偽フォルテになりまして   作:レイトントン

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第6話

「フォルスと瓜二つの姿……奴がフォルテですか。なるほど、アナタがあれほどまでに言うだけのことはありますね。なんと凄まじい殺気……」

 

 セレナードも、オーラを放つフォルテの実力をなんとなく感じ取ったようだ。それでいてまだ余裕のある表情をしているんだから、ウラの王は伊達じゃない。

 俺なんかは、デリートされる恐怖で足がガクガク震えてる。見つからないように隠れてようかと思うくらいだ。というか、すぐにでもそうするべきだったかもしれない。

 

 ふと、フォルテがこちらに目を向ける。全力で逸らそうとしたが、できなかった。あまりに鋭い、いや、冷たい瞳が俺を射抜き、金縛りにあったかのように動けなくなってしまったからだ。

 

「こんなところにもいたか、出来損ないが」

 

 吐き捨てるように呟いたフォルテは、俺に手を向ける。一瞬でエネルギーが溜まり、俺に向けて光の弾が放たれた。

 反射的に、俺も同じ技で返す。エアバースト。3までのフォルテの使う、最も基本的な技だ。

 エアバーストがぶつかり合い、爆発する。しかし、衝撃は殺しきれず、俺は後方に吹き飛ばされた。すぐに立ち上がり、体勢を立て直す。

 くそっ、やっぱりオリジナル様の方が、技の威力は圧倒的だ。

 

「遅い」

 

 はっ、と目線を上に上げれば、フォルテが腕を振りかざしている。

 アースブレイカー。ダークネスオーラも破るオリジナルの一撃は、俺の体なんて一撃で消し飛ばしてしまうだろう。

 

 あ、俺死んだわ。

 

 他人事のようにそう思った。

 

「フォルス!」

 

 俺を庇うように、セレナードが光弾を放つ。フォルテは舌打ちしながらそれを回避した。

 危なかった。セレナードのフォローが間に合ってなかったら、多分デリートされていただろう。フレイムマンを一撃で粉々にするような技だ。

 

「無事ですか、フォルス」

「なんとか。サンキュー、セレナード。危うく消されるところだった」

 

 なんとか助かった。セレナードが居てくれるのはなんとも心強い。さすが、原作でフォルテに勝っただけのことはある。

 

「ヤマトマン。ダークマンを連れて退がってください。あのフォルテというナビ、一筋縄ではいかなそうだ」

「しかし……いえ、承知いたしました。セレナード様、フォルス殿。御武運を」

 

 ヤマトマンは何か言いかけて、それでも主君の指示に従った。ダークマンも心配だが、ヤマトマンが連れて行ったのだから大丈夫だろう。それより、今は目の前の超強敵だ。

 ヤマトマンとダークマンは、すんなり見逃された。ヤマトマンはともかく、ダークマンは一度倒した相手だから、興味が湧かなかったということか。優先順位の高い、俺やセレナードの方しか見ていない。

 

「セレナード。アンタは防御に集中してくれ。攻撃型でないアンタより、俺が攻めた方が良いだろう」

 

 それに、絶対防御のセレナードでも、攻撃する時には隙ができる。なら、攻撃はなるべく俺が行い、隙を減らした方がいいはずだ。

 セレナードが頷く。よし、やってやるぞ。今度はこちらから攻撃だ!

 俺は黒い円盤状のエネルギー波を2発、フォルテに向けて放つ。ヘルズローリング。4以降のフォルテのメインウェポンだ。もしかしたら、今の時間軸……2と3の間の時期なら、オリジナル様も会得していないという可能性にかけてみた。

 しかし、当然のようにフォルテもヘルズローリングで迎え撃つ。やっぱダメか。俺の技を食い破り、威力を減衰しつつも俺の下へ走る黒の車輪を、2枚の間に飛び込んでどうにか避ける。

 この技を避けるには、前に出ることだ。ミスるとモロに食らうから、タイミングが重要。

 

 それにしても、4以降の技も使えるのか。くそっ、そりゃあ俺が使えるんだから、オリジナル様が使えない理由はないか。

 フォルテの技は、同じ技で返される。なら、フォルテの技でないもので隙を作らないと。よし、バトルチップの出番だ。

 

 俺はチップデータを発動し、フォルテの真上に向かって投げつける。弾は巨大化し、重い分銅のような形に変化した。

 アースクエイク。ポワルド系のウイルスの落とすバトルチップだ。

 

 自分にない攻撃方法に、フォルテは驚いた様子だった。回避が若干遅れる。ここだ!

 辛うじてアースクエイクを避けたところに、ダークネスオーバーロードを放つ。黒い光がフォルテを飲み込む。

 やったか?

