偽フォルテになりまして   作:レイトントン

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第14話

 フォルテとの決着、そしてプロト討伐への貢献のためには、WWW本拠地へ付いて行くのは必須だ。だが、俺1人では不可能だということは明らかだった。

 WWW本拠地の電脳世界への道なんて知らないからな。そもそも、通常のインターネットと繋がっているのかも分からない。いや、フォルテが行き来できているから、道自体はあるのか。俺が知らないだけで……

 

 ともかく、本拠地の電脳世界への道のりを、今から探そうとしても間に合わないだろう。何かしらの端末に入れてもらい、熱斗くんたちに連れて行ってもらうのが妥当か。

 

 ……連れてってもらえるかなぁ……

 

『光、ひとまずお前はプラグアウトしろ。もう我々がここで出来ることはない』

『炎山……けど』

『プロトがWWWの手に渡った以上、すぐにキサマの手を借りることになるだろう。それまで英気を養っておけ』

『……ああ、分かった!』

 

 炎山くんもだいぶ熱斗くんのことを認めるようになってきたな。良いもんだな、認め合うライバルってのは。

 なんてほっこりした目で彼らを見ていると、ブルースが近付いてくる。

 

「フォルス。お前はこれからどうする気だ?」

「どうする、か。まあ、WWWをこのまま放っておくわけにもいかないと思うが……今の俺には何もできないな。だが、俺の力が要るなら喜んで手を貸す」

「……正直に言うと、お前のことを信用しきっているわけではない。しかし、今は少しでも戦力が欲しい……お前の言葉に甘えさせてもらいたい」

 

 そういうと、ブルースは頭を下げる。意外な行動に、思わずたじろいだ。

 

「分かった。協力させてもらうよ」

「済まん」

 

 ありがとう、ではなく、済まん、か。オフィシャルとして、一般のナビに協力を求める非力さを悔しむような一言だった。まあ、俺が一般のナビと言われると、首を傾げたいところではあるが。

 そんな俺に、ブルースはプログラムを手渡してくる。受け取ると、それは炎山くんのホームページのPコードだった。

 良いのか、と目線で聞く。プライベート用のものだから普段はあまり使われていないという。問題はないらしい。

 

「WWWの本拠地を突き止め次第、突入することになるだろう。炎山サマが手に入れた情報はここに共有しておく……時が来たら力を貸して欲しい」

「ああ、待ってるよ。……あと、俺を入れるPETか何かを用意しておいてくれるとありがたい。敵のアジトでプラグインしてもらうのが一番手っ取り早い方法になるが、さすがにこのバグだらけの体でキミやロックマンのPETにお邪魔するわけにはいかないからな」

「分かった、用意しよう。オペレーターも要るか?」

「いや、プラグインさえしてくれれば、あとはオペレートは必要ない。俺のオリジナル、フォルテは完全自立型ネットナビだ」

「オペレートの必要がないということか……了解した、PETの用意は任せろ」

 

 ブルースは右手を差し出した。

 俺もそれに応じる。

 

「必ず倒そう、WWWを」

「ああ。よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 セレナードたちシークレットエリアの3人、アイリスに挨拶回りを済ませて、俺は炎山くんのホームページで待機していた。アイリスには止められたが、ここまで来て行かないという選択肢はない。

 セレナードたちが手を貸してくれたら百人力だったんだが、ネットワーク社会が崩壊しかねないこの事態になってもまだ……否、こんな事態だからこそ、火事場泥棒的にウラでは活発な悪事が行われており、管理者であるセレナードたちの仕事も激増しているようだった。とても手伝いなど頼めないな。

 代わりに、バグピーストレーダーに放り込まれた大量のバグのかけらを餞別としてもらった。

 蓄え過ぎるとゴスペル化してしまうので、ギリギリの量を吸収する。これなら、バニシングワールドを撃っても縮まずに済むかもな。

 

「フォルス」

「来たか、ブルース」

 

 ブルースが呼びにくる。ついに突入、というわけか。

 ブルースに案内されるまま、俺は電子機器の電脳に入る。そこには、広々とした空間が広がっていた。また、プログラムくんが忙しなく動き回っている。

 おお……これがPETの中か。ほどほどの広さもそうだが、なんだか安心感が凄い。敵が襲ってこないというのは、それだけで心が休まる。

 ずっとここに住みたいくらいだ。自由に出入りできないのは不便だけどな。

 …………このまま科学省にドナドナされたりしないよね?

