気が付いたらフォルテだった。
何故そうなったのかは何も思い出せないが、目が覚めた瞬間には、俺はこの身体を持っていた。黒いフォルムに、ボロ切れのようなマントを纏った、電子の海の住人になっていたのだ。いや、正確には逆だろう。このナビの身体に、俺という自我が芽生えたのだ。理由は分からない。
初めて目が覚めた時、俺の目の前に広がっていたのは広大な電脳世界だった。インターネットエリアなのか、電子機器の電脳なのかの判断もつかないまま、俺はとにかく自分の現状を確認しようと努めた。
まず気付いたことは、自分の身体とその機能だ。自らのデータを読み込み、確認した俺の姿は最強のナビ、フォルテの姿と瓜二つだった。それだけではない。この身体の奥底から、底知れないパワーが溢れてくるのを感じ取っていた。外見だけでなく、その力までフォルテに近いらしい。
そんな俺の頭の中には、様々な記憶、情報が混在していた。一つは、自分がこの電脳世界を『ゲーム』の内容として知っていること。タイトルは『ロックマンエグゼ』シリーズ——2001年の時点でインターネットを題材として作られた、画期的な対戦ゲーム。全6作プラスαが制作された人気シリーズだ。
そのゲームに存在する二つの世界、現実世界と電脳世界の内の後者に、今の自分は居る。なんとも不思議な気分だ。何故かって、俺には『エグゼ』に関する知識もあるが、こちらの世界での短い生の記憶もまた、自分の中に確かに在ると自覚している。これが、混在する記憶の内、二つ目だ。
俺は正確にはフォルテではない。いわゆるパチモンである。
ネットマフィア『ゴスペル』の首領、帯広シュンによって作り出された、フォルテの模造品。それが俺である。
ゴスペルとはエグゼシリーズ二作目の敵組織であり、ラスボスの名前でもある。組織によって生み出されたフォルテのパチモンは最終的に究極バグ融合体『ゴスペル』と相成ったが、ロックマンに粉々に吹き飛ばされた、はずだった。その後ゴスペルは崩壊、フォルテを作ろうとした実験体も散り散りになり、そのほとんどがデリートされてしまった。しかし、どうやら俺だけはデリートされずに残ったようだ。いや、他にも生き残りはいるかもしれないが、まあ、それは良い。
問題は、このままでは俺も遠からずデリートされてしまう、ということだ。
俺の登場するエグゼ2のメインシナリオ、そのラストにおいてパチモンである俺は、真フォルテにデリートされてしまう。模造品が気に食わなかったのだろう。そりゃそうだ、己の強さにプライドを抱いていそう(偏見)なフォルテさんが、自分のパチモンなんて許す訳がない。
……いやでも、フォルテは作品ごとに性格が結構変わっていたな。2では強者を求める求道者という感じだったが、4や6では破壊の化身みたいになっていた。どっち道人間ギライみたいだけども。3で記憶を失ったのが原因なんだっけか。
ま、それは置いとこう。
そんなオリジナル様とは対照的に、俺は人間に対する憎しみはない。寧ろオリジナルにデリートされないよう、オペレートして欲しいくらいだ。せっかく生き延びたのにぶっ殺されるのは勘弁願いたい。
……まあ、それはオリジナルの居るエリアに近づかなければどうとでもなるか。劣化とはいえ、フォルテだぞフォルテ。シリーズ通して常に裏ボスの地位を確固たるものにしている最強キャラの。
しかし、楽観視は出来ない。オリジナルは偽物がいると知ったら消しにくるだろうし、それでなくともフォルテは科学省から逃亡したナビだ。姿形が同じ俺も、オフィシャルに狙われるかもしれない。無論、有象無象なら今の俺でも倒せるだろうが……オフィシャルには伊集院炎山とそのナビ、ブルースがいる。作中屈指の実力を持つあいつら相手では、パチモンたる俺では分が悪かろう。
取り敢えずオフィシャルから逃れるために、現在、俺はウラインターネットに身を潜めている。木を隠すなら森の中。悪いナビは悪いナビの中に隠してしまえば良いのである。……いや、俺は別に悪者じゃないんだけど、オリジナルの方がね?
