偽フォルテになりまして   作:レイトントン

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第16話

 バグの嵐が俺の体を駆け巡る。

 先の暴走があるというのに、なんの躊躇いもないのは、コツを掴んだからだ。自分の中に眠るゴスペルが鎧となり、彼を獣の姿へと変えていく。

 ゴスペルビーストになるのに、そう時間はかからなかった。

 

「くくっ、そう、その姿だ! 報告にあったゴスペルのチカラをコントロールした形態……貴様にあって俺にないモノ!」

 

 フォルテは喜色を湛えて飛びかかる。アースブレイカーか。だが、今の俺のスピードはオリジナルを上回っている。

 避けられたことを気にした様子もなく、フォルテは一層笑みを深めた。

 

「……何がおかしい」

「おかしいのではない、喜んでいるのだ。俺の模倣であるお前がその力を使えるということは」

 

 フォルテの腕が剣へと変わる。

 

「貴様を喰らえば俺も使いこなせるということだ!」

 

 三連撃。ダークアームブレードによる攻撃が襲いかかるが、鋭く伸びる爪により受け、流し、鍔迫り合って攻撃を防ぎ切る。

 獣化の興奮状態を、良い感じにセーブできている。慣れというのは偉大だな。

 

「確かに、お前は俺のオリジナルだ。それに、ゲットアビリティプログラムもある……俺を吸収すれば、使えるようになるかもな。だが、オリジナル様よ。こんな俺でも、お前に優るところがあるんだよ……チンケな特技だがな」

 

 バグ集合体である俺にとっての、レゾンデートル。バグを操り己が力とすることは、この俺、フォルスの最大の武器だ。

 

「他の全部はお前が上で構わないさ。だけど、ここだけは譲れない。ゲットアビリティプログラムだろうがなんだろうが、俺よりバグを使いこなせてたまるかよ!」

 

 もう同じ手を食うつもりはない。

 ワイリーの罠も警戒しながら、フォルテと渡り合う。もしまたバグを注ぎ込まれたら、バニシングワールドの餌にしてやればいい。容量を超えるバグを攻撃として利用してやるのだ。罠が来ると分かっていれば、対策は容易い。

 

 それに、先の暴走で得たものがなかったわけでもない。

 

 獣のスピードで、オリジナルを攻め立てる。シューティングクローによる連続攻撃。中空から降り注ぐ爪を、フォルテはエクスプロージョンで迎え撃つ。

 

「バトルチップ『アクアソード』」

「バトルチップ『ヒートブレード』」

 

 互いにバトルチップの力で呼び出した剣を叩きつける。瓜二つの俺とフォルテが逆さまに剣を振るう様は、まるで鏡写しのようだ。

 

 互角の攻防は続く。フォルテがポイズンアヌビスを設置すれば、以前のバトルから対策として手に入れたポルターガイストで逆利用する。こちらがプログラム・アドバンス『ヒートスプレッド』を発動すれば、フォルテは対抗して『アクアスプレッド』で相殺させた。

 バトルチップの応酬では埒があかないと見たのか。フォルテは、己の鍛えた技を多用し始めた。シューティングバスター、ヘルズローリング、ダークネスオーバーロード……フォルテが1人で電脳世界を生き抜くために編み出した技。これを彼以上に上手く扱えるものなどいない。威力、熟練度共に模造品である俺は大きく劣っている。

 

 だから、正面からの勝負を避けた。

 パワーで劣る俺は、獣化のスピードを活かして回避を続け、僅かな隙に攻撃を試みるヒットアンドアウェイの戦法を取る。

 フォルテの纏うオーラと、その身のこなしによってそのほとんどが躱され、あるいは防がれてしまう。しかし、僅かずつ、本当に微かにダメージはある。

 

 ——行ける

 

 押しているのは自分だ。

 フォルテの方が、攻撃力も戦闘経験も上。しかし、バグの制御による獣化で得た速度は、オリジナルをも上回っている。

 勝てる。

 これなら、コサック博士の願いを叶えることもできそうだ。

 

 今まで通りに、攻撃を避け、軽い一撃で僅かだけ傷を負わせようと爪を振るい、気付く。

 

「……傲慢だな」

 

 フォルテが、紫紺のオーラを纏っていることに。

 

「貴様とはこれで3度目の対峙になる。1度目は、セレナードに助けられなければ俺に楯突くこともままならない弱者だった。2度目も同じだ。仲間を増やし、バトルチップの収集もしたようだが、その程度で俺に勝てる筈もない。……しかし、今は違う。バグの力を制御し、新たな形態を手に入れた。貴様は強くなった。それは認めてやる。……だが、心持ちは相変わらず甘いようだな」

 

 ドリームオーラを纏ったフォルテは、呆れたように指を立てる。

 

「1つ聞こう。成長しているのが自分だけだと思ったか?」

「…………!」

 

 確かに、その通りだ。そもそも、フォルテは無限に成長するナビ。あれから強化されていない訳がないじゃないか。

 

 互角の戦いが、一方的になり始めた。

 見た目にはまだ互角だ。お互いの攻撃は相手へのダメージとはなっていない。こちらが速度で全て躱す。フォルテはドリームオーラで防ぐ。

 しかし、こちらはどんどん力を消費しているのに対し、フォルテには余裕すらある。

 

 回避し続けるのも、気力を振り絞っている状態だ。

 このままではいずれ決壊する。

 

 ヒットアンドアウェイは、もう無理だ。小技ではドリームオーラを突破できない。いたずらに体力を消耗するだけだ。

 

(この状況を突破する方法は、ないではない。隙を作って大技を叩き込めばいい。……けど、その考えはフォルテも承知のはず。できるのか? 警戒しているフォルテを相手に、隙を作れるか?)

