「フォルスと瓜二つの姿……奴がフォルテですか。なるほど、アナタがあれほどまでに言うだけのことはありますね。なんと凄まじい殺気……」
セレナードも、オーラを放つフォルテの実力をなんとなく感じ取ったようだ。それでいてまだ余裕のある表情をしているんだから、ウラの王は伊達じゃない。
俺なんかは、デリートされる恐怖で足がガクガク震えてる。見つからないように隠れてようかと思うくらいだ。というか、すぐにでもそうするべきだったかもしれない。
ふと、フォルテがこちらに目を向ける。全力で逸らそうとしたが、できなかった。あまりに鋭い、いや、冷たい瞳が俺を射抜き、金縛りにあったかのように動けなくなってしまったからだ。
「こんなところにもいたか、出来損ないが」
吐き捨てるように呟いたフォルテは、俺に手を向ける。一瞬でエネルギーが溜まり、俺に向けて光の弾が放たれた。
反射的に、俺も同じ技で返す。エアバースト。3までのフォルテの使う、最も基本的な技だ。
エアバーストがぶつかり合い、爆発する。しかし、衝撃は殺しきれず、俺は後方に吹き飛ばされた。すぐに立ち上がり、体勢を立て直す。
くそっ、やっぱりオリジナル様の方が、技の威力は圧倒的だ。
「遅い」
はっ、と目線を上に上げれば、フォルテが腕を振りかざしている。
アースブレイカー。ダークネスオーラも破るオリジナルの一撃は、俺の体なんて一撃で消し飛ばしてしまうだろう。
あ、俺死んだわ。
他人事のようにそう思った。
「フォルス!」
俺を庇うように、セレナードが光弾を放つ。フォルテは舌打ちしながらそれを回避した。
危なかった。セレナードのフォローが間に合ってなかったら、多分デリートされていただろう。フレイムマンを一撃で粉々にするような技だ。
「無事ですか、フォルス」
「なんとか。サンキュー、セレナード。危うく消されるところだった」
なんとか助かった。セレナードが居てくれるのはなんとも心強い。さすが、原作でフォルテに勝っただけのことはある。
「ヤマトマン。ダークマンを連れて退がってください。あのフォルテというナビ、一筋縄ではいかなそうだ」
「しかし……いえ、承知いたしました。セレナード様、フォルス殿。御武運を」
ヤマトマンは何か言いかけて、それでも主君の指示に従った。ダークマンも心配だが、ヤマトマンが連れて行ったのだから大丈夫だろう。それより、今は目の前の超強敵だ。
ヤマトマンとダークマンは、すんなり見逃された。ヤマトマンはともかく、ダークマンは一度倒した相手だから、興味が湧かなかったということか。優先順位の高い、俺やセレナードの方しか見ていない。
「セレナード。アンタは防御に集中してくれ。攻撃型でないアンタより、俺が攻めた方が良いだろう」
それに、絶対防御のセレナードでも、攻撃する時には隙ができる。なら、攻撃はなるべく俺が行い、隙を減らした方がいいはずだ。
セレナードが頷く。よし、やってやるぞ。今度はこちらから攻撃だ!
俺は黒い円盤状のエネルギー波を2発、フォルテに向けて放つ。ヘルズローリング。4以降のフォルテのメインウェポンだ。もしかしたら、今の時間軸……2と3の間の時期なら、オリジナル様も会得していないという可能性にかけてみた。
しかし、当然のようにフォルテもヘルズローリングで迎え撃つ。やっぱダメか。俺の技を食い破り、威力を減衰しつつも俺の下へ走る黒の車輪を、2枚の間に飛び込んでどうにか避ける。
この技を避けるには、前に出ることだ。ミスるとモロに食らうから、タイミングが重要。
それにしても、4以降の技も使えるのか。くそっ、そりゃあ俺が使えるんだから、オリジナル様が使えない理由はないか。
フォルテの技は、同じ技で返される。なら、フォルテの技でないもので隙を作らないと。よし、バトルチップの出番だ。
俺はチップデータを発動し、フォルテの真上に向かって投げつける。弾は巨大化し、重い分銅のような形に変化した。
アースクエイク。ポワルド系のウイルスの落とすバトルチップだ。
自分にない攻撃方法に、フォルテは驚いた様子だった。回避が若干遅れる。ここだ!
辛うじてアースクエイクを避けたところに、ダークネスオーバーロードを放つ。黒い光がフォルテを飲み込む。
やったか?