 

「PETは炎山サマが持つことになるだろう」

「……なら安心だな。炎山くんなら落っことしたりしないだろ」

「当然だ」

 

 心外だと言わんばかりの表情だ。主人を信頼しているんだな。

 

「では、俺は自分のPETに戻る」

「ああ。お互い頑張ろうぜ」

「フ……そうだな。働きに期待している」

 

 ブルースが俺のPETから立ち去ると、入れ替わるように炎山くんの顔が映る窓が宙に浮き出てくる。

 

『フォルス、PETの居心地はどうだ?』

「快適そのものだ。心地良すぎて眠ってしまいそうなくらいさ」

『それは何よりだ。奴らのアジトへは船でも相当かかる、今のうちに休んでおくといい』

「そうさせてもらうけど……炎山くん、キミは?」

『俺も休む。船はオートパイロットだ、ブルースやロックマンたちがプログラムを見ていれば何も問題はない』

 

 それ俺も手伝った方がいいんじゃないか、と思ったが、2人もいるなら不要か。

 人間の皆は船に揺られているらしいが、PETの中には揺れは届かない。快適そのものだ。休んでいる内に、現実世界から声がかけられる。

 デモンズ海域にある、WWWのアジトに到着した。

 

 そのまま、俺のPETを持った炎山くん、熱斗くんの2人で進んでいく。ゲームだとトラ吉くんとデカオくんもいたはずだが、合流しなかったらしい。

 しかし、炎山くんはオフィシャルのエースとはいえ、小学生2人でテロ組織のアジトに乗り込むのは普通にヤバいよな……2人以上のオペレーターなんてニホンにはいないだろうから、仕方ないのかもしれないが。

 

「ここがWWWのアジトか」

「なんていうか……ヤバそうなところだな。変な色の廃水が流れてるし」

「ふっ、臆したか?」

「そんな訳ねーだろ! 行こうぜ」

『プラグインできそうなところがあったら、俺を送り込んでくれ。俺は電脳世界から進むよ』

「ああ、分かった」

 

 しかし、プラグイン可能な場所は見つからなかった。実は外壁の剥がれた箇所からはプラグインできるのだが、そこには進む道はなかった。ゲームでも同じだったな。

 そして、問題の部屋に差し掛かる。

 

「あの椅子は一体……」

『パルス・トランスミッション用の装置だな』

「パル……? なんだそれ?」

『平たく言えば、人間の精神を電脳世界に送り込む装置だ。昔科学省で研究されていたんだが……まさか実用化されているとは』

 

 実用化されてるのは知ってたけど、言ってみたかったんだよね。

 

「なるほど、コイツを使わないと扉を開けることができないというわけか」

「じゃあ、俺が——」

「いや、ワタシに任せてもらおう」

 

 名乗り出たのは、後から部屋に入ってきた人物だ。2人は身構えるが、その必要はない。

 コサック博士が、金の髭を撫でながらツカツカと歩いてくる。

 

「……誰だ、WWWの構成員か?」

「おじさん! どうしてここに?」

 

 対照的な反応。熱斗くんは博士と知り合いだったな。まあ、名前までは知らないようだが。

 俺がコサック博士の名前を告げると、炎山くんは記憶の中から元科学省員の情報を引っ張り出す。プロトの反乱以後、科学省を辞した天才科学者。

 フォルテの生みの親、ということまでは知らないみたいだが。

 

 元々科学省で研究されていたパルス・トランスミッションシステム。操るのは、元科学省員である彼が相応しい、ということで、2人は大人しくその椅子を譲った。

 

『炎山くん』

「なんだ?」

『俺のPETを博士に。パルス・トランスミッションシステム用装置にはPETも接続できる……博士1人で電脳世界に行かせるのは、危険過ぎるからな』

「……分かった。博士を助けてやってくれ」

 

 炎山くんは、俺のPETを博士に手渡した。

 博士は驚き、しかしどこか感慨深そうな表情で、それを受け取る。肘掛けにあたる部分の先に、PETを置く。博士がパルスインするのと同時、俺も電脳世界へプラグインする。

 

