『私のことまで知っているとは……もしや君には、フォルテの記憶までコピーされているのかな?』
「まあ、そんなところです。あくまで事情として知っているだけで、実感がこもってる訳じゃないけれど」
『なるほど……だから君は人間への恨みを持っているわけじゃないのだね』
彼の名前を出してしまったのは少し焦ったが、幸いにもコサック博士は自らの推論を述べてくれたので、そこに乗っかっておく。
うん、フォルテ時代の記憶がある、そういう話にしておこう。
「なるほど、フォルテを追っていたのは、自らが生み出したナビに対する責任とケジメのためですか」
『ああ、その通りだ。私はかつて、フォルテを生み出した。当時、いや現在においても最高の性能を持った完全自立型のネットナビ……しかし、私は間違えてしまった。彼との向き合い方を、そして周囲との接し方を。そのために、彼はああなってしまった。我々人間への恨みを、憎しみを……』
言葉の節々から、悔恨と懺悔が滲み出るようだ。
「そんなことは! 確かにフォルテは今、人間を憎み切っている。しかし、かつては確かに、アナタという人間への敬愛があった。自らを生み出してくれたアナタを、敵意の視線の中で、唯一の理解者であるアナタを」
『そうかもしれない。しかし、当の私は驕っていたのだ。完全自立型ネットナビ。その性能を、生み出した私自身の技術力を。周囲との軋轢も考えず、フォルテの力を誇示するように。私の過ちだ。フォルテが人間を恨むのも、彼が恨まれるのも、全ては私の所為なのだ。すまなかった、フォルテ……』
「コサック博士……」
『……話し過ぎてしまったな。君がフォルテと全く同じ顔をしているからだろうか、ついこんなことを口走ってしまった。悪かったね、フォルス君』
泣き笑いのような顔で、コサック博士は言う。
彼の悲しみがどれほどのものか、俺には想像もつかなかった。きっと、彼にとってフォルテは自らが生み出した子供も同然に違いない。そんなフォルテが世界を、人間を憎む。
そして、その憎しみがやがて災いを生むと、分かっているのだ。だから、我が子同然のナビを、自らの手で消す決意をした。
……可哀想だ、このままじゃ。
フォルテ相手に甘いことしてらんないのは分かってるけど、このままじゃどうも気持ちの収まりが悪い。
「よし、なら一回ちゃんと話そう」
『なに?』
「フォルテをぶっ飛ばすとこまでは変わらないけどさ。ぶっ飛ばして、そんで話をしよう。コサック博士、アナタがフォルテのことを考えているのは、よく分かりました。フォルテがもし憎しみを忘れられる何かがあるとしたら、それはきっと、アナタの言葉だけだ』
『しかし、私はフォルテを造った者としての責任を……』
「別にデリートするだけが責任の取り方じゃない。このままだと、フォルテはもっと悪いことに手を染めていくはずだ。それを止められるなら、方法はなんでもいいはずです。もちろん、説得でも」
大人しく説得されるタマではないかもしれない。でも、チャレンジはしてみたいじゃないか。
俺も、元々フォルテは好きなナビだ。俺の命が狙われないってことなら、むざむざデリートすることもない。
『フォルス……キミは……』
「気にすんなよ。フォルテが改心したら、俺もデリートされる心配がなくなる。悪い話じゃないさ」
笑ってやると、コサック博士も、ナビも肩の力が抜けたようだ。憑物が落ちたような顔。さっきまでの顔より全然良いじゃないか。
「よし、やってやる……勝てるかわからないけど、取り敢えず全力で戦う」
まあ、一番の問題はそこだ。
そもそも、フォルテに勝てるのかって話。
……無理だったら逃げるしかないよな。
大丈夫、ブルースからだって逃げられたんだ。それに、無理な追撃はワイリー博士が止めてくれる、はず。……だよな?
