ウラの中でも比較的浅い……つまりはオモテに近いエリア。ウイルスもそれほど強くないここで、俺はバグのかけら集めに励んでいた。
ゴスペルスタイルっぽいものを発現したはいいが、俺の体は縮んでしまった。セレナードが言うには、暴走を恐れて体内のバグの殆どを吐き出してしまったらしい。もっときちんとコントロールできるようになれば、縮まなくて済むようになるのだろうか。
今の俺の体は、今までの半分くらいの背丈になってしまっている。ミニフォルスとでも呼ぶべき状態だ。別に小さくなるのは構わないが、技がまともに撃てなくなるのはマジでヤバイ。ダークネスオーバーロードなどの大技はもちろん、シューティングバスターさえ撃てないとあっては、オフィシャルやWWWの襲撃があった時にどうしようもなくなる。
ここは早くバグを集めなければ、とウイルス狩りに励んでいるわけだ。
幸い、バトルチップは使用できたので、今まで吸収したバトルチップでウラのウイルスたちと闘いまくった。バグのかけらもそうだが、戦闘経験が積めるのは何よりありがたいことだ。今まではフォルテと同じ技をぶっ放すだけの脳筋だったから、チップ同士の組み合わせなどを考え、戦略的に使うのは良い体験だ。
数週間、ひたすらバグのかけらを集めていると、ようやく元の大きさに戻ってきた。ふう。ウイルス狩りも楽じゃないな。
セレナードに相談したところ、シークレットエリアにバグピーストレーダーを設置してくれるらしい。バグのかけら10個を放り込むと、レアチップに交換してくれる夢の機械だ。
ガッツマン狩らなきゃ……
放り込まれたバグのかけらは、俺がまた縮んだ時に提供してくれるんだそうだ。なんという優しさ。流石慈悲の心が強さの源だというだけはある。
さて、元の大きさに戻れたところで……ついに、ウラインターネットを抜け出す時が来た。
オモテに出れば、オリジナル様もそう簡単に追っては来られまい。セレナードたちは心配だが、あれからフォルテ対策でモノリスやナンバーズを配置し、簡単には奥まで侵入できないようにセキュリティを強化した。足止めしているうちにダークマンやヤマトマンを召集し、3対1の戦局を作れればなんとかなるのではないだろうか。
フォルテには劣るというだけで、ヤマトマンとダークマンも相当な実力者だしな。
よし、行くぞ……
ウラインターネットからジゴクエリアへ。そして、そこからワープポイントを踏み、ビーチエリアへ抜ける。
ここが、オモテのインターネット。
まず思ったのが、雰囲気が明るいということだ。これが本来標準的なのかもしれないが、ずっとウラにいた俺にとっては、相当に明るい。眩しいくらいだ。だが、悪くないな。
次に、見かけるウイルスが弱々しいということだ。ウラの殺伐としたウイルスと違って、なんだか可愛らしいような気がしてくる。あ、メットールもいるぞ。可愛いな。
ゲームではビーチエリアには出現しなかった気がするが……そういった部分も、ゲームと現実の違いか。
道ゆくナビの表情も殺伐としていない。朗らかでのほほんとした感じだ。平和な時代なんだな、というのが見て取れる。
さて、せっかくオモテに出たことだし、ソードやワイドソードを探しながらも、見ておきたいエリアをチェックするとしよう。インターネットはどこまでも広がっている。海外のエリアも地続きになっているから、ニホンから外に出るのも簡単だ。
まあ、俺の場合ウラを経由することになるだろうけど……
しかし、フォルテの襲撃を鑑みて、まずチェックしておくべき箇所が一つあると感じた。なので、まずはそこに向かった。
辿り着いたのは、セントラルエリアだ。
6に登場するエリア。その最も大きな特徴が、俺の目の前にある大穴だろう。この穴の中には、アンダーグラウンドと呼ばれる地下世界が広がっている。ここは電脳獣グレイガ、ファルザーの凄惨なる戦いによってできた大穴だ。
そしてここには、そのグレイガとファルザーが眠っているのだ。
電脳獣……俺がゴスペルに変身するのと同じく、バグ融合によって生まれた獣。特に、ゴスペルは自然発生したグレイガとよく似たオオカミのような姿をしている。ファルザーは人工的に生み出された、グレイガに対してのアンチプログラムだ。そのチカラは絶大で、プロトの反乱後にどうにか落ち着きを取り戻したインターネット社会を絶望と混乱に陥れた。
オリジナル様は、6のシナリオ終了後にどういうわけかその電脳獣の力を手に入れる。これがまた強えんだ、生半可じゃなく。
追いつこうと思ったら、俺もそれに手を出さなくてはならないかもしれない。いや、寧ろ今すぐ手に入れてしまった方が、この身は安全とまで言えるのではないだろうか?
