いつから好きだったんだろうか。
どうして好きになったんだろうか。
多分、いつまでも好きでいる。
この想いはきっと変わらない。
キミが誰のことを好きでいても、ずっと。

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書いているうちに迷走してしまったリハビリ作品です。
反省はしている……

何はともあれ短篇モノです。


stay with...

 好きな人が移り変わるなんて、当たり前のことなのだろう。

 熱が冷めた。嫌なところが見えた。なんとなく飽きてしまった。

 理由を問えばそのような答えが返ってくるだろうか。

 そして、それ以上に決定的な理由が一つ。

 

「ずっと、好きだったんだ」

「そうだったんだ……。でも、ごめんね」

 

 そう、失恋である。

 茜色の教室に1組の影。蟋蟀の歌が微かに聞こえる空間。

 2人は向き合っていて、1人が話し、もう1人が聞いていた。

 

「私も、好きな人がいるんだ」

「うん……。知ってる」

 

 ずっと見つめていたから。その視線の先にいるのが自分で無いことも知っていた。

 それでも、たったそれだけのことで、捨て去れる想いでもないのだ。

 未練がましいだとか、女々しいだとか、そんな理由で彼を笑う人もいるかもしれない。

 そんな人達のこともきっと、それだけのこと、と言って彼は想いを抱き続けるだろう。

 

「知ってたけど、それでも、伝えたかった」

「そっか。ありがとう」

 

 微笑をもって少女は応える。

 想いを受け取る事はできないけれど、伝えてくれたことに感謝を。

 きっと残酷な事だろうと感じる。もし、自分の想い人が自分以外に恋をしていたら彼と同じように告げられるだろうか。

 

(そんなの、出来ないよ)

 

 そうしたらきっと、折れてしまう。

 拒絶の言葉を受け取ってしまえば、もう好きでいることすら無為の思いだ。

 想像しただけで胸が張り裂けそうになる。

 そして、おそらく彼は今、そんな現実に直面しているのだ。

 他ならない自分がそうしている。

 だというのに。

 伝えたかったと言った彼は、笑っていた。

 

「じゃあね。聞いてくれてありがとう」

「あ、待って!」

「え……」

 

 背を向ける彼に思わず声をかけてしまう。

 この会話を最後にするのが嫌だと思って、引き止めてしまった。

 

「その……、これでさよならとか、嫌だし……」

 

 自分で想いを断っておいてなんて都合が良いのだろう。

 それでも、友人としての彼を失うのは嫌だったのかもしれない。

 断られるのなら仕方ない。そもそも最初に断ったのは他ならない自分なのだからと。

 やや間があって、彼の口が開く。

 

「恋愛相談以外なら、まぁ」

 

 困ったように笑って、そう言ってくれる。

 

「あはは、ごめ──」

「ごめんは禁止で」

「え……」

 

 謝罪の言葉を遮られて少し面食らう。

 彼は続けて伝える。

 

「ほら、さっきもごめんって言われてるし。今は……さ」

 

 瞬間翳ったその顔もすぐ笑顔に塗り潰される。

 無理しているのか、普段柔らかく微笑む彼の笑顔は少しだけぎこちない。

 そんな痛々しい笑顔を見るのがつらくて目を逸らしてしまう。

 今つらいのは彼のはずなのに、どうしてか胸が痛む。

 

「それじゃ。あー、またね?」

「うん、またね」

 

 夕暮れの教室から去っていく彼の背中を目で追っていく。

 なんとなしに窓に目をやろうとしてポケットが震える。

 

『さっきはああ言ったけど恋愛相談も乗るからね』

 

 一文がプレビューで浮かんでいる。

 別段、何か相談することがあるわけでもない自分の恋愛を思って、少し落ち込んだ。

 

(1日のうちどこかで話せれば嬉しい、なんてこと相談してもなぁ)

 

 恋に気づいてから一歩も進展の無い自分を思い返して、彼女は溜息を吐く。

 橙色に染まる空が、今日に限ってなんとなく寂しく思えたのは、どうしてだろうか。

 もうじき、部活動も終わる時間だ。

 それまでは橙の光が包む世界を眺めていよう。

 恋する少女が想いを馳せるのは、どこかで駆けている想い人。

 部活動が終わる時間に昇降口へと向かえば、どこかで出会うこともあるかもしれない。

 

(いや、でも何話そう……)

 

 未だ『好き』をどうやって表現するかさえわからない純真な心は、恥じらいを拭えず、見つめることを望むことしかできないのだ。

 頬の色が暖かに染まってしまうのは、明らかに夕焼けのせいではなかった。

 その色は、きっと恋の色なのだろう。

 

