バグの嵐が俺の体を駆け巡る。
先の暴走があるというのに、なんの躊躇いもないのは、コツを掴んだからだ。自分の中に眠るゴスペルが鎧となり、彼を獣の姿へと変えていく。
ゴスペルビーストになるのに、そう時間はかからなかった。
「くくっ、そう、その姿だ! 報告にあったゴスペルのチカラをコントロールした形態……貴様にあって俺にないモノ!」
フォルテは喜色を湛えて飛びかかる。アースブレイカーか。だが、今の俺のスピードはオリジナルを上回っている。
避けられたことを気にした様子もなく、フォルテは一層笑みを深めた。
「……何がおかしい」
「おかしいのではない、喜んでいるのだ。俺の模倣であるお前がその力を使えるということは」
フォルテの腕が剣へと変わる。
「貴様を喰らえば俺も使いこなせるということだ!」
三連撃。ダークアームブレードによる攻撃が襲いかかるが、鋭く伸びる爪により受け、流し、鍔迫り合って攻撃を防ぎ切る。
獣化の興奮状態を、良い感じにセーブできている。慣れというのは偉大だな。
「確かに、お前は俺のオリジナルだ。それに、ゲットアビリティプログラムもある……俺を吸収すれば、使えるようになるかもな。だが、オリジナル様よ。こんな俺でも、お前に優るところがあるんだよ……チンケな特技だがな」
バグ集合体である俺にとっての、レゾンデートル。バグを操り己が力とすることは、この俺、フォルスの最大の武器だ。
「他の全部はお前が上で構わないさ。だけど、ここだけは譲れない。ゲットアビリティプログラムだろうがなんだろうが、俺よりバグを使いこなせてたまるかよ!」
もう同じ手を食うつもりはない。
ワイリーの罠も警戒しながら、フォルテと渡り合う。もしまたバグを注ぎ込まれたら、バニシングワールドの餌にしてやればいい。容量を超えるバグを攻撃として利用してやるのだ。罠が来ると分かっていれば、対策は容易い。
それに、先の暴走で得たものがなかったわけでもない。
獣のスピードで、オリジナルを攻め立てる。シューティングクローによる連続攻撃。中空から降り注ぐ爪を、フォルテはエクスプロージョンで迎え撃つ。
「バトルチップ『アクアソード』」
「バトルチップ『ヒートブレード』」
互いにバトルチップの力で呼び出した剣を叩きつける。瓜二つの俺とフォルテが逆さまに剣を振るう様は、まるで鏡写しのようだ。
互角の攻防は続く。フォルテがポイズンアヌビスを設置すれば、以前のバトルから対策として手に入れたポルターガイストで逆利用する。こちらがプログラム・アドバンス『ヒートスプレッド』を発動すれば、フォルテは対抗して『アクアスプレッド』で相殺させた。
バトルチップの応酬では埒があかないと見たのか。フォルテは、己の鍛えた技を多用し始めた。シューティングバスター、ヘルズローリング、ダークネスオーバーロード……フォルテが1人で電脳世界を生き抜くために編み出した技。これを彼以上に上手く扱えるものなどいない。威力、熟練度共に模造品である俺は大きく劣っている。
だから、正面からの勝負を避けた。
パワーで劣る俺は、獣化のスピードを活かして回避を続け、僅かな隙に攻撃を試みるヒットアンドアウェイの戦法を取る。
フォルテの纏うオーラと、その身のこなしによってそのほとんどが躱され、あるいは防がれてしまう。しかし、僅かずつ、本当に微かにダメージはある。
——行ける
押しているのは自分だ。
フォルテの方が、攻撃力も戦闘経験も上。しかし、バグの制御による獣化で得た速度は、オリジナルをも上回っている。
勝てる。
これなら、コサック博士の願いを叶えることもできそうだ。
今まで通りに、攻撃を避け、軽い一撃で僅かだけ傷を負わせようと爪を振るい、気付く。
「……傲慢だな」
フォルテが、紫紺のオーラを纏っていることに。
「貴様とはこれで3度目の対峙になる。1度目は、セレナードに助けられなければ俺に楯突くこともままならない弱者だった。2度目も同じだ。仲間を増やし、バトルチップの収集もしたようだが、その程度で俺に勝てる筈もない。……しかし、今は違う。バグの力を制御し、新たな形態を手に入れた。貴様は強くなった。それは認めてやる。……だが、心持ちは相変わらず甘いようだな」
ドリームオーラを纏ったフォルテは、呆れたように指を立てる。
「1つ聞こう。成長しているのが自分だけだと思ったか?」
「…………!」
確かに、その通りだ。そもそも、フォルテは無限に成長するナビ。あれから強化されていない訳がないじゃないか。
互角の戦いが、一方的になり始めた。
見た目にはまだ互角だ。お互いの攻撃は相手へのダメージとはなっていない。こちらが速度で全て躱す。フォルテはドリームオーラで防ぐ。
しかし、こちらはどんどん力を消費しているのに対し、フォルテには余裕すらある。
回避し続けるのも、気力を振り絞っている状態だ。
このままではいずれ決壊する。
ヒットアンドアウェイは、もう無理だ。小技ではドリームオーラを突破できない。いたずらに体力を消耗するだけだ。
(この状況を突破する方法は、ないではない。隙を作って大技を叩き込めばいい。……けど、その考えはフォルテも承知のはず。できるのか? 警戒しているフォルテを相手に、隙を作れるか?)
