑することだろう。これも丹羽の大赦OTONA化計画の成果だ。
今の大赦には勇者を道具扱いする人間も、自分たちが生き残るために必要な駒と考えるものは1人もいない。
ただ純粋に勇者の身を心配し、真摯に無事を祈る大人たちしかいないのだ。
まあ、無能というか、いろいろとガバガバなのは原作通りだが。
時間にして約30分。樹海化が解けたことで大赦仮面たちは安心した。
よかった。結城友奈はバーテックスに勝ち、四国は守られたのだと。
「急いで讃州中学に救護車の準備を。メンタルケアの医師の準備も急げ!」
「勇者である結城様の安全確認が第一だ。まずは何をおいてもそれを最優先に」
てきぱきと指示を出す大赦の権力者たちの声を受け、忙しく大赦仮面が会議室から出ていく。
これで当面の危機は去った。それにしても勇者1人でバーテックスを追い返すとは、四国一の勇者適性というのは伊達ではないらしい。
「報告! 遠視の能力を持つ巫女によれば結城様の他に乃木園子様、三ノ輪銀様、東郷美森様、犬吠埼風様、樹様、三好夏凛の6人とその…丹羽明吾も先の襲撃に対し結城様と共に戦い、バーテックスを撃退したそうです」
巫女を統括する部署の長の言葉に、会議室はざわめく。
「それは本当ですか? 結城様が他の勇者様方…丹羽明吾に洗脳された勇者様たちと敵対したのではなく?」
「はい。複数の巫女が同じ光景を遠視したそうです」
大赦の巫女の中には神託を受ける以外にも能力を持つ巫女が少なからずいる。
それが遠見、遠視と呼ばれる特殊能力だ。古来から失せ物を探したり、遠くにいる人物を見つけたりという手段で使われるものである。
今回はそれで樹海の戦闘の様子を見ていたらしい。熱に浮かされる中、よくやってくれたと思う。
「報告! 勇者様のスマホのGPSによるとその情報は正しいようです。いま画像を映し出します」
言葉と共に会議室のモニターに勇者たちの名前がついたアイコンと地図が表示される。これは樹海で樹の使っていた者と同じで、その記録を大赦仮面たちは見ているのだ。
「これは…バーテックスに囲まれていた結城様を他の勇者たちが助けた?」
「しかも大型バーテックスの双子座は三ノ輪銀様、乃木園子様、犬吠埼風様、三好夏凛によって倒されています。御霊の破壊には犬吠埼樹様と丹羽明吾が協力しているように思われますね」
冷静な分析にさらに会議室にざわめきが起こる。
どういうことだ? 丹羽明吾とその近くにいた6人の勇者たちは我々の敵ではなかったのかと。
なぜバーテックスと共に神樹様を倒すのではなく、むしろ逆にバーテックスを倒し我々を守ってくれたのだろうかとみんな首をかしげる。
「どうやら、我々は間違っていたのかもしれません」
大赦の最高責任者は重々しく言う。
前言を翻し己の失敗を認めるということは簡単なようで難しい。ましてやそれが大きな組織のトップならなおさらだ。
「神樹様の神託の解釈を、我々は誤ったようです。丹羽明吾様は我々を守って下さった。少なくとも人類の仇敵というのは誤りでした。みなさん、すみません」
頭を下げる大赦の最高責任者に、大赦仮面たちはうろたえる。そんなこと、大赦の長い歴史の中でも恐らく初めてだからだ。
「そ、そんな。お顔を上げてください。それならば巫女の神託を纏めるわたくしの落ち度です」
「いえ、我々がもっと吟味し、分析したうえで神託を伝えるべきでした」
「いや、最終的に神託としてそれを皆に伝えよと命じたのはわたくしです。責任はとります。その上で、正しい神託の解釈を改めて始めましょう」
原作の園子と風が見たら「え、なにこいつら」とドン引きしていたであろうまともな発言だ。お前大赦仮面をかぶった偽者だろうと詰め寄ったかもしれない。
こうして改めて巫女を通じて告げられた神託をああでもないこうでもないと意見を言い合っていると時間はあっという間に過ぎていく。
気が付けば夜が明け、日をまたいでいた。
「うーむ。人類の仇敵としたのは確かに誤りだったかもしれない。神樹様は一言もそのようなことをおっしゃっていなかったのだから」
