回復できたのは良いけど、またウラスクエアまで戻ってきてしまった。まあ、折角だからまたウラ掲示板でも覗いてみるか。そんで、ユーモアセンスの情報を聞いてみてもいい。
ふむふむ。前にも見たが、ゴスペル壊滅の話題が結構盛り上がってるな。さっきのオフィシャルナビの件から考えても、やっぱり今は2と3の間って感じか。フォルテの動向が掴めないのが怖いな。
ふーむ。
「……おい、聞いているのか?」
「うん? あっ、さっきの。もう回復したのか」
掲示板を覗いていると、さっきのオフィシャルナビが話しかけてきた。さすがにウラスクエアでドンパチはしないか。掲示板の前に立つ俺の隣まで歩いてくる。敵愾心は感じない。
「何の用だ? 悪いけどやることあるから忙しいんだ、手短に頼む」
「……お前、本当にフォルテではないのか」
半信半疑、という感じの声色だ。まーだ信じてなかったのか、と溜息を吐きたい気になるが、まあ仕方ないか。見た目はまんまフォルテだし。
「ああ。フォルスと名乗っている。まあ、フォルテのパチモンだよ」
「パチモン……やはりコピー体か。まさか、あのフォルテをコピーするとは……」
「ちょちょ、あんまデカい声でフォルテの名前を出すな。周りに聞こえたら面倒だ」
声を潜めるように注意すると、スマナイと申し訳なさそうに頭を下げた。
なんか、雰囲気違うなあ。科学省の追手って言うもんだから、ヒートブレードのやつみたいな性格かと思った。なんか良いナビっぽいぞ、このナビは。
「ゴスペルって知ってるよな。ネットマフィアの。そのゴスペルの目的は、最強のナビを生み出し、インターネット社会を破壊することだった。で、ゴスペルが立てた計画の中で生まれたのが俺だ。まあ、バグだらけの失敗作だったんだけどな。あるネットナビとオペレーターによってゴスペルは壊滅。俺は逃亡、今に至るってワケ」
「……ゴスペルにより生み出された、フォルテのコピーか……確かに、報告書で目にしたことがある」
「俺はなんか知らんけど強い自我が芽生えたみたいでな。他の模造品よりは、安全なナビだと、思うよ?」
チラチラ安全アッピールしてみる。微妙な表情をされた。何故だ。
「だからデリートは勘弁してくれ。別に誰かに危害を加えようってわけじゃないんだ」
「……………………」
「か、考え込むなよ。怖いなあ」
「確かに、ワタシのこともデリートしなかった。今の話も、信憑性はある。なるほど、キミは確かにフォルテではないようだ」
おお、納得していただけた!
良かった良かった、これでデリートされずに済むな! 少なくとも科学省には。
なんて思っていたが。
「だが……正直に言おう。キミは危険過ぎる」
「えっ」
「それだけのチカラを持っているナビ。しかもフォルテと同じ技が使えるとなれば、科学省やオフィシャルはキミを放ってはおかないだろう。ゴスペルの遺産ともなれば尚更だ」
「待てよ、俺は、このチカラで世界を壊そうだなんて思っていない!」
「キミの意思に関わらず、キミのチカラそのものに目を向ける輩がいる。WWW、それにゴスペルの陰に隠れ暗躍していた犯罪シンジケート『ネビュラ』……もしキミが奴らの手に渡り、量産の方法が確立などされてみろ。あっというまにインターネット社会は崩壊するだろう」
た、たしかに……
ゴスペルはその段階まで至っていたが、すんでのところで熱斗とロックマンに阻止されたんだった。もし彼らがいなかったら、世界は大混乱に陥っていたはずだ。
それに、俺はある意味バクダンみたいなもんだ。制作段階でバグをぶち込まれまくってるから、大量のバグを注ぎ込まれると、究極のバグ融合体『ゴスペル』に変化してしまう。
世界各地に俺のコピーを送り込んで、同時にゴスペルを顕現させる……テロってレベルじゃないな。
「なるほどな。確かに、狙われるのも当然だな」
「……他人事のように言う」
「いやでも、俺は捕まる気はないぞ。悪の組織にはもちろん、オフィシャルや科学省にもな。デリートされたくないんでね」
悪の組織に利用されるのもゴメンだし、それを阻止するためにオフィシャルなんかに消されるのもまたゴメンだ。
「…………そうか。そうだな。ああ、その通りだ。誰だって消されたくはない。コピーであるキミも、オリジナルのフォルテも。しかし、ワタシにも立場というものがある」
剣呑な言葉。
まさか、ここでやる気か?
