偽フォルテになりまして   作:レイトントン

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第3話

 セレナード。

 電脳世界最高の防御を持つナビ。

 ウラインターネットを統べる『ウラの王』、ウラランキング一位の実力者だ。

 

 エグゼ3においては裏ボスの一人として出現するが、なんと彼(彼女?)には通常の攻撃が当たらない。チップ、バスター問わずあらゆる攻撃をその身に纏う羽衣でいなされ、カウンターの一撃を放つ。セレナードを倒すには、行動範囲を狭め動けない状態で攻撃を当てるか、数少ない、ヤツが攻撃に移る隙を突いて反撃するしかない。

 初見でコイツと戦って勝てたプレイヤーはどれだけいるのだろうか。エリアスチールからのリュウセイグンでハメる、というのがゲームでの楽な攻略法だったが、ゲームでなく現実となった今、そんな手は通用しないだろう。

 

 ウラインターネットの最奥にて、俺はセレナードと相対していた。家具データが用意してあり、俺とセレナードは対面に座っている。セレナードが柔和な笑みを浮かべているというのにピリピリとしたプレッシャーを感じるのは、恐らく、いや間違いなく後ろに控えるヤマトマンのせいだろう。

 武者のような姿のナビ、ヤマトマン。元オフィシャルの部隊長だったらしい。実力的にどうだったかは知らないが、立場的にはブルースの上司といった具合だろうか。まあ、ヤマトマンがいた時期にブルースがオフィシャルにいたのかは知らないが。

 

「招待に応じてくださり、感謝します。強き者よ」

「こちらこそ、お招きに感謝する。ウラインターネットの王に招待を受けたとなれば、俺も鼻が高いというものだ」

 

 ひとまず、友好的に話は済みそうでホッとする。セレナードがヤマトマンを伴っている姿を見た時は離脱しようかと考えたが、セレナードは元々攻撃型のナビじゃない。二対一とはいえ逃げに徹すればなんとかなるか、と腹を括って椅子に座ったわけだ。

 とは言ったものの、緊張感が凄まじい。俺がネットナビでなく人間ならば、冷や汗が滝のように流れ出ているはずだ。対応を間違えれば、デリートされることもありえる。

 セレナードはにこにこ顔でこちらを見つめてくる。くそ、余裕があるな。流石にウラの王として修羅場を潜っているだけのことはある。

 俺はどうだ? どんな顔をしてる?

 分からない。だが、少なくとも不安を顔に出すわけにはいかない。ああ、意識したら顔が強張ってきた気がする……

 

「そう怖い顔をしないでください。我々は貴方の敵ではないのですよ」

「分かってるさ。元々こういう顔なんだ」

 

 フォルテっていつも仏頂面だしな。とはいえ、口をへの字に曲げているのも失礼かと思ったので、口元をマントで隠す。前々から思っていたが、コレどんな仕組みでできてるんだろうな。

 

「まあ、良いでしょう。申し遅れました。私の名はセレナード。あなたは既にご存知のようですが、このウラインターネットを束ねる者です」

「俺は……俺には、名前はない」

「? どういうことです?」

「ダークマンに言ったとおり、俺は模造品だ。それも、出来損ないのな。オリジナルの名前なんて、他人様に到底名乗れるようなもんじゃない」

 

 内心ではノリノリでフォルテだなんだ言ってるが、それくらいの分別は俺にもある。

 

「変わったナビですね。我々はネットナビ。データの集合体だ。コピー体であっても、オリジナルとなんら変わるところはありませんよ。ロックマンのような例外を除いては、ね」

 

 俺のオリジナルも、その例外なんだよ。

 そう口にしようと思ったが、詮のないことだ。

 それに、俺はフォルテのデータをそのままコピーしたんじゃなくて、フォルテを再現しようと生み出されただけだ。コピーではない。

 

「ロックマンを知っているのか」

「ええ、一応はね。そういうあなたこそ」

「戦ったことがあるからな……結局、俺は倒されてしまったが。彼は強いぞ。何しろ成長速度が凄まじい。いずれアンタを超えるだろうな」

「随分、贔屓にしているのですね。ロックマンを」

「戦ってみれば分かるさ」

 