「だが早々に打ち滅ぼすべしと告げておられるぞ。それに大赦と人類を偽っていると」
「そのことですが…神樹様は本当に我々の味方なのでしょうか?」
大赦の最高責任者の放った言葉に、会議室にいた大赦仮面全員がぎょっとしたような顔をする。仮面をしているのでわかりにくいが。
「今回の巫女の高熱騒動と言い、何かおかしい。もしあれが三ノ輪銀様が快方に向かうよう祈ったせいなのだとしたら…」
「そんな、お言葉を慎みください! あなたがそんなことを言えば、大赦という組織は成り立ちません」
「わかっています。しかし、相手は神。我々の理解の及ばぬことが原因なのかもしれません。これは事と次第によっては神樹様との関わりを考え直すべきなのかもしれません」
「ほ、報告いたします!」
大赦の存在を揺るがしかねない大赦の最高責任者の言葉に揺れる会議室に、大赦仮面の言葉が響く。
「丹羽明吾と勇者の乃木園子様、東郷美森様が病室を訪れ巫女たちの高熱を次々と治しています。それと治療が終わった後、大赦の最高責任者様とお会いしたいということです」
その言葉にさらにうろたえる大赦仮面たちの中で、ただ1人最高責任者だけは「そうですか」と冷静に返事をしたのだった。
丹羽がバーテックスであったことも受け入れ、一致団結した讃州通学勇者部。
それでは壁の外から四国へ帰ろうかと全員が思う中、園子だけは違うことを考えていた。
「よーし、じゃあわたしたちは人型さんのところにこのまま行ってくるんよー。みんな、四国のことはお願いねー」
「「「「「「「いや、ちょっと待て」」」」」」
丹羽の手を引き巨大アタッカ・アルタに2人そろって乗り込もうとしている園子の肩をつかみ、銀と東郷がみんなを代表して言う。
「何考えてるんだよ園子。今までの話聞いてたのか?」
「そうよ。丹羽君は私たちと一緒に四国へ帰るのよ。なのになんでそっちに行こうとするの?」
2人の言葉に友奈、風、樹、夏凜もうなずいている。
「んーっとね。1つは神樹様に対抗する手段を得るため。わたしたちではどうやっても神樹様を傷つけられないから、神樹様がにわみんを直接傷つけようとしたときどうしようもないの。だからバーテックスである人型さんの力を借りようと思って」
その言葉になるほど、と東郷と夏凜はうなずく。他の面々はまだ納得しかねているようだが。
「2つ目はにわみんが本当に安全に過ごせる場所か確認するため。3つ目は人型さんがテラフォーミングした大地を直接見てみたいから。これは内容次第では大赦との交渉カードにもなるんよー」
「大赦と交渉? まさか乃木、あんた大赦と話し合うつもり? アタシたちを騙してた連中と」
風の剣呑な視線を受け止めても園子は風に揺れる柳のように受け流しうなずく。
「うん。四国に戻るっていうのはそういうことだから。少なくともにわみんの安全が確保されるまで、わたしは人型さんのところにいるのもやむなしと思ってる。もちろん、みんなと一緒にいられるのが1番だけど」
園子の言葉に6人は改めて現実を突きつけられたような気持だった。
丹羽を四国に連れ戻すということは、神樹様や大赦から丹羽を守り続けなければならない。
まだ中学生の自分たちには対抗する手段が少なすぎる。両親を頼っても多分大赦には逆らえないだろうし、すぐに追い詰められてしまうだろう。
「じゃあ、本当に丹羽くんとはここでお別れなんですか?」
泣きそうな顔をする樹に丹羽の心は痛んだ。だが、状況的には自分が人型のバーテックスの元にいるのが1番いいことはどうあがいても変わらない。
「いっつん早まらないで。そのために、わたしが人型さんのところに行って大赦と交渉するんだから」
その言葉にどういうことだと全員の視線が集まる。
「大赦が神樹様を信仰しているのは、宗教的シンボルというだけじゃなくて四国に恵みを与えてくれているっていうのもあるんだ。もしそれと同等、あるいはそれ以上の恵みを与えてくれる新しい神様がいたらどうなると思う?」
その言葉にまさか…と丹羽は冷や汗が出る。
この子とんでもないこと考えてるんじゃないか?