 

 

 校舎に背を向けて歩く少年の顔には悲しみや悔恨といった類の表情は浮かんでいなかった。

 どちらかと言えば、達成感のようなものを感じているように見えるだろうか。

 涙はとうの昔に枯らしておいた。

 後悔その時に済ましてしまった。

 それでも、答えを聞いた時はやはり心に痛みが走ったけれど。

 今日のそれは決別のつもりだったのに、その後に返ってきた答えはそれを許してはくれなくて。

 そんな彼女が余計に好きになってしまって。

 

「なんというか、馬鹿だよな」

 

 感傷に流されて校舎の窓の一角に視界を向ける。

 先程まで自分のいた空間で、白いカーテンが風に揺られている。

 まだ誰かがいるのだろうか、窓は開け放たれたままだ。

 

「あ……」

 

 誰かが、ではなかった。

 窓の桟に肘を立てて夕焼けの街を眺めているのは、先程まで会話していた彼女だったから。

 放課後の教室など、意味も無く残る生徒など極僅かだ。

 そこに残る生徒がいるとするならば、何か意味があるか、あったか。

 どうして未だに彼女が残っているのかはわからなかった。

 そんな彼女を見間違える訳もなく、歩みを止める。

 通り過ぎた校門を再びくぐり、門の傍に腰を下ろして、窓を見上げてみる。

 何を、見ているんだろうか。

 きっと、アイツのことを思ってるんだろう。

 

 ──ズキリ、と胸から指先にかけて疼痛が駆ける。

 

 こんなにも好きだったのかと、他ならぬ自分自身思い知らされながら、彼女のその思いを後押しできる。

 否、できてしまう。

 あまりにも優しく毅い彼はそれ故に、自分にだけは素直になれなかった。

 そんな『好き』の表現しかできない不器用な心の喜びは、やはり想い人の幸せなのだ。

 たとえ自分が隣にいなくとも、好きな人が笑っていてくれるのが嬉しいと。

 そう言って、彼は本心から笑えるのだ。

 見つめる彼女の恋がきっと叶うように願いを込めて。

 それに──

 

(やっぱり、寂しいし。こんな想いはキミには似合わないよ)

 

 だから、泣くのは自分で良い。

 彼女の恋が実れば、また泣けるのだろうか。

 泣けるのであれば、その時は独りで泣こう。

 祝福をしたその後で。幸せな彼女の前では涙を見せたくはないから。

 最後の最後の、その後ならば自分の涙くらいは赦してやろう。

 枯れてしまった涙が湧き出すのなら、そこからまた前を向いていけるはずだから。

 

(いっそ、アレでお別れだったら泣けてたのにな)

 

 考えにふけっていると、見つめていた人影が翻り、窓が閉まる。

 周りを見渡せばまばらに生徒達が現れ始めている。

 部活動が終わる時間帯だ。

 それならばと、一度通り越した門を再びくぐり、今度こそ家路に着く。

 ちりちりと痛む胸の裡でとくんとくんと、鼓動が鳴った。

 その音は、まぎれもなく恋の音だ。

 

 

 

 

 

 ──転機は突然訪れる。

 ──想いの先には何があって、自分の想いは何なのか。

 ──自覚した瞬間に表裏は反対に。

 ──きっと貰ったものは、とても大事なモノだから。

 

 

 

 

 

「ねぇ、アンタあの陸上部のどこが好きなの?」

「ふぇ!?」

 

 ある日の昼休み、唐突に訊ねられたことに対して、素っ頓狂な声をあげてしまう。

 1人を除いて伝わっていないと思っていた事実を突きつけられて困惑する。

 何故だとか、どこでだとか内省しているうちに質問は畳みかけられる。

 

「もしかしてアンタ、バレてないと思ってたの?」

「……だって、言ってなかったし」

「目は口ほどに、って言うじゃん。で、どこなの?」

「どこって言われても……」

 

 ふと、どんな所が好きになったのだろうかと考えて、思考が止まる。

 理由らしい理由がわからなかったのだ。

 外見かと問われれば、そうかもしれない。

 性格かと問われれば、そうかもしれない。

 こうなんじゃないかと言われてしまうと、それが正しいような気になってしまう。

 しかし、それならばこの感情は本当に自分の気持ちなのだろうか。

 雰囲気に流されているだけなのだろうか。

 

「……わかんない」

「え?」

 

 自分の気持ちの在り処がわからない彼女は、そんな返答しかできなかった。

 しばし不思議そうな視線を向けていた友人は、しばらくの間を置いて答えを返す。

 

