偽フォルテになりまして   作:レイトントン

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第17話

 激しい衝撃と痛み。

 ガードに回した片腕は吹き飛び、獣化も解ける。

 しくじった。油断したつもりはなかったが、ほんの僅かに足下に気を取られた隙に、大技を叩き込まれた。

 

 身体は……なんとか動く。だが、鉛のように重い。

 遠目に、ロックマンが一人で……いや、熱斗くんと二人で、奮闘しているのが見える。まずい、早く助太刀しないと。あの猛攻、身一つで受け切るのはかなり辛いはずだ。

 いや……俺なんかの助けがなくても、ロックマンと熱斗くんなら、あのプロトだって倒せるのか?

 ゲームでは、結局二人がプロトを倒した。俺の中の記憶にも、ゴスペルの強大な力を打ち破った彼らの戦いぶりは鮮烈に残っている。

 彼らなら、必ずプロトを倒してくれるだろう。そんな、予感じみた確信があった。

 

 ……だからって、このままぶっ倒れていて良いわけがない。なんのためにここまで来た。

 彼らと力を合わせて、WWWをぶっ潰すため。そして、俺はオリジナルの脅威から——

 

 そこまで考えて、俺は自分の、今まで考えてもいなかった自分の感情に気づく。

 そうだ。

 俺は、デリートされたくない。死にたくない。これは本当だ。

 だから、俺をデリートするフォルテから逃げて、戦って。生き延びようとしていた。

 でも、さっき勝負した時、フォルテに認められた気がして、俺は……嬉しかったんだ。それに俺、さっきフォルテがプロトに食われて、悲しかったし、プロトに怒りが湧いてきた。

 

 おかしいよな。散々デリートされかけておきながら、助けたいって思ってるんだ。フォルテを。

 そりゃ、俺のイノチを狙うのは勘弁して欲しいけど……やっぱ俺のオリジナルだし。

 偽物の俺の方がダラダラして長生きするのも、なんか違うような気もするわけだ。そう、それに、コサック博士だって、フォルテが生きていた方が喜ぶに決まっている。

 

「そんじゃあいっちょ、助けてやりますか……!」

 

 こんなもんで恩を感じるフォルテじゃないだろうけど、それでいい。

 敵を生かして命を狙われるなんて間抜けもいいところだ。でも、それでいい。

 俺は、俺のやりたいようにやってやる。

 

「フォルス! まだ動かない方がいいって!」

「熱斗くん、心配してくれてサンキューな。でも、熱斗くんがオペレートしているとはいえ、流石にロックマンだけじゃきついだろ」

「ボクたちなら大丈夫だよ。少しでも回復するんだ」

 

 光兄弟は、相変わらず優しいな。でも、俺だけが寝ているわけにはいかない。

 それに、試してない大技もある。これを使えば、プロトの隙を作ることくらい、きっとできるさ。

 なんせ……()()()()()()()()()になるんだから。

 

「なあ、熱斗くん、ロックマン。忘れちゃいないか? 俺が一体、どこの誰に作られたのか。俺を作ったのは、あのネットマフィアの首領、帯広シュンなんだよ」

『シュンが作ったのは知ってるけど……それがなんなんだよ?』

「……いや! 思い出して、熱斗くん! 以前ボクたちが、フォルテのコピーを倒した後は……」

「そうだ。帯広シュンはマシンの出力を上げて、バグの力を増強させた。その結果どうなったか……」

 

 そして、彼らはその時戦っているんだ。

 フォルテのコピー体と。そして、それがバグの力を得て、暴走した姿と。

 

「プロトの巨大な力を抑えるには、こっちも同等の力を出さないとな」

「けど、フォルス。その力は……」

「大丈夫」

 

 ロックマンたちの制止を振り払い、自分の中のバグを増殖させる。

 いや、それだけじゃない。この電脳世界にひしめくバグすら吸収して、巨大な獣の形を作り上げる。

 ロックマンたちは俺の暴走を気にしているようだが、問題ない。皮肉にも、先ほどワイリーによって暴走させられたことによって、コツを掴んだ。

 巨大な黒き獣。ネットマフィアが作り上げた、擬似的な電脳獣。

 ゴスペルと化した俺は、その巨大な身体で突進をかます。プロトのボディは大きくのけ反った。流石に、電脳空間に根を張っているだけはあり、引き剥がせはしない。しかし、衝撃により大きな隙が出来る。

 やはり、デカいってのは強いってことだ。質量は正義。

 