 そして俺からロックマンに興味を移してくれ。

 なんて打算を組みながら話す。

 セレナードは、微笑を湛えるばかりだ。この反応、読まれているのかいないのか。全然分からん。

 

 しかし、セレナードはなんとなく、俺と話すのを楽しんでいるように見える。

 分からなくもない。他のナビと話す機会なんて、滅多にないだろう。ヤマトマンやダークマンは近くにいるが、それぞれ番人としてシークレットエリアを守護している。オペレーターは、エグゼ3に登場するあるキャラクターであるという説もあるが、たしか公式には公開されていないはずだ。

 しかし、その2人あるいは3人以外に、セレナードが接触するナビは極めて少ない。精々がウラランク1位の座を求めて挑んでくる荒くれ者くらいだろう。

 人間に関しては皆無と言っていいだろう。セレナードの存在を知る人間が、果たしてどれだけいるのやら。

 

「いずれ彼はアンタの前に現れるだろう。高みに至ろうとする者は、同じ高みを目指す者とぶつかるものだ」

「なるほど。それは楽しみですね」

「だろう? ……ああ、高みで思い出した。ロックマンは温厚な性格だから、純粋にネットバトルを楽しめると思うが、俺のオリジナルには気を付けた方がいい」

「あなたのオリジナル、ですか」

「ああ。名前はフォルテ。はっきりいって、オモテもウラも合わせて最強のネットナビだ」

「ほう、そこまで言い切りますか。あなたはオリジナルを随分買っているのですね」

「戦えば分かるさ。アンタはウラの王なんだ、いずれフォルテと相見えるのは確実だ」

 

 原作では、三日三晩に渡る戦いの末にセレナードが辛くも勝利した、という話だったな。

 しかし、フォルテの恐ろしい部分は、その成長性だ。セレナードが戦った時は、恐らくGS形態ではなかっただろうし、その後の作品ではフォルテXX、フォルテBXなんて形態も登場している。ゲットアビリティプログラムにより、敵を倒せば倒すほど成長するフォルテは、いずれ必ずセレナードを超える強さを得る。

 

「俺がこれだけ力を持っているのも、オリジナル様のお陰ってわけさ。まあ、見つかったらデリートされるだろうから、感謝することもないけどな」

「コピー体を、デリートするのですか? そのフォルテとやらは」

「まあ、コピー体っつうか模造品っつうか……そうさ。俺はオリジナルに比べたら弱いからな。あいつにとっては、俺は不要な出来損ないなのさ」

 

 実際、2のメインストーリークリア後に流れるムービーではフォルテは偽物をデリートしている。

 

「俺はデリートされたくないんでね。なんとか逃げ延びるくらいの力は手に入れておこうかなと思ってる」

「なるほど、それでウラインターネットを彷徨う内に、このシークレットエリアに辿り着いたのですね。確かに、このエリアには強力なチップデータやプログラムが数多く眠っていますから」

「そういう訳だ」

 

 ゲームのプレイヤーも、シークレットエリアのバグピーストレーダーにお世話になった方は多いのではないだろうか。10個のバグのかけらを放り込めば、レアチップと交換してくれる優れモノだ。バグかけ10個……ガッツマン……うっ頭が……

 まあ、放り込みすぎるととんでもないことになるから、ご利用は計画的に。

 

「ふむ。アナタの事情は分かりました。強さを求めるなら、このシークレットエリアはうってつけの場所です。アナタならば、自由に出入りして構いませんよ」

「セレナード! それは危険です!」

 

 今まで黙っていたヤマトマンが、ついに辛抱堪らず口を出した。まあ、こんな怪しいナビに彷徨かれちゃたまったもんじゃないだろうな。

 

「ヤマトマン。アナタに口を出して良いと言った覚えはありませんが」

「いいえ、僭越ながら提言させていただきます。この男は身元も分からない上、先ほどまでの話もどこまで信用してよいか分からないではありませんか。それに、もし本当だとして、この男のフリをしてオリジナルがシークレットエリアに忍び込む可能性もあります」

 

 たしかに、それは危険だな。フォルテが俺のフリなんてするかはともかく。

 