「人型さんには神様になってもらおうと思ってるんよー。四国の外の土地を救済していく神樹様に代わる神。人型さんのことを知ってるのは大赦でも数えるほどしかいないから、消す数は最小限で済むし。それと末端の人を巻き込めば結構いけると思うんだー。最悪、人型さんに神樹様を倒してもらって、四国にいる人々をテラフォーミングした新天地に移住なんてプランも」
「いやいやそのっち先輩。いやいや」
園子の途方もない計画に丹羽は思わず手を振る。さらっと消すとか言ってるのが怖い。
「なに人類の敵ムーブかまそうとしてるんですか! そんなことしたら乃木家は四国を滅ぼそうとした最悪の勇者として弥勒家以上に没落しますよ!」
「あははは、にわみん。歴史ってのは勝者が常に作るもんなんだぜー。それに失敗した時は家族と一緒ににわみんと一緒に壁の外で暮らすのもいいかなーって。大丈夫! わたしサンチョがあればどこでも眠れるんよー」
「いや、そういうことじゃなくてですね」
どう言って説得するべきか迷っている丹羽に、この場にいる勇者部6人は思った。
あれ、これどっちに転んでも丹羽が園子と離れられないように仕組まれてない? と。
「そのっち、私もついていくわ。2人だけじゃ不安だもの」
「あたしも! 人型さんには直接お礼も言いたいしな」
危機感を抱いた6人のうち、園子と一緒にいた時間が長かった東郷と銀がまず行動した。他の4人は少し出遅れる。
「わ、私も! 丹羽君とはもう離れない。ついていくよ!]
「アタシも部長として一緒に行くわ。部員を守るのは部長の役目だもの」
「お姉ちゃんが行くならわたしだって! 丹羽くんはわたしたちにとってもう大切な家族ですから」
「まったく、完成型勇者のアタシを置いて行くなんてありえないでしょ。仕方ないからついて行ってあげるわよ」
「うーん。みんな来るの? それは難しいかなー?」
だがそれに園子は困ったような顔をする。それに園子に近づき、こっそりと丹羽には聞こえないように低い声で東郷が問い正す。
「そのっち、まさか1人だけ抜け駆けするつもり? いくらそのっちでもそんなことは許されないわよ」
「そうじゃなくてねー。8人も乗れると思う? アレに」
園子はそう言って巨大アタッカ・アルタを指差す。
確かに園子の言う通り、中学生とはいえ人間8人が乗るには1体だけだと小さすぎる。せいぜい乗れて4人ほどだろう。
「それに、わたしたちがいない間四国の守りはどうするの? 人型さんの協力が取り付けられても帰って来た時には四国はありませんでしたじゃお話にならないんよー」
確かにいちいちもっともだ。
だが、気に入らない。話の流れ上園子と丹羽が人型の元へ行くのが確定しているのが。
残る2枠はお前たちでせいぜい争い奪い合えということだろうか? 勇者部6人の間で見えない攻防が繰り広げられる。
「夏凛は、大赦の勇者だから居残り組ね」
「あ、ズルっ! そういう風は部長なんだから、もちろん四国に戻って待機よね?」
口火を切ったのは風だった。それに対し指名された夏凜も負けずと言い返す。
「あ、アタシは部長として丹羽の保護者に挨拶を」
「保護者…まあ、産みの親っていう意味ではそうだけど。皆さんと違ってわたしたち姉妹は保護者はもう他界していませんししばらく家に帰らなくても心配する人はいません。皆さんは違うでしょ?」
「重いよ樹ちゃん! でも今回私1人で戦って分かったけど、樹ちゃんと東郷さんがいるのといないのじゃ戦闘の難易度がぐっと変わるよ。少なくとも2人のうち1人は残ってほしいかな」
両親が他界したことすらアドバンテージとする樹に面食らいながら友奈は今回の戦いで感じたことを告げる。
「となると、須美は留守番か。じゃあ、あたしと園子で丹羽は守ってやるから安心してくれ」
「ちょっと待ちなさい銀。なぜ私がお留守番確定してるのかしら? 私は丹羽君と離れないわよ絶対に」
笑顔の銀に黒いオーラを出しながら東郷がすごむ。
あーもう無茶苦茶だよ。