まあそうじゃなくとも、フォルテがロックマンをデリートしようとするのは止めないといけない。コサック博士たちを焚き付けておいて、俺だけ行かないってのも薄情が過ぎる。選択肢はないわけだ。
コサック博士のナビと共に、ウラインターネットを探る。ゲームだと、ウラスクエアの近くでロックマンとフレイムマンが戦っていたはずだ、と記憶を引き出しながらエリアを彷徨く。
しかして、すぐに当たりを掴んだ。バトルが始まり、力を解放したフォルテの寒気がするほどの強者のプレッシャーが、姿も見えない遠くまで届いている。
「急ごう!」
俺とコサック博士のナビは、全速力でプレッシャーの源へと走る。
やがて、俺と全く同じ姿をしたオリジナルが見えてきた。オリジナル様との2度目の邂逅だ。
そして俺は、倒れている青いナビを見つけ、思わず感嘆する。
ロックマン。
ロックマンエグゼの主人公の1人。そんな彼の姿を目の当たりにして、嬉しい気持ちがない訳がなかった。残念ながら、彼はフォルテに敗れ気絶しているようだが……
俺がしょぼくれていると、フォルテがロックマンにとどめを刺そうというタイミングでこちらを見つけたようだ。その瞳が憎悪に染まる。
「何時ぞやの紛い物……セレナードも連れず、のこのことデリートされに来たか。あの技には驚いたが、それでも俺とキサマの実力がかけ離れているのを理解していないわけではあるまい」
「……まあ、俺とオマエの一対一じゃ、まるで勝ち目はないだろうさ。でも、今回は俺もちょっとマジで行かせてもらう」
俺の言葉に、憎しみを湛えていたはずのフォルテは、ほう、と笑う。俺の言葉を挑発と捉えたか。憤怒はそのままに、俺の策に対応してみせようという冷静さを滲ませている。
「面白い。紛い物がどこまでやれるのか、見せてもらおう。もちろん、そこのナビに手伝って貰うのも構わん。そんなどこの馬の骨とも知れんナビが、どこまで役に立つかは知らんがな」
「見た目は確かに普通のナビだが、誰がオペレーターかも知らないで余裕だな、オリジナル様よ」
「オペレーターが誰か、だと? …………まさか、キサマは!」
俺の口振りから、オペレーターがただならぬ人物である、と思い至ったらしい。とはいえ、彼が知っている人間など限られている。彼が想像し得るのは、一人しかいない。
『久しいな、フォルテよ』
「…………コサック……!」
激情。
そうとしか表現し得ない、憎しみとも怒りとも、哀しみとも取れるような感情の渦が、フォルテの表情に浮かぶ。
……場違いにも、俺は感心してしまう。俺も今の今まで、ネットナビは人間と同じように感情を持った存在だと思っていた。人間と同じように笑い、泣き、怒り、悲しむ。
しかし、このフォルテはそれ以上だ。
これほどの剥き出しの感情は、人間にだって中々出せるものじゃない。ロックマンのように、人間の遺伝子が組み込まれている訳でもないというのに。
最早人間よりも人間らしい姿を見せながら、フォルテはニンゲンを憎む。
「なるほど、その出来損ないはキサマの差し金か。俺を放逐しただけではまだ足りないらしいな。俺を消しにきた、というわけか」
『……フォルテ』
「気安く俺の名を呼ぶな! 俺を捨てたキサマが、どの口で俺の名を!」
『私は、私はただお前に……』
「問答無用だ。そこのナビ、そして紛い物を目の前で消し去ってくれる」
やはり、このまま対話を、というわけにはいかないか。
チカラを見せなければ、取り合ってはくれない。分かっていたことだ。
気合を入れる。
まずは先制攻撃だ。今まで、俺はナビとのバトルでは基本的に先手を取られてばかりだったからな。巻き込まれないように倒れているロックマンから引き離しつつ攻撃を仕掛ける。
開幕から飛ばしていくぞ!
「ソード、ワイドソード、ロングソード」
この世界で、多少ネットバトルを齧っている者ならこのPAを知らない者はいない。
俺は3枚のチップデータを起動し、腕に重ねる。3本の剣は1つとなり、巨大な刀身を現した。
「『ドリームソード』!!!」
「……ダークソード!」
淡い緑の輝きを放つ俺のドリームソードと、フォルテのダークソードがぶつかる。凄まじい衝撃を周囲に撒き散らしながら、2本の剣は拮抗していた。
(通常攻撃でPAに張り合うって、普通にやべえよな)
改めて、フォルテの規格外を身に染みて感じながら、次の手を打つ。といっても、単純な攻撃だ。エアバーストをこの超至近距離で放つ。しかし、フォルテは身を捻り、いとも容易くそれを躱す。
だが、体勢は崩れた。
「『サイドバンブー』!」
フォルテの真横に現れた藪から、鋭い竹槍が伸びる。決まるか?