 

「……出来損ない風情が、やってくれたな」

 

 ……マジかよ。

 結構上手くいったと思ったんだけど。

 いや、原因というか、フォルテの対応は見えた。初速のあるヘルズローリングを撃ち、ダークネスオーバーロードの威力を多少なり抑えていた。それによって、フォルテの纏うオーラが、威力の弱まった俺の大技を完全に防ぎ切った。

 ノーダメージ。しかも、不意を打たれたことに、オリジナル様は大層ご立腹だ。目が、目がガチギレしてる。

 

 まずい、とセレナードも感じ取ったのか、光弾を放つ。しかし、その弾速は、速いとはとてもいえない。やっぱり、ゲームと同じで基本的にセレナードは攻撃タイプじゃないんだな。カウンタータイプだ。

 なんて考えている場合じゃない。

 フォルテはセレナードの攻撃を意に介さず、俺に突撃してくる。その手は既にダークアームブレードを展開しており、接近戦を狙っているのが見て取れる。

 

 俺も、ダークソードで迎え撃つ。こちらの方が刃渡りが長く、攻撃範囲は広い。薙ぐような一撃。しかし、フォルテは斬り上げるようにして、俺の剣を弾いた。衝撃で腕が上がり、無防備になる。

 やばい!

 俺はオーラを展開し身を守るが、無駄だった。オーラの上から斬り裂かれる。激痛が走り、思わず飛び退いた。

 しかし、容赦なくフォルテは追撃してくる。ダークアームブレードの真骨頂は、素早い3連撃だ。あと1発、攻撃は続く。なんとか防がないと。

 切羽詰まった俺は、ダークソードの逆側の手にアクアソードを展開し、フォルテと斬り結んだ。良かった、できなかったらどうしようかと思ったが。

 

「ふん、二刀流か……」

 

 フォルテは俺の腹に蹴りを入れ、一旦距離を取った。あ、危なかった。なんとか凌いだ。

 しかし、実力差は歴然だ。オリジナル様やべえよ。全然敵わないぞ。スピード、パワー、防御、どれを取っても俺の上だ。俺はバトルチップで凌いでるけど、フォルテだってやろうと思えばバトルチップは使えるはず。使わない理由は、普通に攻撃した方が強いからだろう。

 

 まずいな……このままじゃじわじわと削られて、そのままデリートされてしまう。とりあえず、セレナードに貰ったリカバリーで体力を回復させる。

 しかし、このままでは勝ち目はない。セレナードはタイマンなら勝てるのかもしれないが、俺を守る余裕はないだろう。寧ろ、俺を庇うとその分隙ができる。数の優位は、セレナードにとっては寧ろやりにくいのかもしれないな。

 俺のせいでセレナードがやられた、なんてことになるのはゴメンだ。こうなってくると、俺はさっさと逃げた方がいいんじゃないか、という気さえしてくるな。

 

 でも、セレナードは原作では、フォルテとの戦いで大きなダメージを負った、と言っていた。

 それはどうにか避けたい。友達だしな。

 

「フォルテ、と言いましたね。アナタはなぜ、そうまで自らのコピーを狙うのです?」

 

 セレナードが問いかける。時間稼ぎか、ありがたい。その間に、策を考える。

 

「……強者よ。お前の名は?」

「セレナード」

「セレナード、俺は不愉快だ。俺と同じ姿、同じ技を持ちながら、こうまで弱いそいつが。お前もきっと同じだろう。考えてみろ、自分と同じ顔が、自分に取り得ない行動をするのを。それが、俺の強さを、人間への復讐心を貶めるようなものなら尚更だ。だから、俺はそいつを消し去る……邪魔をするな、そこを退け」

 

 うぐっ……

 オリジナルにそう言われると、なんかこう、傷付くな。散々模造品だの偽物だのと自嘲してきたが、いざ本物に言われるとガックリきてしまう。

 フォルテにとっては、自分の姿を勝手に写し取られて、好き勝手されているのと同じことだもんな。そりゃ、誰だって嫌だろう。

 何も反論できない……なんだか悲しくなってくる。

 俺が何も口に出せず黙っていると、セレナードが答える。

 

「いいえ、彼は私の友人です。デリートしようというのなら、黙って見ているわけにはいきませんね」

「セレナード……」

「フォルス。アナタは自分を模造品と言いますが、模造品だっていいのです。アナタはもう、この世に生まれ落ちているのですから。気の良いアナタを、むざむざデリートさせたりはしません。それに、ここは私の管理するエリア。無許可で侵入して好き勝手暴れられては、ウラの王の沽券に関わるというもの」