「ねぇ、アンタのそれ、好きっていうより憧れてるだけじゃない?」

「え……?」

 

 その違いを理解できないのか、友人の言葉に疑問符でしか返せない。

 好きと憧れが同義でないという友人は続ける。

 

「好きならもっとこう、あるでしょ。良いところがこういう、とか。こういうことしてるところが好きとか」

「そういうもの、なのかな」

「そうでしょ。ていうか、アイツに彼女とか、他に好きな子とかいるって知ったらどうなの」

「うーん、普通に諦め──」

 

 諦めるんじゃないかな、と言おうとして、気付く。

 そんなに簡単に諦められるモノなのだろうか。

 その疑問に対しての答は、是。

 諦められる、られないではなく、諦めるしかないのだ。

 そんな状況になったら自分の介在する余地なんて無いのだから。

 しかし、『それでも』と言った人を知っている。

 もしかしたら──

 

「それでも好きって言えるなら、好き?」

「アタシはそう思うけどね。まぁ、あんた次第なんじゃない?」

「自分で言い出したくせに……」

 

 結局友人の自論だったのだろう。

 そして、彼女の心の中に、1人の男子生徒の顔が浮かぶ。

 思い出されるのは夕暮れの教室で、ぎこちなく笑っていた顔。

 彼に訊けば、わかるだろうか。

 好きという感情は、どういうモノなのか。

 訊いてよいものかどうか、僅かばかり思案したあと、指先は液晶画面の上を滑っていた。

 

 

 

「それ、僕に訊かれてもさ……」

 

 溜め息を1つ吐いて、画面の質問について考える。

 

『好きってどんな感じ?』

 

 想い人の名前の付いたトークルームに表示されたメッセージ。

 既読は付けていないのは、返答に少し時間がかかると思ったから。

 その答えについて考える。

 好きという感情の意味を。

 

 見つめていたいこと? 

 ──否、それは叶わないと諦めたものだ。

 

 幸せを望めること? 

 ──否、それは好きであるが故ものだ。

 

 出会えて良かったと思えること? 

 ──否、それは想いを過去のものとするものだ。

 

 それならば、好きという感情はどんなモノなのか。

 答えは思考を数巡したのちに見つけられた。

 コレだと自分なりに納得のいく答えが。

 思いついたモノ全ても、おそらく間違いではないと思える。

 それでもこの理由がピタリとハマる気がしたのだ。

 それは──

 

 一緒にいたいと思えること。

 ──多分、そうだ。それ故に、好きだと思ってしまうのだろう。

 

 想いの源泉はおそらくこの願い。

 隣を歩いていて欲しいと思うこの感情こそが、好きという感情の正体だ。

 そう結論付ける。

 自分はもう願ってはいけないかもしれないけれど、根っこの部分には未だに燻る願いだ。

 答えは出た。あとは伝えるだけだ。しかし、その行為に酷く指が重くなる。

 少しだけスマートフォンに文字を打ち込むだけの行為。

 自分の願いに反することをしようとしているから。

 心の表層に浮かんできた本心が胸の痛みとなって自分に訴えかける。

 心臓のあたりが締め付けられるように痛んでいる。

 それでも、彼女の為ならばと思えば、指先は素直に動いた。

 本当の想いを押し殺して、答えを伝える。

 未だに自分が願い続けてしまうこの答えを。

 

 

 

『多分、一緒にいたいって思うことじゃない?』

 

 返答を貰ってから数日。脳裏に浮かぶのは答えを出してくれた彼のことばかり。

 日付が変わるまで数時間の夜更に、自室のベッドでスマートフォンを見つめながら。

 同じ文面をみて幾度となく考えた。

 そして、幾つもの夜を越えてようやく気付いた。

 

(だって、それじゃ……)

 

 一緒にいたい。

 そんな願いを持っていた。それが叶わないと知っていて、涙ひとつ流さずに想いを伝えて。あまつさえ笑って見せた彼の本心。

 自分はすぐに諦めるなんて決断をしようとしていたのに。

 そんな自分に真っ直ぐに応えてくれた彼のことが、心を占める。

 少しでも一緒にいたいと思ってしまうほどに。

 

(あぁ、好きってこんな感じなんだ……)

 

 比べ物にならないくらいの想いが湧き上がってくる。

 確かに、憧れというモノとは違う。

 思い描いて、もしかしたらを夢見るだけでは物足りなくて。

 すぐにでも会いに行きたくなって、話したくて、触れたくて。

 そして、こんなにもたくさんの想いを投げ打ってまで自分の背中を押そうとするのが、どれだけ辛かったのか。

 想像するだけで胸が張り裂けそうになる。

 鮮烈に胸が痛む。自分の手で胸を押さえてしまうほどに。

 