「……出来損ない風情が、やってくれたな」
……マジかよ。
結構上手くいったと思ったんだけど。
いや、原因というか、フォルテの対応は見えた。初速のあるヘルズローリングを撃ち、ダークネスオーバーロードの威力を多少なり抑えていた。それによって、フォルテの纏うオーラが、威力の弱まった俺の大技を完全に防ぎ切った。
ノーダメージ。しかも、不意を打たれたことに、オリジナル様は大層ご立腹だ。目が、目がガチギレしてる。
まずい、とセレナードも感じ取ったのか、光弾を放つ。しかし、その弾速は、速いとはとてもいえない。やっぱり、ゲームと同じで基本的にセレナードは攻撃タイプじゃないんだな。カウンタータイプだ。
なんて考えている場合じゃない。
フォルテはセレナードの攻撃を意に介さず、俺に突撃してくる。その手は既にダークアームブレードを展開しており、接近戦を狙っているのが見て取れる。
俺も、ダークソードで迎え撃つ。こちらの方が刃渡りが長く、攻撃範囲は広い。薙ぐような一撃。しかし、フォルテは斬り上げるようにして、俺の剣を弾いた。衝撃で腕が上がり、無防備になる。
やばい!
俺はオーラを展開し身を守るが、無駄だった。オーラの上から斬り裂かれる。激痛が走り、思わず飛び退いた。
しかし、容赦なくフォルテは追撃してくる。ダークアームブレードの真骨頂は、素早い3連撃だ。あと1発、攻撃は続く。なんとか防がないと。
切羽詰まった俺は、ダークソードの逆側の手にアクアソードを展開し、フォルテと斬り結んだ。良かった、できなかったらどうしようかと思ったが。
「ふん、二刀流か……」
フォルテは俺の腹に蹴りを入れ、一旦距離を取った。あ、危なかった。なんとか凌いだ。
しかし、実力差は歴然だ。オリジナル様やべえよ。全然敵わないぞ。スピード、パワー、防御、どれを取っても俺の上だ。俺はバトルチップで凌いでるけど、フォルテだってやろうと思えばバトルチップは使えるはず。使わない理由は、普通に攻撃した方が強いからだろう。
まずいな……このままじゃじわじわと削られて、そのままデリートされてしまう。とりあえず、セレナードに貰ったリカバリーで体力を回復させる。
しかし、このままでは勝ち目はない。セレナードはタイマンなら勝てるのかもしれないが、俺を守る余裕はないだろう。寧ろ、俺を庇うとその分隙ができる。数の優位は、セレナードにとっては寧ろやりにくいのかもしれないな。
俺のせいでセレナードがやられた、なんてことになるのはゴメンだ。こうなってくると、俺はさっさと逃げた方がいいんじゃないか、という気さえしてくるな。
でも、セレナードは原作では、フォルテとの戦いで大きなダメージを負った、と言っていた。
それはどうにか避けたい。友達だしな。
「フォルテ、と言いましたね。アナタはなぜ、そうまで自らのコピーを狙うのです?」
セレナードが問いかける。時間稼ぎか、ありがたい。その間に、策を考える。
「……強者よ。お前の名は?」
「セレナード」
「セレナード、俺は不愉快だ。俺と同じ姿、同じ技を持ちながら、こうまで弱いそいつが。お前もきっと同じだろう。考えてみろ、自分と同じ顔が、自分に取り得ない行動をするのを。それが、俺の強さを、人間への復讐心を貶めるようなものなら尚更だ。だから、俺はそいつを消し去る……邪魔をするな、そこを退け」
うぐっ……
オリジナルにそう言われると、なんかこう、傷付くな。散々模造品だの偽物だのと自嘲してきたが、いざ本物に言われるとガックリきてしまう。
フォルテにとっては、自分の姿を勝手に写し取られて、好き勝手されているのと同じことだもんな。そりゃ、誰だって嫌だろう。
何も反論できない……なんだか悲しくなってくる。
俺が何も口に出せず黙っていると、セレナードが答える。
「いいえ、彼は私の友人です。デリートしようというのなら、黙って見ているわけにはいきませんね」
「セレナード……」
「フォルス。アナタは自分を模造品と言いますが、模造品だっていいのです。アナタはもう、この世に生まれ落ちているのですから。気の良いアナタを、むざむざデリートさせたりはしません。それに、ここは私の管理するエリア。無許可で侵入して好き勝手暴れられては、ウラの王の沽券に関わるというもの」