 

 ……そうか。そうだな。そうだよな。

 俺だって、フォルテの偽物ではあるけど、

 模造品だっていい、という言葉は、何よりも嬉しかった。

 

「それに、模造品だとしても、アナタの方が優れている部分だってあるはずです。私はアナタの優しさや、生きようと必死に考える姿は、オリジナルのフォルテにだって負けていないと思いますよ」

 

 俺が、オリジナルより優れているところ。

 セレナードの言葉は、俺を励まそうとしてくれたものだろう。しかし、その言葉が、大きなヒントになった。

 あるじゃないか。今のフォルテに無くて、俺にあるものが。

 一回だって試してないし、賭けのようなものだが……やる価値はあるな。

 

「セレナード。ちょっと時間を稼いでくれるか」

「何か思いついたのですね。いいでしょう。彼の攻撃は凄まじいですが、防御に徹すれば凌げないことはない。私1人だったら、攻撃の隙を突かれてしまう可能性だってありましたが……今はアナタがいる。頼りにしていますよ、フォルス」

「任せといてくれ。とっておきをぶつけてやるさ」

 

 セレナードは、フォルテに向かっていく。そうだ、セレナードより防御が優れたナビはいない。倒されることはまずないだろう。

 その間に、俺は集中する。フォルテになくて、俺にあるもの。

 

 

 イメージしろ、獣の姿を。

 かつて電脳獣という呼び名で恐れられたグレイガ。奴は、インターネットに発生するバグが集まって生まれた怪物だ。

 かつて起こった現象は、それと同じ原理で起こる。バグの力を高めることによって、そいつは生まれる。

 

 だが、生まれて暴走するだけじゃダメだ。コントロールしろ。

 思い出せ。これだって、オリジナル様がいずれ生み出す形態の一つだ。

 

 俺の体内にあるバグが、腕に集中していく。やがてそれは、獣の顔を形作った。

 

「セレナードッ!」

 

 意図を察したセレナードが退避する。こちらを見て、ギョッとした表情を作った。それはフォルテも同じだ。

 

「何だと……アレは!」

「吹き飛べ、バニシングワールド!!!!!」

 

 ()()()()の頭から放たれた、極大の光。

 全てを灰塵に帰す一撃が放たれた。

 

「チィッ!」

 

 セレナードに対応していたせいで避けきれないと踏んだか、フォルテはオーラを強め、ガードを固める。しかし、光線はフォルテのオーラを容易く引き剥がし、本体に直撃した。

 

 光線を吐き出し終えたゴスペルの顔が崩れていく。途方もない疲労を感じて、思わず膝をついた。

 俺の体内のバグ、そのほとんどが今の一撃で使われてしまった。なんだか体が縮んだ気さえしてくる……というか、マジで縮んでるっぽい。

 

 だが、流石のフォルテもこれなら……

 

「……やってくれたな、出来損ない風情が」

 

 …………!

 フォルテは、ボディのあちこちから火花を散らしながら、憎しみの表情を湛えている。

 まさか、ほとんど直撃だったはずなのにアレを耐えるなんて……化物すぎるぞ。

 そういえば、フォルテってめちゃくちゃタフだったな。プロトにやられても生きてるし、その後やられる度に強くなって復活するもんな。お陰でエグゼシリーズでは皆勤賞だ。

 

 とはいえ……あの体じゃ、少なくとも今はもう戦えないはずだ。それは俺も同じだが、こちらにはセレナードもいる。勝ち目がないと分からないフォルテじゃないだろう。

 

「フォルスと名乗っていたな。お前はいずれ俺が消す……それまでは精々、借り物の命を楽しんでおけ。セレナード、お前ともまた決着をつけさせてもらうぞ」

 

 マントを翻し、フォルテの姿は消えた。

 ……終わった、のか?

 気が抜けた俺は、思わず尻餅をついた。良かった、デリートは免れたか。

 でも、完全にターゲットにされてしまったな。傷が癒えたら、俺のこと狙いに来たりするのか?

 いやでも、3のシナリオもあるし、まだ猶予はあると思いたい。フォルテとしても、さすがに俺より人間への復讐の方が優先だろう。

 ……まあ、それらは後で考えるとして。

 

「サンキューな、セレナード」

「こちらこそ」

 

 セレナードと拳を合わせる。

 うんうん。友情っていいモンだな。

 ……ん? なんか俺の拳、セレナードと比べてやけに小さくね?

 

「ところでフォルス。アナタ、体が縮んでいるようですが……」

「マジか」

 

 バグを使いすぎたか。

 オモテ行きはまた先になりそうだ。

 


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