「フォルス! その姿は……!」

『大丈夫、意識はしっかりしてる。この巨体ならすぐには吸収もデリートもされないはずだ。今のうちにプロトを……おっと!』

 

 流石に、そう簡単にはいかないか。

 プロトアームΣで攻撃されそうなところを、ブレスオブゴスペルで相殺する。

 いいぞ、力だけなら拮抗している。問題は、この形態が長続きしないことと、じわじわ足下から吸収されそうになってることだ。

 このままのペースだと、あと何分もしないうちに、プロトに取り込まれてしまうだろう。だが、問題ない。俺の狙いは、プロトと俺で僅かでもいい、拮抗状態を作ること。そしてその狙いは成功している。

 

『ロックマン、バスターをチャージしといてくれ! 核を露出させる!』

「けど、フォルス。君の身体が既に吸収されかかってる。急いで離れるんだ!」

『構うな、今が最大の好機だろ。これを逃したらもう二度とないぞ、こんなチャンスは。プロトを世に放したら、ネットワーク社会は終わりだ。俺を気にせずやるんだ』

 

 押さえつけられたプロトは鋼鉄の爪で暴れ回るが、俺の爪だって負けちゃいない。シューティングクローが、プロトの攻撃を確実に抑え込む。しかし、俺のゴスペル化も完全ではないらしい。さっきからプロトのバルカンでちくちく削られているのだ。吸収もされかかってるし、口を閉じてる間はガードされていたゲームのゴスペルほどの硬さは得られていないようだ。

 

 このままじゃ核を露出させるだけの攻撃はできない……なんてことはない。

 ゴスペルはデカいだけじゃない。小技も充実してるのだ。それを見せてやろう。

 

『ダークネスクリエイター!』

 

 俺のボディの上に、ナビの幻影が姿を現す。本来はエグゼ2に登場するナビ……倒せなくない方のエアーマンなんかを召喚する技だが、今の俺のこの技は違う。

 現れたのは、俺に倒された、もしくは俺と戦ったWWWのナビたちだ。

 

 フラッシュマンが電撃を浴びせ動きを鈍らせ、

 ビーストマンがその爪と牙で肉壁を削り、

 バブルマンが泡で攻撃を防御し、

 デザートマンが砂で認識を誤魔化し、

 プラントマンが蔦で行動を縛り、

 フレイムマンの炎が再生する肉を焼き止める。

 

 ドリルマンは直接会ったことがないので再現出来なかったが、上々だ。これで核は露出した。後はロックマンに破壊してもらうだけだ。

 

 俺の体も、もう八割がたプロトに飲まれてきている。

 

「フォルス!」

『撃て、ロックマン!!』

 

 俺への呼びかけなんて必要ない。もう、今にも全身が飲み込まれそうだ。だけど、これで良い。今、プロトの警戒は全てこの俺に向いている。同等の大きさ、破壊能力を持ったこの俺に。

 だから、核が露出していようが、それをバスターで狙われていようが、反応しない。俺という脅威を吸収することに、全力を使い尽くしているからだ。

 ……けど、さすがは初期型インターネットといったところだ。

 ロックマンがプロトを倒すより先に、俺の体は吸収され尽くすだろう。

 

 くそ……自力で脱出できるかな。

 無理なら、なんとか後日の捜索で見つけ出してもらうことを祈るしかない。

 

 そう考えながら、ロックバスターの閃光を最後に、俺の視界は閉じた。

 

 

 

 

 肉の壁が、俺の体を包み込んでいる。

 目覚めると、不気味な空間にいた。プロトの体内だと直感的に理解する。体の感覚からして、ゴスペル化は解けていないようだ。吸収されたままの状態で保存されているわけか。

 

 このまま吸収されて死ぬか、救助が来るか。どっちが先になるか、賭けだな。

 自力での脱出は……どうだろう。体は動きそうだけど、この空間を破ることができるだろうか。

 試しに、正面にブレスオブゴスペルを放ってみる。爆発音の後、肉壁はかなり削られたが……残念、突破まではいかないか。

 こりゃ、俺一人の力じゃ無理かな。俺のブレスで肉壁を削ったあとで、薄くなった膜を一瞬で破るような、洗練された強大な力が必要になるだろう。

 

 仕方ない、運を天に任せるしかないか。

 それまではなるべく自分自身のボディを守るために、ゴスペルの姿で力を抑えていようかな。ゴスペル化を解除したら、サイズ的に長くは保たないだろう。

 

「……おい」

『ん? ……うおっ、フォルテ! そっか、プロトに吸収されたんだもんな。そりゃ中にいるか』

 