……待て待て、考えがめっちゃ悪者みたいになってるぞ。電脳獣を吸収しようと解き放ったりしたら、それこそWWWと同じじゃないか。
大体、いくらフォルテのパチモンとはいえ、俺に電脳獣を吸収できるのか?
ロックマンやサーカスマンといったナビは、エクサメモリという特別なプログラムを組み込まれていたからこそ電脳獣をその体に取り込むことができた。フォルテはゲットアビリティプログラムで無理矢理吸収したんだったか。
しかし、ロックマンは電脳獣を吸収してからずっと苦しみ続けていた。中の電脳獣が暴れまくったからだ。フォルテだって、相当に苦しんだ筈だ。
俺なんかが、電脳獣に打ち克つことができるのだろうか……
つーか、もし仮に電脳獣を片方吸収できたとしても、もう片方に吹っ飛ばされて終わりじゃないのか。
ちなみに二体吸収は絶対無理だ。ロックマンやフォルテで一体が限界だったのに、俺が二体も吸収できるわけない。
電脳獣を事前にゲットするのは、やめておいた方が良さそうだな。
仕方ないので、その辺のウイルスを狩ってチップデータを集めることにする。
というわけで、何気に初めて、エグゼ界のアイドルであるメットールとバトルしてみた。
メットールといえば、ゲームのチュートリアルを毎回任される最弱のウイルスだ。ツルハシを武器にし、黄色のヘルメットがチャームポイント。ショックウェーブ攻撃は当たるとちょっと痛い。
シューティングバスターを放つと、可愛い断末魔をあげて消滅した。流石に一撃か。
『獲得チップデータ:リフレクメット』
おお。セントラルエリアだと、メットガードじゃなくてリフレクメットが手に入るのか。ゲームだと対グレイガ最強チップだったけど、現実になった今はどうだろう。試したくはないな。グレイガと闘り合う状況は好ましくない。
とはいえ、防御系のチップはありがたい。オリジナル様はあんましこういうの使わなさそうだし、差別化になるな。
インビジブルやユカシタモグラも欲しいし、なんならスーパーキタカゼなんかを持っていれば、多少は有利に立ち回れたりするんじゃなかろうか。
うーん、考えれば考えるほど欲しいチップが多いな。
「……ん?」
ふと視界の端に、電脳世界らしからぬ影を捉えた。あれは……人間か?
遠目で見え辛いが、見間違いじゃあなさそうだ。なんで人間が電脳世界に……パルストランスミッションか?
3で登場した、オペレーターの意識を電脳世界へ送り込むパルストランスミッションシステム。アレなら、人間が電脳世界に立ってもおかしくはない。しかし、アレは3のワイリーの本拠地にあるのみだったはずだ。いや、科学省にもあるんだったか? まあ、ともかくそう易々とできるものではない。
……あっ、ウイルスに襲われてる。
どうしよう。
確か、パルストランスミッション中に受けたダメージは、現実にフィードバックされるんだよな。ここは助けておこう。人間なら、オペレーター募集のきっかけになるかもしれないし。
ウイルスたちの方へ走る。火属性のウイルスか。
『エネミー名表示:ダルスト』
たしか、ヘルズバーナー系のチップを落とすウイルスだな。あのチップ割と好きだし、狩っておいて損はない。
俺は人間に当たらないように、エアバーストで周囲のウイルスを殲滅する。やはり、オモテのウイルス……それも比較的平和なセントラルエリアのウイルスでは、俺の相手にはならないな。
『獲得チップデータ:ヘルズバーナー』
よし、チップデータも手に入った。
改めて、人間の方へ振り返り……思わず息を呑んだ。
茶色の長髪に、物憂げな表情。蝶の髪飾り。
おまけに顔がめちゃめちゃ可愛いと来たら、それが誰なのかはすぐにピンと来た。
……アイリス。
エグゼ6のメインヒロインと言っていい存在。コピーロイドの体を使い、現実世界と電脳世界を行き来するネットナビだ。
「…………あの」
はっ、しまった。思わずガン見してしまった。
「悪い、手助けは不要だったか?」
「……りが……」
「うん?」
「た、助けてくれて……ありがとう……」
おお……エグゼ6の冒頭を思い出すな。
主人公の光熱斗に助けられて、アイリスは辿々しくもお礼を言ったんだった。コピーロイドの体に慣れていないから、言葉が上手く出てこないのかと思っていたが……元々の性格故か。
「どういたしまして。俺はフォルスだ。君は?」
知っているのに名前を聞くのもなんだか変な感じだが、ポロっと名前を呼んでしまったら、なんで名前を知ってるんだって話になるし、聞いておくか。
「……アイリス…………」
「そうか。この辺はあまり危険じゃないけど、ウイルスは居るんだ。気を付けた方が良い」
「……………………」
こく、とアイリスは頷いた。無口だ。ゲームのイメージ通りの子だな。
しかし、6のシナリオが始まるよりかなり早く接触してしまったな。どーしたものかな。
……なんて考えている内に、周囲に穏やかでない気配が増えていることに気付く。アイリスを背中に隠しながら気配のする方を睥睨する。やがて、ヒールナビたちが姿を現した。……7人か。
アイリスは怯えたように身を縮こませる。狙いは彼女か。
「何者だ?」
「答えるヒツヨウは無い。そのオンナを渡してもらおう」
めちゃめちゃ三下な台詞だな……
アイリスを狙っているということは、少なくとも彼女の正体は知っているということだろう。ワイリーの放った追手か……?