収拾がつかなくなってる勇者部の面々に、どうするんですかと丹羽は視線で園子に問いかける。
「もうジャンケンして勝った2人がついてくるってことでいいんじゃないかな?」
お前はどの立場からモノを言ってるんだよ。
と勇者部の6人は思ったが園子がいないと交渉できる人間がいないのは確かだ。
ジャンケンの結果丹羽と園子、東郷、銀のわすゆ組3人が人型のバーテックスの元へ行き、他のメンバーは四国でお留守番することになったのだった。
人型のバーテックスがテラフォーミングした新天地にたどり着いた3人は、あまりの光景に唖然としていた。
「これ、本当に壁の外なの? 空は赤いけど、それ以外は四国と全然変わらないじゃない」
東郷が漏らした感想に、銀と園子もうなずく。
「海もすげー広いし、ひょっとするとゴミがないぶん四国よりきれいなんじゃないか?」
「でも生き物いないねー。さっき堤防のところにフナムシがいたけど、多分あれバーテックスだよ。自然は多いけど、生命はまだ作れてないって感じなのかな?」
園子の観察眼に丹羽はさすがだなと思う。目の付け所が常人と違うのは天才ゆえか。
その時丹羽の胸から精霊の照魔鏡が出現し、鏡のような体躯に人型のバーテックスの姿が映る。
『やあ、そのっち。東郷さん。銀ちゃん。それと丹羽明吾。いらっしゃい、そこからはそこにいるフェルマータ・アルタに乗ってきてくれ』
「え、わたしたちが来るのわかってたのー?」
「全部お見通しってことか」
「えっ、ちょっと待って。丹羽君、このバーテックスって」
東郷の驚く声に丹羽が視線を追うと、そこにいたのは巨大フェルマータ・アルタ。何に驚いているんだろうと考えて、思い至る。
(やばい、東郷先輩はここに連れてくるべきじゃなかった)
フェルマータ・アルタは乙女座戦で東郷に突進してきたのを丹羽がかばう形で助けたきっかけでもあるゆゆゆいバーテックスだ。それがここにいるということは、それが人型のバーテックスの仕込みだとバレかねない。
自分らしくない凡ミスに思わずあちゃーと脳内でやらかしを反省した。これ、どうするつもりなんだろうと丹羽は照魔鏡に映る人型のバーテックスを見る。
『ああ、東郷さんと丹羽明吾はそいつを見たことがあったな。そいつはフェルマータ・アルタ。双子座のように突破力があるスピード特化のバーテックスだ』
「じゃあ、丹羽君を私にかばわせたのは、あなたの差し金だったんですか?」
え、正直に言うの? という丹羽の視線を受けて人型のバーテックスは冷静に告げた。
実は冷静に見えるのは外見だけで、本心では「やっちまったー!」とゴロゴロ転がっていたりする。こういう時、表情のないこの身体が役に立つとは夢に思わなかったが。
『言っただろう。人間に近いバーテックスを作ったと。そのために丹羽明吾には無意識で勇者…特に君たち3人を守るようにプログラムしておいた。だからあの場面で君を助けて変身するのは織り込み済みだった』
「じゃあ、あたしや園子に親切にしてくれたのもそのプログラムのせいだっていうのか?」
銀の疑問に、人型のバーテックスは首を振る。
『たしかにそういう面があったのは事実だ。だが、そのっちと出会った時にはもうそいつは自我を獲得していた。勇者部にいる皆のおかげでね。それはとっても奇跡的なことで、尊い事なんだ。ありがとう、丹羽明吾を…俺の弟分に人間としてちゃんと向き合ってくれて』
その言葉に東郷の胸には複雑な気持ちが渦巻く。
丹羽が自分の命を助けてくれたのは、このバーテックスの計略だった。だが、その後の行動は自分たちが彼と関わったことで得た自我による自発的な行動。
どこまでが創造主である人型のバーテックスによるものだったのか、測り兼ねたからだ。
「わっしー。ひょっとして後悔してる? にわみんを助けるって決めたこと。だったら」
「違うわそのっち。そんなことありえない! ただ、丹羽君はいつから丹羽君だったのかしらって」
「えっと、俺としては最初から俺は俺としか…。確かにその人型の言うことも本当かもしれないけど、あの時東郷先輩を守らなくちゃって行動したのは間違いなく俺の意思だって言い切れます」
