偽フォルテになりまして   作:レイトントン

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第12話

「なあなあ。ワイリーってどんな奴なんだ?」

 

 才葉学園の電脳世界にて、授業風景を観察しているアイリスにそう問いかける。一応、ゲームのキャラクターとしては知ってるけど、生の意見も聞いてみたい。

 彼女は振り返り、少し考える素振りをして答えた。

 

「恐いけど……優しい人」

「どっちだよ」

「どっちでもあるの。普段はとても恐い人だわ。ネットワーク社会に対する、復讐心でいっぱいだった。……私も、復讐のための道具だって」

 

 ワイリーのことを話すアイリスは、少し悲しそうだ。嫌なことを聞いたかな。

 

「でも、たまに見せる表情が凄く柔らかくて……きっと本当は優しい人なんだ、って思ったの。でも、社会への憎しみが大き過ぎて、それが隠れてしまってる」

「そうか……」

 

 ワイリーも、元は優秀な科学者なんだもんな。ゴスペルを裏で操り、フォルテのコピーを作るように帯広くんに命じたのも彼だ。ある意味では俺を作った人みたいなところもあるし、中々複雑な相手だな。

 

「セントラルエリアでも噂になってるわ。ワイリー博士がプロトを復活させようとしているって、本当なの?」

「ああ、ほぼ間違いない。そっちの計画に注力してるから、追手はほぼ出ないと思うけど……プロトが復活したらそれどころじゃないからな。隠れていた方がいい」

「……兄さんはどう思っているのかしら……」

 

 兄さん……カーネルのことか。

 アイリスは元々、アメロッパ軍のエース、カーネルというナビの一部だった。ワイリー博士によって、カーネルから『優しさ』を司るプログラムが抜き出され、それにさまざまなプログラムを付与して造られたのがアイリスだ。

 だから、カーネルとアイリスは兄妹というわけだな。

 

 兄妹か、なんか良いな。ロックマンと熱斗くんもそうだが、なんか羨ましいぞ。

 俺もオリジナル様のことをお兄様とか呼んでみようかな。

 ……気持ち悪いからやめとこ。というか、本人に言ったらダークネスオーバーロードが飛んできそうだ。ツッコミの威力じゃない。

 

「ワイリー博士は俺やオフィシャルが止めるから、安心してくれ。カーネルも、本当にヤバいと思ったら止めにくるさ」

 

 ……多分来ないけど、そんな事実を突き付ける意味もない。

 カーネルのオペレーター、バレルはワイリーに育てられた。育ての親に対する義理立てで、彼は電脳獣によるネットワーク社会崩壊に力を貸すことになる。

 そんな彼が、プロトを止めるために現れるとは思えない。寧ろ、ゲームだとなぜ手を貸していなかったのか分からないくらいだ。

 この時期はアメロッパ軍から離れられなかったのだろうか。まだWWWじゃないってことだな。

 

「……そうね、兄さんとバレルなら。ありがとう、フォルス」

「良いってことよ、野良ナビのよしみだ。……おっ、授業してるな」

 

 誤魔化すように、横からアイリスの見ている教室を覗き込む。アイリスの能力で、防犯カメラの映像を見ているのだ。最新鋭の学校設備だけあって、教室にもカメラが付いている。流石は才葉学園だ。

 パソコン付きのデスクには、6に登場するコジローくんやアスタくんが座っている。固有グラフィックの持ちナビがいない、ちょっとかわいそうな2人だが……コジローくんはイタズラで活躍するし、アスタくんは日暮さんの代わりを務める重要な役回りだ。

 教壇にはマッハ先生が立っている。顔も話し方も暑苦しい男性だが、教え方は上手い。つまらない授業も、彼の話し口なら気持ちよく勉強できそうだ。

 みんな、和気あいあいと、楽しそうに授業しているな。その様子を眺めながら、ふとアイリスの方を見た。

 彼女は、防犯カメラ越しに見える彼らの様子を、眩しそうに見つめていた。よく見てみると、微かに笑みを浮かべているのが分かった。彼女の表情の変化は分かりづらい。危うく見落とすところだ。

 

「……なに?」

「いや、珍しいものを見たなと」

「そうかしら……この教室では、よく見られる光景だと思うわ」

「そうか。だとしたら、連れてきてよかったよ」

「うん。ありがとう」

 

 どうやら勘違いしているようだが、まあいいや。役得役得。

 良いものも見れたし、そろそろ行くか。

 俺が立ち上がると、アイリスはどこに行くの、と聞いてきた。

 

「ウラインターネット」

 

 そう答えると、彼女は顔を顰める。やっぱり、あんまり良くないイメージを持たれてるんだな、ウラって。

 そりゃそうか、犯罪者の巣窟なんだもんな。

 

「大丈夫だって。これでもまあまあ強いんだぞ、俺は」

「知ってるわ。でも、危ないところだから」

「心配してくれてありがとな。でも、必要なことなんだ。WWWを止めるためにな」

 