背後の彼女を見る。不安そうな表情だ。ワイリーの下から逃げ出してきたからだろう。
「家出少女はまだ帰りたくないってよ」
「キサマ……どこまで知っている?」
「それこそ答える必要があるか?」
剣呑な雰囲気。
先に抜いたのは、あちらさんだ。
バトルチップ『マシンガン』や『バルカン』で固めたヒールナビたちは、俺に向けて一斉射撃を行う。しかし、フォルテの模造品である俺にとっちゃ、1番受けやすい攻撃だ。
オーラを展開する。豆鉄砲は、全てオーラによって弾かれた。
「なに……っ!」
お返しに、腕に溜めたエネルギーを爆発させ放つ。エクスプロージョン。幾つもの光球が放たれ、ヒールナビのうち3人に直撃した。
威力は抑えたから、デリートには至ってない。が、動けないようだ。アイリスにあんまりナビが消えるところを見せるのもどうかと思った故の加減である。
「やめておけ……俺はフォルテのコピー体だ。この意味が分かるだろう」
「………………! フォルテ……都市伝説ではなかったというのか!」
フォルテのことを知らないとは。一応、ワイリーとフォルテは手を組んでいるはずなのに。
いや、確かヒノケンもフォルテのことは知らなかったはずだ。なるほど、部下には何も知らせていなかったわけだ。
まあ、伝説としてはフォルテのことを知っているみたいで助かった。ヒールナビたちはたじろいでいる。もう一押しか。
「今すぐ退くなら、これ以上の攻撃をするつもりはないが……どうする」
「ぐくぅっ……シカシ……」
「今俺に消されるか、後でワイリーに消されるか……どちらにしろデリート、という訳か。そういうことなら苦しまないように、せめて一撃で仕留めてやるよ」
大技の準備をする。極大のエネルギーが集中していることを察知してか、ヒールナビたちは慌てふためく。
「ま、待て! 分かった、俺たちは手を引く。今すぐにここを立ち去る」
「……そいつらも連れて行け。辛うじてデリートされちゃいない」
「あ、ああ……」
ヒールナビたちは、こちらをチラチラと警戒しながら、仲間を連れて去っていった。ふう……オリジナル様みたいな強者ムーブは疲れるな。
あっ、そうだ、アイリスは?
後ろを振り向くと、ジッとこちらを見つめている。何か不審げな顔付きだ。
「どうかしたか?」
「……いいえ」
アイリスは考えを口にしないタイプだからか、言葉数が少なくて、何を考えているのか分かりづらいな。
もしかして、今の遣り取りで凶悪な存在だと思われた? あんな派手な必殺技を、ブラフとはいえ使おうとしたんだ。そう取られても仕方ない。でも、弁明はさせてほしい。
「いや、確かにあんな威力の技を使おうとしたのは事実なんだが、アレはほら、あいつらがどうしても退かないから仕方なく……ね?」
「……デリートするつもりがなかったの?」
「そうそう、その通りだ。俺はオリジナル様と違って、そんなに血に飢えているわけじゃないからな。別に無理してデリートすることもないだろ」
「……そう…………」
それきり、考え込むように黙り込んでしまう。
何かマズいことでも言ったかな?
分からん。
「とにかく、悪そうなナビに追われてるみたいだし、どこかの電脳世界に隠れたらどうだ?」
「どこかの電脳……」
「そうだな……この近くなら……」
ああ、そうだ。才葉学園の電脳世界がいいんじゃないか?
6のシナリオではアイリスは才葉学園のコピーロイドを使っていた筈だし。
よし、俺も詳しい場所は知らないが、アイリスを才葉学園の電脳まで連れて行ってやるとするか。
またヒールナビに襲われたら大変だし。