ドリームソードの完成を目指しながら、俺はこの先生き延びるために必要なことを考えた。
そう、とても大事なことが1つある。それは、今がいつなのか、ということだ。つまりは、原作でいうどの時間軸に自分はいるのか。
分かっていることは、シリーズで言う2以降というだけだ。なにせ俺がこうしてインターネットに放たれたのってゴスペルが崩壊してからだしな。そんでセレナードやヤマトマン、ダークマンは倒されていない、というかロックマンと出会ってはいないっぽい。よって2の終わりの空白から3のメインシナリオエンディングまで、そのどこかということになるだろう。
セレナードはロックマンを知っているようだったけど、ロックマンは1の頃からウラインターネットに出入りしてるから、ウラの王であるセレナードが彼のことをある程度知っていても不思議ではない。3にはメインシナリオでセレナードとロックマンたちが会話するシーンもあるが、そこより後とは限らないというわけだ。
今がいつか、ということについてはこのくらいしか情報はないが、オモテに出れば自ずと知れることだろう。大体どんな事件が起こっているのか、掲示板なんかで調べればいいのだ。
フラッシュマンの頃ならN1グランプリという大会の予選が行われていることで分かるはずだし、ビーストマンの事件が終わっているのかはよかよか動物園の事件を調べればすぐに分かる。
そんな具合に、WWW……3の敵組織が起こす事件を追っていけばよいのだ。特に事件が起こっていないようなら、2と3の間の時期、ということになるだろう。
んで、フォルテに出会いそうなシナリオだった場合は即退散。そうでなければ、ちょっとロックマンたちを一目見てみたい……そんな下心を出しながら、俺はオモテに向かった。
3のシナリオのことを考えるなら、ビーチエリアの出入り口から行ったほうが良さそうだな。
道が分からないから、その辺にいるヒールナビに道を聞いてみたが、反応は悪かった。襲いかかってくるか、腰を抜かして逃げ出すかの2パターンだ。
俺の姿はフォルテそのものだから、ビビって逃げ出すのは正直仕方ないと思う。でも襲いかかってくるのはどういう了見なんだ。
試しに1体のヒールナビに聞いてみると、俺の顔がめちゃめちゃガン飛ばしているように見えるらしい。著しい誤解である。
しかし、ウラの連中に対してさえコレだ。このままオモテに出たら、善良な一般市民ナビから通報されてブタ箱行きという筋書きさえ見えてきてしまう。
違うよ。僕悪いナビじゃないよ。
そう訴えたところで、聞く耳持たないだろう。少なくとも、俺が逆の立場だったら絶対信じない。
一旦ユーモアセンスでも探してみるか。なかったら、このままこっそりオモテに行く感じで。
ユーモアセンスというのは、組み込まれたナビがダジャレばかり言うようになるジョークプログラムだ。原作だとネタでしかないが、俺みたいなコワモテが友好的に接するためには案外効果的なプログラムなのかもしれない。
でも、ユーモアセンスってウラでも手に入るんだったっけ。そのあたりの詳細までは分からないな。
またウラ掲示板に行って情報を募るか? ウラスクエアまで行くの面倒だし、どうしようかな。
なんて考えながら歩いていると……なんだか妙な気配を感じた。なんというか、俺を監視するような、付かず離れずを保つ気配だ。
オフィシャルか?
いや、それとも俺を倒そうとするウラの荒くれ者か?