 声をかけられた方向に目を向ける。プロトの体内には、フォルテの姿があった。彼は外套に身を埋め、休息を取っている。ワイリーの姿は見えないな。

 

「やはりお前か。その姿……バグの力を完全にモノにしたようだな」

『まあ、結局コイツに吸収されちまったけどな』

「フン……お前のことだ、その巨体で的になって陽動を行なっている内に、脱出できないところまで吸収された……そんなところだろう」

 

 うぐっ。鋭い。

 にや、と図星を突いてきたフォルテは邪悪に笑う。が、俺はその姿に違和感を覚えた。俺に対してやけに友好的というか、優しいというか……

 いや。よくよく見れば、フォルテの傷は相当深そうだ。吸収されてそれほど時間は経っていないはずだが、だいぶ体がプロトに分解されている。

 

『……フォルテ』

「黙れ、お前に同情されるほど落ちぶれてはいない。これは俺が俺のやり方で生き、その結果負った傷だ」

『諦めたのか?』

「……フン。この体では、ここから生きては出られん。ニンゲンどもに復讐できなかったのは心残りだが……ここで果てるなら、俺はそれまでの存在だったということだ」

 

 なるほど。あの態度は諦観からくるものだったわけだ。

 自分はどうせここで死ぬし、俺をどうこうする気力もないってか。

 ……………………ムカつくな。

 今、俺が通常の形態なら、外套の襟首をひっ掴んでやったところだ。

 

『なんだ、大したことないんだな。オリジナル様も』

「……なんだと?」

『だってそうだろ。その程度の傷で、こんなやつの体内にちょっと取り込まれたぐらいで自分の命を諦めやがって。プロトの体をぶち破ってやろうって気概もないのか?』

「貴様……!」

『やるか? 今のお前なんかに、これっぽっちも負ける気がしないぞ』

 

 そりゃ、フォルテからしたら、いきなり煽られて怒りが湧いてくるだろう。けど、俺だって同じだ。

 この世界に生まれ落ちてから、俺はずっとフォルテと戦い続けてきた。いや、もっと言うなら、生まれ落ちる前から、か。ゲームの話だけどな。

 ともかく、フォルテは俺にとって生まれてから、そして生まれる前から最強の敵だった。散々苦戦させられて、対策を考え続けて、生き残るために戦い続けてきた。

 俺にとってフォルテは、自らのオリジナルであり、命を狙う宿敵であり、生涯かけての好敵手であり……そして、その強さに憧れた存在でもある。

 

 だから、プロトに取り込まれたコイツを助けたいって思った。

 それが、今のコイツの姿はなんだ?

 こんな弱ったフォルテを、俺は見たくない。

 まるで、自分のイメージ通りの姿じゃないと納得できない厄介オタクだ。けど、俺以上にフォルテの強さを信じてるやつはいない。それだけは、胸を張って言える。

 

「……いいだろう。貴様を粉々にするくらいの力は残ってるということを見せてやる」

『なら、四回戦目だ。やろうぜ。ただし、こんな狭苦しいところじゃ気が乗らない』

「なに?」

『続きは、ここを出てからだ』

「それは……」

『出来ない、とは言わせないぜ。俺を粉々にするくらいの力は……なんだっけ?』

 

 チッ、とフォルテは舌打ちする。

 まんまと嵌めてやった。俺の舌鋒も捨てたもんじゃないみたいだ。

 

「いいだろう。精々、俺の一撃を見て慄け。次はあれが自分に向くのか、とな」

『頼もしいこった。……時間が惜しい、一発で決めるぞ。まず俺が壁を削るから、強烈な一撃でぶち破れ』

「俺に指図をするな……と言いたいところだが、それが最善か。乗ってやる。下手を打つなよ、()()()()

 

 ……………………!

 フォルテが、俺の名前を……!

 こりゃ、やるっきゃないな。フォルテもフォルテで、発破のかけ方が上手いじゃないか。流石は俺のオリジナルだ。

 

『ああ。行くぜ、フォルテ!』

 

 俺は全力のブレスオブゴスペルを放ち、目の前のプロトの内壁を限界まで削る。かなりの手応えはあったが、まだ足りない。だが、それで良い。全く問題はない。

 フォルテが、残る全エネルギーを片腕に集中させている。アースブレイカーの構えだ。その組み合わせは奇しくも、あの史上最強のプログラム・アドバンスと同じ連携。フォルテは、俺たちのボディに同時に出力されたらしい、その名前を叫ぶ。

 

「————ダークメシア!!!!!」

 

 フォルテが腕を振り下ろす。

 そして、世界に大穴が空いた。

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