「『エンゲツクナイ』」
フォルテの周囲を、円状の斬撃が覆う。竹槍はバラバラに切り刻まれ、その勢いを失った。
「キサマに出来る程度のことなら、俺にも出来るということだ。……あのワザを除いてな」
「くっ……」
「さあ、見せてみろ。ゴスペルの顎を!」
「やなこった!」
アレ使うと体が縮んで通常攻撃できなくなるから、避けられたら詰むんだよ!
なんて泣き言吐いても仕方ない。どうにかフォルテを倒して、コサック博士と話をさせてやらないと。
「ワタシも援護する! キャノン、ハイキャノン、メガキャノン——『ギガキャノン』!!」
博士のナビも、PAでフォルテに攻撃する。よし、俺もこれに合わせて攻撃しよう。フォルテに向けてPA『ヒートスプレッド』を放つ。
しかしそれらの攻撃も、フォルテの前には通用しない。彼は腕を振り上げ、巨大なエネルギーの塊を作り上げると、迫り来る砲撃にそれを叩き込んだ。
カオスナイトメア。フォルテの切り札の1つによって、俺たち2人の攻撃は相殺されてしまう。
『まさか、これほど強くなっているとは……やはり、ゲットアビリティプログラムか!』
「コサックよ。キサマに感謝することがあるとすれば、このプログラムを俺に組み込んだ、それだけだ。お陰で俺はチカラを蓄え、キサマら人間に復讐できるのだからな」
『……させん! 私が、私たちがお前を止めてみせる!』
「ハァァァァッ、ダークネスオーラ!」
博士のナビが、最凶のオーラをその身に纏う。
ダークネスオーラ。ドリームオーラの更に上、オーラの中で最上級の性能を持つ。近くにいるだけで圧迫感に押し潰されそうだ。
「ほう……ドリームオーラの上を行くオーラか」
「そうだ。フォルテ、お前の攻撃はワタシには効かんぞ!」
「ならば、試してみるか?」
フォルテが腕にエネルギーを集中させる。まずい!
「『ヘルズローリング』!」
「チッ!」
車輪状のエネルギー波を放つ。フォルテに向かって真っ直ぐ飛んで行ったそれは、いとも簡単に防がれてしまう。しかし、ダークネスオーラの破壊は免れた。
いかにフォルテの攻撃といっても、ダークネスオーラを破るには、アースブレイカーやダークネスオーバーロードといった大技を使わなければならないはずだ。俺が妨害し、その技を出させなければ、コサック博士のナビがやられることはない。
これなら……!
「……なるほど。俺の技の模倣も、以前よりマシな威力になったようだな」
「ゲットアビリティプログラムを持ってるのは、お前だけじゃないってことさ。俺はお前の偽物だからな」
「フン……この程度で俺と同等のつもりか。なら、見せてやる。格の違いというものを」
フォルテの雰囲気が変わった。
何か来る。そう直感した俺は、備えとしてオーラを発動した。ダークネスオーラに比べたら弱々しい守りだが、張っておくに越したことはないだろう。
しかし——フォルテの一手は、俺の想像の上を行っていた。
「バトルチップ『ポイズンアヌビス』」
「なっ!?」
「マズい!」
阻止すべく慌ててダークアームブレードでフォルテに斬りかかるが、フォルテがダークソードでそれを受ける頃には、もう遅かった。
フォルテの真後ろに、邪悪な気配を漂わせる石像が出現する。その口が開き、紫色の煙が辺りを覆う。
見れば分かるほどの猛毒。それはオーラを、そしてダークネスオーラをも無視して俺たちに直接襲いかかる。
バトルチップ『ポイズンアヌビス』。
ゲームではメガクラスに位置する、強力なバトルチップだ。その効果は今体験している通り、毒によるダメージを与え続けること。恐ろしいのは、この石像を破壊しない限りダメージを防ぐ術はないということだ。インビジブルも、ユカシタモグラも、バリアもオーラも関係ない。あらゆる防御を貫通してダメージをもたらす。
もしも相手に使われたのなら、即刻破壊する。それが鉄則だ。
だが、フォルテがそれを許さない。アヌビス像を守るように、その前に構えている。フォルテが使ったアヌビスは、フォルテに毒の効果をもたらさない。ダメージを負うのは俺たちだけだ。
体力がどんどん失われていくのが分かる。時間がない。
「くそっ、俺も探していたのに。どこで見つけたんだ、そんなモノ」
「俺はキサマとは比べ物にならない深淵で戦ってきた。理解できたか? これが俺とキサマの差だ。……理解できたなら、消えろ!」
エンゲツクナイ:かっこいいノーマルチップ1位(私調べ)