 ロックマンをギガフリーズのところまで案内しなければならない。そして、ブルースに紹介してもらう。

 

「……分かった。でも、無茶はしないでね」

 

 大仰に頷いて、俺はウラへ向かった。

 

 

 

 ウラスクエアで待ち伏せていると、ロックマンが掲示板あたりでウロウロしているのが見えた。ランカー入りする方法を探しているのだろう。

 俺は後ろからカレの肩を叩いた。

 

「よっ」

「君は……フォルス?」

 

 ロックマンはちょっと自信なさげに言う。名前を忘れられてるのかと一瞬悲しくなったが、どうやらフォルテとぱっと見で見分けが付かないだけみたいだな。

 大丈夫大丈夫。オリジナル様はこんな気安い挨拶はしないから警戒しないでほしい。

 

「何してるんだ、こんなところで」

「実は……」

 

 彼は炎山くんからギガフリーズの入手を依頼されていることを明かした。知ってたけど、聞いておかないと不自然だからな。

 

「そのために、『S』と呼ばれるナビに会わないといけないんだ」

「なるほど……それなら、俺に心当たりがある」

「えっ!?」

 

 ロックマンは心底驚いた、という様子だ。

 ウラランキングを上げる必要がある、と炎山くんに聞いていたものだから、これは想定外だろうな。

 

「そいつはウラの王と呼ばれる存在だ。俺も会ったことがある。良ければ案内してやるよ」

『良いのか?』

「勿論。ギガフリーズを手に入れられるかどうかは、君たち次第になるだろうが」

「ありがとう、助かるよ!」

 

 ロックマンはにかっと笑う。やっぱり主人公はいいな。話してて爽やかな気分になる。

 

「代わりに、後でちょっとしたお願いを聞いてもらいたいんだけど……」

「お願い?」

「ああ、その時話すよ。多分、ギガフリーズをゲットした後の方が話は通しやすいと思うし」

 

 実は、事前にセレナードに事情は話してある。ギガフリーズを求めるナビがウラに来るから、力になってやって欲しいと。セレナードははじめ懐疑的だったが、それがWWWを止めようとするロックマンだと説明したら、頷いてくれた。

 ちょっと嬉しそうだったのは、N1観戦の効果なのだろうか? 別にそういうわけじゃないか?

 まあ、どちらにせよギガフリーズはくれるっぽいし、手早く案内しよう。

 

 シークレットエリアの奥まで進み、セレナードとロックマンを対面させる。セレナードはギガフリーズを渡す前に、プログラムに適応できなければ永遠にフリーズする、と注意を促した。

 ロックマンも緊張しながら、それを受け入れる。そしてロックマンは、究極のプログラム、ギガフリーズを手に入れた。

 

『やったな、ロックマン!』

「うん! ありがとうセレナード!」

「礼には及びません。WWWの悪行には私も心を痛めていました。それに……N1でのアナタたちの戦いは、我々も楽しませてもらいました」

 

 やっぱそれで、ちょっと機嫌が良かったのか……

 さて、シークレットエリアはプラグアウトできないから、セレナードと別れて俺たちはウラインターネットへ戻る。

 

 シークレットエリアを出た後で、ロックマンに声をかけた。

 

「ロックマン。お願いについてなんだけど……」

「うん。フォルスには2度も助けてもらってるからね。僕に出来ることがあればなんでも言って」

「ああ。お願いってのは、ブルースに俺のことを説明してほしいんだ。別に悪者じゃないってさ」

 

 俺は、以前病院の電脳でブルースにちょっかいをかけてしまったことを説明した。

 いや、悪意はなかったんだけど……警備の邪魔をしてしまったわけだし。

 

「そんなことがあったんだ」

『炎山もせっかちな奴だなー』

「いや、俺の方が悪かったんだよ。フォルテと同じ見た目してる奴がいたら、誰だって警戒するさ」

『はは、それもそうだな。……よし、分かった! 俺たちで炎山たちに伝えるよ。ギガフリーズが手に入ったのがフォルスのお陰だって分かれば、炎山も納得してくれると思うぜ』

 

 熱斗くんは、炎山くんに連絡を入れた。話し声が、熱斗くんが映る画面越しに聴こえてくるが、やっぱりちょっと揉めてるみたいだ。申し訳ないな。

 

『……いいから、科学省エリアで待ち合わせなっ。フォルスも連れてくから。……平気だって! さっきも言っただろ? 2回も助けてもらったんだ。それに、ブルースだってデリートされたわけじゃないんだろ? ……とにかく、すぐ行くから! それじゃ!』

 

 なんか強引に話を打ち切ったみたいに聞こえたが、大丈夫なんだろうか。

 熱斗くんの顔を見ると、彼は笑顔で親指を立てた。

 