(そんなの、ズルいよ……)

 

 最初から知っていたらもう少ししっかりと考えていたのに、と。

 あんな風にあっさりと想いを断ることなどしなかった。

 それに、もしかしたらそんな彼の視線に気付いていたかもしれない。

 この感情を知っていたら、好きになっていた人だって違ったのかもしれない。

 そう思ったら、何故だか無性に泣けてきて。

 後悔とも懺悔とも違う何かが溢れていく。

 もしかしたら、彼もこうやって泣いたのだろうか。

 きっと、泣いたのだろう。自分の視線の先に誰がいるのかを悟ったその日に。

 伝える先を失った想いが溢れるように、涙を零したのだろう。

 そう思い至って、余計に泣いてしまう。

 ちゃんと会って話をしたい。

 もしかしたら、身勝手だと言われるかもしれないけれど、それでも伝えたい。

 

 そうやって、泣いて、泣いて、涙が収まったのは日付が変わる少し前だった。

 涙を流した後だからか、幾分心も落ち着いて、どうしようかと考えていた。

 

(明日、言おうかな……)

 

 少し、躊躇う。

 けれど湧き上がった衝動は少しの躊躇いを物ともせず行動を起こさせた。

 

『明日の放課後、教室で待ってて』

 

 数日ぶりのメッセージは簡素なものだった。

 どんな内容にしようかと思案している間に日付は変わっていた。

 そして、メッセージを送った本人は何やら落ち着かない様子でベッドの上を転げていた。

 

(どうしよ……送っちゃったし……)

 

 以前は何気なく送れたメッセージが今はこんなにも自分の胸を騒がせる。

 鼓動の音が耳に入るくらいに煩くなる。

 それでも不思議と不快ではなくて、暖かい何かが胸の内にある。

 

(来てくれる……よね)

 

 小さな不安を抱えながら眠りに落ちる。

 胸に芽生えた想いを抱えながら、彼女は夢の世界へと渡っていった。

 

 

 

 放課後になったばかりの教室は未だ喧騒に包まれている。

 傾き始めた太陽が教室の日向を増やし始めるころ。

 2人の生徒が落ち着かない様子で時間を過ごしている。

 1人はこれから伝えることについて。

 朝になってもう少し後にすればよかっただとか、様々なことが脳裏をかすめていった。そして刻限が近づくにつれて不安がまた顔を出したようだった。

 もう1人はこれから話されることについて。

 よもや、彼女が自分に想いを伝えようとしているなど夢にも思わず、彼女からの相談ならと承諾の意を返したのは今朝の自室だった。

 

 思い思いの方法で時間を過ごしていると、不意に教室が静寂に包まれる。

 先ほどより幾分赤みを帯びた太陽が優しく2人を照らし始めた。

 パーケットフロアの床を上履きが叩く音が、彼の耳に近付いていく。

 同じ空間に2人だけなのは2度目。

 1度目は数週間前の放課後。

 その時呼び出したのは彼だったけれど、今回は呼び出された側。

 存外に呼び出されるというのは緊張するようで、1日中落ち着けなかったらしい。

 

「来てくれてありがとう」

「うん」

 

 以前とは違って2人とも互いを視界に入れずに、目は窓の外に向いている。

 

「私ね、ちゃんと好きな人ができたんだ」

「……」

「今までは、なんとなく好きっていう感じだったけど、今回は違くて」

「そっか」

 

 今、自分は冷静な顔をしているだろうか。

 唐突な告白に、顔を歪めてはいないだろうか。

 

「なんか、最近は1人でいるときとかいっつも考えちゃうんだ」

 

 恋愛について相談されることがつらいなんて、彼は初めて知ったのだ。

 思いの丈を直接聞かされるというのは心にくるものがあるらしい。

 頬杖をついた腕に伝いそうになる涙を、必死に堪えながら聞いていた。

 しかし、最後に告げられた言葉は予想していたどんな言葉とも違っていた。

 

「私ね──」

 

 ふっと、視線を向けると、ぴたりと彼女の視線と交差して、そして──

 

「キミのこと、好きになっちゃった」

「え……」

 

 頬を朱く染めながら伝えられたその言葉は、本心でずっと欲していた言葉。

 自分が以前伝えたものと同様の言葉で、その言葉の意味はたぶん、彼女より理解している。

 しかしそれ以上にその言葉を、その感情を自分に向けられていることがわからなくて。

 それでもうれしくて。ないまぜになった感情のせいで、うまく言葉を返せない。

 