 

 策を考える。

 バニシングワールドを放つ時間が欲しい。

 

 オーラを引っ剥がすならスーパーキタカゼだが、あのチップは探しても見つからなかった。

 フラッシュボムやブラインドで目眩しをしてはどうだろうか。いいやダメだ。あの手のチップは、バリアを貼った相手には効かないはずだ。オーラだとどうかは分からないし、もしかすればゲームと違いバリアを貫通するかもしれないが、分の悪い賭けだ。

 

 出の早いフミコミクロスを当てるか。それも賭けだ。あのチップは扱いがかなり難しい。いや、一太刀当てること自体は、実は簡単だ。だが、2連撃を両方当てるとなると、かなりの技巧が要求される。フォルスはキャノーダム等の動かない的にしか当てたことはない。そしてドリームオーラは、2発当てないと破れない。

 

 いっそ、ここは退却するか。

 それもできない。今でなければ、それは一つの手だったろう。しかし、今逃げればプロト復活は免れない。プロトの実力がどれほどかは分からないが、地面から突然襲いかかってくる分体を避けられなければ、取り込まれてしまう。一撃を貰うのも許されないというのは、相当な神経を削るはずだ。可能であれば、相手にしたくない。

 

 自分に打てる手は無い。だから、攻撃の頻度を減らし、回避に比重を置く。

 

「どうした、それではいつまで経っても俺を倒せんぞ」

「そうかもな。このままじゃジリ貧で俺の負け濃厚だよ……俺が1人だったらな」

「……なるほど」

 

 時間稼ぎか、とフォルテは呟いた。

 卑怯とか言われないか、と心配だったが、彼は特に何を言うでもなく、攻撃の密度を高めた。

 

「くっ!」

「一対一では俺には勝てんと踏んだか」

「初めは行けるかも、とか思ったけど、やっぱそんなことはなかったんでね」

「正しいな。貴様は一度目も他人と組んで俺を退けた。二度目は組んだ相手の力が足りなかったようだが、今の貴様の実力であれば、増援が来れば分が悪いのはこちらだな」

 

 意外だな、と場違いにも思う。

 フォルテは孤高にして最強の存在。他の追随を許さない、圧倒的な実力と、それに相応しい自負がある。

 そんな彼が、増援ありきとはいえ自らの不利を認めるとは。

 

 そんな思いが顔に出ていたのか、フォルテはにやりと笑う。

 

「何も不思議ではない。言っただろう。貴様は強くなった……俺のコピーだけのことはある」

「認めて貰えた、って考えていいのか」

「言った通りだ。俺のコピーとしては及第点をくれてやる。しかし、コピーがオリジナルの邪魔をするとはな。ワイリーめ、飼い犬に手を噛まれるとはこのことだ」

 

 忌々しげな台詞とは裏腹に、フォルテはどこか嬉しそうだ。本来なら、今頃ワイリーはフォルテコピーの軍団を手に入れていたはずだった。プロト復活、世界征服はもっとスムーズにいっていたはずだが、フォルテはどう考えていたのか。

 ともかく、劣化コピーを受け入れていなかった彼は、今目の前で相対するこの俺を自身のコピーとして認めた。思わず、笑みが溢れる。一刻を争う状態なのに、自らの命が脅かされる危機なのに。

 

(ロックマンが来るまであとどのくらいだ? おかしいな。世界を救うために、コサック博士のために、早く来てくれと願うのが正しいはずなのに)

 

 もう少しだけ、自分の実力をフォルテに示したいなんて。

 けれど、名残惜しい時間ももう終わる。

 遅れてきたヒーローが到着したのだ。

 腕を振り上げたフォルテの眼前を、閃光が走り抜ける。

 フォルテと俺、二人が同時に向けた視線の先には、腕のバスターを構えたロックマンの姿があった。

 

「フォルス、お待たせ!」

「ごめんな、ぼうえいロボに手間取った! けど、もう大丈夫! 一緒に戦うぞ!」

 

 頼もしい援軍の到着。これで状況は、

 

「そちらが有利……か。ならばこちらも、隠していた手を使わせてもらう」

 

 隠していた手?

 新たな形態なんて、この時点のフォルテが持っていただろうか。まさか、フォルテXXにでもなるのではないかと警戒を強めたところで——

 肉の地面から、発光する柱が突き出した。

 

 あれは……!