力強く言う丹羽に、そうねと東郷は改めてうなずく。
そうだ、自分は彼を信じると決めたのだ。何を小さなことで迷っていたのだろう。
たとえ無意識化に命令されていたのだとしても、行動を決めたのは丹羽自身。あの時自分を救ってくれた言葉を言ってくれたのも丹羽だ。
だから、東郷美森はどんなことがあっても彼のそばにいると誓ったのだ。
4人は人型のバーテックスの指示通り巨大フェルマータ・アルタに乗りあっという間に人型のバーテックスが待つ集落のような場所へとたどり着いた。
「すっごーい。アタッカ・アルタよりずっと早いんよー」
「そのっち先輩。それ人によってはトラウマな台詞だからやめてあげて」
『ようこそ勇者諸君。俺がそこにいる丹羽明吾の創造主にしてこの地域をテラフォーミングしてきたバーテックスだ。名前は特にない』
フェルマータ・アルタから降りた4人は出迎えた人型のバーテックスに、頭を下げる。
「は、初めまして。東郷美森と申します。丹羽君には常日頃から大変お世話になっております」
『いえいえこちらこそ。勇者部の皆さんにはいつもよくしてもらっているみたいで』
いったいどこの保護者のやり取りだという東郷と人型のあいさつに続き、銀が頭を下げた。
「こうして直接会うのは初めまして、だな。あたし、三ノ輪銀って言います。その、2年間もあたしの治療をしてくれた上に他のバーテックスから守ってくれたって園子に聞きました。本当に、本当にありがとうございます」
『いえいえ。どこか痛いとこない? 傷と火傷は全部治したけど、不調があったらすぐ言ってね。ヒーリングウォーターですぐ治すから』
火傷、という言葉にそういえばと銀は思い至る。
目が覚めた時、身体には獅子座の火球で受けた火傷跡がどこにもなかった。戦っていた時は必死で気付かなかったが、今思うとあれは一生残るほどの重度の火傷だったように思う。
それを目の前の人外の存在が治してくれたとわかり、これはもう足を向けられないほどの感謝の対象なのだと改めて気づかされる。
「こんにちはー、人型さん。それじゃあさっそくお話があるんだけどいいかなー」
『うん。そのっち。話して話してー』
ノリ軽っ! と思いながら3人は園子と人型のバーテックスの話を聞いていた。
神樹を倒す力を貸してほしいこと。いざというときはこの新天地に四国の人々を移住させてほしいこと。四国の外にいた新しい神様になってほしいこと。
話を聞き終えた人型のバーテックスは「ふむ」と考えるようなそぶりをした後、自分の意見を告げる。
『まず、新天地に四国の人々を移住させてほしいというお願いはむしろこちらからお願いしたいと思っていたところだ。喜んで引き受けよう。必要ならこの土地で取れた野菜や穀物を四国に持って行ってくれても構わない。四国では神樹の恵みによる作物の収穫量が年々減ってきているんだろう?』
その言葉に園子は内心で冷や汗をかく。
この人、油断できない。どこまで自分たちのことを知っているのだろうと底知れなさを感じたからだ。
『で、残りの2つはお断りだ。理由はいくつかある。まず1つは四国は残したままでいたいという俺のわがまま。だって生まれ故郷がなくなるなんて、悲しいだろ? それとそのっちが手を汚してほしくないっていうのもある。君たち子供がそんなつらい思いをするなんて、あってはならないことだ」
「で、本音は?」
『神様なんて面倒なことやってられっか! 俺はここで百合イチャを眺めながら余生を過ごしたい』
丹羽の絶妙な本音の促しに、つい人型のバーテックスは答えてしまう。それに3人は白い目を向けた。
『…っとまあ、否定してばっかりもアレだから俺が代替案を出そう。まず神樹の説得は俺に任せてくれ。少なくとも丹羽明吾が人類の敵として四国で追われることはなくなると思う。ただ、その後のことは君たち次第だ。1度人類の敵と認定されたそいつを、君たちは守り切れるか?』
「「「守れます! 守ってみせます!」」」