『科学省エリアでブルースと合流することになった。フォルスも来てくれ』

「あ、ああ。科学省エリアか……入るのは初めてだ。緊張するな」

「大丈夫! 僕らも一緒だし、ブルースも居るよ」

 

 正直それが一番怖いところだ、というのは言わない方がいいのだろうか。いや、避けては通れないことだが、病院の電脳でのこともあるから……

 悩んでいても仕方ないか。斬られそうになったら、ロックマンの後ろに隠れよう。

 

「あっ、ブルース!」

「…………来たか」

 

 ブルースは、科学省エリアに来てすぐに見つかった。俺に科学省エリアをうろうろして欲しくないらしい。嫌われたものだ。

 ぎろ、とバイザー越しに睨まれる。こ、怖え。

 

「よ、よう。久しぶり」

 

 視線が鋭くなった。どうやらふざけていると思われているようだ。そんなつもりはないのに……

 

『光から話は聞いている。究極のプログラム入手を手伝ったそうだな。それについては感謝しよう……だが、目的はなんだ?』

「WWWの計画を阻止すれば、俺が安全で善良なココロを持ったナビだと証明できると思ってね……フォルテの模造品で、尚且つゴスペルに造られたってことで、よく追われてるんだ」

『……WWW壊滅に手を貸す代わりに、自分からは手を引けということか』

 

 手を引け、って言い方だと、なんか俺がめっちゃ悪いやつに思えてくる。いや、俺は別に悪いことしてないよ?

 病院の電脳とか、色んなところの電脳に忍び込んだのはアレだけど……

 

『フォルスはフォルテと渡り合えるぐらい強いんだぜ。味方になってもらったほうが良いだろ?』

『キサマ……火野に騙されたことをもう忘れたのか?』

『うっ……そ、そうじゃないけど』

 

 口を出した熱斗くんだったが、痛いところを突かれて反論できない。ヒノケンに騙されて、WWWの起こす事件に加担してしまったんだったな。

 

『まあ、究極のプログラムをわざわざ俺たちに渡してまで取り入ろうとするのを見るに、WWWの一味だとは考え辛いのは確かだがな。プロト復活を目的とする組織の一員が、プロトを止め得るプログラムを手放すはずがない』

『そ、そうだろっ!? だから、フォルスはきっと良い奴だって』

『良い奴かどうかは知らんが、以前一度戦った時にしてやられたのは確かだ。一応、使えるヤツではあるようだな』

 

 この小学生めっちゃ偉そうだな!

 炎山くんは俺をどう使うかを考えているように、顎に指を当てて考え込んでしまう。まあ、さすがに重要な仕事には着かせてもらえないかもしれないが……ウラの巡回とかを任せてもらえれば、ドリルマンの逃亡先にあらかじめ回り込んでおくこともできるかもしれない。

 

 なんて考えていると、炎山くんの画面から、割れるようなサイレンが鳴り響いた。

 

『炎山、どうした!?』

『チッ……襲撃だ!』

 

 言うが早いか、ブルースは地面を踏みしめ駆け出した。俺とロックマンもそれに続く。

 

『プロトの保管してあるエリアをWWWが襲っているようだ。俺は対処に回る』

「そのエリアって言うのは……」

『……ここ、科学省エリアだ』

 

 幸い、プロトの保管されている場所はそう遠くなかった。科学省スクエアのすぐ近くらしい。セキュリティ面から見ると不安でしかないが……

 

 地面には、プロトを守るために増員されたであろうオフィシャルのナビたちが、無惨に転がっている。しかし……妙だ。

 プロトを奪うのは、WWWの自立型ナビであるドリルマンの役目であるはず。しかし、このナビたちの受けた傷は、ドリルで抉られたようには見えない。多種多様な傷跡に違和感を覚えながら、進もうとしたところで——

 

 死角から猛烈な速度で放たれた、爪の一撃を辛うじて避ける。回避できたのは幸運という他ない。あるいは、ナビの残骸から無意識にそういった攻撃が到来するのを予期していたのか。

 しかし、それだけでは終わらない。地面から生えた蔦が俺の足を絡めとり、動けなくなった俺の目の前に現れたナビが、電撃を放つ。

 俺はリフレクメットを発動し、衝撃を相手に返してやる。彼は僅かながらダメージを受けたようで、その瞳に憎しみを湛えていた。

 

「お前たちは……!」

「久しぶりだな、ロックマンよ」

「キサマにデリートされた恨み、晴らさせてもらうぞ」

「そしてプロトは、我々WWWがいただく!」

 

 電撃と催眠の使い手、フラッシュマン。

 鋭い爪と牙を持つ野獣、ビーストマン。

 泡のバリアを纏う小柄な戦士、バブルマン。

 不気味な砂の体を持つ怪物、デザートマン。

 花の貴公子、プラントマン。

 燃え盛る炎、フレイムマン。

 

 ドリルマン以外の、エグゼ3WWWメンバーが揃い、俺たちに襲いかかる。

 ——総力戦だ。

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