分からない。が、ずっとこの状態ってのも落ち着かないな。
どうするか。ウラの連中だとしたら、オモテに出てしまえば追ってはこないだろう。しかし、オフィシャルだとしたら、俺がオモテに出ようとすれば止めにかかるかもしれない。
なら、ウラスクエアかシークレットエリアまで戻るか? ウラスクエアは中立地帯だし、シークレットエリアは生半可な気持ちで入れる場所じゃない。強力なウイルスやセキュリティに手こずって、俺を監視する余裕なんて生まれないだろう。
……よし、だいぶ距離はあるが、ひとまずウラスクエアまで戻るか。掲示板の件もある。
くるりと踵を返して、ウラスクエアへ戻る道を行く。大丈夫大丈夫、さすがに中立地帯で襲ってきたりはしない筈だ。
しかし、俺は気付いていなかった。
中立地帯で襲われる可能性は薄いが、そこに逃げ込もうとすればその前に襲われる可能性があるということに……
俺が安全地帯へ逃げようとしていることを察してか、気配がどんどん近くなる。やべえ、と気が付いた時にはもう遅い。目の前に、気配の正体と思われるナビが現れた。
なんのことはない、オフィシャルが使用するタイプのノーマルナビ。いわゆるオフィシャルナビ(そのまま過ぎる)だ。ヒールナビばかりのウラでは珍しいが、恐らくオモテでは標準的なタイプのネットナビだな。
しかし、その普通さが、逆に不気味だ。俺の前に姿を現して、こちらを睨むばかりで何も言ってこないとはどういう了見だろう。
「……ようやく見つけたぞ、フォルテ!」
口に出したのは、俺のオリジナルの名前。
それによって、一気に俺の警戒心は跳ね上がった。
フォルテについて知っている。それだけで普通の出自でないことが分かる。オフィシャルナビ、フォルテを知っている……
こいつ、科学省のナビか!
以前オーラの話題の時に出てきた、ダークネスオーラの使い手だ。
そして何より厄介なのが、フォルテを狙っている、ということだ。『プロトの反乱』と呼ばれる、初期型インターネットの暴走事件が起こった際にフォルテはその事件の濡れ衣を着せられた。それによって科学省から逃げ出し、追われる日々になったわけだ。
フォルテが強いことなんて分かり切っているハズ。それにもかかわらず、フォルテ討伐を任されるということは、相当な実力者だということだ。それは、シナリオでのダークネスオーラを見ても分かることだろう。
「俺はフォルテではない。……そう言ったら信じるか?」
ダメ元で聞いてみるが、ナビは警戒を解く様子はない。
「見間違う筈もない……お前の姿はフォルテそのもの!」
そりゃあ模造品だもの。
しかし、言っても聞きそうにないな。やるしかないか。
とはいえ、ダークネスオーラを張られたら突破できるか微妙なところだ。フォルテと同じワザが使えると言っても、威力までは再現できていないだろうし。
「悪いが俺は死にたくないんでね。抵抗させてもらうぞ」
「……はあッ!」
オフィシャルナビの掛け声と共に、禍々しいオーラがその身に纏われる。
「フォルテよ……お前もオーラを纏う者なら分かるだろう。この
……うん?
今このナビなんつった?
「ど、ドリームオーラだと……!?」
「ふっ、驚いているようだな。そう、かつてワイリーが生み出したドリームウイルスが纏っていた、強化されたオーラだ。その防御力は通常のオーラを遥かに上回る!」
いや、それは知ってるけど……ダークネスオーラじゃねえのかよ!!
もしかして、まだダークネスオーラを獲得していないのか? まあ、ギガクラスチップだし簡単に得られるものでもないだろうけど……
「そ、そうか」
「さあ、どこからでもかかってくるがいい!」
ノリノリだあ。
ま、まあダークネスオーラだったら正直危なかっただろうし、ここは素直に喜んでおこう。もしかしたら普通に敵わなくて逃げるハメになるかもしれないし、油断は禁物だ。
よし、ここはオリジナルと同じくアースブレイカーを試してみるか。
腕へ力を集める。
「アースブレイカー!」
ドンッ! と派手な音がして、オフィシャルナビは大きく後退した。しかし、ドリームオーラは剥がれていない。
やっぱりパチモンの俺ではこんなもんか。オリジナル様ならイッパツだったろうに。
「ぐっ……流石のパワーだな。だが、流石にこのドリームオーラは破れないと見える!」
オフィシャルナビはほくそ笑む。勝利を確信したかのようだ。たしかに、俺の強力な一撃は防がれてしまった。どーしたもんかね。
「次はこちらから行くぞ!」
意気込むオフィシャルナビ。その姿が、直後に消えた。
気が付いた時には、奴は俺の懐へと踏み込んでいる。これは……!