策を考える。
バニシングワールドを放つ時間が欲しい。
オーラを引っ剥がすならスーパーキタカゼだが、あのチップは探しても見つからなかった。
フラッシュボムやブラインドで目眩しをしてはどうだろうか。いいやダメだ。あの手のチップは、バリアを貼った相手には効かないはずだ。オーラだとどうかは分からないし、もしかすればゲームと違いバリアを貫通するかもしれないが、分の悪い賭けだ。
出の早いフミコミクロスを当てるか。それも賭けだ。あのチップは扱いがかなり難しい。いや、一太刀当てること自体は、実は簡単だ。だが、2連撃を両方当てるとなると、かなりの技巧が要求される。フォルスはキャノーダム等の動かない的にしか当てたことはない。そしてドリームオーラは、2発当てないと破れない。
いっそ、ここは退却するか。
それもできない。今でなければ、それは一つの手だったろう。しかし、今逃げればプロト復活は免れない。プロトの実力がどれほどかは分からないが、地面から突然襲いかかってくる分体を避けられなければ、取り込まれてしまう。一撃を貰うのも許されないというのは、相当な神経を削るはずだ。可能であれば、相手にしたくない。
自分に打てる手は無い。だから、攻撃の頻度を減らし、回避に比重を置く。
「どうした、それではいつまで経っても俺を倒せんぞ」
「そうかもな。このままじゃジリ貧で俺の負け濃厚だよ……俺が1人だったらな」
「……なるほど」
時間稼ぎか、とフォルテは呟いた。
卑怯とか言われないか、と心配だったが、彼は特に何を言うでもなく、攻撃の密度を高めた。
「くっ!」
「一対一では俺には勝てんと踏んだか」
「初めは行けるかも、とか思ったけど、やっぱそんなことはなかったんでね」
「正しいな。貴様は一度目も他人と組んで俺を退けた。二度目は組んだ相手の力が足りなかったようだが、今の貴様の実力であれば、増援が来れば分が悪いのはこちらだな」
意外だな、と場違いにも思う。
フォルテは孤高にして最強の存在。他の追随を許さない、圧倒的な実力と、それに相応しい自負がある。
そんな彼が、増援ありきとはいえ自らの不利を認めるとは。
そんな思いが顔に出ていたのか、フォルテはにやりと笑う。
「何も不思議ではない。言っただろう。貴様は強くなった……俺のコピーだけのことはある」
「認めて貰えた、って考えていいのか」
「言った通りだ。俺のコピーとしては及第点をくれてやる。しかし、コピーがオリジナルの邪魔をするとはな。ワイリーめ、飼い犬に手を噛まれるとはこのことだ」
忌々しげな台詞とは裏腹に、フォルテはどこか嬉しそうだ。本来なら、今頃ワイリーはフォルテコピーの軍団を手に入れていたはずだった。プロト復活、世界征服はもっとスムーズにいっていたはずだが、フォルテはどう考えていたのか。
ともかく、劣化コピーを受け入れていなかった彼は、今目の前で相対するこの俺を自身のコピーとして認めた。思わず、笑みが溢れる。一刻を争う状態なのに、自らの命が脅かされる危機なのに。
(ロックマンが来るまであとどのくらいだ? おかしいな。世界を救うために、コサック博士のために、早く来てくれと願うのが正しいはずなのに)
もう少しだけ、自分の実力をフォルテに示したいなんて。
けれど、名残惜しい時間ももう終わる。
遅れてきたヒーローが到着したのだ。
腕を振り上げたフォルテの眼前を、閃光が走り抜ける。
フォルテと俺、二人が同時に向けた視線の先には、腕のバスターを構えたロックマンの姿があった。
「フォルス、お待たせ!」
「ごめんな、ぼうえいロボに手間取った! けど、もう大丈夫! 一緒に戦うぞ!」
頼もしい援軍の到着。これで状況は、
「そちらが有利……か。ならばこちらも、隠していた手を使わせてもらう」
隠していた手?
新たな形態なんて、この時点のフォルテが持っていただろうか。まさか、フォルテXXにでもなるのではないかと警戒を強めたところで——
肉の地面から、発光する柱が突き出した。
あれは……!