 

「やめろ、フォルテ!」

「遅い!」

 

 フォルテは腕にエネルギーを集中させ、発光する柱を叩き折る。

 ガーディアンと呼ばれる、光正が作ったプロトを抑えるためのプロテクトプログラムだ。プロトを抑える最後のストッパー。

 かつてワイリーが、帯広シュンをそそのかしてフォルスを……フォルテのコピーを作り上げたのも、これを破壊するためだった。

 

「ガーディアン。この力を手に入れたことで、俺は更なる高みへと登った。最早お前たちに勝ち目はない」

 

 ガーディアンを吸収したフォルテ。しかし、俺は知っている。それを破壊することこそが、ワイリーの狙いだったということに。

 

「フォルテ、気を付けろ! ガーディアンを破壊することは……!」

 

 プロトの解放を意味する。

 それを伝える前に……フォルテの足下から、ゼリー状の物体が飛び出し、彼を捕らえた。

 

「なんだ、コレは……ぐあああッ!」

「フォルテ!!」

 

 あれこそ、プロトの一部。

 オーラを纏っていようが関係ない。完全に不意を突かれたフォルテは、なす術なくプロトに吸収されてしまう。

 

「くはははッ! いいぞ、プロト! その調子で奴らも、そして全ての世界さえ取り込んでしまうのじゃ!」

 

 高らかに嘲笑するワイリー。彼も、パルストランスミッションシステムにより、この電脳に入り込んでいた。プロトを操り、世界を破壊するつもりだろう。しかし、

 

「ぬあッ!? ぷ、プロト! 何故……やめろ、やめるのじゃ! ぐわあああああ!」

 

 ワイリーもまた、プロトに取り込まれる。

 当然だ。暴走するプロトに、理性などない。ただただ全てを吸収、あるいは破壊し尽くす怪物だ。

 フォルテとワイリー。最大の敵であったはずの二人が取り込まれ、目の前に復活した、世界最悪の怪物が、鋼鉄の鎧を着込んだようなその姿を現す。

 

「熱斗くん、フォルス!」

「ああ、ここでこいつを止めなきゃ、俺たちに明日はない! やるぞ、二人とも!」

 

 これほどの強大な敵を相手に、熱斗とロックマンは一歩も引いた様子を見せない。やっぱり凄いな、この二人は。まさにヒーローだ。

 

「ラストオペレーション、セット!」

「イン!」

 

 掛け声と共に、二人のシンクロ率が急激に上昇していく。

 パルストランスミッションにより、二人が同時に電脳世界に存在することになり、双子の彼らのシンクロ率が跳ね上がっているのだ。

 ここに俺の獣化の力を含めて考えれば、いかにプロト相手といえど勝機はある。

 

 そんな思考の最中、それを見た俺は獣のスピードでその場を退避した。

 プロトの胸部から突き出した鋭い針。それを捉えた瞬間、体は反射的に動いていた。

 先ほどまで俺が居た空間を、雷撃が通り抜ける。バトルチップでいう、プロトアームΣ。凶悪な攻撃をいとも容易く繰り出してくる。当たったらどれだけのダメージなのか。考えたくもない。

 

 それで終わりではない。逃げる俺に、鋼鉄の爪が襲いかかる。これも、当たったら終わりくらいに考えていた方がいいだろう。

 

 これが、プロトの攻勢か。まるで嵐のような攻撃の幕だ。

 その上、核を攻撃しなければ、奴にダメージは入らない。厄介極まりない相手だ。

 

「ロックマン、俺が奴の注意を引く。その内に奴の腹に連続で攻撃するんだ! 奴のボディを掻き分け、核を攻撃しなければ倒せない」

「分かった! 気を付けて!」

 

 俺はシューティングバスターを乱れ撃つ。鋼鉄のボディに弾かれるが、奴の注意がこちらを向いた。無数の銃口が姿を見せ、こちらに向く。

 だが、手数重視の技なら好都合だ。こちらにはオーラがある。防いでいるうちに、ロックマンに攻撃を——

 

「フォルス、下だ!」

「ッ!」

 

 ロックマンの掛け声。咄嗟にその場を離れる。

 その瞬間、プロトの分体が地面を這い出し、その場を覆い尽くした。

 危ない、吸収されるところだった。くそ、足下にも注意しなければならないなんて、厄介極まりない。

 ……なんて、よそ見をする暇なんてなかったというのに。

 

 回避した先。

 そこに、プロトの腹から、極大のミサイルが放たれた。

 プロトアームΩ。ゲーム最高レベルの攻撃が、俺に直撃した。




アドコレ発売おめでとうございます。




全然更新できなくてすみません。普通にエタりそうというか半分、いや九割エタってました。
でもアドコレと、読者様の温かいコメントが私を引き戻してくれました。公式からの供給と読者の皆様ありがとうございます。
次かその次くらいで完結になりそうなので、そこまで頑張ります。アドコレをプレイしつつ。
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