咄嗟に飛び退くが、二重の斬撃の内片方が、俺のオーラの上から一撃を与えた。
「フミコミクロスか……厄介なワザだ」
「私のフミコミクロスを避けるとは……しかし、手応えはあった」
確かに、オーラを切り裂きダメージを貰ってしまった。フミコミクロスは、相手の懐へ踏み込んで二回の斬撃を放つワザ。上手く当たれば2倍のダメージを与える。片方を避けてこれだ、正面から食らったら致命傷になるかもしれない。
オーラが剥がれたから、オフィシャルナビはバスターを連射してくる。避けるのがしんどいな。このままじわじわと削られ続けたら、いずれ体力も底をつく。そうなる前になんとかしないと。
俺はシューティングバスターで迎え撃ちながら、距離を取る。中距離でもフミコミクロスの餌食だし、近距離でのソード攻撃はまずい。ソード系は威力が高いのだ。
俺のバスターの方が圧倒的に威力が高いが、それでもドリームオーラは抜けない。くそ、厄介過ぎるぞ。これでホーリーパネルとか張られてたらブチギレてるところだ。
「逃さんぞ」
オフィシャルナビが何かのチップを使った。攻撃が来る。
備えようと、一瞬足を止めたことが幸いした。
俺の背後、先程までの進行方向から、鋭い竹槍が幾つも飛び出してくる。俺のボディを何本も掠め、体力を減らしていく。
「ぐっ、バンブーランスか!」
ゲームでは敵エリア最後方の更に後ろから攻撃するチップだったが、なるほど。これは逃亡する相手に何より有効だ。
足を止めていなかったら、今頃串刺しになっていたところだ。
「悪運の強い奴だ。しかし、ここで終わらせてもらおう」
「……俺はフォルテじゃないからこの辺でやめとこう、って言っても嘘臭いよな、この状況じゃ」
仕方ない。
俺は迎撃をやめ、回避とエネルギーの集中に専念する。
相変わらず撃ってくる追撃のバスターが、俺のボディにビシバシ当たってめちゃ痛いが、チップ攻撃よりかは幾分マシだ。
「そろそろトドメと行こう……っ!?」
優勢だったオフィシャルナビも、ここに来て俺の腕に尋常じゃないパワーが集まっているのを察したらしい。
こいつは4のフォルテの最強技だ。流石のドリームオーラでも、破れないはずがない。
「させるか!」
オフィシャルナビは、俺が何かしようとしているのに気付いたか、腕を巨大な砲身に変えて何かを放とうとしている。チップ攻撃……いや、プログラムアドバンスか?
だが、もう遅い。
腕へ集中させたエネルギーを、漆黒のレーザーにして放つ。
「ダークネスオーバーロード!!!」
「ギガキャノン!」
ギガキャノン。キャノンを組み合わせることで放たれる強力な一撃だ。しかし、その弾丸は闇の光に呑まれて呆気なく消え去った。そのまま黒い奔流は、オフィシャルナビの姿をドリームオーラごと飲み込む。
レーザーが消える。そして、その後にはボディからバチバチと火花を散らし、満身創痍のオフィシャルナビの姿があった。しかし、アレを食らってデリートされていないとは。ギガキャノンによる威力の減衰、そしてドリームオーラによるダメージ吸収のお陰か。
「くっ、ドリームオーラを破るなんて。まさかここまでのチカラを付けているとは……!」
「ドリームオーラは確かに強力だけどな。言っておくが、俺のオリジナル……フォルテはこんなものじゃないぞ」
俺の一言に、ナビは心底驚いたような声をあげた。
「オリジナル、だと……ならばお前は、フォルテのコピー体だというのか!?」
「まあ、劣化コピーだけどな。信じるも信じないも勝手だが、オリジナル様はこんなこと言う奴じゃないってのを知っているだろ?」
オフィシャルナビは黙り込む。どうやら納得はして貰えたようだ。
「デリートはしないでおいてやる。それと、もしオリジナルに挑むなら、ドリームオーラの上くらいは用意しておくんだな」
「ま、待て。待ってくれ!」
懇願されるが、いい加減体力の限界だ。あと一発ぶち込まれたら、俺の方こそデリートされかねない。
幸いスクエアは目と鼻の先だし、サブチップ商人を探してフルエネルギーを売って貰わんと。
何か言ってるオフィシャルナビを尻目に、その場を離脱した。