「やめろ、フォルテ!」
「遅い!」
フォルテは腕にエネルギーを集中させ、発光する柱を叩き折る。
ガーディアンと呼ばれる、光正が作ったプロトを抑えるためのプロテクトプログラムだ。プロトを抑える最後のストッパー。
かつてワイリーが、帯広シュンをそそのかしてフォルスを……フォルテのコピーを作り上げたのも、これを破壊するためだった。
「ガーディアン。この力を手に入れたことで、俺は更なる高みへと登った。最早お前たちに勝ち目はない」
ガーディアンを吸収したフォルテ。しかし、俺は知っている。それを破壊することこそが、ワイリーの狙いだったということに。
「フォルテ、気を付けろ! ガーディアンを破壊することは……!」
プロトの解放を意味する。
それを伝える前に……フォルテの足下から、ゼリー状の物体が飛び出し、彼を捕らえた。
「なんだ、コレは……ぐあああッ!」
「フォルテ!!」
あれこそ、プロトの一部。
オーラを纏っていようが関係ない。完全に不意を突かれたフォルテは、なす術なくプロトに吸収されてしまう。
「くはははッ! いいぞ、プロト! その調子で奴らも、そして全ての世界さえ取り込んでしまうのじゃ!」
高らかに嘲笑するワイリー。彼も、パルストランスミッションシステムにより、この電脳に入り込んでいた。プロトを操り、世界を破壊するつもりだろう。しかし、
「ぬあッ!? ぷ、プロト! 何故……やめろ、やめるのじゃ! ぐわあああああ!」
ワイリーもまた、プロトに取り込まれる。
当然だ。暴走するプロトに、理性などない。ただただ全てを吸収、あるいは破壊し尽くす怪物だ。
フォルテとワイリー。最大の敵であったはずの二人が取り込まれ、目の前に復活した、世界最悪の怪物が、鋼鉄の鎧を着込んだようなその姿を現す。
「熱斗くん、フォルス!」
「ああ、ここでこいつを止めなきゃ、俺たちに明日はない! やるぞ、二人とも!」
これほどの強大な敵を相手に、熱斗とロックマンは一歩も引いた様子を見せない。やっぱり凄いな、この二人は。まさにヒーローだ。
「ラストオペレーション、セット!」
「イン!」
掛け声と共に、二人のシンクロ率が急激に上昇していく。
パルストランスミッションにより、二人が同時に電脳世界に存在することになり、双子の彼らのシンクロ率が跳ね上がっているのだ。
ここに俺の獣化の力を含めて考えれば、いかにプロト相手といえど勝機はある。
そんな思考の最中、それを見た俺は獣のスピードでその場を退避した。
プロトの胸部から突き出した鋭い針。それを捉えた瞬間、体は反射的に動いていた。
先ほどまで俺が居た空間を、雷撃が通り抜ける。バトルチップでいう、プロトアームΣ。凶悪な攻撃をいとも容易く繰り出してくる。当たったらどれだけのダメージなのか。考えたくもない。
それで終わりではない。逃げる俺に、鋼鉄の爪が襲いかかる。これも、当たったら終わりくらいに考えていた方がいいだろう。
これが、プロトの攻勢か。まるで嵐のような攻撃の幕だ。
その上、核を攻撃しなければ、奴にダメージは入らない。厄介極まりない相手だ。
「ロックマン、俺が奴の注意を引く。その内に奴の腹に連続で攻撃するんだ! 奴のボディを掻き分け、核を攻撃しなければ倒せない」
「分かった! 気を付けて!」
俺はシューティングバスターを乱れ撃つ。鋼鉄のボディに弾かれるが、奴の注意がこちらを向いた。無数の銃口が姿を見せ、こちらに向く。
だが、手数重視の技なら好都合だ。こちらにはオーラがある。防いでいるうちに、ロックマンに攻撃を——
「フォルス、下だ!」
「ッ!」
ロックマンの掛け声。咄嗟にその場を離れる。
その瞬間、プロトの分体が地面を這い出し、その場を覆い尽くした。
危ない、吸収されるところだった。くそ、足下にも注意しなければならないなんて、厄介極まりない。
……なんて、よそ見をする暇なんてなかったというのに。
回避した先。
そこに、プロトの腹から、極大のミサイルが放たれた。
プロトアームΩ。ゲーム最高レベルの攻撃が、俺に直撃した。
アドコレ発売おめでとうございます。
全然更新できなくてすみません。普通にエタりそうというか半分、いや九割エタってました。
でもアドコレと、読者様の温かいコメントが私を引き戻してくれました。公式からの供給と読者の皆様ありがとうございます。
次かその次くらいで完結になりそうなので、そこまで頑張ります。アドコレをプレイしつつ。