「……何か言ってよ」

「あー、えっと……理由、聞いてもいい?」

 

 彼女は勉強も運動もできるような奴が好みなのだと思っていた。

 真反対というわけでは無いにしろ、自分を好いてくれるとは、思えなかったのだ。

 少し考えれば、自分が想いを寄せているこの彼女だって、いつか友人に言ったような好みとは異なることがわかったろうに。

 自分だって、理由を聞かれたところで上手に答えられないのに。

 動揺する頭では理由を聞き返すことが精一杯だった。

 

「理由っていうか……キッカケ、なら」

 

 訥々と、自分への想いを語られる。

 

「キミに告白されてから、かな。だんだんとキミのこと考えることが増えてきたの」

 

 少し恥じらい気味の声は途切れ途切れであったけれど、その声はしっかり届いている。

 

「朝学校に来る時とか、ご飯食べてる時とか。お、お風呂入ってる時とか、寝る前とか。最近なんか授業中にだって考えちゃってたよ」

 

 今だって、本当は胸が熱い。顔が熱い。手が熱い。

 身体中が目の前の彼のことに対して反応する。

 恋に恋していた乙女は、初めて誰かに恋をしたのだから。

 それでも、返ってきた言葉はやはり疑問の言葉だった。

 

「でも、なんで」

 

 何故なのか。その疑問に対する答えはもう、昨日のうちに得ている。

 

「一緒にいたいって言ってくれたから」

「え……?」

 

 たったそれだけのことだった。

 その一言が、好きという感情を彼女の胸に焼き付けた。

 彼女に告白したとき以上の本当の想いが、きっと彼女の心に届いたのだろう。

 その想いを後押しすることもやはり、本当のモノだったけれど、一緒にいたいという気持ちは、それで隠せるほど小さなものではなくて。

 だからこそ、彼女の心を動かした。

 

「それだけ、なの?」

「今はまだ、それだけかもしれないけど。でも、本当に好きって言えるよ。だって、一緒にいるとスッゴイドキドキするもん」

 

 はにかみながら言う彼女は今まで以上に愛らしくて。

 そのくせ好きだとか、ドキドキするとか言ってしまうわりに、その笑顔には隠しきれない照れ臭さが見えていて。

 

「だから、今からきっともっと、キミのこと好きになるよ」

 

 それに、自分が伝えた以上の想いを返してくれたのだから、きちんと返事をしなければならない。

 目線を合わせるように、椅子から立ち上がる。

 彼女の瞳の中の自分は、悲壮な覚悟を抱いた顔も、今から訪れる何かを不安に思っているような顔もしていない。

 

「ずっと好きだった。これからも、ずっと」

「うん」

 

 好きという言葉はもう伝えているから。今から言うのはその先の言葉。

 まだ、自分の声で伝えていない言葉を、伝える。

 

「だから、これからもずっと一緒にいて欲しい」

「ふふっ」

 

 その言葉は、想いはきっと届いた。

 柔らかく笑う彼女が、言葉の代わりに答えてくれた。

 

「なんだか、プロポーズみたい」

「っ!? ……そんなつもりはないけど」

「ないの?」

「でも、そうなれたら嬉しい」

 

 将来を約束するにはまだ幼いから。

 だから、将来を考えられるくらいに大人になったら、その時にまた伝えればいい。

 今までとは違って、これからは言葉で想いを伝える機会は、きっといくらでもあるのだから。

 けれども夕暮れの校舎が優しく2人を包む時間は終わりを告げて、家路につくように、教室のスピーカーから声が流れる。

 

「帰ろっか」

「そだね」

 

 彼の誘いに、彼女が応える。

 教室を出て、昇降口を出て、校門を出る。

 家の方向を確認して、同じ方向を指差したことに2人とも笑ったり。

 そして、他愛のない話をして歩いていく。

 まだ、手を差し出す勇気はどちらも持てないようで、その手は触れ合う気配も無い。

 けれど、想いは繋がっているから。

 繋いだ想いが紡ぐものは、それは恋の物語。

 

 ──2つ想いが交わって、触れ合って、そして愛し合うような、そんな物語。





前回の投稿から約1年。
新規発進ということでリハビリも兼ねて。

連載の方も頑張ります。
たぶん、きっと、おそらく、めいびー……

感想とかいただけると作者が喜ぶらしいです。
それでは。

↓Twitter
@glint_ruru

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