「キミが……フォルスか。本当に、フォルテの生き写しだな」

「そりゃ、外見データはまるっとコピーしている筈ですからね。まあ、そんなことは後で。ここは敵の本丸です、迅速に扉を開けて、迅速に現実に戻りましょう」

 

 ゲームだとフォルテにやられちゃうからな、この人。その後どうなったのかは描写されてない。死んじゃいないと思うが……怪我しないに越したことはないだろう。

 コサック博士が現実世界の扉を開けようとする間、俺は周囲を警戒する。

 俺の心配をよそに、何事もなく扉は開いた。ふう……

 

「パルスアウトは、パルスインした地点に戻らないと実行できない。さあ、戻りましょう——」

『ほう。コサックか……懐かしい顔じゃ』

 

 老人の嗄れた声が、電脳世界に響き渡る。

 ……!

 空中に、老人の顔の映ったディスプレイが投影される。禿げた頭に、片眼鏡。そしてその奥に光る野望を湛えた瞳が何より印象的なその男こそ。

 

「ワイリー博士……!」

「この人が……!」

 

 WWWのボス、ドクター・ワイリーだ。

 彼は既に勝ち誇った表情で、こちらを見下ろしている。プロトによほど自信があるらしいな。

 

『それに、隣におるのは……ゴスペルで製造されたフォルテのコピー体か。ワシの研究の成果が、このワシに逆らうとはのう。飼い犬に手を噛まれる、というやつか』

「アンタに飼われた覚えはないけどな。でも、感謝はしてるぜ。アンタのお陰で俺はこの電脳世界に生まれ落ちたんだから」

『じゃが、ワシに協力する気はないんじゃろう?』

「まあな」

『なら、お前には消えてもらうしかない。……デリートじゃ』

 

 ワイリーはせせら笑う。だが、俺もそう簡単にやられるつもりはない。

 

「できるかな? 俺を倒すなら、そっちの最大戦力を向けるんだな」

『フォルテのことか? ふ……必要ないのう』

「……舐められたもんだな」

 

 俺もだいぶ強くなった。今更ドリルマン程度にやられる俺じゃない。

 他のWWWのナビが復活していたとしても同じだ。獣化の力を得た俺の相手ができるのは、オリジナル様をおいて他にいないだろう。プロトも相当厄介な相手だろうが、まだ復活していないからな。

 

 しかし、俺の鋭い視線を受けてもワイリーは余裕だ。笑ってすらいる。不気味だ。

 

『オリジナルに似て単純じゃの。戦うだけがお前を倒す手段ではないわ』

「なに?」

「……! イカン、フォルス!」

 

 コサック博士が俺を呼ぶ。慌てたような声に振り返ろうとして——体の異変に気付いた。

 

「ぐ、ううっ……!?」

 

 熱い。

 体の奥底から、燃えるような熱が込み上げてくる。

 力が、溢れる……コントロールできないほどの力が。

 

「こ、これは……俺の中の、バグか……!」

『名答じゃ。お主はバグ集合体……電脳獣と同じように、バグの力を用いて極めて強力なナビを作り出すために作られた存在。しかし、バグというのは本来好ましくはないものよ。簡単に増殖し、膨張する……今のお前の状態のようにのう!』

 

 くそっ……

 この電脳に何か仕掛けやがったな。俺のバグを暴走させる何かを。

 

『さあ、力を解放するのじゃ! そして我々の創り出した電脳獣——ゴスペルと化し、プロトと共にネットワーク社会を破壊し尽くすのじゃ!』

 

 体が変わっていくのが分かる。獣化の時よりもさらに深く、大きく。俺の体がゴスペルに変わっていく……!

 

「フォルス!」

 

 コサック博士が駆け寄るが……返事をする余裕がない。

 今の俺は、湧き上がる力と衝動を抑えるのに手一杯だ。

 

「フォルス、気をしっかり保つのだ! バグに飲まれるな!」

『ムダじゃ! かつてゴスペルが顕現したのと同等のバグを注ぎ込んだ。暴走は時間の問題よ!』

 

 2人の声が聞こえるが、反応できない。

 まずい、もう限界だ……

 

 そのまま、テレビの電源が消えるように、俺の意識は途切れた。

 

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