思わず身構えるが、いつまで待っても攻撃は来なかった。
「……キミを追わない、というわけにはいかない。しかし、こちらから襲いかかったというのに、キミには助けられた。借りは返すさ」
オフィシャルナビは、俺にプログラムデータを送ってきた。
まさかユーモアセンス……と思ったが違った。
このプログラムは……
「キミには必要なものだろう。持っておくといい」
「ありがとう……と、言っていいのかな」
「フ……では、ワタシはここで失礼する。だが、見逃すのは今回だけだ。次にあった時は、ワタシは全力でキミを捕らえにかかるだろう」
「望むところだ。また返り討ちにしてやる」
お互いに笑い合う。話す内容は物騒だけど、なんとなく彼とは友情を育めたような気がする。そう、それはルパンと銭形幸一のような……
美化し過ぎか。
ピシュン、とオフィシャルナビはプラグアウトしてPETに戻っていく。いいな、アレ。俺もやってみたい。
「とまあこんな感じで、科学省に目をつけられたっぽいんだよな」
まあ、あのオフィシャルナビなら庇ってくれてると思うけど。でも、オリジナル様が追っかけられてる以上、どの道オフィシャルや科学省には追われる立場なんだ。今までとそれほど変わりゃしない。
俺はこれからオモテに出るつもりでいる。別に最期の別れになるわけではないが、一応と思いシークレットエリアへ挨拶に来た。セレナードもヒマしてるみたいだから、定期的に会いに来ようとは思ってるけど。
思ったとおり、セレナードは俺の話を聞いている間、至極楽しそうだった。シークレットエリアって何もないもんな。仮想データをいかに早くデリートできるか、というタイムアタックの遊びがあるらしいが、セレナードは防御型のナビなのであまり楽しくないそうだ。ちょっと可哀想。
俺もやってみたが、フォルテのワザを使えば、タイムアタックのために用意されたコピーデータなんか瞬殺だった。セレナードはちょっと怒り気味で、予備フォルダでの攻撃のみ可能とルールを付け加えていた。
ゲームでもそんなルールあったな。
たしか、全部の記録を塗り替えるとギガクラスチップが貰えるんだったかな。俺もねだってみたが、くれたのはリカバリー120だった。いや、嬉しいけどさ、リカバリー。
そんなこんなで、今まで起きたことを話して機嫌を直してもらおうと思ったわけだ。
「なるほど、中々大変でしたね。それで、アナタはこれからどうするのですか? もし行くアテがないのなら、シークレットエリアで匿っても良いですが」
セレナードはそう提案してくれる。なんか、全く警戒されてないな。いや、良いことなんだけどさ。後ろ後ろ、ヤマトマンがすげえ険しい表情してますよ。
「いや、大丈夫。俺は俺でちょっと考えがあるからさ。2パターンほど」
「ほう? それはそれは。ぜひ聞かせてください」
興味深そうにセレナードが聞いてくる。後ろのヤマトマンはちょっと呆れ気味だ。
だが、俺としては悪い気はしないな。ふふん、教えてやろう。俺考案、パーフェクトな電脳世界の生き延び方をな。
「俺はフォルテのコピーであるために狙われているわけだが、実はオフィシャルや科学省に狙われているのにはもう一つ、重大な前提があるわけだ。それは……野良ナビだということ!」
そう、俺にはオペレーターがいない。単体でふらふらしているからアブない奴だと思われるのだ。
危険なナビでも、オペレーターがまともなら見逃してもらえる可能性は大いにある。ナビって基本PETの中にいるから、オペレーターが指示しないと動けないからな。俺みたいに自立型のナビもいるけど……
ま、まあつまり、オペレーターに保護してもらおう作戦。完璧だ。完璧すぎて笑ってしまいそうだ。
PETの中ってどんな風になっているのか地味に気になるし、安住の地を得られるというのはなんとも嬉しいことだ。まこと俺得な作戦である。
「オモテに出てオペレーターを探す。科学省やオフィシャルに関係ない人ならPETに匿ってもらうし、逆に近しい人なら俺のイノチを救けてもらえるように交渉してもらうのさ」
交渉に失敗した時?