とまあ、目下の目標は、フォルテに遭遇しても逃げ延びられるくらい強くなることだ。多分それができたら余程のことでない限り死にゃしない。何度も言うが、フォルテはエグゼ世界最強格だからな。そいつから逃げれるということは、他の誰が相手でも逃げられることに相違ない。
さて、それほど強くなるにはどうしたら良いのか。実は、俺は既にその答えというか、アテを掴んでいる。ゲット・アビリティ・プログラムだ。
ゲット・アビリティ・プログラムとは、フォルテの持つ特殊な、彼を最強足らしめる恐ろしいプログラムだ。その効果は、倒したナビ、ウイルスの能力をまるっとそのまま得るというもの。これがとんでもないチート能力で、要するにフォルテは戦えば戦う程、相手の能力を吸収し、強くなるのだ。相手が強ければ強い程、さらに強力な力を得る、無限に成長するナビ。隠しボスに相応しい絶望感である。
コイツを利用すれば、あら不思議。俺のようなパチモンでも、戦うだけで強くなれる!
さて、この能力がパチモンである俺に備わっているか不安ではあるが……ごちゃごちゃ悩んでいても仕方ない。俺の創造主である帯広くんと、フォルテのコピーを作り出そうとした天才科学者ワイリーを信用しよう。手始めに、その辺の雑魚ウイルスを狩って試してやる。
しばらくウラインターネットを散策すると、ウイルスの群れを見つけた。狼のようなウイルスだ。色が違うが、系統は同じだろう。火属性の、なんだっけな、名前は確か……
『エネミー名表示:
ガルー
ガルーバー
ガルーダン』
お、名前が見える。流石ネットナビの身体だけあって、ウイルスの名前もこの身体にインプットされているらしい。確かこいつらはヒートショット系のチップを落とすウイルスだったはずだ。エグゼ3に出てくる雑魚エネミーだな。初戦闘相手のど定番、エグゼ界のアイドルであるメットール先輩と比べたら動きはかなり速いし体力もあるが、この身体での初戦闘の相手としては程良い強さだろう。
俺は思い浮かんだ技を使ってみた。まだフォルテの固有技しか使えないが、普通に十分過ぎる。この技、避けるの大変なんだよなあ。pause連打すれば幾分楽だが、アレは反則技だ。
「エクスプロージョン!」
俺の叫びと同時に、エネルギーがチャージされた腕から無数の光球が吐き出され、ガルーたちは粉々になった。
粉々だ。光る粒子になって爆発四散してしまったのだ!
……強過ぎて笑うしかねえ。
これはアレだな、ロックマンだから耐えられるし、避けれる。そんな技だ。
さて、ゲット・アビリティ・プログラムは正常に作動しているだろうか。パチモンとはいえ、これがなくちゃフォルテとはとても呼べないんすけど……
『獲得バトルチップ:
ヒートショット
ヒートブイ
ヒートサイド』
おお、上手くいったっぽい?
身体の中にチップデータが組み込まれていくのが分かる。試しに使ってみると、右手がヒートショットの砲身に変わった。手頃なストーンキューブにぶち込んでやると、向こう側に誘爆してるみたいだ。うんうん、ちゃんと使えている。
ヒートショット系は正直あまり好きなチップではなかったが、初めて手に入れたバトルチップだ。感慨深いものがある。次の戦闘で使ってみよう。
……むむ。よく確認してみて気付いたが、チップコードは無いのか、この世界には。全部*扱いとか強過ぎませんかねえ。
それにしても、ガルーはともかく上位種のガルーダンまで瞬殺か……これは、ウイルスは相手にならない、と考えた方がいいのか?