園子、東郷、銀の必死な言葉に満足げに人型のバーテックスはうなずく。いい仲間を持ったなと。
『そして2つ目。神様ならそれにふさわしい奴らがそのうちたくさん出てくるからそいつらに任せた方がいいんじゃないかな』
「それって一体?」
人型のバーテックスの言葉に東郷が問いかける。
『うん。今出雲のテラフォーミングの最中なんだ。出雲ってわかる? 年に1度日本中の神様が集まってくるようなすごい場所なんだよ。で、その結果結構な数の神霊を解放できた。今居るだけでも、ほら、これくらい』
言葉と同時に数えきれないほどの自分たちの持っている精霊のようなものが人型のバーテックスと園子、東郷、銀、丹羽の周囲に現れた。そのすべてかつて神として信仰された存在。神霊だそうだ。
「これ、全部…? すごい」
「その昔、我が国には
「やおよろずって…え、800万⁉ 須美、お前桁間違えてないか? こんだけ神様や精霊がいるのに、まだほんの一部だって言うのかよ⁉」
『うん。東郷さんの言うことは間違いじゃない。これでもほんの一部。これから日本各地のテラフォーミングをしていくから、まだまだ増えていくよ』
人型のバーテックスの言葉に、「マジかよ…」と銀は言葉を失っている。
神世紀生まれで神樹様の一神教だった銀にはカルチャーショックだったらしい。
『で、精霊はそれ以上の数がいる。それは俺が作ったものであったり自然発生したものであったり元神様だったけど妖怪として畏怖されたものであったりといろいろだね。そいつらがテラフォーミングの手伝いをしてくれたり、作物がより多く実るようにしてくれてる』
「精霊、精霊か。ねえ、人型さん。物は相談なんだけど」
精霊がたくさんいるということに何か思いついたらしい。園子が内緒話をするように人型のバーテックスと話している。
『それくらいなら構わないけど。まあ、できるかどうかはやってみないとわからないが』
「うんうん。じゃあ、お願いねー」
「そのっち、一体何を頼んだの?」
問いかける東郷に「秘密ー!」と悪い事を思いついた子供のように園子が言う。絶対ろくなことじゃないな、と東郷と銀は思った。
『で、それはそれとしてお前のことだ。丹羽明吾』
ようやく自分の話になったらしい。完全に空気となっていた丹羽はそこらへんに生えていたガマの穂をむしる遊びをやめて改めて向き直る。
「おう、なんだ創造主!」
『創造主ってお前…いや、そうなんだけどな。まずはお前の身体のチェックをさせてくれ。それと精霊のチェックもな。セッカちゃんが大怪我したんだろ。見せてみろ。俺なら治せるから』
その言葉と同時に丹羽と園子、東郷、銀の中から人型の精霊が出てくる。ナツメは今四国にいる亜耶の中にいるので、ここにはいない。
『ふむ。セッカちゃんの他にも消耗している精霊がいくつかいるな。じゃあ、丹羽明吾。お前は俺についてこい』
「ちょっと待て。それだとそのっち先輩と東郷先輩の散華の治療が」
2人の中から精霊がいなくなったことで散華の治療ができなくなることを懸念した丹羽がそう言うと、おお、そうだったと人型のバーテックスは手を打った。
『じゃあ、2人には代わりにこの精霊を。シズカさん、ミロクさん。入ってあげて』
言葉と共に現れた2体の精霊がセッカとミトの代わりに東郷と園子の中に入っていく。これで問題はないだろう。
『3人は検査している間暇だろうからこの娘たちにテラフォーミングしている地域を案内させよう。観光でもしていてくれ』
人型のバーテックスがそう言うと、
1人はスレンダーな元気いっぱいな少女。もう1人はしっかり者そうで東郷とほぼ互角なお山を持つ少女だった。
「はっじめましてー! 次期副村長候補の
「いえ、わたくしこそが真の次期副村長候補の
2人とも目が紫で髪が白髪ということは丹羽と同じ人間型のバーテックスなのだろうかと園子は思う。
「初めまして。あたしは三ノ輪銀。櫻子っていうのか、よろしく」
「はーい。よろしくー銀ちゃん」