……失敗しない人を選びたいものだ。うん。
「なるほど……それで、もう一つの案とは?」
「悪の組織潰す」
「単純明快ですね」
そう……単純にして明快。
悪の組織が俺の体を狙ってくる(意味深)なら、潰しちゃえばいいじゃない。
民間人は助かる。科学省が持つ、俺が悪の組織に利用されるという危惧も晴れる。悪の組織を成敗したということで、俺ヒーローになる。
まさにWIN-WIN-WINである。LOSEは悪いやつらだけだ。
ただし馬鹿でかい問題点が幾つかあるが、それには目を瞑ることとする。
「どれもハイリスクな作戦のように思えますが」
「リスクを取らなきゃ生き延びれないのさ」
両方ともハイリスク・ローリターンな作戦で泣けてくる。しかし、この2つの作戦はなんと共存できるんだ。
オペレーターが正義の心を燃やして悪の組織に立ち向かう可能性だってあるのだ。信じよう、俺の未来のオペレーターを。
「で、それがどうオモテに行くことに繋がるのだ?」
ヤマトマンが口を挟む。気を許してくれたのだろうか。だとしたら嬉しいが……
「だってウラインターネットに接続してるの悪人ばっかだろ多分」
「た、確かに。オヌシもそんな輩をオペレーターにはしたくないか」
「まあ、中には良いやつもいるとは思うけどな。大半は悪人だぜ、きっと。普通のオペレーターが欲しいから、オモテのインターネットをぶらついて探すさ。オフィシャルたちに見つかりやすいって問題はあるけど、まあなんとかなるだろ」
最悪、オペレーターが見つからなければロックマンたちを手助けして、野良ナビのままWWWをぶっ潰す。
そうすれば、良いナビとして熱斗くんたちに認識してもらえるだろう。
そしたらパパのコネで、そのう、科学省に口利きなんかをね? していただければね?
という下心もありつつ、俺は生き延びるためのパーフェクトな作戦を決行するためにオモテのインターネットへ向かうのだ。
「てなわけで、しばらくはオモテにいると思う。また会いにくるけど、ちょっと先の話になりそうだ」
「そうですか……せっかく良い友人ができたのに、残念です」
「……ありがとう、俺もそう思うよ。本当に」
俺とセレナードは、固い握手を交わした。
必ず、またここに戻ってこよう。
そんな決意をした時だった。
背筋に悪寒が走る。
圧倒的なプレッシャー、存在感。それがシークレットエリアを覆うかのように蔓延している。
何かがいる。そんな漠然とした感覚がする。
セレナード、ヤマトマンも同じことを思ったようで、2人は既に臨戦態勢となっていた。
「逃げろ……」
聞き覚えのある声がした。
「ダークマン!」
以前、俺と戦った暗殺者のナビ。ダークマンが、ズタボロの姿で地に伏している。一体誰が。ダークマンほどのナビをここまで追い詰めるなんて、並大抵の実力ではない。
「……強者の波動を感じる」
上空から降るその台詞を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
それはこれから先の未来で、この世界の主人公であるロックマンに対しての言葉と同じもの。
どうして、どうして奴がここにいる!?
「…………フォルテ………………!!」
破壊の権化。
俺のオリジナル。
最強のネットナビが、こちらを見下ろしていた。