「問題ありませんよ。不意打ちでも、騙し討ちでも」

 

 セレナードは、そう微笑んだ。

 凪のような穏やかさ。口にする言葉とはまるで裏腹の態度であるが、その優美とまで言える態度には、余裕がありありと現れている。ウラ最強は伊達じゃないな。ゾッとするぜ。

 

「ま、まあそういうことなら。たまに遊びに来ようかな」

「ええ、是非そうしてください。アナタとはまた話したい」

「そりゃ嬉しい申し出だけど……そんな面白い話したか?」

「ふふっ、誰かと話すこと自体、私にとってはそうあることではないのです。話し相手が増えるだけでも、喜ばしいことなのですよ」

 

 やっぱそうか。まあ、退屈そうだもんな、シークレットエリアにずーっといるってのも。

 

「んじゃ、俺はお暇するかな。サンキュー、セレナード、ヤマトマン。楽しかったぜ」

「ええ、ではまた、フォルテ」

 

 む。

 聞き捨てならない言葉に、俺は足を止めた。

 

「だから、俺は模造品なんだって。俺をその名前で呼ばないでくれ。オリジナル様にキレられちまう」

「しかし……いえ、分かりました。では、何かしら呼び名が必要ですね」

 

 呼び名か。まあ、確かに名前がないと不便ではあるな。いつまでも模造品だのコピーだのじゃあ窮屈でしかたない。

 

「なら、フォルスだ。俺のことは、フォルスと呼んでくれ」

 

 偽の、とか、真実ではない、とかそんな意味の言葉だ。まあ、ニュアンス的にはフェイクの方が正しいんだろうが、こっちの方がフォルテに近いし。

 うん。自分で言うのもなんだが、中々良いネーミングじゃなかろうか。

 

「なるほど……どこまでも自虐的ですね。いいでしょう、再びアナタに逢い見えることを楽しみにしていますよ、フォルス」

「おう。ヤマトマンも、次はそう構えないでくれよな」

 

 俺の言葉に、ヤマトマンは肯定も否定もしなかった。苦笑いしながら、その場を離れる。

 

 ふいー、焦った。まさかいきなりセレナードと遭遇するとは……今後は気を付けよう、マジで。

 さて、シークレットエリアも抜けたし、次はどーすっかなあ。オモテにでも行ってみようかな。

 

 

 

 自らをフォルスと称するナビが立ち去り、ヤマトマンは大きく息を吐いた。最後のセリフこそ気さくな様子だったが、一目見た瞬間に己の消滅を覚悟する程度には、禍々しい存在感を放つナビだった。会話の最中も常に無表情で、まるで感情と言うものが読み取れなかった。

 まさか、かつてオフィシャルの部隊長だった自分がこれほど気圧されるとは。あれほどの恐怖は、かつての電脳獣以来かもしれない。

 

「セレナード。彼は……」

「ヤマトマン。アナタが心配するようなことはありませんよ」

 

 先んじて、セレナードは不安を取り払うようにそう言った。

 

「彼は恐らく、生まれて間もないのでしょう。ゴスペルが壊滅したのはつい先日のこと。ゴスペルとオモテの者たちの戦い、その終盤に生み出されたのだとすれば、自身のボディのコントロールが覚束ない可能性もあります。普通のナビであるなら、それも可愛いものですが……」

 

 あれだけの力を持っているとね、と困ったように笑う。ヤマトマンは、主君が自らを慰めようとしていることを痛感し、その足下に跪いた。

 忠臣のそんな姿を横目に見ながら、セレナードは考える。先程自分が口にした通り、あの黒いナビ、フォルスは恐らく生まれたばかりの存在だ。何を目標とするのかなんてまだ明確に定まっていないだろう。善にも悪にもなり得る、危うい存在だ。ただ、幸いなことに今はまだ善良なナビであるように思える。

 彼が闇の道を行かないように祈るばかりだ、と静けさを取り戻したシークレットエリアで、1人頬杖をつくセレナード。

 しかし、ウラの王は一人考える。ヤマトマンの懸念とは別に、気になるところがあった。

 彼の言葉。彼の行動。彼の突然の出現。

 彼は一体何者なのか。




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