「東郷美森よ。古谷さん。なぜかあなたは他人のような気がしないわ。よろしく」
「わたくしもですわ東郷さん。こちらこそよろしくおねがいしますわ」
銀と東郷はそんなことを気にしていないようだ。自分が気にしすぎているのだなと園子は首を振った。
しかしこうして見ても本当に人間そっくりだ。とてもバーテックスだとは信じられない。
「櫻子、お客様に気安いですわよ。ちゃんと礼儀には気をつけなさい。あなたの失態は大村長の失態に繋がるのですから」
「えー。いいじゃんベつにー。向日葵は頭かったいなー。胸は柔らかいのに…」
とそこで櫻子という少女が固まった。何事かと思ってみていると、向日葵と呼ばれた少女の胸を見ている。
確かにでかい。東郷と同じくらいあるのではないか。
「おっぱい禁止ーっ!」
ええーっ⁉
急に親の仇のように向日葵の双丘を力いっぱい手で叩いた櫻子に園子、東郷、銀は驚く。この子何してんのと。
「キャッ⁉ なにをしますの櫻子⁉」
「うっさい! 胸がでかいからって態度までデカイこのスイカ女! この人たちはあたしが楽しいところへ連れてくから、あんたは来なくていいよーだ。べーっ!」
アッカンベーと舌を出す櫻子は銀の手を引っ張っていこうとする。それにやれやれといったように向日葵が東郷の手を取り言う。
「すみません。あんな考えなしの子ですから放っておくと何をするかわかりませんので…櫻子、お待ちなさいな!」
「ついてくんなおっぱい魔人!」「なんですってこのあんぽんたん!」と言い合う2人を見て、園子の中の百合イチャセンサーが反応する。
あれ、これひょっとしてあの2人…。
『ふふ、気づいたかねそのっち』
「人型さん⁉」
仮面をかぶって表情はうかがい知れなかったが、園子は人型のバーテックスがにやりと笑っているのがわかった。
『彼女たちは産まれた時から一緒の幼馴染。しかもケンカップル。いまのやりとりからどれだけ互いに心を許しあっているかわかっただろう』
その言葉にこくりとうなずく。まさかこんなに高濃度の百合を拝めるとは思わなかった。眼福である。
『しかもここには彼女たちだけではなくいろいろなカップリングの百合イチャがある。親友。精神的におばあちゃんと孫。同級生。先輩と後輩。教師と生徒会長。あらゆるな!』
「それって…ひょっとしてここは」
『言っただろう。俺は百合イチャを見ながら余生を過ごしたいと。そのための苦労は惜しまないよ』
なんてこった。
「ね、ねえ、わたしここにいる人たちを観察してきていいかな? いいよね!」
『いいとも。さあ、存分に本能の赴くまま行くがいい』
許可をとると園子は一陣の風となった。「ビュォオオオ!」という強い風が吹くような声がその日集落のあちこちから聞こえたらしい。
『さっ、これで何の心配もなくなった。行くぞ丹羽明吾。いや、俺』
「え、俺もこのゆるゆり村散策してそのっち先輩と百合イチャ見に行きたいんだけど」
『お前何しに帰って来たんだよ…いいから行くぞ』
すっかり本来の目的を忘れかけている丹羽明吾の勇者服をつかみ、人型のバーテックスは強化版人型星屑の研究所に連れていく。
それに呆れたような顔をしながら精霊たちも続くのだった。
東郷さんとゆるゆりの古谷向日葵さんは中の人が同じ。
さらに両方中学生で巨乳。学年が違うだけでほぼ同一人物ではないのか? ボブはいぶかしんだ。
櫻子「ちがう、全然違う! 向日葵あんなにおしとやかじゃないし!」
銀「古谷さんっていい山脈持ってるじゃないか。ビバークしてぇなー」
櫻子「ダメ! 向日葵のおっぱいはあたしの!」
向日葵「だ、誰があなたのですのこのおバカ!」(まんざらでもない)
櫻子「へーん。子供のころ唾つけたもんねー。あんたのおっぱいはあたしのもんだばーかばーか!」
向日葵「なっ(赤面)」
丹羽「てぇてぇ、ひまさく、さくひまてぇてぇ」
園子「ビュォオオオ! いい、いいよあなたたち! もっとわたしに百合の可能性を見せて!」
東郷「そのっち。ステイ! 丹羽君も自重しなさい」
園子、丹羽「はい」正座