いや、油断は禁物だ。下手なナビよりも強いウイルスなんて幾らでもいる。何しろあいつらは集団でこちらを嬲り殺しにしてくるのだ。4のウイルスとかかなりエゲツなかったし、慎重に行こう。クモとビーム野郎にハメ殺されるのはゴメンだ。
……なんて考えながら進んでいたが、ウラインターネットの奴らといえど所詮ウイルス。そりゃオモテのウイルスよりは強いが、そこまで脅威ではなかった。色々とフォルテの固有技(4以降のモノも)を試しながら、バトルチップ集めに集中する。ただ、ダークネスオーバーロードなどの大技はあまり使っていない。一回、3本編で使われたアースブレイカーを使ってみたんだが、アレの所為でウラインターネットが軽く揺れた。というか地面(?)がひび割れた。ヤバいね、この威力。本物なら地面ぶち破る威力の技だし、気軽に使って良いものじゃないな。
こんな風に技もコピーできるなら俺にもワンチャンあるか、と思ったけど、よく考えなくてもダメだ。フォルテは新シリーズ毎にドンドン新しい技を覚えていくし、最終的には電脳獣の力までも扱えるようになる。二体しかいない電脳獣の一体を、その身体に取り込むのだ。恐らくは、ゲット・アビリティ・プログラムを使って。そうなればもう俺に勝ち目はない。
フォルテと唯一渡り合える存在である、ロックマンと光熱斗に全てを託すしかなくなるのだ。
……まあ、先のことは先のことだ。あとで考えればいい。それよりまずは、目の前のことだ。
ふむ、今度の敵は……
『エネミー名表示:
スウォータル
スウォータル
キャノーダム2』
剣を携えた小型幽霊と、砲台のウイルスだ。砲台の方は射線に入らなければただの的……じゃなかった。砲口をこっちに向けてきやがる。そりゃそうか、何もかもゲームと同じ訳がない。9マス×2のフィールドで戦っているのではないんだし。
けど、動かないカカシに変わりはない。あいつを起点にしてぶっ放してやる。
「バトルチップ『ヒートショット』、『ヒートブイ』、『ヒートサイド』!」
三枚のチップを一気に使用する。変形した右手は、炎と炎と炎のバトルチップが3枚合わさって最強に見える。ちなみに、バトルチップを使用する時わざわざ叫ぶ必要は、実はない。じゃあ何故かといえば、単なるノリである。
「プログラム・アドバンス、『ヒートスプレッド』!」
ちなみに、プログラム・アドバンスとは特定のバトルチップを組み合わせることによって生まれる、超強力な技のことだ。
我が魂の叫びが固定砲台に着弾し、耳を劈く大爆発を引き起こした。スウォータルも木っ端微塵に。……次からこの技使うの止めよう。めっちゃ目立つ。
『獲得バトルチップ:
アクアソード』
おっ、カッコいいの手に入った。
ソード系は威力があるしカッコいいんだけど、ゲームでは如何せん射程が短過ぎた不遇のチップである。パラディンソードとかいうクソ強チップもあったけども。
ゲームではブルースソウル、スラッシュクロスがなければ間合いが極短かったソード系だが、この世界の戦闘では自エリア・敵エリアなんてものは存在しない。故に、接近戦といえばソード系チップだ。代わりに、対戦等で猛威を奮ったエリアスチールなんかは自らの速度を上げるチップとなった。アニメ設定だな。
俺はアクアソードを使ってみた。砲身となっていた右腕が、青いブレードに書き換わる。うん、良い感じだ。ソード系はちゃんと全属性分揃えておきたいな。属性の有利でダメージ二倍だ。
ソードといえば、ゲームでは初めのフォルダに必ず入ってるんだよな。ワイドソードと一緒に。ただしロングソードはハブられている。アレさえあれば即、ドリームソードが使えるのに。
ドリームソード。比較的簡単に手に入るバトルチップ三枚で生み出されるプログラム・アドバンスだ。威力が大きく、最初期のボス程度なら一撃で倒せる。また、範囲もかなり広く、ゲームでは3×2マスというソード系では破格の攻撃範囲を誇る、まさに夢の剣だ。これにお世話になったプレイヤーも多かろう。
なんか、こう話をしているとドリームソードが使いたくなってくるな。いや、フォルテはドリームソードと同じ攻撃範囲のダークソードを素で使えるけど、そういう話じゃない。これはロマンの話なのだ。
俺は全プログラム・アドバンスの中で、ダントツでドリームソードが好きだったりする。というか、そういう人多いんじゃないだろうか。威力や使い勝手で上回るものなんて幾らでもあるが、愛着があるし、何よりロマンがある。多分PA(プログラム・アドバンス)人気投票とかしたら1位取れるんじゃないかな。
良し、なら次はドリームソードを……と言いたいところだが、ウラインターネットでソードやワイドソードを手に入れることが出来るのだろうか。オモテに行ければ、幾らでも手段はあるが……
よし、こういう時は……あそこに行くとするか。