……そうか。そうだな。そうだよな。
俺だって、フォルテの偽物ではあるけど、
模造品だっていい、という言葉は、何よりも嬉しかった。
「それに、模造品だとしても、アナタの方が優れている部分だってあるはずです。私はアナタの優しさや、生きようと必死に考える姿は、オリジナルのフォルテにだって負けていないと思いますよ」
俺が、オリジナルより優れているところ。
セレナードの言葉は、俺を励まそうとしてくれたものだろう。しかし、その言葉が、大きなヒントになった。
あるじゃないか。今のフォルテに無くて、俺にあるものが。
一回だって試してないし、賭けのようなものだが……やる価値はあるな。
「セレナード。ちょっと時間を稼いでくれるか」
「何か思いついたのですね。いいでしょう。彼の攻撃は凄まじいですが、防御に徹すれば凌げないことはない。私1人だったら、攻撃の隙を突かれてしまう可能性だってありましたが……今はアナタがいる。頼りにしていますよ、フォルス」
「任せといてくれ。とっておきをぶつけてやるさ」
セレナードは、フォルテに向かっていく。そうだ、セレナードより防御が優れたナビはいない。倒されることはまずないだろう。
その間に、俺は集中する。フォルテになくて、俺にあるもの。
イメージしろ、獣の姿を。
かつて電脳獣という呼び名で恐れられたグレイガ。奴は、インターネットに発生するバグが集まって生まれた怪物だ。
かつて起こった現象は、それと同じ原理で起こる。バグの力を高めることによって、そいつは生まれる。
だが、生まれて暴走するだけじゃダメだ。コントロールしろ。
思い出せ。これだって、オリジナル様がいずれ生み出す形態の一つだ。
俺の体内にあるバグが、腕に集中していく。やがてそれは、獣の顔を形作った。
「セレナードッ!」
意図を察したセレナードが退避する。こちらを見て、ギョッとした表情を作った。それはフォルテも同じだ。
「何だと……アレは!」
「吹き飛べ、バニシングワールド!!!!!」
全てを灰塵に帰す一撃が放たれた。
「チィッ!」
セレナードに対応していたせいで避けきれないと踏んだか、フォルテはオーラを強め、ガードを固める。しかし、光線はフォルテのオーラを容易く引き剥がし、本体に直撃した。
光線を吐き出し終えたゴスペルの顔が崩れていく。途方もない疲労を感じて、思わず膝をついた。
俺の体内のバグ、そのほとんどが今の一撃で使われてしまった。なんだか体が縮んだ気さえしてくる……というか、マジで縮んでるっぽい。
だが、流石のフォルテもこれなら……
「……やってくれたな、出来損ない風情が」
…………!
フォルテは、ボディのあちこちから火花を散らしながら、憎しみの表情を湛えている。
まさか、ほとんど直撃だったはずなのにアレを耐えるなんて……化物すぎるぞ。
そういえば、フォルテってめちゃくちゃタフだったな。プロトにやられても生きてるし、その後やられる度に強くなって復活するもんな。お陰でエグゼシリーズでは皆勤賞だ。
とはいえ……あの体じゃ、少なくとも今はもう戦えないはずだ。それは俺も同じだが、こちらにはセレナードもいる。勝ち目がないと分からないフォルテじゃないだろう。
「フォルスと名乗っていたな。お前はいずれ俺が消す……それまでは精々、借り物の命を楽しんでおけ。セレナード、お前ともまた決着をつけさせてもらうぞ」
マントを翻し、フォルテの姿は消えた。
……終わった、のか?
気が抜けた俺は、思わず尻餅をついた。良かった、デリートは免れたか。
でも、完全にターゲットにされてしまったな。傷が癒えたら、俺のこと狙いに来たりするのか?
いやでも、3のシナリオもあるし、まだ猶予はあると思いたい。フォルテとしても、さすがに俺より人間への復讐の方が優先だろう。
……まあ、それらは後で考えるとして。
「サンキューな、セレナード」
「こちらこそ」
セレナードと拳を合わせる。
うんうん。友情っていいモンだな。
……ん? なんか俺の拳、セレナードと比べてやけに小さくね?
「ところでフォルス。アナタ、体が縮んでいるようですが……」
「マジか」
バグを使いすぎたか。
オモテ行きはまた先になりそうだ。